女王卑弥呼起つアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
小田切さほ
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
3.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
04/24〜04/28
|
●本文
古代日本‥‥倭国。混沌とした欲望と戦いが渦巻く世界であった。
倭国は「阿沙比(あさひ)王」率いる東の国と、「伊卑柯(いひか)王」率いる西の国が主な二大勢力。
その二国の争いは苛烈を極め、隣国を巻き込み、果てしなく続かとさえ思われた。
阿沙比王には、伊卑柯王との和睦を主張する穏やかな性格の弟王子・月読(つくよみ)と、病弱な妹の比那弥(ひなみ)がいた。
ある日、月読は比那弥の世話を焼く下仕えの女達の中に、ひときわ比那弥の信頼を受けて働く、優しげな娘を見つけた。
「さあ、比那弥さま。この草の汁をお飲みになって‥‥この香りが胸の痛みを和らげ、ぐっすりとお休みになれますわ。明日は星の位置を見るかぎり、よく晴れた穏やかな日になりますゆえ、お散歩にお連れ致しますよ」
卑弥呼(ひみこ)と呼ばれるその娘は、薬草の使い方や風向き、天気の変化に詳しく、「大自然の精霊の申し子」と噂されていた。
「月読さま、戦はまだ続くのでしょうか‥‥草も木も大地も、もう流れる血は見たくないと泣いていますのに」
「なぜそのようなことがわかるのだ、卑弥呼よ?」
「耳を澄ましてごらんなさいませ。ほら、足元の草でさえ、小さな花を咲かせようと根をふんばっている‥‥
木は枝を広げて、人間達にこの涼しい木陰で休め、もっと穏やかに生きよと呼びかけていますわ」
「そなたは不思議な娘だな。だが‥‥そなたといるとなぜ、こんなにも心が休まるのだろう‥‥」
卑弥呼と月読は互いに惹かれあう。
そして月読は考えていた。
卑弥呼がいれば和平交渉はスムーズに進むのではないかと。
卑弥呼の薬草知識や風読みの力は、西の国にとっても望ましいことに違いないのだ。
東の国からその知識を授ける代わりに、西の国の金属の扱いの知識や獣の皮を加工する術を教えて欲しいと持ちかければ、伊卑柯王の心も動くのではないか。
だが月読の交渉を待たずして、伊卑柯王の軍が東の国を急襲し、やむなく月読は兵を率いて戦場に赴かざるを得なくなる。
「卑弥呼よ。私が戻ったら、私の妃になってくれぬか。そして、そなたの聞く大自然の声で、民を導いて欲しいのだ。今は武力で敵を倒すことしか頭に無い兄上にも、そなたの助言に耳を貸すよう私が説得する。時間はかかるかもしれないが‥‥」
「私が‥‥月読さまの妃に?」
卑弥呼は両親に長患いの末先立たれた貧しい娘。もとより身分の違う恋がかなうなどとは思っていなかったが、そこまで申し出てくれる月読の心が嬉しい。
比那弥を励まし、卑弥呼は必死に傷ついた兵士達の治療に、子供たちの保護に奔走する。だがそんな卑弥呼を待っていたのは、月読が戦死したという知らせだった。
打ちひしがれる卑弥呼だったが、月読の死を知って発作を起こして苦しむ比那弥の看病をするうち、決意する。
「ご安心くださいませ、月読様。月読様の願い‥‥平和を私が叶えてさしあげます。
そして比那弥様は私が一生、お守りいたしましょう。
月読様も、大自然の精霊の一人となり、私を導いてくださいますね?
もはや私は女を捨て、大自然の精霊の言葉を語る巫女として生きる‥‥生涯、誰にも嫁ぎはしませぬ!!」
まだ東と西の戦いは続いていた。
卑弥呼はこの戦いを収めるべく、妻や母になる喜びを捨て、生涯を孤独な巫女として生きる決意とともに、大自然の精霊に祈るのだが‥‥!?
