イザベル〜最後の魔女〜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/25〜06/29
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●本文
◆舞台「イザベル〜最後の魔女〜」出演者募集のお知らせ
――お前は、村娘某の依頼を受け、「惚れ薬」を作り、その恋をまじないによって叶えたか。
「いいえ、私はあの娘に、ハーブの使い方を教えただけ。ある種の香草を用いれば、肌を磨き、吐息をかぐわしくさせ、髪に艶が出すことができます。私は彼女の美しさを引き出し恋の手助けをしたに過ぎませぬ」
――お前は、村人某を憎み、その家畜を病にかからせ、死に絶えさせたのではないか。
「いいえ、あの村人は私に懸想しておりました。私がはねつけたので、それを恨み、私が魔女だなどと噂を‥‥家畜につきましては、私が村人達に薦めた強い虫下しの薬草、それをあの男だけが私に対する恨みから用いず、むざむざと家畜を死なせただけのことにございます」
――お前は、村人某の死を予言し、のろいをかけたのではないか。
「いいえ、私はあの男がやたら塩辛い食べ物を好むことを知り、このままでは遠からず病にかかると忠告したのみにございます。多すぎる塩は体に毒となります。はからずも、その忠告の数日後、彼が病を得て、あの世へ旅立ちましたゆえ、不吉な予言という印象を与えたのみにございます」
〜〜〜〜
時は中世。
女性は子を産み育てる道具。男性に奉仕する存在。決して男性を上回る知恵や技量など備えていてはいけない。
それがその時代の掟だった。
だが、そんな偏見に真っ向から立ち向かう女性がいた。
賢く、思慮深く、そしてその豊富な薬草知識を持って男性に伍して働き、閉塞した村に新しい風を吹き込むその女性は、「イザベル」。
だが、何者かの密告により、町の教会から異端審問官が派遣され、イザベルはあらぬ嫌疑をかけられる。
妖術を操る「魔女」として。
人々の偏見や狂信的な異端審問官に、毅然と立ち向かい、理路整然と身の潔白を訴えるイザベル。
彼女を慕う村娘や、イザベルを恋する青年、そして古ぼけた偏見を棄てきれず、イザベルを魔女と信じこむ村人達の対立。
そして彼らの証言により、イザベルの魔女裁判は、思いがけない方向へと揺れ動いていく‥‥
☆募集キャスト☆
●イザベル‥‥理知的で聡明な女性。薬草に詳しく、医学的な心得もある
●異端審問官‥‥狂信的な信念をもつ人物
※上記二名以外のキャストは確定しておりませんので、「村人たち(村娘含む)」「村長」など、自由に考案の上、ご応募下さい。
※この舞台は「歴史的事実を基にしたフィクション」です。
●リプレイ本文
黒衣の女(=エルヴィア(fa0095))が現れ古風な椅子に掛け、その時代の吟遊詩人のようにリュートを時折かき鳴らし語る。
「後に中世と呼ばれるその時代。無知と言う名の暗闇が人々を支配していたわ」
イザベル(=月 美鈴(fa3366))を囲み、野原で花を摘むテレサ(=小塚さえ(fa1715))、ベアトリス(=ベス(fa0877))。
「イザベル、これで惚れ薬が作れるって本当?」
「ふふ‥‥惚れ薬ではないの。作れるのは‥‥綺麗になれる薬」
「本当に? どうして綺麗になれるの?」
「お茶にして飲めば体の中の悪いものを洗い流してくれるのよ」
「私も試してるの。肌が白くなるといいなと思って。ど‥‥どうかしら」
テレサが恥ずかしそうに両手でまるい頬を包み込む。
「テレサってば、あんた十分可愛いわよ。さっさとユニールに告白しちゃえばいいのに」
「言っちゃだめー!」
真っ赤になったテレサがベアトリスの口を押さえる。
「テレサっ! 何しとんねん。水汲みが終わったらまっすぐ帰って来るンやで! 次の仕事があるさかいな!」
テレサの義母マルタ(=青田ぱとす(fa0182))が怒鳴りつつ近づき、テレサの細い腕を掴む。
