COLORS〜美酒アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/11〜09/13
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●本文
もうすぐ、あの人が来る。
あの人が収録を行っているスタジオの前で、俺は緊張を隠せずにいた。
行過ぎるスタッフたちがじろじろと俺の姿を見て行くが、今の俺には気にならなかった。
あの人を被写体に、写真を撮りたい。
プロダクション街であの人を見かけて以来、そう願ってきたのだから。
その交渉をするため、収録中のスタジオの前に陣取り、あの人が仕事を終えて出てくるのを待ち伏せるなど、まるでストーカーだと我ながら思うが。
「おつかれさまでしたー」
収録終了を告げる声が響き、ぞろぞろとスタジオからスタッフやタレントたちがあふれ出てくる。
そこに混じるあの人の姿を見かけるとすぐに、俺は急いで駆け寄る。
「すみません、ちょっとお時間よろしいですか」
強引なファンと間違われないように、俺は名刺を差し出す。バクバクと心臓が踊っている。
「カメラマン、片瀬潮(かたせ・うしお)‥‥さん?」
「はい」
同時にサングラスをはずした俺の右頬に残る、大きな醜い傷跡にあの人は少し驚いたようだった。NWにつけられた、この傷跡を見つめるその視線に、俺は臆するまいと務めた。自身が醜いからこそ、俺はよりいっそうこの世にあるすべての美に敏感になった。
少なくとも俺はそう信じている。
「今回、酒造会社の宣伝企画で、カクテルのレシピブックの写真を撮る仕事が回ってきましてね。その写真モデルをお願いしたいのです。
レシピブックといっても、販促用のパンフレットに近いもので、各レシピのトップにのせる、カクテルのグラスを手にしたモデルの写真が欲しいのです。
できればカクテルについての感想やエピソードが一言写真に添えられれば、尚良いそうです。
カクテルというのは色が美しいでしょう、貴方の髪と目の色ならば相乗効果でよりいっそう素晴らしい絵になると思い、声をかけさせていただきました。
俺はまだ去年独立したばかりの駆け出しですが、新人写真家の登竜門である●●賞を受賞したことがあります。
あ、作品サンプルをこちらのファイルに入れてあります。どうぞご覧下さい」
俺が一息に言うと、あの人はあの特徴のある瞳で俺をじっと見つめた。
心の奥底までも見透かされてしまいそうで俺は思わず唾を飲み込んだ。
――強引過ぎただろうか‥‥?
だが、あの人はファイルを受け取り、丁寧に目を通すと、傍らのマネージャーを省みた。
小声で、スケジュールの確認をしているらしい。
振り向いたあの人が、OKの返事をくれたときは、緊張と嬉しさのあまり、どう返事をしたのか覚えていない。
気が付いたときは、カクテルは自由に選べるのか? スタイリングとメイクの用意は? といった質問をするあの人に、夢中で応えていた。
「そうですね、カクテルは色を重視して、相談の上で選びましょう。
貴方がカクテルグラスを手にしているところを、写真に撮りますので、貴方の瞳と髪の色に映えるものを、ですね。
服装も、カクテルの色に合わせるか、または目立たせる方向でお願いします。
ヘアメイクはプロのスタッフを用意していますからご心配ありません。
場所ですか?
企画元の酒造会社が、海岸近くのKホテルを押えてくれてます。
最上階には夜景を見下ろせるバーがあります。
戸外なら、噴水のある庭園もありますし、ロビーに続く階段も、屋上も客室もOKです。
ええ、どこでもお好みの場所をその中から選んでください」
俺は勇んでスタジオに帰り、愛機の一眼レフカメラを抱えて、レンズを磨きこんだ。
そして、このカメラに焼き付けられるであろう、あの瞳の色をうっとりと思い浮かべた。
☆補足事項
カメラマン・片瀬潮からモデル依頼を受けたという形でお仕事開始してください。
カクテルの美しい色と貴方の瞳・髪、服の色のコーディネートしてカクテルグラスを片手に、指定されたホテルの庭園や屋内からお好きな背景を選び、お好きなポーズを決めてください。(カクテルはプロのバーテンダーが撮影直前にシェイクしてくれるらしいです)。
あと、写真に添える一言‥‥お酒に関するエピソードとか思い入れとかあると尚良しです。
※パンフレットはA5判サイズ程度なので、あまり長い文章は載せられません。
