夜の追撃者ヨーロッパ

種類 ショート
担当 大林さゆる
芸能 1Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 8.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/24〜03/28

●本文

 アイルランドは別名「エメラルドの島」と親しまれるほど、自然豊かな国である。
 古来より様々な伝説で彩られた風土は、ケルト文化を受け継ぎながらも未だに魔法や妖精たちの話が残っている。
 ケルト文化の精神が深く根付いているこの国では、占いもまた実生活と密接な関係であり、都会の街角でも占い師の姿を見かけるのは風物の一つでもあった。人と自然が互いに共存できるような場所と言っても過言ではない。
 フェアリーの話にも詳しい占い師‥‥ダリア婆さんが、何者かに狙われて重傷となった。村医者の診断では、完治に1ヶ月かかると言われていたが、年老いた身体では1ヶ月以上かかるかもしれない。
「これも定めなのか‥‥ま、理由はよく分からないが‥‥どうやら、私を狙っている‥‥らしいね」
 ダリアは自宅で療養中であった。WEA本部から医療品が届くのには時間もかかる。それまでにナイトウォーカーを探し出し、退治できれば良いのだが‥‥そう簡単にできる訳でもなかった。
 ドラマの撮影が終わり、俳優の大園 麻奈と、彼女のマネージャーでもある朝霧 渚の二人がダリアの自宅へと訪れていた。念の為、ナイトウォーカーが自宅へと近付いてこないようにとオーパーツを利用してみたが、長距離からの攻撃で、窓硝子が割られたり、壁が壊されていた。
 村に駐在している警察も24時間体制でダリア婆さんの自宅を巡回していたが、夜になると隙をついて何者かが狙ってくるのだ。幸い、人間の警察官には今のところ怪我人はなかったが、何故、ダリアが狙われるのか、村人たちも心配になってきた。中には不審な噂を流す人間もいた。ダリアは兎の獣人ではあったが、WEAの法により、そのことは村人には知られていない。
 だが、毎日のように矢のようなものが飛んでくるのは、さすがに村人たちも不安になり、他の土地へ引っ越ししようと考える者たちまで出てきた。
「‥‥残念だけど、私だけではダリアさんを守るだけで精一杯ね。誰か助っ人が来てくれるとありがたいんだけど‥‥一応、本部には連絡してみたけど、こんな辺鄙な場所に来てくれる人がいるかどうか」
 豹の獣人‥渚が溜息交じりにそう呟くと、兎の獣人‥麻奈は珍しく怒りを顕にしていた。
「こんなこと‥‥許せない。ダリアさんが動けないこと知ってて狙うなんて」

 そして、WEAからナイトウォーカー探し、及び討伐の依頼が入った。アイルランドの小さな村にいるであろうナイトウォーカーの殲滅である。まずは敵の動きを推測して、退治する必要がある。
「一日でも早く見つけ出し、ダリアさんと人々の安全も確保していただきたい。表向きは『観光客』または『ガードマン』として動いてもらうことになる。ガードマンならば銃を使うことも可能だが、使用する際は充分に気を付けてもらいたい。ダリアさんを狙ったものはナイトウォーカーである可能性が非常に高い。ぜひ討伐に向かって欲しい!」
 本部から、各地へとWEAのネットワークを駆使して依頼が送信された。

●今回の参加者

 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa3928 大空 小次郎(18歳・♂・犬)
 fa4077 槙原・慎一(17歳・♂・鷹)
 fa4773 スラッジ(22歳・♂・蛇)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

●初日〜情報収集
 村に着いてから緑川安則(fa1206)はパトリシア(fa3800)と共に、村長の自宅へ行き、村人たちに現状を報せるために回覧板を廻しても良いかどうか訪ねた。案を提案したのはパトリシアだが、緑川はガードマンとしてそれらしい格好をしていた。懐にショットガンを持っていたのは村長も気がついたのか、少し緊張気味だった。
「ふむ、それは妙案だな。例の事件で村人たちも疑心暗鬼になっている。ダリアさんが狙われている原因が分からないが、占い師ということもあって、変な噂を流す連中もいてね。私としてはダリアさんには昔から世話になっていたから、なんとかしたいところだったんだ」
 そういう村長に対して、緑川は敬意を込めて敬礼した。
「私以外にも、エキスパートのガードマンを集めました。夜の警護は我々にお任せ下さい。村の警察官は昼間の巡回だけで良いとお伝え下さい」
「それはありがたい。ガードマンが来るというのはダリアさんからも連絡があったが、本当に助かる」
 村長は何度も何度も二人に礼を述べた。パトリシアは緑川の『妹』ということになっていたが、端から見ると恋人同士にも見えなくもない。村に着いてすぐに、緑川はパトリシアを抱き締め、彼女の頬に軽くキスまでする始末‥‥これでは、道行く人々に恋人同士と思われても仕方がなかった。パトリシアは緑川の演技とは言え、本気でちょっぴり顔を赤らめていた。


