パティシエ☆シューアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/06〜08/10

●本文

 TOMI TVがお送りする特撮青春ドラマ「パティシエ☆シュー」では、ただいまキャストを募集中です。
 心にスキマ風が吹く人の前だけに現れる謎の天才パティシエ・『シュー』。そのパティシエは、心が元気になるとびきりのスイーツを作ってくれる‥‥そんなスイートなドラマに貴方も出演してみませんか?

☆ストーリー☆
 今日も寂しい人のため、元気の素になるスイーツを作る天才菓子職人・シュー。
 シューは厳選した調理器具と相棒のピクシー(妖精)・レイレイを伴って、今日も悩める人の前に現れる。お菓子と引き換えにお金をもらうこともあるが、妖精たちのための珍しい花や涙の粒、小鳥の羽‥‥といったものとと引き換えであることも多い。
 今日のお客は学校の教師。
 夢を持ってついた仕事なのに、生徒達は授業をさぼるわ、注意するとあげくに無視。 言葉を重ねても、生徒たちとは心が通い合わない。
「なぜ教師になりたいなんて思ってしまったんだろう‥‥」
 自分には教師になる資格なんて無かったんだと自分を責め、思いつめてしまう日々。
「「先生の心が元気になるように、とびきりのスイーツ作りましょう。」」
 さて、パティシエ・シューがレイレイとともに作り出したのは‥‥!?


☆募集キャスト☆
 ●シュー‥‥謎の天才パティシエ。素材や和洋の別に囚われることなく、食べた人の心を満たすスイーツを作り出す。
 ●レイレイ‥‥シューの作るお菓子の味に惹かれて一緒に旅をしている妖精(ピクシー)。素材探しや人の心の断片を読み取ることでシューの手伝いもする。
 ●悩める教師‥‥生徒たちと心が通じ合わず、自信をなくしてしまった教師。

 ※上記以外のキャストは確定しておりません。自由に考案の上、ご応募下さい。

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1683 久遠(27歳・♂・狐)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)

●リプレイ本文

 物語は、とある小学校の教室から始まる。
「そ、それでは‥‥授業を始めます」
 教卓に立った八坂タキ(=久遠(fa1683))は熱心だが少々ぎこちない。英語ドイツ語ペラペラの通訳としてバリバリ働いてきたキャリアウーマン。
 それが昔の夢を捨てきれず、教師に転職したばかり。
 だが、夢と現実は違う。
 なんだかすごい人だったらしいというタキの前評判が災いして、生徒たちには「遠い異世界から来た怪しいオトナ」としか見てもらえない。
 通訳として活躍していたことからコミュニケーション能力を見込まれ、帰国子女や国際結婚夫婦の子が多くいるクラスを任されたのはかえって皮肉だった。
 たとえばクラスのリーダー格ランディ・テレル(=タブラ・ラサ(fa3802))。
 いつも黒っぽい服装を着て、大人っぽく背伸びをしたいらしい彼。 銀髪に青い目で目立つ容姿ゆえ騒いでいる女子もいるようだが、何を考えているのかわからない。
「フナの体の横にある線は側線といって‥‥ランディ君はフナって見たことあるかしら」
 精一杯、授業に関心を持ってくれるように話を振ってみるのだが。そんなくだらん質問答える価値もないと言わんばかりに無視される。
 かといって、帰国子女で背は高いがおとなしい佐山未歩(=月見里 神楽(fa2122))はといえば。 授業の間中、うつむいているし、たまに話しかければ雷を聞いた猫みたいに固まってしまう。
「えっと、あの‥‥その‥‥」
 そしてとどめとばかりに、クラスで一番小柄だが、口の達者な田代麻人(=クッキー(fa0472))が‥‥
「しょうがないなあ、もう‥‥」
 口癖を呟くのだ。 

