おやすみなさいアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 猫乃卵
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/26〜05/30

●本文

●チーフからのお言葉

 言うまでも無い事ながら、テレビ番組は『視聴者に見てもらう』事を目的とする。深夜番組は皆が眠りについているタイミングを狙って放送される訳ではない。放送するからには見てほしい。だが視聴者の健康を考慮すれば、睡眠時間を削ってまで見てほしいとまでは我々は言えるものではない。就寝時間帯は人それぞれだから、もし、その放送時間にまだ起きているのであれば見てくださいと耳元でささやくぐらいであろう。だが、実際には、我々放送する側は、番組の魅力を力の限りアピールし、コマーシャル前にはその後の展開を大いに気にさせて、視聴者に起き続けて視聴してもらう事を求めている。就寝間近の視聴者は番組スケジュール表と対峙し、放送を見続けるか眠りにつくか、コマーシャル突入毎に選択を強いられている。

 その慎みと本音のずれを何とかするには、視聴者が見る気のしなくなる番組を作るか、ビデオ録画してのちに見てもらうかだが、前者は問題外として、後者もビデオ再生中の時間帯に放送している番組が視聴されなくなるので出来れば避けたいところではある。
 深夜番組に魅力を付けるので見て頂きたい。だが視聴者には十分な睡眠時間を取っていただきたい。我々の抱えるこのジレンマをより良い印象に変える為、ここに新番組の企画を提案する。視聴者に眠ってもらうのだ。その為のお手伝いを出演者がする。というか、出演者も視聴者と一緒に寝る。出演者が視聴者と一緒に眠ろうと努力し、本当に寝てしまうまでを放送する。この番組を通じて、深夜時間帯の放送ではありながらも、深夜番組を視聴する方々の積極的な睡眠時間確保による健康の維持に我々が心を砕いている姿勢をアピールする事が出来ると思う。皆のご協力を願う。

●制作担当より

あ、はい、出演者を、募集致します。収録時間内に眠りについてください。お願いします。あ、男性・女性問いません。ひとつ屋根の下といいましても、収録スタジオの中ですので。そ、それでですね。眠りにつくまでに、視聴者に対して、スムーズに眠りにつく為のアドバイスを行いまして、視聴者の眠りを誘ってください。心身をリラックスさせる体操や語り、舞台演出など自由に行って頂いて構いませんので。も、もちろん、実現可能な範囲内で、ですが。それで、カメラワークの都合上、出来れば出演者がまとまって行動していただけると散発的な映像にならずに助かります。あ、狸寝入り、他の人の安眠の妨害、撮影現場からの退場はNGです、はい。必要な小道具があれば事前におっしゃってください。就寝用の寝具も撮影用をこちらで用意いたしますので。で、では、宜しくお願いいたします。

●今回の参加者

 fa0038 黒曜・ブラッグァルド(26歳・♀・鴉)
 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0160 アジ・テネブラ(17歳・♀・竜)
 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1108 観月紗綾(23歳・♀・鴉)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2172 駒沢ロビン(23歳・♂・小鳥)
 fa3701 アディラ・エイト(18歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

●実際にはお昼寝?
 収録数日前、姫乃 唯(fa1463)は少し心配していた。自分も含め未成年が何人か出演するので、収録時間が深夜だったら労働基準法に触れる恐れが有る。しかしその心配は杞憂であった。『おやすみなさい』はスタジオが空いている時間、午後1時からの収録予定だったからだ。
 収録日の12時過ぎに出演者が全員スタジオに揃った。

●撮影前に
 事前に出演者の希望を調節して、セットは『友達の家でのお泊り会』風という事になっていた。
 幅13m、奥行き4mの畳敷きの部屋を幅8mと5mに分け、カーテンで仕切る。
 向かって左側の部屋には、左側の奥にシングルベッド、正面の壁に大きめの窓、右側の奥にベッドにもなるソファーがある。手前側に4人分の布団が並べて敷いてある。
 カーテンで仕切った右側の部屋には右側にダブルベッドを置いた。蓮城 郁(fa0910)から天蓋を付けたいと要求が有ったが、姿が隠れて撮影し辛くなるという理由から却下された。
 出演者が全員セットの中に入り、位置決めの相談が始まった。
 大海 結(fa0074)が真っ先にシングルベッドに飛び込む。
「シングルベッド、とった!」
 駒沢ロビン(fa2172)は女性陣に配慮して右端の布団を選んだ。
 黒曜・ブラッグァルド(fa0038)は一番左の布団を選んだ唯の隣の布団に座った。
「んー、俺はここがいいかなー。あ、衝立は別にいらないよー」
 アディラ・エイト(fa3701)は最後の布団に座り、隣のロビンに向かって微笑んだ。
「大丈夫。男の子と寝るのは特別気にしないよ。布団内に入って来たら思いっきり蹴っちゃうけど」
 アジ・テネブラ(fa0160)はソファーに腰掛けた。寝心地を確かめる。

