『A』〜アイルランドへヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
大林さゆる
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
6.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/23〜01/27
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●本文
ロック・グループ『A』が新曲をリリースしたのは数ヶ月前。
ヴォーカル、IRITO。ベース、KAISE。ドラム、TAKI。
今は3人グループとして活動していた。
「やっぱ『A』を『エー』って読む者が多い。つーことで、ここでもはっきりと言わねばならん。『A』と書いて『エース』と読むべし! ってな」
IRITOは何かにつけてグループ名の読み方を気にしていた。リーダーのTAKIは、そういったことには無頓着だった。アイルランドの首都ダブリンに到着しても、この調子だ。
事務所の取り計らいにより、3人は今まで頑張った御褒美として『アイルランド・ツアー』に参加することになった。
「本当かどうか分からんが、ロックのルーツ辿るとアイルランドも含まれるらしいんよ?」
KAISEの言葉に、IRITOは何か閃いた顔をしていた。
「ふっふっふ、ここまで来たからには俺たちもロックせねばならんねー」
ダブリンのストリートを見れば、アマチュアのミュージシャンたちが楽器を弾いたり、お爺さんが楽しそうにアコーディオンを鳴らしていた。音楽を楽しむのは、文化の一つでもあり、日常的なことでもある‥‥そんな風に感じさせるような街並みであった。
ダブリンの中心部には『テンプル・バー』と呼ばれる地区がある。そこはカルチャー・センターとしても機能していた。以前はスラム化が進んでいたらしいが、今は芸術の中心地として栄え始め、最新のアート等も目の当たりにできるようにまでなっていた。
「英語が通じなくても、きっと音楽は通じるはずだぜ。てことで、ストリートライヴでもやるか?」
IRITOの一言に、KAISEもTAKIも異論はなかったようだ。
「まあ、なんだ。せっかくだから、参加者でも募集してみっか?」
場所は『テンプル・バー』‥‥意外と狭い通りなので、大掛りなものは用意できないが、気楽に演奏できる楽器ならば問題ないだろう。TAKIは本来ドラムであったが、今回のストリートライヴではギターを弾くようである。ちなみにIRITOはヴォーカル専門で、楽器はほとんど弾けない。タンバリンやトライアングルを鳴らすことができる程度である。
と言うことで、音楽好きな者たちに声をかけることになった。興味のある方は、ぜひとも『A』と一緒にストリートを盛り上げて欲しい。
●リプレイ本文
●テンプル・バー〜ストリートライヴ〜参加ユニット
『明星』‥雛姫(fa1744)。棗逢歌(fa2161)。Iris(fa4578)
『アドリバティレイア』‥文月 舵(fa2899)。アリエラ(fa3867)
『BLUE−M』‥星野・巽(fa1359)。美日郷 司(fa3461)。アレクサンドル(fa4557)
『A』‥IRITO。KAISE。TAKI。
●せっかくだからさ
アイルランドの首都ダブリンに到着した一行は、お互いに自己紹介した後、まずは下見とばかりにアマチュアのミュージシャンたちが集う通りへと足を運んだ。
「アイルランドに来るの、久しぶり〜♪ ここで演奏すんの子供ん時からの夢だったんだよね。だから今回は夢‥、じゃなくて現実になって最高の気分!」
棗逢歌は珍しく無邪気な笑みでそう告げた。いつもの悪戯っぽい笑みはどこへやら。逢歌の言葉に妙に反応していたのは『A』のメンバーであるKAISE。彼(彼女?)もまた、逢歌と同じ夢を持っていたのだ。
「なんか不思議な巡り合わせだね。私もアイルランドでライヴするの夢だったんだよ」
「おおお〜、同志がここにも!」
逢歌はうれしくて堪らず、思わずKAISEの手を握り締めた。するとKAISEもうれしそうに両手で握り返してきた。
「今回のライヴ、成功すると良いね」
「もっちろん、そのつもりで来たんだよん♪」
いつもの調子で邪悪な笑みを見せる逢歌。KAISEは少し驚いていたが、すぐに微笑み返した。
「そーいや、なんかアリエラとはよくイベントとかで会うんだよなー。なんで?」
IRITOは不思議そうに呟いた。アリエラは少女のような可愛い笑顔で応えた。
「さあー、何ででしょうね? これも何かの縁なのです!」
と言うのは建前で、アリエラは密かに『A』たちの追っかけをしていたのだ。密かに、と言うよりも正々堂々と言うべきだろうか。IRITOは不思議がっていたが、文月 舵とアリエラが一緒にいるのは当然かなとは感じていたようだ。何しろアリエラは舵のことを姉のように慕っているからだ。
