サイレント・ラブアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/29〜05/03

●本文

 TOMI TVがお送りする青春特撮ドラマ「サイレントラブ」では、ただいまキャストを募集中です。
 「サイレント〜」は、家族にも恵まれず、友達もない。ただひとつ心弾む時間は音楽室のピアノを弾いて歌うときだけ。という孤独な少女を、ピアノに取り憑いた幽霊の青年が励ます‥‥という、青春ストーリーです。
 だけど、幽霊の青年の姿は少女には見えず、声も聞こえない。
 できるのは、ピアノを鳴らすことだけ。
 彼の心は、少女に伝わるのでしょうか‥‥
 そんな切ないストーリーに、あなたも出演してみませんか?

☆「サイレント・ラブ」ストーリー☆
 
 高校生の少女・宮崎紫苑(みやざき・しおん)。
 彼女は孤独だった。父親と別居中の母親は離婚の準備と仕事でほとんど一緒にいる時間がない。内気なため友達もいない。
 どころかいじめられ気味で、たった一人での音楽室の掃除を押し付けられる始末。
 だが、紫苑は、音楽室の掃除をするうち、誰もいない音楽室で、ピアノを弾きながら歌うひとときが何よりも心安らぐ時間となっていた。
 次の学園祭の舞台で、思い切り歌えたら‥‥。
 そんな夢に浸る紫苑。
 実際には、気が弱すぎて人前では声を出すのがやっとなのだが‥‥。
 
 だが、そんな紫苑を見守る者が一人いた。
 音楽室に置かれた古ぼけたピアノ。
 そのピアノには、元々のピアノの持ち主であり、才能を持ちながら若くして死んだピアニスト、「風見圭」の幽霊が取り憑いていた。
 その圭の幽霊が、時折ピアノを叩いて歌う紫苑にひそかに恋をしていたのだ。
 なんとか紫苑を応援したい圭だが、幽霊である彼には、直接生きている人間に触れたり、言葉をかけることはできない。
 唯一できるのは、取り憑いているピアノを鳴らすこと。
 ある日、圭は、歌いながら一人ぼっちの寂しさに涙をこぼす紫苑を慰めるため、ピアノを奏でた。
 ミ・ファ・ミ・ド・ソ‥‥
『元気を出して‥‥君の声はとても美しいのだから』
「きゃっ!?」
 勝手に鳴るピアノに最初は驚く紫苑。だが、ピアノの奏でる優しい音色に次第に心打たれ、いつしかピアノの旋律にあわせて歌っていた。
 以来、紫苑は「勝手に鳴るピアノ」を心の友とし、ひそかに放課後の歌のレッスンを始めるのだが‥‥。

 
☆募集キャスト☆
 ●宮崎紫苑‥‥歌手を夢見る内気な少女(外見年齢17歳前後)
 ●風見圭‥‥音楽室のピアノに取り憑いている幽霊の青年。生きている人間には姿は見えず、声は聞こえない。ピアノを鳴らし、その音色で紫苑と心を通わせる。

※上記二名以外のキャストは確定しておりません。紫苑の同級生や先生など、自由に考案の上、ご応募下さい。

☆補足事項☆
●「風見圭」役はピアノの音のみの出演ではありません。ちゃんと他の役者と共演し台詞もありますが、「姿は見えず、聞こえない」ものとして他の役者が演技するだけです。ご注意ください。
●劇中の歌は全てオリジナルのものにして下さい。
●ドラマ上での獣化・半獣化はNGです。

●今回の参加者

 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa2174 縞榮(34歳・♂・リス)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa3386 硯 円(15歳・♀・猫)
 fa3461 美日郷 司(27歳・♂・蝙蝠)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa3593 鵺雲 凉花(19歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

