時代劇〜京士朗、参る!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 大林さゆる
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 4.3万円
参加人数 12人
サポート 0人
期間 12/18〜12/23

●本文

 お江戸八百八町。徳川幕府の栄華が続き、世は平安となった。
 そのため、浪人になる侍も少なくなかった。
 音無 京士朗。彼も浪人の一人だった。その日暮らしの気楽な人物だと評判だったが、剣の腕は神業との噂あり‥‥まあ、噂というだけで本当かどうかは定かではない。それでも、困った人がいれば助けに来てくれる優しい浪人でもあった。

 さてさて、最近のことであるが、越後屋に不審な動きがあるらしい。そのせいか、店主がお上にしょっ引かれてしまった。今は女将が店を切り盛りしているらしいが、店主のように上手くできない。
 ということで、半年前から雇われた庄治という男が女将の手伝いをするようになった。しばらく経ってから、売上よりお金が少なくなっていることに気が付いた。少額だったため、赤字にはならなかったが、やはり何度も減るというのはおかしい‥‥。
 そう思った越後屋の女将は京士朗に相談した。その2日後、女将が姿を消した。相棒の余市と協力して女将を探す京士朗であったが、1週間経っても見つからない。それがかえって妙な気がした。
 現在、越後屋を仕切っているのは庄治だった。彼の動向を密かに探ってみると、時折、賭博屋に行っていることが分かった。だが、庄治は恐らく何者かの使用人であろう。黒幕は別にいる。
 そう思った京士朗は賭博屋に入り込み、黒幕の名を聞きだすことにした。そこで博打屋の親分と用心棒の佐川 流星と鉢合わせとなった。
 果たして、黒幕は誰か? 越後屋店主の無実を証明するためにも悪を斬る! 京士朗の活躍、いかにして見せるか? 好ご期待!


●主な見せ所
音無 京士朗と佐川 流星の殺陣(斬り合い、立ち回りの場面)が見せ場になります。できれば壮絶に斬られる悪側の脇役も欲しいところです。斬られ役がいるからこそ、主人公たちの見せ場が盛り上がるのです。 
 

●登場人物
音無 京士朗(おとなし・きょうしろう)‥‥主人公の浪人。昼行灯を気取っているが、剣の腕前は日本一らしい。

余市(よいち)‥‥京士朗の相棒。実は正統派の忍者だが、正体を隠している。表向きはとある屋敷の飯炊きをやっている。

楓(かえで)‥‥京士朗の友人。余市の妹で「くのいち」だが、表向きは呉服屋で働いている。

藤崎 藤吾(ふじさき・とうご)‥‥江戸の大名。越後屋(庄治)と裏取引をしている。黒幕。

越後屋の店主‥‥江戸一番の店と評判だが、悪事に巻き込まれる。善人。

庄治(しょうじ)‥‥越後屋で働く男。藤崎大名と裏取引をしている張本人。悪人。

灯元(とうもと)‥‥博打屋の親分。かなり悪い事をしているらしい。意外と強い。藤崎大名と裏取引をしている。

佐川 流星(さがわ・りゅうせい)‥‥灯元の用心棒。剣の達人。強い者と闘うことが好きなだけで、悪い人ではない。

エキストラ(脇役・悪側の斬られ役)‥‥2〜4人くらい。ご自由に役を決めて下さい。酒場の娘、近所の子供など。斬られ役は意外と難しいです。かなりの演技力が望まれます。博打屋の子分、大名の家来などが悪側の斬られ役になります。

●今回の参加者

 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1180 鬼頭虎次郎(54歳・♂・虎)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1453 御堂 陣(24歳・♂・鷹)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa3280 長澤 巳緒(18歳・♀・猫)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)
 fa4764 日向みちる(26歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●時代劇『京士朗、参る!』〜キャスト
ラリー・タウンゼント(fa3487)‥‥音無 京士朗
伝ノ助(fa0430)‥‥余市
因幡 眠兎(fa4300)‥‥楓
鬼頭虎次郎(fa1180)‥‥藤崎 藤吾
タケシ本郷(fa1790)‥‥佐川 流星
片倉 神無(fa3678)‥‥灯元
御堂 陣(fa1453)‥‥庄治
日向みちる(fa4764)‥‥丁半博打の壷振り
弥栄三十朗(fa1323)‥‥越後屋の店主
都路帆乃香(fa1013)‥‥越後屋の女将
春雨サラダ(fa3516)‥‥越後屋の女中
長澤 巳緒(fa3280)‥‥飯屋の看板娘