☆募集キャスト☆
●卑弥呼‥‥大自然の精霊の声を聞く娘。貧しい生まれ育ちだが明るく、病弱な比那弥に同情している
●月読‥‥東の国の第二王子。穏やかな性格で西の国との戦いを憂えている
●阿沙比‥‥東の国の王。武力に優れ、気性は荒い。西の国の征服に心血を注いでいる
●比那弥‥‥月読の妹。病弱で次兄の月読と卑弥呼に頼りきっている。長兄の阿沙比は愛情というより畏怖の対象らしい
※他、月読の配下、卑弥呼の兄弟(弟がいたらしい)、西の国の使者など、ご自由に考案の上ご応募ください。
※名前表記がややこしいので、カタカナ書きでもOKです。
●リプレイ本文
● 荒風渡る
西の国の軍勢の急襲を受け、東の国はにわかに怒号と悲鳴に揺れた。
東の国の第二王子、月読(=虹(fa5556))は、出兵前、比那弥(=小塚さえ(fa1715))の元を訪れた。もちろん比那弥の世話役である卑弥呼(=都路帆乃香(fa1013))に会う目的もある。戦に行く前にしばしの別れを告げに来たという月読に、卑弥呼は告げた。
「どうぞ‥‥ご無事で」
「しばしの別れだ‥‥戻ったら妃になる約束、忘れてはなるまいぞ」
月読は笑って、卑弥呼をぎゅっと抱きしめると、去っていった。比那弥は無邪気に言った。
「貴女がお兄様の妃に‥‥私もそうなってほしい。卑弥呼、あなたとお話をするとお兄様はお気持ちが安らぐみたい。それが嬉しいの」
だが、それは叶わぬ夢となった。
その日の夜遅く、不吉な知らせを告げたのは、由木那(=海風 礼二郎(fa2396))という、月読の下仕えをしていた少年だった。由木那は体中血と泥で汚れ、そこかしこに傷を負った姿で戻り、卑弥呼に彼の死を知らせに来たのだった。
「月読様は、お前は戦なんかで死ぬんじゃないぞって‥‥そして、卑弥呼さんに、比那弥を頼むって、伝えてくれって‥‥」
「月読様が‥‥お亡くなりに‥‥!」
衝撃を受ける卑弥呼だったが、同じく兄の死を聞いた比那弥が発作を起こし、ぜいぜいと苦しげに咳き込む。
「お兄様が身罷ったのに、どうして役立たずのわたくしが生きているの? どうして?」
痛む胸を押さえながら、何度も自分を責める比那弥。生前の月読が比那弥を可愛がっていた姿を思い出し、卑弥呼は懸命に手当てした。
「ご自分を責めてはなりませぬ。さあ、すり潰した栗のお粥を召し上がれ‥‥力が付きますよ」
励まされ、ようやく比那弥はわずかな粥を口にした。
涙の痕を頬に残した比那弥の寝顔を見ながら、卑弥呼は思った。
(「月読様は、病弱な比那弥様のことがさぞ心残りだっただろう‥‥。これからは私が比那弥様をお守りしよう。出来るなら、月読様の望み、平和をかなえてさしあげよう」)
卑弥呼は、比那弥の体を丈夫にすることに必死となり、薬草を捜し歩いた。
卑弥呼だけが知る、薬草の群生する谷。そこを訪れた卑弥呼は、見知らぬ人間がそこにうずくまっているのを発見した。
狼の毛皮をまとっている。西の国の服装である。一瞬緊張した卑弥呼だが、その若者は足に深手を負っていた。若者も、卑弥呼を東の国の娘と見て警戒したが、卑弥呼は若者の傷に、ごく自然に手を伸ばしていた。
「大丈夫、骨までは傷ついていません。傷口を洗って、血止めをしておきましょうね」
「お前、正気か? 敵国の兵を助けるなど狂気の沙汰だ。そうか、何か思惑あっての事なのだろう。何が望みだ!?」
「私は、戦が嫌いなだけです。安心して、この谷に来る人間は私しかいないはず‥‥その岩の陰で雨露を凌いでいらっしゃい。明日は何か食べ物を持ってきますね」
