WAKUWAKU−BEAST−LAND5アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 成瀬丈二
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.9万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 04/26〜04/30
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●本文

「じゃあ、次回は北海道は旭川市旭山動物園で決まりね」
 大友(おおとも)女史は“WAKUWAKU−BEAST−LAND”の会議の席でそう言い切り、特に反対する者もなく── そのまま場は収束した」
「今回は前回と違って短めだな」
 撮影資料を渡された大友女史の先輩にあたる、丹(たん)先輩は斜め読みの段階でそうぼやいた。
「桜の満開まで待っていたら、予算がオーバーするわ 」
「それもそうだな」
 丹先輩がそう納得すると、一連のスケジュールも読めてきた。
「さては、ゴールデンウィークに紛れ込んで遊ぶつもりだな!」
「先輩、私というものがようやく判ってきましたね」
「‥‥いい、真っ当に番組を撮れれば、もうそれだけでいい」
 そこで資料を改めて読んだ丹先輩は確認する。
「まず、募集用件は──。女子は1名のみ、男子4名以上、共に中学生以下に見える事が条件で番組に登場する動物園の紹介をする役回りとする。後はひとりか、ふたり、子供達の護衛に当たるものが居る事が望ましい。後、撮影スタッフは常時募集中と。こんなもので人集めはいいかな」
「そうそう、後は基本的に男子ひとりを番組の進行役として、ヘッドライナー── まあ、バンド用語で複数のバンドが、ひとつのコンサートをする際、その主導を務めるバンドの事だけど、そこから転じて── 番組の主導者をやってもらう任を努めてもらうわ。できるだけ未体験の子が良いわね。
 あっと、大事な事を忘れていたわ! コスプレよ、コスプレ! 女子が男装するのはいいけれど、男子が女装するのは無しね。大抵の衣装はウチのプロダクションにあるとして── 」
「なんで、子供向けの衣装の莫迦でかい倉庫がある所に就職しちまったんだと、自分でも思ったんだがな──」
 ぶつくさ言い出す丹先輩。桜の季節は既に遠かった。
 カット19スタート。




●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa1281 芹沢駆(11歳・♂・一角獣)
 fa1528 凛華(32歳・♀・一角獣)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2859 ダンディ・レオン(37歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

「じゃあ、今回のヘッドライナーは、くぅちゃん、でと」
「え? じ、じゃあ、がんばります」
 大友女史の言葉に、クッキー(fa0472)のスイッチが切り替わったのか、雰囲気ががらりと換わる。
 その豹変ぶりを微笑ましく見る、橘・月兎(fa0470)。眼鏡の奥で笑みを浮かべて──。
「良かったな、くぅ。お母さんにもメールを一本入れておいてあげよう」
「え、えええ?」
 以前にもヘッドライナーを務めた、芹沢駆(fa1281)はその周囲の大げさな反応を心の隅で笑い。
「良かったね、クッキー君。まあ、君を抜かしたら後は『お兄さん』くらいしかいないだろうからね」
『ま、俺さまが真のヘッドライナーをやるまでの場つなぎくらいはできるだろうよ』
「こら! お兄さん、嘘でもそんな事言っちゃ駄目、くぅちゃん、頑張ってね〜(おおきなはあと)」
 パペットの『お兄さん』にツッコミを入れた、あずさ&お兄さん(fa2132)は、くぅに向かって甘い視線を向ける。
「良かったわね、くぅ君。一番ちっちゃいのに、大変だろうけど番組の成功は君にかかっているから」
 と、外出着に身を包めば、ガタイこそ良いものの、草も木もないジャングル上で戦う、レスラーとは打って変わった印象を与える、凛華(fa1528)が、くぅの頭を撫でようとする。
「いや、それ錯覚ですよ、凛華さん」
 とカケルが突っ込む。
「くぅ君は3月で12才になったので、4月からもう中1ですよ。僕は今度、12才になるので、今は小学6年生」
『な、なんだってー』
 と驚愕する『お兄さん』。
 一方、あずさは小動物的な印象の深い(くぅの獣人姿である『猫』は小動物には入らない気が‥‥)くぅに詰め寄り。
「まだ10才にも見えないのに、もう中学だなんて!? 制服は何? 学ラン? ブレザー? ブレザーでもタイの種類で印象ががらりと──いや、私服だなんて言ったら‥‥もう私──わたーし!」
 限度を知らず、エキサイトする、あずさを止める、赤いジャージ姿のダンディ・レオン(fa2859)と月兎。
 一方、おもむろにノートパソコンに向かい、くぅの入学した学校のデータを検索しようとする大友女史を止めるのは丹先輩。
「こらこら、それくらいにしておきなさい。くぅ君が困っているだろう‥‥うぐぅ」
 リセットボタンを押した所で、丹先輩の胃袋へ、綺麗に大友女史のエルボーが入る。
 こうして、旭山動物園地獄変第一章が幕を上げたのであった(大嘘)。

