照魔鏡奇譚アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
19.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/06〜12/10
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●本文
TOMI TVがお送りする青春特撮ドラマ「照魔鏡奇譚(しょうまきょうきたん)」では、ただいまキャストを募集中です。
古道具屋を営む叔父から、たまたま古い銅鏡を預かった現代の若者。しかしそれが縁で、日本乗っ取りを企む伝説の妖怪「九尾の狐」と対決することにーーそんなストーリーに、貴方も参加して見ませんか?
尚、この番組は前・後編構成になっています。今回の前編では平安時代に妖異をなす妖怪美女・玉藻の前退治。次回の後編では封印され殺生石(せっしょうせき)という毒素を噴出す石になり眠り続けていた玉藻の前が、藻(みすず)と名乗る美女として復活。再び日本支配を目論む‥‥という内容になる。と思う。(タイムスリップ状況も「現代→平安」から「平安→現代」へ逆転する予定です)。
☆ストーリー☆
三浦義純(みうら・よしずみ)は、古道具屋を営む叔父から、古い銅鏡を預けられた‥‥というか押し付けられた。
「田舎の旧家の土蔵から見つかった掘り出し物だ。この布でよーく磨いとけ。俺の勘では、由緒ある品物に違いないっ!! ていねーいに磨いとけよ!!」
と言いつけられ、ヒマにあかせて磨いていたが、
「これが鏡〜? ぜんぜん映らないじゃん」
ぽいとベッドに放り出し、「ふあ〜あ‥‥」と伸びをして立ち上がった。
しかしその時、銅鏡から声がした。
「お頼み申しまする! お助けくだされ、三浦義純どの!!」
さっきまでどんより曇っていた鏡には、美しい巫女姿の娘が映し出されており、その巫女は、義純に向かい必死で呼びかけているではないか。
「えっ‥‥嘘っ? 鏡にぜんぜん知らない女の子が映ってるー!? キミ、誰?」
「私は、鳥羽天皇が妹にて、斎宮の巫女、凪砂(なぎさ)と申しまする」
「鳥羽‥‥天皇?」
義純は耳を疑った。鳥羽天皇といえば、今から約900年前に在位した平安時代後期の天皇。美女に化け玉藻の前(たまものまえ)と名乗る妖怪・九尾の狐にたぶらかされた伝説は、職業柄古事に詳しい叔父の影響で義純も知っていた。
凪砂の語るところによれば、凪砂が「今」生きている時代では、鳥羽天皇の在世。そして鳥羽天皇が玉藻の前を側室に引き入れて以来、都で怪異が相次いでいるのだとか。
‥‥つまり銅鏡は時代を超えて、凪砂と義純を結び付けているのである。
「なんだよ、この鏡ってタイムマシン? そんなの聞いてねーよ!」
パニックに陥る義純だが、凪砂も必死である。
「お願い申しまする。兄上の様子がいつの頃からかおかしく、お優しかった兄上が、残酷で傲慢な振る舞い‥‥当代随一の陰陽博士、安部泰親(あべ・やすちか)殿に相談したところ、兄上の側室、玉藻の前が妖術で兄上をたぶらかしているというのです。ですが宮中では暴君たる兄上を恐れ、玉藻が正体を暴き、追放しようとする者とて無く‥‥。
泰親殿までが兄上の怒りを買って幽閉されてしまいました。
しかしさすがは泰親殿、囚われの身にありながら、得意の占いで玉藻の妖術に対抗しうる剣士の名を占ってくださいました。
それが貴方様の御名‥‥三浦義純殿なのです。
そして私は『魂応(こんのう)の術』にて、銅鏡を使い貴方様を呼び出したのでございます」
凪砂姫も巫女だけあって不思議な能力を持っているらしい。
「とっ、とんでもない、俺、確かに剣道やってるけどあれは単なる趣味で‥‥っ、人違い、人違い!!」
「なれど、貴殿は三浦安房介義純どのではありませぬのか?」
「‥‥そこが謎なんだよなあ。なんで‥‥占いに俺の名前が出てきたんだろ?」
「やはり、三浦義純どのなのですね? ならば、お願いでございまする。兄上の魂と宮中を縛り付ける忌まわしき呪い、断ち切ってくだされ!」
「ちょ‥‥っ、だから俺はその三浦じゃなくて〜」
「もはや猶予はなりませぬ! おいでくだされ!」
「あああああぁ〜〜〜??」
義純は、鏡に吸い込まれ‥‥
気がつくと、平安時代の斎宮の一室にいた。
「さっ、妖怪退治の第一歩。泰親殿を救出に参りましょう。衛兵どもが邪魔をするやもしれませぬが、義純殿がご一緒ならば百人力!!」
たすき掛けで張り切る凪砂姫。
「‥‥って、どーすんの俺? どーすんのよ!?」
凪砂と義純、そして安部泰親達は玉藻の前を阻止できるのか?
