マダム蘭子は名探偵アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
3.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/07〜04/11
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●本文
☆舞台劇「マダム蘭子は名探偵!?」あらすじ
夜のゲイバー「のんのん」から、事件は始まった。時間は開店前。夜の始まりの時間帯だ。
「キャーッ!」
出勤してきた従業員のヒトミちゃん(本名=勝俣龍之介)がロッカールームで悲鳴を上げた。
「いったいどうしたのよ、ヒトミちゃんたら?」
出勤してきたばかりのヒトミちゃんの先輩格・アズサちゃん(本名=熊田剛司)が何事かと声をかける。
「今、お化粧直そうと思ってバッグ開けたのよ、そしたらメイクポーチの中にこんなものが」
ヒトミちゃんが震える手で、差し出したもの‥‥それは、血まみれのカミソリ刃。
「こっこれは‥‥ヒトミちゃん、マダム蘭子に相談しましょ!」
二人は「のんのん」店主であり、店のママであるマダム蘭子(本名=金本鉄男)に相談した。
マダム蘭子は、今こそ華麗な夜の蝶だが、元はキャリア警察官。
文武両道を地で行く颯爽たる男だったのだが、何を思ってかこの道に転向した。というものの、今も度胸よし、頭よしの頼れる男‥‥いやオカマであることは間違いない。
「これは尋常じゃないわね。ねえヒトミちゃん、他に身の回りに変わったことはなぁい?」
蘭子は冷静に、ヒトミの異変を問いただしていった。
ヒトミは、数日前から再三脅迫めいたメールを受け取ったり、「ころすぞ」という作り声の留守番電話が入っていたりした、と語った。
「そんなことがあったのなら、どうして早くアタシに相談しないの?!」
「だってぇ‥‥また恋愛トラブルなの、いい加減にしなさいってママに叱られると思って‥‥」
と、上目遣いにマダムを見上げるヒトミちゃんは、人呼んで魔性の女、ならぬ魔性のオカマ。
本人は意識しないのに、無意識のコケティッシュさがあり、男を惹き付けるらしいのだが、モテるだけに恋愛トラブルも多い。
不倫に略奪愛、二股に三股‥‥華麗なる恋愛遍歴を持つ彼女ならば、血まみれかみそりを送りつけられるほど恨まれる可能性、無きにしも非ず。
「でもヒトミちゃん。メイクポーチにこんなものを仕込める人物って、きっと貴方の身近な人間よ」
とアズサちゃんが指摘する。その口調に妙な説得力があるのは、実はアズサちゃん、短編ミステリーでとある賞を受賞したばかりの新進オカマ推理作家なのである。
「だけど、ヒトミ最近はおとなしくしてたのっ」
とヒトミは主張する。確かに、同僚のアズサちゃんが推理短編新人賞を受賞したのに刺激され、
「ヒトミも何か特技を持ちたいわ‥‥ハーブが好きだから、アロマテラピストの資格を取ろうかしら」
と、勉強を始めていたこともあり、彼氏いない期間がここ何週間か続いている。もともと退屈するのが嫌いな体質というだけで、男にしか興味が無いわけではないので、結構勉強には熱心なのである。
マダム蘭子は冷静に尋ねた。
「脅迫のメールや留守番電話は残ってる?」
「それが‥‥ムカつくから、つい消しちゃったのよ」
ヒトミちゃんは申し訳なさそうに目を伏せた。
そして、今回のカミソリの件も含めて、警察に相談したが、今のところ何も実害はないんでしょ? と冷たい対応だったという。
「仕方ない子ねえ。いいわ、私がその脅迫犯人を突き止めてあげる。
電話やメールはともかく、ヒトミちゃんのロッカーに触れることが出来たということは、かなり犯人は限定されてくると思うわ。お店で契約してるクリーニング社やバーテンさんやお酒を届けに来る業者さん‥‥そんなところから調べてみることにしましょ」
