妖怪探偵百々目鬼アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
9.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/14〜06/18
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●本文
【ドラマあらすじ】
探偵事務所を構える俺の下へ、久しぶりに一人の客が訪れた。
「娘を探して欲しいのです」
上品そうな男性。外国人らしいが、それでいて日本語を流暢に話し、しかも敬語丁寧語を完璧に使い分けている。
緑色の、上着の丈が長いクラシックなスーツを着こなしているところ、豊かな暮らしぶりがうかがえる。
只者じゃない。探偵としての勘が、俺にそう告げていた。
金に糸目はつけません、と彼は付け加える。
「なるほど、日本への留学中、連絡が途絶えた娘さんをね。写真か何かお持ちですか?」
「娘はどういうわけか、写真に写りにくい体質でしてな。あの、人工的な光に弱いのですよ。代わりに肖像画を持っています。私が描いたものですが‥‥」
男は布にくるんだ画布を差し出す。
可憐な娘の姿がそこにあった。清純であると同時に、男を誘い込む妖しさが見え隠れする、不思議な魅力の持ち主だ。
(「やっぱりな」)
俺はとっくりと拝見し、おもむろに尋ねた。
「で、貴方がた親子は一体、何系の化け物なんですか?」
俺は聞いた。
お客さんの知性を湛えた碧眼がぎろりと俺を睨んだ。
「初対面の相手に聞くには、ずいぶんと失礼な質問ではありませんか? しかも、聞いていると、貴方はまるで私を化け物の一種と決め付けていらっしゃるようだ」
憤然と席をけり、立ち上がろうとする客に、俺は微笑して言った。
「普通の人間に、この事務所の看板は見えないはずですからね。いや、たどり着くことすらできないでしょう。何よりも」
俺は手のひらを広げ、お客さんに見せた。
そこには、ぱちくりと瞬いている‥‥「目玉」。
そこだけではない。目玉は両眼と両手のひら、首筋、背中、膝‥‥俺の体の各部位にある。
俺の妖怪としての特殊能力である、「百目」。
探偵なんて仕事を始めたのは、妖怪仲間の厄介ごと解決に、とかくこの「目」が役立つからなのだ。
「お客さんが当てにしておられるのは、俺のこの「目玉」でしょう。百の目を持つ妖怪『百々目鬼』なら、見えぬはずのものを見、隠された真実を見抜くことが出来る‥‥。そして、こんな化け物を当てにするのは、たいがい化け物なんですよ」
客は深いため息をつき、座りなおした。
「――失礼。いや、よく考えてみると、我々も化け物の一種には違いない‥‥しかし我々は『妖精』という呼び名の方が気に入っておりましてな」
客とその娘は、北欧の妖精ファー・シーだと、彼は打ち明けた。
彼ら一族は皆、美形で知性も高い。
人間社会にまぎれてもなんら人間達に見劣りすることは無いばかりか、むしろモテるし、リーダー的存在になることすらある。
ただ、裾長の服を着なければ隠せない尻尾を除いては。
彼らには、馬類か牛類に似た尻尾がつきものなのである。それが一族の証でもあった。
客の娘は留学当初からしばらくはしょっちゅう家に連絡を寄越していたのだが、突然この春、消息を絶ったのだという。
「気になるのは、最後の手紙に、『好きな人が出来た』と書いてあったことなのです。もしや、人間の男にたぶらかされたのではと‥‥我々妖精族にはよくあることですが、しょせん人間は人間。
たいてい、妖精と人間との恋は悲劇に終わります。まして‥‥悪い人間にたぶらかされたのなら‥‥」
ファー・シーの親父さんは、父親らしい苦悩の表情を浮かべた。
「まあ、日本の人間は鈍い奴が多くて、人ならざるものが闊歩していてもそうそう気づくことは少ないが、たまには妙に鋭いヤツもいますからね。いわゆる「鬼見」と言う奴ですが」
これは本当だった。