「それでは、私たちは向こうの部屋を使わせていただきますので」
 観月紗綾(fa1108)は郁と寄り添ってカーテンの向こう側へ消える。
「なんでカーテンで仕切るの?」
 結の問いに唯が顔を赤らめながら諭す。
「大人になったら解るから‥‥」
 唯はまだ揺れるカーテンを見つめ、放送出来るかなと不安になる。

 小道具のセッティングが終わった後、出演者達は着替えに入った。
 撮影スタッフが用意した衣装の中から、アジは薄手の寝巻き、観月、アディとロビンはパジャマをチョイス。アディは綿100%の物である事を確かめた。
「格好はいつも寝るときのと一緒のがいいよねー」
 結はバッグの中から着ぐるみパジャマのパンダさんバージョンを取り出す。
「他にもくまさんとかうさぎさんとか色々持ってるんだけど、今回はこれね」
 その後泊り込みスタッフ用のシャワー室から戻ってきたアジは唐突なパンダ出現に驚いた。

一方、成人済みグループは‥‥
「うーっ! 仕事で寝れるって凄い幸せかも‥‥」
 ブラッグァは両手を頭の上で組み、背伸びをした。
「そうなの?」
 自分で用意したパジャマに着替えながら観月が訊ねる。
「最近ちょっと寝不足でねー」
「結局の所、寝不足なら一番眠りやすいです!‥‥って、それじゃ駄目ですよねえ」
 ロビンが壁越しに語りかける。
「僕も‥‥若干‥‥寝不足なんですよ」
「収録前に寝ないでねー」
 女性陣が苦笑する。

●撮影開始
 それから約30分後、全ての準備が終わり、撮影がスタートした。

 まずは軽い運動。
 アディはラジオ体操で体を動かし、結とアジがストレッチを行う。アジが視聴者にアドバイスする。
「こうやって軽く体を動かすと、筋肉の緊張をほぐし、副交感神経を刺激するので、眠り易くなります。また、38度くらいのぬるめのお湯に、ゆっくり浸かるのも効果的です。体が芯から温まり、リラックスできます」
 体操を終えたアディが部屋を出て、すぐに飲み物をトレイに載せて戻ってきた。
「飲み物持って来ましたよ。えと、姫の方のユイ君がハーブティ。大きい方のユイ君と黒曜君がホットミルクと‥‥」
 バイオリン名曲集のCDの中から好きな曲を選び、小音量で流す準備を終えた唯がハーブティを受け取る。
 ブラッグァはホットミルクを枕元に置くと、ドイツ文学の長編小説の翻訳物である分厚い本を片手に、布団の中に潜り込んだ。枕の上に本を載せ、うつぶせになって肘を立て、読書に取り掛かる。
「これまた難しい本で‥‥ 漢字ばっかりで眠くなりそう。皆さんも眠気を誘う本を枕元に備えてみませんか? 適当にページをめくって、斜め読みするのが大切なポイントです」
 アドバイスが終わると、冷めない内にとホットミルクをすする。
「熱っ‥‥ふー、暖まる‥‥」
 それを受けて、アディが視聴者にアドバイスする。
「牛乳に含まれる必須アミノ酸は、体内で精神安定作用のある物質を産み出す元となります。牛乳を飲む際、精神安定作用の効果を高めるブドウ糖を多く含む蜂蜜などを入れると良いでしょう。でも飲んだあとは軽く口を濯いでおいて下さいね。でないと虫歯になっちゃうぞー」
 さらに唯が続ける。
「レモンバームやラベンダーのお茶は沈静作用がありリラックスできますよ」
 唯はアロマライトに火を付けて、部屋の照明をやや落とす。あわてて結とブラッグァが枕元の灯りを点ける。
「あたしは自分をリラックスさせたい時は、こうして好きな音楽をかけて、好きな香りを楽しむようにしているの。アロマライトの柔らかな光を眺めながらハーブティーを飲んでいると、心が落ち着いて来るよね。後は、いっぱいいっぱい幸せな事を考えるの。そうすると気持ちも安らいで、きっといい夢が見られると思うよ」
 次はロビンが視聴者に語りかける。
「僕は眠る為に数を数えます。よく『羊が一匹、羊が二匹‥‥』と数える方法を聞きますが、あれでは甘いですね。俺のお薦めは、『蔵に米が一杯詰まっていました。一匹目の蟻が一粒目の米を運び出しました。二匹目の蟻が二粒目の米を運び出しました』って続くやつです。俺の経験上、平均126粒目くらいで眠れますよ! ‥‥じゃあ、皆さん、おやすみなさい」
 ロビンは、笑顔で三つ指をついてお辞儀した後布団に潜り、ぶつぶつと蟻と米の数を数え始めた。
 次は結の番。
「僕は、おっきいうさぎさんと、小さい動物さんに見守られながら、ベッドの中で本を読みます。黒曜さんと同じく、こういう学校の教科書とか見ると眠くなるかな。小説とかでもそうなるけど」