 尚、やや時はさかのぼる。
 旭山動物園は4月の29日まで冬季休園をしているが、その開演前日にピンポイントで取材を申し込んだのは、丹先輩であった。
 そのアポイントメント取りの光景を見ていたレオン曰く。
「今回はなんの動物に取りついて現われるかわからないですな。ともあれ、自分が率先して戦います」
「よろしくお願いします‥‥というより、何でこう次々とナイトウォーカーが出るのでしょうね?」
「まるで判らんのである」
「そうですねー、傾向と対策さえはっきりしてくれれば、WEAにでも話を通して、事前に掃討を依頼できるのですが。あ、レオンさんが頼りにならない、と言っている訳じゃないんですが、対処療法に過ぎない気がして」

 等という話があったのは置いておいて、一同は旭山動物公園に到着した。
「WAKU−WAKU−BEASTLAND5は旭山動物園からお送りします。今回のヘッドライナーのくぅです」
 赤い武闘着に身を包んだ、くぅが『旭山動物園へようこそ!!』と大書された、クリップボードを掲げる。
 くぅとおそろいの、ミニのチャイナドレスに鎧うたあずさがカメラ前でポーズを決める。
 問題なのはお兄さんで原型を留めていなかった、というより、お兄さん愛用のリボンタイを付けた、スノゥベアーの縫いぐるみそのものであった。
 きっと、どこかの番組で唐揚げにされたり、チョコレートを詰め込まれたりしたせいだろう。
 ともあれ、タイムキーピングをしていた月兎の顔が一瞬強張る。
 そこへ、さっとカメラの前に入るカケル。
「WAKUWAKU−BEAST−LAND、始まるよ!」
 カケルの今回の衣装はいつもと同じ、犬のコスチューム。
 つけているのは耳と尻尾と首輪。
 第1弾の普通の犬耳、第2弾の垂れ耳と来て、第3弾はパピヨンみたいな突きたった大き目の耳、それにあわせて首輪も前の2回のより大きめ。
 当人もあざといと、判ってはいるが、ついに踏ん切りがついた様だ。
 パピヨンと言えばマリー・アントワネットがかわいがったと伝えられており、どんな環境にも順応でき。自己主張が強くて勇敢。体臭も少なくてお手入れも楽。
 ある意味ではカケルのイメージにぴったりな犬の品種かもしれない。
 下半身はまた大友女史に頼んだもの、カケルは楽観視していたが、結局大友女史から送られてきたのは、太もも半ばまでの紺を基調としたチェックの半ズボンであった。
 白いタイツもセットである。
「だって北海道寒そうじゃないの」
 とは会ったときにカケルが大友女史に問うた時の返答である。
 これで夏場の沖縄ロケでもやられた日にはどんなモノを送られてくるか判ったものではない。
 多分、沖縄暑そうじゃない、とか言われて飛んでもないモノが送られてくるに違いない。
「はい、カット」
 カケルの悪夢とは別に丹先輩の声が響き渡り、凛華が一同にお菓子を配る。役から解放されると、外見相応の内面を見せたくぅが、おいしそうに食いついていく。