俺の仲間の中には、人間の癖にあやかしを見抜く能力を持った「鬼見」がいる。そんな連中の多くは俺に好意的だが‥‥時には、人間でないというだけで反感を持つ奴もいるものだ。
もしもファー・シーのご令嬢がそんな連中の毒牙にかかったのなら‥‥それは相当ヤバイ事態かもしれない。
「娘を、一刻も早く見つけていただきたい」
客の端正な顔に、焦りの色が浮かび始めた。
俺は卓上の電話を取り上げ内線電話で、秘書を呼び出した。
「お呼びですか、ボス」
俺は現れた秘書嬢に、娘さんの肖像をコピーして原本をお客さんに返却するように言いつける。俺の有能な秘書は、手際よく指示に従った。
「このお嬢さんももしかして‥‥」
客は秘書を見て聞いた。秘書は微笑して、長いスカートのスリットからのぞく、すらりとした脚を客の目の前にすっと伸ばして見せた。
そこには青緑色の光沢を放つ鱗が、無数に生えている。
「妖怪濡れ女ですわ。どうぞお見知りおきを」
「彼女は水のあるところならたとえ水滴一滴でも潜り込み、水から水へ移動できる特殊能力の持ち主ですよ。心強い味方でしょう?」
と俺も彼女の自己紹介を補足した。事実、この女秘書は有能な俺の片腕だ。
「従姉妹の雪女や、ウブメ達にも協力を要請しますわ」
秘書はいつものように頼もしくも美しい微笑を浮かべた。
まだ心配そうな表情が消えないお客様に、俺はにやりと笑って見せた。
「ご心配いりませんよ。そちらさん達妖精族の実力もなかなかのもんだが、俺達妖怪ネットワークも捨てたもんじゃありませんからね」
久々の仕事に、俺の目玉が、嬉しそうにクルクルと動き始めたーー
☆募集キャスト☆
○百々目鬼‥‥主に妖怪相手の探偵業を営む妖怪。百以上の目を体中に持ち、その目は全て取り外ししてリモコン操作状に使える。
○濡れ女‥‥百々目鬼の秘書を務める女妖怪。潜水・泳ぎ等、水中移動が得意。水滴一粒でも水分があれば、そこにもぐりこんだりまた出現したりできる。
○ファー・シーの娘‥‥失踪中の妖精娘。人間になりすまし留学生として来日したが、消息を絶った。一族の証として尻尾を持つため、人間界にいるときは常に裾長の服を着ている。
○「鬼見」の人間‥‥人ならざるもの、あやかしを見抜く視力を持った特殊な人間達。百々目鬼には情報屋や、人間界との仲介役として友達づきあいしている者も多い。
※上記以外でも、仲間の妖怪や妖精など、ご自由に考案の上ご応募下さい。妖怪・妖精の場合、特殊能力または特徴を必ず書いてください。
キャスト不足の場合は、適宜NPCが友情出演します。
※役柄に合うならば、半獣化で演技も可。(蛇系獣人→濡れ女役、馬・一角獣、牛系獣人→ファー・シー親子、など)
半獣化でなく、CGや特殊メイクで演じてももちろん可。
●リプレイ本文
「くれぐれも娘を宜しく‥‥」
ファー・シーの父親は言い残して事務所を辞した。
美しい妖精娘タマラ(=オーレリア(fa2269))の肖像画を探偵の手元に残して。
「さて、まずは聞き込みと行くかね、お嬢さん」
妖怪探偵・百々目鬼の土葵 瞑堂(ドキ メイドウ=百鬼 レイ(fa4361))は秘書である濡れ女の美弥子(=浦上藤乃(fa5732))に呼びかけた。
「はい。従姉妹達を呼びますので、少しお待ちください」
いつも濡れたように艶めいている黒髪をかきあげて、美弥子は携帯電話を取り出した。たちまち事務所に、従姉妹達‥‥ひんやりとした冷気をまとって白銀の髪に青い瞳、雪女の小雪(=角倉・雨神名(fa2640))が、大きなお腹を抱えて、もともとはすらりとした長身を猫背にまるめたウブメの花鶏(あとり=沢渡霧江(fa4354))が現れる。
「ファー・シーの娘さんが失踪‥‥? もしかして駆け落ちかもですよねっ? しかも人間との悲恋だったりして‥‥」
恋に恋する乙女の風情で、小雪が青い瞳をうっとりさまよわせる。だが、花鶏は褐色の肌を青ざめさせつつ、
「ウッ‥‥で、でも、悪い男に騙されてたら、しかもそれが実は宇宙人で人間のサンプルとしてアブダクトしたつもりが妖精だったので逆ギレしてUFOから突き落とすっていうパターンも考えられますです‥‥オウッ」
