ほら、うしろにいるよアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 5.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/05〜09/07

●本文

【《目撃者・小野寺拓海(おのでら・たくみ)、5歳、幼稚園児》の証言】
 たっくんが見たのはね‥‥んーとね‥‥こうえんにいたときね。
 かぶとむし探したの。ヒロくんとね、アイちゃんとね、そいからね、のりくんと。 
 ヒロくんがね、「なんかくろいのがいるー」って、みんな「ねこかなー」っていっしょにさがしたの。
 そしたらね、なんか草のなかからバアーッてとびだしてきてね‥‥
 そいから‥‥よくわかんない。
 きがついたらアイちゃんが泣いててー‥‥ヒロくんのあたまがころがってこっちみてたの‥‥でも体がどっかいっちゃってさ‥‥体だけおさんぽいっちゃったのかなあ‥‥ヒロくんおさんぽ大好きだもんね。
 ないとうぉーかー? ‥‥たっくんしらなーい。
 わるいやつなの? じゃ、たっくんへんしんしてやっつけてあげよっか?
 ねえーそんなことより、ヒロくんの体さがしてあげてよー‥‥

【《目撃者・原田芽衣(はらだ・めい)、24歳、女優》の証言】
 わ‥‥私の責任なんです‥‥休憩時間に‥‥あの子たちから目を離したから‥‥ごめんなさいごめんなさいごめんなさい‥‥(号泣し会話不能)

【《目撃者・井伏夏生(いぶせ・なつお)、19歳、AD》の証言】
 え‥‥俺の見たこと‥‥? 
 すいません、俺、あの時、あんまり子供たちの方見てなかったんです。
 監督に言われて、子供たちにおやつ配ることになってて、紙皿出したりジュースを紙コップに注いだり、そんな作業してて。
 悲鳴が聞こえた時には、あの子がもう‥‥。
 いや、子供たちもあまりのショックに、何秒か間をおいてから悲鳴をあげたみたいです。
 俺も悔しいですよ、あんな‥‥
 え、NWの行方ですか?
 うーん、俺も、さっき言ったみたいに、子供たちの方見たときにはもう、NWの奴が行方くらましてたもんですから‥‥
 撮影に参加してた、一般人の子供達にNWが憑依している可能性はないかって?
 ‥‥ええ、撮影に参加してた子供達、あの事件以来、皆様子が変だってことは聴いてますよ。でも、あんな小さな子たちの誰かにNWが憑依してたらって‥‥考えるだけでもツライじゃないっすか、マジで。事件前、芽衣ちゃんと一緒に歌って体操するの、皆、すげー無邪気に喜んで‥‥なのに‥‥

 すべては一瞬の出来事だった。
 子供番組の撮影現場で、それは起こった。
 事件当時、撮影していたのは、番組中のコーナーで、「歌のおねえさん」こと原田芽衣が、各地の公園で遊んでいる地方の子供(一般人)達を、訪ねていき、そこで一緒に歌いながら体操するというもの。
 死亡したのは、「歌のおねえさん」がいつも一緒にいる「おうたの妖精」役の子役・上村ヒロ(5歳)。
 歌のおねえさんを日本各地へのおさんぽに誘うという役どころであり、その役にふさわしく上村ヒロも好奇心旺盛な子供であったことが、不幸を招いたと思われる。
 ヒロ以外の子供達は、あらかじめその地方の視聴者限定で公募した中から抽選で選ばれた一般人である。
 もちろん芸能人でもなければ、獣人でもない。
 事件当日の経過は以下の通りである。
 和やかに撮影は進行した。
 子役達は、日ごろから憧れの存在である「テレビに出てくる歌のおねえさん」にが公園へ遊びに来てくれたことに満足し、機嫌よく歌と体操をこなしたし、芽衣ももともと子供好きであることから、うまく子供達を盛り上げ、リラックスさせていた。
 それで誰もが油断していたのかもしれない。
 撮影を終えて、監督の指示で一同はしばらく休憩時間を取った。
 午前中の早い時間ではあったが、日差しはきつかった。
 カメラマン達撮影スタッフは次の進行の打ち合わせをし、ADの井伏は子供たちにおやつを配る準備をしていた。
 他のスタッフたちは、公園を取り囲むように集まってきた見物客が、公園内に入ってこないように呼びかけたりしていた。
 そして子供達は、撮影機材を珍しそうに観察したり、芽衣に話しかけたり、公園の遊具や砂場で遊んだりと、思いのままに時を過ごしていた。
 芽衣は、子供たちのいる場所から少し離れたロケバスの日陰で、なんやかやと彼女に話しかける子供達を適当にあしらいつつ、お茶を飲んでいたのだが。
 と、一般人のこどもたちに混じって公園をうろうろしていた上村ヒロが、公園の茂みの中に、
「なんか黒いものがいるよ。猫かな」
 と叫んだ。
 生き物に興味津々な年頃の子供たちは、猫と聞いてわいわいと茂みに向かって集まった。
 ―――次の瞬間。
 茂みから影が飛び出したかと思うと、血しぶきが上がり。
 ヒロが無残なむくろをさらし、息絶えていた。
 「黒いいきもの」は、NWだったのだ。
 子供たちはパニックに陥った。
 動揺から醒めたスタッフ達は急ぎNWを攻撃しようとしたが、一般人の子供の目の前でもあり、獣化をためらった。また、パニック状態の子供達をなだめるのに手を取られ、ようやく子供達をロケバスに乗り込ませた時は‥‥時既に遅し。
 NWは既に、擬態もしくは憑依、または情報化によって不可視状態となっていた。
 
