黒魔術幻戯ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/05〜10/09
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●本文
舞台「黒魔術幻戯」では、ただいまキャストを募集中です。
架空の王国を舞台に、国王の寵を別な女性に奪われた美しい悪女が、復讐のため、自らのプライドのため、悪魔と取引をする。
だが悪魔はそんな彼女に思わぬ陥穽を用意していたーーそんなストーリーに、貴方も参加して見ませんか?
☆ストーリー☆
そこは、ヨーロッパにある美しい小国。
国王の次に、いや時には国王をも凌ぐ権力を振るうのが、国王の愛人フレイラ。身分は侯爵夫人ながら、その美貌が国王の目に留まり、国王の寵愛を一身に受けていた。
また、フレイラは美貌の上鋭い頭脳の持ち主で、国王の政敵を排除する手助けもしてきた為、その権力は増大する一方だった。
だが、その権力も終わるときがやってきた。
ミュスカという若い娘が、国王の寵愛を奪ってしまったのだ。
ミュスカ自身は、国王の寵姫になるつもりなどまったくなかったらしいが、父親が国王に対する謀反の疑いありとして、監獄に囚われ、その疑いを晴らすため、ミュスカがその身を投げ出したというわけだ。
そして国王の方は、ミュスカの清純な魅力にすっかり参ってしまったらしい。
「このわたくしがあんな、ちっぽけな野の花のような小娘に取って代わられるなんて‥‥!」
フレイラは唇を噛む。
ふと、フレイラは薬草売りの女が語る言葉に耳を傾けた。それは悪魔を呼び出す方法。
薬草売りの女から聖水と十字架、薬草、蝋燭、それに魔法書を手に入れたフレイラは、ついに悪魔を呼び出した。悪魔マルドロールは美しい人間の姿で現れ、
「悪魔との取引には代償が必要だ」
と告げる。
フレイラは悪魔によってその欲望を叶えるたびに、他の大切なものを悪魔に捧げなくてはならないのだと。
「‥‥やはり悪魔だけあって、人の足元を見るというわけね。わかったわ」
フレイラは、国王からプレゼントされた大きなルビーと引き換えに、ミュスカを病気にした。
だが病にやつれたミュスカはかえって国王の同情をそそり、国王の寵愛はフレイラには戻らなかった。
「お前の差し出した犠牲の対価にふさわしい効果を出したまでのこと。宝石など、しょせん石の塊に過ぎぬ」
と、マルドロールは笑う。
「私が再び権力の座に帰り咲くためには、一体何を犠牲にすればいいというの‥‥!!」
フレイラは美しい唇を噛み締める。
次にフレイラが試みたのは、可愛がっていた子犬を生贄にすることだった。
これも国王からの贈り物である。
子犬を自ら剣で貫いた代償に、ミュスカを貧しい男と駆け落ちし、笑いものになった上捕らえられるようにのろいをかけた。
だがミュスカは囚われても尚、毅然とした態度で貧しい恋人への愛を貫く。そして国王はミュスカを失っても、フレイラの元へは戻らなかった。
ひたすらミュスカを失くした悲しみにくれている。
フレイラの胸に、言い知れぬ虚しさが漂い始めた。
一体私は何を求めているのかしら?
国王の愛‥‥でもそれを手にしたところで私は満たされるのだろうか‥‥
ミュスカのあの表情‥‥いいえ、私は負けたのではない! 必ずミュスカをみっともなくのたうちまわらせ、見下してみせるわ!
