真路久(まじく)家の嫁アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/15〜07/19

●本文

☆ドラマ「真路久家の嫁」あらすじ☆
「浩孝君と結婚できて、あたし、本当に幸せ‥‥」
「僕もだよ、美優ちゃん♪」
 そう、あたし達は新婚カップル。
 あたしは大好きな浩孝君のお嫁さんになる。
 今日は、新婚旅行が終わり、浩孝君の実家で彼の家族と同居がスタートする。
「家族と同居」っていうのが、浩孝君のプロポーズの時からの条件だった。
 でも、これまで自己紹介程度のお話しかしていないけど、彼の家族はみんな、良い人ばかりみたいだし。
 あたしならきっとうまくやっていけるって、浩孝君も言ってくれた。
 ――あたしは、今日からこの真路久(まじく)家の一員。
 しゃれた洋館風の浩孝君の家を見上げて、あたしはそう思った。
 身の回りのものを引越し屋さんが運び終え、あたしはお姑さんのところへ挨拶に行った。
「美優さん。よろしいですか。今日から貴女は、この由緒ある真路久家の嫁です」
 着物の似合う、上品なお母様は、季節の花が活けてある和室であたしと向き合い、そう切り出した。
「はい。よろしくお願いいたします」
「長年、当家では一般人から嫁を迎えることはなかったのですが‥‥浩孝がどうしてもというから、仕方ありません。貴女も嫁として、この家の家風に従って、修行を積む覚悟はおありですね?」
「は‥‥い?」
 お茶やお花の素養を身につけ、良家の奥様らしくなってほしい、ということかしら‥‥
 あたしは戸惑ってお姑さんを見つめた。
 するとお姑さんは、やおら立ち上がり、両手を広げて叫んだ。
「オドローキ、モモノーッキ!」
「きゃあああっ!?」
 ピシーン!
 雷光みたいな光がお姑さんの指先から迸り、あたしを包み込む。
 ボン!
 あたしは一瞬にして、引越し作業用に着ていたジーンズから、魔法使いが着そうな真っ黒なローブにとんがり帽子姿に変身していた。
「えっ? ‥‥えええっ?」
「何を驚いているの、美優さん? まさか、貴女‥‥浩孝から何も聞いていないの?」
 そこへ、引越し屋さんへの支払いを終えた浩孝君が駆けつけてくれた。
「ごめん、美優。‥‥君を失うのが怖くて今まで黙ってたけど、俺‥‥魔法使い一族の長男で、跡取りなんだ」
「ええええーーっ?」
 まさに晴天の霹靂。ってか、魔法使いって‥‥ひ、浩孝君も、他の家族の皆も!?
「‥‥ごめん。そうなんだ」
 浩孝君は、指をパチンと鳴らして、
「サンショーノキー!」
 呪文を唱えた。
 ボン!
 煙がもくもく。そして、お姑さんも浩孝君も、魔法使いのローブととんがり帽子姿に変身していた。
「‥‥こんな、こんな‥‥っ」
 くらり。
「美優ちゃん!」
「美優さんっ!?」

 気がつくと、あたしは寝室に寝かされていた。心配そうな浩孝君が寄り添ってくれていて。
「本当にごめん、美優ちゃん。‥‥でも、俺、君ならやりとげてくれるんじゃないかって、勝手に期待しちまって‥‥」
 浩孝君‥‥
 でも、あたし、魔法使いだなんて、魔法使いだなんて‥‥
 あたしはフツーに生まれてフツーに育った平凡な女の子なのに‥‥
 あまりのカルチャーショックで、あたしは言葉を失っていた。
「美優ちゃん。‥‥こんな俺のこと、もし嫌いだったら‥‥俺、美優ちゃんのこと、諦めるよ。卑怯だよな、やっぱり。
 こんな家の事情のこと、黙っているなんて。でも、信じてくれよ。美優ちゃんならきっとうまくやっていけるって思ったこと、嘘じゃないんだ」
 浩孝君はぽつりぽつりと話す。
 とても寂しそうで、でもとても優しい顔をして。
「どうして、あたしなら‥‥って思ってくれたの?」
 浩孝君は照れくさそうに笑った。あたしの一番好きな笑顔。
「この家ってさ、白魔術の、一応名門なんだよね。白魔術を真の意味で極めることが出来るのはピュアな心の持ち主だって言い伝えがあってさ‥‥だから、美優ちゃんなら‥‥って、そう思ったんだよな」
 がばっ。
 あたしはベッドから起き上がった。浩孝君がおでこをぶつけそうになってあわててのけぞる。
「み、美優ちゃん!?」
「浩孝君、あたし‥‥やる!」
「え‥‥?」
「あたし、やるわ。修行して魔法使いになってみせる!」
 そうよ、愛する男にここまで言われて逃げを打ったら女がすたるっつーのよ!
 負けないわっ!

