【探索】マナナンの遺跡ヨーロッパ

種類 ショート
担当 大林さゆる
芸能 1Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 難しい
報酬 20.8万円
参加人数 14人
サポート 0人
期間 08/24〜08/29

●本文

 アイルランド南部の港町ヨール付近にて未発掘の遺跡が発見され、調査が進められていた。
 先月は3つのオーパーツと古びた簡略地図の発見により、海の妖精王であるマナナン・マックリールと関連のある遺跡ではないかという考えが強まってきた。そのため、仮の名として『マナナンの遺跡』と呼ばれるようになった。
 とは言え、完全にそうとは言い切れない。何故ならば、全て調べきった訳ではなく、おそらく全体的な調査はまだまだこれから‥‥といったところであろう。そのため、さらに調査員を募集することになったが、その中にバース・ヘフナーという男がいた。
 俳優のティル・シュヴァルツ(fz0021)とは同期の俳優らしかったが、自ら参加を申し出たのだ。ティルの後輩である狼獣人のイオスも、ティルの助っ人として先月から遺跡調査に加わっていた。ティルの指揮の下、調査は今のところ順調に進んでいた。
 そんなある日のことであった。遺跡の中には危険な場所がいくつかあることが分かり、遺跡内部の地図には『危険』であることを示す記号が記されていた。ティルたちは危険地帯を避けて調査していたが、ヘフナーは忘れ物をしたから取りに行って欲しいとイオスに告げた。
「俺が‥‥取って来るんですか?」
 念の為、イオスは再確認で聞くと、ヘフナーはティルから頼まれたと告げた。それならと、イオスは遺跡の外へと向かった。それから‥‥ヘフナーはティルと二人、奥へと少し歩いていたが、突然、ティルは何者かによって遺跡内部の谷間へと突き落とされそうになった。振り返ると、そこにはヘフナーが立っていた。間一髪、ティルはヘフナーの蹴りを回避した。
「‥‥。‥‥何の真似だ?」
 ティルが問うと、ヘフナーはニヤリと不気味に笑った。
「‥‥。‥‥前から、あんたが気に入らなかったんだよ。はっきり言って、目障り‥‥」
「それで俺を突き落とすつもりだった‥‥という訳か」
 内心、安直過ぎるとティルは思ったが、言うと逆ギレする恐れも考えて、敢えてそれ以上言わなかった。それが癪に障ったのか、ヘフナーは憎しみを顕にした。
「ティル、あんたとは‥‥同じ時期に俳優になったな。お前は世界にも名が知られ、俺は未だに無名の俳優だ。どんなに努力しても、結局は無名のままだ。何のために俺は俳優になったんだ? ははは、自分でも笑っちまうぜ‥‥」
 ヘフナーは自嘲気味に笑った。ティルはただ黙って聞いていた。相手は人間だ。無闇に獣化する訳にはいかない。相手が自分に対してどう思われようとも、人の前で獣化する訳にはいかないのだ。微かに遠くから足音が聞こえてきた。おそらくイオスだろう。ヘフナーは焦っていたのか懐からナイフを取り出してティルに襲い掛かった。ティルは反撃はせず、ただひたすら回避するばかりだ。要するに時間稼ぎだ。少し経つと、イオスが駆け寄ってきた。『忘れ物』と言うのが嘘だと分かり、急いでいた。
「ティルさん?!」
 まさかの出来事に、イオスは思わず叫んだ。ヘフナーがナイフを持って、ティルを襲っていたのだ。さすがにイオスは憤慨したのか、ヘフナーを取り押さえようとしたが、ティルは足を滑らせて谷間へと落ちていった。
「?! ティルさん! ティルさん!!」
 イオスの叫びも空しく、ティルは人の姿のまま、落下していった。ヘフナーが人間ではなかったならば、何らかの手が打てたであろう。だが、相手が人間だったことから、悲劇は起こった。ティルは落ちる間際‥‥暗闇の中、完全獣化したが、それでも重傷となってしまった。ヘフナーはそんなこととは知らず、すでにその場から逃げ出していた。
「ティルさん、待ってて下さい。すぐに助けを呼んできます」
 イオスはそう叫ぶと、仲間の獣人である調査員や医者を連れて来た。ティルはなんとか助かったが、しばらくは安静にとの医者の判断が出た。だが、ティルはそれでも調査を進行すると告げた。
「俺は‥‥しばらく動けないが、指揮を取るくらいはできる。これ以上、犠牲を増やさないためにも調査は続行する」
 ティルはそう言って、イオスが反対しても調査を続けると告げた。結果、獣人たちだけで調査を続けることになった。人間と獣人との共存を望んでいた者はショックを隠しきれなかった。それはイオスも同じであった。
「俺たちは‥‥人間との共存を望んでいたのに‥‥なんで、こんなことに」
「‥‥こう言っては何だが、掟は関係ない。『人間と獣人が共存する世界』‥‥それを望んでいる獣人たちもいることも忘れてはならない。要は『気持ち』の問題だ。人間であれ、獣人であれ、嫉妬心はあるもんだ。ただ‥‥それだけだ」
 そう言うティルに対して、イオスは心配のあまり怒りを見せた。
「ただ、それだけって‥‥それでティルさん、重傷になったんですよ? なんで怒らないんですか?!」
「正直、怒りはない。むしろ‥‥哀しかった。同期のヘフナーがあんなことを考えていたなんてな。だが、あいつは人間だ。責めるつもりはない」
 ティルはそう言うと、トラックのベットへと横たわった。


