【JB】おとぎ話の後にアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/18〜06/20
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●本文
それから おうじさまと おひめさまは けっこんして おしろでいつまでもしあわせにくらしました
〜よくあるおとぎ話の結末〜
40過ぎたら自分の顔に責任を持て、という。
それが叶わなかった男の典型が、貴方の前に立っていた。憎悪で白く目を光らせ、唇を震わせている、その男。
かつての美形俳優、英田健介(あいだ・けんすけ)である。今は自分でプロダクションを経営しているとか、スカウトマンをやっているとか、マルチ商法の疑いをかけられたとか‥‥まあ、ぱっとしないことは確かだ。
「てめぇがあの茶番に一枚噛んでるってことは、お見通しなんだよ!」
英田は、青春時代の面影を無くした醜い渋面で、言葉を吐き捨てた。
予想されていたことだったので、さっと貴方のマネージャーが前に出て、説明した。
英田の元妻であり、女優の有村ちかと、放送作家の梅田竜彦の結婚式に貴方が列席するのは事実だと。新郎の竜彦が貴方と一緒に仕事をした縁で、ぜひ出席して欲しいと頼み込んできたのだ。
それに、有村ちかは、英田の元妻とはいえ、正式に離婚しており、英田にもはや彼女の幸せを邪魔する権利など無いはずだ、と。
英田は離婚して半年になるというのに、いまだちかに未練があるらしく、しつこくいやがらせ電話をかけたり、ちかに引き取られた子供を連れ去ろうとしたりしているらしい。
そんな陰湿な英田の怒りが、ちかの結婚が明らかになるにつれ、爆発したのだ。貴方自身も、何度か英田のいやがらせ電話を受けていた。
「けっ。ちょっと注目されてるからってなぁ、調子くれてんじゃねぇぞ」
英田はマネージャーの言葉に耳も貸さず、貴方に詰め寄った。
貴方はきっぱりと言ってやる。
合法的な結婚に異議を申し立てるなら、それ相応の手続きを取ったらどうだ、と。ただしこちらも、相応の反撃はさせてもらう、とも。
毅然たる貴方の態度に、英田はしばらく目をぱちくりさせて口ごもるが、やがて、また口を開いた。
「ふん、大体な、ちかがあんな不細工な太め男と結婚するなんて、俺へのあてつけに決まってる」
貴方は失笑しそうになった。未だにこの男は、自分の容貌に‥‥容貌にだけは過剰なまでの自信を持っている。そういう意味では、哀れな男なのかもしれない。
だが。
「ちかに言っとけ。無事に結婚できるなんて思うなよ、ってな」
捨て台詞を吐いて貴方をねめつけるその目に光る凶暴な光には‥‥背筋が寒くなった。
最近、英田によからぬ連中との付き合いがあるという噂は、本当かもしれない。
数日後――
結婚式場の準備手伝いに、式場となる小さな教会を訪れた貴方は、リハーサルに来ていたちかと梅田に会った。小さな教会の主は、イタリア人の老神父で、ちか達にまつわるトラブルも何もかも知っていて、色々と協力を申し出てくれている。
「ごめんなさいね。あの人‥‥貴方を脅したんでしょう?」
有村ちかの大きな目が、気遣わしそうに貴方を見つめる。
ちかの元に、英田自身がそれを知らせてやったのだという。あいつ、震え上がってやがったぜ。結婚式の出席を取り消すかもしれねぇな、と。
貴方は苦笑して、あんな脅しに屈してはいないこと、ちか達の結婚は正当な手続きなのだから何も恐れることはないはずだと、二人をなだめた。
「すいません、とばっちりでホント申し訳ないです」
ころころと肥えた巨漢の竜彦が、大きな体をすくめるようにして言う。
体は大きいが、喧嘩などしたこともないという。
無類の好人物だが、気が小さくて、英田を恐れているようだ。
と、ちかと竜彦の間から、小さな顔がひょっこりとのぞく。
ちかの連れ子、一太郎だ。まだ5才にしかならないはずだが、大人達のやりとりに心を痛めているらしく、貴方に向かって真剣に聞いた。