 そしてその日から、あたしの血のにじむような特訓の日々が始まった。
「美優さん、それでは造成魔法の実践レッスンをしましょうね。この木の葉をお金に変えてごらんなさい」
「はいっ、お義母さま。えと、オドロッキ、モモノッキー」
 って、無理‥‥
 木の葉は葉っぱのまま。
 あたし、本当に魔法を習得できるのかしら‥‥?

 
☆募集キャスト☆
●真路久美優(まじく・みゆ)=何も知らず、平凡に恋をして平凡なお嫁さんになるつもりで魔法使い一族の浩孝と結婚した女性。浩孝にベタ惚れ(外見年齢20〜34歳程度が望ましい)。
●真路久浩孝(まじく・ひろたか)=白魔術使いの名門・真路久家の長男にして跡取り息子。美優にベタ惚れ(外見年齢20〜34歳程度が望ましい)。
●真路久佐和(まじく・さわ)=真路久家を取り仕切る姑。厳しく温かく美優の修行を見守る。

※上記以外にも、真路久家の小姑・隣人・美優の実家の人々など、自由に考案の上ご応募下さい。
※キャスト不足の場合は適宜NPCを追加します。

●今回の参加者

 fa0169 最上さくら(25歳・♀・狐)
 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3764 エマ・ゴールドウィン(56歳・♀・ハムスター)
 fa4350 苅部・愛純(13歳・♀・蝙蝠)
 fa4616 グライス・シュタイン(32歳・♂・猿)
 fa4764 日向みちる(26歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●姑オーバードライブ!?
 新婚一日目の、朝。
 新妻らしく早起きした真路久美優(=日向みちる(fa4764))は新妻エプロン(ピンクフリル)を身につけ、朝ごはんの支度を済ませた。セミロングの髪をきっちり束ね、薄化粧のその姿は、どう見てもラブラブ新婚真っ最中の新妻。寝室でまだ眠っている夫の浩孝(=グライス・シュタイン(fa4616))をそっと揺り起こす。
「浩孝君、朝ごはんですよー。浩孝君の好きなお豆腐のお味噌汁」
 ちゅっ。
 その瞬間、ガラッ! とダイニングの扉を開け、ジャージ姿に身を固めた姑の佐和(=エマ・ゴールドウィン(fa3764))が入ってきた。
「きゃ!?」「か、母さん?」
「美優さん、そんなヒラヒラした格好で魔法修行が出来ますか! 魔術はね、本来そこに存在しないモノを自らの意思で具現する術なの。強い意志と清廉な魂が不可欠なのよっ。すぐ、これに着替えて、早朝ランニングスタートよ!」
 と差し出されるのは微妙な色のジャージ。
 泣く泣くエプロンからジャージに着替えて庭に出る美優に、佐和はきびきびと言い渡す。
「心の中で4つ数えてお腹で息吐いて‥‥同じ様に4つ数えて息吸って」
「は‥‥はい」
 素直に美優はやってみる。
 朝っぱらからジャージ姿で庭先で呼吸法をやってる新婚妻を、隣家の女子高生・日下・愛(くさか・あい=苅部・愛純(fa4350))が怪訝そうに見つめながら挨拶をよこす。
「おはよーございます。あのー、朝早よからジョギングですか?」
「そう、そうなんです。ダ、ダイエットにはやっぱり、運動が一番ですから」
 ひきつった笑顔でごまかす美優。新婚一日目からジャージで嫁姑が体操する光景は既に変だが、女子高生はそうなんですかーと深く考えてない様子で登校していく。人目が無くなると、佐和は涼しく言い渡した。
「さあ、町内一周ランニング、出発よ!」
「ええぇ!?」
 驚く美優を尻目に、佐和はちゃっかり魔法のホウキに乗り、ばびゅーんと飛び出す。
「ひいー!」
 帰ってくるとすぐ、朝食も食べていない美優はへたへたと玄関にうずくまってしまった。
「み、美優ちゃんっ! 大丈夫!?」
 浩孝が飛び出してきて、冷たい水を飲ませた。
「あら、もうクタクタなの? しょうがないわね、とっておきの疲労回復薬の生成法を教えるから後で地下室にいらっしゃい」
「はっ、はい!」
 ふらふらと美優は立ち上がり、心配する浩孝を置いて、地下室へ。レンガを敷き詰めた地下室は、一方の壁が作り付けの本棚になっており、ぎっしりと魔法書の類が占めている。
 中央には大きな陶器製の鍋が、石製の暖炉にかかってグツグツと煮えたぎっている。
「うん、よく煮えているわね。美優さん、そのテーブルの上の材料、追加して頂戴」
「はい‥‥っっ!?」
 とテーブルの上の「材料」をツマミあげ、鍋に放り込もうとした美優は、指先に違和感を覚えて材料を凝視すれば、イモリの黒焼きと眼が合ってしまい。
「きゃあーーー!!」
 ドタッ。