●補足及び注意事項
今回は大まかに「3つ」の行動があります。
♪遺跡調査に参加(遺跡内部地図の作成、または後衛援護)2〜4人前後
♪ナイトウォーカー退治(遺跡内部調査に協力、前衛攻撃)3〜7人前後
♪ティルの護衛(遺跡調査陣営トラックにて協力)1人〜3人前後

 上記、3つの中から一つを選んで行動してみて下さい。数は『参加者の人数』です。参考までに選択して下さいね。本文には書かれていませんが、遺跡内部にはナイトウォーカーが複数住み着いております。ご注意下さいませ。

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa2859 ダンディ・レオン(37歳・♂・獅子)
 fa3453 天目一個(26歳・♀・熊)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)
 fa4832 那由他(37歳・♀・猫)
 fa5112 フォルテ(14歳・♀・狐)
 fa5602 樋口 愛(26歳・♂・竜)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●体の傷、心の傷
 アイルランド南部の港町ヨール付近で発見された未発掘の遺跡、仮称『マナナンの遺跡』の調査は続いている。
 遺跡の入口近くには、ティル・シュヴァルツ(fz0021)が用意したトラックがベースキャンプよろしく置かれ、遺跡調査の指揮を執る彼は、映画やドラマの監督さながらにディレクターズチェアに腰掛け、樋口 愛(fa5602)達の班分けの相談を聞いている。
「危険箇所は要注意だ。しかし、俺達の危険だけじゃない。行方不明のヘフナーが遺跡の中にいるとすれば、ナイトウォーカーの有力潜伏地でもある以上、いち早く見付ける必要もある」
 愛はティルの後輩イオスから受け取った前回の調査資料のコピーを、セシル・ファーレ(fa3728)やリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)達に配ってゆく。
「うーんと、そのヘフナーっていう人の前では獣化出来ないんですよね?」
「うん、ヘフナーは人間だからね。彼に獣人の正体を知られる訳にはいかないよ」
 だからこそ、ティルは重傷を負ったのだ。
「でも、遺跡の中ではナイトウォーカーの目撃情報もあるし、獣化出来ない状態は危険かな」
「か、可愛い〜。僕も猫の獣人だったらケット・シーになれたのにな〜。これでガマンしよ」
 セシルは猫の獣人である事を活かして、ケルト神話に登場する妖精猫ケット・シーに扮装してみた。フォルテ(fa5112)はその可愛さに思わず頬刷りしたくなるのを堪えながら、被っていたキャスケット帽を被り直す。フォルテやリーゼロッテは長めの上着を腰に巻き付けたり、着たりして、半獣化を隠せるようにしていた。
「クー・シーと違って、ケット・シーは二本足で歩く猫の妖精だからな」
「海の妖精王の遺跡に妖精‥‥不思議じゃないですよね?」
 ティル・ナ・ノーグについて調べた愛が言うように、クー・シーという犬の妖精もいるが、こちらはケット・シーのように人語を話したり、二本足で歩いたりはせず、牛並みに大きな犬なので、獣化を誤魔化せるとは思えない。
 フォルテの反応に、セシルはすっかりご満悦だ。
「マナナンの遺跡がどのくらいの深さかはまだ分からへんけど、ヘフナーが遺跡の中にいるかどうかは、ある程度は調べられますさかい」
「任せる‥‥俺の望遠視覚は、遺跡の中では十分に効果があるとはいえないからな‥‥」
 頭にターバンのように布を巻き付け、外套を着た敷島ポーレット(fa3611)の言葉に、鶸・檜皮(fa2614)が頷く。遮蔽物の多い遺跡の中では、望遠視覚は使用が著しく制限される。逃亡中のバース・ヘフナーの存在を調べるなら、彼女とグリモア(fa4713)が習得している呼吸感知が効果的だ。
「まぁ、俺は‥‥俺にできる仕事をやるだけだ‥‥」
 ナイトウォーカーが現れた場合、前衛で戦うのは天目一個(fa3453)達だが、鶸にも出来る事がある。彼はIMIUZIの調子を確かめていた。

