青空☆ミュージックアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
17.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/13〜12/17
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●本文
ミュージカル舞台「青空☆ミュージック」では、ただいまキャストを募集中です。
終戦まもない頃の日本。とある小さな町を舞台に、戦争の残した心の傷から立ち直るため、楽団を結成して行く人々の友情を、音楽とダンスで綴るミュージカルです。
作詞作曲者・楽器演奏者・歌い手、同時に募集中です。
☆ストーリー☆
終戦から3年――。
焼け跡だらけのとある町。人々は第二次世界大戦の悲劇から立ち直ろうと懸命だった。
バラック建ての闇市が立ち並ぶ町。
わずかな物資を求めて人々が集まり、いがみあう。ささくれた日々の中、ラジオから流れる音楽が小さな潤いだった。
子供達がラジオから流れる歌にあわせ、無邪気に歌い踊る姿を見て、人々はふと思い立つ。
「みんなで力を合わせて音楽を演奏しよう。そして自分も癒され、聞いてくれる人々をも癒そう‥‥!」
やがて、音楽を愛する仲間が集まり、本格的な練習が始まる。
「青空ミュージック楽団」
‥‥それが彼ら仲間の名前と決まった。
だが、集まったメンバー達の運命には、戦争の影が色濃く残っていた。
貧しさゆえの葛藤。
米兵とオンリー(=米国人の愛人や恋人に対する蔑称)の子として生まれ、差別に苦しむ混血児。
同じ部隊の仲間が全員命を落とした中で、一人生き残った罪悪感に苦しむ元軍人。
過酷な試練をはねのけつつ、メンバー達は、ようやくレコード会社との契約への足がかりをつかむ。
だがその時、メンバーの一人が被爆による白血病で倒れるという、最大のピンチが訪れる。
「青空ミュージック楽団」の夢は叶うのだろうか‥‥
●リプレイ本文
●本番前
「いい曲をありがとう。上演時間の都合で、全ては取り入れられなかったが」
舞台監督は、テーマソングともいえる「アオゾラミュージック」を作詞作曲した乾 くるみ(fa3860)と、谷渡 初音(fa1628)にそう礼を述べた。
「いえそんな。それが私達のお仕事ですから」
と気の強い役柄とは打って変わり、いかにも幸せ奥様な笑顔を浮かべる初音。
「出来たら乾さんも舞台に出てもらいたかったけど‥‥」
「いやあ、役作りよりは音楽作りが性に会っていますよ」
と言う乾に、舞台監督はにやりと、
「そうかな? 最近ヌイさんのスーツ姿目撃した奴がいるんだけど何の撮影? それともあれ、変装?」
「‥‥ぎく」
●舞台本編
バラックなどの廃材や、ドラム缶などが並ぶ闇市の片隅の空き地。ラジオから流れる「買い物ブギ」の歌に乗り、踊っている子供達。彼らに微笑を送りつつ、地味なブラウスにもんぺ姿の水谷桜子(=都路帆乃香(fa1013))が、人ごみに押されるようにして歩いてくる。
やがて一銭洋食屋の店先。
葛城 文(かつらぎ・あや=谷渡 初音)が鉄板を叩きながら歌っている。
店先に、椅子代わりにミカン箱が並べてあり、その一つに文の息子で混血児の大地(=大海 結(fa0074))が座り、体でリズムを取りながら唱和している。
「ほら起きた
朝だよ朝だ
お粗末だけれど
あったかマンマ
今日も仕事に
学校勉強
一日動く活力だよ
鉄板じゅうと熱く焼ければ
今日も元気に店開き
大人も子供も千客万来
小銭ぎゅっと握り締め
今日もおいでようちの店」
「あの‥‥お上手ですね」
桜子が声をかけると、文は手を止め、歌っていた陽気な顔を、敵意のこもった眼差しに変えた。
「ああ、水谷先生。今日は何か御用ですか」
「大地君‥‥今日も学校に来ていなかったから、これ‥‥」
桜子は、教材を差し出した。「ごめんなさい、今日も学校行かなくて‥‥」俯いて大地が受け取る。
「いいのよ。明日は、来れる?」