カクテルの選択はご自由に。参考までに色の綺麗なもの(独断)をざっとピックアップしてみました。
●ブラック・ルシアン‥‥黒(褐)色。ウオッカ+コーヒーリキュール
●アドニス‥‥琥珀色。シェリー+ベルモット+オレンジビターズ
●ブルームーン‥‥淡紫。ドライジン+クレーム・ド・ヴァイオレット+レモンジュース
●清流‥‥青。日本酒+ブルー・キュラソー+レモンジュース+ライムジュース
●バカラ‥‥水色。ウォッカ+テキーラ+ブルー&ホワイト・キュラソー+レモン・ジュース
●アフター・ミッドナイト‥‥翠色。ウォッカ+ホワイト・カカオ・リキュール+グリーン・ペパーミント・リキュール
●ブラディ・メアリー‥‥赤。トマトジュース+ウォッカ
●リプレイ本文
●月夜
最初の撮影は、月の明るい夜に行われた。
「よかった、スノーマシン、レンタル出来たンダ?」
庭園で、雪の季節に見立てての撮影を希望していた椿(fa2495)は嬉しそう。
「これならフィルター無しでリアルな雪景色が出来ますね」
続いて撮影準備です、と手渡されたのは大量のタイヤキ。
「なんでタイヤキ?」
「椿さんは満腹状態の時にいい表情が出るからです」
「‥‥この背景に合わないんだケド」
「って、全部食ってるじゃないですか」
手にするカクテルはウォッカベースの「雪椿」。フランボワーズとカシスの暗紅色に、生クリームの白が鮮やかな対比である。その色の対比は、椿自身のファッションにも反映されており、ゴシック調の黒スーツと白いシャツにダークワイン色のアスコットタイ。紅い地毛と同色の付け毛を長く垂らしている。その姿で英国製の白いガーデンチェアに掛ける。同色のテーブルの上に、片瀬が古風なランタンを灯して置いた。
「黄色い光で、髪の色が炎みたいな色に映えてカクテルといい対照になります。じゃ、雪降らせます」
カメリアの造花をつけて椿の樹に見せた立ち木を見上げ、はらはらと降りかかる雪をグラスに受け止めながら「乾杯」というようにグラスを差し出す椿。口元に悪戯っぽい微笑を浮かべている。幾度かアングルを変え、
「うん、いいですね。ーーOK!」
まるで貴族の遊びのような優雅な写真のキャプションは、
「飲むのが勿体無い綺麗なカクテルだなと眺めてタラ、冷たいうちに美味しく飲んでネと言われマシタ‥‥でも綺麗だから、見ていたいヨネ?」
次に噴水の前へ移動し、芳稀(fa5810) の撮影に入る。白いレース使いのドレスにシルクのストールをなびかせた彼女に、片瀬は「寒くないですか?」と聞いた。
「いいえ。噴水のしぶきが冷たくて気持ちいいくらい」
カクテルは彼女の瞳と同じすみれ色の酒を満たしたタンブラーグラスに栗の寒露煮を月に見立て飾ったセプテンバー・ムーン。
「よかった。‥‥じゃ、片足だけ靴を脱いで噴水の中に入っちゃってください」
芳稀は挑戦するような微笑を浮かべた。
「面白いかもしれませんね」
噴水の中に踏み込み、グラスを差し出しながら振り返った瞬間に、シャッターが切られた。
出来上がった写真は、まるで溢れる光の噴水から、月の光だけを受け止めてグラスに満たした瞬間を縫いとめたような絵に。
「貴方は無茶をするのが似合う女性のような気がします」
片瀬の言葉に芳稀は肩をすくめて答えなかった。キャプションは、
「鮮やかな紫の「九月の月」。これを出されたら、完敗と思ってくださいな」となった。
続いて、月が高く上ったのを見計らい、客室での笙(fa4559)の撮影に。
カクテルはブルー・デビル。水色よりも地中海の海色に近い深い碧。それを見下ろすのがさらに深い蒼の笙の右の瞳という構図。
人工的な光では絵にならないと言う彼の意見を受け、片瀬がホテルオーナーに借りてきた銀の燭台がテーブルに置かれている。
「それ、アンティークの一点ものですから指紋とかつけないで下さいね」
「確かに年代ものだな。まさか黒魔術の儀式で使われてたとか?」
ダークグレーのスーツにピンストライプのシャツ、タイは緩めてやや襟をはだけた笙は、ヘアメイクの女性に髪を束ねられながら言った。
「髪、きつくありませんか?」
「大丈夫だ、ありがとう」
メイクさんに聞かれて笙が笑顔で応える。床に片膝をついてカメラを構えた片瀬は、
「そっちの出窓に座って下さい。ちょうど月が肩の上に出ます。うん、いいですね。もう少しあご引いて、目線こっち下さい。ちょっと沢木さん、こっちに立って」