「サーチペンデュラムの様子は如何ですかな?」
 ダンディ・レオン(fa2859)がベースキャンプの周りの見張りを終えて、ティルの元へやってくる。
 ティルは残念そうに頭を振った。ダンディはフォルテから借りたサーチペンデュラムを彼に使わせて、まだこの辺りにいるであろうヘフナーの居場所を突き止めてもらおうと思っていた。
「ティル殿を襲った男‥‥名はヘフナーであったか? 逃げ出したとはあってもティル殿が存命だと分かれば、また来るやも知れぬ」
 サーチペンデュラムは確実ではないし、或いは今はこの辺りにはいないのかも知れない。
「本来なら、俺が陣頭指揮を執らなければならないのだが、な」
「まぁ、心中は察するけど、指揮者っていうのはドッシリと構えていればいいものよ。指揮者がいるから、見えるから、他の皆も頑張れるわ。だから変な空気を周りに振りまくのは良くないわよ、シュヴァルツさん」
 ベースキャンプをわざわざ遺跡の近くに設置したのも、ティルの元へ情報がいち早く来やすいようにする為だ。
 「生きてりゃいろいろあるわよ」とティルの肩をバシバシ叩いて発破を掛ける那由他(fa4832)。着物を纏い、日本刀を差している姿は肝っ玉おっかさんのようにも見え、ティルはばつが悪そうに無精髭を掻いた。
 羽曳野ハツ子(fa1032)が「流石のティルも、おっかさんには敵わないようね」と茶化すものだから、セシルやリーゼロッテ、フォルテも那由他の事を「おっかさん」と呼び始めている。
 ちなみに、鼻の下の髭を素敵に生やしたナイスミドルなダンディだが、フォルテからサーチペンデュラムを借りた際に「オッサン」と呼ばれた事から、セシルやリーゼロッテといった若い者は、那由他と合わせて「親父(お)っさん」と呼んでいるとか。
「マナナン遺跡‥‥それは名前の最後に『ン』をつけんといかん呪われた遺跡‥‥ハツコン、イオスン、セシルン、ポーレットン‥‥うわぁ、うちどっかの怪獣みたいやん!」
「俺は、ティルンか?」
「女の子みたいな名前やなぁ」
「勘弁してくれ、怪獣ポーレットン」
「その名前で呼ぶなぁ!」
「気分はどう?」
「ああ、大分楽になったよ」
 ティルとポーレットが掛け合い漫才を始めると、その遣り取りを聞いたハツ子がクスクスと笑みをこぼしながらやってくる。彼がディレクターズチェアに座っているのは、ハツ子が平心霊光を施し、ゆっくりと休めるよう配慮したからだ。
「こんなにのんびりとしたのは、久しぶりかもしれないな」
「‥‥リフレッシュ休暇を取ったジャパニーズビジネスマンみたいな言い種ね。無理は身体に毒よ、休む事も芸能人にとっては仕事のうちなんだから」
 ティルの感想に溜息を付くハツ子。那由他やポーレットの励ましのお陰もあって、ティルも表向きは平穏を取り戻している。ハツ子は内心胸を撫で下ろした。
 身体の傷はやがて癒えるだろうが、ヘフナーによって受けた痛みはそれだけではない。名声と引き換えに失ってしまうものの多さは、ハツ子もまた良く分かっている。だからこそ、彼女はその事には触れず、ティルの精神的負担を少しでも緩和すべく平心霊光を使っていた。
「‥‥腹が減っては‥‥戦は‥‥出来ぬです‥‥」
「そうだな、俺ももらおう」
 メロンパン芸能人は伊達ではない。湯ノ花 ゆくる(fa0640)は月詠・月夜(fa5662)達に、遺跡の中で食べるようおやつとして渡したメロンパンとは別の袋からメロンパンを取り出すと、ティルに差し出した。
 彼は破顔しながら受け取ると、パクッとメロンパンを頬張るゆくるに倣って、メロンパンにかぶりついた。