卑弥呼の自然な態度に、若者は傷の手当を素直に任せるようになった。
「東の国にはお前のような変わり者がたくさんいるのか?」
ぽつりと若者は言った。なぜ、と卑弥呼が問うと、
「もしそうだとしたら、戦は空しいものだと、思ってな」
照れたように呟き、「八雲(=椎名 硝子(fa4563))」と若者は名乗った。
● 阿沙比動ず
阿沙比王(=笙(fa4559))は部下から報告を受け、苛立っていた。戦力は伯仲しているはずなのに、武器の性質は西側が格段に優れており、戦況は苦しい。かろうじて阿沙比の戦略が功を奏し、敗戦には至っていないという状況。
「伊卑柯め‥‥いずれ月読の仇は必ずわが手で打ってくれる!」
阿沙比が青銅の剣を見つめて誓った時、部下の一人が、「恐れながら」と進言を申し出た。
「よく当たると噂の、卑弥呼なる占い女がおりまして‥‥その女の申すには、明日は激しい雨が降る故、出兵を控えた方がよいそうで‥‥」
「雨、だと?」
阿沙比は空を見上げた。雲ひとつない青空である。阿沙比は目に見えるものしか信じぬ性質であり、占いなど怪しいものだと思っていた。だが、申し出た部下は日ごろ冗談も言わぬ実直ものである。とはいえ丸ごと信じたわけではなく、阿沙比王は慎重に兵に出撃の用意をさせておいて、夜明けを待ち天候の変化を見た。果たして、日が昇ると間もなく、激しい雨が降りそぼった。東軍は兵を休ませることが出来た上無駄な労力を省けた。それに引き換え天候を図らず出兵した西の軍は、泥に足をとられ、兵を疲れさせた様子。阿沙比王は、弟を失って以来はじめて会心の笑みを浮かべずにはいられなかった。
「やはり、卑弥呼の占いはよく当たりまするな!」
進言した部下を始め、兵士たちが、嬉しそうに卑弥呼という名を口にする。阿沙比は興味を抱き、部下の沙良(=春雨サラダ(fa3516))に命じた。
「卑弥呼なる占い女、ただの騙りとも思えぬ。使える駒かどうか見極め、使えるならばわが元へ連れて来い。噂の卑弥呼に祈祷でもさせれば、東の国が勝つための兵士達へのよき見世物になろう」
「かしこまりました、阿沙比様」
沙良は比那弥の世話をする娘に混じり、卑弥呼の様子を探った。そっと仕事の合間を縫って姿を消す卑弥呼を怪しみ、沙良が後をつけると、卑弥呼が岩陰に隠れた八雲の手当てをしているではないか。
(「あれは、西の国の服装‥‥!」)
沙良は戻ってきた卑弥呼を呼び出し、問い詰めた。
「敵をかくまうなど、一体なぜ‥‥!」
「傷を負った人が、私達に害をなすはずはないでしょう? それに私は願っているのです、いずれ戦が終わり、西と東が友になれますようにと‥‥」
卑弥呼に応えられ、沙良は思わず、
「あなたの言う和平、確かに、必要なものかもしれません。兵士達は皆疲れ果て、阿沙比様も月読様を失われて、食も進まず‥‥」
口を滑らせ、はっと口を押さえた。阿沙比王は兵士の士気を落とさぬ為、敢えて冷厳たる物に動ぜぬ男として振舞っていた。側仕えの沙良が垣間見た、人間的な姿は戦の空しさ悲惨さを痛いほど沙良に感じさせたが。
「私はわが主には、沈黙を以って通しましょう」
沙良は約束し、阿沙比王の呼び出しを卑弥呼に告げた。
(「この機会に、正式に巫女となることを王様にお願いし、認めて頂こう」)
卑弥呼は決意を新たにし、そのことを弟・夜毘古(やひこ=千架(fa4263))に告げた。
