怪談☆ハンターズアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/23〜04/27
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●本文
どこにでもある小さな町。
チリンチリンと鈴を鳴らし、錆びた自転車が行過ぎる。
豆腐屋さんと八百屋さんの間を行過ぎる。小学校の校門の前で少し止まり、また走り出す。
チリンチリン‥‥なんとものどかなリズムで。
だが。
その自転車には、誰も乗っていない。
ひゅっ。
電信柱の影から、人影が飛び出し、その自転車のハンドルをぐいと押さえる。
「捕まえたーっ!」
『わっ!? な、何をするでありますか!? 本官はパトロール中です、公務執行妨害で逮捕しますぞ!?』
自転車は人の声で話した。
人影‥‥髪をツインテールにした中学生程の少女は、関西弁で自転車を諭した。
「あんなあ、あんたもうこの世の命を終えてはるねん。そんなあんたが真夜中の町をパトロールしとったら、心臓弱い人が見たらぶっ倒れてしまうがな」
『‥‥えっ? なんのことでありますか?』
少女の後ろから、ゆっくりと近づいてきたもう一つの人影が、穏やかな声で告げた。
「貴方はとても勤勉なお巡りさんだったんだね。亡くなった後もこの町の人たちを気にかけているから、こんな姿でパトロールを続けていたんだね」
『‥‥お分かりくださるのですか。本官は‥‥巡査の仕事に誇りを持っております』
自転車は語った。自転車の主だった、真面目な警察官の魂が憑依しているのだ。
『そうだった‥‥本官はおぼれかけた小学生を助けて、もう死んでいたのですね‥‥』
しみじみ呟く自転車をそっと撫でてやり、人影‥‥「怪談研究所所長」の肩書きを持つその人は、優しく告げた。
「そう。もう、ゆっくり休んでもいいんですよ」
◆
「今夜でこの町の七不思議の六つ目クリアやっ☆ あと一個クリアしたら打ち上げパーチーやな」
ツインテールの少女が、ホワイトボードに「六つ目:月夜の無人自転車」と書き込み、言った。
この部屋‥‥心霊学や民俗学、歴史書の類から地図、果ては保育書までが書棚にあふれんばかりに並ぶ、マンションの一室。ここは、「怪談研究所」と呼ばれる場所である。
都市伝説や怪談に悩まされる人々から依頼を受け、それを究明し、時には浄霊まで引き受ける。
そんな仕事を引き受ける位だから、もちろんここの所長をはじめ、メンバー達は一人ひとり只者ではない。
「この町の七不思議って、月夜の無人自転車もそうだけど、そんなに罪の無いのばっかりだったし、七つ目も楽勝なんじゃない?」
忍者の末裔で分身の術を使うメンバーの一人が言う。
「せやな、ゆらら的には、七不思議二つ目の『幽霊の出る古井戸』がサイコーやったわ。
てっきり髪の長い女の幽霊がズルズルーっと這い出てくるンか思うたら、海パンいっちょで飛び込みする芸人の幽霊やねんもん。
所長が『もう十分笑い取ったやろ』って諭したらあっさり昇天してくれたしな」
と、ツインテールの少女‥‥メンバーの一人、玉木ゆらら(=泉本れいら)がくすっと思い出し笑いをした。
ちなみに玉木ゆららは猫又の末裔である。夜目がきき、高いところに上るのは得意。魚に目が無くてしょっちゅう煮干をぽりぽり食べているのは、猫又一族の常らしい。
「いや。七不思議は七つ目が一番手ごわいと相場が決まっている」
所長が、所長用デスクに積み上げられた書物の山からひょっこり顔をのぞかせて言った。
「そうですね‥‥いまだに七つ目の不思議が何なのかさえ、わかっていませんしね」
妖狐とのハーフで、人やモノなど色々なものに化けられる化生の術を心得たメンバーの一人が言った。
「所長が言うくらいなら、用心してかからなきゃね」
「じゃ、七つ目の不思議、調査開始。皆、心してかかろう」
所長の言葉に、メンバー達は表情をひきしめ、うなずいた。
☆特撮ドラマ「怪談☆はんたー」募集キャスト☆
●怪談研究所のメンバー達(いずれも、妖怪のハーフだったり、霊能力があったり、特殊能力を持っています)
・所長
・所員たち
●七不思議の七つ目の不思議の原因である幽霊もしくは妖怪
※猫又の末裔・妖狐ハーフをそれぞれ猫獣人・狐獣人が演じる場合、シーンによっては半獣化・獣化OK。
※怪談研究所に協力する幽霊たちがいても可。
※猫又の末裔でヘタレ所員の玉木ゆらら役でNPC泉本れいらが共演します。仲良くしてくれる人に先着順で「たこ焼き飴」をくれたりします(ちなみに大不評)。
●リプレイ本文
●調査開始!?