「アリーちゃんと一緒に参加するのは久しぶりやさかい、うちも楽しみやわ。どうぞ宜しゅうおたのみ申します」
「イベントとかだと意外とゆっくり話す時間とかないからさ。今回はツアーだから個人的に話せる時間もできて良かったよ」
そう告げたのはTAKI‥彼は『A』のリーダーでドラム担当だが、今回は自前でギターを持ってきていた。
「なんだ、アレクサンドルも来てたのか」
無愛想に美日郷 司が言うと、アレクサンドルは溜息混じりに告げた。
「やれやれ、巽と二人っきりではないから不満なのか?」
「それはどういう意味ですか、アレクさん?」
星野・巽は笑っているようだが、どことなく鋭い視線をしていた。仲間だからこそ言えることでもあったのだろう。IRITOは雰囲気の意味が理解できず、首を傾げていた。
「あ、すみません。変なところをお見せしてしまいましたね。今回はよろしくお願いします」
巽がそう言うと、司も無意識(?)に巽を後ろから抱き締め、律儀に挨拶。
「Aの皆とは初めてだが‥‥よろしく」
巽は司の行動に呆れつつも、満更ではないようだった。
「私の持ち味を生かし、楽しいライヴになるよう努めさせて頂きます」
礼儀正しくアレクサンドルが一礼。IRITOは威勢良く返事をした。
「こっちこそ、よろしく頼むぜ!」
「ライヴが終わったら、皆さんで一緒に食事なんかどうですか?」
雛姫の案には賛成する者が多かった。Irisがどことなく緊張気味なことに気付き、雛姫は背中を軽く叩いた。
「あんなに練習したんですもの。大丈夫ですよ」
「ピアノは弾き慣れてるけど、ギターは滅多にやらないからな。棗さんなんか、バイオリンだよね。初めてのことばかりで正直、緊張するよ。だけど精一杯やるから」
Irisがそう言うと、逢歌は元気付けるように笑っていた。
「そうだよ。時には新しいことに挑戦すんのも良い刺激になるって。皆、がんばろう!」
それはその場にいる者たちにとって、励みになる言葉であった。
●ストリートライヴ〜本番
テンプル・バー地区は通りが石畳作りになっていた。車が通れないないほどの道もあったが、事務所からの交渉もあったおかげで、ファッション・マーケット付近の通りでストリートライヴをすることになった。
まずは雛姫とIRITOが人々の目を引くようにタンバリンをリズムカルに鳴らす。最初に「なんだ?」という表情で雛姫たちに気付いたのは地元の子供たちだった。ユニットのメンバーのうち半数は和服を着ていたこともあり、日本の文化に興味のある人々が近付いてきた。しかも日本語で話しかけてきた人もいた。
「ここでライヴでもやるのかい?」
そう言う人に対して、そして他の者に対しても惜しみなく雛姫は親しみを込めて出迎えた。
「はい。よろしければ聴いて下さいね」
TAKIはギター片手にピックで弾けるようにリズムを取った。まるで打楽器のような音を彷彿とさせるのは彼がドラマーだからだろう。それに合わせてKAISEがギターでメロディラインを奏でた。
『A』の持ち歌である『リアルハート』だ。ヴァーカルのIRITOはマイクを使わず、二人のギターに調和するように歌い始めた。タンバリンを叩きつつ、楽しそうに歌うIRITO。KAISEなどは本当に幸せそうな表情をしていた。夢が現実となったのだ。これほどうれしいことはない。
思わず逢歌も興奮のあまり『A』の曲が終わるとはしゃぎながら拍手。そのせいか、ライヴを見るために立ち止まる人々も増えてきた。
頃合を見て、雛姫がたどたどしい英語で優しげに告げた。
『逢歌様とイリス様、お二人の素敵な騎士様と一緒に、皆様へ一曲プレゼントしに参りました。明星の『セカイ』‥‥どうぞ聴いて下さい』
雛姫が一礼すると、Irisが静かにギターを鳴らし始めた。バイオリンを奏でるのは逢歌。そして歌うのはもちろん『歌姫』の雛姫‥‥歌詞は逢歌が考えたようだ。
ユニット『明星』‥‥歌:セカイ
God’s in His heaven,
All’s right with the radical world.
make Someone’s dream to the step.
And my dream is fulfilled.
Nevertheless, we are wild about Tragedy.
Curse at the future and abuse 『Bustard!』
Cuz it’s beautiful world
Cuz it’s Wonderful world
Soit’s overflows in possibility.
Let’s become gentle a little more.
傷ついて、傷つけて、不安定なセカイだけど
泣いても、笑っても進まなきゃいけないから。
僕は前を向こう。
Cuz it’s beautiful world
Cuz it’s Wonderful world
So,it’s overflows in possibility.
