コテコテ娘の武者修行アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/21〜01/25

●本文

 ある日の昼下がり、東京の某所にあるウィークリーマンションの一室にて。


「キョー兄のあほんだらあほんだらあほんだら! なんちゅーことすんねん、そんな仕事とって来るなんてぇ!!」
 あほんだら教の教祖さんですか君は。
 とりあえず、そのフグみたいにほっぺた膨らませるのをやめなさいっ。
 ひとつエヘンと咳払いをして、僕は従妹の女優の卵‥‥泉本れいら、14歳‥‥にじっくり言い聞かせることにした。
 僕は現在、彼女のマネージャーを勤めている。
 元々僕らはれいらの父親が座長を務めていたいわゆるドサまわり一座の役者だったのだが、その座長が肝臓をいためて入院したのを機に、それぞれ別の道を歩き出すことになった。
 れいらは一座の中で一番若いこともあって、テレビや舞台で通用する女優を本格的に目指し始め、一座の期待を背負って上京してきた。
 だが、れいらにはいかんせん「苦手」が多い。
 今、彼女が不満をたらたら述べている仕事もその一つだ。
 僕が今回彼女に取ってきた仕事は若者向け情報誌の企画で、東京の某所に新設された遊園地の体験レポートだ。
 れいらを含めた芸能人数人が、そのアトラクション数種で楽しく遊ぶところを写真や文章で紹介し、その新遊園地の宣伝に使うというわけだ。華やかに、賑やかに。
 それだけなら、何も僕がこうまで責められる筋合いはないに違いない。
 れいらにとって不満なのは、その企画が「オバケ屋敷」と「ジェットコースター」を目玉にしてくれという注文つきなことだ。
 れいらときたら喧嘩はムダに強いくせに、極端に怪談の類や高いところが苦手で怖がりなのである。
 僕はひとつ深呼吸して、気合を入れて彼女を説得することにした。
「れいらちゃん、そらキミが小さいときからオバケと高いところが苦手なんは知ってるけどな。本格女優目指そうと思うたら、仕事のえり好みはあかんと思うで。女優業は耐えてナンボやって、大女優のSの自伝にあったやん」
「‥‥」
 口をとんがらせて、れいらは僕の話を聞いている。
「それにな、キミは一応、一座の期待を背負って上京してんねん。それを忘れたらあかんで?」
「‥‥」
「そもそも女優言うんは、華やかに見えて苦労の多い仕事やねん。例えばそれは泥水を吸って美しく花咲く蓮の花のような‥‥」
『ゴソゴソ』
 ん? れいらちゃん、自分の部屋に飛び込んで何を‥‥って、出てきた、そ、その格好はっ!!
「よっしゃー!! わかった! こうなったられいらも女優やっ。気合入れてオバケにもジェットコースターに突っ込みいれたるでー!」
 ブンブン。
 って振り回しているそれは‥‥ハリセン!?
 そっそれをどうする!?
「ハリセンは突っ込みの必需品やっ」
 いや、だから、オバケ屋敷には本物のオバケがいるわけじゃなくて、仕事のためにそういう格好をした人がいるわけで、仕事をしてる人に突っ込みいれたらそれは勇気でもなんでもなくて、ただの迷惑な人なわけですが。
「ついでにこれも持ってくでー!」
 って、キミはいつも僕の話を半分しか聞いてないーっ。
 腰にサイン入りバットをくくりつけてますが、それは一体っ!?
「気合や気合! 万一の用心に、大阪パンサーズの4番バッターのサイン入りもっていくんじゃ! ついでにこの鉢巻もパンサーズの応援グッズで統一してトータルコーディネイトやっちゅーねん!」
 ‥‥コーディネイトの意味、わかってる?
 いや、待って。一応雑誌取材だから、写真が雑誌に載るんだよっ!?
 ほ、本当にその格好でいいのか、キミは!?
 他にもオシャレな芸能人とかセンスのいいカメラマンとかが来るに違いないのにっ。
「あっそうや」
 玄関前で、突如れいらはくるりと僕を振り向いた。
「キョー兄、おべんと作って。卵焼きとウィンナー入れてな」
 ガクッ。
 某新喜劇のコメディアンのように、僕は見事な角度でずっこけた。