「ねぇ、ママは今度こそ『しやわせ』になれるよね?」
貴方は彼の頭を撫でて、そのとおりだと言ってやる。
「あたし、心配なんです‥‥英田が、また一太郎を傷つけるようなことをしないかって‥‥」
ちかは涙ぐんだ。
貴方は思い出す。
英田は、仕事でうまくいかないことがあると、一太郎に八つ当たりをした。
それも、あざや傷跡が残りにくい、陰湿なやり方で。
爪の間に針を刺したり、あるいは言葉の暴力で。
『おまえのせいで、うまくいかないんだ』と。
一太郎も英田の姿を見ると、怯えてすくんでしまうようで、何度か英田に連れ去られ掛けたこともあったという。
貴方は一太郎に言った。
安心していい。
自分も精一杯、ママの幸せの手伝いをしてあげるから、と。
一太郎は大きくうなずいた。
ちかは微笑んだ。その目に涙を残したまま。
「あんな男と結婚してたなんて‥‥幸せになれると信じてたなんて‥‥ほんと自分が嫌になるわ‥‥。
私がバカだったのよ。おとぎ話によくあるでしょ、王子様とお姫様が結婚、そしていつまでも幸せに‥‥って。でも結婚はハッピーエンドじゃなく、あたらしい物語の始まりなのね。三十路も半ばのバツイチになって、やっと気づいた」
英田とちかの結婚は、当時美男美女カップル誕生としてずいぶん騒がれたらしい。あんな男でも、希望にあふれた当時は、王子様に見えたのかもしれない。
貴方はちかの肩にそっと手を置いて、言った。
勇気を出して次の物語を始めればいい。
今度こそ、おとぎ話じゃなく、地にしっかり足をつけた貴女の人生の物語を。
「ありがとうーー」
ちかの目から、どっと涙があふれた。
☆依頼内容☆
有村ちか(女優、34歳)と梅田竜彦(放送作家、33歳)の結婚式のお手伝い&列席のお仕事です。
新郎新婦のヘアメーク・スタイリング、お祝い料理、司会などなんでも可。
もちろん列席者としてスピーチや歌を披露してもOK。
少人数の「地味婚」ですが、ハッピーを演出するためにも、それなりにドレスアップしてください。
ただし、有村ちかの元夫・英田が嫌がらせあるいは結婚式の邪魔に現れる可能性大です。ちかの息子・一太郎の連れ去りを目論んでいるかもしれませんので一太郎からも目を離さずに。英田は蛇獣人(1〜2レベル)です。
※一太郎は、ちかと英田の間の子供です。
●リプレイ本文
結婚式当日。万一を想定して高遠・聖(fa4135)は梅田竜彦を自宅まで迎えに行き、共に式場に入る。既に到着して余興の準備をしていた佐渡川ススム(fa3134)は、
「おいーっす。竜っちーおめでとー。今日から鳥籠生活だな!」
うへへ、と冷やかすが、竜彦の顔は晴れない。
「佐渡ちゃん、ごめんな。訳ありの式に呼んじまって」
「いやいや、竜っちがどんな顔して誓いのチューすんのか楽しみ」
式場の前に小さなテーブルが置かれ、受付担当の葉桜リカコ(fa4396)が芳名帳を準備している。チャペルでの式の後、教会の、普段神父が信者達に聖書の講義をするための別室で、披露宴を兼ねたミニパーティを催すことになっている。
その部屋では、椚住要(fa1634)、相沢 セナ(fa2478)、ラリー・タウンゼント(fa3487)が余興の歌や音楽の準備を始めていた。
「椚住君、ありがとう。相沢君も無理にスケジュール合わせてもらって済まない」
「いや、今の時期故郷にいると質問攻めに合いますからね。かえって助かります」
相沢は艶やかな黒髪をかきあげて苦笑した。
「ラリー君も、忙しいのに有難う」
「お祝い事に招かれるのは名誉なことだよ。練習の成果が出せるといいけどね」
バイオリンを弾く予定のラリーは気軽く言った。黒いカッチリとしたスーツ姿だが、フォーマル過ぎぬようポケットチーフに淡い水色を合わせている。
不安げな竜彦の背中を軽く叩いて、佐渡川が囁いた。
「英田の事は心配すんな。俺達が親子三人がっちりガードするからさ? さ、着替えて男っぷり上げてこいよ」