ちなみに悪阻中。ウブメはしょっちゅう妊娠状態‥‥想像妊娠ではないかという疑いもあるが‥‥なので、ほぼ年中悪阻状態。マタニティブルー(これも年中)から来る不吉なトンデモ想像を繰り広げる。
「ではボス。私はタマラさんの通っていた大学の貯水池に潜入して、タマラさんの痕跡を探して参ります」
美弥子が豊満な肢体をドアの向こうに消した。
「私の通っている生け花教室に、タマラさんの通っていた大学の学生さんがいらしているので、彼女を通して色々聴いてみますね」
小雪は淑やかににっこり一礼し、事務所を後にする。
雪女といえども、最近の人間社会は夏といえどクーラーをガンガン効かせまくっているので、屋内であればほぼ自由に活動できる。
「では‥‥私は、私の運営する『妖怪ドットコム』に何か情報が入っていないか、調べてみますです‥‥」
と花鶏は事務所のパソコンの前に陣取った。悪阻とマタニティブルーによる外出嫌いで、引きこもり気味の花鶏は、インターネットに精通しており、裏サイトといわれるアングラ情報にまでも通じている。人間社会に生きる妖怪をネットワークで繋ぐサイトも運営しており、百々目鬼達にとり貴重な情報源となっていた。
そして百々目鬼も、特殊能力を生かし動き始める。見た目少年だが実は数百歳の彼は、知り合いも多い。妖怪にも、人間にも、そのどちらでもない「いきもの」にも。
百々目鬼が最初に訪れたのは、街の大通りにある柳の古木。通称「オバケ柳」、樹齢数百年を数える大木である。
『あらん、土葵ちゃーん♪ えっなあに、妖精娘が行方不明? うん、小鳥さん達の噂話に気をつけとくから、仲良くしてぇん』
しかもオカマ。オバケ柳はぐるぐると土葵の体に枝を巻きつけてからめとろうとする。
「やっやめろ、いくら彼女いない暦600年だからって、木と抱き合う趣味はないーっ! 目玉一つ、預けとくから、何か変わったことがあったらこれで見せてくれ」
『わかったわよぅ。冷たいのねん』
オバケ柳は、百々目鬼が手のひらから外して差し出した目玉を一つ、枝に大事に抱えた。
◆
多分、自分達の置かれた状況は「最悪」なんだろう。なのに、そう悪い気はしない。それは、彼女と一緒だからだ。公園のベンチで、大学生の八雲(=羽生丹(fa5196))は、コンビニの袋をタマラの前に置き、優しく薦めた。
「食べなよ。妖精だって食べなきゃ弱っちまうんだろう?」
「でも‥‥八雲君の分は?」
タマラは八雲の、少女めくほど端正な顔立ちを見つめた。
「あー‥‥ダイエット中」
八雲は誤魔化したが、腹の虫が裏切った。所持金が底をつきかけているのだ。
『お嬢さん、あまり人込みに出歩くのは感心しないな。可愛い尻尾が傷ついちまう』
買い物中、人込みに押されて自動ドアに尻尾を挟まれそうになったタマラをそう言って助けてくれたのが八雲だった。いわゆる「鬼見」の八雲には、タマラの正体は最初からわかっていた。なのに人間じゃないからと奇異な目で見たりせず、自然に振舞う八雲に守られて歩くうち、いつのまにか恋に落ちていた。
二人の恋が暗転したのは、タマラが何者かに攫われかけた時だ。
八雲は一緒に逃げよう、と言ってくれた。「武術のひとつも囓っていないけど、逃げ足は速いんだ」と。八雲もいつの間にか、人間よりもはるかに優雅な妖精娘に心を奪われていた。
涙をこぼすタマラに、どうしたの? と八雲は尋ねた。
「あ‥‥ううん。大丈夫。八雲君と一緒だもの。一緒だから、大丈夫」
タマラはそっと、八雲の肩に頬をもたせかけた。
◆
「ボス、これは事件と関係ないと思いますですが‥‥中国の妖怪・獲猿が、何度も『妖怪ドットコム』に「嫁さん募集」の書き込みをしていますです‥‥」
要所要所に目玉を預け、戻ってきた百々目鬼に花鶏が報告した。もともと子孫を残すために人間の女性を攫う妖怪だったが、最近は人間の女性の化粧品や食品加工物が様変わりしたため人間女性アレルギーになってしまい、切実に女性の妖怪を求めているのだとか。
