椅子一つの喫茶店アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 猫乃卵
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/30〜06/03

●本文

トークバラエティ番組『椅子一つの喫茶店』企画内容

 収録スタジオに、防音設備付きの5m四方、高さ2.5mの小部屋を設置する。その小部屋を喫茶店と設定、装飾する。この喫茶店は、数年前に閉店している。棚やカウンターなど据え置きの家具以外は大抵の物が撤収されている。わずかに残されている物は、木製のステージ台、観客用のテーブルと椅子が一つずつ、照明と、その他参加者から要求の有った小道具である。ステージは、営業当時歌手や芸人が芸をお客に見せる為に使われた。小部屋を除くスタジオ全体を喫茶店の周辺の路地として舞台を作成する。喫茶店脇には円形のテーブルと椅子を設置する。
 番組を演出するシナリオの大まかな流れを示す。
 参加者の一人が舞台に登場。この参加者をAとする。喫茶店から妖しげな女性が現れその参加者Aを操って喫茶店の中に入れてしまう。その後、次の参加者が登場。これをBとする。参加者Bも妖しげな女性によって精神を支配され喫茶店の中に連れ込まれてしまう。喫茶店内部では参加者Aが5分程度の歌、かくし芸や、一人芝居など好きな持ちネタを披露し、参加者Bがそれを観賞する。その芸が終わると参加者Aが女性の精神支配から開放され、喫茶店から出てくる。次に参加者Cが登場。同様に喫茶店に連れ込まれ、参加者Bが持ちネタを披露した後参加者Bが開放される。芸を披露する側が女性の精神支配を強く受けるので、参加者Bは観賞した参加者Aの芸の内容は覚えていても、自分が披露した芸の内容は覚えていない。参加者Bは参加者Aのネタについて印象を語る。以降、次々と参加者が吸い込まれ、吐き出された参加者は自分が観賞した芸の内容を語る。最後に参加者Aが観賞する人として吸い込まれ、最後の芸が終わると二人とも開放され、思いを遂げた女性の姿は消えてしまう。
 喫茶店の中は撮影されない。よってその芸は公開されない。この番組は、芸を披露した人間と芸の内容を知らないその他の参加者を相手に、自分だけが観賞した芸の内容と感想を語りあうトーク番組である。

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2340 河田 柾也(28歳・♂・熊)
 fa2341 桐尾 人志(25歳・♂・トカゲ)
 fa2617 リチャード高成(22歳・♂・猫)
 fa3435 リック(33歳・♂・蝙蝠)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)

●リプレイ本文

 撮影開始後まもなく、舞台にタブラ・ラサ(fa3802)が登場した。喫茶店に独りで入店するには無理がある年齢の男の子である。目の前に在るのは数年前に閉店した喫茶店。いくら大人びた思考を持つ彼といえども、こういうアイテムを目の前にすると秘密基地であるかの様な妙な期待感を持たずにはいられない。
 彼が入ろうかどうか迷っていると、突然喫茶店のドアが開き、若い、しかしどこか陰をまとった女性が現れた。
「いらっしゃい。お客様が待っているわよ」
 ラサはその瞬間、顔から表情が消え、操り人形の様にゆらゆらと喫茶店に入っていった。

 間を置かず姫乃 舞(fa0634)が登場。
「あの子、なんで喫茶店に入っていったの? あの女の人が誘拐しようとしているのかしら?」
 舞は、窓から様子を窺おうと、喫茶店に静かに近づく。
「いらっしゃい。珈琲入れて待ってたのよ」
 舞も女に導かれる様に喫茶店の中に入る。

 それから少し間を置いて、あずさ&お兄さん(fa2132)が登場。
「ん? この喫茶店、つぶれて今は空き店舗のはずなのに、ドアが空いてる? 何か移ってくる店でもあるのかな?」
 あずさが内装は換えられているのだろうかと、店の中を覗こうとする。
「あら? 今日は繁盛する日なのかしら」
 あずさも喫茶店の中に吸い込まれた。入れ替わりに、ラサが喫茶店から出てくる。
「僕は‥‥?」
 ラサはただ呆然としている。

