コテコテ街の陰謀アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/10〜09/12
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●本文
ピークは過ぎたといえ、まだまだ暑い中、僕はケータイ電話をかけまくっていた。
「もしもしー」
「もしもし、あっ、円井晋監督ですか? いつもうちの泉本れいらがお世話になってます。マネージャーの五十嵐と申しますが」
「やあ、久しぶり。暑いけど、元気かい?」
「はい、おかげさまで。あのですね、今月●日に、れいらの実家近くで舞台演劇の関係者の集まる飲み会を開催する予定なんですが、監督も来ていただけませんか?」
「‥‥●日ね。大丈夫だよ。寄らせてもらうね」
よかった、一名確保! 黒門市場でトロサーモンの上もの買っとかなくちゃ。
「円井監督、来てくれはるって。講演会の帰り道に寄れるって」
と、同じくケータイをかけまくっている従妹の泉本れいらーー駆け出し女優であるーーの方を見ると、れいらは残念そうに別な電話を切っているところだった。
「どうしたの、志茂月女史、やっぱり無理そう?」
「うん」
れいらは、前から憧れていた『ぷにっと海賊団』や『雀巫女神社』の女流脚本家・志茂月零子女史に誘いをかけたのだが、
「今月は予定がいっぱいだから無理かもしれないわ。でももし早く仕事が片付きそうならお邪魔するわね」
と丁寧に謝られたそうだ。
「しゃあないわ。絵コンテも自分で描ける才女やし、売れっ子やからな。――後は、漆畑さんとこと笹村さんとこ、声かけてみよか」
僕は手帳を繰りながら言った。
北海道を拠点に活動する着ぐるみ劇団「ぱぱんだん」の皆さんとは、主催者の笹村さんの弟一家である漆畑家の長女が、熱烈な大阪パンサーズファンであることがご縁で、家族ぐるみのお付き合いをしている。
皆さんがもし、全身ヒョウ柄のパンサーズ応援グッズに身を包み、ぞろぞろ歩く団体を見かけたら、それは多分漆畑家と泉本家の人々です。
「『ぱぱんだん』の人ら、獣化で来はるんやろか」
「さすがに、それはないやろ」
僕は言いながら、携帯のボタンを押していった。
◆
この暑いのに、たださえ忙しい舞台演劇関係者を集めて宴会をやらかそうなんて無謀かもしれないが、これにはちゃんとわけがある。
先週、れいらの父親の泉本玄乃輔――通称『玄さん』が退院してきた。
泉本家と、僕を含むその親戚とは、もともと大衆演劇の一座を結成していたが、座長だった彼の入院を機に、別々の道を歩き始めていた。
しかし肝炎を克服した玄さんは、なんだか以前よりもさらにポジティブ志向で、
「また、泉本一座を再結成したいもんやのう」
と言うのだ。
「けど、いつもお世話になってた劇場、閉鎖してしもたし‥‥」
「それや。京、3丁目の角っこの、商店街の使われてへん倉庫あるやろ。あそこにちょいと手ぇ入れたら、小さな舞台として使えるんちゃうか」
僕たちは今、夏休みを利用して、泉本家の実家――大阪市内の、だいぶ遠くはなるが通天閣を拝める小さな、昭和のにおいのするさびれかけた商店街の一角にあるーーに帰ってきている。
その商店街のはずれに、商店街の共有スペースとなっている、モノ置き場兼、買い物客の足休め場所がある。といっても、壊れた自動販売機がころがり、傾いたベンチが置いてあるだけのがらんとした場所だ。
そこを改造して作る、客と演者が密着しそうな、小さな舞台‥‥。
想像すると、僕もなんだかわくわくしてきて、玄さんと一緒に商店街の店主たちに交渉にでかけた。
「あのガラクタ置き場、手ぇ入れて劇場として利用さしてもらわれへんやろか」
というと、商店街組合の店主たちは難色を示した。
「舞台ぃ? こんなさびれた商店街のはずれに、そんなもん作ったところで誰が見に来るねん。わしゃ、劇みたいな訳分からんもん嫌いじゃ。いつかオカンに無理やり連れてかれた舞台最悪やったわ、女優が『私はカモメ』とか訳分からんことぬかしやがって」
「玄さんみたいな大衆演劇はともかく、舞台なんかやっとるゲージュツ家いうたら訳分からん人多いんちゃう? そんな連中に出入りされたら煙ったいがな」
商店街主たちの言い分を要約すると、つまりこうだ。
