女豹プラスワンヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
19.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/18〜02/22
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●本文
あたしの名は「女豹」。
少なくとも「ザ・ユニオン」ではそう呼ばれている。
本名は知らない。
生まれた場所も、家族も。
まだ幼女の頃に「首領(ドン)」に拾われてから、あたしの人生は始まった。
闇の組織に所属する、暗殺者としてのーーーー
◆
「「騎士(ナイト)」がしくじった。「首領(ドン)」が、お前に始末して欲しいとよ」
「蜂」はそういって、あたしにカードを放ってよこした。
「蜂」ももともとはあたしたちと同じ暗殺者だが、年を取るにつれ、現場に出ることは少なくなっている。今は「首領」とあたし達の連絡係といったところだ。
たぶん、ゴマをするのが上手いのだろう。暗殺者達を舌先三寸で操ることも。
投げられたカードは、一流と呼ばれる人間だけが持つことを許される、ゴールドのクレジットカードだった。支払い限度額はほぼ無限。
「首領」の報酬のやり方は、そのときによって違う。
「騎士」はあたしたちの仲間だから、それだけに手ごわい相手と見ての、この報酬なのだろう。
「‥‥しくじった? 「騎士」が?」
あたしはうつろに繰り返した。
「騎士」は飛び切りの腕を持つ暗殺者だったはずだ。二の腕や脚、場合によっては背中にサバイバルナイフを仕込み、さりげなく標的に近づいて一瞬で仕留めるのが得意な。
「ああ。おまけにポリスに顔を見られ、おまけに利き腕を撃たれたとさ。墓場行きは確定だな」
楽しげにさえずる「蜂」の言葉を、あたしは最後まで聞いていなかった。
あたしの右手は太もものレッグホルスターにある銃に、水が流れるような速さと自然さで伸びていた。
そしてあたしは撃ち抜いた。「蜂」の額の真ん中を。
‥‥‥‥‥‥‥‥
「騎士」は、思ったとおり、あたしたちの思い出の場所に隠れていた。
警察官に撃たれたという利き腕から流れる血は、まだ止まっていなかった。
あたしが呼びかけても、「騎士」は顔をわずかに上げただけで、逃げようともしなかった。
あきらめかけていたのだろう。あたしたちの「組織」は失敗を許さない。
あたしたちは使い捨ての暗殺者。
成功することだけが、生き延びる条件だった。
「傷は痛むの? 立てる?」
あたしが彼の腕を肩に抱え上げ、立たせようとすると、彼は心底驚いたようだった。
「なぜ」
「逃げるのよ」
あたしはしかりつけるように小さく言い、用意してきた車に彼を連れて乗り込んだ。
「あてはあるのか」
エンジンをふかすあたしに、「騎士」はぽつりと聞いた。
「ないわ」
「どうする気だ」
「行けるところまで行くわ。追っ手が来たら、返り討ちにするまでよ」
ちらりと「騎士」があたしの目を見た。それだけで通じた。
『少しでも長い時間、あなたと生きたいだけ。それだけよ』
『ああ。俺も同じだった。だからここへ来た。ここで自分で命を断つつもりだった。だが‥‥お前を巻き込みたくはなかったのに』
『手遅れよ』
『そうだな』
無言の会話が、電光石火の早さで二人の間を飛び交っていた。
「なぜしくじったの。貴方ならあの政治家を消すくらい、赤子の手をひねるようなものだったでしょうに」
「‥‥似てたのさ、俺の死んだ親父に」
『騎士』は呟いた。
あたしは車を駆って、国境へ出る道へ出た。
広い公道の方が、かえって狙われにくいかもしれない。
だが、油断は禁物だった。
今のところ、追っ手らしい車は前後左右、いずれにも現れていない。
雨がたたきつけるように降り出した。
冬の雨特有の、いやな湿気と冷たさを伴った雨だった。
あたしたちの行く手を、この先の時間を、象徴するかのように。
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☆募集キャスト☆
※必須キャスト
●女豹‥‥殺人組織「ザ・ユニオン」に所属する女暗殺者。得意武器は銃。場合により他武器・素手可。