「ありがとう‥‥」
震える声で竜彦は言った。
「本当に綺麗‥‥」
新婦である有村ちかのメークの仕上げに楽子(fa5615)は満足げに呟いた。メーク効果で、青ざめたちかの顔色もどうやらばら色に見えた。楽子自身はジョーゼットのふんわりとした黒いドレス姿で、薔薇のコサージュを胸につけ華やぎを表現している。
「何も心配いらないからね。竜彦君も、私たちもついているんだから」
「で‥‥でも、あの男が楽子さん達に怪我でもさせたら」
ちかは震える声で言いかけた。楽子は軽く眉をひそめ、唇の前に人差し指を立てた。
「あのね、ちかちゃん。ひとつだけお願い。英田のしている事は酷くて、許されないこと。でも…一太郎くんの前で『あんな男』とは言わないであげて? それでも、一太郎くんにとっては血の繋がったお父さんだもの」
彼女の言葉通り、ちかの傍らで息子の一太郎が、不安げな母親を見守っていた。
「あ‥‥ごめんね一太郎‥‥」
陽気な声が割って入った。
「よ、一太郎。一緒におかーさんのお祝い、してみないか?」
佐渡川がシルクハット片手に手品の仕草をしてみせる。
一太郎が、ぱっと顔を輝かせ頷く。
「あら、ススム君? 見違えたわ。素敵よ」
ちかがフォーマルな燕尾服に身を固めた佐渡川に目を見張る。
「んじゃ今から俺と駆け落ちする?」
「こら、不謹慎なジョークを言わないのっ!」
楽子に笑いながら睨まれて佐渡川は、
「おっしゃー、じゃこっちで練習しようぜ」
教会の庭へ一太郎を連れ出す。神父と打ち合わせて防犯カメラを設置していた高遠が二人を呼び止め、一太郎に人気アニメキャラの姿を模した小型防犯ブザーを手渡した。
「一太郎、これは、ママ達の結婚式を守るための魔法のアイテムだ。もしもパパや怖いオジサンに何かされそうになったら、直ぐにこれを引っ張るんだぞ、単なるオモチャに見えるが、なかなか大きな音が出るぜ」
一太郎はこっくりと頷いた。場を去る高遠は去り際に、佐渡川に囁いた。
「一応、俺のとこにかかってきた英田の電話を録音してある。式をぶち壊すとか言う台詞もばっちりだから、脅迫罪で告訴するなら十分証拠になるだろう。‥‥できれば実行には移したくないがな。あの子のためにも」
「‥‥だな」
●暗雲
式が始まった。
ちかが実父と腕を組み、ゆっくりとバージンロードを歩いていく。
「レースのハイネックドレスって珍しいし、素敵ですね〜」
英田の乱入を警戒し、式開始まで花嫁に付き添ってチャペルに送り届けた後、ぽっちゃりした体にパールピンクのワンピースと、同色のレースのストールを羽織って参列したリカコが無邪気に賛嘆する。
「本当は夏らしく肩を出したドレスを予定していたのだけど‥‥彼女、英田に突き飛ばされて肩甲骨が折れた時の包帯が、まだ取れていないのよ」
包帯だらけの惨めな花嫁になりたくないとちかに泣きつかれ、楽子が襟の高いドレスを見つけた。ちかがお守りのように握り締めているスプレーバラのブーケとブートニアも楽子の手作りだ。
一方、鋭敏視覚を駆使して、怪しい者の出入りがないか探っていた椚住は、同じく周囲を警戒する相沢に、ややほっとした表情で告げた。
「奴ら、諦めたかな。妙な気配は感じないが」
「いずれにせよ、『夜歩くもの』に比べれば可愛いものですがね」
相沢も端正な顔を緩めつつ、新郎新婦を待つ老神父の傍へ行き、囁いた。
「Noi non dobbiamo preoccuparci della fanciullezza(大丈夫、心配いりませんよ)」
神父の顔も久方ぶりの母国語に嬉しそうに和んだ。滞りなく、誓いの儀式は進行していった。
式を終え、チャペルの外から庭に出た新しい夫婦に、ライスシャワーと祝いの言葉が降り注ぐ。
「こんな綺麗なお嫁さんを迎えられる竜彦君は幸せ者よ。しっかり守ってあげてね。私達も味方だから!」
楽子の言葉に二人が笑顔で応えかけーー
「伏せろ!」
不吉な気配を獣人の超感覚で捉えた要が叫んだ。
ガシャン!