Let’s become‥‥
ギターとバイオリンのメロディに合わせて雛姫は祈るように歌い上げた。Irisはサビの部分が盛り上がるようにクレッシェンドを心がけ、最後は敢えて切る様に鳴らした。それがかえって余韻に残るような響きへと変わった。
盛大な拍手が聞こえて、Irisは驚いていた。逢歌もIrisのギターには驚いていたようだ。
「Iris君、すごいよ! 僕なんかもう音を間違えないように必死だったよ」
「お二人のおかげで、わたくしも安心して歌うことができました。ありがとうございます」
雛姫たちが後ろへと下がると、アリエラが朗らかな笑顔いっぱいで登場した。
「私たちも頑張るのです! 舵姉様、出番だよ♪」
アリエラの言葉に、舵が頷く。
「ほな、はじめましょか」
今回、舵はギターとコーラスを担当。アリエラはメインヴォーカルとアコギ担当となった。
「日本から来ましたアドリバティレイアです♪ 美人が舵姉様! ちっこいのがアリエラです〜!」
舵が桜梅の和服に対して、アリエラは英国風のファッションだった。昼過ぎということもあり、コートを羽織っていれば意外と温かかった。体感温度だけでなく心まで温かくなる‥‥そんな曲調だった。
ユニット『アドリバティレイア』‥‥歌:冬の恋人
地面に落ちることない冬の花
一瞬だけの虚空の芸術
乾いた風が君を攫っても
暖かい大地が君を拒んでも
何も出来ないと泣かないで
無駄なことは何一つないから
僕を冷たく癒す白い花々
ふんわり微笑み受け止める
「虚空から舞い降りる冷たい指先」(ユニゾン)
僕の髪に
『頬に 瞼に 唇に』(ハモリ)
そっとキスをして空に帰そう
『また次の冬も逢えますように‥‥』(ハモリ)
ポップロックで最初はミドルテンポ、途中からアップテンポとなり、ラストは人々がリズムを取り易いようなテンポへと‥‥変幻自在の曲調に聴いている人々は歓喜の声を挙げていた。中盤からはギターを奏でるのは舵のみ、アリエラはギターを持ったまま歌い、「微笑み受け止める」の部分になると両手を広げて、天へと飛び上がるイメージで飛び跳ねた。
ラストフレーズは声のみ‥‥静かに二人で両手を差し出して歌い終えた。「Thank you」と「ありがとう」と二人で御辞儀。日本語の歌詞ではあったが、二人の想いは人々に届いたのだろうか。皆が笑顔で見ていた。
そして、マントを翻し、シルクハットに黒燕尾服のアレクサンドルはサクソフォーン(サックス)を持ち、紳士らしく一礼した。
「We are Japanese rock groups『BLUE−M』」
アレクがそう促すと、ボーカルの巽がさわやかな微笑で現れた。司は相変らず表情を変えない。
「I hope everyone enjoyed themselves as much as I did」
アレクサンドルの言葉に、どこからともなく巨大なシャボン玉が出現する。
司は「Temptation」とタイトルを告げ、アコースティックギターを弾いた。顔とは裏腹に感情豊かな音色が鳴り響く‥‥。
ユニット『BLUE−M』‥‥歌:Temptation
目映い光を 身に浴びて
眩しい視線を 身に受けて
太陽よりも 輝く姿態(したい)
皆の視線は キミのもの
(間奏)
蠱惑の 『キッス』(ハモリ)
魅惑の 『スマイル』(ハモリ)
誘惑してる プリズムの瞳
七色のビームに 射抜かれた!
キミの魅力は魔力的
「君の魅力は刺激的」(コーラス)
ボクの未来は キミのもの
「僕の未来は刺激的」(コーラス)
キミは煌めく
『光の天使(エンジェル)!』(ハモリ)
「視線はキミのもの」で巽が人々に向かってウインクして間奏へ。司のギターとアレクのサックスがアドリブで自らの音を奏でる。巽は二人の演奏を『魅せる』ため、脇へと寄る。すると司とアレクが背中合わせで互いにハーモニーを奏でた。
間奏の後、巽の歌が再び響く。サックスの音口からはシャボン玉がいくつも出てくるではないか。どうやらアレクの洒落た手品の演出らしい。最初に作った巨大なシャボン玉を「射抜かれた!」でパンチする巽。割れる音を表現するかのように司のギターが唸る。
ラストの「エンジェル」のシャウトで、巽が首に巻いていたマフラーを抜いて上に放り投げた。それと同時に曲も終わる。周囲の人々を見ていると、一番喜んでいたのは子供たちだった。
「アンコール!」の声にまずは『BLUE−M』の「Temptation」が選出された。今度は参加したユニット全員で歌ったり、演奏したり‥‥まるでその場がステージへと変わるような心地にも似た、なんとも言えない気持ちになった。
結局、それぞれの持ち歌を再度歌うことになってしまった。思った以上の反響に、アリエラたちは本当にうれしそうだった。司も珍しく、口元に笑みが一瞬だけ綻んだ。それに気付き、巽は微笑み返す。
ストリートライヴは普通のライヴとは違う‥‥ただ擦れ違う人々もいる。途中で帰ってしまう人々もいる。そして、最後まで聴いてくれる人々もいる。
音楽とはそんなものなのかもしれない。ロックが好きな者もいれば、クラシックが好きな者もいる。そういった違いはあれど、音楽という一つの共通した『もの』があることは確かだ。それぞれの想いを胸に秘め、今回のストリートライヴは無事に終了した。皆様、お疲れ様でした。参加して下さって、本当にありがとうございます。