 放課後になり、教員室に戻る頃には、タキはがっくり疲れきっている。そしてなぜ生徒達が心を開いてくれないのかと悩む。
 生徒に好かれる先生もいるのに。
 例えば若宮真勇(=亜真音ひろみ(fa1339))。よく生徒が悩みの相談に来たり甘えたりしている様子を目にする。
 職員室で机が隣同士で、気さくな彼女に、思わずグチめいた問いかけをしてしまった。
「若宮先生‥‥私、教師に向いていないんでしょうか‥‥生徒達がどうしても心を開いてくれないみたいで」
「何言ってんだ、そんなことない。もっと自分に自信を持って生徒と接してみるとか? 深く考えたら悪循環にならないか?」
「そうでしょうか‥‥」
 励ますつもりがますますタキの表情が暗くなる。真勇はあわてて話題を変えた。
「八坂先生、それより今日、F町で途中下車しないか? 純英国風のティールームが出来てね。日本ではレアな『コブラー』まであるんだ」
「いえ‥‥もう少し、授業の方法を考えてみます」
 タキもスイーツは大好きなのに‥‥今はそれを楽しむ気分にはなれなかった。
(「悪いこと言ったかな」)
 真勇も後味の悪い帰り道へ向かった。

 真勇は結局一人、F町のティールームにいた。
「あ〜あ‥‥美味しいんだけど気が晴れないなあ」
 低い声で独り言を言ったつもりが、カウンターにいた眼鏡をかけたウェイトレスが突然返事をした。
「物足りません? うちのスイーツ」
「いやそういう訳じゃなくて‥‥あたしの同僚の先生が生徒とうまくいってないみたいなんだ。それで悩んじゃってて、あたしも相談に乗ってるんだけど全て裏目に出てさ…」
 目の前の屈託無さそうな少女に、落ち込んでいた真勇はそんな風に話した。
「うーん‥‥自信ってどこから来るものなんでしょうねぇ‥‥きっとその人自身の中に答えはあると思うんですけど‥‥」
「あたしもそう思う。本当にいいヤツなんだよ‥‥」
 ため息をつく真勇に、少女は不思議なことを言った。甘いお菓子でそんな悩みを解決できる人がいるというのだ。
「お菓子でだって‥‥? それって特殊なカウンセラーか何かなのか?」
「とにかく信じて任せて見て下さいませんか♪」
「ああ、本当に出来るならな。ただし報酬はあたしに請求してくれないか。彼女を傷つけちまった償いだ、いくらだって構わない」
「でしたらベランダでツリガネソウを植えて下さいな。咲いたら妖精が取りに行きます。帽子を作るために」
「‥‥ハア?」
 異次元世界に入り込んだのかしらと考え込んでいる真勇を取り残し。
 そのウェイトレスの少女ハルナ(=堀川陽菜(fa3393))は、お仕着せのメイド風エプロンから携帯電話を取り出し、誰かの番号を押した。何やら花の形に似た、変わった形の携帯である。
「もしもしレイレイ? シューさんは? よかった、今店にいらしてたお客さんからこういうお悩みを聞いたんですけど‥‥G小学校の‥‥」

「はいはーい♪ あっハルナちゃん? へー‥‥人間ってホント色々悩むよねえ。僕には縁遠いって感じ?」
 ハルナからの電話に応対しているのはレイレイ(=大海 結(fa0074))、妖精である。
 今はいわば「素の状態」で、透明な蝶の羽に似た形の羽を背に負い、ふわりとしたローブをまとい緑の草のつるを編み上げた靴を履いており、童話に出てくる妖精そのもの。この状態の彼を見ることの出来た人は運がいい。人に姿を晒す時の彼はたいがい、人間の少年風に姿を変えるのだから。そして素の彼を見た人には幸運が訪れるのだから。
 ただしこの妖精さん、現在はある人のもとに居候中。
 そのある人とは‥‥
「シューさぁん、ハルナちゃんから電話ー。なんか悩んでる人がいるんだってー」
「‥‥後で折り返すといって置いてください。今は仕込み中です」
 と答えたのは、ここ‥‥山小屋風の作りで、実際山道を少し登ったところにあり、相当の通しか知らない菓子工房‥‥の持ち主。この男の名を「シュー」(=水鏡・シメイ(fa0509))という。経歴・年齢・本名一切不明である。
 ただ確かなことは‥‥天才的な菓子職人であること。
 人を魅惑するはずの妖精すら魅了する甘みを作り出すのだから。
「わーいシューさん特製キルシュトルテ焼けた♪ ねね、味見していい?」
「既に食べちゃってから言わないで下さい、客用なのに」
 シューは嬉しそうにほお張るレイレイを睨んだ。
 もう一つ確かなことがある。この男、かなり無愛想。