●色は匂えど
 いつの時代であれ、人は何かに惑わされる。流れ流れて、いつまで彷徨うのか‥‥。
 花の御江戸と呼ばれし時代‥‥年の暮れでも騒ぎが収まらぬとは何事か?
 ああ、懐寂しき今日この頃。武士は食わねど高楊枝、とはいかぬ御時世であった。

「あら、京さん。いらっしゃい」
 馴染みの飯屋に入ると、店の娘が明るい笑顔を見せた。
「いつものやつ、頼む」
 音無 京士朗は座敷に座り、右腰に付けていた刀を床に置いた。もちろん鞘に納められたまま、どのような真剣なのかは知らない者が多かった。
「京さん‥‥越後屋の旦那さんが捕まったのは知ってる?」
「ああ、北町奉行所が身柄を預かってるってのは聞いてる。巳緒さん、他になんか聞いてないか?」
 京士朗の言葉に、しばし思案顔の娘であったが、渋々と話し出した。
「最近、越後屋では何故か庄治っていう人が店を仕切ってるわ。愛想は良いみたいだけど‥‥なんとなく嫌な感じがする」
「女の勘ってヤツか? 巳緒さんは人を見るがあるからな。そんじゃ、御馳走さんっと」
 飯を平らげて、京士朗が立ち上がると娘はとっさにこう告げた。
「ツケは今度来た時に払ってね。あまり貯め過ぎると、京さんのためにもならないし」
 この時代、飯屋のツケは当り前で、ある程度給った後払うことも少なくなかった。
「それじゃ、お言葉に甘えて今回はツケで。今度来た時、払うよ」
 飯屋の娘に見送られ、京士朗が向かった先はとある屋敷の裏口であった。ふと見遣ると、飯を炊いている男がいた。その男は仕事に専念しつつ、京士朗の気配を感じながらも振り向きもせず言った。
「神隠しの話でござるか?」
「まあ、そんなところかな?」
 京士朗がおどけた調子で言うと、飯炊きの男‥‥余市は笑いながら火加減を見ていた。
「御主が俺の所に来る時は、決まって厄介事を抱えた時でござろう。話は察している‥‥越後屋の件でござろう?」
「いつもすまないな」
「ここ数日、妹と協力して大凡の場所は分かったでござる。詳しい話は俺の仕事が終わってからで良いでござるか?」
「楓も一緒‥‥ってことは、それだけ厄介な話ってことか。分かった。終わったら俺の長屋に来てくれ」
 そう告げた後、京士朗は通りへと足を運び、念の為、越後屋の前を通り過ぎることにした。案の定、客の接待をしていたのは庄治であった。
「おやおや、お侍さんですか? 何か御用で?」
「いや‥‥俺は侍ではない。女将さんとは知り合いでね」
 京士朗がそう言うと、女中が店内から現れた。
「音無様ですね? 実は折り入って御話したいことがあります」
 女中は必死な表情をしていたが、京士朗は朗らかに笑っていた。
「この子と少し話がしたいんだけど、少しの間、良いかな?」
「申し訳ありませんが、今は仕事中でして‥‥後にしてもらえませんか?」
 庄治がそう言った後、京士朗は潔く引き下がった。
「そうだな。申し訳無い。女中さん、仕事が終わったら俺の長屋にでも顔出してくれよな」

 夕方。長屋にて余市と京士朗が話し合っていると、女中がやってきた。
「やっぱり来たかい?」
 京士朗が言うと、女中は堪え切れずに泣きながら告げた。
「女将さんが‥‥いなくなってしまったんです。旦那様も捕まり‥‥もうどうして良いのか分からなくて‥‥」
「女将さんがいなくなったでござるか?」
「となると、辻褄は合うな。越後屋の旦那が裏取引しているってのは偽の情報である可能性が高いな」
 京士朗は刀を持ち、立ち上がった。
「安心しな。ご主人も女将さんも、俺たちがなんとかする」
「‥‥あ、ありがとう‥‥ございます」
 女中はようやく安堵の溜息をついた。


●散りぬるを
 大名屋敷の一室。夜も更けた頃、とある男が大名と密談していた。
「このままいけば、越後屋は私めのもの‥‥これも全て藤崎様のお陰で御座います」
 一礼した後、庄治は山吹色の菓子を大名‥‥藤崎 藤吾の前へと差し出した。
「ふふ、庄治よ‥‥お主も悪よのぉ」
「藤崎様に比べれば、私など蛙も同然‥‥今度来る時は、この菓子を箱いっぱいでお持ちいたしましょう」
「ふむ‥‥それは楽しみだ。期待しておるぞ」
「ありがたき御言葉。次回お会いするのが楽しみで御座います」
 深々と頭を下げ、庄治は部屋から出ていった。天井裏の隙間から、余市と楓が様子を窺っているとは知る由もなかった。

