夏の野外コンサート!!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
大林さゆる
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/12〜08/14
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●本文
単なる町興しから行われるはずだったミニ・コンサートだったが、噂を聞きつけやってきた新人ロック歌手がいた。
「どうせやるなら、俺たちだけじゃなくて、他の新人も呼んだ方が盛り上がるだろ?」
町の実行委員にそう告げたのは、ロック・グループ『A』のヴォーカルIRITO。
田舎の街並みに立つと妙に目立っていたが、まだ都心には出たことがなかった。
「はあ、まあ、予算の都合で‥‥あまり呼べませんが」
実行委員の男性はIRITOの態度に圧倒されたのか、少し緊張気味であった。
「最低限の予算があれば8人くらい呼べんじゃないの?」
IRITOは当然のようにさらりと言った。
「‥‥私の一存では決められないことでして」
「そんじゃ、とっとと決めてくれ。町興しでやるんだったら、PRにもなって良いじゃんかよ」
真剣な眼差しで言った後、IRITOは部屋から出ていった。
「‥‥10年‥‥10年だよ‥‥今度こそ‥‥」
IRITOはなにやら決意を秘め、仲間たちの元へと戻った。
数日後、町の大きな公園で野外コンサートが行われることになった。
どんな新人歌手が集うのか、期待が膨らむ日々が過ぎていった。
●リプレイ本文
夏の野外コンサートと言うこともあり、ステージの前には大勢の人々が集まっていた。
黄色い声援が飛び交う中、MC役のアジ・テネブラ(fa0160)がマイクを持ち、開演の挨拶を行っていた。ステージの横では、参加する歌手たちが出番を待っている最中だった。
「‥‥コンサートが終わってからな」
陸 琢磨(fa0760)が落ち着いた表情でそう告げると、アリエラ(fa3867)は笑い返した。
「琢磨さん、ありがとう!」
アリエラは琢磨からサインをもらう約束ができて、うれしそうだった。
「そろそろ時間だよ、IRITOさん。大丈夫大丈夫!」
アリエラが背中を軽く押すと、IRITOは微かに笑ってステージへと向かった。今回のコンサートでは、他の歌手のバックバンドもロックグループ『A』のメンバーが務める事になっていた。
「10年かけて、やっとデビューだから緊張してたみたいだけど‥‥あの調子ならいけるネ」
椿(fa2495)はIRITOの歌い振りを見て、自分自身の心も解れてきたように感じた。
ロックグループ『A』の曲が終わると、アジのMCが入った。
「なかなかシャウトのある声でしたね。これからの活躍も期待できそうです。それでは‥‥次をご紹介します。『真夏の空の下に現れた日陰者』〜jokerさん!」
サングラスを付け、白のライダースーツを纏ったjoker(fa3890)が白のエレキギターを片手に、マイクの前に立った。
「暑い中聞きに来てくれて有難う! これからも何処かの道端で、皆の隣で弾き続けるからどうか一緒に歌ってね」
jokerで、曲は『みんなとうた』だ。
笑って 笑って にっこり笑えば 歌って 歌って みんな踊りだす
みんながいるよ きみのとなりに 何時だって誰だって 一人じゃないから
手を繋ごう 手を叩こう ほら
笑って 笑って にっこり笑えば 歌って 歌って みんな踊りだす
出だしはテクニカルでエレキギターが歯切れよく鳴っていた。明るくシンプルな曲調だが、スタンダードなリズムのせいか、観客が自然と曲に合わせて手拍子をしていた。
それを見て、jokerの歌はさらに盛り上がった。空高く響くように、jokerは人々の顔を一人一人見ながら、歌い切った。普段は飄々とした感じだが、歌っている時のjokerは真剣そのものだった。
「さて、お次は‥‥『クール・アンド・ホット』の陸 琢磨さんです。どうぞ!」
アジに紹介され、琢磨がステージの中心に立った。
「激しく、そして儚い夏は一瞬だ。その中で何かしら強く印象に残るモノを残せたなら儲けモノだと思え。見つける為に俺はこの歌で後押しする‥‥『ユルギナイサケビ』‥‥聞いてくれ」
そう告げた後、琢磨はギターを奏でた。それに合わせて、ドラムが鳴り、さらにベースが鳴り渡った。
変わらない そう感じながら今が過ぎていく
きっかけが欲しい すぐそこにある(どこに?)