舞台関係者なんていう、異次元世界の「ゲージュツカ」とはお付き合いしたくない、と。舞台なんていうのは、汗して働く自分たちとは無縁の、理解不能な雲の上の世界である、と。
玄さんはぽん、と手を打った。
「よろし。あんたはんらの言い分はようわかった。――せやけど、舞台関係者ちゅうのんは、熱い志を持った、気持ちのええ連中が多い。あんたはんらも、いっぺん、そういう人らと飲み会したらわかりまっさ」
「ほんまかいな?」
「ほんまじゃい!」
大衆演劇一座では悪役専門だった玄さんがジロリと睨みをきかすと、冷やかし顔の若い店主はちぢみあがった。
「嘘かほんまか、いっぺん飲み会に来てみなはれ。うちのヨメがはも鍋作るし、娘はキムチ餃子に‥‥なんやケーキ焼く言うてまっさ。ほな」
玄さんは自信たっぷりなにこにこ顔で、商店街を後にしたのだった。
◆
電話してる間に、れいらが姿を消したと思ったら。
「ただいまーっ」
って、いつのまにどこへ出かけていた!? しかも見知らぬ若い男の手を引っ張っているではないか。
「この人も舞台作ったことある言うから連れてきたん!」と、息を弾ませてれいら。
眼鏡をかけた端正な顔立ちの男は、「どうも初めまして」と僕に名刺をくれた。
「アニメ・漫画・ゲームコスチューム専門店『コスメイト』広報主任・天爪竜斗さん‥‥?」
大阪に支店を出すための営業活動中に、れいらに道を聞いたためにつかまったのだという。だが、宴会はなんたってにぎやかな方がいい。渡りに船だ。
「では仕事がありますので」
と腰を浮かしかける天爪氏を、僕は無理やり引き止める。
「まあまあ。暑い中営業でお疲れでしょ。どうです、『白妙堂』のきんつばでも。甘いものは疲れが取れますよっ」
「そうそう! カキ氷作ったろか、フカヅメさん」
「あまつめです!」
いつから僕たちはこんな鬼になってしまったんだろう‥‥
僕たちの後ろでは、れいらの母親である泉本さくらが、ケータイ電話片手に新たな犠牲者に声をかけていた。
「もしもしぃ、脚本家の大端さんのお宅ですかー? あっ、大端さん? 『セーバーZ』の舞台衣装やってた泉本のオバチャンですー。オバちゃんとこの飲み会来はらへん? あっ、ううん、そんな遅くなりませんわ。もし遅うなったらオバチャンが車で送ったげるしー。もうー、なに遠慮してんのん」
おいおい、だんだんなれなれしくなってないか。
◆◆
ちょうどその頃‥‥
大阪での取材を兼ねたショッピング旅行中のとある女性が、通天閣周辺を散策中であった。デジカメであたりを撮影しつつ。
「まさに庶民的な商店街の典型といったところだな。‥‥ん? なんか、あの一角がやけににぎやかだが‥‥」
興味を惹かれて近づいていく、彼女の名前を落 霞紅(らお しあほん)と言う‥‥
●リプレイ本文
●宴会GO!
残暑厳しい日の夕方。泉本家の実家である、格子戸つきの木造家屋・築24年。その格子戸を開け放し、ベンチを何台か置いて、蚊取り線香を焚いて、電気コンロの上にはも鍋の大きな鍋を載せる。百人乗っても大丈夫、とは言わないが、客が増えても一応安心だ。
「京、ダシ煮立ってるぞ!」
「ひゃはい!」
僕は暑い台所で、劇団「ぱぱんだん」が誇る台所奉行・笹村葉月様を手伝っていた。
ダシを効かせた鍋の香りが町へ流れるにつれ、三々五々、商店街のおっちゃん達がこのにわか宴会場へと集まってきた。その中を浴衣姿もしとやかに都路帆乃香(fa1013)と、ベス(fa0877)さんが訪れ、「玄さん」こと泉本玄乃輔に挨拶する。
「本日はお招き頂きありがとうございます。主人からもよろしくと」
「呼んでくれてありがとーございますっ♪」
「まさかなあ‥‥似とるけど」「けど声もそっくりやで?」
彼女達を見てひそひそ噂するおじさん達。ただし地声が大きいので丸聞こえ。玄さんは二人を紹介する。
「紹介しときまっさ。都路帆乃香さんと、ベスちゃんや」
「ひょえーっ!」
舞台役者とはどんな奇天烈集団かと警戒していた彼らは、テレビでよく見かける人気女優の二人を見て驚愕&安堵した模様。
「へぇ、こんなべっぴんさんも舞台出てはるのん」
「せやから舞台見んと損するで。去年なんかあんた、都路さんが舞台で太もも全開の衣装着て‥‥あだだっ」
「何か仰いました?」
調子こいた玄さんの耳をひねりつつ微笑する帆乃香さん。
「ビールも役者さんの演技も、『生』がサイコーですよ♪」
とキッチンからビールを運ぶ細身の美少年?