☆募集キャスト☆
●三浦義純‥‥現代に生きるフツーの若者。「魂応の術」により平安時代に召喚される。とりあえず、叔父からの言いつけといい、凪砂の呼びかけといい、断るのが下手。優しいともいえるがその優しさ故剣道の腕も伸び悩んでいる。
●凪砂姫‥‥鳥羽天皇の末妹で、斎宮(天照大神を祭る神社。文化的拠点でもある)の巫女。斎王となる修行中。かなり真面目で一直線だが、巫女として恋を禁じられていることを少し寂しく思っている。
●安部泰親‥‥当代随一の陰陽博士。かなりの実力者だがいかんせん秀才にありがちな世渡り下手。玉藻の正体を鳥羽天皇に進言し怒りを買い、宮中出入り禁止になっている。安部晴明の子孫
●玉藻の前‥‥鳥羽天皇をたぶらかす美女。肌があまりに美しくて衣を透けて輝いたことすらあるという伝説があります。この伝説から「エロ神々しい」という形容詞を思いついたのは私だけでしょうか。
※上記以外のキャストは確定しておりません。自由に考案の上、ご応募下さい。
尚、伝説によれば、玉藻退治には安部泰親・三浦義純の他、上総介広常(かずさのすけ・ひろつね)が加わったことになっています。ご参考までに。
●リプレイ本文
平安時代の斎宮の一室‥‥都の一角にあるここは、伊勢神宮で斎王となるべき巫女の修行の場らしい‥‥で、この事態を、どうやって切り抜け(というかごまかす)か三浦義純(=Iris(fa4578))は悩んでいた。
「参りましょう、三浦殿!」
やたら張り切る巫女の凪砂姫(=千架(fa4263))は、奥の三方に備えてあった剣を義純に渡す。
「これは斎宮に伝わる名剣・神息丸にございます。これで兄をお救い下され」
「いや、確かに剣道はしてるけどそれは健やかな心身を育む為に‥‥ってコレ本物!?」
ずしりと重い刀にビビる義純。自分は真剣を持ったこともないし人違いだと凪砂を説き伏せようとするものの、
「三浦殿ともあろうお方が、怖気づかれましたのか? ならばもう頼みはしませぬ。凪砂はたとえ一人でも、身命を賭し兄上と泰親殿をお救い致します!」
凪砂は華奢な体でよろふらしながら剣をかつぎ、突撃しようとする。
「無理! それ絶対死ぬって!!」
青ざめた義純は必死で引きとめる。
「ならば、ご一緒に来て下さりますのか?(ウルウル)」
「うっ‥‥」
やがて二人は、泰親が幽閉される蔵の前(←結局一緒に来た)。
衛士が一人、扉の前で番をしている。
「うわ、強そう‥‥って、うわ!?」
神息丸が不意に磁石に引っ張られたように動き出し、槍を払い、衛士を峰打ちに倒す。義純は引っ張られ、振り回されていただけなのだが、凪砂は眼を見張っている。
「さすがは三浦殿‥‥見事な手練」
「違うって! 勝手にこの剣が!」
と。扉がぎぃーっと内側から開いた。
「あまりに迎えが遅いので、使いたくもない式神を使うてしまったではないか」
文句を言いつつ安部泰親(=七萱 奈奈貴(fa2812))が伸びをしながら現れた。何だコイツと言いたげな眼で、現代の服装の義純をじっとり観察する。
「泰親殿、貴方が占ってくださった剣士にございます。魂応の術でお呼びしたのです」
凪砂姫が駆け寄って紹介する。だが泰親の答えは‥‥
「ん? こやつが? 残念ながら、あれからさらに占って見た結果によれば、三浦義純殿はもはや戦いの傷が元で亡くなっておる。ましてこんな優男では剣士のはずがあるまい。やはり姫は世間知らず故‥‥」
役に立たないと言いたげである。凪砂姫はがっくり膝をつき、
「‥‥私は‥‥何とお詫びを申し上げれば良いやら…使えない巫女で申し訳ありませぬ。もはや自害して果てるしか‥‥」
