新人強化合宿☆卯月アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/15〜04/21

●本文

 知る人ぞ知る、とある山中にある新人俳優向け合宿所。
 そこで合宿をすれば、必ず演技力が鍛えられるという。
 なぜならそこには、往年の名女優が残した謎の「演技力育成プログラム」が一巻の巻物となって残されているのだ。その演技力育成プログラムにより、その女優は銀幕の女王として一躍スターダムにのし上がったという。
 そのプログラムには、女優魂ここにきわまれりと感嘆したくなる程の‥‥というか、「なんじゃそりゃ」と突っ込みたくなるような内容が記載されているという。
 いわく。
「最後に殺される役をオファーされる。その練習のため、一定時間死体になりきる。その間、たとえ顔面に納豆を塗りたくられようともピクリとも動かない」
 とか、
「女忍者の役をオファーされる。忍者の気持ちをつかむため、合宿所の床下や壁の中にひそんで(役練習のため壁をくりぬいたらしい)、スキを見せた俳優仲間に襲いかかる」
 とか、
「河童の役をオファーされる。河童の気持ちをつかむため、練習期間中はキュウリしか食べない。そして語尾には必ず『〜キュー』をつける」
 とか。このプログラムには上記のような「なりきり練習」の他にもいろんな「なりきり練習」が記載されているようである。
 というわけで、今年もここで合宿してくれる新人を募集中だ。というか、来なさい。
 新人が合宿してあげないと、その合宿所からは毎夜、世にも哀しげな声が聞こえるという祟りがあるのだ。ほら今夜も‥‥
「‥‥カ〜〜モ〜〜ン‥‥」

☆補足事項☆
 ちなみに、合宿所に一歩踏み入れたら、ゆめゆめ演技力育成プログラムに対する愚痴や疑いなど口にせぬよう。祟り(ポルターガイスト)でボコボコにされます。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa2814 月影 愛(15歳・♀・兎)
 fa3090 辰巳 空(18歳・♂・竜)