そこさ‥‥
自分に問いかけ 孤独を抱えたような しけた面を殴りつけた
叫びをあげろ ハジケ飛ぶように 見つけるんだ したい事を
振り返って思い返せ ユルギナイサケビ
ロックのリズムで、ギターの音が高く低く流れていく。冷めた表面と熱い裏側が交差するような琢磨の声が場内に浸透していくようだった。誰もが琢磨の歌に聴き入っていた。
「まだまだコンサートは続きますよ! お次は‥‥モデル界の優美なる大食いミュージシャン! ミラクルな胃袋を持つ男〜『Stagione』椿さんです!」
「皆、楽しんデル? 俺は皆に会えて、その前で歌えて嬉しいし楽しいヨ。でもって、差入れがあると更に嬉しいので、演奏終わったら待ってマス。屋台モノ大歓迎!」
麦藁帽子にアロハを着込んだ椿が、楽しそうにそう告げた。
椿の言葉で人々が和んだ後、演奏が始まった。曲は、『青空花火』だ。
次に生まれてくる時も 僕は僕で 君は君だったらいいな
誰にも似てない僕らで行こう 他人の真似なんて必要Nothing
夜空を彩る華じゃなくても ちゃんと音(こえ)は聴こえるよね
青空の真ん中で自己主張する花火
カタチは目に映らなくても 僕はいつも傍にいるから
Always wishing you a good luck and happy days!
椿の音域の広い声が風のように人々の心に駆け抜けていった。キーボードを弾きながら、椿は歌詞に想いを込めて、丁寧に歌い上げた。
人々が、音楽を通じて笑顔でいられるように‥‥そう願いながら。
歌い終わると、椿は御辞儀をして、被っていた麦藁帽子をお客さんたちに向かって投げた。ふわりと飛び、それは少女の上に舞い降りた。
「椿さん、ありがとうございました。はい、それでは次の方の紹介です。あめりか生まれの赤き弾丸、ろっく魂狙い撃ち!! ラム・セリアディアさんの登場です!」
声援に包まれて、ラム・セリアディア(fa3004)がステージに上がる。
「皆、こんにちは! まだまだ新人なろっくしんがー、ラム・セリアディアよ。あたしは有名になりたいんじゃない。歌うのが、作詞するのが好きなだけ。運良く、芸能界に見初められたって感じ。でも、周りを見て、未熟なのを実感。もっと上手になってみせるわ」
あどけない笑みを浮かべ、ラムはマイクの前に立った。曲は『熱烈歓迎愛情表現』である。
エレキギターの弾けるような音の後、ラムは歌い始めた。
ホラ自分に素直になれば気持ちいい
ウジウジすんな悩むな 当たって砕けてみろ
イヤがるわけないじゃん当たり前!
アタシあんたの全部受け止める度量ぐらい持ってるから だから
熱烈歓迎愛情表現常日頃!!