懐剣を取り出し、胸につきたてかける。
「やめーい! こら、死ぬなーっ!」
義純は思わず、状況を一瞬忘れて凪砂を慰めていた。
「元はといえば、安部泰親ーっ。お前が妙な占いするから、俺が巻き込まれるし凪砂姫が誤解したんだろーがっ! ってか、失礼じゃね? ‥‥つか、人違いならもとの世界に帰せえええ!」
「‥‥む? 待て。この剣は‥‥神息丸が使えるとは、見た目よりは使える男やもしれんな」
泰親は、義純が握り締めている神息丸に目を留めた。
「違う違う、この剣はお姫さんに無理やり持たされて。さっき衛士やっつけたのも剣が勝手にやっただけ。俺、無関係。なっ?」
帰りたい一心の義純は雨にぬれた子犬のような視線で訴えるのだが‥‥
「とりあえず、名だたる剣豪と名前が一緒ってことはなにやらいわく因縁があるかもしれんしな。どうせ猫の手も借りたいところなのだ」
「しかも猫の手レベルかいっ!! ‥‥結局、帰らせてくれないのかよ、おいーっ」
哀れ、泰親にがっつり手を掴まれ、御所の方にズルズルと引きずられてゆくのであった。
そして、殿上人の住まう御所周辺へと、三人は近づいていった。警備していた衛士たちが、謀反人たる安部泰親を捕らえようとかかってきたが、泰親が問答無用で殴り倒した。
「おいっ、陰陽師なのに式神使わずに殴り倒すなよ」
思わずツッコむ義純。
「言うな、幼い頃から安部晴明の子孫だからと術を仕込まれて、いい加減飽き飽きしているのだ。武道の方が性にあっている」
と拳を見せる。見ると拳には幾重にも布が巻かれている。
いよいよ天皇のいる土御門殿へと庭から近づく。
「玉藻の香の匂いがいたしまする」
凪砂が息を飲んだとき‥‥
しゅっ!
どこからか飛来した白い羽が、凪砂の足元に刺さった。
「凪砂姫をどこへお連れするつもりだ」
鋭い声がかかる。見ると、竜胆襲の束帯をまとった若い武官が立っていた。その姿を見て、ほっとした表情の凪砂が義純を振り返る。
「ご安心を‥‥この者は、近衛府判官、狗堂常陸介経定(=鷹見 仁(fa0911))。私とは幼馴染です」
「幼馴染というよりも‥‥姫を物の怪から守る護衛のような者だ。物の怪には鼻が効く性質でな」
無表情に経定は答えた。
「経定、玉藻の前を討つ手助けをしてくれませぬか」
「ご命令のままに」
と従うが、表情がどうも暗いのが気になった。が、味方は多いに越したことはない。
「行くぞ」
そろそろと、土御門殿裏側へと一同は接近して行った‥‥
◆
同じ頃、鳥羽天皇(=二郎丸・慎吾(fa4946))は玉藻の前の膝枕で、酒盃を傾けていた。
「凪砂め、戻って来ぬようじゃの。お前を狐の化身などとそしった泰親めを罰したが気に食わぬらしい」
「凪砂姫は私をお嫌いなようでございますから‥‥」
玉藻の前(=都路帆乃香(fa1013))は、瞳に憂いの色を浮かべため息をついてみせる。
「構うな、いずれ凪砂は伊勢に去る身じゃ」
「それが不安なのでございます。姫が斎王となられれば今よりさらに人望高まりましょう。その凪砂姫が、私ばかりか帝を追い落とそうとなされたらと‥‥」
と、言葉巧みに玉藻は天皇に悪意を植え付ける。もとより宮廷中に側室の座を狙う化粧巧みな美女は溢れていたが、その艶やかな肌のみならず経典までそらんじ、その知略でも天皇を魅了した玉藻である。
「いや‥‥しかしまさか凪砂はそのような‥‥」
「そうでしょうか? なれど凪砂姫はいずれにせよ危険な存在‥‥今のうちに黄泉路へ送った方が得策では‥‥?」
玉藻は迷い始めた天皇を見守り、桜色の紅をさした口元に狡猾そうな笑みを浮かべた。
りぃん‥‥
鈴が鳴る。