鋭い破壊音。子供の頭ほどもある石が、チャペルのステンドグラスを砕き、破片を振りまいた。飛び散る破片に、親族達の悲鳴が上がる。皆が気を緩めた瞬間が狙われたのだ。
「隠れても無駄だぞ、教会中あちこちに防犯カメラを付けてある! 出てこい!」
高遠が珍しく声を荒げて怒鳴った。
「そこだ!」
要が教会の庭を囲む生垣の外側にうごめく影を指差した。
佐渡川が、続いて相沢がその影に追いすがる。目つきの悪い若い男だが、英田ではなかった。投石は陽動作戦だ。ちかが悲鳴を上げた。逆方向から、生垣を乗り越えて英田が悪鬼の形相でちかに迫る。手に刃物を持っていた。無理心中する気らしい。
「ダメッ!」
咄嗟にレイリン・ホンフゥ(fa3739)が掛けた足払いで無様に転がり、刃物を叩き落され英田は獣のような恨みの咆哮を上げた。
「パパ‥‥」
目に涙をため、一太郎が英田を見つめる。荒い息を整えながら、佐渡川が優しく言った。
「あのな、一太郎。『雪の女王』の童話、知ってるだろう? パパはな、あの鏡のかけらが目に入って、心が凍えてるだけなんだ。でもな、もうすぐきっと悪いおとぎ話から目が覚めて優しいパパになる」
「うん。パパ、目をよく洗ってね」
一太郎はあどけなく言う。英田は顔を背けた。
「うっ‥‥うぅ‥‥」
その唇から、低い嗚咽が漏れた。
● 新しい物語
英田と若い男‥‥売れないタレントらしい‥‥を要と相沢が見張り、参列者とちか、竜彦は彼らを警察に突き出すべきかどうかを一応協議した。幸い英田は、わが子の一太郎に憐れみの言葉をかけられたことで、少しは目が覚めたのか大人しくなっていた。若い男は最初、「覚えてろ」と凄んだが、相沢の「闇波呪縛」でたちまちぐにゃりとうずくまった。
「言霊操作を使うまでもありませんでしたね。共謀者の方はシラを切ってますが、英田氏は全て話してくれました。いつでも警察には突き出せますが‥‥」
相沢が言葉を切る。
「おそらく、奴さんの特効薬にはならないだろうな。ちかさんも梅田も、穏便な処理を望んでいることだし」
高遠が言った。
「まあ、今までの経緯は許しがたいものはありますが、一太郎君の実の父親ですからね。改心を待ちたいところです」
と相沢。
だが一応、皆は高遠が教会にセットしていた防犯ビデオや脅迫電話の録音テープも見せ、いつでも起訴できる旨言い含め、英田と若い男を帰らせたのだった。
「はいナ、改めてお祝いの会開始ネ!」
レイリンが陽気な声と共に、中華風にアレンジしたお祝い料理を運んでパーティー場に現れた。和懐石風寒天寄せの中身を中華の定番フカヒレスープにしたもの、鯛の塩焼きに清蒸風ソースをかけたもの、刺身を鳳凰の形に盛り付けたもの等見た目も華やかな料理に皆が感嘆の声を上げた。
「中国のお祝い料理にしたかったけど、日本人の口に合うか分からなかったし、ちょっと中華風にアレンジして色々お祝い料理を作ってみたヨ〜」
「綺麗だね! それに美味しいよ」
一太郎が子供らしい切り替えの早さで、早速嬉しそうに口に運ぶ。
「では、皆さん食べながらお聞きください〜。私、本日の司会を務めさせて頂きます葉桜リカコと申します。え〜と、結婚式の司会は初めてなので不慣れな部分もありますがちかさんに梅田さん、一太郎クンよろしくです〜」
リカコが手を振ると、新郎新婦と一太郎が手を笑顔で手を降り返す。
「では、アイベックスの誇る美形アーティスト、相沢セナさんのフルート演奏です〜。曲は梅田さんのリクエストでシャルル・グノーの『アベ・マリア』」
相沢が優雅に一礼し、穏やかな旋律を奏でる。演奏後、ちかの姉妹達が記念撮影をせがみ、相沢も快く応じた。
「贅沢な結婚式になったなあ‥‥有難う」
曲の終わりに、梅田が拍手と何度も礼を言った。次にラリーが登場すると、
「わあ、煌様!」
女性達がまた騒ぎ始める。