「次は何が望みだ? 言っておくが、大きな望みを叶えるにはそれだけの大きな代償が必要になるのだぞ」
マルドロールは甘い声で囁く。
そして、ついにフレイラはひとつの結論に達した‥‥
☆募集キャスト☆
●フレイラ‥‥国王第一の愛人だった美女。常に冷徹な計算のもとに行動する。数々の詩人や画家にその美貌を賞賛されるが、本当の恋をしたことがない。
●ミュスカ‥‥父の罪を許してもらうため、望まないながら国王の愛人になった娘。結果としてフレイラから第一の愛人の座を奪うことになる。
●マルドロール‥‥美しい人間の姿をとって現れる極めて狡猾な悪魔。
※物語の舞台となる「王国」は特定しないものとします。フランス革命前のヨーロッパのどこかをイメージしてくださるとよいかと思います。
※上記以外のキャストは確定しておりません。宮廷に出入りする画家や小間使い、下男、あるいはフレイラに横恋慕する他の貴族など、自由に考案の上、ご応募下さい。
※「フレイラ」は侯爵夫人となっていますが、夫は現在設定されていません。既に亡くなっている又は国王の権力を恐れて黙認している、いずれもOK。
●リプレイ本文
《花は、新たな花を咲かせる為に散るものだと申します。けれど、新たに咲く花は散った花と同じ花ではありません。美しい花も、残酷なさだめを生きているものでございます‥‥》
花園に立つ女(=羽曳野ハツ子(fa1032))が呟きながら白い薔薇の一枝を手折る。
花園の女から照明が右側に移ると、そこは宮廷の一室。薔薇の花束を持つフレイラ(=マリーカ・フォルケン(fa2457))は従卒のレム(=レイム・ティルズ(fa4456))を連れて薄暗い部屋に入る。
フレイラは悪魔との取引で王の寵姫ミュスカを陥れたものの、国王の寵は自分には戻らない。ミュスカに対して嫌味の一つも言いたくなるというものだ。
「フレイラ様!! ‥‥こほっ‥‥」
若い女‥‥国王の寵姫ミュスカ(=白井 木槿(fa1689))が声を上げた。病のためにやつれてはいるが、国王を惹きつけた生き生きとした表情はそのままだった。
ミュスカは馬丁と駆け落ちし、捕らえられ、相手の男は国外追放に、そしてミュスカはこの地下室に幽閉される身となったのである。
「こほっ‥‥お見舞いに来てくださったのですか?」
ミュスカは言葉の合間に小さな咳をしながら近づこうとする。が、フレイラは、
「愚かなことを。どこの馬の骨とも知れぬ男と駆け落ちしようとした貴女を、誰が慰めようなどとするものですか。愚かな所業の結果を見に来ただけです」
「し、失礼いたしました‥‥こほっ‥‥」
素直にミュスカはハンカチを口元に当てがい、後ろに下がる。
「それにしても貴女はなぜ、全てを捨ててあんな男の下に奔ったのです?」
「恋のためにございます」
うなだれていたミュスカが、顔を上げてきっぱりと言い切った。
「恋? 馬の世話をするのが役目の貧しい男に?」
「ティオは確かに貧しいけれど、ティオが世話をすれば、どんな暴れ馬も大人しくなります。ティオが誰よりも優しい心を持っているから‥‥。だから彼を想うこの心だけは、私にも変えることは出来ないのです。ティオのためなら、この命も惜しくはありません。そんな恋が出来たこと、ミュスカは何よりも生涯の宝にしたいと想っています、国王陛下には、申し訳ないと想っておりますけれど‥‥」
「ミュスカ、貴女はまだ、そんなくだらない御託を‥‥もう聞き飽きたわ」
フレイラは、足音荒く地下室を後にした。
部屋を出、歩き出そうとして‥‥ふと足を止め、フレイラは黙々とつき従う従卒に尋ねた。
