海開きで村おこしアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
猫乃卵
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/03〜07/07
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●本文
市街地から車を走らせる事1時間。防風林の隙間から海が見える様になった頃、案内板の指示に従い海水浴客専用の駐車場に車を止める。
自家用車さえ滅多に通らない道路を横断し、少し歩くと目の前に広々とした砂浜が現れる。
「わぁ! きれいな海岸じゃないですか!」
テレビ局制作スタッフである女性が歓喜の声を上げた。
「砂浜はゴミで全然汚れていないし、見晴らしは良いし、静かな雰囲気で、夏と言わず来たくなっちゃいますよ!」
彼女をここに連れてきたチーフスタッフが応える。
「観光客が全然来ないからゴミは出ないし、海から離れても建物が無いから四方どこまでも見晴らしが良いし、周囲に人気が無いから静か過ぎて夏でも来たくなかったよ」
「もぉ、そんな言い方しないでくださいよ! 自然が残されてるんじゃないですか!」
「自然を残すのもこれが最後だけどな」
「‥‥村おこしの件ですか」
「村としても過疎化は深刻な問題だ。この海岸をエサに、たとえ夏の間だけでも村に人が住み着いてくれれば、過疎化解消の糸口になるんじゃないか。そういう考え方で行こうと決まったみたいだからな」
「ここを海水浴場にして、観光客を呼び込もうと‥‥」
「良い海水浴場になると思うよ。ここを使うのは村人達だから、今までこんな風に自然が残されてきたんだ」
「そうでしょうか‥‥? 海開きにテレビ局まで呼び込んで‥‥」
「海開きの詳細については、これから村長の所に伺う予定だ。ほら、車に戻るぞ」
二人を載せた車は、やがて村役場へと着いた。
「私共としましても、この浜の開発計画には村の将来をかけています。最初は観光目的でも、いつの日かこの村に愛着を覚えてくれる人達が現れると信じています。その方達と一緒に、この村を支えていきたいのです」
「村長。‥‥海水浴の為だけに来る人達に村の良さをアピール出来るものなのでしょうか?」
「アピールには、色々な方法が有ると思います。この村の農産物を売る、例えば、この村の牛乳を使ったアイスクリームや西瓜を売るとか。あ、計画では、海の家は村の人間に運営を任せたいと思っています」
「それなら海の家における地元の人達との交流をメインに据えて番組を作成した方が良いでしょうな。その計画に沿って撮影致します」
「ご協力感謝します」
今回制作される番組は、この海岸の海開きの式典の中継を中心とした、この海水浴場の紹介番組である。
海開きの式典は、村長の挨拶、神事、最後に皆で海に入る以外はまだ未定なので、テレビ局からの提案が受け入れられる可能性が有る。
海の家は十軒程度で、集客状況に依っては増やす予定。各家では村のそれぞれの家庭が協力しあって接客する予定。冷やし中華、カキ氷などが提供される予定だが、畑で取れたトマトを冷やして出したいとの意見も寄せられた為、どういう海の家にするかは、まだ広く意見を求めている最中との事。
我々は、海開きの撮影、現地レポートが主な仕事だが、この村の魅力を伝える為のアイデアの提供も重要な仕事になる。海水浴場開発の目的がこの村の発展にある事を忘れない様に。以上で俺の説明は終わる。各項目の詳細打ち合わせを始めてくれ。
●リプレイ本文
海開きの2日前、三月姫 千紗(fa1396)と森守可憐(fa0565)は、海水浴場の環境整備と維持について、村長に意見を述べていた。
その様子をカメラが撮影している。豊田そあら(fa3863)は、邪魔にならない位置に立ちながら、編集時に入れる事となるナレーションのセリフを考えていた。
(「は〜い♪ ここは村役場の応接室だよ♪ 今、千紗さんと可憐さんが村長さんと打ち合わせしてるよ。村おこしを目的とした海開きの為に必要なものは何か話し合ってるの♪」)
千紗が駐車場の問題について語る。
