地獄でほっとけ!?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 易しい
報酬 2.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/25〜03/01

●本文

 人が現世で命の終わりを迎えると、二つの場所に行くという。
 そのひとつが天国、そしてもうひとつは‥‥地獄。
 ところがその地獄で、今とんでもないことが起こっていて‥‥

「若っ。今の裁き甘すぎますよっ! ほんとにもう、泣き落としに弱いんだから若はっ!!」
 本日も亡者をどの地獄にどれくらいの期間落とすか裁きを決めて、自室に戻ってきた「若様」こと閻魔大王に、世話役のじいや鬼がカミナリを落とした。
「でもさ、じいや‥‥さっきの亡者、まだ若いんだもん。あんな若い身空で、針の山とか血の池地獄とか、キツイ地獄に送るのはどうかと思ってさー」
 閻魔大王は、童顔をカバーして亡者たちに迫力を見せ付けるための付けヒゲを外しながら言い訳をする。
「またそれだ。若、今どきの十代の若者はねっ、若が思ってらっしゃるような純情可憐なタマじゃないんですよ! ケータイで出会い系とかやって、お金がほしいからエンコー、とか平気で考えるような輩なんですから!」
「‥‥ケータイ? エンコー?」
 閻魔大王は整った顔に困惑の色を浮かべて首をかしげた。
「‥‥もしかしてご存じない?」
「食べたことない」
「食べ物じゃありませんよっ!! 若、前から気になっておったのですが、若は世間知らずにもほどがあります! いまどきファックスひとつ自分で送信できないアナログ派は、若くらいなもんですよ。 天国なんかとっくに電子化されてて、おかげで天使同士の協力がスムーズになって魂の送り迎えの能率が当社比120%アップしたそうじゃないですか!」
「えー、そうなんだぁ。すごいねー」
「のんびり感心しててどーすんですっ! それに比べて地獄の有様はどうですか! すっかりマンネリ化しちゃってるし、おまけにいまどきの亡者はIT化社会で情報武装してて色々持ち込んでくるもんだからたまりませんよ。針の山地獄なんか、誰かがノコギリとサンドペーパーで針の先を丸めちゃって『ツボマッサージ地獄』いや天国になっちゃってるんですよ!」
「‥‥マジ?」
「血の池地獄もね、若が甘いもんだから鬼どもが手入れさぼって、すっかり枯れちゃって、その後に『草津の湯』なんか引いてきて温泉状態ですよ」
「‥‥あ、そういえばなんか最近歌がよく聞こえてくると思った。『ババンババン』とかなんとか」
 閻魔大王は手をぽむっと叩く。じいや鬼のこめかみに青い血管がピクピクッと浮かび上がった。
「それだけじゃありませんっ! 灼熱地獄はバーベキュー場、極寒地獄は冷凍庫、今じゃ地獄は観光地状態です。もう少し危機感もってくださいよ、ったく。この機会に、鬼たちの人事マネジメントも改善、いや改悪していただきます! こないだもほら、鬼娘の一人が亡者にナンパされて恋仲になったのが発覚して、えらい騒ぎになったじゃないですか」
「ああ、いつもトラ縞のビキニ着て元気に走り回ってる羅無ちゃんだよね」
「ええ、『ダーリンはうちと添い遂げるっちゃ!』なんて言い張ってるので、とりあえず亡者の方を閉じ込めておきましたけどね。どうやら若い鬼の間で亡者と付き合うのが流行ってるらしくて、困ります。最近の若者には、公私の区別というものがない。‥‥若!」
「ん」
 いそいそとおやつの抹茶シュークリームを口に運んでいた閻魔大王は、あわててクリームを飲み込み振り返る。
「ん、じゃありません。すぐに地獄のテコ入れをしないとえらいことになりますよ!! もっと地獄は凶悪で恐ろしいところでないといかんのです! 若にもビシッとしていただきますからね!」