 屋敷の地下室には、越後屋の女将が牢に閉じ込められていた。
「‥‥旦那様‥‥」
 目に涙を浮かべ、女将は布団の上で寝そべっていた。しばらくすると、甘い香りが漂い、いつしか眠りに落ちた。牢の番人と女将が寝たことを確認すると、楓は音も無く忍び寄り、牢の鍵を外した。
(「‥‥女将さん‥‥無事で良かった」)
 そう思いつつも、楓は緊張を解くことはしなかった。女将を背負い、抜け道を通り、大名屋敷の外へと脱出した。

 屋敷内の賭場では、男たちが真剣勝負をしていた。とは言え、丁半博打である。
「よござんすか? よござんすね?」
 背中に緋牡丹の刺青をいれた壷振りの女が、男たちの前で壷の中身とサイコロを見せた。壷振りは胸に晒し木綿を巻き、着物を片肌脱ぎにしてこともあり、男たちの目を引いた。そんなこともお構いなしに、長煙管を咥えているのは、賭博の親分‥灯元であった。頬に傷があるのは、彼の人生を物語っているようにも見えた。
「イカサマなしで頼むぜ?」
 灯元は手下の男たちを睨めつけ、賭けに励むように目配せした。男たちの間に緊張が走り、壷とサイコロへと目線を変えた。
「‥‥では、入ります!」
 壷振りはサイコロを壷に入れ、巧みに振った後、床に置いた。
「さあさあ、丁か半か、勝負!」
 その時であった。障子が豪快に開いて、一人の浪人がひょっこりと現れた。
「ふーん‥‥ここで賭け事してたって訳か」
「浪人風情が何のようだ? 俺らの仲間にでも入るってか?」
 灯元は相変らず煙草を口に含みつつ、動ぜずに言った。手下は親分の様子を見て、静かに事の成り行きを見ていた。灯元は言葉で発することはしなかったが、態度で手下たちに今は動くなと指図していた。
「ここに来るまで、何人くらい斬ったんだ?」
 灯元の問いに、浪人‥京士朗が答えた。
「さて‥‥何人いたのか‥‥数えてる暇はなかったぜ?」
「最近、俺らを嗅ぎ回ってる奴がいるのは知っていたが‥‥おめぇさんかい? 飛んで火に入る夏の虫ってぇ奴だな。もっとも今は冬だが」
 すくっと立ち上がり、灯元は大声を張り上げた。
「さぁ、野郎ども! 畳んじめぇ!!」
「へぇい!!」
 灯元の言葉で京士朗に斬りかかる男たち。だが、京士朗は軽く回避するだけで鞘から刀を抜こうとはしなかった。男たちは刃物を振り回すが、京士朗にはなかなか当たらず、掠りもしなかった。
 灯元の合図で背後から狙うは壷振り。彼女の気配を察して、京士朗は刀を抜き、一瞬にして武器を叩き落した。その刹那、ドスを手に持ち奇襲をかけたのは灯元‥‥京士朗は袖を切り裂かれたが、反射的に刀で相手の腕を斬り付けた。血飛沫が飛ぶが、灯元は武器を落とすことはなく、さらに京士朗へと攻撃を仕掛けた。
 壷振りは体勢を整え、灯元の援護に入ろうと走り出した時、背中にクナイが突き刺さった。急所に当たったこともあり、どさりと声を発することもなく息絶えた。クナイを投げたのは楓であった。
 騒ぎを聞きつけ、藤崎が何事かと自室から出てきた。行く手を阻むのは黒装束の男、余市であった。いつもとは違う鋭い視線で余市は藤崎を睨みすえた。
「間者か‥‥誰かおらぬか! 引っ立てぃ!!」
 藤崎の声で集まった家来は2人であった。
「他の者はどうした?!」
「‥‥何者かに斬り付かれ、我々のみ‥‥です」
「なんだと?!」
 家来の言葉に、藤崎は余市を見遣った。
「おのれ‥‥貴様か?」
「残念ながら、俺ではないでござるが‥‥藤崎大名とやらの相手は俺でも十分でござろう?」
「貴様‥‥ここが藤崎の屋敷と知っての狼藉か?」
 藤崎は躊躇うことなく刀を抜いた。
 一方、京士朗は男たちを薙ぎ倒し、灯元を奥の部屋へと追い詰めた。
「さすが親分だけあって、しぶといな」
 京士朗が少し感心したように告げると、灯元は口元に流れる血を拭いながら言った。
「佐川先生‥‥代金分の仕事、きっちり頼んまさぁ‥‥」
 ゆるり‥‥静かに、風のごとき現れた男は剣の達人‥‥佐川 流星であった。  
「貴殿‥‥灯元殿を追い詰めるとは‥‥只者ではないな?」
 最初は遊び半分で見ていただけの流星であったが、大振りな灯元の剣捌きに対して無駄な動きが無い京士朗の剣術に気付き、胸が躍った。
「我が名は流星‥‥佐川 流星。命を賭けて闘う相手に問うておきたい。汝の名は?」
「俺かい? 俺の名は音無 京士朗。ただの浪人さ」
 互いに間合いを取り、京士朗だけ剣を構える。汚い仕事をしていた灯元でさえ、入り込めない領域と化した。思わず灯元は生唾を飲み込んだ。そして、二人の戦い振りを見たいとさえ感じた。
 京士朗は何故か、穏やかな表情になっていた。それとは裏腹に緊張感が漲ってくる。武人なればこそ、感じられる『何か』であった。
「何と広大な‥‥海を思わせる瞳だ。我はただ、この賭場で生き腐れていただけなのか? いや、違う‥‥断じて違う。我が日々が無駄でない事の証しを、この一太刀に賭けて証明してみせる」
 流星は京士朗の瞳を見つつ、無の境地に入った。流星の刀は未だ鞘の中。
 何とも言えない一瞬であった。
 一閃炸裂! 流星の抜刀術が京士朗を討った。
 否、討ったと思ったのも束の間、京士朗は完全に相手の動きを見抜き、一文字斬りを放つ!!
「‥‥なんと‥‥見事な‥‥その境地まで達しているとは、怖ろしい男よ‥‥我、遂に及ばず‥‥」
 大の字になり、流星は崩れ落ちた。
「‥‥佐川 流星‥‥倒すには惜しい男だった」
 そう告げた後、京士朗は灯元の首根っこを掴んだ。
「‥‥俺も‥‥佐川先生と同じ所へ行けってか?」
「親分さんが行くのは別の所だ」
「北町奉行所である! 藤崎 藤吾、及び、灯元は我等が預かる!」
 藤崎はすでに余市によって気絶させられ、縄で縛られていた。北町奉行所の役人たちが数人屋敷内に入り、灯元は役人たちによって縛られた。その隙に逃げようとした庄治であったが、すぐさま余市に追い付かれ、当て身で気絶‥‥余市は普段着になって「こいつが裏取引の張本人です」と役人たちに引き渡した。
「これで越後屋店主の無実は証明できるな」
 役人の一人がそう言いながら庄治を縄で縛り付けて担いだ。京士朗は灯元たちが役人たちにしょっ引かれていくのを見送った後、流星の元へと戻った。
 しかし‥‥すでに彼の姿はなかった。流星がいた場所には、血文字の文が置かれていた。
『我が修行、成就した刻、再戦、願う』
 いつかまた、流星と闘う日が来るのか‥‥? それは京士朗にさえ分からなかった。


