堕天使フェアリーの唄ヨーロッパ

種類 ショート
担当 大林さゆる
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 12人
サポート 0人
期間 11/19〜11/23

●本文

 アイルランドの民間信仰‥‥フェアリーに纏わる話。
 この国では、フェアリーという種族は天界から落とされた天使という説もあった。
 地獄に落とされるほどの罪ではなかったため、彼らは地上にいることが許されたと言う。
 最後の審判が下った後、フェアリーたちは自分が今後どうなるのか、不安な日々を過したという話も残っている。

 そんな話を聞かせてくれたのは、アイルランドの小さな村に住んでいる占い師であった。
 ケルト文化の精神が深く残っているこの国では、占いもまた実生活と密着しており、都会の街角でも占い師の姿を見かけるのは風物の一つでもあった。人と自然が互いに共存できるような場所と言っても過言ではないだろう。
 占い師は文字通り「占い」も得意であったが、アイルランドの占い師たちはケルト文化にも詳しい。資料や文献には書かれていないことでも彼女たちは知っている。そのため、密かに考古学者たちが訪れることもあると言う。
 近代占星術は論理的な系統が主流であるが、アイルランドではそれほどしっかりした体系はないようにも感じられた。学問的なものではなく、占いを生活に取り入れるといったスタイルと言った方が良いかもしれない。
 特にアイルランドの占い師たちは笑顔に溢れており、どこにでもいるような普通の人にも見えた。だからこそ、彼女たちは人々に長く親しまれているのだろう。

「おやおや、天のお使いでもきたのかね?」
 フェアリーの話にも詳しい占い師‥‥ダリア婆さんは、微かな音に気付いて窓を開けた。夜の冷たい風が優しく頬を撫でた。家には他に誰もいない。ダリア婆さん一人きり‥‥ふと、頭にウサギの耳が出てきた。何かの音を聞き分けるようにウサギの耳がピクピクと動いた。
「‥‥いなくなったようだね‥‥ま、若いもんにでも任せるかね?」
 ダリア婆さんは兎の獣人であったが、近所に住む人々はそのことまでは知らなかった。誰もが『ダリア婆さん』と呼び、親しまれている占い師だった。
 翌日、近所に住む子供たちがやってきた。何か困ったことがあると来るが、今回はいつもにも増して困った表情をしていた。
「あのね、最近、羽根をつけた人がいるみたいなの。暗くなる前に見たって子がいるの。もしかして‥‥天使だったら恐くないと思うけど、そうじゃなかったら‥‥」
 多感な年頃の子供にとっては、それは恐ろしく、震えながら話していた。ダリア婆さんは安心させるように子供たちの頭を撫でてやった。
「この村には天使の言い伝えもあるからね。しばらくは早めに自宅へお帰り。何かあれば私が助けにいくから」
 そう言われて、子供たちはすぐに家へと帰っていった。単なる噂話ならば良いが、念の為と村にいる警察も夜の巡回を強化していたらしいが、やはり羽根をつけた人が度々深夜に現れるという。
「私も年だし‥‥一人じゃ戦えそうにないね‥‥久し振りに連絡してみましょ」
 何故か少しだけうれしそうにダリア婆さんは電話をしていた。

 数日後、WEAからナイトウォーカー討伐の依頼が入った。アイルランドの小さな村にいるであろうナイトウォーカーの殲滅である。初日、依頼に参加した者たちは、占い師として有名なダリア婆さんの自宅へと行くことになった。
「一日でも早く見つけ出し、人々の安全も確保していただきたい。表向きは『観光客』として動いてもらうことになる。『堕天使らしき者』もナイトウォーカーである可能性が非常に高い。群れのナイトウォーカーは飛行可能な『中型の虫タイプ』であることが判明した。腕に自信のある者は、ぜひ討伐に向かって欲しい!」
 堕天使らしき者の正体は何か‥‥?
 見えない闇が渦巻いていた。