てきぱきと状況を分析するマダムを、頼もしげに見つめ、
「マダム‥‥ご迷惑をかけます」
ヒトミちゃんは神妙に頭を下げた。
「いいのよ。女同士、助け合わなくっちゃ。それに、私だってどんなところから恨みを買っているかわからないものね」
マダムは遠い目をして言った。
男を捨てて女として生きることで、その男だった自分に惚れていた女には恨まれる。
女と勝手に思い込んで惚れてきた男は、オカマと知ると、これまた勝手に騙されたと怒る。
またオカマと知って惚れられたとしても、「何よ女でもないくせに!」という女の嫉妬と怒りを買ったりもする。
家族は一族の恥だと怒る。
また、オカマ同士でも、競争や恋の鞘当が耐えない。
とかくオカマは生きにくいのである。
オカマとして生きることの厳しさを、マダムは誰よりも知っていた。
「マダム、私にもお手伝いさせてね。安心しなさいヒトミちゃん」
マダムの右腕であるあずさちゃんもウィンクをした。
「さあ、涙は拭きなさい。ゲイは身を助けるわよっ!」
蘭子ママは、華麗な真紅のチャイナドレスの裾をひるがえし、活動を開始した。
☆募集キャスト
●マダム蘭子(本名=金本鉄男)‥‥元警察官のゲイバーのママ。男気と頭脳と体力を兼ね備えたオカマ。きめ台詞は「ゲイは身を助けるわよっ!」
●ヒトミちゃん(本名=勝俣龍之介)‥‥恋愛トラブルが耐えない美貌のオカマ。人呼んで魔性のオカマ。
●アズサちゃん(本名=熊田剛司)‥‥蘭子ママの右腕的存在で、推理作家デビューしたばかりの頭脳派オカマ。女性男性両方の心理を描けると自負している。
※他、ゲイバーの客、蘭子の元同僚警察官やバーテンなど、ご自由に考案の上ご応募ください。
☆諸注意☆
※舞台劇ですので、あまり背景を変えることはできません。主にゲイバー「のんのん」店内で、物語が進行します。この舞台の監督は物語の構成上、時系列を結構重視しますので、必要以上の回想シーンや因縁話はカットする可能性があります。
※他PCさんとの絡みで、「●●をボコボコに殴る」等のプレイングは、双方の合意が無さげな場合、採用しない可能性が高いです。たとえ演技の上でも、絡み方によっては相手の了承を得てください。
※過度の性的表現は採用しないです&お仕置きよ。
●リプレイ本文
☆舞台裏
脚本家「ねぇ監督。元の脚本だとせっかく笙(fa4559)さんの女装なのにチラリの機会が少なすぎて物足りないんですけど」
監督「どういう趣味をしとるんだねキミは!? まぁしかし佐渡川君といい、蘇芳君といいチラリ不足気味なのは確かだな」
脚本家「でしょ!? 少々アレンジしてもいいっすよね!?」
監督「知らんぞ‥‥刺されても」
●第一夜
「誰がこんな‥‥私、一体どうしたら‥‥」
脅迫を受けて動揺するヒトミ(=蘇芳蒼緋(fa2044))。そこへ、
「おっはようございま〜す」
何も知らないバーテンダーのポチ‥‥本名:本田徹(=虹(fa5556))が出勤してくる。蘭子(=笙)はポチに笑顔を向けると、さりげなく言った。
「ポチ、早速で悪いけどヒトミちゃんにアイリッシュコーヒーを」
「はーい」
「さ、飲んで。いいこと、脅迫なんかに負けては駄目。お客様は、貴方の笑顔を待っているのよ」
改めて着替えにロッカーに去ったヒトミを見送り、蘭子はアズサ(=日向翔悟(fa4360))に囁いた。
「アズサちゃん‥‥いえ、推理作家・熊田剛司としてはどう思う?」
「そうね、推理小説ならその犯罪で誰が得をするかを考えるのが定石だけど‥‥」
茄子紺のアオザイに白絹のクワンを長身に纏ったアズサは、女っぽいしぐさで顎に指先を当てた。
「もし彼女が怯えてお店を辞めたら、得をするのは、最近入ってきた新人で人気のある、マリリンちゃん辺りかしら」
「考えたくないわね。仲間同士で足の引っ張りあいなんて」
マダムの美しい顔が翳る。アズサは慌てて、
