芸能人手品部っ!?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/27〜03/01

●本文

 ピンチだ。
 これはピンチだ。
 僕はヘロヘロ状態で床にへたっている従妹――名前を「泉本れいら」という、芸能人としてデビューしたばかりの13歳――をはらはらしながら見守っていた。関西出身で無敵のコテコテっぷりを誇る彼女も、今日は相当参っているらしい。
 ‥‥あ、ちなみに僕の名は五十嵐京という。泉本れいらの、アニキがわりの従兄にして、一応マネージャーである。
 ◆
 そもそもの発端は、彼女の母親である「泉本さくら」さんが久々に娘の様子を見に上京してきたことにある。
「こないだの雑誌に載った写真、見たで。れいらもそこそこ芸能人らしゅうなってきたやないの」
 東京駅で出迎えたれいらにむかって、開口一番、さくらさんはそういって、れいらによく似た口元をほころばせた。
「プロのスタッフがおったさかい120%くらい上乗せやねんけどな。まあ、それもれいらという素材が元々ええから? みたいな♪」
「ほんまにこのコは口の減らん‥‥」
 まったくよく似た母子なんである。
 いかにも「しゃべりん(関西弁でよくしゃべる人のこと)」らしい口元といい、少々つり目のところといい、声といい、行動パターンといい。
 豹柄フェイクファーのおそろいのコートといい‥‥ただし、れいらは足元に下駄をはいているが、さすがにさくらさんはハイヒールをはいている。ただし、紫ラメの(なぜか一部の関西女性は豹柄とラメを究極のオシャレと位置づけているらしい)。
 さくらさんは、肝炎で入院中の夫であり、れいらの父であり、れいらがもともと属していた大衆演劇の座長である泉本玄乃輔の容態がずいぶん安定してきていると伝えて、れいらを喜ばせた。
「ただし、酒は飲まんほうがええって、ドクターストップかけられてしもたけどな」
 とさくらさんは言い、れいらちゃんは喜びのあまり飛び上がった。
「よかったあ‥‥! ほな、またオトーチャンと一緒の舞台踏めるかもしれへんなあ」
 しかし感動の母娘再会は、さくらさんの次の一言で暗転した。
「そやで。今日はな、オカーチャンはそのための特訓に来たんやで」
「えっ。と、特訓?(すでに及び腰)」
「当ったり前やろ。あんた今までは子役っちゅうことで大分一座のみんなにフォローしてもろとったけど、これからはそうはいかへん。オトーチャンの身体も万全やないし、なんちゅうてもあんたは東京で芸能界の水飲んだんやからな、多少なりと他の一座と抜きんでたとこ見してもらわんと」
 さくらさんは、そう言って、れいらの現在の居所であるウィークリーマンションの部屋に、持参したどでかいトランクを、どどーん! と置いた。

 さくらさんの言うことももっともなのはわかる。大衆演劇とは、主に、下町の小さな劇場を中心に、各地を転々としながら芝居を見せて回る規模の小さな劇団である。
 だがそんな中でも、テレビ界でも通用する人気スターが出てきたりで、結構厳しい競争の場となりつつある。
 まして大衆演劇の特徴は、単に芝居を見せるだけじゃなく、歌謡ショーやダンスショーを間に挟んだりと、およそウケるものはなんでもとことん盛り込んでお客を楽しませることにある。
 もはや、大衆演劇の世界で歌って踊れて笑いが取れるのは当たり前。
 ならば、れいらがこの世界で頭ひとつ抜き出るには、他の一座がやっていないことをするしかない、かもしれない。