●今回の参加者

 fa0204 天音(24歳・♀・鷹)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1126 MIDOH(21歳・♀・小鳥)
 fa1423 時雨・奏(20歳・♂・竜)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa2609 朱凰 夜魅子(17歳・♀・竜)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4658 ミッシェル(25歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●初日
 アイルランドの小さな村に到着‥‥地図を頼りに一同はダリア婆さんの自宅へと向かった。
「日本酒と温泉饅頭、土産に持ってきたで。遠慮せんともらってや」
 自己紹介の後、時雨・奏(fa1423)はダリアに手土産を手渡した。すると、湯ノ花 ゆくる(fa0640)は紙袋を差し出した。
「ゆくるは‥‥メロンパン‥です。おいしい‥‥ですよ」
「なんだか気を遣ってもらってしまって申し訳無いね。だが、ありがたく頂戴するよ。ありがとう」
 ダリアは年相応に皺のある指をしていたが、優しい手つきで2人から土産を受け取った。
「来て早々だけど、依頼期間は限られてるわ。作戦を練り直さない?」
 神保原和輝(fa3843)がそう言うと、皆に異存はなかったようだ。それぞれが自分のやることを説明した後、ダリアはこう告げた。
「MIDOHさんの案は、村の皆にとっても良いことだと思うよ。ぜひともコンサートをして欲しい‥‥皆が不安がっているんだ。音楽で明るい雰囲気を取り戻せるならば、私もうれしいしね」
 それを聞いて、MIDOH(fa1126)はうれしそうに笑っていた。
「そういうことなら喜んでやらせてもらうよ。歌はなんたってあたしの専売特許だから」
 彼女の言う専売特許とは、この場合『特技』という意味である。ダリアの伝で村の公民館を借りてコンサートを行うことが決まった。それも2日目と3日目の二日間‥‥夜の部にMIDOHがコンサートを行っている間、他の者たちは討伐に向かうことになった。
 MIDOHが『天界からの声』を利用して魔力を帯びた歌を繰り広げ、村人たちがコンサートに集中していれば、村外れでナイトウォーカーが現れても仲間が別の場所へ誘導して闘う事もできるだろうし、ナイトウォーカーも歌による魔力で危険を察知して近付かない可能性も考えられる。少なくとも村の危険は少なくなるということで、MIDOHはコンサートに専念することになったのだ。
「あ、そうだ。少し前にもアイルランドで依頼があって‥‥今回の依頼と何か関係あるのかな?」
 ベス(fa0877)が円らな瞳で告げた。ダリアは微笑んでいた。
「そういや、前の依頼に参加してた人も今回いるみたいだね。私よりも彼らの方が詳しいんじゃないかね?」
 その言葉に対して、鶸・檜皮(fa2614)が応えた。
「前回の依頼は北西の村で遺跡の撮影もやったが、研究の結果というのはそう簡単に割り出せるもんじゃないし、少なくとも目安らしきものが分かるのは1ヶ月‥‥場合によっては3ヵ月から半年とか言ってたな。遺跡に関しては詳しいことは分からない‥‥ケルト神話と関連のある遺跡と聞いたが、まだまだ推測の域から出ないみたいだ。それから、ナイトウォーカーは普通、単独で本能的に行動するのが常なんだが、前回のは何者かに操られている可能性があることだけは分かった。だから今回のヤツもその可能性は大いにある。皆‥‥気を付けてな」
「なるほど‥‥分かりました。今回のナイトウォーカーは空を飛ぶとの情報もありましたら、私は弓を持ってきました」
 ミッシェル(fa4658)はギターケースの中にコールドボウと数本の矢を入れて持ってきていた。
「わしはアーチェリーにしたのじゃ」
 DarkUnicorn(fa3622)‥‥ヒメ・ヒノトはNWハンターというだけあって、抜かりはなかった。
「銃だと万が一の刻、刑事事件にも繋がる恐れもあるが、弓ならばアーチェリーの練習をしていたとか適当に話をそらすこともできるしのう。矢を拾い忘れたとて、銃の弾が落ちてるよりは怪しまれないじゃろうしな」
 ヒノトの言うことは最もなことだと思い、和輝は作戦を成功させるためにも敢えてアーチェリーを選んだようだ。幸い、本部からも弓を使用する者たちに対して数十本の矢が支給された。


