コテコテ娘修行中!!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 0.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/10〜12/14

●本文

 そこは、都内のとあるウィークリーマンションの一室。
「なあ、どーしても練習せなあかんのん、「ひょーじゅんご」って‥‥」
 一人の少女が、うらめしげな声を上げる。
「そらあんた、女優目指すのんに必須やで。関西弁しか喋られへんかったら、こなせる役の幅も広がらんやん」
 二十台はじめと思しい真面目そうな若者が応える。
「ええ〜っ、マジでぇ〜?」
 と、少女はコテコテの関西弁アクセントで嘆いた。中学生位の年齢と思しいこの少女は、これでも‥‥駆け出しとはいえ‥‥れっきとした女優である。
 名前は「泉本(いずもと)れいら」という。
 大衆芸能の一座でもあった親族の、子役メンバーとして舞台を踏んだ経験も少なくはない。とはいえ、関西一円のみがその一座の行動範囲であったことから、関西弁を使っての演技しか経験がないのである。
 しかし、今後はそういうわけにもいきそうにない。
 その彼女の属する一座が主な行動拠点としていた小さな劇場が、経営破たんしたのである。ほぼ時期を同じくして、まとめ役でもあった彼女の父が肝臓をいためて入院することになり、ついに一座は解散した。
 彼女の親族はそれぞれ、お好み焼き店を営んだり、鍛えたノドを生かしてカラオケ教室の先生になったり、と、ほぼ全員が舞台とは無縁の第二の人生を歩むことになった。
 その一族の夢を、れいらは託されたのであった。
「なんちゅうても、れいらちゃんは先が長いさかいな」
「そや、これから修行したら、テレビ出るような女優に転向でけるで」
 励ましとプレッシャーを一緒くたにして、親族達はれいらを芸能界へと送り出したのである。れいらは小さなプロダクションに所属し、舞台子役やCMのオーディションに取り組む日々である。
 そしてマネージャーとして、彼女の従兄である五十嵐京(いがらし・きょう)がついていてくれる。京はいたって世話好きで、少女の身で新たな世界へ旅立つれいらのために、保育士になる勉強を一時中断して、その役目を買って出てくれたのであった。
 しかし、あくまで関西のみを行動範囲としていたため、れいらのボキャブラリーと知識、そして行動パターンはあまりにも、あまりにも、関西だった。
「えっ、東京タワーって通天閣より高いん? うそぉ、赤信号で横断歩道渡ったら怒られるし!! 吉本新喜劇が番組表にあれへん〜〜!!」
 と、まあ。東京に活動拠点を移して以来、カルチャーショックの連続。おまけに父親は入院、母親はその看病のために大阪と東京を往復という寂しさもあいまってか、東京に仮住まいするようになって東京が好きになるどころか、大阪への執着に拍車がかかったらしいのだ。
 京は遠慮がちに、そんな従妹に忠告した。
「れいらちゃん‥‥いいにくいけど、あんまり豹柄の服ばっかり着るのもやめた方がええと思うで」
「なんで〜? おかーちゃんいつも言うてるもん。ヒョウ柄ファッションは関西女の心意気や、って」
 れいらはお気に入りのヒョウ柄ワンピースを見下ろす。大阪心斎橋あたりを闊歩するイケイケのおねえちゃんが着そうなそのデザインは、少々つり目の、「一言言うたら百言ぐらい言い返すでぇ〜」と言いたげなぷっくりした唇を持つ美少女のれいらに似合っていなくもないのだが。
 なんといっても、関西人の女性は、なぜか「先端的なファッション」をしようとするとヒョウ柄に行き着くらしいのである。
 これは関西七不思議のひとつと言われている。
「せやけど役の幅を広げるんやったら、もうちとお上品なファッション目指したほうがええと思うねん‥‥あと、足元がゲタっちゅうのもやめた方がええと思うねん」
 れいらは大阪が舞台の某漫画を意識したわけでもないが、常に足元に下駄を愛用していた。
「何ゆーてんのん、これ便利やで。武器にもなるねんから。チカンおったらこれでキックすんねん」
「あかんよ、下駄履くかわりに防犯ブザー持ち歩き!!」
「もう、キョー兄言うたらほんまにうるさいなあ。‥‥あ〜あ、関西弁が標準語やったらええのにな〜」
「そら無理やで。国会答弁が関西弁やってみ?
