もや〜っと家族の昼ご飯アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 猫乃卵
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/26〜08/30

●本文

●プロモート映像(出演者募集用参考資料)
 幾多の蝉の鳴き声が割れんばかりに響く中、カメラは、木々の葉の隙間から洩れる日差しや、熱気が揺らめくアスファルトを映し出す。
「あっつぅ‥‥」
映像は、藻矢野家の台所の情景に切り替わる。妻・藻矢野 茂谷子(もやの・もやこ)が独り、周囲をきょろきょろと見回す。
「今『暑い』って言ったの誰? 男の人の声みたいだったけど‥‥」
 流れるテーマ音楽。
「炎天下でもや〜っ! 謎多くてもや〜っ! 暑いんだから、せめて気になった事ぐらい、はっきりさせてくれ〜 もやもや、もやもや。あ〜、もやっ!!」(メロディは暑苦しく)

 茂谷子が昼食のシチューを温めている。
 そこへ娘の靄実(もやみ)登場。夏休み中で、部屋の中でゴロゴロしてたらしく、髪がボサボサしている。
「お母さん、腹減った〜 お昼飯まだ〜」
「今シチュー温めてるわよ。ご飯炊き上がったから、自分で盛りなさい」
「は〜い」
 椅子に座った靄実の前に並ぶ、ほかほかのご飯と熱々のクリームシチュー。蝉の鳴き声はまだまだ止む気配を見せていない。
「このシチュー、何で沢庵ぽい味がするの? ねぇ、この細長いの、烏賊?」
「世の中には、知らなくて良い事が沢山有るのよ」
 微笑む母の顔を見詰め、何か言いたそうな娘。
「あの‥‥このつぶつぶ、何?」

 そんな中、夫の模屋男(もやお)が、新聞を片手にパジャマ姿で欠伸をしながら登場する。
「みんな、おはよう‥‥」
「‥‥あなた、会社は?」
「ん?」
 模屋男が意味ありげな微笑で茂谷子を制する。
「あ、そうだったわね。ご飯にします?」
「そうだな」
「なに? ねぇ、なに? 何故今日会社休みなの?」
 両親の顔を交互に見詰め、もやもやしている娘の靄実。両親は目を合わせようとしない。
 そこへ、弟の秀雄(ひでお)登場。
「だからなんであんただけ『もや』が入ってないん!!」
 靄実が即座に突っ込みを入れる。
「お姉ちゃん‥‥何故僕達はビールを煮切って麦茶代わりに飲まないんだろうね。僕が秀雄たる所以はそこに在るんじゃないのかな」
「訳わかんない‥‥あー! もやもやする〜!!」

 再び映像は、熱気が激しく揺らめくアスファルトを映し出す。
「あっつぅ‥‥」
「だから、あんた誰!?」
 靄実の突っ込みで映像終了。

●今回の参加者

 fa0075 アヤカ(17歳・♀・猫)
 fa0115 縞りす(12歳・♀・リス)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa5239 岩倉実佳(10歳・♀・猫)
 fa5256 バッカス和木田(52歳・♂・蝙蝠)
 fa5841 寿紗由良(23歳・♀・狐)

●リプレイ本文

●配役
『父親 和木田 猛哉(わきだ たけや)』役‥‥バッカス和木田(fa5256)
『長女 和木田 綾歌(わきだ あやか)』役‥‥アヤカ(fa0075)
『次女 和木田 ミスティ(わきだ みすてぃ)』役‥‥ジュディス・アドゥーベ(fa4339)
『三女 和木田 もゆる(わきだ もゆる)』役‥‥武越ゆか(fa3306)
『四女 和木田 りす(わきだ りす)』役‥‥縞りす(fa0115)
『五女 和木田 実佳(わきだ みか)』役‥‥岩倉実佳(fa5239)