●歌と、闘いと‥‥
 MIDOHが持っている純銀のマイクは『天界からの声』というオーパーツだが、人々には芸能人が使用するものにしか見えない。カーミラの服に着替え、コンサートが始まる。
 ギター片手に歌い始めるのはMIDOH‥‥まずはアイルランドの民謡をアレンジして村人たちの心を引きつけた後、賛美歌を熱唱する。音楽というのは歌詞が外国語であってもメロディに乗ると不思議と心に響く。
 これがナイトウォーカー討伐と関わりがあるとは誰が感じるだろう‥‥人々には知る由もなかったが、コンサートが行われる中、ヒノトたちは村から1キロ離れた草原へと向かっていた。夜の森林では木々がかえって邪魔になるということもあり、見晴らしの良い草原へと群れのナイトウォーカーを誘い込んだ。
 ベスから借りた白亜の石像『パラディオン』を地に立て、ヒノトが1分ほど念じると結界が張られた。ここを目安に飛行するナイトウォーカーを落とすという作戦だ。なるべく一箇所に集まるように追い込むことができればコアも狙い易くなるだろう。
「おりゃぁぁぁぁぁぁー」
 パンダの覆面を被った常盤 躑躅(fa2529)が結界目掛けて走り込んでくる。村から離れているし、コンサートの最中でもあるから少しくらい声を出しても大丈夫‥‥なのかは明言できないが、話し声程度ならば問題ないだろう。
 昆虫のような羽根を付けたナイトウォーカーが5匹、パンダという餌に釣られたのか追いかけてくるように飛翔してきた。結界の少し前まで飛んでくると、ミッシェルがコールドボウで矢を放った。
 放たれた矢は氷に包まれ、ナイトウォーカーの羽根に突き刺さった。その衝撃で運良く結界の中に落ちたのは2匹。和輝とヒノト、鶸もアーチェリーで応戦する。狙いはやはり羽根だ。翼を持つ和輝と鶸は空中から次々と矢を放った。結界から外れて落ちたナイトウォーカーは常盤とヒノト、そして朱凰 夜魅子(fa2609)が蹴りや武器で弾き飛ばして羽根を引き千切る。
「逃げようなんて‥‥無駄だ」
 夜魅子は冷静に敵の翼を毟り取り、結界の中に放り込んだ。パラディオンの効力により、ナイトウォーカーの動きが鈍っていた。だが、残り時間は30分‥‥なんとかそれまでにコアを破壊したいところだ。
「コアは胸だ! 頭じゃないぜ!」
 ヘッドランプがよく似合う男、パンダ覆面の常盤が援護に入った。背を見せるナイトウォーカーを鞭で裏返す。とっさに鶸も携帯していた鞭で敵をひっくり返した。コアに狙いを定めて矢を放つミッシェルと和輝。特殊警棒を持った夜魅子がさらに叩きのめした。
 闘いはさらに続く。4匹目のナイトウォーカーが息絶えた時には結界の効果はすでに切れていたが、羽根をもぎ取られ、触角や足を潰されたナイトウォーカーに逃げ場はなかった。だが、執念なのか本能なのか、残り1匹になっても牙を剥き出しにして夜魅子の足に喰らいついてきた。
「夜魅子!」
 ヒノトが日本刀に持ち替え、ナイトウォーカーの首を叩き切った。それで終わりではない。まだコアが残っている。すばやくそう判断した夜魅子は痛みを堪えて敵のコアに警棒を叩き込んだ。
「これはおまけだ!」
 ソードで斬りつけたのは常盤だった。しかしながら、それは止めにはならなった。ミッシェルが矢を放ち、和輝が最後の矢を放って、ようやくナイトウォーカーは崩れ落ちた。
 周囲が静まり返り、微かにコンサートの音楽と冷たい風の音が聞こえた。夜魅子が倒れると鶸が抱き起こしてヒノトの所まで連れていった。半獣化していなければ致命傷になっていたかもしれない。それは夜魅子だけでなく、皆にも言えることであった。
「ふむ、これで大丈夫じゃ」
 ヒノトが治癒命光で治癒すると、夜魅子は小さい声で礼を述べた。