「それにしてもあずさちゃん?」
「はい?」
 あずさへ、大友女史から何気ない一言が浴びせられる。
「パッドくらい入れた方がいいんじゃないの?」
 張りつめた空気が走った。
「だから、17にもなってその胸で、そのコスチュームのチョイスは致命的」
「むぅ!!」
 次の瞬間、『お兄さん』スノゥベアー仕様が凶器となる。
「あいたたた、だから、スタイリストとよく相談してね!」

『動物園は、絶滅が心配されている動物たちを計画的に繁殖させ、維持することによって、動物種を保存することができます。また,絶滅してしまった地域に、動物園で増やした動物を放して、再び野生の状態を回復させることもできます。
 旭山動物園などが中心となって、オジロワシ野生復帰研究会を組織しており、大型猛禽類の野生復帰技術の研究を行っていますが、動物園の具体的な自然保護活動として注目されています』
 園内を職員の人に連れられていく一同。ヘッドライナーのくぅはカメラに向かって、クリップボードで、以上のような番組としてのメッセージを伝える。
 開園前の準備で慌ただしい園内を一同は抜けて、空っぽの畜舎前にやってくる。真新しいにも関わらず、放たれている動物はいないようである。
 そこへくぅが早速前に出て。
「みなさん、お待たせしました! 待ちに待ったキリンが4月19日午前10時にやってきました。このキリンは、名古屋の東山動物園から2日間という長旅を経て、旭山動物園にやってきたのです。
 その引っ越しの様子をお伝えします」(VTR流れる)
 午前10時頃に、旭山動物園に到着しました。2日間かけて名古屋から旭川までの長い距離を、VTRのように、トラックの上の箱の中にキリンを乗せてやってきました。
 いよいよキリンが獣舎の中に移動します。VTRはクレーンを使っての移動を写しています。
 クレーンを使い、箱ごと移動させました。まず、外の放飼場に置き、寝室に入るようにしました。
 箱の扉を開け、いよいよキリンの顔のお目見えです。
 慎重に扉についている金具類をはずします。緊張の一瞬が近づいてきました!飼育係もこのときは緊張しまくりです‥‥。
 ついに扉が開きました! 写真は扉が開いた瞬間です。
 キリンはとても神経質なので、周りが安全か確認しているところです。
 この後、すぐに寝室の方に移動し、無事に引っ越し完了しました。
 ここで、キリンの紹介を少しします。このキリンは、名古屋東山動物園で、2005年3月30日に生まれた、メスのアミメキリン、現在1歳です。
 今のキリンの様子は、寝室で探検をしていて、ここがどこなのか、安全な場所なのかを歩きながら確認しているところです。
 エサを食べる姿も見られ、とても元気そうです。
 これからは、旭川の気候や放飼場に早く馴らして、4月29日の夏期開園のお披露目に向けて、万全の準備を整えて行きたいとたいと思います。
 ですが、今現在は、まだ外の放飼場になれていなく、外にはあまり出ない状態です。ですが、無理には外には出さず、少しずつ外に慣れさせていきます。
 開園日から今日まで、着実に外を気にする回数が増え、外にも本当に短い時間ですが出る回数も増えている状況です。
 キリンは寝室から外をのぞき込む仕草を一日に何回もしますので、その時にはキリンの顔を見ることができますし、外に出たときもタイミングが合えば見ることができますよ!
 今は無理をしないように今日より明日、明日より明後日と長い目でみていきますので、みなさんも気長にお待ちください!」
「友達〜」
 あずさがシークレットキリン角を膨らませると、アミメキリンが不審げに一瞬顔を出して引っ込めた。
「しまった、今の拾ったか!?」
 丹先輩が慌てるのも空しく。
 奇跡はそう何度も起きなかった。