「気の毒っちゃ気の毒だな‥‥」
自らの彼女イナイ暦と思い合わせてか、ちょっぴり同情的な土葵。
「人類は進化しすぎたせいです‥‥地球の滅亡は近いです‥‥」
とことんネガティブに暗くなる花鶏。と、そこへ、
「こんちは! 百々目鬼のダンナー、今日は大漁だったんで刺身のおすそ分け持って来たっすよー!」
明るい声で事務所をおとなうのは、半魚人のドゥゴ(=エミリオ・カルマ(fa3066))。人間社会に大分馴染んで、カジュアル服が似合い髪は金髪に染めている。もっとも明るい金髪は失敗の結果らしいが。
「お、いつも悪いな」
「水臭いっすよダンナ! 故郷のアマゾンからテレビ局のインチキ探検隊に捕獲されて、見世物にされるとこから助けられた恩、一生かかっても返しきれるもんじゃないっす。おまけに漁業組合に紹介してもらって腕のいい猟師になれたし」
クーラーボックス一杯に、旬の刺身を持ち込み、南米出身らしい陽気さでしゃべりまくる彼は、ふとタマラの肖像画を目に留めた。
「あれっ、この子、ダンナの知り合いだったすか?」
「知ってるのか!?」
百々目鬼の童顔がピッと緊張する。
「この子なら昨日見たっすよ。同じ年頃の男と一緒だったっす」
人相風体を詳しく聞き込んでいると、ぱたぱた‥‥と小雪が駆け込んできた。
「タマラさんと同じ大学に通ってる男の子が、タマラさんとほぼ同じ頃から姿を消しているそうですっ。もしかして、二人で逃避行‥‥だとしたら、保護しなきゃ!」
「で、でも一緒にいた男、悪い男には見えなかったすけど‥‥」
「だったらなお更、彼女は傷つくかもしれないじゃないか」
百々目鬼の童顔を、数百年生きた妖怪らしい訳知りの表情がよぎる。人間の恋人がいい奴で、本気の恋であればなお更、妖精は辛い立場となる。
「ドゥゴ、二人を見たのはどのあたりだった?」
「海岸通りにある公園だったっす。なんか疲れきってた風だったっすから、あまり遠くには行ってないと思うっす」
その時、事務所にもう一人の来客が。
「あのー、大通りの柳の木に聞いてきたんだケド、妖精娘さんを探してる妖怪探偵さんって、貴方ですカ?」
小柄な体に赤い髪、くりくり光る緑の目をした、少年‥‥だが、その背中には猿の尻尾が生えている。
「僕、通りすがりの猿の妖怪なんですケド、以前サーカスに売り飛ばされそうになったところを妖精娘さんに助けてもらって、恩返しがしたいんデス。よかったら、一緒に捜索に連れてってくれませんか?」
無邪気に言う小猿妖怪に、百々目鬼達はなんて義理堅いんだと感心して承諾した。だが、しばらくして百々目鬼は、その百の目で気付いた。その小猿妖怪が、こっそりと狡猾な薄笑いを浮かべたことに。
◆
海岸通り沿いの道路を、とぼとぼと恋人達は歩いていた。
「あのフェリーに乗れば、きっと大丈夫さ。あいつも海の上までは追いかけて来られないよ、きっと」
八雲は、やつれた顔に強いて微笑を浮かべた。腕時計を質屋に入れて、フェリーの乗船代を作った。
「誰かに見られているような気がするわ」
大きな柳の古木の前を通った時、タマラは呟いた。が、人の気配は感じられない。
だが確かに、柳の古木は、二人を百々目鬼の目玉で見守っていた。
『肖像画のコピーとそっくりの女の子が今通ったわ!』
古木の知らせで、百々目鬼達は二人を保護するべく急ぎ海岸通に向かった。
船着場にたどり着いた二人の前に、海の中からザバン! としぶきを上げて、紺のスーツ姿の美弥子が現れる。
「こちらへおいでなさい。悪いようにはしません」
優しい微笑、丁寧な口調。だが差し伸べた手には青緑色の鱗が光る。
「よ、妖怪‥‥! お前もアイツの仲間か!」
八雲は警戒して、タマラを抱きしめて後退する。と、そこへ。
「人間! その娘を渡せば命だけは助けてやるが‥‥渡さぬというならわかっておろう?」
猿妖怪の少年‥‥実は獲猿の老(ラオ=マリアーノ・ファリアス(fa2539))が、八雲の腕の中から、あらゆる生物を超越した素早さでタマラを奪い取った。いまやその姿は、金色に輝く目を持ち、唇から牙がのぞく異形である。