 てなわけで。
 「若」こと閻魔大王は、鬼さんたちを集めて、地獄改善‥‥いや改悪のための緊急会議を行うことにしたのであった。
「みんなー、お茶全員に行渡ったー?」
「はーい☆ 閻魔様」
「じゃー、緊急会議始めるねー。あ、お茶とお茶菓子のおかわりあるから欲しい鬼さんは言ってねー」
「あ、じゃ私、このココアガレットもうひとつくださーい」
「おっけ、追加分は今焼いてるからちょっと待っててねー。じいや、オーブンがわりの灼熱地獄ちょっと見てきてー」
「はーい☆ って、会議ちっとも進まんやないかい!!」
 ‥‥
 まああれだ。地獄がなんかすごい恐ろしいことになるらしい。たぶん。
 
☆募集キャスト☆
●閻魔大王‥‥愛称「若」。地獄の一番えらい人。世間知らずで世の中の進歩に取り残されている。
○鬼さんズ(複数形)‥‥イケメンナンパ師鬼、純情鬼娘、女王様鬼、等々なんでもどうぞ。
○いまどきの亡者さんズ(複数形)‥‥鬼さんをヨイショして丸め込む人、泣き落としの上手い人、等々なんでもどうぞ。

 ※●は必須キャスト、○は出演者の希望で調整可能なキャストです。不足したキャストはNPCが適宜補います。 
 ※閻魔さまと鬼さんは伝統の八大地獄を改悪、または新たな地獄スポット(っていうのか?)を作ってください。音痴な歌を聞かせまくる地獄とか、まずい料理を食べさせる地獄とか、似合わないコスプレをさせられる地獄とか、延々と正座でお花の稽古をつけられる地獄とか。
  亡者さんも巻き込まれたり、出し抜いたりご自由にどうぞ。
 ただしいずれの場合も、テレビ番組としての表現上で公序良俗に反する場合は描写できません。

●今回の参加者

 fa0485 森宮 恭香(19歳・♀・猫)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa3726 新田・昌斗(22歳・♂・一角獣)
 fa5270 藍原 凛音(16歳・♀・猫)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)
 fa5461 榊 菫(21歳・♀・竜)