「ちょっと先生。もうこの子に構わんといてくれませんか? この子も私ももう、うんざりですねん。この子の親がアメリカ人やからて、同級生にどないひどいこと言われたか」
文の尖った声が割り込んだ。
「あの、でも‥‥私、考えたんです。大地君、音楽がとてもスキだし、歌がお上手ですよね? 今日、学校にGHQの視察官が来て、これからの日本の子供達には、情操教育が必要だって指導を受けたんです。芸術に触れるとか‥‥それで、私、生徒達を中心に楽団を作ったらどうかなって‥‥子供達は皆、音楽が好きでしょう? それに大地君の才能が皆に伝われば、とやかく言う人もいなくなるんじゃないでしょうか」
一瞬心惹かれたのか手を止めるが、文は、
「確かに大地は歌好きですけど、そんな夢物語‥‥第一、私らは歌ってる暇あったら日銭稼がなあかん。これが現実ですねん」
と再びコテを手に、一銭洋食を焼き始めた。
肩を落とし、桜子が去ってゆく。
「母さん。先生が言ってたみたいに歌で認めてもらえたら‥‥僕が混血だから色々言われなくてすむのかなあ」
ぽつりと大地が言う。
「そらあんたは可愛い顔しとるし、声もええ。けど人前に立つのはやめた方がええわ‥‥あんたが傷つくだけや。皆、混血児をどんな眼で見るか知ってるやろう?」
「‥‥うん」
しょんぼりする大地に、文もふと痛ましそうな表情を浮かべる。だがすぐに、
「さ、仕事仕事。今日も稼ぐよっ」
自分を励ますように、声を張り上げた。
◆
桜子が疲れた様子で歩いている。
道端で、ハーモニカを吹いている少年がいる。
ふと、脚を止める桜子。少年と眼が合う。
「上手ね」桜子が微笑むと、少年は照れたように笑い返した。
「貴方、名前なんて言うの?」
「秋谷真人(=陸 和磨(fa0453))」
「今の歌、なんて曲かしら? 聞いたことない歌ね」
「あ‥‥父さんの国の歌なんだ‥‥そういうと皆、嫌がるけど‥‥」
眼を伏せる真人の髪は、淡い色が混じっていて身長も日本人離れして大柄だった。
「私は、別に嫌じゃないわ。これからはアメリカと仲良くやっていかなくちゃならないんだものね」
「だよね? でも俺、ホントに得意なのはウッドベースなんだ! 父さんが教えてくれた。父さんは進駐軍クラブで時々演奏してるんだよ」
音楽がよほど好きらしく、眼を輝かせて熱く語り始める真人。だが、
「誰に断って音楽なんかやってんだい」
目つきの悪い男数人を従えた派手な女が、腕を組んで楽団をにらみすえていた。闇市を仕切るテキヤの親分の女であるらしい。
「ガキが、音楽で銭稼ぎかい! ならショバ代払いな!」
「NO! それは父さんにもらった‥‥」
ハーモニカを男たちにもぎ取られ、真人が叫ぶ。
と、米軍のジープが止まり、そこからGHQ高官らしい立派な軍服の米国人と、渡雅邦(=笙(fa4559))が降りてくる。GHQ高官はテキヤ達に鋭く何か言い、渡が通訳した。
「その音楽を止めるなといっている。音楽は必要だ、復興の励みになる‥‥と」
派手な女はけらけらと笑った。
「ああら、よく見れば、戦前はこの辺の地主だった渡一族のご当主じゃない? 元華族のお坊ちゃまで、海軍えり抜きの714艦隊の生き残りが、今じゃGHQの犬とはねえ。みじめだこと」
雅邦は黙って男たちからハーモニカを取り返し、真人に手渡してやる。
占領軍兵士達が闇屋達を連行していった。渡が思いついたように振り返り言った。
「さっきの曲だが、リズムはこうとる方がいいと思う」
ゲートル巻きの長い脚で、トントン、‥‥トン‥‥とリズムを刻む。
「OK」
真人が嬉しそうに頷く。
「音楽の心得がおありなんですね? ‥‥あの、力を貸してくださいませんか? 私、楽団を作りたいんです」
桜子が熱く問いかける。渡はかぶりを振った。「お願いです」と食い下がる桜子に、
「人に何かを教えるってことは恐ろしいことだよな‥‥」
渡はぽつりと呟く。
