夢魔の香りアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/09〜05/13
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●本文
TOMI TVがお送りする大人のためのファンタジー系特撮ドラマ「夢魔の香り」では、ただいまキャストを募集中です。
夢魔と人間のハーフに生まれ、他人の夢を操る能力を持つ兄弟。しかしその性格は対照的‥‥なのに、同じ女性を愛してしまったとしたら?
そんな設定の下、愛と欲望をめぐる群像劇に貴方も出演してみませんか?
☆ストーリー☆
東城 陸人(とうじょう りくと)と、その弟である海人(かいと)は、夢魔と人間の間に生まれた兄弟。
しかし、夢魔としての能力を抑え、理知的に生きていこうとする陸人と、欲望のままに自由奔放に生きる海人は対照的な性格だった。
陸人には由良真理奈(ゆら まりな)という恋人がいた。
しかし真理奈には、陸人には打ち明けられない秘密があった。
毎夜、同じ男が夢に現れる。
それは真理奈に横恋慕して、夢魔としての能力を使い兄から奪おうとする海人だった。
真理奈は理性では陸人を愛しながら、本能的な「女」の部分では、陸人にはない奔放さを持つ海人に惹かれていく。
苦しむ真理奈は悩みを、姉であり、カウンセラーをしている霧子だけに打ち明ける。
霧子は妹の告白に、衝撃を受ける。
実は霧子にはかつて、同じような悩みを抱く患者がおり、その患者は自殺してしまったのだった。
それ以来、霧子は伝説上の存在である「夢魔」が実在するのではないかという疑いを抱いていた。
「もしも夢魔が存在するのだとしたら‥‥真理奈は、絶対に死なせないわ! いいえ、そんな汚らわしい奴らには、真理奈にこれ以上触れさせはしない!」
霧子は、妹を守るために夢魔との戦いを決意する。
カウンセラーとしての仕事を離れ、古文書をひもといたり、「超能力者」と呼ばれる人間たちに会いに行ったり。
周囲に奇異な目で見られても、霧子はひたすら夢魔の撃退方法を探す。
一方、陸人も海人のたくらみに気づき、二人は真理奈をめぐり対立し始めていた。
そして、兄弟どちらにも心惹かれながら、陸人への罪悪感やあまりにも奔放な海人への恐れにもつれ苦しむ真理奈。
果たして真理奈の選択は?
☆募集キャスト☆
●東城 陸人‥‥夢魔と人間とのハーフに生まれた若者。夢魔としての能力を抑え、人間として理性的に生きていこうとしている。
●東城 海人‥‥陸人の弟。自由奔放な性格で、夢魔としての能力を駆使して自分の欲望を叶えることもためらわない。
●由良 真理奈‥‥陸人の恋人。海人に夢を操られ、次第に海人に心惹かれて行く。
●由良 霧子‥‥真理奈の姉で、カウンセラー。夢魔の存在に気づき、撃退しようとする
※上記以外のキャストは確定しておりません。自由に考案の上、ご応募下さい。
●リプレイ本文
端整で知性を漂わせた東城陸人(=蘇芳蒼緋(fa2044)と清楚で静かな湖のように落ち着いた美を持つ由良真理奈(=オーレリア(fa2269))は共に通う大学のカフェで、まるで一幅の美しい絵のように寄り添っていた。まさに理想の恋人同士だった。ただ、ひとつの「秘密」を覗いては。
「うっ!」
陸人が突然、炎をつきつけられたように窓から顔を背けた。雲が晴れて、明るい日差しが差し込んでいる。陸人は日光を異常なほど嫌った。
「大丈夫? 奥の席に移りましょ」
日焼けしたがらない男性もこのごろ多いが、陸人の場合は少々極端な気がしなくも無い。
まるで吸血鬼みたい‥‥真理奈はふと浮かんだそんな不吉な連想を胸のうちで押さえつける。言えば陸人はきっと傷つくだろうから。
彼には何か秘密がある、そう時々感じる。でも‥‥真理奈は信じていた。いつかきっと、打ち明けてくれる。彼が私を思ってくれるなら。
「ねえ、陸人さん‥‥ううん、何でもないの」
真理奈は、確かめたい思いを飲み込んで、笑顔を見せた。
その夜。
「つッ‥‥」