 翌日。
「失礼。八代先生はどちらに」
 G小学校の校庭に、シューの長身が現れた。聞かれたのは、たまたまサッカーで遊んでいた麻人だったのだが、
「オジサン誰? 変質者だったら、この学校には可愛い子はいないよ」
 さんざん警戒された上に、やっと職員室にいるはずと教えてもらった。
「‥‥オジサン‥‥くぅっ‥‥」
 今時のお子様に、さしものシューもこっそり傷ついていたり。
「お迎えに来ました」
 職員室でぽつねんと一人、指導要綱を読み返していたタキに、シューが告げると、タキは戸惑った。
「ど‥‥なた?」
「貴方には特訓が必要です」
「えっ!? な、なんなの!?」
「生徒達の心を掴む、スイーツを作るための特訓です」
 有無を言わさずタキは調理室に連行? される。 
 材料を届けに来た少女が顔を出す。あの眼鏡のウェイトレス、ハルナだ。
「これが新鮮な牛乳で、生クリームも今朝作ったものです。バニラはビーンズですね」
「ありがとう。ブラウニー達によろしく言っておいて下さい」
 はーい、と応えてハルナは去っていく。タキは不安げに尋ねた。
「お菓子で人の心を掴むなんて‥‥できるんですか」
「その前に。お菓子は見た目、味、香り、音、食感‥‥五感全てを使って作り、味わうものです。貴女は生徒達に対して、五感全てで接していますか?」
「私‥‥」
 はっとした。
 思いやるつもりが頭で色々推測してばかりで、今自分が向き合っている生徒達が何を思い、どんなことを求めているのかを深く追求していなかった気がする。 
 何を作れば生徒達の心を掴めるのかしら、と悩むタキにシューは言った。
「そうですね‥‥真っ白なパンナコッタ。そこに生徒達それぞれをイメージしたソースをかけるんです」
「生徒たちのことを知る手伝い、僕がしてあげるよ♪」
 レイレイが自信満々に言う。妖精の能力のひとつ、心の断片を読む力を使うらしいつもりなのだ。
「あの私、料理下手なんですけど」
「私はあなたにパンナコッタの作り方を教えます。生徒達に食べてもらうパンナコッタは、あなた自身で作ってください」
 そして特訓が始まった。比較的シンプルなお菓子だが、タキはゼラチンをダマにしてしまったり、牛乳を沸かしすぎたり。それでも決して、諦めなかった。