●騎士(ナイト)‥‥殺人組織「ザ・ユニオン」に所属する暗殺者。「女豹」の恋人。得意武器はナイフ。場合によりガラスの破片など「刃」のあるものなら何でも代替可能。
☆その他☆
※「女豹プラスワン」は、ワイヤーアクションを駆使した特撮アクションドラマです。
なので「跳躍してキリモミ回転しながら急所蹴り」といった演出も可能です。
現実世界でありえない武器(某戦隊が持ってる超科学武器とかね☆)以外はたいがいなんでも使えます。
ロケ地は欧州ですが、ドラマの舞台となる「国」や「地方」は特定しておりません。もし希望がありましたら確定しても可ですが無国籍アクションもまた楽しいかと。
※「女豹」「騎士」「蜂」「首領」‥‥はいずれも「ザ・ユニオン」内でのコードネームです。
「女豹」「騎士」以外のキャストで、「ザ・ユニオン」の暗殺者役の人は、
「コードネーム」+「得意武器」
を必ずプレイングに書いてください。
「騎士」のように、武器はその場によって代用品でも使えることがあります。
訓練された傭兵ならば、日用品を武器にして殺人可能だそうです。
針金ハンガーで首を絞める・椅子で殴り倒して気絶させてとどめ・照明器具を壊し破片で切りつけるなど。
「女豹」は「ザ・ユニオン」の追っ手に敗れるのか、または首尾よく「首領」を倒して逃げ切るのか。
その辺はキャストの皆様におまかせであります。
車で逃げてるので路上で狙撃されるとか途中立ち寄ったガソリンスタンドで待ち伏せされるとか、シチュエーションも色々出来そうですね。
●リプレイ本文
〜舞台裏〜
結城ハニー(fa2573)とRURI(fa3654)に脚本家が二人に説明している。
「、『姉妹間でテレパシー交信が出来る』というご希望はちょっと。他の共演者さんもそういったSFぽい設定は予測されていなかったようですし削除させていただきました」
一方、外見に引け目を感じているらしいツァーリ(fa5193)を監督が励ましている。
「騎士は、重い過去を持つ男なんだからイワンさん位の方が雰囲気が出る。しかも、騎士は暗殺者らしくない程堂々とした剣使いって設定もある」
「そうよ、騎士って名の通り、紳士的でしかも恋人を守り抜く男を演じてくれなきゃイ・ヤ・よ?」
と、横から「女豹」役の角倉・雪恋(fa5003)。ウィンクつきで。
「ま、まいったな‥‥」
ツァーリは巨体を恥ずかしげにちぢめた。
「雪恋さん。張り切ってますね」
皮革製のタイトミニにミリタリージャケットはいいとしても、その下に役のために重い模造銃や模造刀を装備している彼女に、メイク係が感嘆の言葉を投げた。
「まあね」
いたずらっぽく肩をすくめる。ふと、目線を遠くに投げて、
「この役、あたしに近いところがあるの。それに‥‥いい供養にも、なると思うのよね」
‥‥のために、と、誰かの名前を呟いたようだったが、低すぎて聞き取れなかった。
●殺戮の祭り
「ザ・ユニオン」本部。それは城と見まがう広大な敷地を持つ森の中の洋館に存在した。ソファで優雅にマニキュアを施しながら、首領(ドン)(=那由他(fa4832))は呟いた。
「あのコが裏切るとはねえ‥‥」
暖炉の前にいた黒いスーツ姿の女が、首領に聞く。
「で‥‥どうする?」
「殺るしか、ないでしょうねえ」
と首領。
「悲しくはないの? 一時は娘みたいに思えるって目を細めてたくせに」
「あら、悲し過ぎて早く忘れたいのよ。だから出来るだけさっさと始末してね」
マニキュアの仕上がりに満足げな微笑を浮かべながら首領は言った。
黒衣の女が部屋から出ようとする。
「あら、でかけるの? とっときのワインがあるのよ?」
「忍まで裏切らないように、釘をさしておかないとね。あのコは情に厚いようだから」
言い置いて、黒衣の女はドアを背中で閉めた。
海岸沿いの長い道路――。女豹(=角倉・雪恋)はハンドルを握り、ひたすら前へと車を駆る。だが、次第に近づいてくる、バラバラ‥‥というかすかな音。
意外にも、その音に気づいたのは、痛み止めが効き眠りかけているかにみえた「騎士(=ツァーリ)」の方が先だった。
「ヘリが追ってくるーー伏せろ!」
言葉と同時に、騎士のたくましい腕が女豹の首を抱きこむ。数秒差で、車の天井に風穴が空いた。
ダーーン‥‥!