日光に当たった部分の肌が、火傷状に腫れている。痛みに唇を噛む陸人を、美しい女性が介抱していた。
「陸人ったら、そんなに『人間』でいたいの?」
陸人の母親、東城エルサ(=エルヴィア(fa0095))が白鳥のように細い首を傾げる。母親でいて、陸人と同い年のように若々しいのは、彼女が人間ではないからだ。エルサの正体は夢魔。陸人は彼女と、人間の父親の間に生まれた人魔ハーフだった。夜の魔物は日光に弱い。夢魔の血が半分自分の体に流れていることを、陸人は恐れていた。
「夢魔の力を使えば、そんな無理をしなくても人の心なんか簡単に手に入るのに」
「俺は嫌だ。操られた心なんか欲しくない。少しずつ築き上げていきたいんだ。それが真実の心だと思う。だから母さんだって、父さんと結婚したんだろう?」
「馬鹿兄貴が。綺麗事で女が落とせるかよ」
様子を見ていた陸人の弟・東城海人(=宵夢真実(fa3141))は冷たく呟いた。
面白い悪戯を思いついたぜ−−そうほくそ笑みながら。
◆
真理奈は自室のベッドで横たわり、陸人に借りた詩集を読みながら、いつしか転寝をしていた。夢を見た。陸人が真理奈をしっかりと抱きしめる。いつもの陸人とは違う。いつもの彼は優しくてとても紳士的だ。どこか距離を置いたよそ行きの顔という気がして、そこが真理奈を不安にさせる。
だが今は違う。恥らって顔を背ける真理奈を強引に振り向かせ、唇を奪った。
「誰っ!?」
真理奈は愕然とした。陸人にどこか似ているけれど、違う。陸人に負けず劣らず端整な面差しだが、眼が冷たい。そういえば、陸人には二卵性双生児の弟がいるといっていた。
「ふふ、キスは陸人よりも巧いだろ?」
いやっ! ーー一声叫んで、真理奈は海人の顔を思い切り引っかいていた。そして目覚めた。自分の部屋に一人でいる。だが爪に血がついていた。真理奈は恐怖に目を見張り、その血を見つめた。
「フン。兄貴の女だけあって−−堕とし甲斐がありそうだ」
傷ついた唇を舐めて、海人はほくそ笑む。
◆
数日後。見る間にやつれ始めた真理奈を、陸人は心配していた。
「最近元気ないみたいだな。何か悩み事でもあるのか?」
「ううん、なんでもない」
強いて陸人には笑顔を見せる真理奈だが、帰宅後、心理カウンセラーをしている姉の由良霧子(=辻 操(fa2564))に打ち明けた。
「‥‥姉さん、助けて‥‥眠るのが怖い。私の心が、私から離れていく。このままだと、いつか彼を傷つけてしまう」
「どういうことなの?」
霧子は涙を浮かべる妹から辛抱強く聞き出した。最近連続して毎夜夢に陸人とは違う男が出てくること。真理奈は反発するが、次第に陸人よりも強引なその男に、惹かれ始めていた。
(「‥‥まさか」)
霧子は愕然とした。以前霧子の患者で、同じように夢と現実の恋人の板ばさみになり、自殺した娘がいた。まるで夢魔に憑かれたかのように。いや、夢魔は本当に存在するのではないか、その事件以後霧子は疑っていた。もしそうなら‥‥
霧子は同僚の冴木徹(=星野・巽(fa1359))に相談した。自殺した患者は徹の妹だった。徹は妹の自殺以来、夢魔の実在を主張し、同僚からは変わり者扱いされている。
「夢魔に対抗する方法‥‥今更僕にそんなことを聞くんですか?」
徹は形のいい唇を皮肉に歪めた。夢魔の存在を受け入れず妹を救えなかった霧子に、多分に反発心を抱いている。
だがあくまで誠実に教えを請う霧子に、冴木は悪夢を祓う力を持つという占い師・夜雨(=月 美鈴(fa3366))を引き合わせた。
「あら、お久しぶりですね。そちらの方は?」
夜雨は冴木の妹が夢魔に取り憑かれた際、夢祓いを依頼されて面識があった。
霧子の話を聞くと、夜雨は夢を操られた人間が夢魔と本当に愛しあっていた場合、失敗することもあると説明した。冴木の妹の場合もそうだったと。
「馬鹿なっ! 魔物に本当の愛なんてあるはず無い」
冴木が色白の頬を紅潮させる。
「そうですか? 世の中、常識通りに行かないことだってあるんですよ」
夜雨は黒いベールの下で慈母のように微笑し、護符を書き上げる。
