YIN&YANアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
小田切さほ
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
10.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/16〜10/18
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●本文
一世代前の、旧タイプの一眼レフカメラを頑固に使い続けていれば、そういう事態は予期できたはずなのに。
ある日、いつものようにレンズを交換していざ撮影しようとしたら、ガシャンと音をたててゆるんだレンズが落ちた。
レンズ装着部の部品がいつの間にか劣化していた。
「なんとか、なりませんか」
「これ、型番C●●―428でしょ? ‥‥ってことはもう十年近く前の型ですよね? もう交換部品の在庫が無いんですよ。メーカーの方でも廃品になっちゃってるんでね」
何軒目かのカメラメーカーと小売店をめぐったが、同じようなせりふで断られた。
行き詰った挙句に、もう何年もかけていなかった番号に電話をかけてしまった。七年前恋人だった女性の姉たる人へ。
「はい、野間です」
「‥‥あの‥‥」
「‥‥片瀬君?」
電話の向こうの声は若い。昔、俺に「妹をよろしくね」と言った瞬間の声と変わらない。
「そう言うキミはずいぶん疲れた声ね。妹の遺品のカメラを大事にしてくれてるのはありがたいけれど、緋紗子のカメラ部品の予備なんて、あたしが持ってるはずないでしょ」
「‥‥そうですね。すみませんでした」
俺はよほど混乱していたのか。機械が苦手で活動的な姉と、カメラが好きで内気な妹、対照的な姉妹だと何度も緋紗子に聞かされていたはずなのに。
わびて電話を切ろうとした時、電話の向こうの声が言った。
「ねえ。それって、緋紗子からのメッセージじゃないかしら。
『もう忘れてもいいのよ』っていう。
緋紗子だってあの世とやらへ行ってから7年にもなる。いつまでも片瀬君があの子の記憶に縛られていたら、あの子だって息苦しいんじゃないかしら」
「瑠璃子さん、俺は別に‥‥」
「緋紗子の好きそうな写真ばかり撮ってるでしょ、緋紗子が死んでから」
そんなつもりはなかったといいかけたが、言葉が途中で止まった。
彼女のカメラを遺品として受け取って以来、彼女が生きていたら撮りたかったであろう写真がいつも頭にあったのは事実だ。
彼女が最期に調整していた露出度合いとシャッター速度から推測して、緋紗子は目の前の世界をより鮮やかな色彩で切り取りたかったのだろう。
それが俺の撮り方に影響していたのは否定できない。
「それがキミなりの、あの子への追悼なのはわかるわ。
でも、いつまでもーーじゃ、かえって緋紗子に失礼よ。あたし? あたしはもう吹っ切れたわ。
緋紗子を死なせたNWを恨んだって仕方ないし。もっとも、とうの昔にWEAが始末しちゃったけどね」
さばさばした口調だった。
今の彼女は、俺が知り合った頃の、カメラマンを夢見る妹を持つデビューしたてのモデルではなく、モデル業を引退し、今や小さいながらもモデルコーディネート事務所の女社長だ。
「時間の流れは誰も止められないものね。だからきっと、もういいのよ。これからは片瀬君だけの目で撮ればいい。キミは確か緋紗子と同い年だから、次の誕生日には三十歳になるのよね。そろそろ新境地を開かなきゃ写真家として拙いんじゃない。第一‥‥」
電話の声は小さく笑っていた。
「緋紗子、しつこい男は嫌いだと思うわよ」
数日後。俺のスタジオにファックスが届いた。