七不思議の、七番目解明調査。怪談研究所の所員達はそれぞれに動き始めた。
予知能力を持つ所長(=角倉・雨神名(fa2640))は、
「私の予感によると、何か『人形』に関したもののようだが‥‥今はそれしか見えないな。皆の調査が頼りだ」
と、再び文献の山に埋もれる所長。高校生位に見える美少女だが、本名・年齢・正体すべて不詳の存在。本当は何百年も生きてるらしいなどとまことしやかに言う所員もいる。
いつから、なぜ怪談研究所を経営しているのか、誰も知らない。
「なーなー、おねーちゃん、起きてっ! 調査やて」
玉木ゆらら(=泉本れいら(fz1043))はゆさゆさと華(ハナ=丙 菜憑(fa5575))の体を揺さぶった。
「ふみゅ‥‥たこ焼きおかわり‥‥むにゃ」
華は机に突っ伏したまま寝言を言う。ゆららとは実の姉妹ではないが、同じ猫又なので、ゆららが勝手に姉貴分扱いをしている。ゆららより純血の猫又に近いらしく、昼間は寝てばかり。
「んも、しゃーないな‥‥豊君は、今度は何作っとん?」
「占いマシンですよ。所長や僕やあなたの霊感を集めて、予知ビジョンを映像化するんです」
フロアの隅で、何やら機械を組み立てている豊(=タブラ・ラサ(fa3802))が応える。
「そんなん使えるん? ケータイ使いこなすだけでもシンドイのに」
「今の世の中は日進月歩。これくらいできないと時代に取り残されますよ」
と、年上のゆららを余裕たっぷりにからかう天才小学生の豊は、実は妖狐と人間のハーフである。今のようにものごとに熱中すると、獣耳と尻尾が出てくる。
「ふーんだ、取り残されてへんもん。韓流アイドル追っかけてるねんから」
と言いながらゆららが豊のしっぽをむぎゅっと掴むと、豊が「ふにゃっ!?」と奇声を発し、くたっと床にのびた。尻尾が弱点なのだった。
所長がくすっと笑い、
「仕方が無いな。豊君はマシン作成を続行してくれ。ゆらら君と華君は電話番だ。聞き込み調査は‥‥貴方に頼むとしよう、サイ君」
返事は無い。呼ばれたサイ(=ルーカス・エリオット(fa5345))は、部屋の窓越しにベランダを見つめている。正確には、ベランダに置かれたハーブの鉢植えと、『会話』しているのだ。
「フーン。そうなんだー? クスクス☆」
「ちょっと、所長が呼んでるで!?」
ゆららに背中をつつかれるサイは、動植物とテレパシーで会話する特殊能力の持ち主だ。褐色の髪をふんわり靡かせた、シルクの純白シャツが似合いそうな外見に似ず、ジャングル育ちの野生系。
「あ? キキコミ? 何それ、食べたこと無い」
「食べ物ではない! 七不思議の調査じゃ!」
サイの守護霊? ヤン(=カナン 澪野(fa3319))がフォローする。外見は美少女と見まがうばかりの、透き通るばかりの美少年なのに、中身は物知りで小言好きの「ご隠居さん」という不思議幽霊。本人曰く、幽霊化の際に手違いで、幽霊としての姿かたちが若返りすぎてしまったのだとか。
「何か結果が出たら、ごほうびは金平糖じゃ」
ヤンの、老人が孫を甘やかすような口調で言われると、急に「にっぱー☆」と笑顔になって飛び出していく。
「ひゃっはーっ! ごほうびごほうびっ☆」
「待たぬか〜」
ヤンがヒョォォ‥‥と漂い飛んで追いかけていく。そんな不気味可愛いこの二人は、怪談研究所名物の凸凹コンビであった。