 気が付くと、また寝室に寝かされていた。
 涼しい風を頬に感じて、ベッドの横を見れば、薄紫色の浴衣をきっちりと着付けた佐和が、うちわで風を送ってくれていた。
「す、すみませんでした」
 慌てて飛び起き、頭を下げる美優。だが、佐和の言葉はあくまで厳しい。
「イモリの黒焼きくらいで気絶するなんて。もう少し真路久家の嫁としての自覚を持って頂戴ね」
「で、でも、私は、浩孝君は大好きで、だから結婚した、それだけなんです! それじゃ駄目なんでしょうか?」
「妻になるということは、人生を共有するということです。浩孝の白魔法使いとしての責務を共有できないのなら、妻失格といわざるを得ないわね」 
 丁度そのとき、浩孝がお茶をお盆に載せて入ってきた。
「美優ちゃん、具合はどう?」
「少し休んだら、家事の方もお願いね」
 佐和は言い置いて、部屋を出て行く。心配する浩孝に、美優は思わずすがりついた。
「浩孝君‥‥私、もうダメかもーー」
 美優は思わず甘えて本音の不安をぶつけた。
 美優は、しばらく浩孝に慰めてもらって、ようやく少し元気が出て、台所へ戻った。
 佐和は美優の、頬に残る涙の痕など眼にも入らぬ風で、きびきびと指示を出す。
「じゃ美優さん、この町内会の回覧板、お隣へまわしておいて頂戴ね。放火魔が出没してるそうよ。タロットでね、ご近所に火事が出て巻き込まれると暗示が出たの。さりげなく注意を促してね」
 放火魔と聞いて不安げな顔になる美優に、佐和は自信たっぷりに、
「ああ、この家は大丈夫だけどね、火の精霊サラマンダーに守護させてるから」
 隣家へと美優が出かけている間、浩孝が佐和に抗議した。  
「母さん、美優ちゃんに少し厳し過ぎだよ! あれだけ修行させた後に家事まで‥‥魔法なんか使えなくたって、美優は僕のいとしい人であることには変わりない! もっと大切に、家族の一員として扱ってくれよ!」
 佐和は落ち着いた声で言葉を返す。
「大切な家族だからこそ、厳しい修行を授けるのよ。それに、短い間だけれど彼女と接してみて、確かに彼女がとても素直な心の持ち主だということはわかったわ。素晴らしい素質を持っているのだから、ふさわしいレベルの修行をさせてあげないとね。まあ今のところ、【アデプト(指導者)】として言わせて頂けば‥‥【ネオファイト(初心者)】の域を出るにはまだまだ掛かりそうだけれど」
「そうか‥‥母さんも、美優の優しさをわかってくれているんだね。確かに彼女はすごくピュアだから、きっと開眼すれば僕をも凌ぐ術者になるかもしれないけど」
「しーーっ、美優さんに聞かれるとプレッシャーになるから、彼女には魔法力に開眼するまで聞かせないことにしましょ」
 しかし、実は隣家から既に戻っていた美優は二人の会話を、部屋の前でしっかり立ち聞きしていた。そして思う。
 私、思ったよりもずっと、家族の一員として皆に大切にされていたんだわ、と。だから早く魔法に目覚めたい。そう、一日も早く。美優はその日を境に、魔法修行に燃え始めた。
「オドロッキモモノッキー、このステーキ用牛肉よ〜、100グラム20円まで安くなれ〜」
 と、スーパーで妖しく呪文を唱えてしまったりもする。

