ホワイト・ソーンの男ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
大林さゆる
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
0人
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期間 |
11/13〜11/17
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●本文
緑に包まれた国、アイルランド。
別名「エメラルドの島」と親しまれるほど、自然豊かな国である。
古来より様々な伝説で彩られた風土は、ケルト文化を受け継ぎながら未だに魔法や妖精たちの話が根強く残っている。
数ヶ月前、イギリスのとある小さな村で風化した遺跡が見つかった。そこで発見された壁画の模様はどうやらケルト神話と関連があるのではという推論が浮かび上がり、遺跡発掘をしていた無名の考古学者たち一行はアイルランドの北西にある小さな村に来ていた。
遺跡調査員たちの護衛をするため、ガードマンのイオスも同行していた。彼は仲間内では狼の獣人として知られていたが、その事実は考古学者を始め、人間の調査員たちも全く知らないことだった。
イオスは買物を頼まれる序に、人々の話を聞くためファーマーズ・マーケットにも度々訪れていた。
アイルランドの各地には、ファーマーズ・マーケットと呼ばれる生産者市場が開かれており、新鮮な食材を手に入れられることは当然として、人々の憩いの場でもあり、情報交換・交流の場としても機能していた。天幕はエメラルドとホワイトのストライプの店が多く、野菜や果物、肉、魚などが並んでいる。そんな中、『ホワイト・ソーンの男』と呼ばれる者がいることが分かった。
アイルランドにはホワイト・ソーンという木があり、平地や草原に一本だけ立っているものは妖精が住み着きやすいという言い伝えがあり、それは特にフェアリー・ツリーと呼ばれていた。
イオスたちが調査している村の付近にもフェアリー・ツリーらしき木があり、数ヶ月前から陽気な男が一人、徘徊しているという噂があった。その者が『ホワイト・ソーンの男』だった。自分でそう名乗ったのではなく、名前が不明だったことから人々が勝手にそう呼ぶようになったらしい。夜な夜な現れる男は、妖精に魅入られたのではないかと人々は噂していた。
さらに、その男が関係しているのかは現在のところ不明であったが、村付近の草原にて群れを成す妙な生き物を見たという噂もあった。具体的な犠牲がなかったことから、単なる作り話だという人もいたが、飼っていた動物が行方不明になるといったこともあり、イオスとしては見逃すことができなかった。
イオスは念の為、真夜中に村付近の草原を歩き回ってみた。そして、妙なことに気が付いた。
人を襲うことはないが、明らかに自分は狙われている‥‥直感でそう感じた。
危険を感じて、イオスはすぐに村へと戻った。ナイトウォーカーであれば、人間が多い村では率先して正体を現すことはしないだろう。案の定、村の中にいれば安心感があった。だが、村を出ると‥‥草原では殺気さえ感じるようになっていた。さすがに日がある時は出てこないようだが、深夜の外出は危険であった。
さらに、信じられないことがあった。本来ならば単独で行動するはずのナイトウォーカーが群れている‥‥さすがのイオスも最初は信じ難いことであったが、数日間調査した結果、ナイトウォーカーが群れで出現している可能性が出てきたのだ。
そこでWEAからナイトウォーカー討伐の依頼が入った。アイルランドの村付近にいるであろうナイトウォーカーの殲滅である。
「一日でも早く見つけ出し、村人たちの安全も確保していただきたい。表向きは『遺跡の調査員』として活動してもらうことになる。『ホワイト・ソーンの男』もナイトウォーカーである可能性が非常に高い。群れのナイトウォーカーは空を飛ばない『大形の虫型』であることが判明した。腕に自信のある者は、ぜひ討伐に向かって欲しい」
依頼人から話を聞いた者たちは、直ちに現場へと向かった。
●リプレイ本文
●準備OK?