「あたしもこの店にそんな娘が居るなんて信じたくないわ。でも‥‥身近な人間の犯行とすると、最初に女の子達を疑うべきかしら? 余り良い気持ちはしませんけれど」
「あのー‥‥あたしが何か? さっき、犯行とか聞こえたんですけど‥‥」
ちょうど早めに出勤してきた見習いホステスのマリリン(本名:原木・F・虎次郎=エミリオ・カルマ(fa3066))がおずおずと二人の会話に入ってきた。
「随分早かったのね、マリリンちゃん」
「ええ。だってあたし、新人だから少しでもお店に慣れなくちゃと思って‥‥あの、犯行って?」
やむなく蘭子達はマリリンにヒトミの身に起こった事件を話した。
「まあ、怖い。そんなことをする人間が、このお店に出入りしているなんて‥‥」
ピンクのチャイナドレス姿のマリリンは青い目を見開いて怯えたが、どこか上の空の様子でもある。蘭子はそんなマリリンを見つめながら、念を押した。
「いいこと、今の話は他言無用よ。ヒトミちゃんをこれ以上傷つけちゃいけないわ」
「わ、わかってます」
マリリンはぎこちなくうなずいた。
「ハァイみなさん☆ どう? 今日のエビちゃん風ファッション♪」
出勤してきた古株ホステスのサチ‥‥本名:山下巌夫(=佐渡川ススム(fa3134))が、フリフリのシフォンスカートに風を孕ませくるりと一回転してみせる。
「ごふっ! と、とっても素敵よ。でももう少しお肌の手入れには気をつけたら」
コーヒーを喉に詰まらせかけて蘭子が精一杯フォローする。シフォンスカートの下にはスネ毛が波打っているのだ。
「あら、無駄毛なら夕べバリカンで刈ったわ?」
「残った毛根がツンツンはみ出してるわ。薬品で処理なさいよ」
と助言されたサチは、ちょうど着付けを済ませて出てきたヒトミを頭のてっぺんからつま先までじろじろ見つめ、
「あらぁヒトミちゃん。また着物? ドサ周りの演歌歌手みたい」
「ヒトミ、肩幅が広いからお洋服が駄目なの。サチ先輩はお洋服が似合うから、うらやましいわ」
棘のある先輩の言葉に負けず、ヒトミがたおやかながら見事に切り返した。
やがて一人目の客がやってくる。なじみ客の一人、東村アキ(=沢渡霧江(fa4354))だ。
「いらっしゃいませ、アキ様。またヒトミちゃんをご指名かしら?」
蘭子は笑顔で迎えたが、アキはちょっと気まずそうに、
「ううん、今日はその‥‥悪いんだけど、マリリンちゃんと話したいのよ。今日はあの子の誕生日だって言うから、プレゼント持ってきたのよね」
大手企業の伝説の営業ウーマンだというアキは「のんのん」の上客だ。ヒトミがお気に入りで毎回指名していたのだが、最近は新人で入ってきたマリリンに浮気? 中らしい。
若くてひたむきな上にまだぎこちない日本語が笑いを誘い、マリリンを指名する客は増える一方だ。美貌だがやや無口なヒトミとは対照的である。アキの言葉にヒトミは少し寂しげな顔をしたが、すぐ笑顔になり、「後でヘルプにつくわね」とマリリンに言って、蘭子に近づいてきた。
「あの‥‥マダム、明日はアロマのお教室がありますので、遅めの出勤でいいですか?」
「あら、大丈夫なの? 良ければ私の車で一緒に出勤‥‥」
「い、いいえっ。マダムにそこまで面倒掛けられないわっ」
心配する蘭子とアズサを振り切るように、ヒトミはそそくさと接客に戻る。
「ヒトミちゃん、まだ何か隠しているんじゃないかしら」
アズサの言葉に、蘭子は苦い表情でうなずいた。
「えぇ。私もそう思うわ。‥‥気は進まないけど、やっぱりアイツを召還するしかなさそうね」
深夜‥‥閉店寸前に、その客は訪れた。
「私を呼び出すとは、高くつくわよ? ポチちゃん、ウォッカ頂戴。おつまみはキャビアね☆ もちろん、鉄男のおごりで」
高級ブランドのスーツを一部の隙も無く着こなした天條 麗子(=冬織(fa2993))。元キャリア警察官だったマダム蘭子の同僚だった女性警官で、今の身分は警視。
「ちょっと、無骨な名前で呼ばないでよね? 私は蘭子よ。電話帳記載名が鉄男だろうが蘭子なのよっ!」