 それからしばらくして、唯の用意したクラシック音楽の演奏が終わる。
「それじゃあ、みなさんがゆったりした気持ちになれるように一曲‥‥」
 アジはアカペラで、ゆったりしたメロディーの曲を口ずさみ始めた。それと共に、自分も就寝出来る様に楽な姿勢を取り、自前の枕に頭を沈めた。
「アジの歌、心地よいなー‥‥ 何か安心できる感じがする‥‥」
 ブラッグァがつぶやく。

 次第に部屋の中が静かになっていく。アジのアカペラのみが微かに部屋に響く。
 アディは抱き枕を軽く抱きながら寝ている。唯も夢の中だ。ブラッグァも誘われる様にまぶたを閉じた。結は教科書を跳ね除けるとそのまま眠りについた。アジはいつの間にか口を閉じ寝息を立てている。ロビンの米の数も一進一退を最後に止まった。睡眠の連鎖をカメラはとらえていった。

●2人きりの世界
 一方、カーテンの仕切りの向こう側では‥‥

 収録当初から『2人きりの世界』が出来上がっていた。
 郁はベッドの周辺にキャンドルを幾つか点し、能の舞台を録音したCDを小音量で再生しながら、お気に入りの香を焚いていく。
 その間、紗綾はベッドに座り、郁の姿をずっと見つめていた。
 郁は、お気に入りの器にお茶を入れながら視聴者に対して語る。
「無理に眠ろうとすると、逆に焦って目が冴えてしまうものですよね。時には、キャンドルの幻想的な灯りの中でゆったりとした音楽を聞いてみませんか? 今流れているのは、『能』です。動きが緩い上に台詞が古語ですので『つい眠くなる』とよく言われますが、実は、眠ってしまっても良いものなのですよ。美しい衣装に瞳も心も癒されて、謡いの音程が眠りの波長に合う、というリラックスした状態な訳ですから」
 郁は、準備しておいたペットケージから飼い猫を出し、部屋の明かりを落とすと、紗綾の横に座って猫を膝に乗せる。
 紗綾は、自分の後ろ髪をいじりながら視聴者に対して語る。
「好きな人と一緒に居られる事‥‥ 寄り添って眠れるという事‥‥ 照れずにはいられなくなりそうだけど、でも、こうしてキャンドルの灯りに見守られ、香の香りとゆったりとした音に包まれると、安眠する為にはやはり環境が大切なんだなぁ‥‥ って、思います。お休みなさいっ!」
 紗綾は、頬を染めた頭をいきなり郁の胸に沈めた。郁は優しく紗綾の髪をなでる。
 その後二人を撮影していたカメラは左側の部屋の収録に加わる。6人が寝静まってカメラが戻ってきた頃には、二人はベッドの中で寄り添う様に眠っていた。郁の右腕は紗綾の頭を抱え、郁の左手と紗綾の右手はしっかりと握られていた。
 こういうラブラブなシーンを撮る事が第三者である視聴者の安眠を誘うのか、制作スタッフの間に疑問は残ったが、とりあえずこれで全ての収録は無事終了した。