●伝言ゲームでピンチ
早速、町なかの野良猫や飼い犬や鴉、果ては街路樹や道端の雑草にまで話しかけて情報収集に努めるサイに、ヤンは、
「これこれ、そのように道端でしゃがみこんで草花に話しかけるでない。女学生達が巡査を呼ぼうかどうしようかと相談しておるようじゃぞ?」
とお小言&注意をくれるが、サイは極めてナチュラルに会話中(公園のイチョウ木と)。
「あははっ☆ 酔っ払いの自転車がここに激突したんだー? で? 他に変わったことは?」
と、しばらく話し込んでいたが、突然ぱっと顔を輝かせ、叫ぶ。
「わかったぁ!」
「キャーッ!」
大声に、ヤバイ人がいるわよーと離れて見守っていた女子高生の群れが悲鳴を上げた。
「所長達に連絡しなくっちゃ! 電話電話―! ごほうびーっ! 金平糖ぅー!」
サイは十円玉を握り締めて、電話ボックスを求めてダッシュ。ちなみに携帯電話は持っていない。到底使いこなせないからだ。発見したのはいまどき珍しい、タバコ屋の店先の赤電話。タバコ屋の店番をする老婆に、「若いのに気の毒な」という目で見られつつ、使い方を教わる。
「もしもしっ!」
「ふわぅ‥‥ん? サイ君なのぉ?」
と、電話を取ったのは、寝ぼけ状態の華。せきこんでサイが電話口で叫ぶ。
「あのな、七番目の不思議ってな! 蝋燭持ってギブミーでホラーだって!」
「えっ何? 『盗賊がモテたと岐阜県でホラ吹いた』?」
「えい、らちが明かぬわ!」
ヤンが善は急げと、サイに憑依する。
「蝋燭を持った謎の人物が丑の刻参りで手招いている‥‥とサイは言っておる」
「それってどこで?」
「そうじゃ、それをまだ聞いておらなんだ‥‥場所どこじゃ、サイ?」
「んーと。別荘だって。2丁目のー、ドーンとでっかいうち―」
「えっ? 『ベッタリと二挺拳銃のドーンと撃った血』?!」
「違う違う、元別荘らしい、大きな屋敷じゃと言うておるのじゃ!」
不毛な伝言ゲームは小一時間続き、詳細な場所を伝えきれぬところで十円玉が尽きてしまった。
「この電信通話機とやらは故障かの? ‥‥私の現役時代には無かった故、勝手がわからぬのじゃが‥‥」
ヤンが電話と格闘している間に、サイは既に件の屋敷に猛ダッシュ。門をどんどんと叩いて、
「お邪魔しまーす! ユーレーいるー!?」
返答がないので、反動をつけて塀に飛びつき、スルスルとよじ登る。サイが玄関に立つと、まるで扉が迎え入れるように開いた。
「これ、その様に先走っては皆の迷惑になろうが!! 暫し待てというに!」
ヤンの制止も聞かず、サイは好奇心のままに踏み入れる。ギシッ‥‥ギシッ‥‥一足ごとに、うめくように床板が軋む。暗い廊下の突き当たりに、ほのかな灯りがぽおっと現れた。だぶだぶの、戦前頃の学生服を着た少年(=倉橋 羊(fa3742))。赤い着物の人形を抱いている。少年はにっこりと手招きした。
『いらっしゃいませー。何名様ですかー?』
「あ、二人―。幽霊込みだけどー」
あまりにも弾んだ声で迎え入れられて、思わずナチュラルに応答するサイ。
『お飲み物何にしますかー?』
「んと、牛乳‥‥って、お、お前、七不思議の幽霊っ!?」
つんつんと袖を引っ張るヤンのおかげで、はっと気づいてサイが腰を浮かせる。
と、少年の目が光った。
『ねえ‥‥帰らないでよ‥‥僕とお友達になってくれるよね‥‥? あの、人間じゃないんだけど』