●リプレイ本文

 合宿所は妙に涼しかった。
「やっぱりこれって霊のせいでしょうかぁ‥‥?」
 ほんわか美少女佐々峰 菜月(fa2370)が、辰巳 空(fa3090)の長身に隠れつつ、こわごわ見回す。 並の男だったら、もう抱きしめて守ってあげたいっ! となる風情だが、彼女ならばもし悪霊が出ても、すかさず誰かを生贄にして生き延びそうな気が(オイ)。
 好奇心旺盛にあちこちの部屋を探検していた姉川小紅(fa0262)は寝室を発見し、
「うっわー二段ベッドぉ! 懐かし〜!」
 ロングスカートの裾もかまわずよじ登り、ぼっすんぼっすん、と豪快に弾んでみてる。
 一見清楚な小紅の行動に皆は目が点だが、「見なかったことにしよう」と目顔でお約束したようだ。
 シヴェル・マクスウェル(fa0898)が壁につくりつけの本棚から、例の巻物を引っ張り出し、埃をはたいて広げた。
「これか、例の巻物とやらは」
 記念すべきその一ページ目の内容とは!?
「演技力口上プログラムその1‥‥着ぐるみで動物になりきる‥‥?」
「きゃは楽しそう〜」
 本棚の隅に犬の着ぐるみを発見して早速袖を通しつつ、小紅がはしゃぐ。 
「こんな内容で本当に演技力が身につ‥‥ぬ!(バキィ!!)」
 疑問を口にしかけた辰巳空に向かって、早速ポルターガイストでぶぅんと音を立ててまな板が飛んでくる。しかしそれを、空はすかさず手刀で叩き落とした。
「ま、退屈はせずにすみそうだな。プログラムは怪しいもんだが‥‥とうっ!(ガキッ!)」
 同じくポルターガイストで飛んできた椅子を回し蹴りで一蹴しつつ、シヴェルが同意した。
「ようしっ、なんでもなりきってみせるぞー」
 と、柔軟体操をしている白井 木槿(fa1689)は、
「わうっ♪」
 嬉しそうになりきった小紅いぬに着ぐるみの耳を噛み付かれ、
「きゃいんきゃいん!」
 演技に没頭する時の癖で、恥も外聞も忘れて、こちらも犬になりきって、小紅を追いかけて遊びだす。
 びりびりびり(カーテン破いた音)。
 がったーん(ソファを倒した音)。
 まさしく部屋の中は大荒れ警報状態。
 そんな中、「気象レポーターの練習にぴったり〜」と、レポート実践練習を始めるベス(fa0877)。 
「えー、今、わたくしは、合宿所に来ています。ここでは‥‥もふっ! ぴょえ〜」
 犬になりきり中の木槿がくわえて放り投げたクッションが顔面に当たり、後ろ向きにひっくり返る。その上に誰かの蹴飛ばした本棚が倒れてきたり。
「大丈夫ですかっ? ちょっと皆さん、いくらなりきり練習でも加減しましょうっ! けが人が出ますよ!」
 一人冷静な辰巳空が介抱と後始末に走り回る。
 ‥‥体力をつかいはたした一同は、その夜、髪はボサボサ服装ボロボロ、「それでも芸能人か」とツッコミ入りそうな惨状での雑魚寝状態となった。
「女性観が変わりそうな気がしてきました‥‥」
 一人呟く辰巳空。可愛い女優さん達と合宿というのでなにやらときめいていたようだが、そんな煩悩もあまりの彼女達のはじけっぷりに、吹っ飛んでしまったのだろう。
 そんな彼は、翌日も一人早朝からランニングに出ていた。まるで孤独に浸りきりたいかのように。だが、
「ひぃぃ辰巳先生! み、見逃してください〜!」
 ひそかに煙草を吸う場所を探して、庭をうろついていた月影 愛(fa2814)と遭遇。
「駄目です!」
 愛は煙草と携帯灰皿を没収され、それがないと干からびるから返してくださいと哀願していたが、聞き入れられなかったようだ。
「お・ね・が・い‥‥先生〜ん‥‥」
 瞳を潤ませて意味なく体をくねらせ、最大の武器たるロリ系のお色気発動である。しかし。昨夜の惨状を目撃したばかりの空には通用しなかった。
 さて、翌日。
 この日はそれぞれ、本棚にある練習プログラムの巻物から自分にあったものを探し出し、各自で挑戦することになった。そんな中、
「俺、この『ゲイバーのママさんなりきり』に挑戦します!」
 と玖條 響(fa1276)が宣言。
「え”っ」
 と固まった周囲だが、 
「女性の気持ちをつかみたいと思ってたんです。なぜか最近恋愛ドラマとかの仕事多いんですけど、いまひとつつかめなくって‥‥」
 真剣に語る響に‥‥だからってなぜゲイバーのママさん? という気もするが‥‥女性陣も共感を覚えたのかマスカラの使い方を教えたりと、協力を申し出た。
「意外と楽しいですね。自分が変わっていくのって」
と、響は嬉しそうに口紅をぬりぬりしつつ、
(「里穂さんが見たら、泣くかな」)