 とある音楽学校の、夕暮れの音楽室。
 宮崎紫苑(=ベス(fa0877))は一人で、掃除当番を務めていた。
 当番の一人で、クラスの女王様的存在の桐生 彩(=鵺雲 凉花(fa3593))が、紫苑をつかまえて、こう言い渡したせいだ。
「そこの貴方、暇よねぇ? 私の代わりに音楽室の掃除しておいて。あ、他の子達ももう帰ってしまったから貴方一人ですけど」
「あ‥‥あの‥‥」
 当然、気の弱い紫苑は何も言えない。彩は、目立つ容姿の上、校内で人気のある音楽史担当の教師・桐生蓮(=蘇芳蒼緋(fa2044))の妹という羨ましい存在。逆に紫苑は大人しく、個性の強い生徒の多い音楽学校の中では紫苑は取り残され気味だ。母と父も離婚争議中で、そんな紫苑の悩みを聞くどころではない。
 広い音楽室を掃除しながら、紫苑は自分を励ますように、小さく歌を口ずさみ始めた。 そんな紫苑を、「彼」は優しく見守っていた。
 (「きれいな声だね。人前で歌えばいいのに。うん、その高音部のところはもう少し喉を開いて‥‥」)
 だが、「彼」の姿は紫苑には見えない。励ます声も聞こえない。「彼」は幽霊だから。
 この音楽学校の卒業生でもあり、才能ある音楽家だったが、若くしてこの世を去った風見圭(=豊城 胡都(fa2778))である。音楽への情熱が心残りとなり、ピアノに取り憑く霊となっていたのだった。
 もどかしくなった圭は、ピアノのキーを叩いた。ピアノに取り憑く幽霊となった今の圭ができるのは、ただピアノを鳴らすことだけだから。
「ミ・ファ・ソ‥‥」
「ぴょえ!?」
 勝手に鳴ったピアノに、驚いて紫苑は縮み上がった。
 だが、ピアノは優しい旋律を繰り返す。合わせて歌ってご覧、と言うように。
(「ピアノさん‥‥あたしを励ましてくれてる?」)
 紫苑は、ためらいがちに歌い始めた。
 ピアノは、優しく伴奏をする。紫苑の元気が出てくるにつれ、テンポの速い元気な曲を、疲れてくると、優しくスローな曲を。
 伴奏に合わせて歌ううち、紫苑にとって、すっかりピアノ(実は圭の幽霊なのだが)は、大切な友達のように思えていた。
 楽しい練習を終えるのが惜しい気さえして、紫苑が帰り支度をしたのは、とっぷりと日が落ちてからだった。
「ねえ、ピアノさん。また、放課後、一緒に歌の練習してくれる?」
 そっとピアノを撫でながら紫苑がたずねると、ピアノは、優しい和音でそれに応えた。
「おや、君一人? こんな遅くまで何してたの? もしかして学園祭のコンテストの準備かな?」
 暗くなった廊下を一人歩く紫苑を見咎め、器楽担当の教師・谷岡栄二(=縞榮(fa2174))が声をかける。紫苑が真っ赤になった。
「ぴ!? ち、違いますっ!」
 この学校の学園祭は、音楽学校ということもあり、音楽中心だ。しかも、歌部門・器楽部門・作曲部門と専門に分かれてトップを競うコンテスト形式となっており、芸能界のスカウトマンもこっそり見に来ているという噂さえあるレベルの高いものだ。
「そう? でも、学生時代は短いんだから、何かやりたい気持ちがあるなら君の思うとおりにすればいいと思う‥‥心残りだけはないようにね」
 温厚な谷岡はそう言って、紫苑を見送った。
 谷岡の言葉が、心に残っていた紫苑は、翌日も放課後一人音楽室に残り、歌った後、ピアノに語りかけた。
「ねえ、ピアノさん‥‥私、学園祭で歌いたい‥‥でもやっぱり無理だよね」
(「どうして? 君の歌声は誰よりも綺麗‥‥君なら大丈夫、きっと出来るよ。頑張って」)
 圭は元気を出させようと、流れるような旋律を弾いてみせる。今まで紫苑が聴いたことも無い曲。その旋律がそのまま、紫苑の想いにリンクしているようで、紫苑は、いつしかその旋律に歌詞をのせて歌っていた。
「私は籠の鳥 ただ空を見上げては
 うつむくだけの毎日
 あなたはそよぐ風 私に教えてくれた
『君は飛べるんだよ』って
 心の籠を飛び出して
 背中の羽根を広げ 見上げた空へ
 舞い上がるわ RIDE ON WIND!」
 別人のように生き生きとした紫苑がそこにいた。だが、歌い終えた時、ふいに拍手の音が響いた。
「いいね、今の曲。もしかして貴女のオリジナル?」
 と笑いかける彼女は上級生だが、紫苑でも知っている学内の有名人である。生徒会長を務める氷上 水蓮(=硯 円(fa3386))だ。あどけない外見に似ず気さくで面倒見がよいので知られていて、絶対音感があり、玄人はだしのフルート奏者でもある。
「え‥‥あのう‥‥」