「はいはい。‥‥で、相談したいことって何かしら、鉄男?」
にっこりとウォッカを飲む麗子に、蘭子はヒトミ脅迫事件のあらましを聞かせた。
「ふぅん? ロッカールームのバッグの中の化粧ポーチとは念入りな。‥‥でも逆に犯人も限られるわね」
麗子はわざと大声で言いながら、蘭子に目配せを送る。店内の反応を見ろということらしい。接客中のサチがギクつき、お客のヅラを掴み剥がしながらコケたのを蘭子は見逃さなかった。
「ママ、あたし、失礼しますね‥‥あ!?」
何故かそわそわした様子で店を出ようとしたマリリンが麗子が床においていたケリーバッグに躓き、バッグが落ちた。中身が散乱し、携帯電話が派手な落下音を立てた。
「け、携帯‥‥壊れてないかしらっ!?」
やけに慌てたマリリンの手から、ひょいとポチが携帯を取り上げる。
「大丈夫みたいですよ、編集中のメールもちゃんと読めま‥‥えっと、何々? 『○日売上○○○円 蘭子ママのお得意様○○会社会長来店。演歌歌手○○、ヒトミを指名。創作カクテルが人気』‥‥ええ〜ッ?!これって‥‥これってつまり、スパイ?!」
嫌な沈黙が店内に下りた。が、蘭子がやんわりとそれを破る。
「ポチったら、スパイだなんて、人聞きの悪いこと言うもんじゃないわ。マリリンちゃんは研究熱心なのよ。マリリンちゃん、色々見て聞いて知って‥‥いい女になってね」
麗子は口を挟もうとして、止めた。ライバル店「ふろーれんす」がこれまで「のんのん」に何度か嫌がらせや営業妨害をしてきている。マリリンがスパイだとしたら間違いなくふろーれんすが絡んでいると助言しようとしたが、蘭子は既に何もかも勘付いている目の色だった。
「あ‥‥あたし‥‥あたし‥‥ごめんなさいっっ!!」
ふいにマリリンが飛び出した。ポチも後を追う。
「マダム、俺、追いかけてきます!」
「麗子、悪いけどあんたの話術と捜索能力を借して頂戴。これで‥‥女同士、飲んで食べて、ゆっくりあの子の悩みを聞いてあげて」
と、蘭子が麗子の手に数枚の札を押し付ける。
「いらないわよ。それより今後私の飲むカクテルは全部無料にして♪」
そのほうが高くつくじゃないのよーっという蘭子の叫びを無視して、麗子はマリリンを追っていった。
● 第二夜
開店前の店に、瞼の腫れたマリリンを連れて、麗子はやってきた。
「家出少年ならぬ、店出オカマ保護連行したわよ」
「あたし、お店の情報を流してたの。でも‥‥迷ってた。蘭子ママもお姉様も優しいから。でも迷いは吹っ切れたわ。一生懸命蘭子ママのお店で働きます」
日本人の彼氏が消費者金融に手を出し、その借金を肩代わりするからと、スパイを押し付けられたのだと言うマリリンを、蘭子は暖かく迎えた。
「おかえりなさい、マリリンちゃん」
「これで第一容疑者は消えたわね、ママ」
アズサが囁いた。
「でもサチちゃんの昨日の反応が気になるわ‥‥」
件のサチが、ハンカチをかみ締めながら出勤してきた。ちなみに今日はゴスロリ服。
「ママ‥‥っあたし、とんでもないことを‥‥」
その格好でよよと泣き崩れた。
「だってだって、ヒトミちゃんは華麗に男達の間を渡り歩いてなくちゃダメなの。アタシの理想なのよ! じゃなきゃ‥‥ライバルのアタシが惨め過ぎるじゃない‥‥」
えっライバルでしたっけ? と全員首を傾げつつ、詳しく事情を聞けば、ヒトミの華麗な恋愛模様に憧れるあまり、最近彼氏を作ろうとしないヒトミがまた男を頼って恋愛沙汰を演じてくれまいかと、脅迫電話をかけたという。
「ヒトミちゃんが大人しいと、ムダ毛の処理する気力が萎えちゃうのよっ!」
主張するサチをはいはい、となだめてポチが焼酎を差し出してやる。だが、蘭子がどれほどカマを掛けようと(洒落にあらず)剃刀を送ったのは自分ではないとサチは断言した。
「これで第二容疑者も消えたわね。一体誰が‥‥」
アズサが首を傾げた。一方、蘭子は何事か確信を得た様子。