『熱烈歓迎愛情表現常日頃!!』の弾丸ヴォイスが炸裂する。伸びやかな声はどことなく艶やかな花のようでもあった。熱唱のあまり、ラムの額から汗が流れ落ちた。だが、不思議と清々しい気持ちになる。
「とても元気でパワフルな曲でしたね。さてさて、次は‥‥もしかしたら、ここでしか見れない聴けない新ユニット‥‥『ATT』の皆さんです! では、メンバーを一人一人紹介させていただきます。特徴的なパワーボイスと演奏でハートを掴む新人ミュージシャン、トラヴァーさん!」
すると、ワインレッドのタンクトップに黒のジーンズ姿のトラヴァー(fa4208)が軽くドラムを叩いた。
「タイトでキュートなテクニシャン、ギタリストのTyrantessさん!」
Tyrantess(fa3596)はピックを上手く使って、ギターを荒々しく鳴らした。赤のショートジャケットの下には黒のピタTを着込み、赤のミニスカートが魅力的に見えた。
「ガーリーロックの新星! プロになってもFAN魂は未だ健在。ヴォーカルのアリエラさん!」
アリエラが人々に向かって手を振った。赤いフリルキャミと臙脂系のクロプトパンツがよく似合っていた。
「タイプの違う3人だけど、音楽を愛する気持ちは一緒、だよっ! 曲は『楽園(エデン)』、よろしくね!」
アリエラがそう言うと、Tyrantessが愛用のギターをそっと抱き締め、ヘッドにキスをした。Tyrantessお得意のパフォーマンスである。
トラヴァーの「1、2、3、4!」で、軽やかに曲が始まった。アリエラがサイドポニーテールを揺らしながら、キャンディヴォイスで歌い、ベースを奏でる。トラヴァーの切れのいいドラムに合わせて、Tyrantessが上から下へと転回するようにギターを鳴らす。賑やかな元気系ポップロックの曲であったが、3人の魅力が雑ざりあい、セクシーで迫力のあるサウンドになっていた。
今じゃ心の窓は全開オープン 恐いものなんて何もないよ!
だから、ねぇ、 新しい世界をもっと見せてよ! Myダーリン
一緒に行くよ? 地平の果てまでも ずっとずっと
だから、ねぇ、 連れて行ってよ夢の彼方に! Myダーリン
これからがきっと私の人生本番勝負!
Walk a way 二人なら大丈夫
新天地目指して駆け上る 果てない道もきっと楽園
Walk the life 手を放さないでね
私の運命貴方にあげる 歩いていこうよ、ずっと笑顔で!
Walk a way. Walk the life.
I will go with you forever!
アリエラの声を支えるように、英語の詞ではトラヴァーのコーラスが入った。2人の声がハーモニーとなり、聴いている者たちにも心地良い余韻となっていた。
アリエラの歌とベースを引き立たせるような音を出すかと思えば、間奏に入ると、Tyrantessのギターが嵐のごとく木霊した。ギターでメッセージを伝えるかのごとく、これでもかと言わんばかりに響き渡る。アリエラとトラヴァーも、ギターの音色に魅せられていた。
アリエラはステージの上を跳ね回りながら、さらに歌を続ける。最後にトラヴァーのドラムがダダンと鳴ると、3人は胸元に飾っていた姫向日葵をお客に向かってさっと投げ飛ばした。
「サンキュー! ありがとう〜!」
トラヴァーが気持ちを抑えきれず、立ち上がって何度も手を振る。
公園の広場では、音楽に引き付けられた人々が楽しそうに笑い合っていた。
「こうやって、大勢の前でやるのは、ホント、気持ちいいよな〜」
ステージから降りると、トラヴァーはうれしそうにそう告げた。
「そうだな‥‥」
Tyrantessが微笑しつつ言うと、アリエラは満悦の笑みを浮かべていた。
「トラヴァーさん、タイさん、今日はありがとう! また機会があればやってみたいね」
盛大な拍手がようやく鳴り終わると、アジがステージへと登った。
「それでは、最後の曲です。私、アジ・テネブラが歌います。夏の暑さを吹っ飛ばすナンバーでいくよ、曲はもちろん、Summer Destiny!」
夏の情熱をテーマにした歌で、アジが締め括る。
夏の暑さに負けないで、乗り越えていけるように‥‥。
アジはそうした想いを秘め、人々に向かって歌を捧げた。
音楽は、いつまでも心に残る財産である‥‥と言ったのは、誰であったろうか。
この日、コンサートは大成功のうちに終了した。
「IRITOさん、ファンの前だとシャイなんかな? 『恩に着るぜ』って言った後、すぐ戻っちゃったし」
ラムがニコリと笑いながら言うと、IRITOは「うっせ」と恥ずかしそうに答えた。どうやら、まんざらでもないようだった。
そんな様子に、jokerも椿も小さく笑っていた。