なぜかメイクの女性をカメラの背後に立たせ。
「じゃ、さっきの「ありがとう」の瞬間の笑顔、出力120%アップでカクテル差し出して下さい。沢木さんを誘惑するつもりで」
「はっ? ‥‥こ、こうか?」
「キャーッ♪ 酔っちゃう〜」
「まだまだ! 沢木さんが失神する位の目力で!」
「キャーッ♪ なんなら主人と別れて来ますー!」
「出来るかーーっ! ってしかも人妻かい!」
開き直って、悪魔になりきった? 地獄までも妖しく誘うような微笑を浮かべたところでOK。キャプションは、「蒼い悪魔に誘われてみるのも一興では? ‥‥なんて。
綺麗な蒼には魔性の牙が潜むから御用心」となった。
● 太陽の下
プールサイドに立つアイリーン(fa1814)は、淡い珊瑚色のサマードレスを着て、甘いピンク色のカクテル「サマーデライト」で満たされたゴブレットを手にしている。アクセサリーとメイクは最小限に、ルビーの輝く指輪と、ピュアレッドの口紅がポイント。カクテルの色を引き立たせるようにとの彼女の工夫だった。
「写真モデルの仕事は久しぶりだから、ポージングをどうしようか迷っちゃって‥‥私なりに、いくつかポーズを考えてきてはみたんですけど」
一度、自由に好きなポーズを取ってみてください、と指示を受けて、アイリーンは少し考えて、プールサイドを歩きながらプールに片足を浸してみたり、デッキチェアにもたれてグラスを掲げたり。
光を反射させるレフ板を斜め後ろに配置しているので、金色の髪がそれ自体光を放つように光に縁取られている。髪の乱れを整えるため待機している女性スタイリストが片瀬に囁いた。
「すごい子ね。表情は自然だし、自由にポーズを決めているようでいて、カクテルの色を前面に出す配慮を忘れてないわ。カメラマンとしては、いっそのこと、専属モデルにしたいんじゃなくて?」
「無名の俺じゃ格が違いすぎますよ」
片瀬はアイリーンの動きに合わせてシャッターを切りながら苦笑した。ひとしきり撮影したが、アイリーンとしてはまだ表現し切れていないと思うのか、片瀬に相談した。
「他にはどんな動きがいいかしら? モデルとしては片瀬さんのイメージに期待しています♪ よかったら指示出してくださいね」
「そうですね‥‥今のアイリーンさんのコーディネートを見て人魚姫を連想したので、そのイメージを取り入れたい気もしますが‥‥」
結局、カメラマンもモデルも構図を決めかねて、二人の案を合体させてみようということに。アイリーンの出した案、「頬にグラスを押し当てて微笑む図」に、
「ボートをプールに浮かべて、その上で、っていうのはどうですか」と片瀬が案を加えた。
小さなボートをプールに浮かべ、その真ん中に座ったアイリーンが、カクテルを頬に押し当てて冷たさに目を細めて微笑む。涼しげで、夏の喜びが画面いっぱいに溢れるような写真となった。
「OKです! まさに人魚姫だな」
プールサイドに腹這いになり、水面に半身を乗り出して濡れながらシャッターを切った片瀬が会心の笑みを浮かべた。
キャプションは、「サマー・デライトの最後のレシピに‥‥夏の思い出を」となった。
● 夕暮れ時
「夕暮れの一番美しい時間は短いですから、少し急ぎ足の撮影になりますが」
と、片瀬はティタネス(fa3251)を撮影場所の客室に案内した。隣室で着替えとメークをしてもらい、間もなく南国風のインテリアで統一された室内へとティタネスが踏み込む。手にした乳白色のカクテル「ピニャ・コラーダ」がチェリーを飾っているのとお揃いのように、ルーズなアップスタイルにした髪には紅いハイビスカスを挿している。服は白いワンピースに貝を連ねたネックレス。夕日がオレンジ色に差し込むバルコニーを背に、フルーツを飾ったテーブルにつくと、褐色の肌に夕日が照り映える。
「いい部屋だね。仕事なのに、贅沢した気分になっちゃうな。‥‥ってか、あたしが写真モデルするなんてこと自体予想外だよ」
テーブルの反対側に跪く形でカメラを構えた片瀬が言った。
「リラックスして笑顔、ですよ。例えば‥‥そうだな、南国のプリンセスになった気分で」
「プリンセスて」
あたしが? と、笑った瞬間にシャッター音。
「今のいいですよ、OK!」
「やだ、大口あけて笑っちゃったよ」
「いいんですよ。南国の姫君は天真爛漫なんです」
片瀬が断言した通り、奔放な南国娘が明日は何の遊びをしようかと目を輝かせている雰囲気の写真に仕上がった。キャプションは、「たまには気取らず、明るく、楽しくね」となった。
