特命霊能捜査官〜特別編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/23〜09/27

●本文

 TOMI TVがお送りする特撮ホラーアクションドラマ「特命霊能捜査官・特別編」では、ただいまキャストを募集中です。
 このドラマは、以前2回放映された「特命霊能捜査官」の特別編。
 霊能力者が悪霊による霊障事件を解決に当たるというストーリーのベースはそのままに、時代設定を江戸末期に移したものです。
 そして今回の霊能捜査官達は、義賊として島流しにされていた「伊佐次(いさじ)」、火付け盗賊改め方(今の警察官に当たる役職です)・「秋津帯刀(あきつ・たてわき)」、その密偵で元スリの「宗次(そうじ)」、そして誇り高き武家娘「八千代(やちよ)」達。
 そしてその敵となる亡霊もまた、恨みを残して死んだ強き剣客「峰十五郎(みね・じゅうごろう」。
 ーーそんなストーリーに、貴方も参加して見ませんか?

☆ストーリー☆
 盗賊として八丈島に流されていた伊佐次は、ある日突然役人の訪問を受け、赦免(罪を許されること)を告げられる。生国・江戸に戻った伊佐次を迎えたのは、火付け盗賊改め方・秋津帯刀だった。帯刀は、伊佐次を無罪放免にしてもよいと言う。
「ただし、お前のその『ちから』を使い、お上のために働く限りにおいて、という条件付だ」
 と。
 伊佐次の特殊能力とは、手を触れずにものを動かす「念動力」。
 また、空間にかまいたちのような風刃を発生させることも可能である。追っ手が来たときなど、この力を使って撃退することが出来た。
 深酒がたたって盗賊改めに捕らわれたのだが、酒さえなければ伊佐次の盗みはほぼ全てが成功していただろう。
「で、この力を何の役に立つってえんですかい」
 伊佐次の問いに、秋津は答えた。
「このところ江戸市中に、正体不明の辻斬りが出没しておるのだが‥‥」
 それはどうやら、とある剣豪の怨霊であるらしい。その剣豪は「峰十五郎」。
 幼い頃から、剣術の神童と呼ばれ、剣を取れば無敵と言われた。
 だが、いかんせん戦も無いこの江戸の末世にあっては、その強さは無用のものであった。たださえ侍の必要数が減り、浪人が溢れている世の中である。
 剣の腕を生かす道もなく、腐っていた彼を、とある藩主が剣術指南役に取り立てようと申し出た。
 これは出世と喜び勇んで指南役に取り組んだ十五郎は、つい稽古に力が入りすぎ、殿様といえど、平気で打ちのめして鍛えようとする。
 殿様は面白くない。
「わしに恥をかかせおって‥‥無礼なやつ。かような輩、もはやこの治世には無用」
 殿様は卑怯にも、剣では叶わぬからと家来に命じて、十五郎に弓を持って毒矢を射かけさせた。
 十五郎は毒におかされ、苦しみに悶えつつ死んだという。
 青白い幽鬼と化した十五郎が、殿様の周辺に現れたのは、その数日後だった。
 家来を一人ずつ順番に殺し、ついには殿様も、一寸試しに切り刻まれて息絶えた。まだ飽き足らず十五郎は、町に出没し、侍を見れば、斬りつけ、殺してしまうそうな‥‥。
 一生を通して「平和の世に無用の剣術使い」と、あざけられた恨みが積もり積もっているのやもしれぬと、秋津は言った。
「だが、もはや怨霊と化したその剣に、剣で立ち向かえるものはない。
 対抗出来るのは、お前が持っているような、「こころの力」のみだ」
「秋津様。ですが元盗賊のこの男、信用できましょうか?」
 と、秋津の遠縁の武家娘「八千代」が口を挟む。
 八千代は弓の名人だった。弓を引くこと&その弦をかき鳴らす「鳴弦」の技で、悪しき霊を祓うことが出来るのだ。
「八千代お嬢さん、伊佐次さんは盗賊といっても、義賊ですぜ」
 秋津の密偵・元スリの宗次が言う。宗次は元スリということもあり、伊佐次に対する尊敬の念を隠しきれないらしい。だが、火付け盗賊改めの秋津に心酔し手先となっていることもあり、宗次としてはちょっぴり複雑な心境らしい。
「わかりやした。協力いたしやしょう。しかし、まったく侍ってのあ、面倒のかかる生きものでござんすね」
 冷たい笑いをこめた伊佐次の言葉に、「なんですって!? この無礼者!」憤る八千代だが、秋津が苦笑して止めた。
 伊佐次、秋津、宗次、そして八千代は、反目しつつも捜査に乗り出すのだった‥‥