「巫女になるって‥‥何考えてんだよ!? 月読様の事を忘れろとは言わない‥‥でも姉上には幸せになって欲しいんだ、僕は!」
「私は十分幸せよ? こんなに姉思いの弟がいて」
卑弥呼は笑って、夜毘古の頭を撫でる。夜毘古が少女のような頬をぷっと膨らませた。
「だからっ! 子供扱いするなよ! 僕は本気で心配してるんだ、誰か傍にいてくれる人がいないとって‥‥姉上はお人好しだからな」
「いいえ、月読様は、大地の精霊となって、今も私の傍にいらっしゃいますよ」
静かに卑弥呼が笑う。何言ってんだと抗弁しかけた夜毘古は、目を見張った。卑弥呼の傍らに、たなびく白い衣を纏い、卑弥呼の肩を包み込むようにして立つ月読の姿が‥‥
見えた気がした。が、まさかと夜毘古が目をゴシゴシこすっている間に、月読は消えた。
「夜毘古、巫女になって私は、戦を止めてみせる‥‥貴方にもその手伝いをして欲しい。月読様が‥‥いえ大地の精霊がそう願っているわ」
死してなお、月読が卑弥呼を守るほどに魂が結ばれているとしたら、やはり卑弥呼は巫女となる方が幸せなのだろうか。悩みぬいた結果、夜毘古は、きっぱりと卑弥呼に告げた。
「残念だが僕に精霊の声は聞こえない。だから人の声に耳を澄まし、姉上を助けるよ」
奇しくもその言葉は、のちの夜毘古の運命を予言していたのである。
● 西と東
阿沙比王のために祈祷をする前に、卑弥呼は夜毘古を連れ、八雲を見舞った。傷のいえかけた八雲は、これ以上卑弥呼に迷惑は掛けられぬと西へ帰ろうと決意していた。
「私を助けた事をいつか後悔しても知らぬぞ。だが、そなたの様な不思議な力と優しい心を持つ娘がこの国にいる事は、一生忘れないだろう」
だが、夜毘古はその八雲に、西の国まで自分を連れて行ってほしいと頼んだ。
「姉上の作ったこの薬で、傷ついた兵士達を癒し、和平に応じてくれるよう、頼んでみたいんだ」
姉に西の国の兵士をかくまっていると聞き最初は驚いた夜毘古だが、八雲が素直に姉に感謝していることを感じとり、西の国とも語り合えば心は通じると思うようになっていた。
八雲はあっけにとられ‥‥そしてふいに笑い出した。今まで閉じ込めていたものが卑弥呼によって解き放たれたというように。
「ははっ‥‥そこまでしようとは。そなたの本気と覚悟、確かに受け取ったぞ。私もそなたに賭けてみたくなった。元々好きでしている戦ではない。私も微力ながら和平の為に力を尽くそう」
夜毘古を連れ、自国へ戻り伊卑柯王に和平を進言するという八雲を卑弥呼は万感の思いをこめて見送った。
「僕は大丈夫だから、姉上は姉上の役目を」
笑顔で言い置く夜毘古は、急速に大人びたように見えた。
卑弥呼は阿沙比王の下へ赴いた。
「お前が精霊の声を聞くという娘か。精霊は何と言っている? 無論、我が国の勝利を囁いているのだろうな」
阿沙比王は傲岸に卑弥呼を見据えた。卑弥呼は静かに口を開いた。
「失礼ですが、その前に‥‥左肘の古傷は、きちんと手当てをしませぬと後々までも痛み、障りとなりましょう」
「なぜ、この傷のことを‥‥!」
阿沙比は民を不安にさせぬため堪え隠していた傷を言い当てられ、驚いた。だが、卑弥呼が巫女となることを認めはしても、西の国との和平を進言すると、断固として拒絶した。
「今更伊卑柯づれに友達面などさせられぬわ。奴は月読の仇ではないか」
と、鼻で笑う。そこへ、沙良に支えられた比那弥が現れた。気性の荒い阿沙比を恐れ、いつも月読の後ろに隠れていた比那弥が、はっきりと阿沙比の目を見つめ、言った。
