COLORS〜貴石アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 小田切さほ
芸能 5Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 24.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/12〜10/14

●本文

 まさか最期の別れになるとは思ってもみなかったので、その電話でかわした会話は、実にあっさりとしたものだった。
「よう、元気か」
「ああ、松浦先生? おかげさまで元気です。先生もお変わりないですか」
 電話の主は、俺の写真技術の「師匠」に当たる写真家。数年間彼のスタジオでアシスタントをさせてもらい、去年独立して以来、ほとんど会っていなかったのだが、少し声が遠いように思えた。
「相変わらず言うことが硬ぇなあ。今度でかい仕事まわしてやるから、ありがたく思えよ。仕事でも頑張らんと、嫁のなり手もねぇだろ、お前のツラじゃ」
 ツラのことはお互い様でしょうと返したら彼は笑い、少し咳き込んだ。
 さては二日酔いで風邪でも引いたなと思ったのを覚えている。
 仕事が上がったら禁酒道場に放り込んでやろうと思っていたのだが、それは間に合わなかった。
 彼は半月ほど後、入院先で逝ってしまった。
 そんな事情で俺の次の仕事は、先生の形見でもある。

 そのオフィスビルに入るのはちょっとした勇気が必要だ。黒い御影石の床は磨きこまれて、その上を歩く人々の影を映している。
 エレベーターの前で立っている警備員が、サングラスをかけている上でかい荷物を肩から提げた俺を、うさんくさそうに見ている。
 受付ブースに近づくと、長い髪の受付嬢が警戒の目で俺を見上げる。
「‥‥何か?」
 名刺を渡すと、その中に「カメラマン」の文字を発見した受付嬢は笑顔になった。
「ああ、松浦先生のお弟子さんですね」
 俺が頷くと、彼女は内線電話を取り上げて、宣伝課へ俺の来訪を知らせてくれた。
 紺地にストライプのスーツを纏った宣伝課長は、薄化粧でまだ若く見えた。
 胸元には自社製品とおぼしい小粒のダイヤモンドネックレス。
 そのたおやかな外見に似ず、きびきびと課長は俺に企画内容を伝える。
「松浦先生と違って、無口な方なのね。‥‥松浦先生は陽気でモデルさんの表情を引き出すのがお上手だったけれど」
 あまり歓迎されていないらしいことは、エレベーターを降りたときから気づいていたが。
「正直な話、他にも候補者がいたんですけれど、生前、松浦先生がどうしてもこの仕事は弟子の片瀬に引き継がせてくれって何度も頼み込んでらして。松浦先生、よほど貴方がお気に入りだったみたいね」
「本当ですか?」
 初めて聞く話だ。今までいたアシスタントの中でお前が一番やりにくい奴だ、と言われたことなら何度もあった。
 性格は正反対なのにお互い頑固で偏屈だったので衝突はしょっちゅうだった。
 彼女は再び俺の履歴書に目を落とした。
「商品写真は何度か手がけておられるようだけど、宝石の撮影は初めてなさるのね。‥‥まさかピンクサファイアとトルマリンの区別がつかない、なんてことはないでしょうね」
 ちらりと目を上げて、地味なシャツ姿の俺を見やる。
「‥‥松浦先生のおかげで、少しは知識があります」
 生前の先生はよく、仕上がった宝石の写真を俺に見せて、まるでオモチャを並べる少年よろしく目を輝かせて吹聴していた。
 毎年、この企業の新作ジュエリーのポスター撮りは先生にまかされており、その仕事には毎回定評があったらしく、先生も気に入っていた仕事だった。
 こっちがアレキサンドライト、ロシア皇帝の名前がついた宝石だぜ。
 それはトパーズじゃなくてシトリンっつうんだ、馬鹿野郎。宮沢賢治の詩に出てくるだろうが‥‥
 この小さな一粒の中に、数え切れない位の時間が凝縮されているんだぜ、と先生はよく言っていた。
 宝石の冷たい輝きの美しさは、先生と会えなくなってから不思議と、よく分かるようになって来た気がするからだ。
 そうですか、と宣伝課長は信じていない口ぶりで立ち上がった。
「じゃあモデルさんはもう集まっていますから、まずはスケジュールとスタイリングの相談から始めていただけますか。
 私達が慎重に協議して選び抜いたモデルさん達ですの。くれぐれも皆さんの個性を引き立てるよう、努力してくださいね」
 