『外務大臣、この外務省の特別会計ってどういうことですのん』
『知りまへん』
『ほな外務次官、どういうことですのん』
『知りまへん』
『誰も知らんのかい! (ビシッ←突っ込み)』
『国会答弁でした〜チャカチャンリンチャンリン♪』
 ‥‥って、国家の一大事が漫才になってしまうがな!!」
「‥‥キョー兄、何一人でノリツッコミしてんのん」
 れいらは呆れて京を見やる。
 世話好きとはいえ、いかんせんほんわかキャラなのでイマイチ頼りない従兄であった。
「そっ。そや、れいらちゃん。今テレビとか舞台で活躍しとる女優さんとか俳優さんたちかて、皆それぞれ故郷の訛りを、血のにじむよーな練習で克服してんのやで。参考までに、先輩女優さんや俳優さんがどないして訛り直したか話聞いたらどやろ?」
「ふーん。‥‥まあ、それやったら話聞いたってもええわ」
「聞いたってもええわ、って、誰のためにしとる思とんねん!!」
 日ごろボケ役の京が、珍しく突っ込みを入れた。
 ともあれ二人は、関西名物みたらし饅頭(みたらし団子のタレが餡子の代わりに入ったお饅頭。個人的見解によれば美味)、関西から家宝のように大切に持参したたこ焼き機と小麦粉、等を用意して、先輩たちの訪れを待つことにしたのだった。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0984 月岡優斗(12歳・♂・リス)
 fa1465 椎葉・千万里(14歳・♀・リス)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2648 ゼフィリア(13歳・♀・猿)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3510 宝塚菊花(23歳・♀・一角獣)
 fa4764 日向みちる(26歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●おやつタイムは異文化交流!?
「こんにちはー」「お邪魔しまーす」
 先輩俳優達が、れいら達の住むマンションの部屋を訪れる。
「うわあ☆ これ、懐かしいわぁ」
 れいらと同じく関西人の宝塚菊花(fa3510)が、玄関の靴箱の上に飾ってある「食い倒れ人形」のミニチュアを撫でた。
「はい、これ。こちらからのお土産‥‥たこ焼きご馳走になるって聞いたから」
 と、姉川小紅(fa0262)がにこりと笑いかけつつ、玄関で出迎えたれいらに、「東京ばな奈」なる東京名物のお菓子を差し出した。
「うわぁい! おおきにー!」
 れいらはポニーテールをぴょこんと揺らしてお礼をいい、満面の笑みを浮かべて受け取った。
 続いて入ってきたエミリオ・カルマ(fa3066)の金髪碧眼と、
「Hola.Mucho gusto.Me llamo Emilio Calma!」
 という、母国語の挨拶に眼を丸くして驚く。
「えっと‥‥あの、は、はろー?」
「今のは、「初めまして、エミリオです」って意味のスペイン語ね。あ、エミリオは、俺の名前だよ。オーサカの人の挨拶は、モウカリマッカ? ‥‥っていうのかな?」
「そんなん今時の大阪人は使わへんて! けど、おもろい! この外国の兄やん」
 れいらはうひゃうひゃと笑い転げる。
「寒いところを皆さん、ありがとうございます。よかったら今からたこ焼きしますんで、あったかいところ召し上がってください」
 エプロン姿の五十嵐京がぺこんと頭を下げる。
「たこ焼きとか、いけるん?」
 れいらはエミリオを気づかった。
「んー、事務所で聞いたところによれば、エンパナーダスみたいなモノだよね?」
 エミリオは小麦粉の皮に肉やその他の食材を包んだ母国の料理名を口にして首を傾げる。