「あっ‥‥ご、ごめんなさいお義母さま‥‥あの‥‥見て、イザベルがお義母さまの肌荒れに効く草を教えてくれたの」
マルタはイザベルを一瞥し、テレサの手から薬草の束を払い落とす。
「何するの!?」
「はん、毎日怪しげな薬作っとるそんな女、信用できるかいな。けっ、妖術使いが」
マルタはベアトリスを巨体で押しのけ、テレサを引っ張って連れて行く。
自分にはおどおどして馴染まないテレサが、イザベルを慕い、彼女に習って薬草使いになりたいと口にするのが気に入らず、ひそかにイザベルは妖術使いだ、と言いふらす。嫉妬と憎しみの絡んだ複雑な感情をテレサに抱きつつ。
「薬草で病を治したやと? 得体の知れない知識を使い、テレサまで引き込まれて。余計な煙立てるだけに飽き足らず、ウチの可愛い娘まで取る言うンかい‥‥ああ、可愛い娘やとも。連れ子や言うたかて一人しかおらん子供や。愛するしかないやろが」
次第に孤立してゆくイザベルを、幼馴染のレジー(=風祭 美城夜(fa3567))が気づかう。
「イザベル、僕と結婚すればいい。そうすれば君のことを誰も魔女なんて呼ばなくなる」
「同情してくれているの?」
「そんなんじゃない。僕は本当に君のことを‥‥」
「悪いけれど私は誰とも結婚しないわ。薬草をもっと研究して、人々を癒す医師になる。この世の中にはそれが必要だわ」
村に馴染み、誠実な若者として人望もあるレジーには、当時の女性としての生き方の常識を超えたイザベルの思考が理解できない。
「本当に彼女は人間なんだろうか‥‥俺には彼女がわからない」
「恋に破れたレジーの嘆き。その言葉が独り歩きし、マルタの陰口と共に村人の間に浸透していったわ。イザベルは人間ではなく、魔女だと‥‥」
黒衣の語り部は人の愚かさを哀れむように物語る。
噂を聞きつけ、町の教会から、異端審問官シュヴァルツ(=影島 景(fa3848))が派遣されてきた。
マルタの家に滞在することになったシュヴァルツは若いが切れ者と評判だった。信仰やラテン語の知識に関してではなく、教会を富ませる手段に長けているという意味で。
尊大にお前は魔女かと尋ねるシュヴァルツに、イザベルは冷静に応じた。
「いいえ、私はただ両親から受け継いだ薬草の知識を深め、人々の役に‥‥」
「ふん、女が知恵をつけると碌なことがないのだ。貴様には魔女を見分けるとっておきの方法を試してやろう」
シュヴァルツはほくそ笑む。イザベルが薬草の謝礼にと人々から受け取った金品を、彼は既に調べ上げてあった。 「魔女」の財産は、審問官が役得とばかりに没収できるのだ。
「ちゃんと調べればきっとわかるわ‥‥イザベルは魔女なんかじゃないって」
マルタを恐れてただ成り行きを見守るしかないテレサ。そんなテレサを村の少年ユニール(=大海 結(fa0074))が慰める。
「テレサ、もうイザベルにかかわらない方がいいよ。大人達が皆言っているよ、あいつ魔女だって。‥‥そりゃ、焼き殺すなんて遣り過ぎじゃないかなって思うけれどさ‥‥だって、悪い人には見えないし、あの人の薬で助かったって話も聞くものね‥‥」
厳格な父親である村長に跡継ぎとして育てられたユニールもまた、イザベルに偏見を抱いていた。幼馴染として心惹かれあうテレサが彼女を慕っていることで、小さな疑念を抱いてもいたが。テレサが迷ううちに、審問官は村人達の目前で「魔女の証拠」を試して見せた。
「魔女は悪魔との契約のしるしの黒子があり、そこに刃を肌に突き刺しても出血しないという。‥‥そら! この女、黒子を突いても血が出ぬぞ!」
イザベルに受け入れてもらえぬ悔しさが憎しみに転じたレジーもまた敵に回った。
「彼女が夜中にこっそり外出する姿を見ました。悪魔の夜宴に出かけたに違いありません」
イザベルは、シュヴァルツのナイフが、刺せば刃先の引っ込む仕掛けであり、狙った相手に魔女の冤罪を着せるためだけの道具であると察したが、もう誰も彼女の言い分を聞かない。