「市街地からかなり離れてるから、海水浴場の近くに駐車スペースを十分に確保するのが重要だね。駐車の場所探しで苦労しないのは、ここの売りになると思うよ。ついでに駐車料金が格安なら更にアピール出来るね」
村長が答える。
「駐車場を整備するのは時間がかかりますので、すぐには対応出来ませんが、確かに駐車時のストレス軽減は重要な要因ですね。ご意見参考にさせていただきます」
可憐がゴミ問題について提案する。
「海の家や屋台で食べ終わった後ゴミとなる串や容器に点数の書かれたマークを貼り付けて、そのゴミをゴミ集積所に持っていくと点数に応じて駐車料金の割引券に交換するというのはどうでしょうか? 利益で割引金額が賄えるくらいに設定すれば、お得感をアピール出来ると共に、ゴミの散乱も抑えられるのではないでしょうか」
「マークや割引券の生産コストとか、事業ゴミのコストを考慮する必要が有りますが、面白いご意見ですね。参考にさせていただきます。我々としましても、ゴミの収集や処分のコストを抑えるべく、リサイクルの推進によるゴミの軽量化に苦心している所です」
その後、イベント内容の提案などについて意見が交わされていった。
可憐は七夕の日に合わせて笹を用意、お客様が自由に短冊を添えるとか、西瓜割り大会、野菜の収穫体験教室など村だからこその面白さを感じられる様なイベントを提案した。村民の意見を聞いてみたいという前向きな回答であった。
海開き前日、特設ステージの準備が終わりを迎えていた。番組の企画として、海の家の近くに特設ステージを設置し、料理を提供しようという計画になっていた。力仕事を行いながら全体を指揮していたのが、鬼道 幻妖斎(fa2903)だ。大道寺イザベラ(fa0330)のイメージカラー『赤』を基調に、とは言え、海の色や砂浜の色と調和しなければステージが浮いてしまうので、色合いを調節しながら作業は進められていった。
設営の様子をカメラが撮影している。そあらは、邪魔にならない位置に立ちながら、編集時に入れるナレーションのセリフを考えていた。
(「ここは新作料理を食べてもらう特設ステージだよ♪ 今、ステージ作りは終盤を迎えているの。幻妖斎さんがリーダーとして一生懸命頑張ってるよ♪」)
「さぁ、みんな! もうひとふんばり! 頑張っていくよ!」
さすがにイザベラは力仕事を手伝う事はしない。旗振り役として作業員達の近くで掛け声を掛け、全体の士気を鼓舞し続けている。
「あ、イザベラさん。もう少しでテーブルと椅子が届くので、ステージと調和する様に色合いの調整、お願いします。指定された色で塗りますので」
幻妖斎の言葉に、イザベラは、さてどうしようかなと悩む。全体の色が赤に寄り過ぎても個々のパーツが似た色の中に埋もれてしまう。選んだ色によっては『赤』に負けてしまってそのパーツを生かせない。イザベラと幻妖斎は、細かい色合いは現場で考える事にしていたが、いざその時になると結構悩んでしまうのだった。
そして、海開き当日。
美角あすか(fa0155)とイザベラの案を融合して、出す料理は『ざく切りトマト乗せクリームソースの流しそうめん風冷製パスタ』(略称『流しパスタ』)となっていた。
竹を半割にした竹樋を用意して水を流す。注文が入ると客に皿とトングを渡し、竹樋を流れるパスタを食べる分だけすくってもらう。すくい終わったら皿を一旦受け取りソースをかけてお客に戻す。お皿は、大小2つの料理用ボールをくっつかないように重ね、隙間に水を入れて凍らせて作った。氷なので、食べ終わった皿は解かすだけで処理出来てゴミは出ない。幻妖斎は皿に絵を入れたがっていたが、氷の皿では技術的に難しそうなので断念した。
用意した食材を前に、料理に取り掛かる。もちろん料理の味はあすかとイザベラが決めるが、料理作業の大半は幻妖斎が行った。パスタの茹で加減を確認しながら幻妖斎が呟く。
「確か、フライパンを使わない冷製パスタは茹で時間を長く取るのがコツな筈‥‥う〜ん、こんな所かな」
そんな調理の様子をカメラが撮影している。そあらは、調理の邪魔にならない位置に立ちながら、リアルタイムにナレーションを入れていた。
