何かが潜んでいるヨーロッパ

種類 ショート
担当 大林さゆる
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/24〜08/28

●本文

 イギリスのとある小さな村。
 その付近に古い遺跡があるという噂があったが、ほとんど発掘も調査もされていなかった。
 それに目をつけた無名の考古学者が、数人の仲間を連れて奥地へと入っていった。
 時折、繁みがガサガサとなる音が気になり、ふと立ち止まる一行。
「‥‥? こんな所にも、何か動物がいるのか?」
 調査員の一人がそう言うと、ガードマンが目を細めた。
「犬?」
 ふと見ると、円らな瞳をした犬がいた。首輪もしている。
「まさか、こんな奥地に人が住んでいるのか?」
 考古学者が少し驚いた口調で告げた。犬はそれからずっと一行の後をつかず離れずといった調子で付いて来ていた。首輪をしていたこともあり、人に馴れた犬だとほとんどの者がそう思っていた。
 数時間後、半分ほど風化しかけた遺跡が発見された。
「変わった模様の壁画だな‥‥他にも、何かあるか探してみるか」
 昼飯を食べた後、夕方近くまで調査は続けられた。
「暗くならないうちに村に戻るか」
 一行が村に戻る頃には夜になっていた。

 その夜の出来事であった。
「‥‥まさか、な」
 ガードマンは昼に見た犬のことが気になっていた。泊まっていた小屋の窓から外を覗くと、首輪をした犬がいた。が、すぐにどこかへと消えてしまった。
 ガードマンは獣人であったが、そのことは隠して遺跡の調査に加わっていた。この付近にナイトウォーカーがいるという情報を聞きつけ、やってきていたのだ。
 村人や考古学者たちの身の安全を守るため、ガードマンは敢えて獣人であることを隠していた。だが、ナイトウォーカーにその理論は通じない。
 ガードマンは念の為、犬に警戒していた。だが、犬が必ずしもナイトウォーカーであることは限らない。
 その村には、数匹の犬の他に、猫や小鳥もいた。鴉もいる。どこにナイトウォーカーが潜んでいるのかはまだ分からなかったが、この村か、遺跡付近にいる可能性が出てきた。
 そこでWEAからナイトウォーカー討伐の依頼が入った。イギリスのとある小さな村にいるであろうナイトウォーカーの殲滅である。
「ナイトウォーカーが何に憑依しているのかまでは判明していないが、一日でも早く見つけ出し、村人たちの安全も確保していただきたい。表向きは『遺跡の調査員』として活動してもらうことになる。腕に自信のある者は、ぜひ討伐に向かって欲しい」
 依頼人から話を聞いた者たちは、直ちに現場へと向かった。

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa2609 朱凰 夜魅子(17歳・♀・竜)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa3916 七氏(28歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●村で
「第二班の調査員たちが到着しました。よろしくお願いします」
 ガードマンのイオスはそう言いながら、メンバーを紹介した。考古学者は帽子を取ると、一人一人と挨拶した。
「参考資料のために、村周辺や遺跡の写真を取りたいのですが、よろしいでしょうか?」
 シャノー・アヴェリン(fa1412)はカメラが手放せないほどの性格ではあったが、掴まえ所のない表情からして、一見するとそうは見えなかった。だが、考古学者から条件付きで許可が得ることができると、やや表情が穏やかになった。カメラ好きの瞳になっている。
「ゆくるさん、どこ行ってたの?」
 富士川・千春(fa0847)が心配そうに告げると、湯ノ花 ゆくる(fa0640)が紙袋を抱えて走ってきた。
「‥‥パン屋さん‥‥です。メロンパンは‥‥ゆくるの‥愛と、勇気と‥‥希望‥です」
 幸い、村には食材を売っている店や小さいレストラン等もあった。
「おや? こんな若い子たちも調査員なのかい?」
 考古学者が不思議そうな顔をしていた。すると、AAA(fa1761)‥‥通称、エースがとっさに前へ出た。
「ああ、この子たちはね、バイト‥‥そう、アルバイトで来たの。なんでも遺跡に興味があるそうよ」
 エースに肘で軽く突付かれて、朱凰 夜魅子(fa2609)は思わず頷いてしまった。ゆくるも夜魅子も、見た目は少女。考古学者に言われても仕方がなかった。だが、彼は根っからの学問好きらしかった。
「ほほう、若いのに遺跡に興味があるとは‥‥それはうれしいね。考古学は知れば知るほど面白いんだ」
 エースの言葉に、それほど疑問は感じなかったようだ。
「‥‥ごめんね、おじさま」
 エースは小声で言いつつ、微笑していた。
「おじさまって‥‥おいおい」
 九条・運(fa0378)にだけ、エースの言葉が聞こえていた。
「到着したばかりで旅疲れも残っているだろう。初日はゆっくり休んでくれ。ただし、外出する時は僕に声をかけてくれ。無断外出はできるだけ避けて欲しい」
 考古学者に促されて、表向きは遺跡調査員として行動することになった。こうなれば、『依頼』の仕事は人知れず行わなければならない。運たちは獣人の協会WEAから派遣された獣人たちだったのだ。だが、ガードマン以外、その事実を知る者は今のところいなかった。

