巴里山海経ヨーロッパ

種類 ショート
担当 成瀬丈二
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 15人
サポート 0人
期間 12/22〜12/26

●本文

 Merry Holiday Season!!
 そんなクリスマスカードが香港から届いたのは、12月も半ばを過ぎた、つい先日の事であった。
 同封されていたのは華の都、巴里の地図。
 何でもハッタリとケレン味だけで映画を作っている竜人の香港無国籍映画監督、ファーナス・王(−・うぉん)と、その一子、リューキ・王(−・うぉん)からのクリスマスパーティーの招待状である。
 元は名を馳せたアクションスターだけに、内輪とはいえ、ホテルを借り切ってパーティーを行うそうだ。
 中華の立食と、仏蘭西料理のフルコースがメイン式典となる。
 さすがに一般人も来るので、獣人化は控えて欲しいと関係者への文面には短く、書き添えられていた。
 香港山海経の打ち合わせもしたいので、スタッフは別室で、ミーティングを行う事と、『全員参加』のプレゼントの交換会が行われるので、奮って参加して欲しい旨が添えられていた。
 さて、今年のクリスマス、あなたは誰と過ごす?
 カット7スタート──。

●今回の参加者

 fa0154 風羽シン(27歳・♂・鷹)
 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1108 観月紗綾(23歳・♀・鴉)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa1500 風光 明媚(24歳・♂・狐)
 fa1641 上月 真琴(20歳・♀・狼)
 fa1712 孫・華空(24歳・♀・猿)
 fa1719 風和・浅黄(20歳・♂・竜)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa1886 ディンゴ・ドラッヘン(40歳・♂・竜)
 fa1889 青雷(17歳・♂・竜)
 fa2059 ラフィール・紫雲(16歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