 他にも移動の合間合間に、くぅはクリップボードで、撮影しきれない場所の紹介をしていく。

──あざらし館は2004年6月に完成しました。外側は北海道内の漁港をイメージし、アザラシの野生状況を再現するためにアザラシのほかにウミネコ、ウグイも飼育しています。館内に入れば、アザラシの特徴的な泳ぎを観察できる『マリンウェイ(水中トンネル)』や北海道内の漁類などを観察できる水槽があります。
あざらし館に入るとすぐに見えるのが大水槽と円柱水槽(マリンウェイ)です。
 これは水路でつながっており、このようにアザラシ(ゴマフアザラシ)が通る姿も見られます。
 円柱水槽では、こんな近くでアザラシが見られます。アザラシは水中では好奇心おうせいで、こんな近くまで来ることもあります。
 大水槽ではアザラシが気持ちよさそうに泳いでいます。テトラポットも沈んでいて、そこには『ウグイ』もすんでいます。
 円柱の太さは1.5メートルで、大人のアザラシ2頭がゆったりと交差できる大きさです。
これは円柱水槽を回り込んだ反対側からの写真です。アザラシを見るのぞき穴も見えます。
 通路を進むと、絵本作家の『あべ弘士』さんの描いたアザラシの壁画があります。
 さらに進むと北海道近海にすむアザラシたちの解説模型があります。
階段を上がるとアザラシの岸辺に出ます。そこは小さな漁港をイメージした所で『海豹丸』も係留されています。
 と、あざらし館の説明を行った後、もうじゅう館の説明を行う。
──1998年9月に完成しました。アムールトラ、ライオン、ユキヒョウ、アムールヒョウ、ヒグマを飼育しています。空中にせり出したオリや従来の視点とはちがった角度からの観察が可能です。
 アムールトラの『のん(メス)』です。旭山動物園のトラはメスの方が強い『あねさん』です。
 いっちゃん(オス)と、のんです。いっちゃんは人なつっこく、檻ごしにオシッコをかけることもあります。うしろを向いたときはご注意!
 ライオン一家のあるじ、お父さんの『ライラ』です。4頭の息子とけんかする恐れがあるため、現在展示していませんが、元気にくらしています。
(むぅ、我が輩が行けば、少々話が出来たのであるが:レオン談)
 4頭の息子も大きくなり、そのうち3頭は和歌山県『アドベンチャーワールド』へ引っ越しました。
 クロヒョウ『パック』です。夜行性なので寝ていることも多いですが、起きているときは獲物をねらうハンターのようににらみつけてきます。
 ユキヒョウの『ゴルビー』です。同じく夜行性のため、昼間は寝ていることも多いです。ヒョウの類は高い岩山や、風通しの良いところを好むため、いつも寝るときは下が空いているここで寝ます。
 ユキヒョウを真下から写したものです。ユキヒョウの寝ている下は空間になっていて、人が通り抜けできます。
 アムールヒョウの『ビック』です。ユキヒョウと同じく、下が空間になっているところでよく寝ます。
 エゾヒグマの『トンコ』です。ガラス越しに見ることができるのですが、結構遊び好きなクマで、ちょっと目を離したスキに体当たりしたりします。去年からオスの『クマゾウ』と同居しています。

 等々の説明の後、おらんうーたん館に着いた一同はくぅの解説を再び耳にする。
「2005年1月15日にオープンしました。室内は高さが10m以上あり、ロッククライミング用のホールドや巨大ハンモック、たくさんのロープなどなど‥‥ぜひ、樹上生活者であるオランウータンの能力を、この新しい施設でも確かめてくださいね。
 この施設には、檻もガラスもありません。そのため、写真のように高い位置で、気持ちよさそうにしている本来の姿を、同じ空間で直接みることができます。
 壁には、ロッククライミング用のホールド(つかむ物)が多数設置してあり、オランウータンは持ち前の強い握力を使って、軽々登っていきます──」
 そこへカケルが‥‥。
「オランウータンはほとんど腕だけで空中散歩をするらしいから腕に注目してレポートだよ。
樹の上の生活で腕が発達してるっていうのは脚が発達してる僕ら一角獣もといあわわキリンとは真逆だね」
 と合いの手を入れる。あずさはその声に空を見上げ、手を振ろうとする。が、無情にもくぅは。
「でもオランウータンの空中散歩は夏期のみです」
 と、シリアスに返す。まあ、夏期は明日からなのだが。くぅは続けて。
「不定期に担当飼育員がこの赤い受け皿に落花生などのエサを入れます。その際には、機敏に動くオランウータンをみてください。
 本来オランウータンは単独で生活しています。子供を育てるのもメス親だけで、オス親は行いません。
 しかし、自然界では偶然出会うこともあります。そのため、当園では、ある程度距離の保てるこの施設の中で、オスとメスの同居を試みています」