「兄ちゃんも役者さんか?」「アホッ、女の子やがな。喉仏あれへん」
「はいっ。舞台役者の虹(fa5556)っていいます。性別女性です♪ 男装で都路さんの恋人役させてもらったこともあるんですよー♪」
関西弁の応酬に笑い転げながら虹さんはビールを注ぎ、それを受けるおやぢ達は美少年とも少女ともつかない彼女がなんだか眩しそう。
「男装の麗人かぁ‥‥。舞台って、“こすぷれ”みたいなんやな」
『こすぷれ』という単語に反応し、割烹着姿で茹でた渡り蟹の大皿を運んできた天爪竜斗さんが名刺を配りだす。「大阪店オープンの際にはよろしくお願いします」と営業モード。
「ほほう、「コスメイト」の営業主任さん」
どんな衣装がありますのん、と興味を示したおっさん達に彼が説明しているところへ、これも眼鏡をかけた円井晋監督が飄々と現れた。ベスさんが嬉しそうに声をかけた。
「あ、円井監督! MNGNの脚本お疲れ様でした!」
「いや、ありがとう。これはお土産だよ。激辛カレーのお裾分けと未成年の皆さん向けに、ビール風炭酸飲料」
折角ですが、危険カレーはお持ち帰り下さい。
続いて泉本れいらが買出しから帰宅。
「トロサーモン買うてきたでー。ついでにこんなん拾ってきたー」
と腕を引っ張られるのは姫野蜜柑(fa3982)さん。大阪取材の仕事帰りにれいらに拉致されたそうな。円井監督がにっこり。
「やあ、東北演劇祭の、受付の美女さんだね」
「そーですそーです! 受付の「「「美女」」」!」
監督の右手を掴みがくんがくんと揺さぶり握手する蜜柑さん。
「美女はええけど、なんで全身から漢方風邪薬みたいな匂いするん?」
「‥‥それは話せば長くなる」
蜜柑さんは遠い目をした。
「ほい、ポン酢。こっちギョーザのタレね」
ガンガンと調味料を並べる、瑛椰 翼(fa5442)君。赤く染めてツンツン立てた髪に見事に不似合いなフリルエプロン姿。
「テルくーん、次は冷酒出しといてや」
と泉本さくら叔母にこき使われている。言い忘れたが、奥のテーブルには商店街のおかみさん連中が集まってガヤガヤしてる。テル君はそっちの接待組。「セーバーZ」脚本家の大端さんも何かの手違いでそっちに捕まっているが、どうしたものか。
また美女が現れたので場内騒然。何の連絡ミスか、フォーマルドレスで登場した雪城かおる(fa4940)さんはさくら叔母が貸した浴衣に着替えてもらい再登場。
「ウチのお古で悪いけどな、今日は商店街の皆さんに馴染む方針で宴会やさかい、あまり浮いたらあかんよって」
「ごきげんよう、皆様。ロマネ・コンティはいかが?」
「い、いや、お気遣いなく」
美貌で注目を集めるも、かおるさんは上流階級のマナーを駆使して浮きまくる。
一方、意外と馴染みまくっているのがベスさんだ。
「一番ベス、大阪パンサーズの応援歌歌いまーす♪」
「おぉ、ベスちゃんのナマ歌やぁ!!」「ビデオビデオ!」
ちょっぴり照れながらベスさんは3番まで歌い切り、おっさん達は大はしゃぎ。
「おおきに! ささっ、ビール飲み」
「ぴ!? まだ未成年ですから‥‥じゃあ手品でこのウーロン茶をビールに変えてみせまーす」
とお茶のボトルを掲げたベスさんは、しゃかしゃかとボトルを振りたくり。
「はい、見事に泡立ったビールになりましたー♪」
「‥‥‥‥」
どうした皆、トップアイドルの宴会芸だぞ! 拍手拍手!