男は以前、大人しく真面目な男だったと言う。だが、ある日‥‥いつからそうなったのかは分からなかったが、その男は正反対の性格になり、笑いながら自宅から姿を消した。
一人‥‥ただ一人、部屋の中で黙々と読書していた男は、いつしか『ホワイト・ソーンの男』と呼ばれるようになった。
手帳にそう書き留めたのは、御鏡 炬魄(fa4468)であった。遺跡調査に記者がいることは珍しいことではない。御鏡はあくまでも記者としての姿勢を崩すことはしなかった。
「少し遅いな」
約束の時間になっても二人が来ない。
「そうであるな」
ダンディ・レオン(fa2859)がそう告げた時、湯ノ花 ゆくる(fa0640)とEven(fa3293)が待ち合わせ場所にやってきた。夕方になっていたが、ファーマーズ・マーケットは相変らず人が多かった。もう少し暗くなれば、人も少なくなるだろう。
「ゆくるちゃんとのデート、楽しかった♪」
Evenが茶目っ気のある笑顔で言うと、ゆくるは首を傾げていた。
「‥‥デートじゃ‥ない‥‥ですよ?」
「そんなつれないことを〜‥‥なんて、言ってる場合じゃなかったね」
昼間、Evenはゆくると一緒にフェアリー・ツリー付近の地理を把握するため、デートと称して歩き回っていたのだ。実際に歩いた方が行き先の目当てがつくし、感覚的に動き易くなるからだ。
「さて、村の宿に戻るとするか。イオス殿たちが待っているだろうからな」
レオンに促されて、御鏡たちは村へと戻った。
今回依頼に参加した者たちは基本的に『遺跡調査員』として動くことになっていたが、それほど厳密にせずとも近辺の調査をすることができた。記者の御鏡だけでなく、カメラマンの鶸・檜皮(fa2614)、撮影技師のセルゲイ・グラズノフ(fa4965)、技術スタッフの紫縁谷 真木(fa4351)、イベント警備員のヘヴィ・ヴァレン(fa0431)といった顔触れのおかげで、遺跡の撮影まで漕ぎ着けることができたのだ。
ヘヴィとレオンの場合、今回に限ってはイオスと同僚のガードマンとして臨時で雇われることになった。遺跡の調査、撮影には必ず数人のガードマンやボディーガードがいるものだ。護衛できる者は一人でも多い方が良いだろう。他の者は調査員として参加していた。
遺跡の調査は表向きとは言え、撮影も交えて実際に行われることになった。それとは別にナイトウォーカー討伐もしなければならない。限られた期間でやり終えることを考えると、支給品も限られてくる。結果、本部経由で支給されてきたのは医療品と数十本の矢であった。
「矢は消耗品ですから、助かります」
楼瀬真緒(fa4591)は弓矢で戦うつもりでいたこともあり、心底そう思っていた。
「銃だとサイレンサーがあっても音が完全に無くなる訳じゃないからな‥‥仕方ないか。アーチェリー持ってきて正解だった」
鶸は己の運に安堵した。矢とは言え、当たればそれなりに音はするが、銃の音に比べれば安全な方だ。昼間は遺跡調査、夜は討伐の依頼。必然的に睡眠時間も減ってくるが、芸能人ならばそんなことは日常茶飯事‥‥弱音を吐く者は一人もいなかった。
那由他(fa4832)は結局、観光客としてイオスたちと同行していた。さすがに和服で遺跡調査をする訳にもいかず、一芝居打つことになった。那由他はイオスの知り合いで、偶然同じ宿に泊まることになった‥‥俳優だったこともあり、自然と振る舞うことができた。イオスが食堂で夕飯を食べている時、那由他は静々と宿に入ってきた。「久し振り〜」とお互いに声を掛け合い、それとなく遺跡調査員たちや考古学者にも聞こえるように配慮した。
案の定、調査の指揮を取っている考古学者が「知り合いかい?」とイオスに尋ねてきた。後は予定通りにシナリオ(那由他はイオスの知り合いという設定)を進めるだけである。なんとか小さなシナリオは成功した。次は本命のナイトウォーカー退治である。那由他は人知れず緊張していた。
●情報生命体の力
3日目の深夜。Evenが携帯していたランタンを頼りに、フェアリー・ツリー付近にある小さな丘まで進んでいった。肝試しと称して外出したこともあって、それほど不審には思われなかった。単に寒い時期によくやるなと言われるくらいで済んだ。少し経って、ゆくるが何かに感付いた。その様子を見て、レオンたちは気配を悟り‥‥半獣化した。