 まあ、仕事に対して前向きになってくれたのはよしとしよう。
 しかしこの仕事、一緒に受けてくれる他のタレントさんや裏方さんもいるわけだから、‥‥せめて格好だけでもちゃんとしようよ。
 れいらちゃん、キミのその、ヒョウ柄フェイクファーのコートに下駄という大阪を二時間くらい煮詰めたようなファッションってどうなんだろう。
 しかもその上にサイン入りバットとパンサーズの鉢巻とくれば、関西ならまだしも「ああ大阪パンサーズのファンね」くらいでスルーしてもらえるけど、東京じゃあれだ、‥‥たぶん、浮くよ。ものすごく。
 って、聞いてる? もしもし!!
 繰り返す僕の忠告は、どうやら従妹の耳には届いていないようであった。


☆補足事項☆
※「泉本れいら」について詳しくはNPCプロフィールを参照下さい。
  口調も格好も生活もコテコテですが、関西系の人としか仲良くなれないわけではありません。
 
※遊園地の場所は一応「東京の」どこか、となっておりますが、固有名詞などによる特定はしないものとします。オバケ屋敷やジェットコースター、ゴーカートや観覧車など一通りそろっているよくある遊園地を想定してください。他のアトラクションも特定の遊園地にしかないものでなさそうであれば、可です。
※「大阪パンサーズ」は、優勝したら関西圏の人が川に飛び込んだりするあのプロ野球団です。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa0984 月岡優斗(12歳・♂・リス)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2680 月居ヤエル(17歳・♀・兎)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

●気合と出会い・再会
 まるで巨大なオモチャ箱のような遊園地。その門の前が集合場所だった。カメラ機材をかついだトシハキク(fa0629)、写真写りを意識してか和服姿の日宮狐太郎(fa0684)、月岡優斗(fa0984)、中松百合子(fa2361)、エミリオ・カルマ(fa3066)、クッキー(fa0472)は他のメンバーを待っていた。ロケが押したため姉川小紅(fa0262)が少し遅れて、到着。
 続いて、近づいてくるカランコロンという独特の足音。
「おーい♪ エミにーやん、小紅ねーやん、ゆーと、久しぶりっ」
「って下駄の音!? アイツ、ファッションセンス治って無ぇ!?」
 相変わらずの下駄+豹柄に優斗が頭を抱える。それを聞きつけた泉本れいらが早速反撃した。ぴたっと優斗の真横に並んで背を比べ。
「アンタこそ、前会うた時から身長伸びてへんやん!」
「会ったの先月じゃん!? アサガオじゃあるまいしそんな早く伸びるかっ!」
「こーらー、やめなさい二人とも! 今日は楽しい写真撮らなきゃならないんだから喧嘩禁止!」
 ユリ姐さんにコツンコツンと頭を叩かれてようやく口げんかが止まる。
「遅れてすいません。反対側の通用門で間違えて待ってたら偶然月居さんに会えて、つれてきてもろたんです」
 れいらのマネージャーで従兄のキョー兄こと五十嵐京が謝った。そのひょろ長い背中の後ろから月居ヤエル(fa2680)が現れた。
「ついでにれいらちゃんの持ってたバット、ロッカーに預けて来たわ」と、くすっと笑う。
 れいらはそんなヤエルをちらちら見ているが、ちょっと話しかけにくいようだ。年は近いがAFW所属で国際ドラマに出演経験ありという経歴と、神秘的な美貌に気おされている。
「それはお疲れ様。ところで‥‥れいらちゃんの服、用意して来たんだけど。ロケバスの中で着替えとメイクしましょ」
 豹柄と下駄は手放せへんーと駄々をこねるれいらを、百合子が説得した。
「女優というのはただ役をやればいいだけじゃない。その役によって色んな服を着こなしていくのも仕事の1つなの。それにね‥‥優斗くんをビックリさせてやりたくない?」
 後半部分は顔を寄せてこそこそっと囁いた。事前に雑誌社のスタッフが『恋する口紅』のCMメイクを担当した人、と百合子を紹介していたこともあって。
「よっしゃ、いっちょギャフンと言わしたるわ!」
 ようやく乗り気になったれいらはロケバスにしばし消え、戻ってきた。
「どやっ!?」
 得意満面でれいらは優斗の前に立つ。髪は三編みツインテール。白のインナーにピーチオレンジのニットを重ね、その上に黒のショートコート。足元も淡グレーのハーフパンツに黒ブーツと元気と可憐を具現化したような組み合わせ。メイクがビューラーでカールした睫毛とピンク色のリップグロスだけなのは若さを殺さないようにという百合子の配慮である。
「あ? うん、似合うじゃん。でさ、ドイツ戦のPKってさ‥‥」
 エミリオとサッカーの話題で盛り上がっていた優斗にかるーく受け流され、れいらはしばらくフグのように頬を膨らませていた。