 また少し間を置いて、河田 柾也(fa2340)が登場。同様に喫茶店の中に吸い込まれる。
 舞が出てきた。ラサの姿を見つけると驚きの声を上げた。
「夢じゃなかったのね?」
「喫茶店の中で何があったの?」
 舞は語り始めた。
「私が喫茶店の中に入ると、ステージの上に椅子が一つだけ有って、ラサ君が座っていました。何をするのかなと見ていると、彼が手を伸ばしリモコンを手に持って操作するような演技を始めたんです。パントマイムでテレビを観ている所を表現しているのですね。音楽番組を見ているのでしょう。楽しい曲が流れている様でした。程無くラサ君がチャンネルを変えました。今度は哀しい映画の様です。目からは大粒の涙があふれます。こちらまで貰い泣きしてしまいそうでした。かと思うと、またチャンネルを変えました。飽きっぽいのかなと見ていると、白熱した応援が始まりました。めまぐるしく視線が変わる所を見ると、サッカーなのかもしれません。両手を天に突き上げてゴールを喜んだと思ったら、そのゴールがオフサイドの判定で取り消しになったらしく、落胆しています。怒りが治まらないままチャンネルを変えようとしていましたが、リモコンの電池が切れたらしく、電池を取りに行ってしまいました。そこでパントマイムは終わりです。セリフをしゃべらずにここまで表現出来るなんて凄いなと思いました」
「僕、ステージでそんな事してたのか? 何も思い出せないんだけど‥‥」

 今度は、リチャード高成(fa2617)が登場。喫茶店の中に吸い込まれ、代わりにあずさが出てきた。
「あれ? 舞さんが居る‥‥」
「あなたもステージで何か見たの?」
 そのセリフを受けて、あずさと相方の人形『お兄さん』の掛け合いトークが始まる。
「最初、ステージは真っ暗だったよ。何が始まるんだろうと思っていたら、スポットライトが舞台の中央を照らしたんだ」
『そうそう。そしたら、そこに舞さんが立ってたの。舞さんは静かに歌い出したわ』
「私には判らない歌だったけれど、曲の感じから多分賛美歌か何かだと思った」
『でも、さすが歌手さんだけあって、声もすごく綺麗だし、歌も上手だわ。男性でないのがもったいないくらい』
「こらこら。それはともかく、舞さんの清楚な雰囲気や美しい声が奏でるメロディーが、店内の不思議な雰囲気と相まって、舞さんが天使のように見えたよ。歌が終わって再び店内が静寂に包まれると、スポットライトが消えて、舞さんが暗闇の中に消えていったんだ」
『何と言ったらいいのかしら。天から差し込んだ一筋の光を伝って天使が降りてきて、祝福の歌を歌うと、またその光とともに帰っていった、って感じ? とても素敵な出し物だったわ』

 更に桐尾 人志(fa2341)が登場。喫茶店の中に吸い込まれ、代わりに柾也が出てくる。
「僕はいったい‥‥?」
 彼も喫茶店の中で見たものを語る。
「んー‥‥あずささんの、つかみの腹話術での漫才から移行してのショートコント『梅雨時の花嫁』、面白かったよ。年上の彼に婚姻届と遺言状をデート中に書いてもらおうとするところとか、相手の命を奪う『遅れてごめんなさぁいぃぃ』助走付きタックルの緊迫感ある攻防とか。彼にもらった婚約指輪に毒矢を仕込んで隙をうかがうところなんて、僕らにゃ出ないアイデアだね。最後は、自分に愛情を注いでくれた彼に永遠の愛を誓ってもらうと、彼女は自分が茎が折れて枯れた紫陽花の精である事を明かして成仏するんだ。切ない話だよ」