「そないシャレたもんやないですよ〜お口に合うといいけど」
 と、早速焼けた一皿を差し出す京。エミリオは最初勝手が分からないようでソースをかけずに口にしようとしたり。だが、小紅が早速、お手本とばかりに、
「こうやって、ソースと青海苔かけてー、爪楊枝で口に‥‥ほふっ、あひゅっ! なかがあひゅいから、ちゅういひて!!」
 説明しながら中身がとろりと熱いのを勢いよくほおばって、涙を浮かべていた。だが京に冷えたビールを差し出され、また笑顔になる。
「ビールとまた合うんだこれが」
「仕事忘れてるね、おねーさん」
 月岡優斗(fa0984)が突っ込んだ。
「まあ食べてる間は雑談風でいいんちゃいます?」
 と京。
「‥‥そうなの? んじゃ俺も‥‥ごはんねーかな」
 と優斗。関西出身でもないのに「粉もん」をおかずにご飯が食べられると聞いて、京が自分用に焚いていたご飯をよそいつつ、
「おぉ、異郷の地に同志を見つけた!」
 といたく感激していた。かくて少年と青年が並んでたこ焼きをおかずに白飯食べる光景が展開。
「東京のお菓子も結構いけるなあ」
 小紅のお土産をさっそく開いて味見して、れいらがおもむろに感想を述べる。
「でしょ? 関西のスイーツはレベル高いそうだけど、東京だって捨てたもんじゃないわよー。○のケーキなんか旬の果物使っててお勧めよ。あとはBビルのカフェでよくケーキバイキングやるの。ここはハーブティも充実してるよー。あと和菓子ならK屋とね‥‥」
 飲食関係データバンクのごとく滔滔と述べる小紅に、女性陣の「へえー」という尊敬の眼差しが集まる(ただし男性陣引き気味)。
「えーと。ところで、方言の克服方法ですけど皆さん、どんな風にされてるんですか」
 空気が和んだところで、京がそんな風に切り出した。
「あたいは半分芸人やさかいに、このままでもええやろとは思うけど‥‥な。今日は一緒に標準語勉強するノリで来さしてもらったんよー。イントネーションの違いを考えるとか‥‥」
 と菊花。
「うちも関西人やけど、曲芸師やし、標準語特に勉強する必要はないと思うてるねん。女優さんは大変やなあ」
 とゼフィリア(fa2648)。
 具体的な標準語習得体験が無いことに、京は少しがっかりしたようだ。しかし、ゼフィリアが、
「ゲーム感覚で『関西弁禁止タイム』なんて作って、使ったら罰金にするとかいうのはどうやろか?」
 と提案したので、京も曇っていた顔を和ませる。
「それ、いいですね。れいらちゃんもゲームは好きやし。じゃ、たこ焼き食べてる間は全員が方言全開で行きましょう。食べ終わったらレッスンタイムってことで」
「それ、いいかもしれません。でも、めいめいが方言全開だとなかなか通じなくてでーれーいじましいんでない? 私のほんまの言葉はこれじゃけぇ」
 大人しそうな高白百合(fa2431)がいきなり岡山弁を全開させたので、一同は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「今、なんて言ったの?」
「岡山弁で、「非常にもどかしい」ってことなんですけど‥‥」
 百合は、東京に住んでいて、憧れの存在でもある親戚の娘さんの口調を必死で真似て標準語を習得したと語る。
「憧れの人なら自然と真似したくなりますわな。‥‥ふむふむ、目標の人を持つ‥‥と」
 京がさっそくエプロンのポケットからメモ帳を取り出し、書き込む。
「でも‥‥そうすると今度は、砕けた喋り方を身に付けるのにすごく時間がかかってしまったりしたのですが‥‥」
 その喋り方もだが、淑やか風の外見に囚われて役の幅が狭まらないよう、特撮ものやアクションにも挑戦していると語る。だが、そう言いながらも百合は、たこ焼きを大口あけてほおばらずにきちんと二等分してから口に運ぶ。口調も仕草もあくまで清楚風なのである。