「こちらの日本酒もどうぞ」
浦上藤乃(fa5732)さんが出身地の地酒を持ってきてくれ、タッパに詰めて持参したおかずも披露する。
「治部煮なんて久しぶりやわ」
おっちゃん達が次々箸を伸ばすので、瞬く間になくなる。
「おい坊主、子供はビール飲んだらあかんぞ」
とおっさん達に咎められ、むくれているのは月岡優斗(fa0984)君だ。
「これは『ビール風炭酸飲料』なのっ! 俺はボーズじゃなくて月岡優斗」
「そうやで、しかもれいらとは一夜を共にした仲やねんから!」
ってれいら、誤解されるような物言いはやめぃ。優斗君は炭酸にむせ、都路さんが苦笑しベスさんが赤面し玄さんは優斗君に疑惑の目を向け、虹さんはビールをこぼし、天爪さんと葉月さんは氷の彫刻と化し、円井監督は話題を変えようと気を使い、その隙に蜜柑さんが監督の前にあったトロサーモンを大量奪取。ビールに地酒、凍結酒を片っ端から味見していた落霞紅監督がナチュラルに、
「このブランデーも開けていいか?」
と声を上げたので、ようやく呪縛が解けた。見事に統一感のないメニューだな、と言いつつ、
「はも鍋って初めてだけど、うまっ!」
と優斗君はほおばるが、その耳をれいらがびーんと引っ張る。
「いててっ!?」
「なんでれいらの作った料理一番に食べへんの!?」
葉月さんに嫉妬するれいらは絶対間違っている。
「んっ? サーモン急に減った?」
監督が気づいた。リスのような膨張ほっぺの蜜柑さんは白を切るが、ベスさんも虹さんも、お刺身が食べたいのかじっと見ている。
「なんだ、欲しいなら言ってくれればよかったのに」
サンタさんのような笑顔で刺身を配ってあげてる監督だが、彼女達が喜んで刺身食べてる隙に、彼女達の分の蟹やケーキをかっさらっている。
● 体験談でGO!
宴が進み座が和むにつれ、やはり話題は商店街に小劇場を作るのかということに移る。
「あえて舞台にこだわる必要性がわかりまへんな。ここにいてる中にも、テレビや映画でよう見かける人も多いですやん」
と、ベスさんに出演作の学園ドラマのことを何やかや話しかけていた、テレビ大好きらしいおっさんが発言。虹さんが、そりゃー舞台は生きモノだから、と目をきらきらさせる。
「その時の雰囲気や気持ちで芝居も変わるし、お客さん次第で空気も変わる。同じ演目でもやる度に何かしら変化があって‥‥演劇は生きモノだなーと。毎回違うからお客さんも含めて皆で創ってるんだ! と思えるのも嬉しくて、もう楽しくて楽しくて!」
「観客によって舞台の筋が変わったりとかしまんのん?」
「ラブシーンの密着度合いを変えたりとか☆ ねっ、都路さん」
と古代史の舞台で競演した二人はニコニコし合う。若い客層が多い時、別れの前に見詰め合うだけのラブシーンをキス(もちろんフェイク)に変え、大反響だったとか。
僕たちの演じる大衆演劇でも、飛んでくるおひねりを百姓一揆で投げられる石つぶてに見立てて演技を続けたことがある、と僕はさりげに援護射撃。ドラマ出演の多いベスさんも、舞台出演時の熱気は忘れがたいと言う。
「そうそう、ドラマや映画と違ってお客さんの反応がすぐわかるのが面白いトコロだよね。 初日は受けが良くなくても『どこが悪かったんだろう?』、『こうしたらどうかな?』とか考えて翌日の演技に活かしてみたりとか」
「若い俳優さんを成長させるのにもってこい、ちゅうわけか」
「苦労」と「成長」は、なにわのおっさんのハートをくすぐるキーワードだ。ここぞと僕はスクラップブックを取り出し、先日の東北演劇祭を特集した記事を広げてみせる。
「東北演劇祭でも若手がずいぶん頑張ってましたよね、監督」
東北演劇祭? ああ、なんか情報誌でも見たよーな。と、作業服姿のおっさんが食いついた。しゃきーん、と蜜柑さんが立ち上がる。
「はいはい、ちゅーもーく。数々の舞台を生み出したその演劇祭で、この姫野蜜柑は‥‥(溜め)‥‥しまったあ! 僕、ビラ配りしかやってなかったあ!」