 ふと思う。以前舞台でキスシーンを演じた相手役の少女が、現在闘病中で、枕元に置いた響の写真を心の支えに治療と病の痛みに耐えている、と便りをよこしたのを思い出して。
 一方。菜月が発見したのは、「パイ投げ」という謎な練習プログラム。
「判断力と瞬発力がつくそうですからぁ〜、アドリブには絶対必要だと思いますぅ〜」
 と、愛用のタロット片手に提案する菜月に説得された一同は、冷凍庫にクリームパイを発見し、早速チンして解凍。そして戦争が始まった。
「もうやけだぁ〜! 行くぞ、愛の千本ノックぅ!」
 無理やり禁煙状態でストレスてんこ盛りらしい愛が、(なぜか)持参の体操着ぶるまー姿で飛んでくるパイをテニスラケットで打ち返しまくる。
 そんな中、部屋の中央では「木になりきってます。話しかけないで下さい」首から札を下げた木槿がぽつねんと腕をひろげて立ち尽くしている。もちろん彼女も全身パイまみれ。
 だが、まさしく木になりきり、無我の境地に達すべく木槿は微動だにしない。
 見たか、女優魂。
 長台詞を暗記する練習プログラムに挑戦中のシヴェルの頭上をパイが飛びかう。
「む‥‥難しいものだな」
 辰巳空はといえば、無念無想といった表情で飛んでくるパイをかわしつつ、「あめんぼあかいなあいうえおー」となぜか発声練習。
 総合的に見て、一種異様な光景であるが‥‥
「お腹すいたー」
 パイのにおいに触発されてか、一人がそんなことを言い出した。だが、合宿所の冷蔵庫に詰め込まれているのは、納豆がほとんど。冷凍されている肉類や野菜のストックもあるが、すぐには食べられないし、料理するエネルギーも残っていない。
「ぴょえ〜、あたし納豆食べられないよぉ〜」
 ベスが半泣きになってしまう。
「タクシー呼んで買出し行こうか?」
 と冷蔵庫の前でわいわい相談になる。響に買出しの相談をしにいった小紅は、響がソファにもたれて、化粧のまま眠る姿を発見した。
「あっれー響君、お化粧のまんま寝ちゃってる」
 と、むくりと響が体を起こした。そして一喝。
「納豆が駄目なんてだらしないわねっ。女優たるもの、肌にいいものはなんなりと食するべきよっ」
「ど、どうしたの響君」
 演技練習の続きにしては、女声に女言葉が板につきすぎている。
「ふふん、違うわよ。あたしの声がわからないとは、あなた達まだまだ駆け出しね?」
 唖然とする一同に、響‥‥に取り憑いた霊が、自分こそがこの合宿所の元の主であり、往年の名女優であると名乗った。霊感はないといっていた響だが、女性を演じたいと願う心が強かったため、女優の霊と感応してしまったのだろうか。
「いいこと、演技も大事だけれど、女優は『女が優れる』と書くの。精々肌も磨くのよ。それにはまず食事が大事よ」
 化粧を落とし、ピンクのフリルつきエプロンを絞め、内股気味の歩き方ではあるが、てきぱきと女優・響が料理していく。たちまち、テーブルにあふれんばかりの料理が並べられた。彩りも美しく、味付けも甘辛酸と、バランスよくそろっているのが味わううちに一同にもよくわかった。
「貴女っ。煙草吸うでしょ。ビタミン不足、お肌に出てるわよ。おひたし残さず食べなさいっ」
 女優・響はびしぃっ! と愛に指を突きつける。
「そこの貴方っ。肌の手入れしてんの? 日焼けしほーだいじゃないの! 鍛えてるだけあって立ち姿は綺麗だから、着付けの勉強でもしなさいっ」
 決め付けられて、シヴェルが目を白黒させる。
 エプロン姿の響が女言葉で女優陣にびしびしと美容指導をしてゆく姿は、何かに似ている。そう、年季が入ったゲイバーのマ‥‥げふんげふん。
「あの‥‥この中華炒め、残してもいいですか」
 苦手な鶏肉とセロリのいため合わせを発見した菜月が遠慮がちにいうが、女優・響の無言の視線に合い、
「くぅっ‥‥初めて、無言の威圧感争いに負けた‥‥」
 涙しつつ菜月は炒め物をかみ締めた。
「いい? あたしの言ったこと、忘れるんじゃないわよ」
 言い置いて、女優・響がことんと気を失う。そして入れ替わりに、
 あーよく寝た、と持ち前のさわやか笑顔に戻った響がのびをしつつ起き上がった。 
「すっごいなあ。誰が作ったんですか、今日の晩飯?」
 健全な男子そのものの食べっぷりで平らげていく響のそんな質問に、答える人はいなかった。響はまだ、周囲の‥‥特に女性陣の生あったかい視線に気づいていないようだ。
 「また一つ、忘れたい記憶が増えました‥‥」
 ひとり星空を見上げて呟く辰巳空。そういうものさ、男の人生って(何)。