 ヒロイン役の女優・原田芽衣は「自分が子供たちから目を離したせいでヒロを死なせた」という罪悪感から、かなり情緒不安定に陥っていることもあり、彼女からの有用な証言はいまだ引き出せていない。
 残る目撃者は、撮影に参加していた、子供たちということになるのだが、彼らの年齢はせいぜい4歳から6歳といったところである。
 幼い上にパニックの後遺症で子供たちの記憶はかなり混乱をきたしており、こちらも今のところ、NWの行方について、有用な目撃証言は聞き出せていない。
 様子のおかしい者もいるが、PTSDの可能性もあり、安易にNW憑依を疑って調査してよいものかどうか、周囲の大人たちも判断がつきかねている状況だという。
「問題なのは、見物に訪れていた小さな子供達が、守るべき対象なのか疑ってかかるべき対象なのか判別しがたいことだが‥‥もうこれ以上、誰も悲しませることのないように、細心の注意を払いつつNWの行方を調査し、判明しだい退治してくれ。」
 WEA連絡員は、デスクに置かれたか上村ヒロの遺体写真から目を逸らしながら、そう依頼のメッセージを送った。 

☆補足事項
●公園は、周囲を道路に囲まれているが、車どおりなどは比較的少ない。芝生や木立などの緑が多い環境で、すべり台・砂場・ブランコ・ジャングルジム・鉄棒の、5種類の遊具がある。
●撮影に参加していた一般人の子供達は、ほぼ全員無口になったり、逆に事件のことを繰り返し取り憑かれたように語るなど、PTSDともNW憑依とも疑える様子を呈している。NW憑依の疑いもあるが、そうでない場合も想定し、むやみに傷つけることなく捜査を行ってもらいたい。
 見物客は、ロケ現場に近づかないようスタッフたちが見張っていたので、憑依された可能性は無し。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