ビラ配りっすか。と脱力するおっさん達だが、警備員のおっちゃんに呼び止められて汗だくになって宣伝活動をしたというエピソードには、共感を覚えたようだ。商店街のセールでも、よくビラ配りはやる。手渡すタイミングが難しくてねー。 と蜜柑さんとおっさん達が盛り上がる。
「俺も芸能活動の最初は舞台関係なんだよな。作り上げてく感覚って舞台ならではだと思うぜ」と優斗君。
「まだ主人とも相談中なんですけど、子供達が舞台を観たり芝居を勉強するのは情操教育にも良いそうですし‥‥」
余裕が出来たら児童劇団でも作って、演劇を教えてみたい、というのは都路さん。そういえば彼女のご主人も、舞台で共演して出会った俳優さんだったな。
難しくないの? と心配する皆さんだが、
「基本は「真似」から始まるんですよ。皆さんだって子供の頃テレビの中のヒーローとかに憧れてその真似をした事がありますよね? わたし達舞台人というのはそんな子供の頃の感覚を捨てきれなかった人間の集まりですから。かく言うわたしもその一人ですけど」
藤乃さんがくすくす笑う。
だいぶおっさん達も、興味を惹かれているようだ。玄さんが商店街の皆さんに持ちかけた。
「どないだす、あの空き倉庫、舞台に改装してよろしか」
「ただし、裏の鉄工所が、資材置き場に使いたいっちゅう話もあるんでなあ‥‥。一度、期間限定ちゅうことでためしにやってみたらどうや」
と、商店街一こわもての肉屋のおっさん。期間限定というのは痛いが、ともかくも一応突破口は開けたという感じの結果に終わった。
結論は出たが、当然宴会はまだ終わらない。
「落監督、『英雄戦記』お疲れさまでしたー。演技、楽しかったです」
「俺も! 今度は格闘ゲーのCMやりてーな。俺、強いっすよ格闘‥‥じゃなくて格闘ゲーム」
落監督は蜜柑さんとテル君のお酌を受けて、
「おお、この間はお疲れ。二人ともNGなし、一発OKだったな。おかげでいいのが撮れたよ」
と撮影話に花を咲かせていた。
そして宴会場の一角で葉月様のお料理教室が。
「煮物の味が濃すぎた時は水じゃなく酢で調整する」とか、台所秘儀を新婚の都路さんが真剣にメモっていたり。いいなあ、皆。葉月さんも彼女いるし、その兄の睦月さんは婚約中、一番若い優斗君もれいらに引っ張られて玄さんに挨拶に行っている。
「なんかアウェイに乗り込んでく代表選手の気分だぜ‥‥よ、よよよろしくお願いします!」
「おとーちゃん、こう見えてゆーとってば粉モンおかずにしてご飯食べれるねんで!」
ってそれが優斗君のアピールポイントかい。それで「ほぅ!」と見直す玄さんももっとどうかと思うが。
あのー、とお料理教室を終えた都路さんに聞かれた。
「『セーバーZ』に出演してましたので、大端さんにご挨拶したいんですけど‥‥なんだか入りにくい雰囲気で」
見れば、商店街のおかみさん連中に囲まれて聞き役状態の大端さんの姿が。
ちょうどよく、天爪さんが台フキンを片手に通りかかったので、おかみさん連中の方へぐいと背中を押してみる。
「わっ?」
「新手のイケメン来たでー!!」
新たないけにえと引き換えに戻ってきた大端さんはテレながらも特撮と舞台の話を熱く語っている。
電話が鳴った。
「もしもし、あ、志茂月女史!?」
僕の声に、皆が一斉に振り向いた。電話を切って、伝言を伝える。
「遅くなるけど、顔出しに来てくれはるって! あと、都路さんは「冥土」またハロウィン頃に予定してるからよかったらよろしくって! 優斗君はいつも活躍してくれてありがとうって」
わあっと嬉しそうな声が上がる。
酔い覚ましに風に当たりたくなって、縁側に出たら、虹さんがそばに来た。
「よかったですよね、期間限定でも舞台、使えることになって」
「皆さんのおかげですよ。今日はいい話をありがとうございました」
うぅん、と虹さんは首を横に振る。
「玄さん達の一座‥‥復活したら、絶対見に行きたいから」
「いっそ、虹さんも出演するっていうのはどうですか」
思い切って言ってみた。断られると思ったが、虹さんはぱあっと顔を輝かせた。
「いいんですかー? ぜひ!!」
まだ吹く風は秋よりも夏めいている。
その風を受けながら、これから創る小さな舞台の熱気はどんなだろうと、僕は想像していた。