「よく、某公営放送局のアナウンサー風だって言われます。でも私は頑固に今の口調でいようと思うんです。今の日本で、綺麗な言葉って財産でもあると思いますから‥‥れいらさんもバラエティなんかで聞く乱れた日本語を標準語と勘違いして真似しない方がいいですよ。しっかりした基本を作ってから崩すならともかく、最初から崩れた言葉を覚えたら正しい言葉に直すのが大変ですから」
「うん。そしたら百合さんみたいに綺麗に話せるようになるかなあ。岡山弁の百合さんもええなってれいらは思うけど、な」
 れいらは百合の忠告にこっくり頷いた。
 続いて京は、
「そういえば、千万里さんはハーフで、しかも活動拠点は関西ですやん? 外国語と日本語の使い分けだけでも大変そうですけど、どやって標準語の勉強されました?」
 と、みたらし饅頭をつまんでいる椎葉・千万里(fa1465)に話をふる。
「コホン、まずは、テレビを見ながらアナウンサーさんが喋ってるのを真似するところから始めました。あとは‥‥いつも近くに居る人に、関西弁が出たら指摘してもらうようにして‥‥あかん、まだ標準語やとあんまり長いことしゃべられへん〜」
 真面目に話し出した千万里だが、まだ完璧とはいかないようだ。
「真似もだけど、これから東京で沢山の人と友達になって話してさ、耳で聞いて自然に覚えるってのも大事だと思う。俺なんかそうだよ」
 と、優斗がちょっぴり先輩風に言うと、れいらは同世代ということでライバル心に火がついたのか、
「そらまあ、ちっこいうちの方が言葉馴染むのん早いわな」
「ちっこいって言うな!! そっちこそ、その服のセンスなんとかしろっつの。ヒョウ柄に下駄はないだろ、下駄は」
「ほっといてんか!!」
 際限なく喧嘩が続きそうなので、 京がれいらを部屋のすみっこに引っ張ってゆき、こそこそと耳打ちした。
「ちょっ、れいらちゃん。優斗君とは仲良うしとき。同世代やろ? お互い大人になって共演するかもしれへんやろ? ‥‥優斗君が成長してヤンチャ系のイケメンになったとこ想像してみ?」
「‥‥(想像中)‥‥ゆーとくぅん、みたらし饅頭、れいらの分も食べてええよ☆」
「な、なんだよいきなり裏声出して」
 訳が分からず怯える? 優斗。
 一方、京はメモを片手にエミリオに質問。
「エミリオさんは、ゼロからスタートで日本語習得されたんですよね? 何かコツとかありました?」
「音楽、かな。下手の横好きだけど、両親の影響でタンゴとか、知識としてはある程度知ってるつもりなんだ。それで音楽用語とか興味のある分野から単語覚えて。音楽と言えば、カラオケで標準語勉強するのはどうかな。京さんもれいらちゃんもヒット曲歌うときは関西弁で歌わないよね?」
「なる程‥‥語尾の変化とか身に着けるのにはいいですね」
 京は真剣にメモしている。
「でもなんで『もうかりまっか』とか知ってたん?」
とれいら。
「丁度今、役の幅広げようと思って関西弁を勉強してるんだ。れいらちゃんと逆だよね。なんなられいらちゃんが標準語覚えるのとどっちが早いか競争しようか?」
「ん!! 負けへんでー!」
「俺が勝ったら、一緒にサッカーのアルゼンチンチーム応援してよ?」
「ほな、れいらが勝ったら一緒に《大阪パンサーズ》応援してや!」
 と、れいらは関西地元のプロ野球団の名を口にし、気合がっつりでエミリオと腕をクロスさせた。
「あっそうや、歌って標準語の勉強なるんやったらいつかこの面子でカラオケ行かへん?」
「おっ、いいね」
 とエミリオ。
「つうか、その前に東京のケーキ食べ歩きして、腹ごなしにカラオケっちゅうのんどう?」
「おっけー! まっかせといて」
 と小紅。
 もしその企画が実現するとしたら、幹事は多分、一見清楚な着ぐるみ好き女優のあの人だろう。

● 標準語で話そうよ!
