ナルキッソスの鏡アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/10〜06/14
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●本文
TOMI TVがお送りする青春特撮ドラマ「ナルキッソスの鏡」では、ただいまキャストを募集中です。
「ナルキッソス〜」は、一人の若者が魔力を秘めた鏡を偶然手に入れる。その鏡は、不幸な運命を受け入れてひっそりと生きていた青年の心の闇を呼び覚ます。その心の闇が、彼の周囲へと思わぬ波紋を広げていく‥‥というドラマです。
そんな愛憎に満ちたストーリーに、あなたも出演してみませんか?
☆ストーリー☆
月島和臣(つきしま・かずおみ)は、表向きは大企業社長の次男として大邸宅で暮らしている。だが実際は、父親の女遊びの結果生まれた庶子として、異母兄弟や義理の両親達に下働き同然にこき使われる日々。
だが和臣はそんな暮らしの中でも優しさを失わず、亡き母の遺言に従っていつかは両親や兄弟が自分を受け入れてくれると信じ、生きていた。
義理の姉である月島七瀬(つきしま・ななせ)に運転手としてあごで使われる和臣はある日、七瀬の付き添いで行ったアンティークショップで不思議な鏡を手に入れる。 店主である黒羽零(くろは・れい)が不思議な微笑とともに、「あなたはこの鏡に持ち主として選ばれた」と告げたのだった。
「ナルキッソスの鏡」と呼ばれるそれは、和臣の思わぬ姿を映し出す。それは恨みにみち、月島家への復讐を企てる自分の姿だった。
「コレガ本当ノオ前ダ。欲望ヲ叶エロ」
鏡のささやきに心を揺さぶられ、いつしか月島家の面々への復讐と、のっとりを企む和臣。
月島邸の家事手伝いをする天原花音(あまはら・かのん)は優しい和臣に惹かれかけていたせいもあって、最初に和臣の異変に気づく。
「和臣さん‥‥どうしたの?」
巫女の末裔である花音には、不思議な能力があるらしい。だが日毎に冷酷なまでに変貌し、持ち前の頭脳を駆使して月島家を追い詰めてゆく和臣を、彼女は食い止められるのか‥‥
☆募集キャスト☆
●月島和臣‥‥頭脳明晰だが控えめで純粋な心を持つ青年。だが「ナルキッソスの鏡」を手に入れて、思わぬ自分の心の闇に気づく。
●月島七瀬‥‥和臣の義理の姉。派手好きでわがままな美人。和臣の優しさに乗じて、いいたい放題の言動が多い。
●天原花音‥‥月島邸の家事手伝いをする若い女性。今は天涯孤独で貧しいが、名のある神社の巫女の末裔らしい
●黒羽零‥‥アンティークショップの店主。経歴・家族構成等全ては謎に包まれている。
※上記以外のキャストは確定しておりません。和臣の友人、月島家の他の兄弟など、自由に考案の上ご応募下さい。
※和臣役は「本来の和臣」と鏡に映る「和臣の心の闇の部分」の演じ分けが必要となります。また、演技力の見せ所にもなると思います。楽しんで演じていただければ幸いです。
※成長傾向‥‥芝居、容姿、演出
●リプレイ本文
店のドアベルがちりん‥‥と鳴り、若い女性と青年を迎え入れた。
「いらっしゃりませ。‥‥ご店主様、お客様にござりまする」
蝶を散らした緋色の着物の袂を翻し、少女が奥へ走ってゆく。
「店主の黒羽零(=神楽坂 紫翠(fa1420))にございます」
ゆったりとお辞儀をするその人物は、ガラスの工芸品めいた繊細な面差しをしていた。
「揚羽(=小塚さえ(fa1715))、お客様にお茶を。それから紬(=大海 結(fa0074))‥‥あの二段目の箱をお持ちしなさい。重いから気をつけて」
若い女性客‥‥月島七瀬(=ブリッツ・アスカ(fa2321))は、「紬」と呼ばれた少年が差し出す商品を見て、一瞬眼を見張った。
「素敵ね、いただくわ。‥‥いえ待って。カップは一つでいいわ。あの家に、お茶の相手をして欲しい相手なんていないもの」
高飛車な口調に、ちらと寂しさが滲む。
揚羽と紬は顔を見合わせて小首をかしげ、一人分の茶器を綺麗に包んだ。
「呼ばれていますよ」
零の言葉に、眼鏡の似合う端整な面差しが怪訝な表情を浮かべて振り向く。