「あたしの義弟になりそこねた片瀬君へ。モノクロ撮影の仕事依頼よ。
どう? 吹っ切る覚悟は出来たかしら? 新境地開拓にはいいきっかけだと思って、連絡してみたの。引き受けるかどうか決まったら即効、連絡を頂戴。
企画詳細は下記の通りよ。モデルの手配は、よかったら私の方に任せて。 ‥‥ノマ=エージェンシー有限会社代表・野間瑠璃子」
☆企画書☆
●クライアント‥‥出版社「冬文社」 ※文芸書から娯楽モノ・ティーンズまで幅広く手がける大手。
●対象商品‥‥ミステリー専門文庫本ブランド「冬文ミステリー文庫」イメージポスター
●イメージ概要‥‥神戸の町を背景に、ミステリーの登場人物(探偵または犯人、逃亡者、謎の女、目撃者等)のイメージでモデルさんを配置し、モノクローム画像で撮影してください。モデルさんの服装指定等はありません。
●撮影期間‥‥10月●●日〜●●日
●撮影場所‥‥神戸旧居留地、メリケンパーク周辺(範囲内であればどの場所でも可)
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※ブランドイメージ上、モノクロ撮影のこと。カラー撮影禁止。
☆補足事項☆
モノクロ撮影はアングルというか構図がキモなのでその辺に凝ると楽しいかも。
撮影終了後、居留地近辺で遊ぶ(有名店のケーキを食べに行く等)とかは自由です。撮影スポット等カメラマンに相談して下さってOKです(注:メモリ更新されてない部分も結構あります)。
●リプレイ本文
●海岸通にて
撮影日は10月とは思えない程の陽気で、海風もさほど冷たくない。
それでもコンクリートの地面は冷たくて、裸足で海岸ビルヂングの階段で撮影する慧(fa4790)は、「冷たいね地面!」と明るい声をあげた。
「おっしゃ、銀レフもうちょい左。慧君正面向いてほんのり笑ってねー」
特徴のある甘い低音で指示を出すのはカメラマンの有珠・円(fa0388)。慧の斜め前でレフ板を持っている片瀬潮(fz1058)はどこか心ここにあらずで、円の指示が聞こえていないようだ。
「片瀬くーん、話聞かないと蹴っちゃうよー?」
「あっ‥‥す、すみません」
やはり愛用のカメラが壊れた件が尾を引いているのかな、と慧はちょっぴり心配で、明るい声で話しかけてみた。
「あの、この間は飲みに行けて嬉しかったな。『二度漬け禁止』って言うの、初めてだったよ」
「こちらこそ作詞の仕方とか、珍しい話を聞けて楽しかったですよ。慧さんに串カツって似合わないかなと思ったんですけど」
いや実際似合ってなかったんだが。
ともあれようやく表情が戻った友人を見て、慧は微笑して膝の上で喉を鳴らす猫を撫でた。だが、ファインダーを睨んで円はうーむと唸っている。モノクロだと色調の変化が出せないため、陰影効果ですべてを表現しなくてはならない。だが、慧の表情をミステリアスに見せようと影を作りすぎると、元々の彫が深いせいで影だらけになってしまう。
「ポスターは、写真が主役でストーリーを「魅せ」なきゃいけないからね。いっそ天井のステンドグラスからにフラッシュ光をバウンスさせてみようか。‥‥斑の光が降ってくるかもしれないけど、逆にこの場合はいいんじゃないかな」
日ごろ写真集など見て研究し、モノクロの難しさが身に沁みている円は、外付けストロボを二つにし、一つを天井に向けて反射させ、一つはやや弱い光を慧に向けて放つ。
ステンドグラスを透過した蒼い日光で、レトロなビルの階段に腰掛けた慧の金髪はあくまで明るく、セルリアンブルーの古風なシャツには真鍮のボタンが鈍く光る。顔に落ちた斑の影が無邪気な微笑を意味ありげな妖しいものに彩る。黒いスラックスの足元はそのまま影に溶け込み、影の世界からひょいと光の隙間に現れた異世界への導き手のようだ。