☆補足事項
 ジュエリーの店頭ポスター・モデルさん募集依頼です。
 ポスターに使われるジュエリーデザインは以下の通りです。

〜ユニセックスタイプ〜
男性が着けても似合うような、ややハードな、ボリュームのあるデザインです。

●ターコイズネックレス‥‥オーバルカットのターコイズを空飛ぶ鷹をかたどったシルバーの枠で囲んだデザイン
●ブラックパールネックレス‥‥黒真珠をシルバーのシルバー細工の龍で囲み龍玉をイメージしたデザイン
●ルベライトのバングル‥‥サソリをかたどったシルバーの腕輪の頭部にルベライトをはめ込んだ「ちょい悪」風デザイン
●琥珀ペンダント‥‥オーバル型の琥珀を木の葉形のシルバーにはめこんだナチュラル系デザイン
●サファイアネックレス‥‥剣をかたどったシルバーの台に、サファイアをはめこんだ清冽なイメージのデザイン


〜女性向け〜
●コンク貝のカメオブローチ‥‥淡い桃色のコンクシェルの表面に、白い女神像のレリーフがあるカメオのアンティーク調ブローチ。
●コンクパールのリング‥‥希少なピンク色の真珠を小粒のダイヤモンドで囲んだプラチナ台の可憐なリング
●ルビーのイヤリング‥‥古代ギリシャの竪琴『キタラー』型のプラチナ台に、ルビーをちりばめたデザイン
●エメラルドペンダント‥‥アマゾンの伝説の女神イアラをモチーフに、人魚を象ったプラチナ台に滴る水をイメージしたエメラルドとメレダイヤをはめ込んだデザイン
●サファイアペンダント‥‥聖なるペンタグラムを象ったプラチナ台の中央にスクエアカットのサファイアをはめたデザイン
●ダイヤモンドネックレス‥‥4粒のダイヤモンドを、銀の鎖で連ねたオーソドックスでシンプルなデザイン
●ブラックオパールの腕輪‥‥金色の蛇の頭部がオパールになっている、ちょっとクセと毒のあるデザイン
●ペリドットのペンダント‥‥小粒のペリドットを、孔雀をかたどった繊細なK9のレースワークにいくつもはめ込んだ華麗なデザイン


※今回はフォトスタジオでの撮影になります。背景はホリゾント(白スクリーン)のみとなります(スタイリングやポーズは自由です)。
 服装とメイクとポージングに気合を入れてください(自由)。
 背景が白ってことは何になりきろうが不自然じゃないってことでもあります。王妃マルゴでもサロメでも悪魔でもってことね、みたいな。
※休憩時間には他の宝石を見て回ったりしてもOK。宣伝課のOLさんがコーヒーを入れてくれることもあります。
※ビルは名のある会社が多く場所を占めるオフィス街の中にあります。
※ズバリ店頭価格のことは忘れましょう。値段の話をする人には皆で総ツッコミ。

●今回の参加者

 fa0201 藤川 静十郎(20歳・♂・一角獣)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)