「って、悪いけど素の俺はあんなクールじゃないよ。もとい、ラリー・タウンゼントです。曲はサー・エドワード・ウィリアム・エルガー作『愛の挨拶』を‥‥」
軽やかに弾む旋律を弾き終えてラリーが拍手を浴び、「ふう。練習に練習を重ねたかいがあったよ」と額の汗を拭って微笑する。
「次は、本日急遽結成されましたお笑いユニット『ススム&一太郎』がイリュージョンをお目に掛けまーす」
「はいどーもどーも!」
一太郎を連れて佐渡川がシルクハットを手に登場。帽子に魔法をかける手つきをすると、帽子から鳩が顔を出し、一太郎が鳩を抱き上げて出そうとするが出ない。佐渡川と二人掛りでも出てこず、
「いっせーの、せっ!」
気合をかけて二人がひっぱると、鳩が十羽ほども一気に飛び出し、二人は尻餅をついてオーバーに転がる。笑いと拍手が会場に弾けた。続いて佐渡川が一メートル程の高さの箱を出し、その中に一太郎を入らせ、扉を閉める。開くと一太郎は消えており、佐渡川が、
「消えた一太郎君は実はこちらに‥‥あれっ?」
テーブルクロスの下やワインクーラーの中を覗き込んでは、ぬいぐるみの熊やフィギュアを取り出して、
「あ、間違えた」
絶妙の間でとぼけて笑いをとる。
最後にもう一度箱を開くと、一太郎が花束を抱えて立っており。
「ママ、‥‥竜彦パパ、おめでとう」
佐渡川に抱き上げられ、花束をちかと竜彦に手渡す。
「こーんぐらっちゅれいしょん!」
佐渡川のオーバーアクションと、満場の笑いでマジックショーは締めくくられた。新郎新婦も涙を拭きながら笑っていた。
「うん、皆いい表情になってきた。そろそろ記念撮影と行くか」
高遠の呼びかけで、親族や友人一同が新郎新婦と一太郎を囲み、記念撮影。
「新郎新婦、まだちょっと表情が硬いよ? 今日は色々あったけど‥‥今は自分達の幸せだけ考えてな」
寄り添う新しい家族に、フラッシュが焚かれる。
「それではトリを飾ります、今日のためのオリジナル曲! 専門はギターですが今日は渋く歌います、椚住要さんです〜!」
挨拶は無愛想に軽く頭を下げただけの要だが、歌い始めると表情が変わった。熱く静かにしっとりとしたバラードを歌い上げていく。
遥かに続くこの道を2人歩き続ける
何度も立ち止まり 振り返りながら
不安な事ばかりの旅だけど
きっと2人なら 超えてゆけるはずだから
だから僕は歌い続ける
鐘の音が響くこの空の下で
だから僕は歌い続ける
この奇跡の鐘が鳴る限り
2人のためのこの歌を
ラリー手作りの、花嫁と花婿の小さなシュガークラフトをのせたワンホールケーキをデザートに、宴は締めくくられた。
「ありがとうございました。これからは、ちかと一太郎と三人で作りたいと思います。僕達の人生の物語を」
竜彦の挨拶で、お開きとなる。
どうやら防犯カメラも保険としての役割だけで済みそうだが、
「この先もしばらく用心のために、保管しておくんだな。無事に済めばよし、無駄だったとしても、俺の懐の風通しがよくなるだけだけさ」
高遠はそう笑って、新居へ向かう梅田達を送り出す。花嫁の着替えを手伝った楽子は、スーツ姿に着替えたちかの後姿を見つめ、
「女がドレスを纏ったお姫様でいられるのは結婚式の間だけなのよね‥‥ちかちゃん、もう母親の表情に戻ってるわ。あの子はもう、きっと大丈夫よ」
自らの経験と重ねてか、感慨深げに言った。
「おとぎ話から抜け出せないのは男ばかり‥‥ってか」
佐渡川は呟く。
「おとぎ話みたいに幸せな結末かぁ。男としちゃーそんな幸せに浸らせてやりたいもんだけど、中々うまく行かんのよね。しかし女は強いなぁ。それが壊れ傷ついても現実見据えて新しい出発が出来るんだから‥‥」
「あらぁ名言ね。みなさーん、ススム君が哲学してますよー」
呟きを小耳に挟んだ楽子が年長者の特権とばかりにからかう。
「ら、楽子さんっ! って皆、注目するな〜」
おとぎ話の終わりと新しい物語の始まりの一日が賑やかに終わった。