「これは便利であるな」
光球作成により、レオンの後から光の球が付いてくる。その光を目安に、ゆくるたちは後を追った。
暗闇の林を抜けると、クスクスと笑う男がゆらりゆらりと踊っていた。否、踊っている訳ではなかった。ふらふらとした足取りで、こちらに向かってくる。
「こいつかな?」
Evenはまず試しに狂月幻覚を使った。男は‥‥抵抗するかのように苦しみ始めた。かと思いきや、身体を奮わせて異形の姿へと変化する。それはまるで巨大クワガタを彷彿とさせるが、その額には宝石のようなものがあった。
「この姿は‥‥。‥‥こうなれば、我輩たちで止めるしかないであろうな」
レオンが小さく苦笑すると、Evenは微笑んでいたが、目は笑っていなかった。
「幻覚は失敗したけど、正体が分かったから結果オーライ?」
「‥‥やるか」
御鏡はダークマントを翻し、モウイングという名の鎌を持ち、男の前に立ちはだかった。闘いにおける光はレオンのものが頼りになった。背後にいたゆくるは翼を広げ、上昇した。
「‥‥。‥‥いく‥‥です」
手の平を下方に向けて、虚闇撃弾を放つ。今回のナイトウォーカーは動きが遅かったため狙い易かったが、額のコアはそう簡単に破壊できる代物ではなかった。虚闇撃弾で2本の触覚が吹き飛び、その刹那、御鏡が敵に接近して鎌を振るった。額のコアに命中したが、ナイトウォーカーは何も感じないかのように襲いかかってきた。すばやく羽ばたかせて回避する御鏡。
レオンは様子を窺いながら、間合いを取っていた。他の者たちが戦い易いようにと光を調整するためでもあるが、戦闘体勢も含めてであった。
先に攻撃したのはEven‥‥回し蹴りが炸裂したが、ナイトウォーカーの腕が飛び、その反動でEvenは豪快に転げ落ちた。
「はっ!!」
レオンの巨体が動いた。強烈な拳の一撃がコアに命中した。それでもコアが破壊できないと瞬時に感じた時、ゆくるの虚闇撃弾がさらに決まる!
「?! ‥‥まだ‥倒れない‥‥です」
何分経過しただろうか。4人はコアに狙いを定めて攻撃していたが、ナイトウォーカーはゾンビのように餌を求めて彷徨っていた。御鏡は腕を切り裂かれ、とっさに下がった。
「‥‥奴が倒れるまで‥‥やるしかないか」
自嘲気味に言いつつ、何度も鎌を振るう。レオンが敵の脚に狙いをつけて攻撃したこともあり、ナイトウォーカーは仰向けに倒れこんだ。ゆくるも飛行するのが疲れて地上に降りたが、それでも援護は忘れなかった。虚闇撃弾が当たり、立ち上がったEvenの蹴りが止めとなった。コアは砕け散り、ナイトウォーカーはようやく息絶えた。
「‥‥。‥‥実戦は、試合とは違うものであるな」
さすがのレオンも、額の汗を拭い切ることができなかった。
●情報生命体という天敵
同時刻、闇の草原にてナイトウォーカーの群れが出現‥‥その場にいた者たちは呼応するかのように半獣化した。
目を輝かせて‥‥とは言え、パンダの覆面をしていたため目の輝きは見えなかったが、常盤 躑躅(fa2529)は闘える喜びを表すかのように両腕を天高く掲げた。
俺の名はバイオレットバイオレンス、覆面レスラー志望のスタントマンだ! ‥‥などと大声で言いつつ登場したかったが、今はそれどころではなかった。ここは闘いの場と化した。男は黙って仕事する! ‥‥などと心の中で思う常盤。仲間に幸運付与を施す様子は、幸福パンダマンだ。
バイオレットバイオレンスの切ない心の叫びを余所に、巨大ムカデのようなナイトウォーカーが5匹、蛇のごとく襲いかかってきた。
(「しまった! ‥‥幸運付与を使い過ぎて俺自身に付与できない?!」)
ある意味、カッコ良過ぎる男、その名は常盤 躑躅。仲間のため、能力を使い切ってしまったが、鶸のため、数本の矢を抱えて闘いに挑んでいた。
「なんか矢の命中が良いような?」
幸運付与のおかげかどうか断定はできないが、鶸の放った矢は次々とナイトウォーカーのコアに命中していく。セルゲイが翼を羽ばたかせて見下ろすと、金剛力増を駆使して日本刀で切り込む天目一個(fa3453)の姿が見えた。