●リプレイ本文

● 美と微の出会い?
 モノトーンで統一されたスタイリッシュなオフィスに、モデル達は集まっていた。
「さすがに私たちが選りすぐった美形モデルさんぞろいですわね。よろしくお願いします、皆様」
 案内&お目付け役の宣伝課長はご機嫌で挨拶を送る。
 案内された社内撮影スタジオは、意外な位に広い。優に八畳間はありそうだし照明器具も最新のものが装備されている。扱う商品上、宣伝にかなり力を入れているらしい。オフィス内を通るモデル達に、仕事の手を止めてOL達がうっとり見入る。扱うモノがモノだけに、女性社員が多いせいもあるだろう。
 モデル達がスタジオ入りすると、数人のOL達がスタジオを覗き込み、「これ差し入れです。椿(fa2495)さん達に渡してください」と、可愛らしい包装紙に包まれたクッキーの類を差し出した。モデル達は丁度着替えのため控え室にいたこともあり、片瀬が応対に出たのがまずかった。
「椿さんへの差し入れなら、牛丼パック10個くらい追加するとさらに喜ばれると思いますが」
 親切のつもりで言ったのだが、唖然とし、次にひそひそと語り合うOL達。あの美しい椿さんはンな下世話なもの食べないわ、何言ってんのこのおっさん、という気配が濃厚だ。
 あげくOL達は、どうせモテない地味男がやっかんでんのよという結論に達したらしく、「とにかくお預けしますから」と言い切って去ってゆく。
 入れ違いのように、控え室から華麗な女装で椿が登場。
 肩を露にし腰を絞ったロココスタイルのローブは髪よりやや渋みがかったワイン色。ウィッグの長い髪を縦巻きにして、同系色の口紅をしっかり塗りご丁寧にアイラインを入れて目元を強調。ダイヤモンドを「椿姫の涙」に見立てての撮影だ。
「‥‥この胴体のどこにあの大量のタイヤキが入ったのか」
「ン? 何か言った?」
「‥‥なんでもないです」
 という会話が撮影前にかわされたが写真には関係ない。
 椿は片手をネックレスのかかった胸に当て、俯いてポージング。
 ホリゾントに反射したストロボの光が宝石を煌かせた。
 撮影後、差し入れられたクッキーは二秒くらいで無くなった模様。
 次の被写体は冬織(fa2993)。腰部分にドレープをたっぷりと寄せ喉元まで覆う高めのレース襟の鹿鳴館調ドレス。
 白いレースの胸には孔雀を模ったプラチナ台にペリドットをちりばめたペンダント。
 片手に羽扇を持ち、舞踏会の合間に談笑するご令嬢のポーズで撮影。
 そして藤川 静十郎(fa0201)が静々と登場し、宣伝課長とカメラマンに丁寧な挨拶を送る。姿は既に歌舞伎演目の「娘道成寺」より白拍子花子の衣装と化粧。薄い青緑地に銀色で鱗文様を描いた着物が動きにつれぬめるように光る。帯は腕輪に合わせてあつらえたかのように黒地に金色の地丸紋散し。ただし、歌舞伎舞台と違いベースメークは白塗りでなく自然な肌色だが、目元と口紅はしっかりと紅が指されている。
「こちらの宣伝部から声をかけて頂き、光栄に思います。正直不慣れな部分も多いかと存じますが、精一杯努めさせて頂く所存です」
「いえそんな。藤川さんならきっと、私どもの商品イメージを高めて頂けることでしょう。カメラマンがこれまでのベテランでないのが恐縮ですわ」
 満足げに応じる宣伝課長。ちらりと片瀬に視線を当てつつ。
「では‥‥」
 一礼して、静十郎はゆったりと舞い始めた。
 花の姿も乱れ髪 思へば思へば恨めしやとて
 口ずさみつつ舞う彼の左腕にはめたブラックオパールの腕輪の蛇が呼応するようにストロボの光に応える。大きく仰け反るように後方に伸ばした腕の手首で、アジャスターにとめられた蛇が頭部の遊色を光らせて蹲る。
「OKです」
 カメラマンの声で、独り舞台の妖しい空間は動きを止めた。
 続くモデルはマリーカ・フォルケン(fa2457)。なぜか片瀬はほっとした表情。
「いや、美しい同性を立て続けに見ていると、無性に俺の存在が申し訳ない気が」
「そうなんですの? ‥‥では、今のわたくしと似た心境かもしれませんわね。わたくし、モデルという仕事はほとんど初めてですし、他の皆さんの脚を引っ張る事にならないようにと祈っておりますの」
 慎ましく言うマリーカは、中世の宗教画に登場する聖女をしのばせる淡いクリーム色のローブ姿。胸に聖なるペンタグラムを象ったサファイアペンダントを強調するように胸元は鎖骨の見えるスクエアカットでやや開き気味、金色の髪は後ろに流している。
「リラックスした方がいい表情が出ますよ‥‥と俺が言うのも変かな」
 撮影に臨むマリーカは膝をつき、ペンダントトップを両手で捧げ持つようにして祈りのポーズ。金色のレフ板に反射させたストロボ光が彼女の金髪の輝きを強調しローブを淡い金色に見せた。
「サファイアって魔除けになると信じられただけあって、深くて神秘的な輝きですわ。自分へのご褒美に購えるといいのですけど‥‥いえ、愛しい人から贈られた方がきっと嬉しさもひとしおでしょうね」
 素の表情に戻り、マリーカは笑みを浮かべた。