御簾の外にいる玉藻の側仕えの小女、真朱(まそほ=谷渡 うらら(fa2604))が御所に近づく者がいると告げているのだ。
「何事やある」
真朱は振り分け髪の小首を傾げた。
「刑部省長官・二条清嗣(=正輝 草紙(fa5139))どの、おいでにございまする」
長身の清嗣は緊迫した表情で告げた。
「先ほど怪しき輩が陰陽門辺りで衛士を倒し、この内裏へ侵入を図っておりますようで」
「ならばさっさと斬れ」
「それが、‥‥そのもの達の中に、凪砂姫がおわすようにて」
「かまいませぬ。凪砂姫も共にお斬りなされ。そのほうがよろしゅうございますわ、帝」
玉藻が横から言い、一瞬言葉を失う清嗣。
「し、しかし‥‥凪砂姫は実の妹君にして、斎王となり帝の右腕となられる御身」
りぃん、と真朱が首から組紐で下げた小さな鈴を鳴らし、知らせた。
「凪砂姫の匂いが近づいてまいりました。‥‥安部殿と、もうお二方、おのこの匂いも‥‥」
くん、とにおいをかぐ仕草をする。振り分け髪に山吹襲の小袿をまとった愛らしい姿ながら、その名の通り真朱色の瞳といい、どこか小動物めき人間離れした仕草の娘であった。と、内裏が騒がしくなった。
「玉藻の前‥‥よくもかび臭い蔵に閉じ込めてくれたな。礼を言いに参ったぞ」
安部泰親が、護衛の兵士を殴り倒しながらご在所に乗り込んでくる。
「玉藻、兄上から離れなさい! 」
緋の袴に雪白の小袿、きりりと鉢金を巻き薙刀を突きつける。
「つか俺は帰りたいんだー! 早いとこ決着つけさせてくれー!」
三浦義純、相変わらず神息丸に振り回されながらも衛士を峰打ちに数人倒しつつ登場。
「あらあら‥‥鼠が増えたようですね」
嫣然と笑い御簾から姿を現す玉藻。
「私は鳥羽天皇の刃にして盾。凪砂姫、泰親殿‥‥そなたたちの心は解せても、敵を黙って見過ごす訳にはいかんのだ!」
二条清輝が槍を構え、義純の刀を払う。
「鼠とは片腹痛い。そっちは狐だろうが。玉藻の前覚悟‥‥っ」
泰親が飛びかかろうとした時。
「経定、な、何を!?」
凪砂が驚きの声を上げる。経定がその細い両腕を捕らえているのだ。
「ご苦労であったのう、経定。これで我らの望みどおり、我ら『魔』が支配する世となるのじゃ」
玉藻がほほ‥‥と高く笑う。
「お前、凪砂姫をずっと守ってきたんじゃなかったのかよ!?」
義純は問うた。経定は言葉を搾り出すように苦しげに言った。
「俺は人間ではない。玉藻の同属なのだ。どんなに人と解け合おうとしても、所詮、人は俺の能力を恐れ、利用するだけ‥‥天狗と人間の女の間に生まれた半妖、これが俺の正体さ。どうだ醜いだろう?」
言葉と共に、その背に白い翼が衣を突き破って現れる。
凪砂は薙刀を投げ捨て、さあ斬れというように、俯いて首筋を刃の前に晒した。
「経定‥‥そんなつもりはなかったといえ、貴方に辛い思いをさせていたのですね。謝ります。その気持ちが済むのなら、どうぞ私をお殺しなさい。なれど‥‥罪もない人々を苦しめる世の中にだけは、ならぬようにしてくれますね? 信じています、経定‥‥」
「ちょっ‥‥それでいいのかよ!」
義純が叫んだ。
「何のためにこんなこと! 魔で支配する世の中だ? 誰が支配したって、人の心は自由なんだよッ! 力で縛り付けたって何にもならない! だからお前ら、もっと‥‥自分の心、大事にしろよ! 経定お前、自信持てよ。翼がどうしたよ? なんかロープレのキャラみたいでカッコいいじゃんよ?」
経定が刀を閃かせた。凪砂が覚悟を決めたように眼を閉じる。だが‥‥
「経定っ! ‥‥そなた‥‥乱心したかッ!」
玉藻が経定に腕を斬られ、流れる血をぺろりと舌で舐めとる。そうしながら、玉藻の目は青く底光りし、黒髪から耳が突き出し、背には九尾。まさに妖狐である。