 ラフィール・紫雲(fa2059)と上月 真琴(fa1641)が友人ならではの、息の合った曲に乗せて、クリスマスプレゼントは時計回りに手渡しされていった。
 一方、ディンゴ・ドラッヘン(fa1886)が彼女らの後ろで不逞の輩はいないかと見回っている。
 そして二人のデュエットが止んだとき、青雷(fa1889)の手には、一番小さな袋が渡っていた。握り拳ほどの大きさもない、それを見てAAA(fa1761)はニッコリ微笑む。
「あら、リューキの所に行って欲しいと思ったけど、世の中、そう上手くは行かないわね」
「何これ?」
 セイが包みを開けると、鍵が出てきた。
「バイクのキーよ☆ 大事に扱ってあげてね」
 複雑な表情を浮かべるセイ。
 一方で、風羽シン(fa0154)は、自分の送り出したデジタルカメラとは打って変わった、幾星霜も経ている様なコンパクトカメラが包みから出てきた。
「これはまたアナクロ‥‥」
 咳払いするファーナス。
「私と共に修羅場をくぐり抜けてきたカメラだ。古いが、確実だよ」
 そんなシンから、MAKOTO(fa0295)はデジタルカメラを受け取っていた。
「うーん、とりあえず、使い道思いつかないな」
 烈飛龍(fa0225)はひときわ大きな包みを解いたが、出てきたのはウクレレであった。
「どうしろ──と?」
「あ、それ僕からのプレゼント」
 とは、リューキの声。
 ひとフレーズ掻き鳴らしてみて、フェイロンはとりあえず、ウクレレを脇に置く。
 楊・玲花(fa0642)はフェイロンから送られたデジタルオーディオを眺めている。
 偶然とはいえ、自分をエスコートしてくれている相手からとは、運命の皮肉もあったものである。
 格闘家の方のマコトは自分が贈った虎のマスクが蓮城 郁(fa0910)の手に渡ったのを見て壁に手を突いて失笑を堪えている。
 時折、ズレ落ちそうになる眼鏡を手で押さえる。
 一方、能楽師である郁は、虎のマスクを前に茫然自失と言った体であった。
 これも祭りと、思い切って被ろうとするが、自分のキャラではないと、踏ん切りがつかない。
「偶然とは怖いものです」
 ただ、ただ郁は普段通りの微笑を浮かべながら、マスクを眺めるのみであった。
 一方で郁から贈られたランタンを下から眺めたり、蓋を開け閉めして、これは一体、何の判じ物かと悩む、尾鷲由香(fa1449)の姿があった。
「ああ、それですか? 芸能界にあって、誰もが目指す『スター』の様に煌めいて欲しい、という思いを込めて贈らせていただきました」
「判るか! てっきり焼き鳥になれ、という暗示かと思ったぞ!!」
 微笑を張り付かせた郁の言葉に、イーグルは、笑いながら返す。
「という訳で王監督。スタントマンとして、全身火だるまでも何でもやってみせるから、必要があったら声をかけてくれよ」
「火だるまか──日本の相場だと百万円だから、CGでやった方が安上がりにつきそうだな‥‥」
「そんな、王監督」
 そんなイーグルからボーカルの方のマコトは、デジタルビデオカメラを受け取る。
 郁にエスコートされた観月紗綾(fa1108)は、久しぶりの道行きに喜びを隠そうともしない様子を見て、差伸べる手さえ躊躇いがちだ。
 郁は観月を先に席に着かせて座を外す。観月が豪華な食事を目で楽しんでいると頭上から声が降ってきた。
「紗綾さん、食べ過ぎないで下さいよ。幾ら太らないからって、私が抱えられる限度がありま‥‥何です、その裏拳の構え」
 観月が(抱えあげる限度って何だ)とでも言いたげに拳を震わせながら見上げているのに気付くと顔を引攣らせる。席に着くと、持って来た燭台を二人の前に置きキャンドルに火を灯した。
 宴が立食へと移る頃、郁は交換会用とは別のプレゼントを観月の手にそっと滑り込ませる。
「天の星が貴女の元へ落ちてきたようなダイヤのピアスですよ」
 怪訝な顔で包みを眺める観月に微笑む。つと立上った観月は後ろに回ると、振向こうとする郁に素っ気ない言葉を投げながらダイヤのネックレスを取出す。
「はい、前を向く。要らなければ捨てても良い」
 一方観月からICレコーダーを受け取った風光 明媚(fa1500)。
「──やや、監督。グラスが空いてるよぉ」
「いや、酒はやらん主義でな」
「そんな事言わず、ささ、飲んで飲んで。
 おや、こっちの社長さんも、さささ、どーぞ、どーぞ。
 さぁ乾杯しましょー、ぶわぁーっと行こうよ、ぶわぁーっとねぇ」
 カザミツの二枚重ねのティッシュペーパーの一枚より、人間国宝の匠が打った金箔より尚も薄っぺらなノリに、幼馴染みの水守を思い出す風和・浅黄(fa1719)。
 一方、彼からセイの様に、鍵だけ渡されたのは、孫・華空(fa1712)であった。
 彼女の元に渡った鍵はホテルの保管庫の鍵であった。
 折りを見て抜け出し、保管庫の中を見てみると、真っ新なスノーボードがデコレートされている。
「へー、華空さんはスノーボードですか?」 ラフィも自分の保管庫の中身を見せてくれるよう頼み込むと、ディンゴからのマウンテンバイクが置かれていた。
 そしてエースの元には華空からのデジタルオーディオ、ディンゴにはあさぎからのハーモニカがプレゼントされることになった。
 セイからのダイヤイヤリングはファーナスの手に渡り(後で妻にプレゼントしよう:ファーナス談)、セイの羽織袴という正装で決めて、あの子の心に届けという思いは砕けて散ってしまった。
 一方、ラフィの携帯CDプレイヤーはリューキの手に渡る所となった。
 そのCDプレイヤーを片手に、リューキは微妙そうな表情を浮かべている。
 そんな親子に両腕で抱え込むような、薔薇の花束を渡すエース。
 そんな光景を見終わると、セイは友人の華空に向かって囁く。
「孫さん、このパーティーに何か監督の陰謀の予感がしませんか? ミーティングでもなにが起こるか予想がつきません」