●光と影
 休憩時間を挟んで後半の撮影に移ることに。その休憩時間の間、底冷えのする日ということもあってOL達がハーブティをモデル達に差し入れに来た。後半の最初の撮影となる千架(fa4263)が、大胆にも上半身裸の撮影ということで、既に準備をした状態で、下はジーンズ、上半身にバスタオルだけの姿で控え室から登場。OL達の視線が釘付けになるが、既に仕事モードの千架は気づいてない。
「潮―、ポージングで打ち合わせ通りでおっけ? バングルの石、見えにくくね?」
 聞かれたカメラマンが千架が試しに取ってみるポーズに、「腕の位置はこう」と腕に触れて動かした。
「「「ギャーッ!!」」」
 非難の響きを帯びた悲鳴をOL達が上げた。セクハラという呟きがそれに混じる。
「ちっ違います、これは純粋に仕事の打ち合わせで」
「ちょっ待てー! それ以前に俺ら同性! どっちも男!」
 二人の男をそれぞれ違う側面から深く傷つけて休憩時間終了。後半最初の撮影となる千架はかろうじてダメージの残る心を切り換えた。
「コンプレックス利用するくれぇでやってやる」
 髪を薄い蒼のベールで覆い自らの肩を抱きしめるようにして手首のバングルを見せつつ振り替えるポーズをとる千架。毒もつ蠍の魂が入り込んだように妖しく誘う表情。深紫のルベライトと白い肌は、悪意と無邪気の象徴のようだ。
「はーっははは、どうだ! 男と女、少女と女性の狭間の危なげな雰囲気とか得意技だぜ」
 と開き直ったモデル。
「撮った俺はなぜか罪悪感を感じるんですけど」とまだ立ち直ってない写真家。
 続く撮影はアイドルデュオ渦深 晨(fa4131)と玖條 奏(fa4133)。
「普段、宝石なんて身に着ける機会がないから嬉しいな。琥珀って色々あるけど、これはこっくりした蜂蜜色かな」
 と、インディゴカラーのジーンズに黒のふわりとしたオーバースカート、黒のハイネックブラウス姿に琥珀のペンダントを着けた晨。
「ギリシャ神話によると琥珀は樹に宿るニンフの涙らしいです。エメラルドはクレオパトラが最も好んで身につけた石だそうですが」と写真家。
「そういやエメラルドの光って、いかにも高貴な感じするよな。シンのもよく似合ってる」
 と、トーガ風の白い衣装に黒と白二色の翼を着け堕天使風の装いの奏。
 互いを仲良く見比べあう二人はじゃれる子兎のようだ。
「じゃ、渦深さんは自然な感じで動いてみて下さい」
 晨は普段の笑顔で映りたいと希望し、跳ねてみたりと色々なポーズを試したが、膝辺りからのローアングルで、キャンディを味見する少女みたいに、指でつまんだ琥珀にいたずらっぽく唇を触れる表情でOKが出た。
 一方奏は床に敷かれた柔らかな毛皮の上で、背中に透明ベルトで装着した二色の翼を広げ仰向けに横たわる。左手は腰に、右手はエメラルドのペンダントに添える。 黒と白の羽が胸の上に散る。
 戯れに女神に恋を仕掛けた若い男神、二人には罰が下され女神は冷たい宝石に、男神は純白の翼の片方を闇色に染められた。そんな連想が浮かぶ絵。
 ラスト撮影。真紅のイブニングドレスの裾を引き、アイリーン(fa1814)が現れた。グロスの艶を加えたピュアレッドの口紅、グレーのアイシャドウでくっきりと強調した瞳と裏腹に、頬がちょっぴり上気して、まだ微妙に少女の表情。