●蜻蛉が陽炎にかげろう
 カメラは、熱せられた地面の空気がゆらめくアスファルトを映している。
 映像が道路の前方に移動していくと、公園でラジオ体操をしている集団が映し出される。カメラはどんどんその集団に寄って行く。
 和木田一家の家長である猛哉が、もちろんカツラだが、残り数本となった髪の毛の乱れを気にしながら体操をしている。
「ラジオ体操のハンコも、もうあと少しです。来年はうちの娘達にもやらせなきゃ」
「ほう。娘さんがいらっしゃるのですか」
 隣で体操している人が話し掛ける。
「娘ばかり5人もですが。年頃の娘が5人も居ると、肩身が狭いですよ」
「いやいや羨ましいかぎりで」
「あ、今日は職場に行って書類を提出しなければいけません。無礼ですみませんが、体操が終わったら直ぐに失礼します」
 猛哉は隣の人に目礼する。
「あ、いえ、構いません。ちなみに、何の仕事をされているのですか? いつも家にいらっしゃる様な、でも時々何か作業されている様な‥‥」
「いや〜‥‥学校の教頭の様な、幹部の様な。日々、草むしりとか、絵日記書いたり、外国の大統領と会談したりしています」
「はあ‥‥」
 ラジオ体操の音楽がフェードアウトする。猛哉は軽く息を吐いて、呼吸を整える。
「体操が終わったので、失礼させていただきます」
 猛哉は公園を立ち去った。

●あっつい‥‥
 カメラは、熱気のこもる室内に切り替わる。ここは、女子高校生、綾歌の部屋である。
 部屋の中央には背の低いテーブルが置かれている。テーブルの上には、開きっぱなしの本やノートが幾つか散乱している。
「む〜‥‥あっつくて、私にとって謎だらけの夏休みの課題、する気しないわ‥‥」
 綾歌がテーブルの上に上半身を突っ伏して、本音をもらす。
 エアコンは壊れていて、部屋を涼しくさせる事が出来ないのである。
 とはいえ、夏休みは残り少ない。まだ残っている課題を数日の内に片付けてしまわなければいけない。綾歌は、顔だけ起こして顎をテーブルに載せる。
「2の平方根は‥‥ニャんだっけ‥‥ひとよひとよにゆめがない‥‥暑いから1でいいわよニャ」
 綾歌は、口調を『ね、わよ、かしら?』で行くことにしようと努力はしたらしい。が、この時点で諦めた。敗因は、多分この暑さであろう。
 ミスティが突っ込みを入れる。
「綾歌さん‥‥そこは円周率を使う所です。‥‥円周率って、いくつでしたっけ‥‥むにゃ‥‥」
 ミスティは綾歌と一緒に宿題をやっていたが、自分の分はとっくに終わったので、先程から昼寝をしていた。
「ひとよひとよには違いますし、いいくにつくろうでもないですし‥‥」
 ミスティは、昼寝をしながらも、綾歌を手伝おうとしている。
「ひとよひとよにゆめがない、だニャ〜。数字の語呂合わせだニャ」
「ゆ、ゆ‥‥どんな数字の語呂合わせですか〜?」

●胸見るお年頃
 綾歌は、引き続き、数学の問題を解いている。
「え〜と‥‥三角形の面積の出し方は‥‥底辺かける固さ割るかち氷‥‥かっとばせーニャ〜んとか。うにゃうにゃ倒せ〜おぅ!」
 現実逃避して、頭の中で高校野球の試合を応援しているらしい。
 りすが部屋の入り口のドアから顔半分出して覗いている。
 りすはもうすぐ受験という事で、自分の部屋で夏休みの課題や高校受験の勉強をしていた。勉強をしていると、隣の部屋から綾歌とミスティが何か話しているのが聞こえて来たので、気になって覗きに来たのだ。
「綾歌おねいちゃん‥‥胸大きいでぃす‥‥」
 りすは自分の胸を両手で押さえながら溜息をつく。いっこうに大きく育たない自分の胸を思い、常にもやもやしているお年頃少女なのである。
「ああ〜 かち氷を下してかき氷が勝利だニャ! 甘いシロップが決勝点となって三角形の面積が求められたニャ! あ、りすちゃん、勝利者インタビューですニャ〜 一言どうぞ!」
 綾歌が握りこぶしをりすに突きつけながらすり寄る。
「綾歌おねいちゃん‥‥どうやったら胸が大きくなるでぃすか?」
「胸?」
 綾歌は自分の胸を覗き込んだ。
「うーん‥‥何時の間にか大きくなってたニャ。考えてみれば不思議ニャ? 更に頭がもや〜っとするニャ〜」
「そう言えば、綾歌おねいちゃん、宿題やってたでぃすか? 進んでるでぃすか?」
「りすちゃんも一緒にやるのニャ〜 一人よりも二人の方が、公式とか年号とか覚えられるニャ〜」
「じゃぁ、今の学力をテストしてみるでぃす。『いい国作ろう』に続く言葉は何でぃすか?」
「いい国作ろう? ねずみー王国。ねずみ取り放題だニャ〜」
「違う気がするでぃす‥‥」
「正しくは『いい国作ろう、釜飯たべたい』です‥‥すぅすぅ」
 ミスティは、まだ寝ている。