銃声が、海岸の岸壁にこだまする。女豹はそれでも、気丈にハンドルを道路わきギリギリに切り、そこでブレーキを踏んだ。キキキキッと耳障りな音が神経を逆撫でる。
「お楽しみの途中を悪いわね、女豹!」
華やかな高笑いが空を劈いた。
「『星』‥‥!!」
敵の正体を見極めた女豹はギリッと唇を噛んだ。『星』(=ブラウネ・スターン(fa4611))は遠距離射撃専門の狙撃手である。得意武器のオートマチックスナイパーライフルを照星のみで照準し命中させる。
「出来れば一対一の勝負がしたかったけれど、アデュー」
「星」が銃身に軽く、ローズピンクの紅で彩った唇を口付けて、また銃口を向けてきた。
「女豹っ、俺が囮になる! お前は車で逃げーー」
騎士が叫ぶ。が、女豹は動かなかった。スカートを捲り上げ、レッグホルスターから銃を引き抜く。そしてーーヘリとは逆の方角へ銃弾を放った。
タアアァーーーン‥‥
「星」のそれと比べ、頼りないほどの細い銃声。
「あらぁ血迷ったの?」
「星」の勝ち誇った一言が、途中でつんざく悲鳴に変わった。女豹の放った銃弾は、岸壁の、鴎の巣穴に命中し、驚いた無数の鴎が突風のように飛び出してきた。その鴎で視界を遮られ、鳥がプロペラに巻き込まれ、「星」の乗るヘリが傷ついた鳥のようにキリキリ舞いし地上へと落下する。
「女豹ッよくもォーー!」
「星」の憎悪の悲鳴が黒煙とともにたなびいた。
ガス欠は避けられなかった。女豹は小さな町のガソリンスタンドを選び、車を止めた。
「満タンにして頂戴」
駆け寄った若い男の店員に言った。
「はいっ、エンジンオイルの点け‥‥」
ぴゅっ、と風船に風穴が開くような音で店員の台詞が途切れ、フロントガラスに紅い噴水が映る。店員の首筋から噴出する血には、小さな虹すらかかっていた。
はらはらと、鮮血に煽られていたトランプの一片が、ガラスの上に落ちてくる。
「ハロー。『ハート』よ」
トランプ型のカッターナイフを指に挟んだ美女‥‥ハート(=RURI)が微笑みかける。シンプルな黒のニットドレス姿。
「アンタが噂の女豹ちゃんね。あたしはエンジェル(=結城ハニー)。よろしくぅ‥‥って言っても、もうすぐ死に別れだけど」
蓮っ葉な声に、純白のエナメルドレス姿。「ユニオン」でも知られた姉妹だった。女豹は車のエンジンを入れようとしたが、既に遅く。
ヒュンッ! エンジェルの振るう鉄棘を埋め込んだ鞭が、タイヤに突き刺さり、その空気を抜いていた。傾く車から、女豹は騎士に押し出される。
騎士は自分の巨体で女豹をかばいつつ、ドアを肩で弾き飛ばすように開き、二人同時に転げ出た。同時に女豹は騎士の腕の下から銃を乱射する。
姉妹が素早くガソリンタンクの陰に隠れる。と同時に、騎士はしっかりと女豹を抱いてスタンドのコーヒーコーナーに飛び込んでいた。
「あらぁかくれんぼなの? 女豹ちゃんも結構やるようになったみたいね」
エンジェルの背後から、ハートの落ち着いた声。
「まずは、腕から使い物にならない様にしてしまいなさい」
「そうね、さすがはお姉さま。ねえ、あたしが『女豹』始末していい?」
「駄目。女豹はあたしがやるの。あんたは『騎士』をやりなさい。まずはガラスの破片でいたぶってやりなさい」
ハートが相変わらず微笑のまま答え、エンジェルが不満げながらも鞭を振るう。鉄の棘がガラスを破り、煌く破片が、ばらばらと女豹達の眼前に振り注ぐ。
「クッ!」