「そこで、これや!」
 さくらさんは、どでかいトランクをバーンと開けた。そこには大小さまざまな手品道具がぎっしりと詰め込まれていた。
「オカーチャンは前々から、なんとかしてうちの一座に他にない特徴を出さなあかんと思ってな、我流でマジック勉強しとったんや。あんたにも稽古つけたるわ。あんたも女優商売張っていくんやったら、特技の一つも無きゃあかんで」
 ビシビシと、母ならではの厳しさでさくらさんはれいらちゃんに畳み掛ける。
「せやけど、さくらさん、れいらちゃん料理も結構うまいし‥‥」
 夕食におでんを煮込んでいた僕は、キッチンから一言フォローを入れてみたのだが、さくらさんはそんな僕の言葉を華麗に、宇宙のかなたに蹴り飛ばした。
「フッ甘いな。いまどき共働き家庭は多いわ家庭科習うわで、男でもたいてい料理できる時代や。
 手作り料理で男オトせる時代はもう終わったで。
 特に芸能界の男なんかは、バレンタインデーに手作りチョコうんざりするぐらいもろてるはずやしな」
「えっ、そうなん!? ‥‥そうかもしれへんなあ‥‥アイツ女の子の共演者とか多いしなあ‥‥」
 目からうろこという態でれいらちゃんは軽くショックの叫びをあげた。
 なぜだかは知らないが。
 しかしそのおかげで、彼女は炎をしょって練習にとりかかった。
「よっしゃオカーチャン、れいら、これからはマジックで大注目集めたる!!」
「ほな、さっそく始めよやないの。コインマジックの基本、『バニッシュ』やってみ!」
「‥‥あいっ!!」
「動作が鈍い! もっと指先に集中しなはれ! 次、カードマジックの基本動作、『シャッフル』!」
「‥‥ひゃいっ!」
「あかんがな、カード落としたらっ! 次! このコップの位置3回入れ替えて元通りにしてみ!」
「‥‥にゃいっ!」
「なんやその堅い動きは! マジックちゅうもんは、しゃべりながら手も同時に動かすんやでっ。 次っ! 紐マジックの基本、『ギロチン』!」
「‥‥うにゃっ‥‥(仮死状態)」
 見かねた僕はついに割って入った。
「さくらさん。れいらちゃん、サナギになりかけやで」
 急激に手を酷使したれいらちゃんは、ほんとにサナギみたいに縮こまっていた。
「オカーチャン‥‥肩凝った〜」
「湿布湿布。磁気ネックレス磁気ネックレス」
 走り回る僕とれいらちゃんを見つめ、さくらさんは、ため息をついた。
「もっと教え方の上手い先生がいてへんやろか。ウチは我流で習得したさかい、ついせっかちになってしまうんよ」
「ほな、いっそこの部屋で一日手品講習会開くっちゅうのんどうですか。れいらちゃんも、仲間大勢おるほうが楽しいかもしれへんし」
 僕の提案に、さくらさんはぱっと華やかな笑顔を浮かべた。
「せやなあ。れいらは昔から、友達につられやすいとこあるさかいな、それええかもしれへんわ。ほな、講師と生徒同時募集っちゅうことで。京ちゃん、あんた、パソコン得意やったらチラシ作っといてんか」
「‥‥はい。いいですよ」
「んで、プロダクション街に適当に貼っといてんか」
「はいっ」
「せや、寒いさかい、来た人全員に行渡るようにおでん増やしといて。お茶もやで」
「‥‥はいっ!」
「あと、人数決まったらその分スリッパと椅子な。あ、それからホワイトボードとマジックな。それから」
 さくらさんはれいらちゃんのかわりに僕を標的にして、ビシビシと仕切り始めた。
 ‥‥なんだか、僕もサナギになりそうな予感がしてきたんだけど、気のせいだといいな‥‥。