 七氏(fa3916)は散歩をしながら‥‥そんな風に装いながら、村の中を歩き回っていた。歩道に沿って歩いていると、犬を連れて散歩している中年女性がいた。七氏は半獣化していたが、帽子を被り、大きめのズボンを穿いていたこともあり、普通に見れば人間にしか見えなかった。
 それとなく女性に声をかけ、犬にも話し掛けた。女性は何の疑いもなく、愛犬の自慢話をしていた。七氏は女性の話を聞きつつ、犬の声にも気を配っていた。
 一方、シャノーは空を旋回していた鷹がいることに気がついた。鷹は森には入らず、村外れの枯れ木付近の上空を飛んでいた。シャノーはカメラを持ちつつ、鷹がいる場所まで走っていった。

●情報の纏め
 2日目の夜。メンバーはガードマンのイオスが泊まっている部屋に集まり、情報を整理していた。
「最近‥村から逃げ出した飼い犬がいるらしい‥。もしかしたら、その犬が‥‥」
 七氏が女性と犬から聞いた話を元に、そう告げた。
「犬だなんて、お猿にとっては宿命の相手ね」
 エースが溜息混じりに言った。シャノーは鷹から重要な手掛かりを得ていた。
「夜になっても騒いでいる鴉たちが湖の方にいるみたいです。鷹たちも困っているような感じでした」
 実際、鷹たちが本当に困っているのかまではともかくとして、シャノーは鷹の鳴き声を聞いて、そう感じたのだ。
「夕方、蝙蝠が飛んでたから話しかけてみたけど『ヒャッホー、イエーイ!』しか、聞けなかったわ。ごめんなさい」
 千春がそう言った後、ゆくるもまた、申し訳無さそうな顔をしていた。動物たちの反応を見るため、ゆくるは『吸触精気』を使ってみたが、かえって警戒されてしまい、話が聞ける状況にもならなかった。
 深森風音(fa3736)と言えば、買物をしながら村人と接触したが、シャノーが言っていたことと似たような話を聞いていた。
「夜に騒いでいる鴉がいて目が覚めたっていう人が何人かいたよ。えーっと‥‥少なくとも8人くらいはそんなこと言ってたかな」
「じゃあ、湖は鴉で決まりだな!」
 運は、待ってましたと言わんばかりの勢いであった。
「その可能性は大いにあるけど、複数いることも念頭に入れておいてね」
 風音が宥めるように言った。
「今夜はもう休もう。明日の夜‥‥にな。念の為、七氏は俺と一緒に村に残って欲しい。全員がいなくなると、怪しまれる恐れもあるからな」
 イオスの言葉に、七氏が頷いた。
「分かった‥。村人たちの安全も‥‥考えないと。見張りも大事だし」
「村の警護は七氏さんとイオスさんに任せるね。そうだ、七氏さんにこれ貸すね」
 千春は38口径用消音器を七氏に手渡した。
「ありがとう‥。はるちー」