● 癒しの刹那
「気分の良くない事件だね‥‥チャッチャと解決しちゃおう」
 キャンピングカーのハンドルを握るMAKOTO(fa0295)が、自分に言い聞かせるように呟いた。同乗して現場に赴く仲間達から帰ってきたのは、重い沈黙と、
「そうできれば‥‥いいっすけどね」
 伝ノ助(fa0430)の、緊張で掠れた声だった。
 目的地の公園が見えてくる。騒がしい。
「帰りたいーっ、ママーッ、ママーッ」
 ロケバスの中から、窓をドンドン叩いて、泣き叫ぶ子供達。その子供達を迎えに集まった保護者達が血相を変え、スタッフに詰め寄っている。
「どうしてうちの子を返してもらえないんですか!」
 ADの井伏が、その説明に冷や汗をかいている。公園前の道路脇に車を止めたたマコトは駆け寄って、助け舟を出した。
「地元警察が、電波障害とかで連絡がとりにくくて、出動が遅れているらしいんだ。その間、僕達ボランティアスタッフでお子さん達の帰り道の安全確認をするよ。――ヒロ君を殺した変質者は、まだどこにいるかわからないからね」
 地元警察は、今、無線電波が何者かの妨害電波によって撹乱され、署内か、途中の道路で立ち往生している筈だ。WEAの裏工作だった。警察が動き出しては現場検証を始め、公園に入れなくなっては元も子もない。子供達への憑依の有無を確かめるためにも、子供達を今すぐ帰宅させるわけにもいかない故の、苦肉の策だ。
 パニック状態の子供達を少しでも慰めるためと、安全確認のため、ボランティアで集まった芸能関係者‥‥というのが、マコト達の「役どころ」だった。マコトのような有名人がボランティアとして現れた点に、保護者達はテレビ局の誠意を感じたらしく、保護者達は顔を見合わせ、怒りをトーンダウンさせた。
 ヒロの死は、表向き鉄拳とスパナのような武器を手に装着した、子供を狙う変質者によるもの、ということにされるらしい。子供達のみた黒い影は見間違いか偶然通った猫だと。
 だが、いかに警察が出遅れたとて、稼げる時間はせいぜいが30〜40分程だ。子供達への対応は特に急がなければならない。
 伝ノ助は、ADの井伏に子供達の名簿を借りられないかと申し出てみた。
「個人情報ですから、取り扱い注意でお願いしますね」
 続いて近づいてくるベイル・アスト(fa5757)の姿を見て、井伏が顔をしかめた。
「でかい得物持ってこられましたね‥‥子供達が怯えますから、置いてきてください」
 確かに1メートル長さの剣など、怯えた子供達の中に持ち込むのは異様だ。
 では原田芽衣を説得する役割をさせてくれと、キャンピングカーの中に剣を置いてきたベイルが主張する。
「えっ、お前も手伝ってくれるんだったのか?」
 「平心霊光」を使い、芽衣を落ち着かせる予定の犬神 一子(fa4044)がたずねると、ベイルは無表情のまま、
「私は、彼女を慰めるつもりはない。彼女は事実から目を背け、謝罪を繰り返し、否定し続けているだけだ。自分が悪いと思うのならば、嘆くよりも先に出来る事がある筈だろう?」
「だが、もし万が一彼女がパニック状態になって、それで引き出せる証言も引き出せなくなったら? その責任はどうやって取る?」
「時には非情にならねばならない時もある。涙に濡れて俯いているだけでは駄目なんだよ」
「だから、非情に徹するのは構わんが、それで証言者が使い物にならなくなった場合、責任は取れるのか?」
 自らの論をとうとうと述べるだけで、もし悪い結果が出た場合の処し方を考えていないベイルには任せられず、一子はスタッフ達に犬の着ぐるみを借りてくる。着ぐるみを借りた一子は、すっぽりと被り物が突き出る獣耳を隠すことを確認し、半獣化し、バスに乗り込んだ。後方座席でうずくまり、頭を抱えるようにしている芽衣に近づき。
「大変な目にあったな。だが、お前のせいじゃない。いいから落ち着け」
 ぽんぽんと頭を撫でた。びくりと芽衣が震えるが、一子の掌から放たれる淡い光を浴びると、ゆっくりと呼吸が落ち着き、顔を上げた。瞳に力が戻るのを見計らい、一子は言った。
「まずは、お前の見たことを、もう一度詳しく話してくれ。で、子供達の証言集めも手伝ってくれんか。憧れの歌のおねえさんが暗く落ち込んでちゃ、子供達が余計傷つくだろうし、な?」
「は、はい」
 芽衣が立ち上がり、精一杯明るい声を振り絞った。
「み、皆―、もう大丈夫よ。大人のひとがちゃんと、帰り道に悪いひとがいないか見てくれるからねー。その間、お兄さん達が面白いお話してくれるわよ」
 だが、何人の子供達にその声が及んだだろうか。
 やがてマコトが周辺捜索から戻り合流したが、知名度が災いし、あまり成果は得られなかったようだ。