●五女、乱入
「おねーちゃんたち、いったい何してるなのなの〜?」
 実佳が部屋に入ってきた。毎日プールに行っているので、全身真っ黒に日焼けしている。
「夏休みの自由研究、やって〜 今からひまわり育てても間に合わないし、工作は不器用だから出来ないの。どうしようって、もやもやしてたけど、おねーちゃんたちに手伝ってもらおうと思って来たの」
「大丈夫ですよ〜。私達に任せてください‥‥溺れる者はわらしべ長者、略して『しべ長』って言うくらいですから‥‥」
 ミスティは、まだ寝ている。

●臭い
「何で自分は胸が小さいんでしょうかねい? それを自由研究にするがいいでぃす」
 それからしばらく、自由研究を何にするか皆で頭をひねっている内に。
「娘たちー、もやーっとしてる?」
 次女のもゆるが部屋に入って来た。
「課外の学校活動で着た服出しといてね。洗っとくから」
「チア部の遠征はもう終わったのですか? ‥‥ぐぅ」
「うん。結果は聞かないで。お昼に帰って来たって事で察してくれると有難いかなーって」
 もゆるが決まり悪そうな顔をする。
「もゆるおねいちゃんの胸がまた立派になってるから、今日は勝ったのでぃすか?」
 りすが、もや〜っと溜息をつく。
「うん。優勝したっていうか、でも惜しいところで優勝を逃したのかな? って微妙な感じ?」
「どっちでぃすか‥‥」

「それはそうと、明日も遠征あるんだよねー。道具とか手入れしなきゃ」
 もゆるは一旦部屋を出て、大きなバックを持って戻って来た。
「もゆるは部活のマネージャもするし、家でも洗濯や道具の手入れって、まるでお母さんみたいだニャ」
 顔色が変わったもゆるが綾歌を廊下に連れ出し、こそこそ小声で注意する。
「『お母さん』の話題に触れちゃ駄目だよ。みんな、『お母さんの役』の存在を忘れてたんだから」
「了解だニャ」
 あっさり二人が部屋に戻って来る。
「お母さんは夜空にきらめくお星様となって、どこかでプロ野球のピッチャーを頑張っているのです‥‥ふぁあ」
「あ、起きたでぃす」
「半日寝てると、頭の中がもやーっとします‥‥」
「どいて。部活の道具、広げるから。これがラケットでしょ。‥‥グリップが汗臭いわねえ。ま、使用後のスポーツ用品はもやーッとするから仕方が無いけど」
 実佳が不思議そうな顔をしてラケットの臭いを嗅いでいる。
「これは剣道の小手ね。臭う‥‥奴のか‥‥」
「奴って、誰でぃす?」
 もゆるはバックの中から高校の名前の入ったシャツを取り出した。
「これは誰のシャツ? う! こ、これは、強烈にも、もやー‥‥」
「も、もゆる〜!!」
「もゆるおねいちゃ〜ん!!」
 もゆるは、誰かのシャツの強烈な臭いに気を失ったのだった。
「わかった。このシャツの持ち主は‥‥」
 それが本日最後のもゆるの言葉だったらしい。