●オバケ屋敷攻略!
 最初の攻略ポイントは幽霊屋敷。れいらは途端に無口になる。
「私も精一杯可愛く悲鳴上げようっと♪ 『どひゃー』とか叫ばないようにしないと。お嬢様の悲鳴はやっぱり『キャッ』よね!」
 小紅はうっかり大口開けて悲鳴を上げたらお嬢様女優のイメージが壊れるから絶対撮らないでねーとトシハに念を押しているが、そんな計算してる時点で正体バレてますから。だがもちろんれいらにそんな余裕はなく。
「れいらしゃん、作り物のお化けの何が怖いの?」
 とクッキーに励まされる始末。れいらはそのクッキーと手を繋いで屋敷内を探索することになったがそれでもまだ怖いらしく、
「皆で入れば怖くないよー。それに俺なんか監督に怒鳴られる方がよっぽど怖いよ」
 デビュー作が幽霊モノで、最近もホラードラマの収録をこなしたばかりのエミリオが先に立って入ろうとすると、そのベルトをむんずと掴んだ。
「ちょっ、やめて、ジーンズ脱げる!」
「エミにーやん〜お願いやから〜れいらの前歩いて〜」
 声を震わせるれいらには逆らえず、エミリオ+れいら+クッキーが電車のように連結状態で進む。
 三人の眼の前をふわりと過ぎる白い影。と、その影がふっと消えた。
「いや〜〜っ! 消えた〜!!」
 ホンマモンの幽霊やーとへたり込みそうなれいらを引きずり、知識欲旺盛なエミリオが幽霊の後を追って、あちこち壁を叩いて見る。
「あっほらこれ、デンドン返しって言う奴だよね?」
 幽霊の消えた仕掛けを発見して嬉しそうな彼と、
「それを言うならドンデン返しやっ! 何喜んでんねん、人が腰抜かしてんのにぃ!」
 半ベソでツッコミ入れるれいらを、トシハキクが苦笑しつつぱしゃりとカメラに収めた。
「そんなに怖がってくれたら、幽霊役の人もやりがいがあるだろうな」
 一方、ヤエルと小紅が幽霊役の人を捕まえて、
「すいません、さっき可愛く悲鳴上げそこねましたんで、もう一回脅かしてもらえますー?」
「おしゃべりしてたらついアッサリ通り過ぎちゃって」
 と交渉している。
 ようやく立ち直りかけたれいらが、また悲鳴を上げた。
「人食いオバケ出たー!」
「あっごめんー♪」
 向かいの壁から、ひょこんと狐太郎が顔を出す。半獣化で狐耳を出しており、その口が真っ赤な血まみれに見える。
「ハンバーガーのケチャップ余ったからついイタズラ心でー♪」
「あ、後で覚えときや、コタ‥‥」 
 ゴゴゴ‥‥と拳を震わせて凄むれいらに遠慮して笑いをこらえつつ、トシハは狐太郎のいたずらっぷりもカメラに収めた。