──最後のクリップボードは。
 マルミミゾウの『ナナ』が天国へ
 総合動物舎で飼育展示していた、マルミミゾウの『ナナ』が4月21日に死亡しました。『ナナ』が息を引きとるまでの経過をお伝えします。


 マルミミゾウ『ナナ』:1980年に旭山動物園に来園。このとき、推定2〜3才で、野生個体でした。
4月15日
 午後3時頃、放飼場で横になって、起立できない状態で発見されました。職員総掛かりで起立の補助を試み、1度は起立寸前まで立ち上がるところまでいきましたが、そのまま倒れ、その後は起立不能になりました。
 緊急治療を平行して行いましたが、反応がなく、当日は屋外放飼場で温風暖房機を用いて保温、食欲は旺盛だったため、エサを口の中に運ぶ補助を行い体力の保持をはかりました。

4月16日
 午前9時から、再度職員総掛かりで起立補助を試みましたが、頭をあげる力がなく起立補助を断念しました。すぐに起立することはないと判断し、放飼場内の鉄柵の除去作業を行い、午後12時頃からクレーンを補助として使いながら、体を持ち上げることなく(内臓の圧迫、頸椎、関節の損傷を防ぐため)少しずつ移動し、3時間ほどかけて寝室に移動しました。

17日〜21日
 寝室移動後も、保温、採食の補助を行い経過観察、鎮痛、補液などの治療を行いましたが、19日から食欲が衰え始め、20日には食欲はなくなりました。体温も寝室収容時には36℃〜37℃(ほぼ正常)だったものが、20日には33℃まで低下していました。
 そして、21日午前2時、呼吸停止を確認し、死亡と判断しました。
 死因については、病理検査の結果を待ってから探っていきたいと考えています。生前の血液検査からは原因と考えられる結果は認められていませんでした。

 この『ナナ』は子どもから大人まで大人気で、特に『ナナちゃ〜ん』と、たくさんの来園者に呼ばれていました。ゾウの寿命は約60年。『ナナ』はまだまだこれからという歳であったのでとても残念です。今までの激動の旭山動物園をずっと支えてきた『ナナ』。安らかに‥‥。
「くぅちゃん、泣いてるの?」
 と凛華が撮影直後にハンカチを差しだそうとするが、くぅは──。
「ううん、泣いていないです。ヘッドライナーは泣いちゃいけないのです。最後のほっきょくぐまさんの所に行くのです」
 その後ろ姿に凛華は。
(ひとりくらい男の子生んでおけば良かったかな‥‥?)
 と思ったとか、思わなかったとか。