「これだと、一時的に夢への侵入を遮断する効き目しかありませんけれど‥‥」
「その護符には、もうひとつ足りないものがありますわ」
いつのまにか、マイセン人形を思わせる銀髪の美しい女性が霧子の目の前に立っていた。スタッフルームには、セキュリティがかかっているはずなのに‥‥と霧子が思う暇もなく、女性は護符に書き足すべき古代文字を口にした。
「一体、貴女は‥‥」
「私? 東城エルサと申します。差し出がましくてごめんなさいね。でも、純粋すぎる陸人も、悪戯な海人も、私にとっては愛しい息子ですの」
優雅に一礼すると、エルサは部屋の隅にある大きな姿見の鏡の中にすぅっと溶け込んで姿を消した。普段は冷静な霧子も、切れ長の瞳を見開き、立ち尽くすばかりだった。
一方。陸人の元を、夢魔のノイン(=風祭 美城夜(fa3567))が訪れていた。夢の世界と現実を行き来する彼は、海人の「悪戯」に気づき陸人に忠告に訪れたのだった。
「でも陸人。もとはといえば真理奈ちゃんはお前にもっと愛されたくて苦しんでる。一歩踏み出してあげないとさ。俺が言うことじゃないけどさ、一番大事なのは真理奈ちゃんの気持ちでしょ」
陸人を励ますノインの瞳はどこか寂しい。かつてノインは人間の娘を本気で愛したが、娘はノインと人間の恋人との間で揺れる心を「淫乱」と人間の恋人に責められ、自殺した。
冴木徹というその娘の兄は、あくまで夢魔のノインに魅入られたせいと信じ、憎み続けている。ノインは迷っている陸人を残し、そっとその場を去った。そしてその夜。陸人は夢魔の力を解放していた。
真理奈の夢に侵入して、同じく真理奈の夢に入り操っている海人と対決すべく。
「海人‥‥お前が原因だったとはな」
陸人の声は暗く沈んでいた。海人は真理奈の手を掴み、夢の世界の最奥層へと誘っていこうとする。と、夜雨が立ちふさがる。夢の世界に侵入した夜雨は護符をかざした。
「夢幻の門よ、夢魂の巫女の名の元に、今魔性の者たちより閉ざし給え!」
まばゆい程の光が護符から溢れ、陸人と海人が夢の世界から弾き飛ばされそうになる。
「待って!!」
真理奈が手を差し伸べ、しっかりと掴んだ。暖かい手、長い指‥‥陸人の手だ。
「真理奈っ、どうして‥‥!」
海人の瞳が傷つけられた怒りをこめて真理奈を射抜く。
「今分かったの‥‥私は貴方の中に、陸人さんを探してる。私を傷つけていいのは、陸人さんだけ。貴方じゃない・・・・・・愛しているのは」
陸人もしっかりと真理奈の華奢な手を握り返す。
「ごめん、真理奈‥‥俺がためらってばかりいたから苦しませて‥‥でも、それって、真理奈の存在が俺の中で大きすぎて、もし真理奈に嫌われたらって、それが怖かっただけなんだ。今なら何百回でも言うよ‥‥愛してる、愛してる、愛してる」
海人は弾き飛ばされ――自宅のベッドの上で意識を取り戻した。
「可愛そうに、選ばれなかったのね。これに懲りて悪戯はよして、お父様と私のようなすばらしい出会いを探すのね」
エルサが海人の顔を覗き込み、嫣然と微笑んだ。
「ヘッ、人間って奴は綺麗ごとが好きだからな。ま、とりあえず兄貴が綺麗事だけで何処までやれるか、見せてもらうけどな」
海人は窓の方に顔を背けながら、甘いマスクの片頬を歪めて苦く笑った。兄へのあてつけのはずが、真理奈への思いは日毎に育っていた。らしくないぜ、海人はガラスに映る自分をあざ笑った。夜の闇色が、窓の外に広がっている。
後日――
「その後どうですか、妹さんは」
冴木徹は、今までよりも一層生き生きと仕事に打ち込む霧子に聞いた。霧子はいかにも意志の強そうなハッキリした美貌に、驚くほど優しい表情を浮かべて言った。
「ええ、おかげさまでとても幸せそうよ。冴木君のお陰ね、改めてお礼を言うわ‥‥あら熱でもあるの? 顔が赤いわ」
「いえその‥‥妹さんの無事のお祝いと、僕は今まで貴女を誤解して、とても失礼な言動を‥‥お詫びを兼ねて、映画でもと‥‥」
不器用に白衣のポケットをかきまわし、冴木は映画のチケットを二枚取り出した。