●小休止
「こるぁー! よくも脅かしよったなーっ」
 オバケ屋敷を出た途端に元気になったれいらが、きゃっきゃと逃げる狐太郎を追い掛け回す。が、
「おいおい、今日は喧嘩は無し、だったろ?」
 トシハにがしっと襟首をつかまれ、観覧車の下にある小さな建物に入る。休憩所を兼ねたゲームセンターである。ファーストフードのスタンドや自販機もあり、休むには丁度いい。
「オバケ屋敷のあとは少し休憩入れてましょうか。メイク直しも必要だし」
 という百合子の提案である。
 そこに入ると、ヤエルがいきなりコートの袖をまくり上げた。もぐら叩きゲームに近づき、
「ドガガガガ!」
 外見に似合わぬ豪快な叩きっぷりで皆の度肝を抜いた。
「うわっ、早いな。多重露出にして残像入りで撮ってみようか」
 トシハも見所発見とばかりに素早くカメラを構えた。 
「意外とお転婆なとこあるんやなー」
 感心しているれいら。ゲームをハイスコアで終えたヤエルは、「皆で食べましょ♪」とゲームの景品のキャラメルを差し出した。
「おーきに! ヤエ子ちゃん凄いなぁ♪」
 おーい、いきなり友達モードだし呼び名も変だぞ。しかしヤエルは年下だから大目に見てくれてるのか、女の子同士のおしゃべりに興じた。ティアードスカートに白いペコスブーツというヤエルのお洒落が気になるらしいれいらは、
「そのコートめちゃ似合うとる。どこのん?」
「ありがと。『テュポーン』のものなの」
「大人っぽいブランドが合うんやな。れいらは私服はだいたい豹柄やねん。キョー兄が東京でそんなん着る人珍しいって言うねんけど、そうなん?」
「東京でも渋谷辺りに行くと、豹柄な人もいるみたいだよ」
「えっほんま? ほな、東京でも豹柄仲間できるかもしれへんなあ♪」
「あの、でも、下駄は止めた方がいいんじゃないかなぁ‥‥」
 というヤエルの言葉の後半部分は多分、れいらの耳に届いていない。

●コースター攻略!
 次はコースター。欧州ロケを済ませて移動してきたばかりのヤエルと荷物番の京は留守番。
「ごめんね‥‥ここで、皆の勇姿を見守ってるからね」
「うん、ヤエ子ちゃん、寝不足やったら無理せんほうがええって」
 ヤエルもちょっと残念そうでもあり、安心したようでもあり。
「ええい、『人生当たって砕けろ』や!!」
 エミリオが拳を握って気合を入れている。嬉々として最前列に乗り込む狐太郎と優斗、その後列にエミリオとトシハ。続いて小紅に支えられてれいら、その後にクッキー、百合子と続く。
「南無阿弥陀仏‥‥」
「れいらちゃん‥‥何もお経唱えなくてもー。ほら、所要時間ってたったの80秒だって」
 パンフ片手に励ます小紅だが、れいらは魂抜けてる感じだ。
 ゴオオオオオ! 物凄い急カーブをきるコースター。
「あはははーっ♪ 逆立ちだ〜☆」
 どこでも楽しそうな小紅とクッキー、狐太郎、優斗と、歯を食いしばって景色を確認しているエミリオが対照的。
 降りてきた時には‥‥もちろん小紅は絶好調。「ヤエルちゃんお待たせーっ」と走っていくところを、百合子に、「待ちなさい、髪ボサボサだから!」楽しんだのはいいけど山姥状態でしょっと追いかけられて叱られる。
 エミリオは「ち‥‥地球は回ってる‥‥」壊れ気味。
「だいぶ高いとこ上がってましたね。絶景でした?」
 と京に聞かれても、
「‥‥あれー? お、思い出せない! 何してたんだろ俺!?」
 一時的記憶喪失(マテ)?
 お約束的に酔っ払いの真似をして喜んでる優斗と狐太郎。れいらは無言の上、唇が紫色。
 そしてやっぱり一番冷静なのは、
「皆、とりあえず髪直しましょ」
 狐太郎のつやつや輝く髪のほつれを、ブラシで梳かしてやる百合子であった。
 日光に透けて光る狐太郎の金茶色に輝く髪を、トシハがカメラに収めた。
「あ。中松さんも画面に入ってるけどいいよね。可愛い子役さんと世話好きなお姐さんって感じでいい絵になるよ」
「ってトシハくん!? 駄目よ、せっかくのフィルムなのに若い子撮らないと勿体無いでしょ!」
 照れる百合子だが、後に「姐御キャラは今ブームですから」という雑誌社の要望によってきびきびと職務を全うする彼女の写真も誌面を飾るのだった。