「やっやっぱりー!」
反射的に逃げ出そうとするが、少年はくすくす笑った。
『駄目、久しぶりのお友達だもん。嬉しいから結界張っちゃった☆』
「ちょっ‥‥結界って!」
「うーむやはり一旦事務所に帰って報告すべきじゃったかの‥‥」
見えない壁に阻まれて、出るに出られないサイとヤン。
『ねぇ‥‥なーにして遊ぶ?』
少年が闇の中で笑った。
◆
同じ頃『怪談研究所』では‥‥
「ったくもー、サイ君の電話ってばさっぱりわかんない。二挺拳銃だの盗賊だの‥‥」
夕方になり、ようやく覚醒した華が所長に文句を言っていると、所員の楓(=姫乃 唯(fa1463))がやってきた。楓は神社の見習い巫女で、神社での務めが終わってから来所するのが常だった。楓は報告した。
「参拝に来たお客様から、最近嫌な事ばかり起こると言うお話をよく伺います。それが、二丁目にある大きな屋敷に近づいて、幽霊らしきものを見てから起こることだそうで」
「あっ‥‥お屋敷‥‥元別荘の大きな屋敷って言うてへんかった?」
ゆららが素っ頓狂な声を上げた。そういえば、と華がまだ眠たげな目を見開いた。
と、ほとんど同時に、隅っこで黙々と機械と格闘していた豊が、
「できましたよ、占いマシン!」
嬉しそうな声を上げた。
「皆の霊感を集中させて、サイさん達の居場所をこの液晶画面に呼び出せると思うんです。皆さん、ここに手を置いてください」
● ともだちになろうよ
豊の占いマシンによって、どうにかサイ達がいるはずの屋敷の場所を特定できた、怪談研究所の所員達。来る道すがら楓の話を詳しく聞いたゆららがぶつぶつ言った。
「なんか嫌やなー。だって楓さんの言うとおりやったら、幸運に恵まれたと思たらすぐ不幸になるんやろ?」
「そうなんですよ。たとえば全然モテない40歳代の独身男性が屋敷の前で幽霊を見て固まってると、急に美人モデルと出くわして『一目ぼれしましたっ!』って抱きつかれたんですって。でも、幽霊を見た直後ってこともあって美人を置いて逃げ出して、運悪くそこを週刊誌にキャッチされて『サイテー男』って騒がれて、引きこもりになっちゃったとか。幸運が来たと思ったら駆け足で去ってゆくみたいな感じでしょうか?」
だが、玄関には結界が張られ、入れない。夕闇が濃くなるにつれ、元気の出てきた華の瞳が碧色に光った。猫又らしく、ひょいと塀から庭の木へと飛び移り、二階の窓を覗き込む。
「ここまでは結界が及んでないみたいよ」
「おねーちゃんナイスっ!」
華が中から鍵を開け、所員たちは屋敷内に入り込む。
「幸運を呼ぶ妖怪的な存在といえば座敷わらしが代表格だが‥‥すぐ不幸になるというのが妙だな‥‥こら、ゆらら君、少し離れてくれないかな」
と、所長。怖がりのゆららがしがみついて離れないのだ。
「おねーちゃんがどんどん奥入ってしもて、ゆらら一人やねんもん!」
自称因幡の白兎の末裔で兎妖怪の所員、イナバ(=因幡 眠兎(fa4300))は、屋敷内のインテリアなどを品定めしつつ、こっそり家具の間に糸を張ってゆららの足を引っ掛け、転ばせたり悪戯三昧。
「何すんねん、もうっ!」
「キャハハッ☆」
「こっちよ。声が聞こえる」
先に立って奥へ進んでいた華が、ひょいと廊下の角から顔を出して言った。
謎の少年が立ち上がって、