「まだまだこれからよ!」
天目は敵の動きを鈍らせるため、刀で関節部分を狙っていた。空から地上の様子に注意を払っていたセルゲイは、ナイトウォーカーの動きを見て、あることに気がついた。地上にいたら分からなかっただろうが、空から見ると不自然にまとまって動いている。
「‥‥規則的に動いている? ‥‥まさか‥‥?」
それは何者かに操られているかのような動きにも感じられた。セルゲイは付近に怪しい人物がいないかどうか探っていた。高機能双眼鏡とは言え限度がある。鋭敏視覚にて草原一帯、付近の森にも目を向けた。
「‥‥どこだ? ‥‥どこにいる?」
逸る気持ちを抑えながら、セルゲイは低空飛行で周囲の探索をしていた。ナイトウォーカーの動きが鈍くなってきたこともあり、地上で戦闘していた者たちはコアへの集中攻撃へと移っていた。日本刀を両腕で操り、那由他は敵の懐に飛び込む。
「逃しはしないわ!」
気合を込めてコアを切り裂く那由他。別のナイトウォーカーが横から迫ってきたが、真緒の放った矢が突き刺さり、敵は悶え苦しんでいた。鶸の矢がなくなると、常盤が補充するため駆け寄ってきた。
「残り2匹か‥‥」
3匹は那由他と真緒、ヘヴィ、真木、鶸、天目の連携攻撃によりコアは破壊されていた。
「普通なら逃げてもおかしくはないが‥‥ほとんどの足を潰しても俺たちを狙ってくるなんざ、尋常じゃねえな」
ヤバイ気がする‥‥ヘヴィはそう思ったが、敢えて言わなかった。士気に関わることだからだ。
「さ、すがに‥‥きついな」
真木は呼吸が苦しくなってきたが、決して気を抜くことはしなかった。気になることと言えば、半獣化のままで頭にヘッドランプを被っていたことだ。能力も使い果たしてしまったが、ここからが本番だと自分に言い聞かせた。
「ムカデさーん、ムカデさーん。まだまだ餌はありますよ〜」
茶化すようにわざとらしく言う真木。だが、2匹のナイトウォーカーは那由他に攻撃をしかけてきた。その間に入ったのはセルゲイ‥‥素早く日本刀を構えて、前方のコア目掛けて斬りつけた。
「最後の、一匹‥‥」
那由他も激しく息を吐いていたが、深呼吸すると態勢を整えた。
「えいやっ!!」
刀を振り下ろす様は見事であった。那由他の一撃が決まると、コアは消滅し、ナイトウォーカーは崩れ落ちた。
ヘヴィは知友心話を使い、およそ5キロ先にいる御鏡に戦いが終わったことを告げた。どうやらレオンたちもナイトウォーカーを仕留めたらしい。そのことを皆に告げると、セルゲイが思案したような顔でこう言った。
「イオスは確か‥‥村で待機だったよな?」
「ええ、そうですよ。それが何か?」
真緒がそう言うと、セルゲイは徐に告げた。
「‥‥。‥‥なんか、イオスの声が聞こえたような気がしたんだ」
「知友心話‥‥じゃねえよな。イオスは使えねえって言ってたし」
ヘヴィは念の為、8キロ先の村で待機しているイオスに対して知友心話を使った。
「とりあえずそのこと、イオスに言っておいた」
疲れもピークに達したこともあり、一同は村へと戻ることにした。
翌日、昼間の調査が終わり、夕飯を食べた後、一同はイオスが泊まっている部屋へと集まった。セルゲイは探索して感じたことをありのままに話した。イオスは真剣な表情だった。
「諸君たちが討伐にいっている間、俺はずっと村の中にいた。正確に言えば、この部屋だ。村では特に不審な動きはなかった」
「仮に聞いた声がイオスではなかったとしても、あれは‥‥男の声だった。それとも、幻聴だったのか‥‥」
セルゲイの言葉に、真木は軽く背中を叩いた。
「セルゲイのおかげで、何かに操られている可能性が出てきたって分かっただけでも良かったですよ」
「‥‥今回の目的は果たされた。諸君、ありがとう」
イオスがそう言うと、天目が待ってましたと言わんばかりの顔になっていた。
「明日は宴会よ! 飲んで飲んで飲みまくりましょ!」
そして、真木が買出しに行くことになった。
「ゆくるは‥‥メロンパン‥買う、です、」
最終日、御鏡がメロンパンを食べたか否か、ここでは敢えて書かないことにしよう。