むちゃ振り家族の食卓アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
猫乃卵
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/25〜04/29
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●本文
●プロモート映像(出演者募集用参考資料)
飛び立つ雀の鳴き声をバックに、カメラは台所の情景を捉えている。
妻の君子がドアの方をちらり見て、味噌汁を温め直そうか思案している。
そこへ主人の啓太郎、登場。
「あなた、そんなにのんびりしてて、よろしいんですか? あなた昨日、今日は理科の授業で使うって、学校に向かう前に、月に寄って月の石拾ってくるって言ってらっしゃったじゃないですか」
「‥‥ああ、大丈夫。月なんて肉眼ではっきり見える近さだろ? なに、ものの30分も有れば済むさ」
「どうやって、月に行くんですの?」
「甥が砲丸投げの選手だろ? あいつにぐるぐる回って俺を投げてもらえれば、砲丸の様にぴゅーんって飛んでいって、地球の引力を振り切って月の周回軌道に乗るさ。月の表面に降りて石を拾ったら、ぴょーんと飛び上がって周回軌道に戻ると。だって月は重力が地球に比べて6分の1しかないからな」
「そうなのですか? 私は理科に詳しくないのでよく解りませんけど」
「で、周回軌道で、丸めた体を勢い良く伸ばしてバタバタ手足をもがくと、ちょっと前に進むだろ? そうすれば後はもう、地球に向かって一直線さ。勢い良すぎると着地の時に足を痛めるから、大気圏突入の時には手足を思いっきりムササビの様に広げて‥‥」
「まあ、それはいいですけど、宇宙服は忘れないでくださいね」
「ああ、先日うっかり宇宙服忘れて木星行こうとして、慌ててUターンして地球に戻って来たもんな。いやぁ、ほんとに、宇宙に出ると息が出来ないのは、不便なもんだな」
「ふふふ‥‥」
娘の百合子が欠伸をしながら登場する。
「あら、百合子。準備は済んだ? 今日は大リーグの開幕試合があるんでしょ? 早く飛行機に乗らないと先発で出場出来なくなるわよ」
「はいはい、出来てます。ねぇ、お父さん。今日、月に行くんでしょ。途中まで一緒に連れてってよ。太平洋の真中まで飛ばしてもらえれば、後はゆっくり降りていけばOKだから」
「甥に投げ飛ばしてもらう予定なんだがな‥‥待てよ。甥の右手で俺を、左手で百合子を掴んで回ってもらえば良いのか‥‥後で電話して頼んでみるか」
「助かる〜 試合の前にテレビのインタビューとか雑誌の取材とか入ってて、忙しいの。観光する時間がなくて」
「お小遣いは計画立てて使いなさいよ。無駄遣いさせる為に、投手のバイトを許したんじゃありませんからね」
「はーい‥‥」
そんな感じで、宇藤家の朝は過ぎていくのだった。
むちゃ振りをテーマにしたバラエティ番組の出演者募集。
参加者は家族の役を担当します。他の参加者に対して、ありえない内容の設定で会話を成立させてください。その内容は、プロモート映像にある様に、実現不可能な事でも構いません。
●リプレイ本文
●配役
『夫 宇藤 啓太郎(うとう けいたろう)』役‥‥藤拓人(fa3354)
『妻 宇藤 君子(うとう きみこ)』役‥‥咲夜(fa2997)
『長男 宇藤 圭汰(うとう けいた)』役‥‥栄里森 圭汰(fa2248)
『長女 宇藤 月子(うとう つきこ)』役‥‥葉月 珪(fa4909)
『次男 宇藤 太郎(うとう たろう)』役‥‥ジョニー・マッスルマン(fa3014)
『次女 宇藤 りす(うとう りす)』役‥‥縞りす(fa0115)
『居候 磯雨 六郎(いそう ろくろう)』役‥‥ 上月 一夜(fa0048)
『メイド 冥途 礼子(めいと れいこ)』役‥‥ベクサー・マカンダル(fa0824)
●食卓の風景
カメラは、宇藤家の台所を映している。
眩しい朝の光が部屋の中に差し込み、騒ぐ雀の鳴き声が遠ざかる中、この家に住み込みで働いている機械的メイド、礼子が朝食の準備をしている。
「あとは、溶かしたチョコレートをおかゆに注いで。青汁は準備出来ているし」
礼子が青汁用のコップをテーブルに並べていると、君子、呟きながら登場。
「最近は基礎化粧品の品質も上がったのかしらね? 小皺もいつの間にか目立たなくなって‥‥ そう言えば、肌も心なしかすべすべになったようね」
自分の頬をさすっている君子に礼子が事務的に挨拶する。
「奥様は、いつも若過ぎるほどお若いです」
「礼子さん、お疲れ様ね。充電の方は、大丈夫かしら?」
機械的な礼子は、事務的に答える。
「はい。充分に充電されています。現在の残量は95%です」
長女の月子が、おしとやかにホップ・ステップ・ジャンプを繰り返しながら、現れる。
「青汁をいただけますかしら」
「もう〜、いつも言ってるでしょ。幅跳びで移動するのはおよしなさいって。テレビアンテナに引っかかって屋根から落ちたり、勢い余って人様の家に飛び込んだりしたらどうするの」