●ピュアハートは魔法
 日曜日。今日も魔法修行と称する早朝ランニングの後、美優は新妻らしく家の中に一生懸命掃除機をかけていた。魔法修行と家事の両立はなかなか大変である。掃除をしようとすると佐和が、
「魔法のホウキに自動掃除させてごらんなさい!」
 と言ったのだが、
「で、できませ〜〜〜ん!!」
 というわけで、美優は自分の手で掃除している。
 ぴんぽーん。
 ドアチャイムの音に美優は玄関へと客を出迎えた。
「お邪魔しますわよ。あら、貴方が浩孝さんと結婚したという『一般人』の方?」
 見知らぬ客はほっそりとした女性。黒い髪を束ねも巻きもせずにまっすぐ垂らしているところはホラー映画のヒロインめいているが、繊細な感じの綺麗な女性である。
「あのー、どなた様‥‥?」
「あら、何も聴いていらっしゃいませんの? 私、左右田佐里(そうだ・さり)と申しますの。この真路久家が代々癒しの白魔法使いの長なら、私の家系は代々変身魔法の学究的存在ですのよ」
 佐里(=DESPAIRER(fa2657))はつんとあごをあげ、見下すようにじろじろと美優を観察している。
「やあ、佐里さん」
 浩孝がちょっと困った顔をしながらも、親しみをこめて挨拶する。
「お邪魔していますわ。こちらの方――美優さんと仰るのでしたかしらーーは、少しは魔法を使えるようになりましたの?」
 佐里はちょっと意地悪く流し目で美優を見ながら言い放った。美優の心を、ちくりと棘が刺す。
「仮にも真路久家の人間なら、当然これくらいのことはできますわよね?」
 佐里は言うや、指をぱちんと鳴らし、魔法で手の中にティーカップを出現させて見せた。しかもその中には、薫り高いコーヒーが満たされている。それを飲みつつ、まだ魔法は習得できていませんと謝る美優の言葉を聴くと、
「まあ‥‥お気の毒ですこと。でもそもそも一般人が真路久家のレベルに追いつけるのかしら?」
 見下すような言葉に、つい涙ぐんでしまいそうになる美優だが、
「基礎からやるなら、このくらいがちょうどいいんじゃなくて?」
 と、強引に押し付けられたのは大学ノート。しかも表紙には手書きで「魔法学基礎�Tまとめ」と、綺麗な字で書いてある。めくってみれば、調合薬の創製法や使い魔の選び方など、懇切丁寧に書かれている。
「これ‥‥もしかして、私のために作ってくださったんですか?」
 眼を丸くする美優に、
「べ、別に、一般人がこの魔法使い一家に嫁がれてさぞご苦労なさっておいででしょうなんて、同情してるわけではありませんわよっ! それは結婚のお祝いの代わりにさしあげますわ」
 佐里はさらりと黒髪をなびかせると、言いたいことだけ言って帰っていった。
「本当はいい人なんですね」
 美優はくすっと笑ってしまう。
「もちろん、そうさ。彼女も白魔術使いなんだから」
 浩孝も陽気に笑っている。
 だが、その後にまた訪問者が。それは美優の弟・桜城・眞優(=クッキー(fa0472)
)である。童顔で小柄な上、アニメなどの幻想世界にどっぷり漬かっている超弩級アキバ系。姉の嫁ぎ先を訪れた理由も、この近所にある巨大家電販売店で翌日発売のゲームを買うため行列しに来て、そのついでというのだから、ちょっと痛い性格かもしれないが、美優にとっては可愛い弟である。
「お姉さん、ついでに行列してる間のお弁当も作ってよー」
 と、遠慮も無く姉のお手製マフィンをもりもり食べる。一人っ子の浩孝は、義弟とはいえ可愛い兄弟が出来たのが嬉しいからと、お小遣いをあげたり。
「わーっお義兄さんありがとうーゲーム買ったら貸してあげるねー僕がクリアした後で」
「でも眞優、あんまりゲームばっかりしてちゃダメよ? 勉強も――ん?」
 賑やかにお茶を飲んでいた真路久家の人々は、何やら隣家が騒がしいのに気付いた。
 窓を開けてみれば、隣の日下家から真っ黒い煙が上がっている。油に引火でもしたのか、室内からかなりの火の手が上がっているようだ。隣家には1歳になったばかりの赤ちゃんを連れて長女が里帰り中だと、美優は思い出す。
「大変、赤ちゃんが!」
 美優が叫ぶや、弾丸のように飛び出していく。運動神経は元々悪くはないが、このところランニングで鍛えていたせいで余計に敏捷性が増強中。
「待って美優ちゃん、僕が行くよ!」
 だが浩孝は眞優が暇つぶしに始めていたゲームの電源コードに引っかかり一瞬遅れた。そして美優は無我夢中で隣家に飛び込み、赤ちゃんの泣き声を頼りに、炎の中を突き進む。ようやく赤子を抱いて右往左往する若い母親を見つけた。
「奥様、大丈夫ですか!?」
「この子を、この子をお願いします!」
 赤ちゃんを受け取ろうとした時、ガスに引火したのか、キッチンの方からボン! と爆発音が聞こえた。異臭を伴う黒い煙が鼻を突く。
「げほっげほっ、ごほっ」
 美優の意識が遠のいて行く。