「俺は指揮官として海軍に配属された。そして俺は、目を輝かせて俺を迎えてくれた初等兵達に、国の為に命を犠牲にすることがさも素晴らしいことであるかのように教えたんだ‥‥特に俺を慕ってくれた少年兵がいてな‥‥そいつは俺の言うことなら何でも信じてくれた‥‥そいつは爆撃の時、俺を庇って‥‥。もう、人に何かを教えるのは御免だ」
黙りこくった桜子に背を向けて、大股に渡が歩み去ろうとする。
「待ってください! ‥‥悔いが在るなら、やり直すべきじゃないでしょうか? 生きてる限り、時間はある。死んでしまった人にはもう時間がないから、貴方が代わりにしっかり生きて、その人たちのために出来ることをしてあげるしかないんですよ?」
背中を向けている渡は、一瞬脚を止めるが、また去ってしまう。追いかけようとした桜子がふらりと倒れて‥‥
「大丈夫? 誰か‥‥!」
真人の呼ぶ声に、文と、大地が駆けつけてくる。
◆
文の営む一銭洋食屋に、高田浩介(=氷咲 華唯(fa0142))が尋ねてくる。
「すみません、こちらに桜子従姉さんがお世話になっているって聞いたもので」
文がエプロンで手を拭きながら出てくる。
「はあ。店の近くていきなり倒れはって‥‥ほうってもおけませんのでうちで横になってもろうてます」
「お世話をおかけしました」
きっちりと頭を下げる浩介。
「ほんまにビックリしましたよ‥‥けど、ずいぶん先生の体が軽いんで余計びっくりしましたわ。これ‥‥うちで焼いたもんやけど、先生に上げてください。先生、しっかり食べてはらへんのと違いますか?」
文は浩介に一銭洋食の包みを渡し、桜子を奥の部屋から呼んできた。青ざめた桜子が現れ、浩介と文に頭を下げた。
「ごめんね、浩介ちゃん。心配かけたわ。‥‥葛城さん、お世話になりました。お礼はまた改めて」
「最近、よく貧血起こすね?」
気遣わしそうに浩介が言う。
「そうねえ、こんなことで疲れてちゃ駄目よね」
「違うよ、無理しすぎなんだよ姉さんは。疎開先の広島でもずいぶん辛い目にあったって聞いたし‥‥今は音楽よりやることが色々あるだろ? 自分が幸せになること考えなよ。楽団作りなんて辞めてさ、そろそろ若い人も復員して来てるんだからお嫁に行く相手でも探せばいいじゃない」
現実家の浩介の言葉に苦笑する桜子。
「お嫁には行かないわ」
「そりゃ、教師の仕事がすきなのはわかるけど‥‥」
「違うの。浩介ちゃん、もう、あまり時間がないかもしれないから、ちゃんと話しておくわね。疎開先の広島で私‥‥見たの。「ピカ」を」
重たい沈黙。
「小学校って、いろんな噂が入ってくるの。原爆症ってね、直接熱線を浴びて無くてもゆっくり現れるんですって。だから覚悟はしてたけど、やっぱり怖いわ‥‥死ぬのは。せめて生きた証に、楽団を作りたいと思って‥‥でも、時間がないかも‥‥」
「従姉さん‥‥」
言葉をなくす浩介。
「先ほどは失礼した」
やや掠れた聞き覚えのある声。その主が桜子の前に立っていた。渡だ。
「言ったよな、生きている限りやり直せって」
「楽団に、参加してくださるんですか?」
渡は抱えていたギターを示した。
「学生時代道楽でやってた。どうせ天涯孤独の身だしな。俺も、この楽器も‥‥擦り切れるまで使ってくれ」
「Hi! 父さんがウッドベース、貸してもいいって」
真人がハーモニカを手に現れる。
「先生、僕も‥‥母さんが店仕舞の後なら、音楽やっていいって許してくれたよ」
遠慮がちな声と共に、大地が追いついてくる。嬉しそうに桜子が問いかける。
「楽団の名前、なんにします?」
「青空の下で演奏する、青空楽団ってどう?」
「青空ミュージック楽団‥‥でどうだろう。日本だけでなく外国まで幅広く網羅する雰囲気が出ないかしら」
と、桜子。
「青空ミュージック楽団‥‥! いいですね。すごく自由な感じがして‥‥」
嬉しそうにハモニカを吹き鳴らす真人。それに合わせて、大地が嬉しくて体が跳ねて仕方が無いと言うようにとんとんと軽くステップを踏む。渡が転がっていた棒きれでドラム缶を叩いてリズムを取る。
やがて歌声がリズムに乗り、唱和する。
〜アオゾラミュージック〜
知ってる?