 俳優の大園 麻奈と、彼女のマネージャーでもある朝霧 渚はダリアの自宅へと訪れていた。
「今回は、イオスはいないみたいだな? 二人とも元気そうで何よりだ」
 スラッジ(fa4773)がそう告げると、麻奈は「はい」とうれしそうに言い、次に渚が応えた。
「久し振りね、スラッジ。イオスは南部の遺跡調査で手が離せないから、代わりに私たちがここに来たのよ。だけど、思った以上に戦闘に慣れている者が多くて助かったわ」
 それを聞いて、大空 小次郎(fa3928)は頭を下げた。
「戦闘は初めてなので‥‥足手纏いになってしまったらすみません」
 すると、ドワーフ太田(fa4878)が小次郎に喝を入れるように背中を叩いた。
「気にせんで良い‥‥わしかて、初めての戦闘の時は緊張したもんじゃ。それに今回はわしとおぬしは組んで行動することになったし、おぬしも作戦ではいろいろと意見を言ってくれたじゃろ? その心意気があれば、なんとかなるじゃろう」
 そう言われて、小次郎は心の奥が温かくなったような気がした。
「ドワーフさんと組めて、光栄です。できる限りのことはします」
「麻奈も初心者みたいなもんだから、気にしなくてもいいわよ」
 渚はそっけなく言っていたが、それが彼女の思い遣りだと感じて、スラッジは密かに微笑していた。それにアンリ・ユヴァ(fa4892)は気がついていたが、すぐに作戦の話へと切り替えた。
「‥‥これは一つの案だけど、敵が捕まらないようならオーパーツの解除はできますか? 相手がナイトウォーカーなら『捕食者』ですから‥‥家の中まで侵入してくるでしょうし‥‥もちろん、ダリアさんの警護も厳重にするつもりではいます」
 それに対して、渚が言った。
「ダリアさんが重傷でなければ、一つの案としては申し分ないけど、今のダリアさんはほとんど動けない状態よ。だから、オーパーツの解除はできない‥‥おそらく、ダリアさんの血の匂いが原因だと私は思っているの」
「だったら、俺のヒーリングポーションをダリアさんに使ってくれても構わない」
 スラッジの言葉に、ベットに横たわっていたダリアが告げた。
「お気持ちだけで充分だよ、ありがとう。貴重なアイテムだから、おまえさんやお仲間のために使っておくれ。中傷以下のダメージだったならば回復することもできるだろうが、この通り‥‥ベットで寝てるくらいしかできなくてね。正直、トイレに行くにも一苦労だから、自宅から動くのは無理‥‥迷惑かけてすまないね」
「いや、気にしないでくれ。迷惑だなんて思っちゃいない。でなきゃ、ここに来るはずもないから」
 スラッジは相変らず、自分のことよりも他人を大切にする人だと麻奈は思っていたが、敢えて何も言わなかった。尾鷲由香(fa1449)は拳を鳴らして、怒りを顕にしていた。
「傷ついた相手を姿も見せずに狙うなんてフェアじゃないな。だからこそナイトウォーカーなんだろうが‥‥血の匂いが原因だって言うなら、申し訳ないが、ダリアさんの血の付いた包帯、貸してくれないか? これで敵を誘き寄せて‥‥迎え撃つ!!」
 緑川は感心したように頷いていた。
「それは良いアイデアだな‥‥私の予想では、敵は触手を使って遠距離から枝や石を投げて、ダリアさんを威嚇してるんじゃないかって思っている。どうせなら、敵を引き付けて退治した方が手っ取り早いだろうしな」
 こうして、夜に作戦が遂行されることとなった。