「美優ちゃん! 美優―――ッ!」
 浩孝は絡まるコードをようやく解き、日下家の火事の中へ飛び込んだ。熱気と煙が襲い掛かる。だがふいにぽつぽつと、やがてシャワーのように、全てを包み込む虹色の雨が降り注いでいた。雨は炎を鎮めていく。
「なんだ、この雨……?」
 浩孝は首をかしげた。甘いバニラの香のする雨なんて、初めてだ。
「見て御覧なさい」
 佐和の声に、浩孝は眼を上げた。佐和は、美優を追って転移魔法で日下家に飛び込んでいたのだ。そして浩孝の視線の先に、しっかりと赤ん坊と若い母親を抱きよせたまま気絶している美優がいた。そして美優の体からは、不思議な雨粒と同じ虹色のオーラが……
「あの娘はアストラル…霊体が肉体の束縛から開放された時のみ秘力(フォース)を発揮するのね」
 ホウキにまたがった佐里がふわふわと宙に浮かびながら、相変わらずの辛口な、でも実は愛あるコメントを吐いて、ひゅーんと空を飛んで姿を消した。
「それにしても、やはり浩孝。貴方の妻選びは間違っていなかったということね。さあ、美優さんを転移魔法で家に帰して、赤ちゃん達は病院へ送り届けてあげましょ」
「うん。――僕は君と結婚できて幸せだよ、美優ちゃん。ブリキにタヌキにセンタクキ、ラッキードラゴンよ、美優ちゃんを真路久家寝室へ運べ!」
 浩孝は、思いっきり甘い愛の言葉を気絶している美優に囁いて、ドラゴンを召喚してその背に乗り、妻を運ぶのであった。その途中、箒にまたがりふわふわと宙を浮かぶ佐里と遭遇。
「やはり美優さんは浩孝さんの妻に選ばれるだけあってただものではありませんでしたわね。きわめてユニークなタイプの潜在的白魔法使いですわ……い、いえ、別に私は水晶球で美優さんが魔法に目覚められるかどうか心配して見守っていたわけではありませんのよ!」
 相変わらずのツンデレ? コメントを吐きつつひゅーんと彼女は姿を消した。そしてその後、 
「まるで『魔法少女・りりかるピュア』のララちゃんみたいで凄いやっ!」
 眞優は尊敬と憧れと妄想てんこ盛りの視線で姉を見るように。
 しかし潜在能力は認められたものの、やっぱり覚醒状態でも魔法を使えなくちゃねということで。
「次っ! 腹筋しながら治癒魔法の呪文百回復唱!!」
「はっはい〜〜! お義母様〜!」
 美優はその後も厳しい訓練を授けられたそうな。めでたしめでたし?