 NWに憑依されていた生物の死骸がないかと周辺を探したのだが、知名度が災いして、あちこちで呼び止められる為、溝板をはずして下水を覗き込むなど、徹底した捜索が出来なかったのだ。
「神保原さん達が何か見つけてくれるといいけど‥‥あ、それより子供達の話を聞かなくちゃね」
 マコトは、用意してきたICレコーダーのスイッチを入れた。
「良い子の皆、ちまぐりーんが助けに来たでござる!」
 子供番組への出演歴を生かして、伝ノ助が番組のパペットを操り、声をつくり話かける。伝ノ助自身はサイズ大きめのパーカを着込み、フードを被っている。半獣化を隠すためだ。
 反応は乏しかった。怯えて肩を寄せ合うようにしている子供達がちらりと目を上げた。泣き喚いて窓を叩く子供には、耳に届いてすらいないようだ。
(「どうか元気出しておくんなさい。皆が安心できるように、あっし達が頑張りやすからね」)
 心の中で語りかけながら、伝ノ助は笑顔を浮かべた。同時に和気穏笑の能力が放たれる。
 目には見えない波動を受け、子供達が次第に泣きやみ、伝ノ助に注目し始めた。
 子供なりに、事情はわからないが安心感をくれる人、と認識し信頼感を持ったらしい。
「公園で何が起こったか、話せる子だけで良いでござる、拙者達に教えてくだされ!」
 パペットを動かしながら語りかけると、活発そうな女の子が手を挙げた。
「あのね、りさはねこみたいなのがぴょーんって跳んだの、見た。それでヒロ君がけがした」
「うんうん、ゆっくりでいいからね」
 子供が重荷を少しでも下ろしたいといった早口で語るので、時折舌がもつれ、不明瞭になる。マコトがそっと肩を抱くようにして励ました。
「おぉ、よく思い出せたでござる。これは拙者からの褒美でござる」
 伝ノ助は大げさに驚いて見せ、ポケットからキャンディを出し渡す。怯えていた少女の顔に、うっすら得意げな明るい表情が浮かぶ。
「ぼくも、ぼくもー!」
「あみちゃんもみた!」
 褒めてもらいたさに次々と子供達が手を挙げる。が、中にはおとなしい子もいて、何か言いたげにじっと見つめるが、手を挙げる勇気がないらしい。そんな子供に、マリアーノ・ファリアス(fa2539)が近づいて話しかけた。マリスも伝ノ助と同じようなぶかぶかのパーカを着、フードを被って半獣化を隠している。
「まいちゃんも何かお話できるカナ?」
「んと‥‥あ、『ファリー』‥‥!」
 子供は、マリスが子供番組で演じていた役名を口にし、目を見張る。マリスはにっこり応じた。
「覚えててくれたんだ? まいちゃんは記憶力いいネ。公園のことも何か覚えてるかな? 落ち着いて・よく・思い出しテ?」
 「落ち着いて」という言葉に「言霊操作」の能力をこめてマリスは言った。
 『ファリー』に選ばれ、話しかけられたという誇りで背筋を伸ばし、子供は証言した。
 「あのね、あのねこがね、通った後にね、しろくて、ほそーい毛みたいなのが木にからまってた。ねこはくろかったのになー‥‥」
 ◆
「ほとんどの子はどうやら大丈夫でやしたね。‥‥どうも、あの子が気になるのでやすが」
 保護者達に迎えられ帰ってゆく女の子の一人‥‥「ひとみ」を伝ノ助が指差した。
 バスでも、ぴくりとも動かずずっと窓の外を見据えており明らかに異様だった。
「考えたくないケド‥‥まさかNWがあの子に」
 ひとみに平心霊光を試みたが成果の得られなかったマリスが、枯葉を集めて仲間に借りたライターで火をつけた。「灰代傀儡」の用意だ。
 保護者に連れられ、ひとみは近くの有料駐車場にある車に乗り込んだ。灰で作られたもう一人のマリスが、獣耳を立てた、明らかな獣人の姿でゆらゆらとひとみの向いている窓の前を行過ぎる。NWならば反応する筈だ。
「NWが実体化したら、すぐこれで転送しやす」
 伝ノ助が携帯電話を握り締める。携帯写真メールでNWを情報化し転送できる筈だ。感染させる動物も用意済みだ。ひとみの視線が傀儡をとらえた。だが、
「このグズ! せっかく子役として売り込むチャンスだったのに! 要領悪いったら!」
 甲高い声。運転席の母親が、助手席のひとみに平手打ちを振り下ろす。
「な、何をするんでやすか!」
 伝ノ助が電話を取り落とし、飛び出した。
「ひどいよ! ひどい目にあったばかりの子に!」
 マコトが車のドアに飛びつき、ひとみを豊かな胸に抱え、小さな体をくるむように守った。ふてくされた母親を問い詰めると、子役タレントに仕立て稼いでくれる日を夢見て努力しているのに、成果が出ないのでイラついているのだという。
 「児童相談所に通報する」と警告し、マコト達が母親の行動を諌めたものの、日ごろから母親の暴力に慣れているらしいひとみは、どこか虚ろな視線を遠くに投げたままだった。
 