●3日目の夜〜2匹目の退治
 2日目の夜に来たナイトウォーカーは雑魚だったらしく、あっけなく倒すことができたが、今回の敵はかなり変わった姿であった。不定形な柔らかい体をしており、触手が蠢いていた。身体が非常に柔らかく、闘いは長引いていた。この敵を発見したのは、小次郎とドワーフの二人‥‥すぐに仲間が駆けつけて、アンリが半獣化して矢を放つが、身体にはあまりダメージを与えることはできないと悟った。夜の森の中、ドワーフたちは息を切らしつつ、敵の攻撃に備えた。
「こうなれば‥‥コアに狙いを定めた方が良いじゃのう」
「ここだとアレは使えないな‥‥できれば、草原へと誘き寄せた方が戦い易いだろう」
 緑川の言葉に、尾鷲は血のついた包帯を持って、翼を広げた。
「あたしが敵を引き付ける。その間、少しでも相手にダメージを与えてといてくれ」
「了解。頼むぜ」
 緑川がウィンクする。パトリシアは仕込み傘‥細身の刀で敵の身体を斬りつけた。俊敏脚足を駆使して接近戦に持ち込み、右の触手を切断していく。だが、左の触手でパトリシアは吹き飛ばされてしまう。それも気にすることもなく、ナイトウォーカーは本能的に血の匂いを求めて、尾鷲の後を追っていく。緑川がパトリシアを助け起こして、すぐさま敵を追った。
 尾鷲は知友心話でドワーフと連絡を取った後、再び背中の翼を羽ばたかせて森の上を越えて、草原へと飛翔していく。軟体のナイトウォーカーは動きが鈍かったこともあり、尾鷲とアンリは敵が到着する前に準備を整えた。
「‥‥来ましたね」
 アンリは呟きながら、翼を使い上空からサーチボウを構えて、コアに狙いを定めて、矢を放った。だが、わずかな差で、矢はコアから外れて軟体の身体に突き刺さった。ある程度のダメージを与えることはできたが、敵は血を求めて‥‥餌を求めて歩みを止めない。とっさにスラッジは接近して、残りの触手をヴァイブレードナイフで切り裂いた。さすがに一度では切れなかった。何度も何度も斬り付けて、ようやく最後の触手を斬り飛ばすことができた。ナイトウォーカーは怒り狂っていたのか、スラッジに突進していく。スラッジは疲労していたせいか、回避することができず、弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。肘から血が滴り落ちる。それに気付き、ナイトウォーカーはスラッジへと標的を変えた。
「‥‥さあ、来な‥‥俺は逃げも隠れもしない」
 スラッジは懸命に立ち上がった。麻奈と渚はダリアの警護でここにいなかった。もし、麻奈が今のスラッジを見たら駆けつけていたかもしれない。スラッジは麻奈達がいなかったことをかえって幸いだと感じていた。
「スラッジ!!」
 ドワーフは俊敏脚足で飛び出し、スラッジの前へと立ちはだかった。得意のタックルで敵へと肉迫‥‥瞬時に察した尾鷲はスラッジの横へと飛び降り、彼にヒーリングポーションを飲ませた。どうやら効果があったようだ。スラッジはすぐに回復した。
「すまない。助かった」
「スラッジの意志を無駄にしたくなかっただけだ。本番はこれからだぜ?」
 尾鷲がそう告げた時、緑川が叫んだ。
「皆! 敵から離れてくれ! アレを使う!」
 アレとは全回数を一気に使う火炎砲弾のことだ。とっさに敵から離れる仲間たち‥‥半獣化した緑川の形相が勇ましくなる。
「私の最大火力だ! 冥府の閻魔への土産に持っていけ!」
 掌から拳大の炎の塊が打ち出された。さすがに軟体のナイトウォーカーと言えども、最大の力を生かした炎には抵抗できなかったようだ。全身が燃え上がり、コアが剥き出しになった。アンリは集中攻撃で数本の矢をコアへと放った。尾鷲は草原に降りて、ペネトレイターの引き金を引いて、杭を放った。コアへと命中したが、まだ敵は微かに動いていた。止めを差したのはアンリが最後に放った矢であった。コアは砕け散り、ナイトウォーカーはようやく息絶えた。念の為、血の付いた包帯を持って村中や近辺を周ってみたが、これ以上、ナイトウォーカーは現れなかった。


●最終日
 4日目もナイトウォーカーの探索をしてみたが、やはり出現することはなかった。どうやら村には現れなくなったようだ。最終日はダリアの自宅で食事会が行われることになった。買出しに行ったのはアンリとドワーフ。ドワーフはアンリの保護者として同行していたのだった。店の人には「可愛い娘さんだね」と英語で言われたが、どうやら父子に思われたようだった。
「村長さんには『犯人は捕まえて、ガードマン本部へ送りました』って伝えておきました」
 パトリシアは緑川と村長の家へと報告した後、ダリア宅に戻ってそう告げた。
「今回は‥‥皆のおかげで助かったよ。感謝してもしきれないね」
 ダリアが久し振りに笑顔になった。まだ怪我は完全には治っていなかったが、皆と食事ができるくらいまで回復できたようで、喜んでいた。麻奈がうれしそうに微笑む。渚も珍しくふんわりとした微笑をしていた。女性たちは食事を作り、男性たちは食器を並べたり、テーブルを拭いていた。
「‥‥ダリアさんは妖精に詳しいとお聞きしましたが、妖精とはどういう存在なんでしょう?」
 アンリの質問に、ダリアは微笑みながら答えた。
「少なくとも、アイルランドの田舎には『妖精に注意!』と書かれた立札が未だにあるさね。少なくとも、田舎では妖精はまだいるみたいだよ」
「本当ですか?」
 アンリが半信半疑に言うと、ダリアは椅子に座りながらさらにこう言った。
「立札があるのは本当だよ。そうだね、しいて言うならば妖精は『心の中にいる存在』だね。いると思えばいるし、いないと思えばいない。そんなもんさ」
「あの、ダリアさん‥‥占い師ですよね? できれば、その恋愛運を‥‥」
 少し恥ずかしそうに、パトリシアが告げる。
「そこにいる緑川さんと言うのが、恋人じゃ‥‥ないようだね。どうやら、別の人だと感じるよ。ヒントは‥‥そうだね‥‥『リボン』だ。リボンは『結ぶ』『繋がり』を意味する‥‥私に言えることはこれくらいだね。占いは当たるとかの問題じゃないのさ。アドバイスくらいで、天気予報みたいなもんさ」
占い師の割には、あまりらしくない発言をするダリアであった。