咄嗟に伏せたが、髪の中まで破片が入り込み、女豹は思わず苦痛の声を上げた。痛みと、ガラスの破片を踏む音で位置を悟られるのを警戒して動けない二人に、エンジェルがゆっくりと迫る。「見ぃつけた♪」棘鞭が唸る。
と、次の瞬間、騎士が傷ついていない方の腕で軽々とコーヒーテーブルを持ち上げ、ブン! と投げる。鞭はテーブルにむなしく巻きついた。
「手近にあるものは何でも使え。『組織』でそう教えられなかったか?」
若干荒い息を整えつつ、騎士が言った。
「うふっ、望むところだわ。一気に始末してもつまらないものね」
不気味な微笑みを絶やさず、ハートが言い、トランプを投げる構えで小走りに駆け寄ってきた。
と同時に、騎士が巨体とは思えぬ素早さで、地面を蹴って足を蹴りだす。騎士の靴先に仕込んだナイフが、ハートののど笛を切り裂いた。
「お、お姉さまぁーー!」
「こっちよ」
姉の声色で、女豹が優しく言う。思わず振り向いたエンジェルの眉間を、女豹の銃が打ち抜いた。
「3人やられたよ。女豹、なかなかやるね」
笑いを含んだ声を後ろからかけられ、「首領」のいる洋館から、外を眺めていた「忍」(=亜真音ひろみ(fa1339))は振り向いた。黒いスーツ姿、それにサングラスをかけた女が背後にいた。
「あんたは?」
忍はぶっきらぼうに聞いた。持ち前のクールさでもあるが、それ以上に、組織内での親友であった女豹の行く末を案じていた心を見抜かれたようで不快だった。
「私? ‥‥私は、『蜂』だよ」
『蜂』(=豊浦 まつり(fa4123))は、常に首領からの指令を伝える仲介役のコードネームだ。
「そいつは妙だな。蜂は女豹に消されたはず」
相手が組織の一員だと勘で察したが、敵に対峙する身構えを忍は崩さずに聞いた。
「残念でした。消されたのはいわば、「働き蜂」ってとこかな。知っている? 蜂には無数の働き蜂と、それを従えて巣作りの指揮をとる女王蜂がいるんだ」
「‥‥で、あんたはその女王蜂だって言いたいのか」
答えはなかった。ただ、楽しげな含み笑いが取って代わる。
「女豹を逃がしてやりたいかい?」
「‥‥それは無理だと、わかってるつもりだ」
苦い水を押し出すように、忍は答えた。
「よく出来ました。おりこうさん♪ 女豹はいずれ死ぬけど今なら選べる。組織の手にかかれば一寸刻みに苦しみながら、だけど親友のあんたなら一思いに楽にしてあげられる」
「あたしに女豹を消せと‥‥?」
震える問いに、シンプルな答えが返ってきた。あんたに任せるよ、と。
「まあ、今のとこ私は決定を下す立場にはないってこと。ただ、貴方達にとって有益な情報をもたらす協力者‥‥それでいいんじゃない?」
背を向けて、『蜂』は歩き出す。忍は唇を噛んでぎゅっとこぶしを握った。
女豹は、忍からの通信を受け、組織の本部である洋館にほど近い森に入った。
忍からのメールは「た す け て」と表示されていた。
洋館の入り口近く。忍が倒れていた。愛用の黒いライダースーツに血がにじみ、暗殺武器を潜ませているはずのリストバンド、ベルトが破れ満身創痍だった。 弱弱しく、忍が顔を上げた。
「くっ‥‥あ、あんたを討てと言われ断ったらこの様だ、最後に一目あんたの顔を見たくてここまで来たんだ」
「忍‥‥!」
抱き起こそうとした瞬間、カッと忍の瞳が開く。女豹が飛び退るが、それより早く忍の棒手裏剣が女豹の肩を切り裂いていた。
(どうせあんたは遅かれ早かれ組織の手にかかる。だけど親友のあんたを拷問死させる位なら、たとえ刺し違えても、あたしが‥‥!)