「──ほっきょくぐま館です。
 2002年9月完成しました。2カ所の展示場所の1つでは、巨大プールを設置し、ホッキョクグマのダイナミックな飛び込みや泳ぎを観察できます。もう一方では、堀を利用し、檻のない放飼場になっています。また、ホッキョクグマにおそわれるアザラシの視点を体験できるカプセルもあります」
「一番楽しみなんだホッキョクグマ。大迫力の飛び込みとか襲われるアザラシの視点を体験できるんだって。
 あんなのに襲われたらひとたまりもないよね、アザラシじゃなくてよかった」
 と天使の笑みを浮かべるカケル。
「きゃっ☆」
 早速体感するあずさ。
「うゎっ!」
 カケルも伏せる。
 そこへ必死にスノゥベアー仕様の『お兄さん』を振って、『仲間だよ☆』ネタをやってみる。
 あ、壁面に体当たりし始めた‥‥慌てて逃げるあずさ。
 その光景を見ていないのか、続くくぅの解説。
「岩にたたずむイワンです。遊んでいないときはこんな感じですが、泳いでいるイワンの体毛がゆらゆら流れる姿は圧巻ですね。
 一方、2004年10月19日に東北の動物園より来園した「ルル♀」(左)です。イワンのお嫁さんとして来ました。
 仲良くやっていけそうな予感がします。ただ、イワンは、まだ性成熟をしていないため、2頭の子どもを見るのは、まだ先になりそうです。あたたかく、見守っていてください。
 雪の上のコユキです。撮影するとき口笛を吹いたらこっちを向いてくれました。なかなか寝室に戻らず、何日も外で過ごすことがあります。
 新しく同居がスタートしました、ハッピー(手前)とコユキ(奥)です。メス同士、仲良くやっていけるか心配です」
 と、そこまで言った所で、月兎がくぅを突き飛ばす。半ば獣化していた。
「何?」
 攻撃を受け止めながら狼へと獣化した月兎の手は血に塗れていた。
 ネズミサイズの小型ナイトウォーカーの様だ。だが、動きが尋常でなく素早い。
 レオンも獅子へと獣化する。
 凛華はあずさが防犯ブザーを鳴らして危急を告げる一方、くぅとカケルを安全圏へと避難させていく。
 文字通りネズミをベースとして、具現化したナイトウォーカーの様だ。しかし、特殊能力らしいものはなく、ひたすらに素早い動きでこちらの隙を狙うにとどまる。
 その鋭い動きを、レオンが限界ギリギリで追従する。
「完全に獣化していれば、片手で倒せたのだが、その時間が惜しい──」
 完全獣化は時間が掛かるというデメリットがある。
 結果だけ見れば、完全獣化した方が早くカタがついたが、その間に周囲が被害に巻き込まれる可能性もあった。
 そこへ白い翼を翻した丹先輩が手から空気の弾丸を撃ち出す。
 頭にあるコアを直撃され、ナイトウォーカーは一撃で肉塊に帰す。
「小鳥、それとも鷹?」
「まあ、その辺は後々。ともあれ、ナイトウォーカーは他には居ないようですね」
「そのようだ」
 防犯ブザーが鳴り続けていないからあずさ達が逃げた先には居ないようだ。
 撮影の締めを早々に執り行うと、一同は札幌方面に逃げ出すのであった。

「そういえば丹さんはハーフパンツも半ズボンもそう変わらないって感じるって言ってたけど、大友さんはハーフパンツはいていったらあの通りだったし二人はここでも考え方が全く違うよね。
 それなのに仲良いしツーカーっていうのかな?そんな感じだし不思議な関係だね?」
 みそラーメンの汁を啜り終わると、カケルがそう何気なく訪ねる。
 おもむろに自分の分のラーメンの替え玉を注文する丹先輩。
「‥‥カケル君は変な所で鼻が利くな」
 煮えたぎった湯の中で踊る替え玉。
「実を言うと、プロポーズをした事がある」

「はあ、プロポーズですか、遠い国の言葉ですな──」
 レオンは、酒で頬を赤らめると途端に地酒を勧めてくる大友女史のお酌を受けるだけで精一杯であった。少なくとも、一般的なご婦人ならばとっくにノックアウトしてくるだけの量である。
 それでも大友女史は、お酌を交わしながら、幼稚園から大学までのエスカレーター式に進学できる私立学園の出身である事を明かした。そこで丹先輩は大友女史の2年上の先輩であったそうだ。
 しかし、大学時代に丹先輩は留学を2年ほど行い、そこで初めて同窓になったのだという。
 そこから、関係は発展したのだが──。
「そこから先は覚えていないのである」
 レオンは二日酔いで痛む頭を抱えて、ふたりが結婚しなかった理由までは覚えていなかった。
「まさか本当に半ズボンに関する見解の相違とかいうしょうもないオチじゃありませんよね」
 カケルは笑みを浮かべながら一同に告げた。
「これで手持ちのカードは全員分使い切ったから、次はあずさちゃんにでもヘッドライナーを務めてもらいましょうか?」
 羽田空港での解散間際に大友女史は告げた。レオンに過去を告げた記憶は残っているのか否かは定かではない。
 次回の撮影の招集の発表は19日となる。

●ピンナップ


あずさ&お兄さん(fa2132
PCシングルピンナップ
うい