店主は世にも優しげな微笑とともに、装飾を施された古い鏡を差し出す。
「この鏡、『ナルキッソスの鏡』と呼ばれる逸品です。この鏡が、どうやら貴方を新しい主と定めたようですね」
「え? でも‥‥」
「御代は結構。なにしろ貴方は、この気難しい品に選ばれた幸運なお方なのですから」
眼鏡の青年‥‥月島和臣(=志羽・武流(fa0669))は
「何をしているの!? 私にこんな重いものを持たせる気!?」
七瀬の呼び声で我に返り、店を出て車の運転をしに向かった。
「あのお客きっと『ナルキッソスの鏡』の虜となりましょう。我は欲望に呑まれると思います。人とは本来弱いもの。己の欲望に気がついて呑み込まれずにいられましょうや?」
揚羽が愛らしい唇から恐ろしい言葉を紡ぐ。楽しげに。
「違うね、あの人、なかなか強運の持ち主らしいよ。二色の光に守られてるもの、一つはお母さんの魂、もう一つは‥‥」
「ならば賭けましょうか?」
「賭けですか、程ほどになさい。確かに人間の運命は面白い玩具ですがね‥‥」
黒羽零はうっとりと微笑する。
「またお遊びに金をつぎ込んだか」
帰宅した七瀬と和臣を、和臣の異母兄弟であり、七瀬の夫である貴臣(=風祭 美城夜(fa3567))のそんな声が迎えた。その傍らで、和臣と貴臣の父であり、大手アパレル会社の社長である政臣(=水沢 鷹弘(fa3831))が苦い表情を見せる。
「あら、出歩くなっていいたいの? 出世の道具としての役には十分立っているわ」
「義兄さん‥‥義姉さん。お互い疲れているんでしょう。もう休んだらどうですか」
和臣が気遣わしげに口を挟む。
「這い蹲って生きるのも、一つの才能と言う訳か。俺には到底真似できないがな」
貴臣の皮肉を背に和臣は部屋に戻った。ベッドに先ほどの鏡を置く。部屋がノックされ、お仕着せのメイド服を着こなした天原花音(=楊・玲花(fa0642))が、香りのいい紅茶を運んできた。
「お疲れ様ですね。七瀬さまのわがままにも、困ったものですわ」
料理の腕前を買われて月島家の家事手伝いをしている花音は、元は由緒ある神社の娘だったという。きりっとした美貌が時折神秘的に映るのはそのせいかもしれない。
「気にしないで下さい。義兄さんが忙しいから義姉さんも寂しいんですよ。新婚なのに気の毒です。それに‥‥」
花音の優しさが全てを癒してくれるのだから‥‥と言えば気障になりすぎる気がして和臣は口ごもる。
「花音! 着替えを手伝って頂戴」
「あ‥‥はーい!」
花音は去ってゆく。
一人になった和臣は、ふと思い出し、鏡の包みを開いた。‥‥そのとき。
鏡の中の自分が、見たこともない他人に見えた。いや、顔かたちや服装は変わらないものの、表情がまるで違う。目が灼けつくような憎悪の色を浮かべている。
「俺ノ顔ガドウカシタカ? コレガ本当ノオ前サ。本当ハ、奴ラガ憎イダロウ?」
鏡の中の「自分」が言った。
「でも母さんは誰も恨むなと俺に遺言を‥‥」
これは悪夢なのか。引きずり込まれるように和臣は応えていた。
「欲望ヲ叶エロ!!」
数日後。海外工場に任せていた新商品用の素材が災害により出荷されず、政臣の会社は生産システムに大幅な狂いを生じた。貴臣と政臣は代わりの素材探しに奔走したが、やり手とはいえ今まで順調に来すぎた二人には、危機管理の意識が欠けていた。そこへ和臣が思いがけぬ言葉を吐いた。別人のように冷徹な表情で。
「全て解決しますよ。俺に社長の座を譲ればね。代替商品を生産してくれる企業を見つけてあります。国内の小さな企業ですが、そこの社長が言ってくれましたよ。世間知らずの傲慢な今の社長よりも俺はずっと信頼できるとね」
この一件で社内に「異母兄弟とはいえ、和臣の才能を埋もれさせるのは惜しい。彼こそ次期社長にふさわしいのではないか」との声が高まった。プライドの高い貴臣はいたたまれず、辞職を考えた。だが、意外なことに七瀬が貴臣の心の支えとなった。
「お父様の跡を継ぐのが貴方の夢でしょ。だったらもう少し踏ん張ってみなさいな。いざとなれば私だってバリバリ働くわ。これでも、国会議員の娘よ?」