●今回の参加者

 fa0984 月岡優斗(12歳・♂・リス)
 fa1810 蘭童珠子(20歳・♀・パンダ)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)
 fa5367 伊藤達朗(34歳・♂・犬)
 fa5442 瑛椰 翼(17歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●ナニワの国からこんにちは
 泉本さくら&れいら親子が待機するマンションに、計8人の男女が訪れた。
「れいら、京さん、こんにちわ! れいらちゃんのお母さん、初めまして。マジックの講義よろしくお願いします!」
 エミリオ・カルマ(fa3066)が言って、ぺっこんと頭を下げる。そのジーンズのポケットに小さなメモとペンが入っているのを見て、
「えみにーやんって勉強家やな」
 とれいらが感心している。
「だって、いつか手品師の役が回ってくるかもしれないしさ。何でも吸収しとかなくちゃ」
「えらいっ! というかそのサービス精神は、大衆演劇に向いてんのんちゃう?」
 さくらが割り込んだ。どうやらエミリオを泉本一座に引き抜く気満々。 
 ほぼ赤ちゃんサイズの人形を抱えた蘭童珠子(fa1810)が腹話術を使った自己紹介。
「こんにちはぁ。あたしは蘭童珠子って言います。タマって言っても、猫じゃなくてパンダなんですよ〜。お友達のキーちゃん共々、よろしくお願いしますねぇ」
『おねーさん、ボクの名前はフレデリック・ジョージ・キンヴァルフ3世だっテいつも言ってるダロ!?』
 人形「キーちゃん」の口をぱくぱくさせて腹話術で掛け合いを披露する珠子に、れいらとさくらが同時に、
「あやっ?! 喋るでこの子」
「ここに機械入ってん?」
 とキー君の口に指を突っ込みかけるわ手を引っ張るわ。
『アタタタ! コラやめろよ〜!』
「あっほらキーちゃん痛がってるから‥‥ね?」
 腹話術でやんわり親子をたしなめる珠子。
「ごめ〜ん、こんな間近で腹話術見たん初めてやったから。えと、キー君? よろしくな」
『ンー、そっちはさくらとれいらだったな、オッス!』
「目上に向かってオッスはないやろ!」
 腹話術とわかってもなお、人形と対等に会話するおまぬけな泉本親子。
「うわ、リアクション一緒‥‥この母親にしてこの娘ありだな」
 こっそり月岡優斗(fa0984)が呟く声を、鋭くれいらが聞きつけて、
「何や、文句あんの? 言うとくけど今日はれいらが師匠やで?」
「ってお前もまだカードマジック一種類だけって言ってなかった?」
「でも、れいらが先やかられいらが偉いんじゃー」
「お前なー‥‥威張ってると後輩に追い越されんぞ?」
「アンタこそちっこい割りに謙虚さが足りんわ!」
「なんで身長の話が出てくんだよ!?」
 結局、れいらは密かに気になる男の子に褒めてもらいたいだけなのだが、どっちも意地の張り合いで限りなく喧嘩ベクトルへ会話が向かっていくのであった。
 ヒートアップする二人をよそに、瑛椰 翼(fa5442)が、部屋にある手品グッズを観察して、
「紐に、紙に、マッチ箱‥‥? あれ、今日は火は使わないんだったよな?」
「なんやあんた、火使うマジックやりたいんか?」
 さくらの目がキラリと光る。
「いやー機会があったら、ババンと火を使ったマジックに挑戦してみたいぞー、なんて。機会があったらね」
 となぜか逃げ腰の瑛椰。だがさくらは彼の赤い髪に緑眼という印象的な外見をしげしげと観察‥‥品定めともいう‥‥しつつ、
「あんた、舞台映えしそうやな。特別個人レッスンで、派手なマジック仕込んでもええよ。うちがチャイナドレス着てアシスタントしたるし。んであんたが炎の輪をピョーン♪」
「コラ、ちょいと待ちや。それじゃピエロや!!」
 なぜか関西弁で突っ込む瑛椰。
「いや、どっちか言うとライオンやろ」
「どっちにしろ、火の輪くぐりは遠慮させてもらいます(キッパリ)」
 二人の会話に、伊藤達朗(fa5367)が笑い声を上げた。
「まるでナニワの漫才ですな」
「あら、あんたさんも関西ですのん。同郷人の俳優さんと会えるとは」
 さくらは嬉しそう。
 言うても斬られ役が中心ですわ、と頭をかく達朗だが、
「今後どんな仕事が来るか分からんさかい、勉強しておくのに越した事はあらへん。マジック言うのは話術が重要なファクターやさかい芝居の上達にもええと思うて」
 プロ意識に満ちた発言に、さくらを照れさせた。
「さくら先生、よろしくお願いします(ぺこり)。あのー、私かなりトロい方なんですけど、手品出来るようになるでしょうか〜」
 と、のんびりな口調のジュディス・アドゥーベ(fa4339)。
「わ、私もあまり器用じゃないし、昔から小さなものを扱うのが苦手で‥‥」
 その後ろに隠れるようにして入ってきた高白百合(fa2431)が遠慮がちに言う。
「れいらも何回もカード落としてごっつい怒られたけど、最後は出来たよ? 二人ともちゃんと女優さんなんやし、れいらより素質あるって」
「そうそう、れいら「でも」出来たんだから」
 すかさず優斗が口を挟み、「あんたは黙っとりぃ」とれいらににらまれる。
 本職のマジシャンだがまだ見習いだという斉賀伊織(fa4840)が自己紹介にボールマジックを披露するというので、全員が注目する。
「独学の上に人前でするのは慣れてないので‥‥多少のドジは大目に見て下さいね」
 緊張気味ながら赤いスポンジボールを取り出してみせ、ぎゅっと握って手を開く。鮮やかな赤いボールが二つに増えた。一つずつ両手に握ってまた開くとさらに増え、両手いっぱいになる。ボールをひとつずつ減らし、最後にひとつに戻して終えた。
「失礼しました。本当はこのボールでジャグリングも披露したかったんですけど‥‥」
 とぴょこんと頭を下げる。
「ああ、ジャグリングにはスポンジより持ち重りのするボールやないとあかんね。せやけど独学でこれだけいけたら大したもんや」
 と、さくらの指導が入った。