● バー・夜
「うーん‥‥ちょっと違うな。目線横に流さずに、もう一度お願いします」
ガラス張りのバーで、煌くネオンの夜景を背に立つ橘川 円(fa4980)は、片瀬の指示にため息をついた。桔梗色のホールターネックのドレスに首筋には大粒の真珠のネックレス。黒レースの手袋に光沢のあるドレス、ゆるやかな夜会巻きにした髪と真珠を連ねたロングピアスが彼女を貴婦人のように見せている。
ワインを差し出し誘惑する男性モデルから顔をつんと背けて、淡紫色のカクテル「ブルー・ムーン」を「貴方と恋に落ちるなんて青い月と同じで、出来ない相談ね」と言いたげに顔の高さにかざす。それが円に要求されるモデルとしての演技だった。普段の表情がそうキツくない円には、意外と難しい。
「歌いながらなら、歌詞の内容で自然と表情が動くんだけど‥‥」
クールに見えるようにリキッドのアイラインをくっきり入れた円だが、どうにも「つん」より「困ったわ」な表情になってしまい、なかなかOKが出ない。NGの度に「ごめんなさいね」と男性モデルに謝るが、「気を使うと余計キツイ表情が出ませんよ」と笑われる。
「何か腹の立つことを思い出して下さい。カメラ‥‥というか俺を思いっきり睨んでいいですよ」
「腹の立つこと‥‥?」
呟いて円が何か思い出したのか、表情が変わった。
「OK。お見事!」
「最近会えない恋人のことを考えてたの。こんなに困らせてどうするつもりかしらって」
円の明かした理由に、写真家は苦笑を浮かべた。
「多分、男にはプライドを養う時間が必要なんですよ。いざと言う時に頼られる存在でありたいですからね。ゆっくり待ってあげたらどうですか」
「ありがと、励ましてくれて」
円はほっとした表情で淡紫のカクテルに唇をつけた。
同じバーのカウンターで、トレンチコート姿の烈飛龍(fa0225)がバーテンダーから「シャンパン・カクテル」を受け取っていた。角砂糖ではなく黒糖を入れてもらいたいという彼の希望を受けて、濃厚な香りの黒い塊が泡の中に浮き沈みしている。
襟を後ろの方だけ立てベルトを捻った古風な着こなしは烈なりの、名画へのオマージュらしい。
「いい絵になりそうですよ」カメラマンの満足げな声に、
「モデル業なんて、俺には不釣合いだと思ったんだが‥‥せっかく声をかけてもらったのだから、お前さんのキャリアの汚点にならんように、精一杯やらせてもらおうと思ってな」
烈は照れた表情で応えた。
片瀬がカウンターの中に入って正面からシャッターを切る形になる。露出を抑えて影を強調したショットとなった。
キャプションは、
「俺も惚れた女の前でいずれは囁いてみたいと思っているぜ。『君の瞳に乾杯』‥‥と」
「体を動かさない仕事は肩が凝るものだな」
撮影を終えた烈はほっと表情を緩めて肩をぐるりと回した。
● ラウンジ・夜
小鳥遊真白(fa1170)は、ラウンジで「ビジュー」のグラスを手にしていた。片瀬が勧めたスカイ・ダイビングも彼女としては捨て難かったのだが、「小鳥遊さんの直感を信じましょう。最初に小鳥遊さんが選んだ『ビジュー』で撮った方が、いい表情になるのではないですか」とカメラマンが言うので、このカクテルとなった。いつものシンプルな服装に似ず、生地は黒ながら、様々な色糸を使った刺繍のあるチャイナドレスを着ているのは金色とグリーンとチェリーの赤が複雑に絡み合うカクテルに合わせたものだ。
「何かあれば駄目出しをどんどんやってくれ。全力で応えよう」
何か非常に勢い込んでいる真白。
「頑張ったらその分、後で飲むお酒がおいしいなんて考えていませんか?」
「‥‥実は少し、考えている」
打ち上げで飲む酒の味を想像してか、真白が浮かべた微笑にカメラマンがシャッターを切った。
「お疲れー」
撮影順が最後となった真白を迎え、ホテルのバーでくつろぐ今日のモデル達がグラスを掲げる。
「これ、アルコール分入ってる?」
「入ってるけど弱いよ。一口飲んでみな」
ティタネスの差し出すピニャ・コラーダを恐る恐る飲んでみる、お酒の飲める年齢になったばかりのアイリーン。
「本当言うと、ワイン党なのよね、私」
「雫酒もいいですよ。酒に弱い人でも悪酔いしません」
酒&ワイン談義に花が咲く円や片瀬達。
撮影された写真を使ったレシピブックは、酒造会社の売り上げにかなり貢献したという。