 そして春雨サラダ(fa3516)が登場。喫茶店の中に吸い込まれ、代わりにリチャードが排出される。
「しかし妙な喫茶店だね」
 冷静さを取り戻したラサが呟く。
「君も他の人の芸を見たのか?」
「いえ。僕は‥‥」
 リチャードが柾也の芸を語り始めた。
「いや、驚いたよ、本当に。確かに河田君は何かを演じていた。男、女、老人、若者。位置を変え声を姿勢を変え、何人もの登場人物がいる劇を演じている様に見える。だが、その人物達が何を言い合っているのか、さっぱり分からなかったんだ。最初は、何か外国語で劇を演じているのだろうか、と思ったくらいだ。だが、彼が何を喋っているか、突然分かったんだ。その突然のショックに、私は思わず声を上げて笑ってしまったよ。彼の目が一瞬、会心の笑みを浮かべたのが見えた。涙を流して大笑いする私を前に、彼は最後までペースを崩さずに冷静に、楽しげに演じ続け、最後に一礼してみせたよ。彼が見事な様子で、身振り手振りを交え演じていたのはね」
一拍おいて再び語りだす。
「どこかの蕎麦屋のメニューだったのさ。ざる蕎麦700円、親子丼900円‥‥そんな事をずっと口にしていたんだ」

 ラサが考え込むのを止め、顔を上げた。
「次は僕が行くよ。連鎖の輪を作ればあるいは‥‥」
「体は子供なのに、頭脳は大人なんだね」
 あずさが感心する。

 ラサが吸い込まれ、人志が解放された。
 人志はリチャードの芸について語った。
「僕が観たのはシェイクスピアの一人芝居『マクベス』の冒頭、魔女から予言を受ける所やったな。彼はあくまでマクベス、せやけど自らの表情・声・仕草で他の登場人物がいるかのように見せてはりましたわ。たった一人で『世界』を作るとはこういう事なんやなぁと。『正統派』のドラマやったな。王に忠実なはずの武将が、心の奥底に仕舞いこんでいた野望や腹黒さを揺り動かされ、じんわりと表情や仕草に滲み出す過程。ホンマ叶わんなぁ、と。素の僕は嫉妬モンやったわ」

 最後に春雨とラサがドアを開けて出てきた。
 まずは春雨の語る番だ。
「私の見た芸は、人志さんの独り芝居だよ。ひ弱でエリートだけど人を殺めた事は一度として無いという軍人の役なの。でもある日、幼馴染みの同僚が反乱を起こした罪で、銃殺される事になっちゃったの。さらに悪い事に、上層部の余興で彼はその親友の死刑執行を勤める羽目になったわ。親友に、どうして俺に相談しなかったんだって詰め寄っても、親友との思い出の日々が脳裏によみがえってきても、死刑執行時刻は無情にも迫り来るの。彼は震える腕で機関銃を掴み、涙を浮かべながらおぼつかない足取りで友に近づく。でも、親友は笑っていたそうよ。一点の曇りもない笑顔で。やがて銃弾を放つ音が一発響く。彼は敬礼すると、『涅槃で逢おう、友よ。なあに、俺もすぐ行くから』と語りかけて、芝居は終わるの。あぁん! 今でも泣けるーっ!」

 最後にラサが語る。
「春雨さんがステージで披露してくれたのは曲に合わせてのダンス。多分創作ダンスだと思う。曲はクラシック調のもので、曲名はわからないけれど、比較的静かな感じで始まったんだ。春雨さんのダンスも、最初はゆったりとした、どちらかと言えば静かで繊細なものだった。例えるなら、静かに流れる小川の様な。やがて、曲の盛り上がりにあわせて、ステージの中心付近での細かい動作から徐々に勢いのある、ステージ全体を広く使った大きな動きへと変わっていったんだ。緩やかな川が、徐々に急流へと変わっていくように。そして川は大河になる。最高の盛り上がりの中で曲はクライマックスを迎え、彼女は舞台から去っていった。彼女が舞台の上で言葉を発することは一切なかったが、言葉など一切必要ないくらい、彼女の踊りが雄弁に全てを語っていたように思える。うん。全体の感想を一言で言い表すなら、やはり『美しかった』という言葉をおいて他にないな」

 ふと見ると、あの喫茶店の中の女性がドアから体を半分出して微笑んでいる。
「来場ありがとうございました。全ての催し物をつつがなく終えることが出来ました事、感謝いたします‥‥」
 女性の姿が淡く消えていくというシーンを最後に、撮影は無事終了した。