●三枚のカードの謎?
 それぞれの手元に、3枚の手帳サイズのカードが配られた。カードマジックの初歩練習。
「はい、3枚をよく見て頂戴。真ん中のカードだけくびれてるやろ」
 なるほどほとんど目立たないが、1枚のカードは両端が ) ( 状態にカットされている。
「このくびれが、手際よく3枚のカードを入れ替えるポイントや。まず、3枚を裏向けて広げお客さんに見せる。1番上をめくるとハートのAやろ? ハートのAを戻して、次に二枚目のカードを見せます、と裏側だけ見せて、引き抜いて表を見せる瞬間に、くびれたカードを手の感触で区別して実は最初のハートAを見せる」
 というさくらの指導の下、百合、ジュディ、優斗、達朗、伊織が挑戦するが、
「くぅっ‥‥指がつって」
 カードをバラリと落として机に突っ伏す百合。
「あれ〜? トランプのシャッフルは出来るからカードくらいは扱えると思ったんですけどね〜」
 カードを折り曲げてしまってほにゃほにゃと自分で笑ってるジュディ。ガタイのいい達朗が身体をちぢめるようにして、「よっ! ほい!」とぎこちなくカードを扱う姿がかわいーと女性陣に大ウケ。優斗は黙々と、一人練習。時々ちらりと隣にいるれいらを見てるのはライバル意識ゆえか。伊織はさすがに手際がいいが、真面目すぎて、
「そない眉間にしわ寄せんと、笑顔」
 とさくらに注意される。
「ほな、次行くさかい、カード組はおでん食べて休憩。その後自主練習な」
 
●縄抜け男参上!?
「次はエミリオ君ご希望のロープマジック。これが基本の結び目の技法、俗称ギロチンや」
 と、さくらがエミリオにロープの片側を持たせ、一端を自分の手首にくるくるとまきつけ、結ぶが、引っ張るとするりとほどける。
「これな、結び目を作ると見せかけて巻きつけた中にΩ形の輪を引き込むねん。編み物の目みたいな感じにな、そうそう」
「うー、結構難しいね」
 と言いつつも、さくらの動きを真似るエミリオの手つきは意外に滑らかだ。
「あんた、素質あるんちゃう!?」
 さくらは目をキラリ。
「えっそう? 嬉しいな♪ まあこういうのはね、母さんにタンゴ習った時も言われたけどさ、失敗を恐れちゃ駄目、思い切って動けって。でさ、今になって俺も思うんだけど、間違ってもいいやって思ってた方が意外に失敗しな‥‥アレ? 師匠助けて〜!」
 やってるうちに楽しくなってきたのか、調子よく喋りながら紐をまきまきしていたエミリオは、調子に乗りすぎて紐でがんじがらめになってしまう。
「褒めた途端にそれかいな‥‥」 
 さくら、口元をひくつかせてツッコミ。れいらは「ほんまに、えみにーやんはええキャラしてんなー」と大喜び。

●どっきりマジック!?
「次は珠子さん希望のファントムやな」と、銀色の筒を取り出すさくらに、ファントムって何? という質問が出る。
「何にもない帽子やこういう筒からハンカチやボールや旗やらが出てくるマジックのこと。空っぽアイテムはファントム、手品の技法はプロダクションて言うねん。けどこれは、手品専用アイテムの「仕掛け」で出来るマジックなんよ。せやから皆には悪いけど、珠子さんだけこっち来てもろて、ネタ見せるわ」
「え〜」と残念がる皆の声を背に受けて、さくらに呼ばれて別室に消えた珠子は戻ってくると、銀色の筒を手にして戻って来、早速披露する。
「ということでネタ見せてもらいましたので、早速やってみます〜。覚えたてで披露することになるとは思わなかったわ〜。はい、タネも仕掛けもありませ〜ん」
 キー君を膝に乗せて椅子にかけた状態で、筒が空っぽなのを見せる。
「ところが、こうやって筒を重ねると、この通り‥‥えーっと、ここをこうして‥‥あら? いやーん、嘘〜。あっ‥‥出たわ〜」
 途中冷や汗をかきながらも、どうにか色とりどりのハンカチを引っ張り出すことに成功し、拍手を浴びた。
『おねーさんはトロいからナ。さくら、もう一度教えてクレ!』
 キー君が言い、珠子はすかさずキー君にデコピンし、一同爆笑する。
「一時冷や汗もんやったけど、キー君と掛け合いする余裕があるのは大したもんや」
 と、さくらはどうやら珠子も引き抜く気らしく、大衆演劇に興味はないかと聞く。
「見に行ったことはないですけど、大衆演劇ってあたし達の舞台と似てますよね。芸の幅を広げるためにも、色々な経験をつみたいとは思ってます」
 珠子は謙虚におっとりと返すが、
『てゆーか、ギャラ弾んでくれなきゃ出ないゾ!』とキー君。
「おっ!? 手ごわいでこの子っ!」