「お〜♪ クリームソースが出来上がっていますよ。いい匂いです! あ、こちらではあすかさんがトッピング用のトマトをざく切りにしています。水っぽくならない身の締まったトマトを選んだだけあって、今つまみ食いしたくなってしまいますね♪ というか、つまんじゃいました♪」
その後、幻妖斎は世界の三ツ星レストランを食べ歩いた経験を活かし、あすかとイザベラに使う香辛料や具材など色々アドバイスしながら調理を続けていった。
接客は、村のおじさんとその母親のお婆さん、バイトで接客の経験があるので志願した千紗が担当した。服装は、タンクトップとショートパンツの上にエプロン。足はサンダルを履いている。海らしく爽やかなイメージでまとめた。
そあらが千紗にインタビューする。
「接客する上で心掛けてる事は何ですか?」
「客を待たせない事と愛想の良さかな。お客を待たせてしまうと食欲が萎えてしまうし、売り子の元気は一番の調味料だからね」
やがて、海開きの式典がつつがなく終わり、お客達は、海へ入ったり、砂浜で肌を焼き始めたり、海の家でくつろいだりと、様々に楽しみ始めた。キャミソールとショートパンツに身を包んだ姫乃 唯(fa1463)は、さっそく番組用のレポートを開始する。海の家を切り盛りする村人の表情を中心にレポートは行われていった。
「こちら、オープンしたばかりの海の家だよ。ステージ状の建物になってるね。早速お邪魔してみましょう!」
唯はステージに上がり、調理場にお邪魔した。
「お早うございます。こちらでは何を調理してるの? わぁ、今朝採れたばかりの新鮮なトマトだね! よく冷えてるよ。見て下さい、この赤い色! あたしも一つ頂いてみるね。‥‥甘〜い! すっごく甘いね。まるで果物を食べているみたい!」
事前の打ち合わせに沿った内容でリポートが進められていく。
「ここでは、このトマトを使ったお料理を出しているんだよ。芸能人のみんなが考えたメニューだって。これは冷製パスタにかけるソースだね。先程のトマトがざく切りになって沢山入ってるよ。少し頂いてみましょう。‥‥うん、このトマトと冷たいソースが絡み合って、凄く美味しいね。喉越しも良いし、夏の食欲が無い時でも食べられそう!」
そばに居た鶴舞千早(fa3158)が唯に飲み物を勧める。
「トマトジュースやカクテルはいかが? 色々出来るわよ。トマトジュースとビールを混ぜたレッドアイ、そのビールをウォッカに変えたブラッディーマリー、それにビールを足したレッドバード、それからビールとウォッカを外せばバージンマリーというカクテルになるわ」
「それって、トマトジュースなんじゃ‥‥」
千早が笑って答える。
「そう。でも立派なノンアルコールカクテルよ。そこにハマグリのエキスと塩・胡椒をお好みで入れれば、クラマトジュースになるわ。そこにウォッカを加えるとブラッディ・シーザー‥‥」
「わ、私はお酒は飲めないので、ジュースを頂くね」
赤いカクテルにかける千早の熱意と勢いに負けそうな唯レポーターであった。やがて千早が持ってきたジュースを手渡すと、唯が半分ほど飲む。
「あ、トマトの青臭さが全然なくて飲み易いよ。皆さんもパスタとドリンクを味わいに、是非足を運んでみてね。以上、海の家よりお送り致しましたぁ!」
この番組を作成した効果はすぐには出ない。後日集客数増減の結果を確認する事になるだろうが、とりあえずは収録が終了したという事で、あすかは健康的なデザインの青いワンピース、可憐はマリンブルーのチューブトップビキニに着替え、海に泳ぎに行った。そあらは別取りの海水浴客への突撃インタビューを終えると、着ていた水色のタンキニの姿のまま二人と合流した。
その後あすかは、夕食用に残したパスタを固めて焼いてお好み焼き風にするアイデアをイザベラに伝えたが、イザベラの調理後出来上がったのはどう見てもフィデワと言われるパスタのパエジャだった。
「あれ? これは‥‥」
無意識の産物を見つめながらイザベラはセンチになっていた。
「青い海、美味しいトマト、綺麗な夕陽‥‥何となく故郷のイタリアを思い出しちゃうな‥‥」
やがて、太陽は海を赤く染めるのを止め、その身を完全に海に沈めた。人の居なくなった海岸に静寂が戻る。