 古代楽器を象ったルビーのイヤリングがドレスの襟の黒レースの上で存在を主張する。
「わあっ、素敵☆」
「ドレス、どこのブランドなのかしら」
 控え室からスタジオに入るまで、見たOL達が口々に声を上げる。それにまたアイリーンが「ありがと」「フランスの●●なの」と丁寧に答えつつ気さくに手を振って応えたりするので、男性社員達までが注目し、彼女の周りは常に賑やかだ。
 宣伝課長が「撮影の邪魔よ!」と一喝してスタジオの扉を閉めたので潮が引くように静かになった。
「前回のカクテルの時が人魚姫なら、今回は強くて華麗なマレーン姫という感じですね」
 と片瀬。
「宝石のポスターなら高級感が大事だと思うからメイクも整えてみたの。ちょっと秘密兵器も持ってきたのよ」
 いたずらっぽく、後ろ手に持っていたバイオリンのケースを出してみせる。
「バイオリンも弾けるんですか?」
「ええ。こう見えても、ちょっとぐらいなら弾けるわ。『キタラー』とバイオリン、二つの弦楽器を組み合わせてみたの。ルビーのポスターだと思うと力が入るわね」
「ルビー、お好きなんですね」
「ええ。宝石言葉は愛と情熱、私の誕生石なの」
「なるほど。ルビーはサンスクリット語でratnaraj‥‥宝石の王者と呼ばれているらしいから、その意味でもアイリーンさんには似合うかな。最も貴女は、君臨するタイプじゃなくて、温かい雰囲気に惹き付けられて周りに自然と人が集まるタイプだけど」
 カメラを向けられると、ぴたりとアイリーンが顎の下にバイオリンを据えた。「トロイメライ」がゆるやかに流れ出す。巧者な演奏ではないが、俯いて楽器と真剣に向き合う表情が周囲の空気を引き締めていた。
 パシャリ。
 ディフューザーのトレーシングペーパーで和らげられたストロボの光が、彼女の耳で紅色に光るルビーに反射する。バイオリンの音色と共に金色の髪が揺れてイヤリングの紅の輝きにクロスする。
「‥‥OKです」
 片瀬が静かな声で言った。
 アイリーンはほっと緊張していた肩の力を抜く。
「私なりに作り込んでみたけど‥‥片瀬さんから見て、どうでしょう。天国の松浦先生を、満足させられます?」
「‥‥というか、今のアイリーンさんを先生が見たら、速攻で口説いてたかもしれませんね」
「仕事も早いけど、手も早い方でしたものねー」
「‥‥え“」
 宣伝課長と片瀬の語る思い出話に、二十歳を迎えたばかりの初々しい乙女は目を点にして固まったのだった。

● 終章
 モデルさんと写真家で飲みに行こうという話も出たようだが、撮影が終了した途端、目をハート型にしたOL達がどっとモデル達を取り囲み、「ぜひ、お話させて下さい〜」と迫り臨時ファン集会状態。
 モデルさん←OL集団という名の超えられない壁←片瀬
 と言うわけで結局帰り道は一人になる片瀬。
 数時間後、とある墓地で。
「モデルさん達ががんばってくれたので、いい写真になりました。打ち上げ代わりに、天国とやらでたっぷり飲んでください。もう肝臓を心配しなくてもいいんですからね」
 まさしくぶっかけるという感じで大瓶の焼酎をどぷどぷと墓石に注ぎかけつつ呟く写真家がいた。