●堕天使らしき者
 少女の背には翼があった。蜻蛉に似た羽根は月の光に反射して淡い色に見えた。
 湖の辺にいる羽根を持った少女は、幻想のように空ろな顔をしていた。普通の人間ならば、彼女を見れば見惚れてしまうかもしれない‥‥。
 だが‥‥。
 ベスが声をかけようとした時、少女は変わった。それは獲物を狙う獣のごとき‥‥否、巨大な蝿へと変貌した。
「うわっ、めっちゃホラーな展開やな」
 思わず時雨も冷汗が零れた。
「ぴえぇ〜!?」
 ベスも奇声を発するほどである。
「これでは話もできませんね」
 サトル・エンフィールド(fa2824)が苦笑混じりに告げた。
「‥‥ナイトウォーカー‥です。なら‥‥」
 倒すしかない。ゆくるはそう思いつつ、攻撃態勢に移った。サトルは友好魅瞳を何度か使ったが、蝿のナイトウォーカーにはあまり通用しなかった。友好魅瞳の効果が出たのは残り1回の時‥‥だが、抵抗されてしまい、ナイトウォーカーは逃げるつもりだったのか、羽根を広げて飛び去ろうとした。
「任せるのじゃ!」
 天音(fa0204)は翼で素早く飛翔し、特殊警棒で巨大蝿の羽を叩き潰した。
「まずは落とさなあかんな」
 降魔刀を持ち、時雨も翼を羽ばたかせて敵の羽根を切り裂いた。しばらく空中戦となったが、天音と時雨の攻撃、さらにベスの飛羽針撃により、ナイトウォーカーは羽根を失い、湖に落ちた。激しく水が飛ぶ中、ゆくるは敵の出現を待つように手を突き出した。
 敵が飛び出すと同時に、闇波呪縛を放つゆくる。ナイトウォーカーは度重なる攻撃で弱っていたのか抵抗できず、動きが鈍くなっていた。ベスはさらに羽根を取り出し、飛羽針撃で攻撃をしかけた。
「コアは頭っていうか、額だよ!」
「‥‥よし!!」
 一か八か、サトルは飛操火玉を全力で使うことにした。必ずしも成功する訳ではない‥‥サトルにもそれは分かっていたが、願いを込めて炎を浮かび上がらせた。
「僕の力‥‥今度こそ!」
 失敗すれば皆にも迷惑がかかる‥‥サトルは慎重に技を繰り出した。
 炎が舞い、迸る!!
 ナイトウォーカーは火に包まれ、次第に異臭が漂ってきた。
「コアを破壊するのじゃ!」
 天音が額のコアを狙って警棒で叩く。ゆくるが日本刀で斬り付け、時雨が降魔刀を振り下ろした。身体は炎により全焼したが、コアが残っていた。
「再生する前に破壊しなければ!」
 サトルの言葉に応えるように、ゆくるは落ちているコアに日本刀を突き刺した。するとコアは砕け散り、焼け跡だけが残っていた。
「‥‥。‥‥黒コゲ‥です。後始末‥‥しないと」
 ゆくるがそう言うと、時雨が考え込んでいた。
「そうやな。後始末のことも考えんとあかんよな。まあ、とりあえず『焚き火の跡』みたいに見せかけてみる?」
「すみません‥‥僕のせいで余計なことを」
 サトルが申し訳なさそうに告げた。時雨は安心させるように、サトルの肩に手を乗せた。
「気にせんでええ。サトルのおかげで倒せたんや。逆に礼が言いたいくらいやで? この場所で焚き火してましたって、警察に言ってみるか?」
「そうじゃな‥‥ダリア婆さんにも相談して、なんとか取り計らってもらうかの?」
 天音と時雨の言葉に、サトルは微笑んでいた。
「そう言ってもらえると助かります」
「ゆくるも‥‥協力‥しますよ?」
「あたしも〜♪」
 結局、ダリア婆さんが警察を言い包めて、と言うよりもダリアの日頃からの信頼関係により、後始末はどうにか取り計らうことができた。そして、MIDOHのコンサートは人々に喜ばれ、村は以前のように活気を取り戻したと言う。

 獣人たちは、人知れず任務を全うする。ある者は、自分のために。
 音楽を愛する者は、人々の笑顔を守るために。 
 想いは異なれど、力ある者は何かを為す為に生まれてきたのだ。
 それは人も、獣人も変わらない。
 ダリア婆さんは、皆にそう告げた。
 占いで分かるのは、ほんの一握り‥‥自分の好きなことが将来に繋がると、ダリアは微笑みながら言っていた。