「おっけ、慧君おつかれ!」
陽気な声があがる。
「この海岸通りって、美味しい店が色々ありそうだね」
一仕事終えた慧は、のんびり次の被写体となる伊藤達朗(fa5367)に話しかける。
「せやけどわいらの行くような小料理屋やらがおまへんな。今回の撮影も、なんや、わい一人がむさくるしゅうてすんまへん」
「いや、足でコツコツ事件を解決する刑事ものミステリーも根強い人気がありますからね。それに神戸にも、もう少し西に『鯉川筋』っていう我々向きの飲み屋街がありますよ」
「ほぉ、そら撮影後の楽しみがでけたわ。おたく、関西でっか?」
「三重ですが、関西は近場なので」
「はいはーい片瀬君。モデルさんと仲良くなった所で撮影よろしくー」
「えっ‥‥有珠さんは?」
「ま、共同撮影って話ではあるけどね。野間社長のご指名だろ? なら片瀬君がやらなきゃ意味ないっしょ。 ほい、レフ板掲げ放題、露出調べ放題ですよー」
有珠は気軽に露出計を手にする。
「一世代前のカメラ部品を必死で探している同業者がいる」と噂に聞いて、顔見知りの片瀬がそれだと知った有珠は、彼の不安定な様子を見て助っ人に来てくれたのだった。
「けど、目上の先輩をアシに使うなんて」
「まあ、そうかしこまるなよ。本人まだ若いつもりみたいだし」
と事実若いトシハキク(fa0629)は言い、背後から首を絞められる。モデルばかりかスタッフの間にも笑いが溢れ、撮影開始。
古風な匂いのする栄町ビルヂングの前、伊藤は古着のトレンチコートを秋風になびかせ、手元の手帳へ睨みつけるように目を落とす。髪はあえてわざとブラシでかき乱しぼさぼさにしてある。心の中で作り上げた刑事像になりきって、伊藤はカメラの存在を忘れることにした。
(「虐待にいじめか、ほんま最近、しょうむない事件多いわ。一つ一つでも解決せんと」)
くわえ煙草で事件を憂う渋い表情に、ストロボが光った。
● メリケンパークにて
中突堤、16時少し前。
「意外と温かくてよかったわ。心配性の誰かさんはヒーターと毛布が無駄になったわね。潮が寒い寒いって脅かすから、携帯カイロも持ってきてたのよ」
千音鈴(fa3887)がからかうように蒼と水色のオッドアイで軽く睨む。
「それはすみませんでした。でも、風邪引かせちゃお兄さんにも申し訳ないし」
「俺もベンチウォーマーとジンジャーティー持ってきたのにどーすんのよ」
と、横から有珠も便乗。
「あら、ジンジャーティーは美容のために私達女性陣が頂いたんだからいいじゃない。それより、もうすぐ船の通る時刻よ」
と千音鈴は海に顔を向けポーズをとる。夕刻出発の遊覧船を背景に入れる予定なのだ。
ローブモンタントにヴェール付のトーク型帽子と黒ずくめの姿で、海に向かい抱えた白百合の花束を向ける。ヴェールの下、マスカラで強調した目元は伏せて海に消えた恋人でも思う風情なのに、真紅に近いローズの口紅を塗った口元はかすかな微笑。西に傾いた日差しが、中突堤を出発し港をめぐる白い船と、純白のオリエンタルホテルの外壁を彩り、千音鈴の黒服姿が禍々しい事件の傷跡のように浮かび上がる。
シャッター音が響いて、撮影完了。
神戸メリケンパークオリエンタルホテル・3階ロビーが星野・巽(fa1359)とアイリス・エリオット(fa5508)の撮影場所。吹き抜け状態なのでエレベーターホールを含め中央部分がくりぬかれた形の4階のフロア端から、ロビーが見下ろせる。その4階フロアに立つのは怪盗紳士の装いの巽。休憩の合間には巽が手作りのマドレーヌをふるまい、女性陣を中心に盛り上がった。誰よりも多く食べたトシハは巽の膝辺りのローアングルでカメラを構えつつ。