●予想されるべき結末
 2日目からマナナンの遺跡の未調査部分の本格的な調査が開始された。
「ヘフナーがいないとも限らない。調査で特殊能力を使用しないものは、未調査地域の奥までは人間形態を保って欲しい。また、もし半獣化する時は物陰での獣化を心掛けてくれ」
 調査隊の指揮を執る愛が、全員に確認の意味を込めて通達する。
 前回までの調査結果と大まかな遺跡内部の地図は受け取っているので、そこまで降りてから調査を開始した。
 リーゼロッテが出来る限り、死角となる暗闇の部分を作らないよう、ヘッドランプと懐中電灯を使って辺りを照らし、愛が氷塵槍を測量棒代わりに使ったり、地面を叩いて罠などがないか安全を確認すると、イオスがデジタルカメラで遺跡内部の写真を撮影してゆく。愛も自分のコンパクトカメラでイオスの撮影補助をする。
 その間、フォルテが金属探知機の反応を調べ、彼女の傍らではセシルと鶸、ポーレットの3人が図画板を首から提げて方位磁石を片手に、マッピングしてゆく。3人でマッピングすれば流石に漏れはないだろう。
「あ、そういえば、前回見つかった3つのオーパーツのうち、他2つはどんなものだったの? 前回戴いたリュートはお兄ちゃんにあげちゃいました。セシルじゃ楽器は‥‥えへっ☆」
 休憩中、月夜から渡されたゆくるのメロンパンを千切って食べながらセシルが聞いた。彼女はアイドル兼女優なので、グウレイグのリュートを持て余してしまうのは仕方ないかも知れない。
「僕はヒーリングポーションもらったよ」
「俺はアサイミーだったな」
 フォルテと愛が応える。
「静かに! ‥‥虫のようだな。その数は2‥‥」
「このような場所に虫などと‥‥ナイトウォーカーでござるな」
 半獣化したグリモアがセシル達のお喋りを手で制すと爪を伸ばす。七枷・伏姫(fa2830)も逆刃刀「仇華」の柄に手を掛ける。
 天目のヘッドランプが照らし出すのは、天井を這う蜘蛛だった。だが、その大きさが異常だ。ゆうに3mはある。
「幸い、ヘフナーは近くにはいないようだ」
「蜘蛛に憑依したナイトウォーカーのようね!」
 グリモアの声を聞き、天目も即座に霊包神衣と金剛力増を自身に付与すると、飛来してくる蜘蛛NWを受け止め、そのまま地面に叩き付ける。そこへ虚空から弾丸が放たれ、蜘蛛NWの足下を穿つ。光学迷彩で姿を消した月夜が、消音器を付けた西部14年式自動拳銃で足止めしている。
 その間、鶸はセシルとポーレットに、作成中の地図を空の水筒の中へしまうよう指示する。地図もナイトウォーカーの感染源になりうる。調査日数が限られている以上、一から作り直す羽目になるのは厄介だ。
「大丈夫です。マナナン様がきっと何処かで見守ってくれていますよ」
「セシルの声援があれば、後10年は戦えるさ。落ち込んでる世界的オジサンを相手にしてるより、お前のような可愛い娘を守ってる方が有意義だからな」
 チアケット・シーと化したセシルの声援を受けて、グリモアは俊敏脚足で蜘蛛NWとの間合いを詰めると、伸ばした双爪に放雷紫爪を纏わせて振るう。
 彼がある程度ダメージを与えたところで、伏姫が一旦距離を取り、上半身を捻り、突きの構えを取った。そして俊敏脚足を用いた全速力で一気に間合いを詰め、仇華の間合いに入ると同時に身体の捻りによる回転力と強化された脚力による突進力をのせた突きを蜘蛛NWへ叩き込む。コアが出たところへ、グリモアが放雷紫爪で貫いた。
 もう一匹も、天目が足を集中的に狙って機動力を下げ、コアを見付けると、月夜が空圧風弾を全回数同時使用して一撃で粉砕した。