悲しみをこめたひたむきなまでの殺意。
女豹もまた必死に応戦した。銃弾は残り少ない。万一を考え、車で待たせている手負いの騎士から預かったボウイーナイフが頼りだ。ナイフが、忍の手裏剣で弾き飛ばされた。
「女豹っ! 行くよ‥‥!」
絶望の瞬間。忍の嗚咽を含んだ声が迫る。女豹は覚悟した‥‥が。忍は宙で凍りついた。
背後から騎士が忍を羽交い絞めにし、小型ナイフでそののどを切り裂いた。同じ瞬間、忍もまた、暗殺者としての本能で、後ろ手にクナイを騎士の腹に突き刺していた。
「騎士、どうして‥‥車で待っていてって言ったのに‥‥!」
「こ、恋人の危険を見物してちゃ‥‥騎士って‥‥名が泣く‥‥」
騎士が、倒れながら少年ぽく笑う。
「ごめん、あんたを一人にしちまったな‥‥昔はお互い背中を預けてたのに。それがどこで道を間違えちまったんだろうな‥‥」
忍が寂しく笑う。だが、笑顔で逝った。それだけが救いだ。
ドアを開けた。洋館最奥の部屋に首領は立っていた。どこからか知らせがあったのだろう、愛用の日本刀を手にして。
「育ての親を、やれるかしら?」
嫣然と笑う。年齢不詳、国籍も不詳の首領。だが怯まず女豹は進んだ。
「育ての親‥‥? 笑わせないで。あなたにとってはあたしたちは所詮、駒でしかないのでしょう!」
フルオート式銃のトリガーを引く。銃が唸る。だが、首領が日本刀を一閃させると、キィインと耳障りな反響を残し、銃弾はバラバラと地に落ちた。
「泣き言を言うとは、情に目がくらんだのね。お得意の銃は、あたしには効かないわ‥‥さあどうする?」
妖怪めいた艶やかさで、首領が舞いを終えた後のように優雅に刀を納める。
「だったら‥‥これはどうっ!?」
女豹は忍の形見となった手裏剣を投げつけた。はっと意表をつかれた首領がのけぞり、態勢が崩れる。女豹が飛び込み蹴り倒した。ただの蹴りではない。騎士に学んだ、靴先に仕込んだナイフが首領の腹部を切り裂いた。
「さすがは‥‥あたしが‥‥見込んだ‥‥」
首領が美しい唇を歪めて倒れた。女豹を情にもろいと嘲りながら、自分もまた情ゆえ女豹に倒され、その成長を喜んでいるのではないかと、自ら笑っているようだった。
「あたしも、騎士も、忍も‥‥駒なんかじゃない、生きて、心を持つ‥‥人間だったのよ」
呟いた女豹はちくりと、右腕に刺すような痛みを感じた。
振り返ると、『蜂』が笑っていた。アームバンドに仕込んだ麻痺針を女豹に発射したのだ。
「今、デストラップのスイッチを入れたよ。この洋館はあと20秒で爆発する」
「‥‥!」
「さて、花火見物っと。牙を奪われ閉じ込められた哀れな女豹は‥‥どうなるんだろうね?」
女豹を残し、蜂はドアを閉め、含み笑いとともに出て行った。
組織の通信網と依頼主リスト、それにスイス銀行の口座番号。
全ては首領からそれらを奪い暗黒世界のトップへとのし上がるための、蜂が仕組んだ一幕だった。
「さすがは女豹、よくやってくれたよ。「蜂」の「針」として、見事に首領を刺してくれた」
蜂はハミングとともにかつて首領のものだったベンツに乗り込んだ。
20秒後‥‥
ユニオン本部は、業火を発し木っ端微塵に砕け散った。
●旅立ち
N国空港。
車椅子に乗せた恰幅のいい夫をいたわりながら、空港ゲートを入ってきた若い人妻が、入国審査員に旅券を差し出した。
「N国へようこそ、えぇと、マダム‥‥」
異国の綴りが読みづらく、眼鏡を直す審査員に、かつて「女豹」と呼ばれていた女は堂々と名乗った。
「マリヤ&セルゲイ‥‥イルツカヤ夫妻よ」
極めてありふれているが、極めて人間的な、そして自らが選んだその名を。