「広角レンズで撮るから、背景が奥までボケずにくっきり映るのさ。シャンデリアに照らされて光に溢れた屋内と、黒く広がるマントと対照できると思うんだ」
背後下方から風当ててマントを広げるため片瀬が扇風機を抱えてきて、スイッチオン。
「うわああっ! 風強すぎ! 帽子飛んじゃいましたよ〜!」
「す、すいません」
と小ボケを経て、撮影開始。マントを飛び立つ黒鳥の翼のように翻して窓から振り返りつつ、怪盗紳士は右手で目元を覆っていた黒い仮面を外し、投げ捨てようとしている。左手では下に向かって白い薔薇一輪を差し出す。花言葉は『私は貴方に相応しい』挑戦的な愛の言葉か。ちょうどシャンデリアの光がモノクルに反射し冷たく嘲笑する表情にも、追って来いと誘うような悪戯な表情にも見える。口角はわずかに上がり今しもマントを翼に変えて飛び立ってみせようかといった、どこか魔を思わす妖しい微笑。
巽とは逆に、ロビーの階段端で、ひたと階段上方を見据え小型拳銃を構えるアイリスは斜め前からのショットで撮影。地味なグレイトーンのスーツに、白いブラウス。明るい茶色の髪はねじってバレッタで留め、靴はローヒールと、いかにもひたむきに事件解決に向かう可憐な女探偵。髪は一筋後れ毛を垂らし、駆けつけたばかりといった健気さが漂う。濃いメイクはイメージに合わないので、マスカラは濃い茶系を選び目元のみ強調。
階段に片方の足をかけ、怪盗を見逃すべきか迷っている風に、銃口は両手を添え、まだ下に向けている。追う相手だった怪盗紳士をいつの間にか愛していた自分に気づき、苦悩する女探偵。だが奪われたものを取り返すことこそ自分の使命と、ひたむきに追い続けるが、心の迷いをあらわすように潤んだ目はシャンデリア光を映し小さな光を湛えた。
二人の写真を後でコラージュすれば、階段を挟んで、惹かれあいながらも対決する探偵VS怪盗の図の出来上がりである。
撮影後、アイリスはホテルでケーキを購入。
「沢山だな、お土産かい?」
「それもあるけど、これは自分へのご褒美なの」
と、一番大きいのを指差すアイリス。
巽の差し入れも結構食べてたとても華奢な彼女、実はすごい別腹を持ってるらしい(ぇ)。
● 中華街にて
翌日、最後の個人撮影となる玖條 響(fa1276)は唇の端に傷をつけ、と言っても特殊メーク効果だが、南京町の路地にいた。
「ほんとにここまでやっちゃっていいの?」
モノクロでもわかりやすいようにではあるが唇の端に血、目の下に痣と、メイク係が不安げに聞く程、真に迫った傷メーク。しかも背景は、派手な中央広場や門周辺ではなく、小さな商店の隙間のような路地を選んだ。
「『逃亡者』だから、その方がいいと思うんですよね」
トシハが取ってくれた撮影許可証を片手に、撮影に入る。
「響さんの動きを追って撮りますから、遠慮なく一気に向こうまで走っちゃってください」
片瀬の説明に頷き、合図が出ると、響は本気で全速疾走。
瞬間、響は人気モデルから孤独な逃亡者に変わる。
乱れた髪と数々の傷痕が痛々しい。片側の手首には手錠の鎖が冷たくフラッシュに反射し、潔白を象徴するような白いシャツは破られているが、その視線は揺るがず前方だけをひたむきに見つめている。一度でOKは出たが、響は思った表情が出なかったと何度かやり直しを希望し、最後には汗びっしょり。
「モデル仕事は久しぶりだから、恥ずかしい結果は残したくないんです」
タオルで汗を拭きながら、響は笑顔を浮かべた。
● 変わらないもの
最後に、旧居留地にある銀行を改装したレトロなカフェで全員で撮影。