●リプレイ本文

● 地獄ぽこぺん劇場
 会議開始から人間界で言うところの30年ぐらい経って、やっと会議終了。
「時間かかりすぎですよっ、若! もう少し迅速に処理していただかなければ」
 じいや鬼(=弥栄三十朗(fa1323))‥‥というかビジュアル的には銀髪にダンディーな黒のコートと虎縞ネクタイのバトラー鬼なのだが‥‥は叱り飛ばした。
「んーでも結構話盛り上がっちゃってさー。あー楽しかった」
 と、若こと閻魔大王(=希蝶(fa5316))は今日も今日とて迫力のないこと夥しい。青筋をぴくぴくさせてさらに何か言おうとするじいや鬼に噛み付いたのは虎縞のキャミソールドレス姿のギャル鬼・螺武(らぶ=森宮 恭香(fa0485))ちゃんである。
「てゆーかー、若いじめないでって感じ? ほんわかなのが若のいいとこなんだからっ!」
「(ピクッ)‥‥まあよろしい。で、地獄の改悪計画は進んでおるのでしょうな?」
「うんっ! 見て見て、八大地獄にテコ入れしたの!」
 と若が嬉しそうに指す地獄を見渡せば、針の山は研ぎなおされてピッカピカに尖り‥‥はいいが、それを剣山に見立ててか、てっぺんに梅の花が生けてある。冷凍地獄は強度を「強」にされ、カッチカッチに凍り付いている。そして「アイススケートの練習場こちら→」の文字が。早速亡者が一人、イナバウアーをしている。
「しっしかし、血の池地獄はさすがに真っ赤な血に戻りましたな」
 と、純白のハンカチで汗をぬぐいつつじいや鬼。
「うん。あれね、赤ペンキなんだよ♪ 派手な方が人集まりそうだもんねっ。でね、針の山には、新しく来た亡者のお花の師匠が生け花挿してパーッと華やかにしてくれたの♪」
 何かが、何かが間違っている。じいや鬼は若者文化とのギャップに苦悶した。
「でね、バーベキュー場になっちゃった炎熱地獄には『野菜も食べましょう』って立て札しといたんだよー♪ これってお肉好きにはつらいでしょ?」
「‥‥そそそんなものが地獄と言えますかっ!!」
 じいやがブチギレた。
「んもー、怒んないでって言ってるでしょ? 若はぁちゃんと新名所になりそうな新地獄も企画してるんだからっ」
 螺武ちゃんが若をかばう。
「そうなんだよ、じいや。だから安心してね。でね♪ 新しく来た亡者の皆さんにモニターとして地獄を体験してもらおうと思って、このお三方をお招きしてみましたー♪」
 と、若がご紹介する三名の亡者、一人目はザビエル・シルヴァン(=パイロ・シルヴァン(fa1772))。黒い司祭服をまとった少年。
「地獄? ナンセンスでーす。地獄にいるのは悪魔であって、鬼ではありませーん。
 という事で自分がここで裁かれる義務はないし、義理もないので、早く天国にボクを戻しなさーい」
「なんでこういうややこしい亡者をモニターに選ぶのですかっ」
「幅広いご意見を聞かなくちゃでしょ」
 そして二人目。
「新しい地獄だなんて、夢、怖いの‥‥」
 ウルウル瞳で若を見上げる相原夢(=藍原 凛音(fa5270))。男心をもてあそび貢がせた罪で地獄へ来たといういわくつきの美少女。
 思わずグラッと来そうになるじいやだが、グッと持ちこたえ、
「いやそんな目をしても無駄っ。わしは心を鬼にして‥‥いや元から鬼だけど‥‥職務を全うするまで!」
 三人目は、
「あ、こちらが閻魔様でいらっしゃる? さすがにじみ出る品格、あふれる知性」
 甘いマスクでとろけるようなお世辞を使う平野宗太(=新田・昌斗(fa3726))。
「そんな閻魔様ならわかってくださいますね? 確かに私は生前よくないことをしてきましたが、それは生きていく上で必要なことだったのです。あの就職難の世の中、そうしないと自分が飢えてしまうのです」
 切々と訴えるが、亡者の生前の行動をメモした通称「若メモ」‥‥閻魔帳をめくれば、「某大会社社長の息子として裕福に育つ。幼少期から劇団に所属し芝居に天性の才能を発揮、CMや雑誌モデルで人気を博すが、本人はサボリ癖虚言癖あり、十代のころから札付きの詐欺師」とある。
「‥‥この経歴のどこが就職難で飢えてるの?」
「‥‥‥‥ああぁ〜〜っ、じ、持病の心臓発作が〜〜っ!」
 仮病でごまかしまくる宗太も宗太、つられて「大丈夫っ? 死なないで!」とうろたえている若も若。亡者は基本的に既に死んでいるのである。
 で、若考案の新地獄その1、名づけて「長距離走地獄」。彼岸花畑で「あははうふふ」と、子犬ちゃんと追っかけっこ。ちなみに子犬役はどこか異国の地獄から番犬ケルベロスを借り出してきたのだが、これが頭の二つある怪物犬なので、ほえ声がうるさ過ぎて当直に備えて仮眠中の鬼たちから超ブーイング。それ以前に花畑に似合わない。おまけに宗太がモニターに指名されるが、
「あ‥‥ああっ。じ、実は病気で、激しい運動は医師から止められているんですぅ〜」
 ちょっと走り出しただけで大げさに息を切らせて倒れる。
 亡者引率係の女の子鬼・呼珠(こだま=白井 木槿(fa1689))が駆け寄って助け起こす。
「かわいそうですぅ! これ以上走ったらこの人しんじゃいますぅ!」
 呼珠のまんまる目が涙いっぱいである。
「つか、亡者はもう死んでいるでしょうがっ!」
 じいや鬼の厳しいツッコミ炸裂。
 若は長距離地獄を改良して「熱血・鬼教師編」を提案した。鬼がジャージ姿の熱血教師となり、竹刀で亡者をビシバシぶん殴りながら走らせるというもの。
「でもぉ、このジャージ、ダサいって感じ? 螺武着たくなあい」
「同感!!」
「それに走ったりシンドイ思いするのは亡者だけっていうのがお約束ですからな。若、この地獄は却下です!」
 螺武ちゃんとじいや鬼にまたも却下され、ブルーが入った若であった。
「仕方がありませんな。わしの考案した新地獄を試してみましょうか。名づけて鏡地獄!」
 とじいや鬼が提案したのは、鏡張りの部屋に亡者を閉じ込め、鏡全てに亡者の恥ずかしい過去を映し出すというもの。モニター2号は夢ちゃんである。
「逃げ出すものは飢餓地獄に強制連行せよ、暁闇(ギュアン=榊 菫(fa5461))」