「いや、何。たかがエキストラ程度で香港にまで人を呼んでいたら、予算が幾らあっても足りなくなる。
 君たちも一端の芸を持つなら、他人の映画に時間を割くより、自分の芸を精進したまえ」
 と、数名のエキストラをやんわり? と断りつつ、ファーナスはミーティングに入る。
 借り着の正装を解いた、シンのカメラが回り始めた。
 まずはセイが切り出す。
「役名は考え直しました。テンよりも、風を意味するフェンで行こうと思います。
 ワイヤーアクションで飛びますし、五行で風に関るのは木行なので、木の宝玉の拳法仙人で。その力で風に舞う木の葉のように空を飛ぶって考えました」
「因みに正確を期す為に言っておくと、五行を八卦に照応させた場合、風気の巽、雷気の震となるよ。迂闊な事を言っていると、お客さんから逃げられるから──何と言っても、香港の映画館は人気が出なければ即打ち切りだから、中途半端に考えると、自縄自縛になるからね──」
 とリューキ。
「だから、クライマックスではワイヤーアクションは使わんって。
 獣人の反応速度に対応できる。
 つまり獣人の専任のスタッフがいなければ、危なくてできん。あくまでワイヤーアクションは人間形態の時のみだな」
 他にセイが考えた設定として、宝玉の守護者になったが、自覚も薄く気ままに遊んで暮していたのを罰せられ人間界へ転生。その後、敵が里を襲い結果として宝玉を人間界に持ち込む事になる。
 更にセイは、人間界では道士に身を窶し、旅の途中、宝玉に導かれ主人公と出会うという、変更案も出してきた。
「出たいシーンは戦闘シーンですね、ワイヤーアクションにも慣れたいので」
 エースは恥じらう乙女の様に挙手しつつ、自分の役回りを掘り下げた案を発表する。名はトセイ。
 正義の拳法仙人で元、悪の拳法仙人。
 悪の首領の親友だったが、豹変した彼の姿に心を痛め、その側を去る。
 主人公の秘めた才能を見抜き、彼を育て上げようとしている。
 常に猿の面をかぶり、正体を隠している。
 酒を入れた瓢箪を持ち歩いており、常にそれを飲んでいる。
 普段はやる気がない、ただの酒飲みだが、戦闘になるとトリッキーな技の数々を使う。「どうかしら?」
「最低11人はいる登場人物の中で、やる気のないシーンにどれだけ時間を費やせると思う? 仮面をつけながら酒を飲むのも‥‥」
 とのファーナスの指摘に。
「キャっ、絵としては間抜けね。考え直すわよ」
 そんな恥じらうエースが落ち着いてから、役名から吟じはじめる。
「名は孫・魔空(スン・モーファン)。
 役柄、拳法仙人四天王が未定の為、その1人になる。
 暴れる事が大好きで、前線で指揮を取りつつ自分も戦闘するって、所かな」
 宝玉に認められた拳法仙人は、獣人化するので、相手の四天王も完全獣化しないと最後の戦いが盛り上がらない。四天王は玉が無くとも、獣人化できるって設定はどうか?
「そうだな。最初から全開で構わないだろう。まー、一角獣の人の協力を前提としない程度に暴れまわってもらわんとな」
 条件付きで、ファーナスも同意する。
「で、リューキは、いっそ主役にしてはどうか」
 驚いたのはリューキの方であった。
 フェイロンも自分でもそれは推すと言ってくる。
「どうしたリューキ。子役──しかも、女装のお姫様で終わるか、銀幕の大舞台に躍り出るか、ふたつにひとつだぞ」
 ファーナスも促す。
 シンは敢えてリューキをアップにせず、バストアップに拘り、周囲の背景をも画像に巻き込むようにした。
 リューキは決意した。
「やってみる。世界に飛び出すのに早すぎる事はないからね」
 そこで初めてシンはリューキをアップにする。
(いい画が撮れた‥‥)
 落ち着いたところで華空は──。
「四天王役や、主人公の義父役が、未定なので、更に人員募集が必要かも」