●変わらない心
「旦那様!」
「心配をかけてすまなかった‥‥大名に酷いことはされなかったか?」
 越後屋の店主は晴れて無実となり、釈放された。夫婦は互いに抱き合い、生きている喜びと愛する者の温もりを感じていた。北町奉行所から出た後、京士朗が待っていた。
「私がもう少し早く動いていれば、音無殿にも迷惑をかけずにすんだものを‥‥申し訳ありませんでした」
 店主が頭を下げると、京士朗はかえって恐縮していた。
「よしてくれよ。そんな他人行儀なことは。いつもの調子で頼むよ」
「そうですか。ですが、庄治は本当によく働く真面目な男だったこともあり、私も単なる思い過ごしだと自分に言い聞かせていたんだ。私の商人としての勘が『あの男はどこか怪しい』と告げていたのだが‥‥私もまだまだ甘かった」
「そんなことはないさ。旦那のは甘いんじゃなくて、優しいってことだ。それにつけ込む人間がいるのは確かだが、旦那にはこれからも変わらずにいて欲しい」
 京士朗がそう言うと、店主はうれしそうに笑っていた。
「変わるも何も、私はこれからも越後屋を‥‥いや、お客様に喜ばれるような店になるように頑張るさ」
「そうそう、その調子。そんじゃ、女将さん、旦那、元気でな。女中さんにもよろしく」
 そう告げた後、風と共に去っていく京士朗であった。