「今日の放課後、家庭科室を借り切ってパーティーをしようと思います」
 タキが授業の終わりに宣言した。
「パーティーだって。どうする?」
「覗いてみてつまんなかったらすぐ帰る」
 ‥‥皆、そのつもりだった。
 家庭科室に入った生徒達の目に、いつもと違い自信に溢れたタキの笑顔が飛び込んできた。人間の少年姿のレイレイと、シューの姿もある。
 そして一人一人の前に置かれたのは、真っ白なパンナコッタ。それぞれに違う色のソースがかかっている。
「佐山さんには無花果のソース。無花果の花は果実の中で咲くの。貴方も私の知らない『華』を持っていたのね。大人しいばかりと決め付けていたわ、ごめんなさいね」
 タキは未歩がヘアアレンジに作っているビーズアクセサリーを指差して言った。ここ数日生徒達をよく観察していて、未歩がアクセサリー作りの特技を持つことに気づいたのだった。未歩が頬を染めて嬉しそうな顔になる。
「これ、私だけの? 私のために作ってくれたソースなの?」
「そうよ、気に入ってもらえたら嬉しいのだけど」
 未歩の満面の笑顔が応える。
「はい、いつも明かるい田代君にはひまわりの種を砕いて混ぜたはちみつソース。太陽の味がするでしょ?」
「ん、マジ美味い! 凄いよ先生♪ さすがだねっ」
「ランディ君にはこれ」
 仕方なく付き合ってやってるんだ風に斜め横を向いているランディに差し出されたのは‥‥キャラメルモカ風味。
「ランディ君って大人っぽいけど実はとっても繊細なのよね。『フランダースの犬』の感想文、とってもよく書けてたもの。甘くて大人風味、そんな二面性をイメージした味よ」
「あ、あんなもん‥‥誰だって書けるよ」
 ランディは無表情を装って食べているが、頬がちょっとピンク色。
 未歩が立ち上がって手伝いを申し出てくれた。
「私、お茶入れますね。学校じゃほうじ茶しかないかもしれないけれど」
「あ、じゃあ僕、用務員さんに頼んでお湯沸かしてもらってくる」
「理科室のアルコールランプじゃ駄目かなあ?」
「量足りないって!!」
 未歩、ランディ、麻人達が口々に話しながら手伝ってくれる。
 先生が自分たちをわかってくれている、少なくともわかろうと全身全霊で努力してくれている。そのことが嬉しくて、生徒達の間にも不思議な連帯感を作り始めていた。
 と、レイレイがもう一つ新たなお皿を用意した。「ドアの向こうに、もう一人お客さんが来てるよ」と。
「ごっごめん、邪魔する気はなかったんだ‥‥ただ、責任感じて様子を見に来ただけでっ」
 うろたえて背を翻し猛ダッシュで帰ろうとする真勇を、ドアを開けたタキは引き止めた。シューから既に真勇が依頼人であることを聞いていたタキは、繰り返し真勇に礼を言った。
「シューさん、彼女にも何か、お礼に何かあげたいのだけど‥‥」
「残念ながらパンナコッタはもう品切れですが‥‥これでよろしければ」
 とシューが差し出したのは、ふんわりした淡黄色のムース。早速真勇がスプーンで口に運ぶ。
「これってシャンパンのムースなのか! その奥には木苺ジャムが閉じ込めてあって‥‥口の中で溶けあって、んーっ、幸せ」
「味見したーい」「いやこれは大人の味だ。あげないよ」「ずるーい!」
 お互いのパンナコッタを味見しあったり感想を口々に述べたり蜂の巣をつつく騒ぎだが、どの顔も輝いている。タキは悟った。
 そうか。みんなも私と同じ。誰かに認めて欲しかったんだわ。「ありのままの貴方でいいんだよ」って‥‥ 
「では私の仕事は終わりです」
 すっと立ち上がり、シューが去っていくではないか。しかも。
「あーっ、待ってよー! もう、気が早いんだからぁー!」
 レイレイが素の姿に戻って、ふわふわと透き通る羽で飛んでゆく。
「今の‥‥よよよ、妖精!?」
「嘘ーっ!」
「僕知ってる、あれってラッキーフェアリーだよ、見た人には幸運が訪れるんだ」
「じゃ、私たち全員に‥‥?」
 顔を見合わせるクラスメイト、そしてタキ、真勇に、いつしかほんわかした笑みが広がった。

 ツリガネソウが咲いた。真勇のベランダに。タキの家の庭に。G小学校の花壇にも。
「『妖精さんどうぞ 6年2組一同 〜P.S 今度タキ先生と林間学校行くんだよ』だって‥‥ふふ、うまくやってるみたいだね」
 校庭に咲くツリガネソウを少年‥‥いや人間の姿のレイレイが摘みあげて、満足そうに笑った。

 貴方の庭かベランダに、ツリガネソウは咲いていますか?
 咲いているならもしかしたら、次は貴方のところへ不思議なパティシエと妖精が訪れるかも‥‥

 さて、撮影終了後のスタジオにて。
「シャンパンムース最高っ。お菓子だしお酒も入ってるしあたしにぴったりって感じだな」
「ってひろみさん‥‥いくつ食べてんですか‥‥」
「あ、神楽ちゃん紅茶もういっぱいどう?」
「いただきまーす♪」
 今回の『消えモノ』‥‥ドラマの撮影用にプロが作ったお菓子を、せっせと平らげる出演者の皆さんがいましたとさ。
 ちなみに生物上の性別にかかわらず違和感無く女性キャストとして役をやりとげた久遠には功労賞として、ビッグなケーキが授与されたそうである。