「恋‥‥お前は、恋を知っていて?」
「は‥‥はい」
どぎまぎとレムが答える。
「そう‥‥相手は、どんな女?」
「誰よりも美しく聡明で‥‥おそらくは、私めなどの手の届かぬ程‥‥」
「かなわぬ恋なのね‥‥つまらないでしょう?」
「いっ、いいえ‥‥傍に仕えお役に立てるだけで私は‥‥」
うっかり口を滑らせて、フレイラへの密かな思いをにおわせる言葉を口にしてしまい、はっと口をつぐむレムだが、フレイラの心はここにない様子だった。
「一体どうすればミュスカに私は勝てるの?」
フレイラの周囲の照明が消え、フレイラの姿がひときわくっきりと舞台に浮かび上がる。
すると舞台の袖の闇から、にじみ出るように悪魔マルドロール(=アルテライア・シュゼル(fa2400))が現れる。青い瞳が凍りつきそうに冷やかに輝き、フレイラを射すくめる。
「どうしたフレイラ、臆したか? 取引の刻限は三日後の満月の日だぞ。心を決めるのか、それともこの私に負けを認めるか?」
「いいえ私は負けはしないわ!」
フレイラが叫んだ時、照明が再び明るみ、マルドロールの姿はその直前に闇に溶け込むように消えている。
「フレイラ様!」
呼ばれてフレイラが振り返ると、身なりは地味だが、蜂蜜色の豪華な金髪をつややかに束ねた青年‥‥宮廷画家のオルランド(=Rickey(fa3846))が胸に手を当て、恭しく頭を下げた。
「フレイラ様、失礼ながら、肖像画の仕上げをさせていただきたく‥‥」
「失礼ながら、何かお悩みでも?」
「貴方の知ったことではないわ」
「フフ、確かに。おせっかいついでにもうひとつ。宮廷の庭園の手入れをする女が、占い上手だそうです。一度尋ねて見られてはいかがです?」
◆
庭園。一人の女が、古ぼけたショールにくるまってつかれきった脚を引きずるようにして現れる。フレイラが現れ、女を呼び止めた。
「よく当たる占い師というのは、貴方?」
「いかにも、私は多少タロックを扱いますが‥‥」
「では占って頂戴。私は今、大切な取引をしようとしているの。だけど何を代価に差し出せば良いのかわからない。何を差し出せば良いかしら?」
花園の女が、うずくまってカードを取り出し、占った。と、その手が震え、カードがぽろりと落ちた。すがりつくように、女は諭した。
「悪いことは申しませぬ、今ある愛を今一度見つめなおし、大切に抱きしめなさい」
「今ある愛ですって? ‥‥残念ながら、私は愛など知らないわ。まだ少女の頃、国王に召しだされ何も知らないまま抱かれて‥‥恋よりも欲望を、私は先に知ってしまった‥‥」
「貴方は私に‥‥似ている」
花園の女は呟いた。
「お前が、私に? 一体それは何の冗談なの? もういいわ、お前の占いは的外れのようね」
フレイラは行ってしまった。花園の女は、散らばったカードを集める。と、離れたところに堕ちている一枚のカードを、踏みつける何者かがいる。‥‥マルドロールだ。
「貴方は‥‥!」
「ごきげんよう、モルガン殿。かつての国王の第一の愛人だったお方。‥‥それとも、二つ名の『白薔薇の君』の方がお気に召すかな? 美貌の上、ラテン語や占星術に通じ、外交官としても優れ、老若男女を問わず宮廷中のすべての人間から慕われた姫君」
「やめて!!」
花園の女‥‥モルガンが耳をふさぐ。
「そんな貴女が、あの時、確か一時の嫉妬に駆られ、他の女を陥れる相談をしてくれたのでしたね。そして私は彼女がかつて若気の至りで堕胎したことを教えて差し上げた」
「貴方は確かに私の望みを叶えてくれた。けれど私はその望みが叶った先を考えていなかった。‥‥それが貴方のやり口なのね‥‥」