「ラジャー!」
 男装の麗人鬼で地獄警備隊長の暁闇が冷ややかな笑みを浮かべて答える。
 鏡に次々と夢の過去が映し出される。
「ほーれこの男のことを覚えているか? 高価な宝石を貢がせておいて捨てたであろうが」
「えーだって海に行った時、彼ったら私以外の女の子の水着姿をチラッと見たんですよー。それってひどくないですかあ? 夢、ビーチサイドで視線独り占め間違いなしの超かわいい水着着てたのに。だからお詫びに指輪買ってもらったのぉ」
「そ、その“チラッ”の代償が50万の指輪かいっ!」
「うっうっ、だってぇ‥‥じいやさんが夢のこといじめますぅ! 若助けて下さいぃ」
 と若に泣きつく夢。螺武ちゃんが夢を押しのけ、睨みつける。
「ちょっと‥‥! 若騙されちゃダメよ。絶対嘘泣きなんだからー!」
 女のバトルが勃発しかけたため、鏡地獄も却下。
「あのっ、あたしも新しい地獄考えてみたんですけど‥‥」
 呼珠ちゃんが申し出た。それは「失恋百物語地獄」。バックに切々とふた昔くらい前のフォークソングが流れる中、一人ひとりが失恋を語る陰々滅滅タイプの地獄。虎縞ミニワンピに黒スパッツ、髪を二つに分け、ツノに巻きつけ猫耳シニヨンにしているプリティーな鬼ちゃんだが、人が良過ぎて恋人を奪われたばかりなのだそうな。
「ふふふー♪ あたしだけ寂しいなんて我慢出来ないもん。亡者共も、果たされなかった恋心を思い出して、せいぜい苦しめば良いんだわ!」
 という目論みのもと、
「さ、これからアンタ達には、一人ひとつずつ上手くいかなかった恋の話をしてもらうわ」
「え〜? 夢失恋したことないですー! だっていつも告白されてばっかりだったもん」
 首をかしげる夢に、女性陣の視線が突き刺さる。次は宗太の番である。ハラリとかかる前髪をかきあげ、遠い目をして、
「私の失恋‥‥それは聞くも涙、語るも涙。恋人が持病の風邪をこじらせて外科病院に入院し、結核が悪化して悪性の脳腫瘍になり、永遠の別れに‥‥」
「待てー! 持病が風邪ってありえませんから! それに結核で入院するなら外科じゃなくて内科! とどめに結核が悪化して脳腫瘍なんてありえねー!」
 若は本気にしてるらしく号泣しているが、螺武ちゃん&じいやは突っ込みまくりである。
「も、もうよろしい。呼珠、おぬしも失恋したばかりなら、その話を聞かせて亡者どもを暗い気分にさせてはどうだ」
 というじいやのすすめにより、呼珠ちゃんが自らの失恋を語ることに。呼珠ちゃんは大きな瞳に既に涙の粒をたたえながら、
「バレンタインに‥‥憧れている先輩鬼が、他の女鬼とデートしてるのを見た‥‥それだけよー!! あーん!!!」
「って自分が泣きダッシュかよー! 亡者いじめる目的思いっきり逸れてるしー!」
 呼珠ちゃんは鬼さんズの突っ込みを背中に受けつつ、泣きながら走り出したのであった。
「螺武、おぬしは何か案ないのかっ?」
 頭痛薬を飲みながら、じいや鬼。
「はーい、じゃあ次は私でーっす。螺武のプロデュースするおニュー地獄は、針地獄を改造されたのにヒントを得た、激痛とお笑い合わせ技★足裏地獄でーっす♪」
 亡者達をベッドに寝かせ、足裏の激痛ツボを鬼達が押し捲るとともに、羽でこちょこちょとくすぐるという悶絶地獄。のはず。若い亡者より、弱った古株の老亡者のほうが苦しむだろうというので、爺さん婆さん亡者がモニターに借り出される。
「うひひゃひゃ痛たたた」
 悶える亡者に、
「何々〜、楽しそうに笑ってるじゃないの、もっと欲しいのかい?」
 女王様と化してさらに激痛ツボとくすぐり責めを繰り返す螺武ちゃん。実はお気に入りの若には甘甘、亡者たちには女王様というツンデレならぬサドデレの螺武ちゃんであった。
「んぐぐぐ」
 のたうつ亡者を、ぐいと虎縞ブーツの靴先で踏んで押さえつけ、
「はーっはっはっは。止めて? 聞こえないねぇ。痛いたってあんたマッサージなんだから。元気になってんだからねぇ」
 高笑いする螺武ちゃんだが‥‥
「螺武ちゃん、これマジで効くぞえ!?」
「二百年前から悩んでた腰痛が、ウソのように!」
 なぜか亡者達が嬉しそうに背伸びしながらお礼を言う。ツボを交互に刺激したのが効いたのかもしれない。噂は噂を呼び、亡者達が螺武ちゃんコールをしつつ集まってくる羽目に‥‥
 思いっきり女王様するつもりのあてが外れた螺武ちゃんはさらに、
「健康にしてどうするっ! 温泉はあるわマッサージは効くわ、地獄を健康ランド化させる気かっ!」
 じいやに説教されるのであった。またも‥‥よせばいいのに‥‥若が手をぽむした。
「あっそうだよねー、あともうひとつ観覧車作ったら某スパーランドみたいになるね♪」
「落ち着け‥‥血圧上がるぞ‥‥」
 とじいやをなだめる暁闇が、今度は迷路地獄を提案。ややこしい迷路を延々と進まされる、疲れそうな地獄。
「おまけに氷結地獄と連結してあるから‥‥長時間いると氷付けになる‥‥画期的なシステムだ‥‥」
 とほくそ笑むが。
 果たして亡者どもの方が一枚上手で、迷路の中で亡者同士やら鬼さんとデートするのが流行する。発覚しても暁闇ですらすぐにはたどり着けないので安全に二人っきりの時間を過ごせるというわけだ。
 氷結地獄の冷気が吹き込む迷路の中も、カップルでぴったりくっついていれば寒さも吹っ飛ぶらしい。
 暁闇も、迷路をパトロールするたび同僚の鬼を発見し、
「何故‥‥ここに? 仕事さぼりですか?」
 と注意して回らなくてはならないのでストレス倍増。かくして迷路地獄も暗礁に乗り上げた。
「あっそうだ、いい地獄思いついちゃった!」
 とまたも手をぽむ、する若。どんな地獄ですかと尋ねられて、
「僕の代わりにじいやに叱られる、説教地獄!! 僕は叱られなくてすむし一石二鳥♪」
「若――っ!! じいやは情けのうございます〜!(ドタッ)」
「あっ、じいや鬼さんが倒れたー! 誰か、血圧降下薬持ってきてー!」
 説教をしすぎると、じいや鬼の血圧が上がりすぎてヤバイというので、またこれも却下。