☆募集キャスト☆
●伊佐次‥‥元盗賊。念動力をもち、悪霊にダメージを与えることが出来る。
 盗賊だった頃は武家屋敷から金品を盗み、庶民に投げ与える義賊として知られていた。だが本来の彼は人を救うことに情熱をかける熱血漢と言うわけではなく、ただ武家への恨みから、武士に恥をかかせるための行動であったらしい。無口で虚無的な雰囲気の男。
●秋津帯刀‥‥火付け盗賊改め方長官。剣の腕と頭脳の冴えで江戸の守り神と評判を得ている。苦労人ゆえ、武家ながら伊佐次たちにも理解を示している。
●宗次‥‥秋津の密偵。元はケチなスリだが優れた透視能力を持つ。伊佐次も秋津のことも尊敬している
●八千代‥‥誇り高い武家娘。元盗賊の伊佐次を嫌悪し、一緒に行動することを嫌っている。弓の名手。
●峰十五郎‥‥卑怯な手段で闇に葬られた故に悪霊と化した天才剣士。

※上記以外のキャストは確定しておりません。他の秋津の部下や火付け盗賊改めの与力、峰の親族など自由に考案の上、ご応募下さい。

●今回の参加者

 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1785 蘇我・町子(22歳・♀・パンダ)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3341 マリエッテ・ジーノ(13歳・♀・小鳥)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 江戸市中・深夜。血塗れた刃が閃いた。
「う‥‥」
 どさりと倒れた死体の下に、見る見る血だまりが広がってゆく。
「まだ‥‥まだ足りぬわ‥‥我が恨み、まだ晴れぬ‥‥」
 悪霊と化した峰十五郎(=蘇我・町子(fa1785))。美剣士と謳われたその顔に今や、陰惨な影が貼りついていた。

