秋色グラフィティアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 0.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/25〜09/27

●本文

 季節はおりしも「実りの秋」。
「ハーブランド」は関西の某地に設立されたばかりの、大型農業公園である。
 季節ごとに野菜収穫やぶどう狩りなどの味覚狩りイベント、ポニー乗馬、もちろんハーブランドにはその名の通り数十種のハーブ畑があり、その花を観賞してピクニックするだけでも楽しめる。
 勾配のゆるやかな山ひとつ分をまるごと開発した広大な敷地の中には、浅いが川も流れており、小さな池に流れ込んでいる。その池では、ちょっとしたボート遊びが出来る。
 乗馬場の近くには羊などの動物と触れ合えるコーナーがあり、子供達に特に喜ばれている。
 そしてその動物達の恵みによって作られた、新鮮なミルクやチーズを使った飲み物や食べ物を提供する自然食レストランも。
 この「ハーブランド」一般公開にさきがけて、芸能人数名が招待された。
 もちろん話題づくりだが、マスコミ陣などは同行せず、あくまで自然な形で楽しんでもらいたいとのこと。もちろん芸能人同士でプライベートフォトやビデオなどを撮り合うのは自由である。
 さあ、どこから回ろうか?

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa5331 倉瀬 凛(14歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●ハーブの園も何のその
 ハーブランドの入園門へ、一台の高級車が滑り込む。
「ひゃっほー♪ いい天気だね」
 はしゃいだ声と共に降り立ったのはMAKOTO(fa0295)。作業服姿の職員達が出迎える。
「ようこそいらっしゃいませ。すごい車ですねぇ」
 若い男性職員が感嘆の声をあげた。
「いや、こういう所に来るのに乗るような車じゃないけどさ。買ったばかりだから乗り廻したいし」
 マコトは無造作に言って、樫の巨木の下の駐車場に車を置いた。
「招待ありがとー♪ 地図下さい」
 受付職員に手を差し出す。受付のオバちゃんは、ふんっ、金持ちはいいわね! と言いたげな態度でマコトの乗りつけたリムジンを見やって無愛想に地図を差し出す。高級車をこんな田舎に乗り回すなんて、芸能人オーラ出まくりじゃない!? 信じらんない! と職員たちの目を見張らせた彼女だが、ウサギやリャマといった草食動物やリスなどの小動物を簡易檻に入れて展示している「動物ふれあい広場」へと一直線に向かう様子はあくまで無邪気である。
 ほぼ同時刻に到着した他の芸能人達もそれぞれ受け付けで地図をもらってお目当ての場所へ。
「今日はお招き下さってありがとうございます」
 きっちりと斜め45度のお辞儀で職員と受付に挨拶するのは姫乃 舞(fa0634)。
 次にモヒカン頭の巨漢・芸名もその髪型の通りのモヒカン(fa2944)が登場すると巨体と眼光の威圧感に、職員達は一斉に後ずさって道を開ける。
 だが職員達は知らない。彼が実はきちんと遠足の法則に則り、「おやつは500円まで」を守って持参していることを。
(「計画を立てて実行し、そして帰ってくるまでが遠足だ!」)
 自らその鑑になるために。
 知り合いのカメラマンの写真撮影に同行するつもりの笙(fa4559)は、麦藁帽子にタオル首巻き、長袖シャツに長靴の中にズボンの裾をつっこんだ農業青年スタイルで入場。「招待客なら芸能関係者のはずだけど、今のは誰だっけ」とひとしきり主に女性職員を中心に話題になるが、日ごろの姿とギャップありすぎなのか、ズバリ謎の農業青年の正体を当てた人はいなかった。
 お笑い番組で有名なヒメことDarkUnicorn(fa3622)が入場するが、受付をスルーしていこうとするので、
「お嬢さん、地図いりまへんのん?」
 関西訛りで受付おばちゃんが声をかけるが、どこかぼんやりしたヒメの返答は、
「‥‥もうかりまっか?」
 であった。なんだか魂が抜けているらしい。結局地図を持たずに彷徨する彼女がどこへ向かうのか誰も知らない。
 少年ロッカー・倉瀬 凛(fa5331)は地図を見つつ川の或る方角へ。
 入場門から一番近いハーブ園。そこには招待客たちが思い思いの時間をすごしていた。
 長い黒髪を、緑の上を渡ってくる風に遊ばせつつ遠くの山の向こうまで見渡せる景色に見とれているのは楊・玲花(fa0642)。風に揺すられるたびにスペアミントが爽やかな風を送ってくる。
「‥‥ふう。草の匂い。随分と忘れていた気がするわ。たまにはこうして誰憚ることなく自然に帰るのも悪くないな」
 深呼吸ひとつ、まるで少女に戻ったような表情だ。
 その向こうでは、舞がハーブ園の雑草取りをしている職員に話しかけている。
「ハーブだけでもこんなに種類があるのですね」
「ええ、アップルミントやパイナップルミント、スペアミント、ミントがお好きでしたら摘んでもらっていいですよ。後でレストランにもって行けば、お茶にしてもらえます」
「うわあ、摘みたてハーブのお茶‥‥素敵です!」
 そしてハーブ園の真ん中通路に陣取っているのは、風景をカメラに収めようとしている写真家の片瀬潮とそれを見ている笙。
「へえ、人物写真だけじゃなく花や風景も撮るんだ?」
「はい。今日は仕事じゃなく、撮影技術向上のための自主トレみたいなものですが」
 二人の目線の先に花畑を駆けチョウチョを追いかけるモヒカン氏がいるのだが、二人とも暗黙の了解によってあえて触れないことにする。
「ファインダーを通すと、世界って違って見えるのかな」
 笙が呟く。自らもデジカメを持ってくれば良かったなと思いながら。ファインダーを覗かせてもらった笙が無邪気に驚く。
「凄い。コスモスの花粉まで見える」
「マクロレンズの効果ですよ」
 二人の男がカメラに夢中になっている姿を見て、
「男の人って新しいものが好きだね」
 風の渡る麦畑のあぜ道にイーゼルを立てて、スケッチしている四條 キリエ(fa3797)がくすりと笑う。
「四條さんも一枚撮りましょうか」
「いい。私ははもっぱらアナログ派というか、スケッチが好きなんだよね」
 写真家の申し出に、キリエは笑って手を振った。広げたスケッチブックには、緑の野原にコスモスの波やきらめく小川がアクセントを添える、優しい色彩の絵が描かれかけていた。