「みんな病気を治してもらったこと、忘れたの!? そんなのおかしいよ!」
イザベルを助け出そうとしたベアトリスはマルタに穀物蔵に閉じ込められた。
「ベス‥‥大丈夫?」
テレサはベアトリスの愛称を呼び、そっと食べ物を差し入れる。
「うん、平気よ。ねえ、テレサ、あたしの代わりにイザベルを助けて。イザベルが魔女だなんて、あるはずないでしょ?」
「で、でも‥‥」
日に日に魔女を焼き殺せと声高にののしり始める村人やマルタにテレサは怯えていた。だがシュヴァルツの持ち物をひそかに調べたテレサはやがて魔女判別用のナイフの仕掛けに気づく。気の弱いテレサは村人達の前で主張できず、ベスに相談する。
「テレサ、よくがんばったわ! さあ、ユニールに頼んで、村の人を集めるの!」
テレサがユニールの力を借りて村人たちの前で仕掛けをすっぱ抜いたため、シュヴァルツは一気に人望を失った。シュヴァルツは「これだけは言っておく、女に知恵は無用だ」と捨て台詞を吐き、馬車を駆って村から逃げ去った。テレサとベスが協力して、あわや火刑台に縛り付けられようとしていたイザベルを救い出す。
「ベス、ありがとう。あなたのお陰で私、嘘つきにならなくてすんだわ。本当にありがとう」
「ぴー‥‥照れちゃうな」
レジーはがっくりと地面に膝まづき、イザベルに許しを乞うた。
「イザベル‥‥僕は君が魔女でないことを知っていた。ずっと幼い頃から君を見ていたんだからね。なのに‥‥僕は卑怯な男だ。僕のものにならないのならと憎しみをぶつけてしまった」
「レジー‥‥かわいそうな人」
イザベルはむしろ哀れむ。レジーはその夜、ひそかに姿を消した。
後日、イザベルもまた薬草知識全てをテレサとベスを授けた後、姿を消した。
テレサとベスは村人達とともに薬草の研究を続け、薬草とその調合技術はその村の名物となった。テレサ達はのちに「癒しの聖母」と慕われた。
一方、マルタは無実の女を火刑台に送り込もうとした性悪女として村八分にされ、惨めな一生を終えたという。
「やがて時は過ぎ。
貧しい人々に施しつつ、本当の信仰を捜し求める旅の修道士がいたわ。レジーと名乗ったとも言われるけれど、定かではないわ。
イザベルの行方は誰も知らない。だけど遠く離れた森の奥、よい香りのする花畑があり、そこには訪れた人の病を癒す女隠者がいたというわ」
黒衣の女は立ち上がり、客席に語り掛ける。怜悧で美しい、どこか残酷な微笑を浮かべながら。
「本当の魔女は一体‥‥誰だったのかしら? それは人の心の中に住まう、『恐怖』と言う名の誰かだったかもしれないわね。また不安な時代が訪れたとき、人々は再び魔女と言う名の生贄を探し始めるのかもしれない。さあ、暗闇が来るわ‥‥そして恐怖が動き始める」
黒衣の女は天に両手を差し伸べる。古代の巫女が邪神を呼ぶように。雷鳴が響き−−舞台暗転。
◆
「ある意味、イザベルは本当に魔女だったかもしれないね。あんなにレジーの心を捉えながら、誰のものにもならずに孤独を選ぶなんて、男にとっては魔法にかけられたも同然だよ」
舞台を終えての打ち上げの席。ジンライムを傾けつつ、風祭がぽつりと言った。
「あら、もしかして似たようなご経験が? ぜひ伺いたいわね」
と自身『魔女』めいた微笑を浮かべつつ、エルヴィア。今回の舞台の設定上では不自然という理由で本物の魔女を演じたいという彼女の希望は叶わなかったが。風祭は苦笑いをして、
「ま、俺位の年になると色々あるさ。恋の駆け引きじゃ男は女に敵わない。俺思うんだけどもしかして女性って皆魔女の末裔‥‥」
「ちょっと待ちぃ! そら男性原理の理屈ちゅうんやで。あのな。女っちゅうのんはな!」
ヴィアを押しのけるようにして、鼻から煙草の煙を吹き出しつつ青田ぱとすが説教モードで迫る。
「ぴょえ〜、魔女より青田さんのが怖いかも」「うん」「迫力が違うね」
宴席の隅でソフトクリームを舐めつつ頷きあう、ベス、さえ、結であった。