 伊佐次(=ラリー・タウンゼント(fa3487))は懐かしい江戸の町を、秋津帯刀(=弥栄三十朗(fa1323))に連れられて歩いていた。島帰りの際の古着ではなく、月代が伸びているので浪人風ではあるが、こざっぱりとした露草色の着流し姿である。秋津も総髪にし、同じく浪人風の着流しに、笠を目深に被っている。市中見回り用の変装である。
「元々人品卑しからぬお前ゆえ、どこぞの剣術道場主に見えぬでもない」
 身なりを整えた伊佐次を秋津がそういって褒めたが、伊佐次の表情は固かった。
「お言葉にござんすが、侍には七回生まれ変わってもなりたかないんでござんす」
「何ゆえそこまで侍を嫌うのだ?」
 苦笑を浮かべた秋津に尋ねられ、
「言ったところで、味ないことでござんす」
 伊佐次は遠い目をして言った。実は侍に目の前で弟を斬り殺されたのだ。伊佐次と弟はその特殊能力ゆえか、碧い瞳をしていた。
「貴様らバテレンの血が混じっておるな。余計者ゆえ、試し切りに丁度よいわ」
 酔った侍が嘲り、伊佐次の弟を斬り捨てた。伊佐次は弟を救う為に「心の力」を使おうとしたが当時はまだ能力も弱かった。伊佐次も斬られたが、偶然浅手で済んだ。
「侍が何だ‥‥!!」
 刀傷はやがて癒えたが、伊佐次の心に深い憎悪が宿った。成長して能力を使い、義賊となったのはそれがきっかけでもあった。
「ここで打ち合わせを兼ね、腹ごしらえと参ろう」
 秋津が言って、小料理屋の暖簾をくぐる。構えは小さいが掃除の行き届いた店であった。
「あら‥‥いらっしゃいまし。八千代様がお供の方と、二階でお待ちですよ」
 と、挨拶をした女将・桔梗(=月 美鈴(fa3366))は秋津とは旧知であるらしい。
「遅かったこと。身なりを整えるのにそんなに時がかかるとは、お里が知れますよ」
 二階に上がると、悪霊を浄化する梓弓の達人である武家娘・梓野八千代(=千音鈴(fa3887))がとがった声を投げた。隣で八千代のお供の少年風に装った宗次(=ユフィア・ドール(fa4031))が、
「あの〜、お嬢さんのお好きな白和え、注文して参りやしょうか」
 と機嫌を取ろうとして、黙っていなさい! と怒りのとばっちりを受け、肩をすくめた。
「俺の手持ちの着物にケチをつけて全部捨てさせたのは、どなたでござんしたかね」
 と伊佐次がやり返す。秋津が穏やかにとりなした。
「これ、よさぬか、二人とも。その元気は峰と戦う時まで取っておくのだな。それよりも、この地図を見よ。これまで峰が出没した場所に印がつけてある。峰の現れる場所の手がかりになればと思うての」
「やはりお武家様の出入りの多い場所ばかりでござんすね。一流どころの料理屋前に、組屋敷の周辺‥‥」
 碧い瞳をさっと地図に走らせた伊佐次が言った。
「さすがは元義賊の伊佐次兄ぃ」
 と宗次が歓声をあげ、八千代の大きな瞳ににらみつけられ、また肩をすくめた。
「その通り。後は、宗次、おぬしの眼力が頼りだ」
「へいっ。お任せ下さいやし」
「また‥‥危険なお役目でございますか?」
 独活の味噌漬けや茄子煮物といった心づくしの料理を運んできた桔梗が不安げに秋津を見た。秋津は笑顔を見せた。
「案ずるな。お前と同じ、心のちからを持つ者をこれだけ集めた」
「私も‥‥微力ながら‥‥」
「いや、桔梗は控えておれ」
 きっぱりと拒絶する秋津を、恨めしげに桔梗が見た。その目つきで、桔梗が密かに秋津を想っていると気づいた伊佐次だった。身分を越えて侍に恋するとは憐れにも愚かにも思えた。桔梗は心の力で、傷や病を即時に回復させることが出来るという。だがその力は、桔梗の体力をひどく消耗するのだと秋津は説明した。
「一刻も早く成仏させてやらねば、悲しむ者が増えるばかりじゃ」
 秋津が呟いた。と、八千代が言い出た。
「なら、囮を使ってはいかがでしょう?」
「むぅ、しかし危険すぎる」
「いいえ、大丈夫です。私が男装して囮になりますわ。私なら、いざとなれば弓があります。まして武家嫌いのどなたかには、侍を装うなんて出来ませぬし」
 と、ちらりと伊佐次を見やる。伊佐次はぴくりと眉を動かしたが、早速やり返す。
「ごもっとも。お武家育ちをひけらかす誰かさんにゃ、もってこいかもしれやせんや」
「これ、よさぬか二人とも!」
 どこかの寺の鐘が時を告げる。「逢魔が刻」が近づこうとしていた。

 日が暮れる少し前。
「どいたどいたー! どかねぇと、折角の魚が腐っちまわあ!」
 晒しできりりと胸を押さえ、短い筒袖を着て日焼けしたのびやかな手足むき出しの娘が、魚を乗せた天秤を担ぎ、奔ってゆく。
 人呼んで棒手振りお涼(=ブリッツ・アスカ(fa2321))。大網元のお嬢さんなのだが、荒くれどもに混じって漁にも出れば、採れた魚は天秤に乗せて売り歩くという鉄火な娘だ。最近辻斬りが出没するというので、普通の年若い娘は夕方からの外出を控えているのだが、お涼は持ち前の度胸で意に介さぬ。
 出入りの小料理屋へと、魚を運んでいく途中。お涼は永代橋のたもとで、たたずむ人影を見た。御高祖頭巾を被った若い娘らしい。
(「こんな時分に、お武家のお嬢さんが?」)
 と、その若い娘は短刀を取り出し、自ら喉を突くようなそぶりを見せる。
「おい、何しようってんだい!!」
 お涼は天秤を放り出し、娘の手を手刀で打った。
「離して下さいまし!!」
「何言ってやがる、俺の目の前で人が死のうとしてるのを見過ごしてられっか!!」
 お涼の言葉に、娘は泣き崩れた。
「訳があるんだろう? そいつを話しちゃくれねぇか」
 お涼は、そっと娘の肩に手を置く。娘は涙を拭うと、「初音」(=マリエッテ・ジーノ(fa3341))と名乗り、意を決した風に話し始めた。
「今、市中を騒がせている辻斬り。私はその辻斬りに恨みを買う一族の者にございます‥‥」