「嫌ですわ、お母様。慣れておりますので、大丈夫です。私、そんな失敗は致しませんわ」
月子は、礼子が青汁を注いだコップを受け取ると、立ったまま腰に手を当て、それを美味しそうに飲み干す。
「ぷは〜 朝は青汁ですわ〜 ‥‥もう一杯頂けます? あ、濃い目でお願いしますわね」
「それでは、ジョッキでお出しします」
礼子は、材料を念入りにすり潰すと、青汁ジュースの中に投入。どろりとした特濃青汁が出来上がった。
月子はテーブルの椅子に座ると、差し出されたジョッキにおしとやかにかぶりついた。
ごくごく喉を鳴らして青汁を飲み干すと、満足そうな表情を浮かべた。
「やはり青汁は濃い目に限りますわ〜。これで今日も1日ご機嫌ですのよ」
「口の周りをお拭きください」
礼子は、口の周りを緑色にしている月子にハンドタオルを差し出した。
「あら。嫌ですわぁ。おしとやかに飲み干したつもりでしたのに」
この家に居候している六郎が、宇宙服の姿で登場。それを見た君子が驚く。
「まぁ! まだ宇宙服を着ているの? 宇宙船に居たあなたを、お父さんが体当たりで撃ち落してからもう何日も経ってるわよ」
「でも、この格好の方が落ち着くんです。宇宙飛行士だった頃の感覚が抜けないので」
六郎は席に着くと、パックの納豆に箸を立て、かき混ぜ始めた。
「ところであなた、宇宙船の中では、納豆を水代わりに飲んでいたんですって?」
「ええ。無重力の中でも飛び散らないので、大流行していました。でも、俺はどちらかと言えば納豆は苦手な方でしたが」
六郎は、青汁に納豆を入れ、美味しそうにごきゅごきゅ飲み始めた。青汁に入れてしまえば納豆の臭いは気にならなくなるらしい。
圭汰が頭をかきながら登場。ため息をつきながら席に着く。
「何か悩み事があるのですか? あ、青汁、おかわり下さい」
六郎が尋ねた。
「ええ。次の演奏会で何を演奏しようか、悩んでいるんです。何かおすすめの楽器って有りませんか?」
「おすすめの楽器ですか? そうですねぇ‥‥宇宙船で勤めていた頃に、目覚ましの替わりにパイプオルガンを積んでいた事が有りました。縦横10メートル以上はあったのでしょうか。宇宙船の中に、豊かで澄んだ音色が響いてましたね。どうですか? パイプオルガンお薦めしますよ」
「いいですね! それじゃ、今度の演奏会はパイプオルガンにしてみます。でも、家にあるパイプオルガン、どうやって運ぼうかなぁ‥‥」
そこへ、次女のりすが、登場。すぐに転んでしまい、ペンギンの様にうつ伏せになって床を滑りながらテーブルにたどり着く。ぺたーんな体型だからこそ可能な技であった。
「演奏会当日は、砲丸投げのおじさんにパイプオルガンごと会場まで投げてもらおうかな‥‥」
「けーたお兄様、何の話ですの?」
りすが椅子に座りながら尋ねる。
「今度の演奏会でパイプオルガンを演奏する予定なんだけど、パイプオルガンをどうやって会場まで運ぼうか考えていたんだ」
「なんだ、そんな事ですの。あたいが運びますでぃす!」
りすが、反らした胸を軽く叩く。
「素手で重〜い重い物を持ち上げられますの。しかも、最近は空を飛んでの移動手段を覚えたのでぃす。空を飛んで、あっという間に会場まで運ぶのでぃす!」
「うーん‥‥じゃあ、りすに頼もうかな‥‥」
「そんな事より、早く青汁飲んで魔法学校行きなさい。遅刻するでしょ」
「はーい、お母様。あたいは今日も魔法を習いに、数時間空を飛んでイギリス行って来るでぃす!」
りすは、食事を終えると、走って出て行った。
「うーん、うまい! もう一杯ください!」
六郎は、空になったコップを礼子の前に勢い良く突き出す。
「あなた、それ三杯目よ? 『居候、三杯目は云々』って言葉知らないのかしら‥‥」
六郎は、言葉の意味を知らなかったのか、きょとんと首を傾げ君子を見詰めた。
その二人の間を、小学生の息子である太郎が走って通り過ぎる。
「HEY! 朝食食べてる暇ないぜ! 秘密機関のバイトに遅れちゃうYO!」
太郎は立ち止まる事なく走って退場。
黒ビキニパンツ一枚にランドセル背負って、これから何をしにいくのか、それは誰にも解らなかった。
「‥‥ところで、お父様は、どこへ出かけましたの?」
ふと気付き尋ねた月子の問いに、誰も答えられない。
「まぁ、お父さん、その内に帰ってくるわよ」
適当な君子の言葉で、いつもの朝食の情景は終わった。
それから56億7000万年後。お父さんが帰ってきた。君子が出迎える。
「ただいま〜」
「あら、遅かったわね。4000年で修行終えるつもりじゃなかったの?」
「あっちの1日がこっちの4000年分なの忘れてて、ちょっと遅くなっちゃったよ〜」
宇藤家全景からカメラはどんどんズームアウトして、宇宙空間に小さく浮かぶ地球の図を映す。
地球から小さな点が飛び上がり、地表へと落ちていった。
それが宇藤家の家族なのかは、ご想像にお任せします。
番組は、そんなナレーションで締めくくられた。