●戦いすんで?
 次にジュディ希望の心理マジック。
「封筒の中身を入れ替えるマジック‥‥言うことやってんけど、トリックの初歩ちゅうことで、一番わかりやすい心理マジックを見せるわな」
 と、さくら。
「今日のメンバーの中にいてる、れいらの片思い相手の名前を当てるマジックや」
「なっなんで、れいらがネタにされんねん!」
 れいらはうろたえるが、ジュディは「うわあ、楽しそう〜、眠気が覚めました〜」と喜んでいる。‥‥それまで眠かったんかい。
 参加メンバーの男性名4つを4枚の紙片に書き、
「これをこの占い箱に入れて、気を送る。よっしゃ、占いの結果が出たで。れいら、百合さんの服のポケット見てみ」
 れいらが慌てて百合のポケットを探ると、「月岡優斗」と書いた紙片が。
「ギャアアア! こんなん嘘! 嘘やから!」
「アホかあんたは。心理マジックの基本、教えたやろ? ちなみに、珠子さんのお皿の下にはエミリオ君の名前、伊藤さんのポケットには瑛椰君の名前、伊藤さんの名前はこのマッチ箱の中に仕込んである。あらかじめ名前書いた紙を仕掛けといて、いかにも当てたように相手に紙を取り出させる訳。相手に発見させるのがミソやね。当てる系のマジックは大体この応用や」
 皆が確かめると、なるほどいつの間にか紙片がある。さてはさくらスリの修行もしてたのかと疑いたくなるが、あえてそれを口にする勇者はいない。
「なんだ〜、わかってみると案外簡単なんですね〜。知り合いに見せてもらったときは全然ネタがわからなかったんですけど〜。でも面白かったです〜、手品もですけどれいらさんの反応〜」
 ほやや〜んと笑うジュディ。
 優斗は関係ねーよと言いたげにあらぬ方を見ているが、れいらは必死で言い訳をする。
「ち、違うって。れいら、あんなんタイプちゃうし! そりゃ、成長したらきっとヤンチャ系のイケメンなると思うし、サッカー上手いしウェア似合うなーと思うし、『ぷにっと☆』全部録画してるけど、絶対ちゃうっ!」
 
 賑やかに講習会を終えて、皆でおでんをつつく休憩タイム。
「へえ、南京玉簾ってマジックじゃないんだ?」
 とエミリオ。
「広い意味ではマジックかもしれんけどな。あれは古典芸能の域やろ」
「巾着は御餅入りと白滝入りがあるんですか? じゃ御餅で‥‥あったまるわね〜」
 と珠子。百合は大根ばかり食べ続け、
「肉汁や野菜やだし汁が十分しみこんだ大根がすごくおいしいんですっ! 二日目の大根1番、じゃがいも2番です」
 と持論を展開。
「おでん評論家か、あんたは」
「あたしも同感〜」
「ああ、やっぱり関西風おでんはホッとしますな。すじは牛スジ肉やないと」
 珍しいもの好きのジュディは伊藤に薦められて関西風の「すじ」を食べてみる。3枚のカードマジックをマスターしたが、途端に集中力の切れた瑛椰は居眠り爆睡。
「うちの前で居眠りとは度胸ある。仕込み甲斐あるわー」
 とさくらがほくそ笑む。
 そんなおでん&マジック談義の傍ら。
「うちの娘がアンタにこれ作ってんわ。優斗君専用やねんで? 仲良ぅしたってや」
 にま〜と笑ってさくらが優斗に、六角形の海苔を貼り付けたサッカーボール型おにぎりを差し出したり。
 ちなみに、最後までカード手品に苦しんでいた百合が、自主練習の結果、
「や、やっと‥‥出来ましたあ!」
 ついに喜びの声を上げたのは‥‥丑三つ時を過ぎた頃だった(ゴ〜ン)。