「どうやらこっちが臭いますぜ」
 宗次が一同を案内した。杜若色の小袖に梅鼠色の袴で男装した八千代が進み出た。心なしか、冷気が肌を刺す。が、八千代は胸を張り歩んだ。
(「怖くないわ。私は退魔弓術を窮めし梓野一族の娘ですもの」)
 場所は武家屋敷の脇にある雑木林。木影にぼうっと人影が現れた。出た!? と緊張した八千代は早速弓を構える。だが伊佐次がその手を押さえた。
「落ち着いてよくご覧なさいやし。ちゃんと脚がありやすよ」
 その人影は、初音とお涼だった。お涼が嬉しそうな声をあげた。桔梗の店に魚を納めているお涼は、身分は知らないが秋津の知り合いである。
「桔梗姐さんの店によく来なさるお武家様じゃねぇか」
「お涼か‥‥? なぜこんなところへ」
 お涼は事情を説明した。初音は峰が仕官した殿様の娘であった。初音は峰の死に様を人づてに聞き、心を痛めていた。その上峰の怨霊が辻斬りとの噂である。峰に憧れていた初音は、峰の憎んでいた殿の血筋が絶えれば、峰の怨念も静まるのではと思いつめ、自害を図ったらしい。だがお涼に説得され、改めて峰の息絶えた場所であるこの林に来て、峰の霊を慰めるべく経文を唱えていた。
「峰先生は、本当は悪いお方ではありませぬ。父が峰先生を狂わせたのみにございます」
 初音が瞳を潤ませて言った。その時、宗次が声を上げた。
「お涼姐さん、そ、そこっ!」
 気がつくと、お涼と初音の背後にゆらりと青白い影が立っていた。悪霊は八千代に向かい、剣を振り上げた。が、八千代もキッと睨み返し、背に負った弓を構えた。
「悪霊調伏ッ! 覚悟しなさい!」
「お嬢さんにゃ手に余りやす!」
「な、何するのよっ!?」
 伊佐次が八千代を突き飛ばし、目に力を込めた。ぶぅんと金属的な耳鳴りが一同を襲う。伊佐次の風刃が林の木をすぱりと切り裂き、飛ぶ。
 風刃をまともに受け、峰の霊が後方へ弾けとんだ。
「おのれ‥‥謀りおったか」
 峰の陰々とした声。と、亡霊の姿が消えた。お涼がうつろな表情となり、懐から包丁を抜いた。
「ふふふふふ‥‥まずはうっとおしいあの男からだ」
 お涼が憑依されたのだと、伊佐次達が理解する前にお涼が跳んだ。包丁が、ひゅぅっと空気を撫で斬った。飛び違う瞬間に空中で包丁を振り下ろしたのだ。
「皆、用心せよ!!」
 叫ぼうとした秋津の背中に、どすっと重い衝撃が走った。
「秋津様‥‥!!」
 秋津がゆっくりと倒れる。背中が切り裂かれ、血が溢れていた。
 と、何者かが駆け出して来た。桔梗である。
「桔梗さん!? なぜここへ!」
 桔梗は「お許し下さいましね、お嬢さん‥‥」と言いつつ、秋津の背中に手のひらを当てる。秋津の血が止まり、起き上がった秋津が「桔梗!」と声を上げた。
「秋津様‥‥店の徳利が割れたので‥‥何やら不吉な予感がして‥‥走って参じました‥‥お、愚かな女と、お笑い下さい‥‥お役に‥‥立てて、う、嬉しゅう‥‥」
 桔梗の声が途絶えた。瀕死状態の秋津を回復させたことで、自らの生命力を消耗し尽くしたのだった。桔梗の亡骸の手をそっと組ませ、立ち上がった八千代が言った。
「伊佐次、私の放つ鏑矢にお前の風刃を飛ばして頂戴」
 反目しあっていた八千代が突然、手を貸してくれと申し出たので、伊佐次は一瞬戸惑った。が、その伊佐次の頬を八千代の手がぴしりと張った。
「桔梗さんの心を無駄にするつもり? 大の男が何時までうじうじしてるのよ!」
「兄ぃ、後ろだ!」
 宗次が叫ぶ。憑かれたお涼が背後に迫ろうとしていた。初音が立ちふさがった。
「峰先生‥‥もうおやめ下さい! 昔の優しい先生に戻って下さい」