コーン‥‥
妖しくひと啼きし、跳びあがった真朱が経定の膝辺りに噛み付いた、経定ががくりと膝を付く。が、刀を杖にして体を起こし、経定は不敵に笑う。
「乱心ではない。俺は‥‥自分の本心に従ったまで。士は己を知る者のために死す、と言う言葉を知っているか?」
泰親がなにやら呪を唱え、袖から出した札を投げた。それが玉藻の体にぺたりと張り付く。すると玉藻の動きが止まった。
「おのれ、泰親ぁっ」
「行け、義純!」
泰親が振り返る。
「神息丸‥‥頼む!」
義純は刀に言った。刀が、わかった、というように輝いた‥‥ように思えた。
義純は踏み込み、神息丸を振り下ろした。
「おおおぉぉぉぉおぉ‥‥!!!」
耳をつんざく悲鳴を残し‥‥玉藻は倒れた。
‥‥どれほどの間があったのか‥‥一同がようやっと気を取り直したとき、御所には玉藻のなきがらは無く、一抱えほどもある大きな石が転がっていた。それは毒気を吐く石と判明し、玉藻の呪縛が解け、別人のように穏やかに理性的な男となった鳥羽天皇の指揮で、都の外れにある神社へ、封印されることとなった。
「ふぅ‥‥こ、これで‥‥この世も穏やかになりましょう‥‥」
へたへたと石の近くに座り込む凪砂。
助け起こした義純に、「義純殿はお優しゅうございまする‥‥」と、はにかんだような笑顔を向け、はっと眼を伏せる。
先ほどまでと打って代わり、あどけない表情の真朱が近づき深々と頭を下げ、凪砂の手元に、小さな鈴を渡した。
「この鈴、お返しいたしまする。以前は命を助けていただいたというのに、玉藻の妖気に惑わされ、つかぬことをいたしました。お詫びに、次に姫が苦難に会われた折は、この命捨てても姫をお守りいたしましょう」
真朱はぴょん、とご在所の廊下から庭に飛び降り‥‥姿を消した。
こーん‥‥
遠くで、狐の鳴き声がする。
「もしや、あのときの‥‥?」
凪砂が呟く。以前、野遊びの折、狩られかけた子狐を凪砂が手当てし救ったことがあったと、義純たちは後で姫から聞かされた。
◆
「あの闘いのさなかになかなかよいことを言っていたな。見直したぞ。よかったらずっとこっちに居らぬか?」
再び義純を現代に帰すべく、逆魂応の術を行う最中の斎宮の一室で、泰親が言った。
「いや悪いけどやっぱ帰るわ。テレビも冷蔵庫もない世の中にゃ適応できそうにないし」
と断る義純。
「いや、本気で。なんなら僕の婿にしてもよい」
「って待て。男同士」
「いや、僕、女だけど」
「えっ!?」
泰親が男装の女性だと初めて知った義純、ひっくり返る。だが泰親はなんだか義純を気に入ってくれてるらしく、別れに際してがしぃ! と腕を組み、
「義純の事忘れない、君も忘れないで、忘れたら殴る。あと何かあったら呼ぶんだよ、そっち乗り込んでやるからあ!」
と涙をにじませた。義純としても、心残りはある。やっと心通じた泰親のみならず。
「どうぞ‥‥お元気でいられませ‥‥」
なぜか義純の目を見ぬようにして、儀式を進め祈る凪砂姫。
「お前の一言で、気が楽になった。俺の心はお前に救われたのだ、だからこの恩は例え何百年経とうとも、必ず返してみせるからな‥‥ところで『ろーぷれ』の『きゃら』とはなんだ?」
相変わらず、どこか寂しげな笑顔で宣言する経定。
何度も礼を述べてくれた鳥羽帝と清輝。
《きっと、またいつか‥‥》
言葉を残して、義純は鏡に吸い込まれ‥‥目を開くと、そこは元の自分の部屋にいた。
「終わったんだな」
改めて、義純は呟く。
◆
「みうら‥‥よしずみ‥‥このままではすませぬぞえ‥‥」
封印された石が、カタカタとゆれた‥‥