 小川をへだてた向こうの丘に、動物ふれあい広場があり、マコトと凛がポニー乗馬に挑戦中。大柄なマコトはポニーに乗りにくく、職員がサラブレッドを引き出して来る。
凛も意外に身長があったのでサラブレッドに。
「動物っていいよね。裏がないし‥‥」
 ぽつり呟く凛。だが、そんな凛も、クローバーの花束を馬にあげて、人懐こく鼻を摺り寄せて食べ始める様子に随分癒されていたようだ。
「あ、羊。触ってもいい?」
 凛はいち早く、乗馬コーナーの横の野原で放し飼いになっている羊を見つけ、職員の許可を得てそっと触ってみる。
「頭突きしてきたりするんだよね? 背中は見せないようにしよう」
 恐る恐る触ってみた羊の毛は意外に固く、脂分がかなりあるのか、ふわりとした感触はなかった。でも、何かくれるの? と言いたげに頭を擦り付けてくる羊が可愛くて、凛は知らぬ間に微笑していた。 

 乗馬組はふれあいの、ハーブ畑組は散策のひとときを経て‥‥
 日が高く上り、日差しが強くなると、招待客たちは三々五々、小川の川岸へ涼みに行くために歩き始める。
「ところで良かったんですか、せっかくの休日に俺相手に男同士のデートで」
 片瀬に聞かれて、
「この格好に『デート』って違和感ありすぎるから、その表現はやめないか?」
 と、タオル巻き麦藁帽子の笙。片瀬も似たよりったりの農業青年ファッションだ。
 パシャリ。そんな二人の後姿を、丘の上の小道を見下ろす梨の大木の枝の上からマコトが自らのデジカメで撮影する。
『あのイケメンアーティストの意外な休日』というタイトルで、後でレストランでの話しの種にするつもりだ。
 もっとも、見た人間からはどっちがどっちかわからんというツッコミが殺到するのだが。
 その姿を見送りながら、玲花は一人うーんと伸びをした。彼女のいる木陰はまだ涼しい。
 髪をゆるく三つ編みにして乱れないようにすると、思い切って芝生の上に横になってみる。草の香が気持ちよかった。
「‥‥ふふ‥‥」
 ついまどろみに誘われた彼女の唇に無邪気な微笑がよぎる。いつの日かなるであろう、ハーブの香りに包まれた自らの花嫁姿を夢に見ているのかもしれない。