「ようやく見つかった、純粋な、何者にも毒されておらぬ美しき花嫁が‥‥さあ、ともに山里へ帰り、儂の子供を生んでたも。人間の男など、しょせん数十年で命を終える儚き弱き存在よ」
「いやっ! 八雲君! 人間だとか、妖精だとか、妖怪だとか、どうでも良い! 私は八雲君が好きなの!」
必死でもがくタマラ。八雲も、突き飛ばされて傷ついた脚を引きずりながら夢中で老に追いすがる。
「自転車、借りて来たっす!」
人間よりもはるかに優れた筋力を持つドゥゴが、自転車を駆りつむじ風のように体当たりを敢行する。だが、勢いがつきすぎてヒョイとかわされ、
「と、とまらないっすー!」
ざぶーん、と自転車ごと海へ飛び込んだ。
「恋路を妨げる方は‥‥封印しちゃいます! えいっ! 雪女式捕縛術・氷柱!!」
小雪の瞳が碧い光を放ち、老の足元を凍り付かせる。だが老の脚は素早く地を蹴って、船の上に飛び乗った。
「フハハハ、人間との恋を手助けしたところで所詮は結ばれぬわ! ‥‥おぉっ!?」
ふいに足元がぐらついて、老はうろたえた。美弥子とドゥゴが、海の波を操り船を出させまいとしているのだ。
「親御さんが心配してるっすよ! 百々目鬼のダンナに全て任せるっす。タマラさん、美弥子姐さんと陸に戻ってくださいっす!」
「こっちよ、タマラさん」
美弥子がざぶりと水しぶきと共に船に上がりタマラを奪って陸地へ去る。
「わが花嫁を渡せ! 渡さぬか!」
タマラと八雲をかばって立つ百々目鬼に、老は吼えた。
「百目式妖術・目目連!」
百々目鬼の体の目が飛び出し、老を取り囲む。老は宙に浮かんだ百の目に見つめられて、金縛りになってしまった。
「さあ、どうする? このまま金縛りにあって、食事も出来ず眠ることも出来ず、我慢比べをしてみるか?」
百々目鬼が無邪気な少年のようににっこり笑う。数百歳の年を経た狡猾さを秘めて。
「ウ‥‥ウム‥‥儂の負けじゃ‥‥」
がくりと膝をつく老。
そして、タマラの父親からの捜索依頼だという事情を聞いた八雲は、
「タマラを、無事にお父さんのところへ送ってやってくれ。ところで次の依頼を聞いてくれないか? あの老とかいうトッチャンボーヤにきついお灸を据えて欲しいんだが、タマラに二度とあんな事をできないようにな。自分は‥‥多分、ずっとタマラの傍にいることは出来ないからさ」
無理に作った微笑で、タマラを託した。
「‥‥ああ。ごくろーさん」
百々目鬼もほろ苦い微笑を返した。
恋に憧れる小雪は、不服そうに言った。
「そんな‥‥あっさり別れちゃうんですかっ!?」
「だって、所詮俺は人間だしな。不器用と笑ってくれても良いさ。でも、これが自分の生き方なんだ」
背を向けて、八雲は去っていった。
◆
「ボス、妖怪ドットコムにネットお見合いのページを設けましたら意外に好評で、アクセス数が多すぎて回線がパンク状態です‥‥私、過労死寸前です‥‥」
陰陰滅滅と訴える花鶏。その横で、せっせと床磨きをしながら嬉しそうな老。妖精娘を攫おうとした罰により事務所の下働きを無給でやらされているが、妖怪ネット見合いでブラジルの美人妖怪イアラとメル友になれたらしい。
「いんたーねっととは便利だのう。こんなよい物があれば、何も無理やり妖精娘をかどわかさずとも、世界中から相手をじっくり探すことが出来るわい」と、ホクホク。
百々目鬼はタマラからのエアメールを読んでいた。その後駆け落ちの経緯を知ったタマラの父親が八雲を北欧に呼んだ。彼は今妖精国の女王メイヴに謁見し、人間に妖精の寿命と力を与える秘薬を授かるための試験を受けているのだとか。
「超難しい試験らしいけど、あの彼氏なら通るかもな」
「ああ‥‥私にも、命を賭けて恋を貫いて下さる素敵な方がいたら‥‥」
うっとりモードの小雪。俺なんかどう? どう? と必死でアピールする百々目鬼の姿は、なぜか小雪の視界を華麗にスルーしているようであった。