「彼女の堕胎を密告した貴女は相手の女ばかりか医師の恨みをも買い、劇薬を投げつけられた」
マルドロールがモルガンのみすぼらしいショールを剥ぎ取った。モルガンの右頬からうなじにかけて、無残な火傷のあとが覆っていた。左半分が整った色白の面差しなだけに、無残さもひとしおである。モルガンは必死となりショールを取り返し、再びくるまった。
「お願い‥‥もう、やめて、運命をもてあそぶのは‥‥美しさも友人も愛も、全てを失うのは私だけでいい!」
「お前が何といおうと、私を止められはせぬ。たとえ私が手を引こうとしても、人間どもの欲望が私を求めるのだ」
勝ち誇った笑いを響かせ、去ってゆくマルドロール。漆黒のマントが翻る。
舞台暗転。
◆
フレイラの私室。
薬草売りの女(=アルテライア・シュゼル(fa2400)・二役)がフレイラに薬草を渡している。フレイラが素早く金を握らせると、薬草売りはそそくさと部屋を後にする。
「クックックッ‥‥王家も王家に関わる者もみな不幸になるが良いさ。悪魔と取引する者は皆、結局は自分で自分の首を絞めるのさ」
不吉な独り言を呟きながら。フレイラが薬草を床に置き、蝋燭に火をともすと、マルドロールが現れる。
「取引の内容は決まったのか?」
「ええ。なまじな策を弄するのはやめにしたわ。‥‥私の願いは、何者にも揺るがせない、王国の権力を我が手中に納めること」
「して、その代価は?」
「‥‥私の願いに釣り合う相応しいモノを、勝手に持ってゆくが良いわ」
マルドロールが大声で笑った。
「ならばその願いかなえてやろう。何が起ころうともそれはお前自身が望んだことだ」
数日後‥‥フレイラは、体に変調を覚えた。宮廷医師を召しだして調べさせると、果たして彼女は妊娠していた。
「このことだったのね! 確かに王の世継ぎを生めば、私はその後見として、絶大な権力を握ることが出来る」
内心ほくそ笑むフレイラ。国王ルドルフ(=妃蕗 轟(fa3159))も、いたく喜び、しばらくはフレイラにその愛が戻る‥‥かに見えた。
「でかしたぞフレイラ。これでわが世継ぎは安泰じゃ」
ルドルフの笑顔は、しかしどこか疲れて見えた。
「ならばもう、あのミュスカなどは用済みでございましょう?」
フレイラが妖しい笑みと共に言うと、ルドルフは一瞬視線を泳がせた。
「いや‥‥それはまた後で考えるとしよう」
曖昧な答えが不満ではあったが、フレイラはそれ以上追求はしなかった。ルドルフが素直に妊娠を喜んでくれたことが、自分でも意外な程に気分を高揚させていた。
「フレイラよ、しばらく狩りに出るのはやめるがよい。乗馬はお腹の子に負担をかけるというぞ」
ルドルフの気配りも嬉しい。
(「この優しさも、これからは、私だけのもの‥‥」)
フレイラの中に、そんな満ち足りた思いが突き上げてくる。生まれて来る子と三人で庭園を散歩したり、歌劇に出かける想像がフレイラの胸をときめかせた。フレイラの心の冷たい何かが囁いた。
(「お前が求めていたのは、そんな甘ったるい幸せなどではないはずだ。揺るがぬ権力の座、ではないのか」)
だが、権勢を振るう自分の姿を思い描こうとしても、実感が湧かなかった。
(「なぜなの? 私が真に求めていたのは‥‥一体何だったの?」)
「では、乾杯!」
フレイラの逡巡をよそに、国王側近の貴族の一人が杯を上げた。ルドルフも笑顔で杯を上げようとしたが‥‥ぽろりと杯がその手から堕ちた。ゆっくりとルドルフの体が横様に倒れる。
「陛下!!」
フレイラは心からの悲鳴を上げた。
◆