●天使様ご接待?
 結局どの地獄も、本採用とはならず、従来の八大地獄もなんだかなあな状態で‥‥
「あ、あれだけの努力が何の成果も生まなかったとは」
 とグッタリするじいや鬼。
「いや、おかげで地獄はヒッジョーに楽しいところだとわかりました」
 宣教師少年ザビエルが口を挟み、
「実はボク、こういう者なのデース」
 と、名刺を差し出した。
「なになに? ‥‥“天国広報部広報課 課長代理 プリンシパリティ”さん? えー、天使さんだったんだあー」
「実は、地獄が最近楽しいらしいという情報を聞いて、視察に参りました。天国改善の参考にさせていっただきマース」
「わあ♪ お役に立てて光栄だなー。ささ、向こうで紅茶でもどうぞ。じいやー、お客用のアッサムティーお願いね」
「何言ってんですか、昆布茶で十分ですよ。天使は商売敵でしょうがっ!!」
 そして‥‥
「若さまぁ! 誰か、優しくてかっこ良くて浮気しない鬼さん紹介して下さい〜。‥‥あ、この際天使さんでも良いです‥‥」
 といつの間にかお茶の席に加わりいちごショートを食べている呼珠ちゃん。
「螺武は若一筋なのん☆」
 と若の胸を人差し指で「つん♪」する螺武ちゃん。
「ありがとー♪ 螺武ちゃんロールケーキ食べる?」
「うんっ。螺武、若の作ったスイーツ大好き」
 と、まあ、相変わらずにぎやかな地獄なのでした☆