 一瞬だが、悪霊がひるむ気配がした。お涼の体から黒い霧が抜け出て、峰の姿に凝った。
「おのれ! こうなれば、真なる姿で!」
「南無帰命請来‥‥調伏一切悪法!」
 唱えた八千代が矢を番え、ビュンと唸りをあげて放つ。鏑矢が唸る。穢れた空間を浄化すると言われる矢である。
(「大事な人を亡くせば、侍も町民も悲しいのは同じでござんす‥‥眠っておくんなさい」)
 伊佐次も祈った。その風刃は、真空の矢となり、鏑矢と共鳴してぶーんと激しく唸りを上げ、峰の悪霊を真っ二つに切り裂いた。峰の亡霊が顔を歪めて苦悶している。
「ただ‥‥私は‥‥は、初音殿‥‥」
 亡霊の手が初音に伸びる。
「峰先生‥‥」
 初音が哀しく峰を見つめる。その瞬間、亡霊は掻き消えた。
 ‥‥静寂が訪れた。あの不気味な闇の静寂ではなく、清められた聖なる静寂が。
 憑かれたお涼も失神しただけで済んだ。
「皆、ご苦労だった。役宅に戻ろう。約束どおり、褒美を取らす。‥‥お前の志無駄にはならなんだぞ。のう、桔梗よ」
 桔梗の亡骸を抱いて、秋津が立ち上がった。先に立って歩き出す、その後姿を見守る伊佐次に、八千代が言った。
「秋津様は桔梗さんの想い、ちゃんと受け止めていたんだわ。身分違いの恋でも‥‥桔梗さんを連れてこなかったのは彼女を守るため。どう? 伊佐次さん。これでも侍は皆嫌いかしら?」
「今は‥‥違いやす。お侍さんも捨てたもんじゃありやせんね」
 どちらからともなく、微笑を交し合う。そんな二人を、宗次は見比べながら、
「そうそう、お嬢さんだって例えば兄ぃと駆け落ちでもすりゃ武家の身分も関係なくなりやすよね」
 にやにやと言った。
「や、やめて頂戴、誰がこんな頑固者と」
「こっちこそ願い下げだい、こんなぴんしゃん娘」
「何ですってー!?」
「わっ‥‥お嬢さんが本気で怒っちまったい! 逃げておくんなさい兄ぃー!」
 ◆
「俺は一体どうしたんだ?」
 初音の家に運ばれ、意識を取り戻したお涼は憑依された後の記憶を失っていた。
「人斬り幽霊に突っかかったところまでは覚えてるけど、その後の記憶がないんだよな」
「夢を見られたのですわ。悪い夢を‥‥でも、もう覚めましたね」
 初音はお涼を看病した後、桔梗を始め、峰の悪霊の犠牲となった人々の弔いをするため、尼になった。まだ16歳であった。
 お涼は桔梗の店を引き継ぎ、酔って乱暴する客を取り押さえたりと数々の逸話のある、名物女将となった。
 秋津帯刀はその後も活躍し、江戸の人々を守った。その影には常に碧い瞳の長身の男、そして男装の女剣士、小柄で人懐っこい少年が秋津に仕え、立ち働いていたという。
 ◆◆◆
「えっまだ歌うの、しかも演歌?」
 撮影後、打ち上げに来たカラオケボックスでラリーが立て続けに演歌を唸っていた。彼曰く、「最近和風に心惹かれるんだよね」とか。確かに甘いテノールボイスは音域の広い演歌にも向くのだが。
「ちょっと、私もまだ12曲しか歌ってないのよ!」
 千音鈴がマイクを奪還しようと実力行使にかかる。
「よしなさい、隣の皆さんにご迷惑が」
「だって、弥栄さん!」
「あのー‥‥時間延長お願いしてきますね、明日の昼ぐらいまででいいですか?」
 と遠慮がちにマリエッテ(そんなに歌ったら死にます)。まさに阿鼻叫喚の巷であった。 
「立ち回りも出来たし、着物も着れたし、それで十分満足だぜ」
 一人ご機嫌で焼き鳥の串をほおばるアスカをのぞいては。 

●ピンナップ


千音鈴(fa3887
PCシングルピンナップ
浅葱しおん