 その後も何度かナイトウォーカーに襲われるものの、グリモアや伏姫達前衛が撃退し、ポーレット達は安心して調査を進め、地図を作成していった。
「ちょっと待って‥‥金属探知機に反応があるよ!」
「こっちのダウジングマシーンも反応を示している」
 そして5日目、フォルテの金属探知器と愛のダウジングマシーンが、それぞれ異なる反応を示した。
 金属探知器が反応したのはナイフだった。一方、ダウジングマシーンが反応したのはリュートや服、護符といったオーパーツだ。
「‥‥このナイフ、見たところまだ新品のようだし、オーパーツではないようだな‥‥」
「そのナイフ、見覚えがあります。ヘフナーさんがティルさんを襲った時に使っていたナイフです!」
「こんなところにまでヘフナーさんが来ていたとしたら‥‥拙いです! ヘフナーさん、ナイトウォーカーに感染されている可能性があります!」
 イオスの言葉を聞いて月夜が声を上げると同時に、フォルテはトランシーバーでダンディへ連絡を取っていた。
『なるほど‥‥それでヘフナーが我が輩達に襲い掛かってきているのであるな』
 ダンディ達は丁度、ヘフナーと交戦中だった!

「ヘフナー‥‥君?」
 最初に彼に気付いたのは、鋭敏聴覚と鋭敏嗅覚を発動させ、トラック周辺を警戒していたハツ子だった。パンダの耳は帽子を被って、パンダの尻尾は上着を巻いて隠し、半獣化がばれないようにヘフナーに近付く。
 ヘフナーは酒に酔っているかのように千鳥足で彼女の方へ近付いてくる。見たところ、凶行に走ったというナイフといった武器の類は持っていない。
「また、ティル君を狙いの来たの? 懲りないわね」
 お気に入りの赤縁眼鏡越しに睨め付ける。その鋭い眼力に、並大抵の者なら足が竦んでしまうだろう。だが、ヘフナーは歩みを止めない。
「ティル君に嫉妬するのなら、あなたはあくまで役者として彼を見返すべきだったわ。殺したい程憎いというそのコンプレックスを、演技の糧として活かすべきだったのよ! それが出来ず、つまらない真似をした時点で、あなたという人間の底が知れたというものよ」
 ハツ子は肩を竦めるジェスチャーを交えて挑発するが、彼は聞く耳を持たないのか、フラフラとティルの元へ行こうとする。
「無駄だ‥‥ヘフナーはもう‥‥」
 ダンディに肩を借りながらティルが姿を現すと、彼を見たヘフナーが吼えた。その身体はみるみるナイトウォーカーへと変容してゆく。
「‥‥いいわね」
 那由他が目線でティルに確認すると、彼は無表情で頷いた。ナイトウォーカーに感染し、ナイトウォーカー化した者を元に戻す術はない。せめて安らかな眠りを与えるくらいしか、那由他達には出来ない。
 ティルを見てナイトウォーカー化したという事は、未だに彼への嫉妬の炎が燻っているのかも知れない。
 ハツ子が囮となってヘフナーを引き付け、半獣化し、抜刀した那由他が日本刀で斬り付けてゆく。ダンディは万一、那由他が突破された時の事を考えて、まだ戦えないティルを護衛している。その時、フォルテから連絡があったのだ。
 怒りを剥き出しに戦うヘフナーは思いの外強く、那由他もハツ子も無傷とはいかなかったが、それでも那由他の振るう白刃によってヘフナーのコアは破壊された。

「‥‥その通りだ‥‥」
 那由他達が手当てを受ける間に、ヘフナーの亡骸を処理したティルは、ハツ子の言葉を思い出しながら呟いたのだった。

(代筆:菊池五郎)