● せせらぎと罪作り
 小さなフナや、アメンボが泳ぎ漂う水面。凛は小さな生き物達や、流れていく落ち葉を見つめて、独り言。
「んー‥‥川はいいね。せせらぎの音が気持ちいい‥‥日差しも暖かいし‥‥」
 さらさら流れる音、時折カエルが飛び跳ねる小さな水音を聞いてると、いいメロディーが浮かびそうな気がして、かばんの中から五線譜と鉛筆を取り出して、何やらさらさらと書き始める。が、次のメロディーを考えているうちに、陽だまりの温かさと小川の運ぶひんやりした空気が気持ちよく、つい猫そのものの体勢でまるくなってうとうとする。
 その先の池では一人ボートに身を預け、煌く水面を見つめつつ物思う少女。
 絵になるシチュエーションだが、その少女がヒメである点が既に危険信号。モヒカン氏が転寝しながら横たわるボートもゆらゆらとその周辺を漂っている。
 ヒメが突如立ち上がりボートの端で腕を水平に広げた。
「一人タイタニック‥‥じゃッ」
 ゴン!
 ヒメとモヒカン氏の乗るボートが互いにぶつかった。くるくる回りながら傾くヒメのボート。モヒカン氏は水面を手で掻いて岸にたどり着く。
「義経を超える八艘跳びを見せてくれるわッ!」
 無茶なことを叫びつつヒメが手近なボートにジャンプを試みる。
 バッシャーンと派手な水音。
「えっ!? な、何?」
 うとうとしかけていた凛が飛び起きる。だがコンタクトレンズのまま眠ってしまっては目に悪いので、その点は天の配剤というべきか。
「誰かーー!」
 職員さんを呼びに行く凛。
「キャーッ、ヒメさん大丈夫ですか?」
 せせらぎの音に癒されに来て、ボートの動くのを楽しそうに見ていた舞も慌てる。
 客観的に見れば既に予想できたオチであったが、やはりヒメは凹んでしまったのか、しばらく岸に上がってこず、ぴょこんとヒップを突き出す姿勢で漂っていた。通りすがりの作業員がそれをドンブラコと流れる桃と間違えたかどうかは定かではない。

●お食事処
 やはり昼を少し回った時刻になると、ほぼ全員がレストランに集合状態となっていた。
「わ、美味しいです! 生葉で淹れるのも違った味わいがあって‥‥」
 摘みたてのミントでミントティーを入れてもらった舞が大きな目を見張っている。ミントの香りがほのかにレストラン中に漂って、キリエや玲花も思わず深呼吸する。
 今日は試食ということで、ビュッフェ形式で好きなメニューを選んでください、と職員が案内し、舞は自分のお皿の上に、くるみパンやチーズやヨーグルト、チーズたっぷりのピザを乗せている。
「乳製品が好きなものですから」
 職員たちにチーズ好きなんですね、と言われると、健康少女らしい言葉と共ににっこり。
「やっぱり、乳製品も鮮度が命みたいですね。市販品ではこの味はなかなか出せないでしょうし‥‥作りたてのバターやチーズを直送して貰う事って出来ます?」
 料理の得意な玲花が職員達に聞いている。
「出来ますよ。クール便で全国発送承ります。ワインに合う組み合わせでセットはいかがですか?」
「ワインか‥‥そうね」
 誰と乾杯する様を想像しているのか、玲花は首をかしげる。
 キリエもメニューをチェック中。
「小松菜のくるみ味噌和え‥‥か。お味噌、自家製なんだ? 体に良さそ」
 ハーブランドの畑で収穫される小麦を使った地ビールの工房があるらしい、というので写真家と笙は飲んでみたいと申し出てみる。
「ちょっと一般的なビールより酵母香がきついんですけど」と職員の説明を受けて注いでもらったそれは、なるほど市販のよりも濁って濃そうな感じ。
 アテは畑でもらった籠いっぱいのキュウリに塩だけつけて丸齧りという、絵的にすごい組み合わせ。
「‥‥ぷはあっ。体動かすと、特に美味いな」
「たまには昼酒もいいですよね」
 しかも麦藁帽子にタオル首巻のままなので、男前崩壊の危機。だが、肝心の笙はこれ以上ないほどくつろいでいる。
 そんな二人にマコトが近寄ってきて、自分のデジカメのモニターを見せる。
 農業スタイルの二人が真剣にカメラに向かっているショット。案山子みたいでかなりひょうきんである。
「‥‥これ封印しといて」
「何てことするんですか‥‥」
 思い切り油断したところを撮られていた二人は赤面。周囲はウケていたが。
「撮る人が撮られる人になってたり、自分の知らぬ間に自分の意外な所が撮られていたりそういうのも結構オツなもんだよ」
 と、マコトはしてやったり顔。
「そういえば麦藁帽子にタオル巻きの芸能人って貴重かもしれないから、一枚正面から撮っておきましょう」
 片瀬がカメラを向けると、赤面しつつもピースする笙であった。
 それからまたゆったりとした時間を過ごして、招待客たちがハーブランドを出たのは、西の空が赤くなる頃だった。
「とても素敵な所ですね。一度では周り切れませんでしたから、また機会があったらプライベートでも来てみたいです」
 という舞に、ぜひどうぞ、と職員達が口々に応える。
「美味しい空気、美味しい食事、優しい自然――全部ご馳走様でした」
 キリエがにっこり、後にした緑の景色に手を合せた。