テーマは、事件渦中の人々が集う仮面舞踏会。シンプルなソファの上、斜め前を向き拳銃を、アイマスクタイプの仮面を着けた額の前に捧げ持ち、祈るような、あるいは仮面の下で心の迷いを断ち切りかねるような女探偵アイリス。その横に優しげな翁の仮面の下、苦渋の表情であごをさする刑事・伊藤。グラスを手に、何やら衝撃的な真実を明かすつもりか、目元を隠すヴェネチアングラスめいた銀の仮面を外そうと手をかけながら悪戯っぽい微笑で窓際で振り返る怪盗紳士=巽。レースの喪服をまとった千音鈴は横顔を隠す涙を表すビーズの輝く悲しげな仮面の下、口元は妖しい微笑を浮かべる。
逃亡者姿のまま響は壁を背に傷ついた唇を噛み、真実を見抜こうというように彼らを見据える。
彼らがステップを踏むのは陰謀のワルツか愛憎のタランテラか。
「お疲れ様でした!」
撮影後、もう一枚素顔で撮ってもらえないかと響が片瀬に聞いてきた。
「モデルの仕事、久しぶりだし‥‥元気で仕事してるって知らせたい人がいまして」
「ご家族ですか?」
聞かれて、響の顔にはにかんだ微笑が浮かぶ。
「ファーストキスの相手です。でも、実は彼女、難病持ちで、今生きてるかどうかわからないんです。連絡がないのは、自分のことは忘れて欲しいっていうことかもしれない。でも俺に大切な記憶だから‥‥忘れられないことは無理に忘れないつもりです」
笑顔でカメラに収まり、響が着替えに行った後、片瀬に、撮影機材を片付けていた有珠が声をかけた。
「響君に同感だね。カメラ壊れたってキミの思い出は消えないだろ? 自分を責めるより、ちゃんとメシ食って生きろ。カメラの元の持ち主が望むことは、きっとそれだろ」
何かを知っているらしい口ぶりを、片瀬が聞きとがめた。
「もしかして、瑠璃子さんから何か頼まれたんですか?」
「瑠璃子ちゃんって? ああ、依頼主の野間社長のこと?」
とぼけた表情。眼鏡の奥の目が笑っている。
「瑠璃子さん、モデル時代に憧れてたカメラマンがいたそうですけど、それって有‥‥」
「いやー久々のレフ板持ち、肩凝ったなあ。アシスタント時代を思い出したよ、ははは。さて、腹減ったし夕メシ夕メシ」
「‥‥すごい力技で話逸らすなあ」
ともあれメンバー全員で神戸の町へ繰り出そうということに。
わが道を往く千音鈴は一足先に中華街へ。景観所は撮影で十分見たし、庶民的な高架下か鯉川筋へ飲みに行こうと案が出る。
「あら、ケーキ屋さん巡りをしたい方はいません? せっかく神戸に来たのだから、私と巽さんでうんと素敵なケーキを食べ歩くつもりなのだけど」
とアイリス。
「えっ、アイリスさんその細い体にまだケーキ入る‥‥はうっ!」
畏怖の表情を浮かべた巽は言葉の途中でヒールで足を踏まれたような声をあげたが、彼の隣ではアイリスが花のように微笑しているだけだ。
「では我々おじさんチームは鯉川筋、ヤングチームは元町方面で」
「ヤングて」
それは死語だと八方からツッコまれる片瀬。甘いもの好きなトシハは元町行きに、意外と居酒屋好きらしい慧が嬉々として居酒屋コースに合流。
元町行きに惹かれかけてた響は、がしっと片瀬に腕を掴まれる。
「さっきの良い話も含めて、今夜は居酒屋で存分に語りましょう、玖條さん」
「あっでも、俺巽さんとも話‥‥」
「おじさんチームへようこそ! キミも今日から栄えあるおじさんの一員だ!」
「って俺誕生日まではまだ十代あっ、ああ〜っ」
響は有無を言わさぬメンバーに引きずられて夜の巷へ消えていった。
◆
『先日は色々ありがとうございました。せっかくですが緋紗子のことはどうせ忘れられませんので無理はしないことにしました。追伸:有珠さんは口の堅い人ですね』
「忘れねばこそ思い出ださず候、か‥‥まるで江戸時代ね、片瀬君」
オフィスに届いたモノクロ写真ポスターと、添えられた手紙を見て野間瑠璃子は苦笑した。