 紫苑は赤面してしまう。だが、紫苑の透明でよく通る歌声に感銘を受けた水蓮は、自分が出場することになっていたコンテストの出場枠を辞退し、谷岡ら教師に紫苑を代わりに推薦して欲しいと働きかけた。ご丁寧にも、人前だとすくんでしまう紫苑のため、彼女の歌をCDに録音して教師達に聞かせさえして。
 お陰で推薦が決まり、気弱な紫苑がコンテストに出場するという噂が、学内に広まる。
 紫苑をいじめていたクラスの女子達は、「あの子、生意気」と騒ぎ、紫苑に対するクラスの風当たりは、一段と強くなった。だが、意外にも、いじめの中心だった彩は、逆にそんな紫苑に同情を寄せ始めていた。
 彩は、ある日の放課後学校に忘れ物を取りに戻り、音楽室で一人で(ピアノが勝手に鳴っているとは彩は気づかなかった)歌う紫苑の歌を聞いた。その歌声に心打たれ、ひそかに紫苑を見直していたのだ。紫苑を励ましたくて、彩は兄の蓮に相談を持ちかけた。
「ん? どうした彩?」
 授業ではけして公私混同せず、妹を「桐生」と苗字で呼ぶ蓮だが、プライベートでは甘い兄だ。彩のたっての希望で、蓮はある日の放課後紫苑を呼び出して、彩と引き合わせた。
「彩‥‥いや、桐生が今まで色々つらく当たってたみたいだな。気づいてやれなくて本当に済まなかった。それで、桐生の方から、仲直りのしるしに学園祭のコンテストで伴奏をしたいと言っているんだが‥‥手伝わせてはくれないか?」
 頬を紅くして兄の背後から顔だけ出しつつ、勝気に彩は宣言する。
「貴女の歌声が気に入ったの。私が伴奏するからには、優勝しなきゃ許さないからね」
「ありがとう‥‥私、精一杯やってみるね」
 その日から彩は、紫苑の初めての友達となった。
 それから紫苑は、彩と二人で放課後、音楽室で練習をした。圭は、紫苑が一人でいるときでなければピアノを鳴らさなかった。自分のせいで紫苑が奇異な目で見られたりしては気の毒という圭の配慮だった。紫苑は、彩が先に帰ってから、こっそり音楽室に戻り、ピアノと共にさらに練習した。ピアノはいつも優しく、応えてくれた。
(「いい友達が出来たんだね‥‥よかった。君なら大丈夫、きっと出来るよ。頑張って」)
 だが、圭の存在に気づく者が、もう一人いた。 作曲科の教師である志方 明良(=美日郷 司(fa3461))だ。
「この音‥‥まさか」
 紫苑が遅くまで残って練習しているのを偶然耳にした志方は驚かずにいられなかった。
 紫苑の歌に伴奏しているピアノの音が、早世した親友の風見圭の弾く音そのままだったのである。
 かつて志方は、圭の音楽仲間であり、一緒にプロの作曲家となろうと励ましあった仲だった。人々に愛される曲を作ろうと。果たせずに圭は病死してしまい、ライバルでもあった友を亡くした志方は目標を見失い、平凡に教師として生きていた。音楽室には何かある。
 そう睨んだ志方は、紫苑たちが帰った後で、愛用のバイオリンを取り出し生前風見が好きだった曲を弾いてみた。
 バイオリンの音色に、やがてピアノが応える。二つの旋律がリボンのように柔らかく絡む。
「お前‥‥やはり風見か! そうか‥‥皆の前で、彼女がお前の曲を歌うんだな。それが、お前の夢なんだよな。わかった‥‥俺も協力するよ」 
 志方は姿無き友に誓った。
 学園祭当日。
「ぴ〜!? ど、どうしよう‥‥あんなに人が集まってる〜」
 膝をがくがくさせて、紫苑が幕の隙間から客席を覗く。
「大丈夫よ、なにせこの私がついているんですもの」
 彩がきっぱり言い切る。
 紫苑と彩の出番が来た。紫苑は心をこめて歌った。
「優勝は、『RIDE ON WIND』を歌った宮崎紫苑さん!」
 司会進行役の水蓮の声が高らかに響く。
 蓮が妹達のために特大の花束を二つ持って舞台に駆け上がり、拍手は最高潮に達した。
そして、「ピアノさんに報告しなくちゃ」‥‥彩と後で近くのファミレスで乾杯しようねと約束して一旦別れ、紫苑は音楽室に走る。
「ピアノさん、ありがとうございました!」
 ピアノは静かに奏で始めた。いつもの曲でなく、ショパンの「別れの曲」を。
「どうして‥‥? ピアノさん」
「君と奏でたメロディは全部が僕の宝物で‥‥僕からのプレゼント。今までありがとう。そして‥‥さよなら」
 優しい声が聞こえた気がして、紫苑は思わず振り向いた。後ろには、窓ガラスがある。そこに見るからに優しそうな細身の青年の姿が一瞬だけ映って‥‥消えた。
 同じ頃、志方は、屋上でバイオリンを弾いていた。
「夢が叶ってよかったな、風見。見続けていれば夢っていつか叶うんだな。俺も負けずに夢を追うことにするよ。俺の音じゃ、お前への祝いには役不足かもしれんが‥‥悪く思うなよ」
 胸のうちで語りかけながら。ひときわ優しい風が、その傍を通り抜けていった。