「私からも、お願いでございます。武力だけが全てを解決する方法ではないはずです。知恵と慈悲で治めていく方法もあるはずです。大自然の声を聞くことのできる卑弥呼なら、その道を探ることが出来るはずです。どうぞ卑弥呼の言葉に耳をおかし下さい。月読お兄様も、それを望んでいらっしゃるはずです」
生まれ変わったようにはっきりと自分の意見を述べた妹に、阿沙比の心も揺れた。だが、兵士の一人が、進言した。
「捕らえた敵兵士から、西の国の噂を聞きつけましてございます。腕の立つ兵士で八雲とやら申す者が、傷を負い、ここ数日姿を消している由。逃げる途中で獣にでも食われたのでございましょう。強き兵士が欠けた今、西の国を叩きのめす絶好の機‥‥!」
一瞬、阿沙比はためらいの表情を浮かべたが、立ち上がり、命令の声を響かせた。
「よし。すべての兵に命ず。今こそ西の国を討て!」
おおっ‥‥! と鬨の声が上がる。
「いけませぬ!」
卑弥呼が叫んだ、その時。
ごおっと低い地鳴りが響き、グラグラと大地が揺らいだ。地震だ。
阿沙比はとっさに、か弱い比那弥を抱きとめた。
「あっ、お兄様!」
比那弥が阿沙比の腕の中で、宙を指して叫んだ。熱にでも浮かされたかと阿沙比は思ったが‥‥
全身から淡い光を放ち、月読が両手を広げて、じっとこちらを見つめている。阿沙比の出兵を阻むように。自分の仇討ちなど無用と、阿沙比を叱っているようでもあった。
地揺れはすぐに収まった。けが人もなく、住まいにも畑にも損害は無い。ただ阿沙比の青銅剣だけがなぜか、まっぷたつに割れていた。
(「これが‥‥お前の意思なのか。もう誰も斬るなということか」)
阿沙比は割れた剣を見つめ、月読に問いかけた。
『卑弥呼を次代の王に‥‥さすれば、国は豊かに栄えるだろう』
月読の声が聞こえた‥‥ように思えた。
時を経ずして、西の国からの使者と共に、夜毘古が帰還した。伊卑柯王からの、卑弥呼の薬への感謝の言葉と、停戦の証としての贈り物‥‥獣皮の着物、美しい勾玉をちりばめた短剣を携えて。阿沙比はついに、停戦を受け入れた。
そしてなめらかで暖かい獣皮の着物を比那弥に与えようとしたが、比那弥はきっぱりと、
「いいえ、これは傷ついた兵士達や、親をなくした子供たちにお与えくださいませ」
「強くなったな、比那弥よ‥‥」
比那弥が卑弥呼と目を見交わして微笑み会う様子を見て、阿沙比はこれも卑弥呼の力かと、改めて知る思いで、めっきりと娘らしくなった比那弥の髪を撫でた。
平和が訪れ、兵士達が和やかに田畑を耕す日々に戻った。卑弥呼はひっそりと自分の部屋で、月読に語りかけていた。
「月読様、ようやく月読様が望まれていた和平が実現しました‥‥」
だが、月読は微笑してかぶりを振った。まだ卑弥呼の役目は終わってはいないというように。
後に、阿沙比と伊卑柯の話し合いにより、東と西の国を統合し、「倭国」として統べてゆくと決まり、卑弥呼をその女王として立てると両王の意見が合致したのである。
「俺と伊卑柯は、戦で失った命を弔いつつ、お前の腕となり足となって政を助けよう。比那弥は子供たちに薬草の見分け方や織物を教えるそうだ」
見違える程穏やかな眼差しとなった阿沙比に言われては、卑弥呼も引き受けざるを得なかった。ついに卑弥呼は、東と西の民の前に立ち、宣言した。
「新しき倭国の民たちよ。私がいる限り、戦は起こさせますまい。皆それぞれに幸せを求め、生きるがよい」
輝く太陽が、阿沙比から譲られた勾玉に反射し、煌いたーー