●暗闇遊戯
 次は、子供達の証言を集めたレコーダーを聴き、内容を分析することだ。
 獣人たちは休息を兼ねて夕方のファーストフード店内にいた。
 咥え煙草の各務 神無(fa3392)が、メモ用紙に聞いた情報をかきつけ整理していく。
「証言の中に、「黒い」「毛が生えた」「ねこみたいな」‥‥って単語が多いようですね」
 と神無。
「猫に憑依したNW‥‥?」
「とも限らない気がするんだ。あの周辺にあまり猫はいない。一度増えすぎて、市役所の清掃課が処分したんだって」
 周辺捜索で情報を得てきたマコトが腕を組んだ。
「あと気になるのは『まい』ちゃんが言っていた『白い毛』だケド‥‥」
 マリスの言葉に、隅っこで話を聞いていた芽衣が呟く。
「あ‥‥私も、樹に白い毛がからまっているの、見ました‥‥何か、手がかりになるでしょうか‥‥?」
 確かめに行ってみよう、ということになり、獣人たちが立ち上がる。
「NWめ、見つけたら殴り飛ばす」
 一子が呟いた。さすが憤怒神、とは状況上、誰も言わなかった。
 
 夜。警察官達が現場検証を終え、黄色いテープで囲われた公園で、叢雲 颯雪(fa4554)は、神保原・輝璃(fa5387)の二人がゴミ箱や落書きの調査を行っていた。
 ゴミ箱の中からは様々なモノが出てきた。新聞紙に包まれたぐにゃりと柔らかい何かを見つけた颯雪は、輝璃に注意を促した。
「輝璃お兄さん、これ‥‥!」
「新聞か、要注意だな」
 二人は、そっとそれを開いて確かめてみる。
「うっ」
 石でも投げられたのか頭部が無残に潰れた鳩の死骸だった。
「子供ってのはたまに、こういう残酷な遊びをやるもんさ」
 輝璃は淡々と言い、鳩の死骸を植え込みの影に埋めた。
「あ、神無姉さま!」
 情報分析を終えた神無達が公園に集まってきた。
「猫のいない公園か‥‥なるほど静かだね」
 マコトが周辺を見回す。獣人達は、「白い毛」が遊具や木々にからまっていないか調べた。
「白い毛って、これカナ‥‥?」
 マリスがひょいとポプラの枝にぶらさがり、枝の間に長い白い毛? を発見した。
 その長い毛をたぐってゆけば、公園の周りをぐるりと囲む低木の茂みの影に行き着いた。
「あれ‥‥? 猫、いるヨ?」
 と、茂みを覗き込み言ったが、次の瞬間わっと叫んで飛びのいた。大きな猫ではなく、猫ぐらいの大きさの‥‥蜘蛛。毛深い胴体をすくめ目を光らせ木陰からこちらをうかがっているところは、猫めいていなくもない。NW特有の、悪意をはらんだ宝石のように輝くコアが胴体部分にある。日本の従来種よりも、麻痺性の毒を持つ外来種に酷似していた。シュッと糸を吐いては、それにぶらさがり、ふわりと飛び歩く。さほど強力でもない小型なのに、動きの軌跡が捉えにくい。輝璃のダークデュアルブレードが何度も空を斬った。
「お兄さん、伏せてっ」
 颯雪がウィンドダガーを構える。短剣が突き刺さり、麻痺毒を含む体液が溢れ、飛沫となって獣人たちに襲い掛かる。
「芽衣さんっ」
 魅入られたように立ち尽くす芽衣を、伝ノ助は抱きかかえるようにして守った。
 伝ノ助のスニーカーに、緑色の飛沫がかかり、異臭を放つ。芽衣がひっと声をあげ、伝ノ助にしがみついた。
 まだ息絶えぬ毒蜘蛛NWはまだ8本の脚を伸ばし、ずりずりと這いよろうとする。
「もう、何もさせないよっ!」
 マコトが細振切爪を加えた爪で蜘蛛を引き裂き、コアをえぐりだす。
「この野郎っ」
 一子ががっしりとした足で、NWを踏みつけた。
「子供達の心に一生消えない傷をつけやがって」
 誰も、何も言わなかった。一子の怒りの言葉が、すべてを代弁していたので。

 数日後。
 WEAに呼び出されたマコト、一子、伝ノ助、マリス達の目の前に、エージェントが丸めた紙のようなものを突き出した。
「君たちの今後の活動の参考になるかと思ってな」
『おにいさん おねえさん おじさん はげまし ありがとう』
 広げられた紙の上いっぱいに、子供達の寄せ書きとおぼしい拙い字と、伝ノ助たちの似顔絵があった。