 おやつを食べ終わり、標準語で話す時間となった。
「大阪弁が出たらこれで突っ込み入れてやろっか? ほーれ地獄の特訓開始!」
 と、ハリセン片手に優斗がからかう。
「やっかましーわ‥‥じゃなかった、そんな乱暴なことはおよしになって」
 とれいらはツーン。お嬢様語と標準語を混同しているようでもある。
「まずはれいらちゃんが演じたことのある舞台の脚本を関西弁から標準語に読み替えるっていうのはどう?」
 という小紅の提案により、まずは、れいらが過去に演じた舞台の脚本を、標準語に読み替えるレッスン。だが‥‥
「うち‥‥じゃなくって、えと、私のお父さんは死んだんとちゃう‥‥じゃなくて、あー、うまいこといけへんなー‥‥あっ」
 口を押さえるがもう遅い。つい関西弁になってしまい、がっくり肩を落とすれいらを、日向みちる(fa4764)は励ました。
「大丈夫、努力さえ続ければ夢は必ず叶います」
 長身で、歌劇団の男役だけあって長い脚にジーンズをまとい、颯爽とした風情のみちるに言われると、れいらもちょっぴり乙女の顔になる。
「‥‥けど、みちるさんも同じ関西出身やのになー。なんでこない違うんやろ。みちるさんはほんま、洗練されてるって感じ」
「それは、やはり歌劇団付属の学校に通ったお蔭でしょうね。舞台だけでなく演技全般、歌、踊り等を教えてくれるし、全寮制なので色々な地方出身者と一緒に生活して自然に方言が消えていくんです。それにね、エミリオさんも言っていたけれど、れいらさんも歌は標準語で歌うでしょう? 台詞から歌へ移行する歌劇って、標準語習得にはすごくプラスになりますよ。一見遠回りのようでもね」
「そうかあ‥‥れいら、ミュージカル大好きやねん」
 れいらは安心したように笑顔を取り戻した。
「それなら、歌劇団の付属学校、受験してみませんか? 競争率高いけどトライするだけでも絶対何か新しい発見がありますよ」
「うん‥‥でも、おとーちゃんが治ったらまた一緒に共演したいから‥‥歌劇団はやっぱり憧れの世界やな。でもみちるさん、おおきにな。‥‥じゃなかった、ありがとう。ちょっと元気出てきた」
 とにっこり笑うれいらに、
「そうそう、やる気と笑顔、失わないようにね!」
と小紅が励ました。
「そういえば、小紅さんて東北出身や言うてはったっけ。訛りとか、どうやって直したん?」
「できるだけ楽しく練習するようにしたなあ。自分の好きなドラマのヒロインになりきって標準語の台詞喋って見たりね。でも楽しいばっかりでも駄目だから、ちょっとだけ自分を追い込むの。あたしの場合は酒断ち」
「ほなれいらの場合は‥‥たこ焼き断ち?」
「やってみる?」
「うん! ‥‥だってな、一緒に大衆演劇やってた親戚のおっちゃんとかおばちゃんとかお父ちゃんとかお母ちゃん、皆れいらに夢預けてくれてんねんもん」
 と、れいらはちょっぴり大人びた顔を見せた。
「頑張って。つらいことあったらメールして下さいね」
「焦らずに一歩一歩、精進していきましょう。れいらさんはまだ若いんだし」
 百合と、みちるが口々に励ました。
 そこへ優斗がちょっぴり悪戯心を出して、ツッコむ。
「あー、でも服のセンスなんとかしろよ。下駄はないだろー、下駄は」
 ひゅっと拳を後ろに引いてスクリューパンチの構えをしたっぽいれいらだが、すぐに何か想像したらしく。 
「‥‥(想像中)‥‥がんばっていい女になるわ☆ ゆーとくぅん」
「だから、その裏声は何ッ!?」
 彼女の脳内にどんな映像が浮かんでいるかを知らぬ優斗はおびえるのであった。
 ◆
 その夜。
 京とれいらは、来てくれた先輩たちに、お礼を言って送り出した。また会おう、という約束と共に。
「しっかし皆、よく食べたなあ‥‥いい人ばかりでよかったけど」
 京が後片付けと皿洗いをしていると、
「もしもし、おかーちゃん? 今日、芸能人の友達いっぱいできてん。歌劇団のタチの人かっこよかったでぇ! それに『ぷにっと☆』のユート君に会うてんで。ビックリ! そんでな‥‥」
 母に電話しているらしいれいらの声が聞こえた。
 京はなんとなく笑顔になりながら、客用の皿をキュッキュッと磨いた。