 それは一人二役。獣人と人との役割分けなどで対応しよう。具体案は待て、とファーナス談。
「で、年明けの香港でのテスト撮影は、高層ビルの場を希望。
 一番派手なので話題作りになるし、映画の雰囲気に役者も馴染めるのでは」
「ちょっと待った、テスト撮影にしては派手すぎて、肝心の中身はばれてしまうし、WEAの方からも待ったがかかるぞ、それは? それにこの映画の独占取材はこちらが持っている」
 シンがようやく主張した。
「クライマックスを表に出すのは興ざめだし、獣人化ではWEAに角が立つ上、シンとの義理が残っている。という訳でそのシーンはセットで行うぞ」
 ファーナスが断を降す。
 いやははは、監督に長いってバッサリやられたからまとめてみたよ、とカザミツ。
「名前はフォックス・ウォン。策略が得意な小悪党。
 四天王の一人だが、自分が五行の宝玉を全て手に入れ、力を得ようと目論んでいる。主に部下を使いあの手この手で主人公達に罠を仕掛ける。
 これなら判りやすいんじゃないかな?
 あと、リューキはヒロインでも異存ないよぉ。
 うんうん、ちゃんと化粧したら可愛いしねぇ、あはははは。いや、すっぴんの方がいいかもねぇ。肌の白いは七難隠すっていうしぃ。あ、これはホメ言葉じゃないよねぇ? メンゴ、メンゴ」
 リンファが音もなく立ち上がり、カザミツを制する。
「失礼、香港山海経では、主人公の生みの母であり、敵の大ボスの妻。役名はファンランとさせてください。
 回想シーン、そして魂だけの出演という形になるでしょうから、古来ゆかしい中国の貴婦人の礼装を身にまといます。
 派手な立ち回りは出来ないので、控えめでありながらどこか芯の強さを感じさせる演技を心掛けていきます。
 一番の見せ場である回想シーンでは“愛しているのが故に、これ以上の悪事をはたらくのを見過ごす事は出来ない。自分だけがこの人を止めることが出来る”という葛藤するシーンを入れ、敵の大ボスがただの悪人ではない魅力的な人物であったという膨らみを持たせるようにしたいですわね」
 格闘家の方のマコトからは、
「名前、ホンファ。紅の華と書いてホンファ。
 設定としては善の拳法仙人の一人。
 フェイロンさんの演る大ボスこと天将・虎飛翔の部下だったのだが、破天虎皇と名乗り、宝玉を護る一族を襲った際に袂を分かち、一族の側について宝玉の護り手となり人界に転生。
 ファンランが、主人公を身篭っていた事は知らない。
 んな感じ〜」
「妥当な線だな。単体としては」
「ん、どういう事?」
「多分、だ。次のフェイロンの発言を聞けば判るだろう。フェイロン頼む」
「香港山海経での希望役、敵の大ボス。役名はリー・ウェンフー。漢字名なら烈・威虎。
 戦闘スタイルとしては派手なカンフーアクションを主体として、剣や棍なども敵に応じて使い分ける。
 現代物なので、ダークスーツにサングラスといういかにも悪役という扮装。
 ただし、どこか時代錯誤さを感じさせる為にコートをマントのようになびかせている。半獣化、獣化はなるべくしない。
 これは大ボスの実力を普通より強く見せる演出であり、いざ獣化したときにはより強力化したように演出も考えている。
 さっきも言ったが、主人公にはリューキを押す。
 理由としては主人公はある程度の知名度がある方が観客としても安心出来るだろう事と、自分が一番やりやすそうだから、だ」
「判ったかマコト?」
「格好いい悪役が水守しか居ない‥‥?」
 ファーナスは頷く。
「そう、次々と親しい仲間は離反し、残った部下は小悪党と、女狂いだけ。これでは、リーとファンランの演技に、観客を熱狂させない限り、四天王の真価は発揮されない。つまりは中だるみの映画になる訳だ。
 という訳で次のアクションのテスト、その1.ミーティングは悪役強化週間という事だ。あと、主人公のネーミング。あ、殺される天帝は俺がやる」