この青くて広い空には
境目なんてないんだ
どこまでも続いてるんだ
知ってる?
元気のいい皆の声は
皆の心明るくするんだ
どこまでも響いてくんだ
時は待ってはくれないけど
僕らが追いかけていく事は出来る筈
さあ俯くな 顔上げて 胸張って
腹の底から声を出すんだ
この青い空いっぱいに
さあ逃げ出すな この地から 自分から
僕らの歌声が 音楽が
きっと皆の笑顔 作るから
◆
そしてある日。今日も青空ミュージック楽団は練習のために裏路地に集まっていた。
「先生、遅いね」
大地がまだ現れない桜子を気遣った。
「すみませーん。キミたち、『青空ミュージック楽団』だよね?」
身なりの良い若い男が声をかけてきた。
「はあ‥‥どちら様?」
皆は名刺を受け取り、「富樫レコード‥‥企画課係長‥‥沢木 陽一!?」 有名会社の名前を見て驚く。
沢木(Rickey(fa3846))は町で青空ミュージック楽団が演奏する様子を見て、ぴんと来るものがあったと熱心に語った。
「演奏内容もなかなかのものだし、小学校の女の先生が結成したってだけでも話題十分じゃないですか」
一度、レコード会社が出資する大ホールで演奏してもらい、その演奏を上司達に聞かせて契約かどうかを決めたいと、沢木は熱っぽく言った。
沢木の去った後に、浩介が現れる。
「桜子従姉さんは、来れないんだ」
「どうして?」
いぶかる面々に、浩介は説いた。桜子は白血病を発症し、もう長くはないのだと。
「そんな‥‥先生の励ましがなくちゃ」
動揺する真人を、内気だった大地が励ました。
「先生のためにも、絶対契約成功させようよ。僕だって人前に出るの怖かった。でも先生が変えてくれた。差別されても、それが僕なんだって思えるようになったから‥‥だから僕はもう引き下がったりしない」
楽団の人々は、いつしか固く握手を交わしていた。
そしてーー
大ホール。青空ミュージック楽団の面々が演奏の用意をして華やかなライトを浴び、舞台に並んでいる。
舞台の袖に文が、やせ衰えた桜子を支えるようにして並んで立っている。桜子は純白の、文は黒いドレスを着ている。
「衣装、貸してくださって‥‥ありがとうございます」
「今日は、晴れの舞台なんですからね。私のお古のドレスで申し訳ないですけれど‥‥」
「それにしても、驚きました。大地君のお母様が、元歌姫の『桂木フミ』さんだったなんて‥‥」
桜子は弱弱しいながら笑顔になる。文も泣き笑いを浮かべた。
「ええ。慰問に借り出された先の戦地でずいぶんひどい目にあって、だから息子には歌の道を目指して欲しくなかったんです。でも、やっぱり‥‥蛙の子は蛙なんですね」
「先生、始めようよ」
大地が笑いかける。
「アオゾラミュージック」が流れる。明るく陽気に、どこか寂しさをもたたえて。
大地のよく通る声が歌う。渡のギターがしっかりと主旋律を導く。真人のベースが支える。今は団員となった浩介の声が大地とハモる。
文のコーラスが華を添えた。
「先生、どうだった?」
「やったよ、富樫レコードが契約してくれるって!」
口々に、演奏を終えた楽団員が桜子のもとに駆けつけ告げる。だが、桜子を支えている文がゆっくりと首を振る。
桜子の体からは、もう全ての力が抜け、文がそっと腕を傾けると、純白のドレスの桜子は花が萎れるように舞台に横たわった。
「なんて幸せそうな顔をして‥‥」
文が呟いた。