●おべんとタイム
「さあどうぞ」
 でかいスポーツバッグから、京がキャンプ用の特大おべんと箱を出した。
 一部の人の期待を裏切って、粉もんは入っていない。れいらが標準語を習得するまでたこ焼き断ちをしているのだと説明した。
「そうか‥‥頑張って。俺の関西弁もまだまだだけどね」とエミリオ。
「皆さん、どうぞ。ほんまお疲れさまです」
 れいらと朝から作ったという唐揚げやおにぎり、卵焼きにうさぎリンゴとてんこ盛りの紙皿を、京がトシハキクに差し出した。
「お。ありがとう」
 さほど業界に詳しくない京だが、雑誌社の人々が撮影内容や進行のほとんどをトシハに任せていることや、カメラの扱いぶりから見て彼がひとかどの有名人らしいことは察している。
「機材運ぶだけでも大変ちゃいます? アシスタントさんとか、雇わへんのんですか?」
「うん。だって人使うには俺もまだ若造だよ。体力は自信あるしね」
 と卵焼きをぱくつくトシハの広い肩幅を見ている京は少しうらやましげだ。
「ママの作ったサンドイッチもどうぞなのね」
 とクッキーが手持ちのおべんとを勧め、和やかな食事タイムとなった。
「んーっ京さんってお料理上手よね! いつでもお嫁にいけるって感じ♪」
 と小紅が褒める。
「いやーそんなー。まだ早いですよーって、‥‥‥‥お嫁?」
 相変わらずテンポがずれている京。
「あ、ポップコーン屋台。後でおやつにあれ買おう」
 と昼ごはん食べながらおやつの相談をする狐太郎。
「俺、キャラメル味好きなんだけど、あるかな?」
 とエミリオ。
「んー甘い匂いふるからあるんひゃない? もぐもぐ」
 と豪快に特大おにぎりをほおばっている小紅を、
「やっぱり姉川さんは食べてるときの生き生きした表情がチャームポイントだな」
 とこっそりトシハが撮っている。お嬢様キャラ、ピンチ。
 和やかな食事タイムでの唯一の犠牲者は、
「食べて早よ成長しぃ!」
「もがっ!?」
 れいらにおにぎり卵焼き魚と連続で口に突っ込まれ眼を白黒させる優斗だった。

● 夜の観覧車
 コースター攻略後は、皆それぞれにもう一度ゲームセンターで遊んだり、ゴーカートに乗ったりと楽しんだ。 締めに夜景を見下ろせる観覧車に全員で乗る。観覧車で夜景を見ようと提案した狐太郎はいい案だったと皆にほめられた。夜景の美しさに高所の怖さを忘れて窓にへばりつくれいらに、小紅は話しかけた。
「大阪の夜景とまた違うでしょ?」
「うん。大阪はもっとゴチャゴチャや。けど東京の夜景ってどっかきちんとしてて、また別な綺麗さやなあ」
「少し東京が好きになってきた?」
「うん。おとーちゃん達と離れてんのはさびしいけど」
 さすがに安心感と仕事の疲れで夜景にしばし見とれるトシハの腕を、今日の感想などをメモしていた百合子がそっとつついた。
「ほら、あれ。シャッターチャンスって奴じゃない?」
 彼女の指差す方で、れいらと優斗が恋人同士のようにくっついて窓を見つめる姿があった。もっとも二人の会話の内容は恋とは程遠い。
「アンタちっこいのになんでれいらより高い所平気なんよ?」
「ちっこくないわ! これから伸びるんだからなっ」
「頭にシリコン入れるんか?」
「そうそう注射で‥‥ってするかー! 自然に成長すんの!」
 トシハはそんな二人をソフトフィルターがけで優しい雰囲気に演出してカメラに収めた。れいらを斜め加減に画面に入れ、本人ベスト美少女に見えるよう配慮しつつ。
「俺も今度、この観覧車で夜景見るなら、デートがいいな」
 二人を目を細めて見守りつつ呟くエミリオ。きっと、そんな日も近い。
 思い切り童心にかえった一日が、ゆっくりと回転する美しい夜景とともに終わってゆくのだった。