「すまない‥‥俺は君を今まで出世の道具みたいに扱ってきたのに。でも信じてくれ、初めて出会ったパーティの時からずっと君が好きだった。親父が強引に結婚話をまとめたから、政略結婚みたいな形になって君にはつらい思いをさせたね‥‥」
「本当? そういうことは、もっと早く言って頂戴。今まで本当に寂しかったんだから‥‥」
だが政臣が体の不調を訴えるようになり、和臣はほぼ社長としての実権を手中に収めた。
「本格的なリストラを決行しなくては。父の縁故やしがらみを一切排除して、俺だけの会社に変えていきますよ。フフフ‥‥」
和臣は家に帰ると、花音に書類の整理や雑用を命じた。以前のような笑顔を見せることは一切ない。
花音は冷酷なまでに言い放つ和臣に恐れを感じた。そして、彼女だけは知っていた。彼の部屋にある古風な鏡が、時折黒い靄のようなものを発し、和臣の体を包み込んでゆく。
(「何? あの和臣さんを覆う禍々しいものは? あれが彼を狂わせていると言うの?」)
花音は生まれ育った神社の縁を使って、寺社を回って文献を探した。幼い頃、父から話を聴いたことがある、人の心の闇を引き出す「魔鏡」の資料を。
夜。和臣は鏡に向かい、「邪魔者を排除する準備はできた」と告げていた。
「以前の優しかった和臣さんを返して! ‥‥闇の僕が生ぜし道具よ、無へ還りたまえ!」
母譲りの巫女服姿で、幣を手に花音は鏡へと近づいた。
「邪魔ダ!!」
「キャッ!?」
鏡の発した邪気が、花音を包む。はっと和臣が眼を見開く。
俺はどこを見ていたのだろう? 何よりも大切なのは‥‥花音。優しさをくれた人。
「花音さんを傷つけるな!」
元の和臣の声だ。花音は鏡に向かって叫んだ。
「あなたも和臣さんであることは解っています。誰だって後ろ暗い感情を持て余していることも。だから、あなたの存在を私は否定はしません。けれど本来の和臣さんを封じ込めて、あなたが我が物顔で振る舞うのを見過ごす事は出来ません。本来居るべき場所に疾く戻りなさい!」
花音が幣を振る。鏡にぴしりとヒビが走った。
「オノレ‥‥!」
鏡像の和臣の形相は凄まじいものとなっていた。だが、花音の言葉に、意を決した和臣は告げた。
「花音さんの言う通り、俺はお前を恐れない‥‥なぜならお前は俺の一部に過ぎないからだ!」
「何ィィィ!?」
和臣が手を広げた。その胸から白い光が放たれる。鏡の破片は全てその白い光に溶け込み、消えた。
「おかえりなさい‥‥和臣さん」
泣き笑いの顔で、花音が腕を差し伸べる。
「ごめん‥‥花音さん、俺の心にあんなに醜い部分が‥‥」
「もういいの‥‥何も言わないで。誰にだってあるわ、醜い闇が‥‥でも貴方は勝った。その誇りだけはいつまでも忘れないで‥‥」
もう言葉は必要ない。しっかりと和臣は、花音を抱きしめていたのだから‥‥
その後。和臣は正式に政臣の会社の次期社長として社員達に紹介された。ただし、当分は病を養いながら政臣が会長として経営に参加するので、共同経営のような形ではある。そして社のデザイン部門が別会社として独立することになり、貴臣はそこの社長に収まることになった。
元々センスに定評があり、デザインに専念できるのでその方が嬉しいと、貴臣が強く主張したのだった。和臣の隣には花音が、貴臣の隣には七瀬がいつも寄り添い、新社長達の支えとなっている。
「これで私も安心して引退出来るな。有り難う、私の息子達‥‥ははは、どうもまだこう言うのは慣れないな‥‥」
政臣がぎこちなく頭をかく。
「フン、安心し過ぎて老け込まないように、精々気をつけてくださいよ」
「義兄さん‥‥相変わらず口が悪いですね」
「ええ、まったく似たもの親子だわ」
と、見違えるほど女っぽくなった七瀬が冷やかす。
ひらひらと月島家の上を舞う、二匹の蝶‥‥
やがて蝶は戻る。黒羽零の店へ。
「今回は僕の勝ち、だね。揚羽、向こう一月、店の掃除をよろしくね」
蝶は化身を解き、紬と揚羽の姿に戻った。
「あの花音という娘、あれほどとは‥‥」
「揚羽、ふくれ面はおやめなさい。次の玩具‥‥いやもとい、次のお客ですよ」
ちりん。ドアベルが鳴り、新たな客がーー