ミュスカのいる地下室。ミュスカの幼馴染・ティオ(=加羅(fa4478))が密かに忍んでくる。ティオは国外追放されていたが、国王陛下が病に倒れたという噂を聞いて、ミュスカの身の上を心配し、密かに戻ってきたのだった。
「ミュスカ‥‥聞こえるかい。可哀想に、さぞ心細かっただろう」
「ティオ!?」
ミュスカは幽閉された部屋のドアに駆け寄り、恋人の声に耳を澄ます。
「ああ、ティオ‥‥どうして来てしまったの? ‥‥あなたの顔を見たら‥‥私」
「国王陛下は病で倒れられたらしいって噂で聞いて、矢も盾もたまらなくなって‥‥陛下が病なら、もう君が父上の犠牲になる必要はない、そうだろう? それにフレイラ様は気まぐれなお方だ、陛下の目がなくなったら、君をどんな目に合わせるかわからないよ」
ティオは針金を錠に差し込み、部屋の掛け金を外す。開いたドアから、だがミュスカはためらってすぐには出ようとしなかった。
「私の病気が感染ったら‥‥?」
「きれいな空気を吸えばきっとよくなるさ。どこか遠い場所へ行こう、ミュスカ。馬達は俺のことを忘れていなかったよ、どこへでも連れて行ってくれる」
腕を広げた恋人の胸に、ようやくミュスカは飛び込んだ。
と、異様な物音が宮廷中に響き渡った。オォォ‥‥と高く低く、すすり泣く声。
国王の崩御を嘆く人々の声なのだ。
「もしかしたら陛下が‥‥!」
「行こうミュスカ、この騒ぎなら誰も俺達を見咎めたりしないさ。今が絶好のチャンスだ」
「でも‥‥」
ためらうミュスカを、ティオは説得し、とうとうミュスカも折れた。なんと言っても愛するティオと逃げられる絶好のチャンスなのだ。
「少しだけ‥‥祈らせて」
ミュスカはそういって立ち止まった。
最後に会ったフレイラがとても寂しげに見えたことが、ミュスカの心にかかっていた。
「主よ陛下の魂を、安らがせたまえ‥‥そして陛下を失ったフレイラ様をお守り下さい。アーメン」
それ以来、恋人達の姿を見た者は誰もいない。
◆
喪服のフレイラが一人佇む。金髪が黒に映えて凄艶さすら漂っている。フレイラは手に、宝石で飾られた王冠を手にしていた。
その傍らにマルドロールが現れる。
「いずれお前の子供がその王冠を継ぐであろう。そして権利の実質は、幼子の母であり後見であるお前のものとなるのだ。どうだ、満足か、フレイラ?」
だがフレイラは空ろに呟く。
「失ってから気付くだなんて‥‥陛下がわたしの傍らに居て下さるだけでわたくしは幸せだったのに‥‥」
「ではルドルフの幽霊に合わせてほしいか?」
一もにも無く、フレイラは会わせて欲しいと頼む。さらなるどん底に突き落とされるとも知らずに。マルドロールの術で、ルドルフの幽霊が靄に包まれ出現する。だが‥‥
「ミュスカ‥‥ミュスカ‥‥いとしいミュスカ、傍に来てはくれぬのか‥‥」
「死して尚、愛しい女の名を呼び続けるとは‥‥おっと、愛しい女の名が『フレイラ』でないのは計算外だったか?」
マルドロールはクックッと笑う。
「‥‥‥この悪魔っ‥‥どこまで私を‥‥」
フレイラは王冠をマルドロールに投げつけるが、軽くかわされる。落ちた王冠を虚しく見つめる、フレイラ。乱れた金髪がはらはらと顔にかかる。さながらフレイラの狂気と絶望を暗示するかのように。
オルランドの筆になるフレイラの肖像が、後世に伝わっている。いかにも聡明そうな彼女の肖像は、しかしその影が悪魔に見えると人々は恐れ、聖水に清められた額に納められている。
庭園にひっそりとモルガンが立っている。
《私は今でも時々考えるのです。本当に恐ろしいのは悪魔なのか、それとも悪魔に大切なものを売り渡してしまう人間の心なのかと‥‥》
血のように赤い薔薇を抱きしめて、モルガンは呟くのだった。