「アズサちゃん、貴方の受賞作のテーマは『一番犯人らしくない人物を疑え』でしょ」
と、そこに出勤してきたヒトミ。蘭子は優しくヒトミを呼び止めた。
「ヒトミちゃん。私、昨日色々考えたのよ。女の子なら普通、友達と一緒の時の職場に送りつけられる剃刀よりも、一人暮らしの部屋への脅迫状の方が動揺するんじゃないかしら。でも貴方は逆に剃刀に動揺し、部屋宛の脅迫状は破り捨てた。本当は怖くも無いのに、サチちゃんの悪戯からヒントを得て、私達にオカマとしての自分は恨みを買っているとアピールしようと思ったからなのね」
「そ、それは‥‥つい、うっかり」
「それに、お店から遠いアロマ教室をわざわざ選んだのはなぜ? 私達にバレないように体を鍛える為ね。肩幅を気にしていたのに、指の節が高くなっているのがその証拠よ。すべては貴方の狂言。男に戻るための布石でしょ? 脅迫が怖いからオカマを辞めると言うつもりだったのね」
「酷いわ! 私達女友達‥‥いえ、カマ仲間への裏切りよ!」
サチの叫びが終わらぬうちに、目つきの悪い男達がどやどやと店内に入ってきた。
「こんなところに潜伏してやがったか! おぅ、勝俣組の三代目。覚悟しやがれ!」
「この人達に手を出すんじゃねぇ!」
着物を片肌脱ぎにして背の昇り竜を晒したヒトミ‥‥いや龍之介が叫ぶ。麗子はとっさにポチ達を背に庇うが、銃を抜くに抜けないこう着状態。と、サチが叫んだ。
「わ‥‥わかってるのよ、どうせ貴方達の目的はアタシのカラダなんでしょっ!?」
それは絶対違うと全員が心の中で叫んだが、サチの自己犠牲的精神は誰にも止められなかった。
「好きにして頂戴!」
ズバッと潔くゴスロリ服を脱ぎ捨てたサチこと巌夫の胸毛とか色々を目撃した乱入者達は金縛りに。
「今よっ!」
「全員、暴行の現行犯で逮捕する!」
蘭子と麗子がほぼ同時に動いた。蘭子のドレスがひらりとなびき、華麗なキックを決められたボスが倒れ、構成員達は電光石火の早業で手錠で2、3人ずつまとめて拘束された。ちなみにその他の男達もそれぞれポチに酒ビンで殴られたり、マリリンに胡椒をたっぷり振り掛けられたり、ろくな目にはあっていない。
「結局、皆に怖い思いをさせたり、とんだご迷惑を‥‥人気も下降気味だし、こうなる前にひっそり去ろうと思ってたのに‥‥」
事件後、ヒトミは打ち明けた。床に片手をついた女の子座りで着物の袖をかみ締めながら。彼女の父がその組長である勝俣組に、新勢力長崎組がたびたび襲撃を仕掛け、もはや女ではいられないと覚悟した末、狂言を思いついたと。もしヒトミがオカマを辞める真の理由が噂になれば、ふろーれんすには格好の攻撃対象となるからだ。
「そうだったの‥‥。ごめんなさいね、そもそも私がふろーれんすのやり口を傍観していたのが原因‥‥不甲斐無いオカマを許して頂戴」
蘭子ママの優しい言葉に、ヒトミはよよと泣き崩れた。
「本当に‥‥すみませんでした」
しかし、まもなく長崎組は麗子の活躍(と裏工作)で別件逮捕やら内部告発やらで内部崩壊状態となり、ヒトミが男に戻る理由自体、無くなりそうだ。
「流石、やり手‥‥職権濫用得意な警視殿ね(ふっ)」
「このくらい訳ないわ。日本の警察と私の采配は優秀なのよ(しれっ)。カクテル無料くらい安いものでしょ? 鉄男」
蘭子の揶揄に、麗子は美しくもブラックな微笑を残し、去ってゆく。銀糸のショールを羽織った紫のドレスから脚線美をちらりとこぼしながら、蘭子は羽扇をひらりと振る。
「皆、私の大切な子達。さあ涙を拭いて笑顔で今日も頑張りましょう! いいこと、私達は本気を出せば、ライバル店なんて目じゃないわ? ゲイは身を助けるのよっ!」
「やっぱり、マダムはサイコーです‥‥!」
ポチが瞳をきらきらさせ、見つめる。
「いらっしゃいませー♪」サチがどっかーんとお客様に体当たり。
「本日はようこそ」ヒトミが淑やかに迎える。
賑やかに‥‥幕。