『うわあ、いっぱいお客さんっ!』
と嬉しそうに叫ぶ。
「ゆ、ゆららは食べても美味しくないでっ!」
と華にしがみつくゆらら。
「ゆらら、しっかりしなさい。あなた‥‥もしかして、座敷童子?」
華は闇に光る目でじっと見つめる。
『うんっ。うわあ嬉しいな☆ ちゃんとお話してくれるんだぁ‥‥今までここのおうちに来る人、変な人ばっかりだったの‥‥僕が仲良くなりたくて声かけたら、皆逃げるんだもん。それとも僕が変なのかな‥‥あの、皆はお友達になってくれる?』
「座敷童子であったか‥‥此所まで成長した者は珍しい。レア座敷童ですな」
ヤンが変な関心の仕方をした。
「それで分かった‥‥座敷童子と一緒にいると幸運が来るのが普通ですが、皆幽霊と勘違いして逃げたから、幸運が急激に離れてしまったんですね」
楓が手をぽむする。
『どうしたの? やっぱり、人間じゃないから、駄目? ‥‥さみしぃよぅ‥‥』
座敷童子は、状況をそれぞれに分析する所員達の様子を、怖がって近寄ってこないのかと勘違いして、寂しそうに人形をぎゅっと抱きしめた。
「人間じゃないというなら、僕だって人間じゃないですよ。ほら」
豊がぴょこんと突き出た狐の獣耳と尻尾を指す。
「私達だってそうよ。っていうか、少なくとも私達は、人間じゃないからってあなたみたいな寂しがりやを一人ぼっちにしたりしないわ」
同じく華が、座敷童子にびっくりした拍子に突き出ていた猫耳と尻尾を指す。華にしがみついたままのゆららも同じだ。
「私達はどんな者も拒みはしない‥‥共に来るかい?」
所長が手を差し出すと、座敷童子のザシキ君は、きゅっと握り返した。
『うんっ! えっと、ザシキ君って呼んでね☆ 嬉しいな、人間の女の子の友達って初めてだから‥‥でも、怖くないの?』
「私が人間だなんて誰が言った?」
所長がいたずらっぽく微笑み、前髪をかきあげた。
「未来を知り、人の心を読む妖怪‥‥サトリって聞いたことないかな」
所長のすべらかな額で、三つ目の瞳がウィンクした。
「これから宜しくね。一緒に事務所に帰りましょ? 今夜は七不思議クリアの打ち上げパーティーよ」
「人間も妖怪も、一緒にゴハン食べたら皆仲間や。行こ」
ザシキ君の左右から、華とゆららが手をつないだ。
●すき焼きパーティー
「今夜は打ち上げ兼ザシキ君の歓迎パーティーですよ。研究所の皆がお友達ですから、もう寂しくなんてないですよね?」
と、楓がザシキ君の皿に、すき焼きの鍋から豆腐やお肉をてんこ盛りに取ってやる。
「あれ、お葱ばっかり食べてませんか? うかうかしてると、お肉盗られますよ」
暫くして、ザシキ君の皿を覗き込んだ豊が、ひょいひょいと所員達の皿から具を盗み取っているイナバを睨みながら言うと、
『うぅん‥‥いいのっ。大勢でゴハン食べるだけで十分美味しいんだもん』
ザシキ君は、嬉しそうに葱を食べている。
「今までさぞ寂しかったのであろうな‥‥。これからは私のような老いぼれで良ければいつでも話し相手になりますぞ」
ヤンがほろりと目頭を押さえた。
「本当の不幸を知る者こそ、本当の幸福の大切さも知っているのさ」
そんなザシキ君を見て、ぽつり、所長が呟いた。
「わーいっお肉お肉っ! かぷっ☆」
「キャーッ、サイ君、生のまま肉食べたらあかん〜!」
人間・妖怪・半妖怪達の、賑やかな夜は続く。