●南の湖
「手間が省けた‥‥なんて‥な」
 運は血の流れる腕を押さえながら、素早く立ち上がった。自分で斬った訳ではない。鴉のナイトウォーカーに襲われたのだ。
 夜の湖に、月が煌煌と映っていた。
 実体化した2匹のナイトウォーカーは地獄に住まう餓鬼のような食欲で、運に喰らいついてきたのだ。
「冗談言っている暇はないよ」
 風音が駆け寄り、運に治癒命光を施した。
「すまねぇ‥‥1分‥‥1分だ! 1分間持ち堪えてくれ!」
 運の言葉に、シャノーが応えるようにナイトウォーカー目掛けて飛羽針撃を放った。
「1分ですね。回復したら、一斉攻撃に移ります」
 シャノーは羽根を高速で飛ばし、ナイトウォーカーを威嚇した。夜魅子は鋭敏視覚を駆使し、敵の動きを探っていた。
「ナイトウォーカーは連携を取っている訳じゃない‥‥ただ、本能に任せて動いているだけだ」
 今回のナイトウォーカーは明らかに意思はない。さながら目の前にある餌に飛びつく大きな虫のようであった。額にはコアがある‥‥皆、ここに狙いを定めていた。
 運の傷が回復したことを確認すると、風音が念を押すように言った。
「また傷を負っても、1時間経たないとダメだから。気を付けてね」
「ここで決めなきゃ、男が廃るってな! やってやるぜ!」
 運は日本刀を構え、ナイトウォーカーのコアに意識を集中した。
 シャノーの羽根がナイトウォーカーの動きを鈍らせる。夜魅子が特殊警棒で敵の脚を叩き潰した。
「これで動きが‥‥?!」
 ナイトウォーカーは残っている足で夜魅子に攻撃を仕掛けてきた。とっさに回避する夜魅子。
 その間を縫うように、運が地を蹴り、飛び込んできた。
「まずは1匹目だっ!」
 軽く刀を握り、体重を押しての攻撃‥‥運の一撃が、コアに命中した。だが、まだ威力が足りない。
 すさかず、夜魅子が特殊警棒でコアを叩き、シャノーの羽根が突き刺さった。
 それでもナイトウォーカーは倒れない。別のナイトウォーカーが背後から運に飛び掛ってきた。
 擦れ擦れで回避し、運は体勢を整えた。
「行くぜっ!」
 まずは確実に倒すため、一匹目のナイトウォーカーに向き直った。3人の攻撃により、コアはようやく破壊された。それを見た残りのナイトウォーカーが逃げ出そうとしたが、シャノーたちは互いに協力し合い、2匹目もなんとか倒すことができた。 

●森を抜けて、遺跡へ
「ゆくるさん! お願い!」
 前もって千春は、ゆくるに作戦を伝えていた。千春の虚闇撃弾が発動すると、ゆくるも同じ技を繰り出すため、掌をナイトウォーカーに向けた。二人の虚闇撃弾が迸り、敵に命中する。
「やった‥‥です‥?」
「コアが見えたわ‥‥いただくわよ!」
 エースの爪が、細振切爪により伸びていた。
 3人が夜の森を探索していた時、首輪をした犬が現れたのだ。エースが地壁走動で犬を誘導して、遺跡へ‥‥犬は捕獲場所ができたと思ったのか、その正体を見せた。やはりナイトウォーカーは犬に憑依していたのだ。
「あらら、まだかしら?」
 エースはすっとんきょうな声を出した。そう簡単に倒せる相手ではなかった。
「なら、何度でもやるまでよ!」
 エースはとっさに接近して、細振切爪でコアを切り裂いた。その刹那、ナイトウォーカーの前脚が飛んだ。エースの肩は切り裂かれ、血飛沫が飛んだ。
「エースさん!!」
 千春が援護射撃で虚闇撃弾を飛ばす。ゆくるの虚闇撃弾もほぼ同時に放たれた。ようやくコアが破壊され、ナイトウォーカーは息絶えた。
「遺跡の壁画も気になるけど‥‥エースさんの傷が心配だわ。一旦、戻りましょう」
 千春はそう言うと、エースの身体を支えるように助け起こした。

 千春たちが村に戻ったのは、真夜中の2時過ぎだった。エースの傷は、風音が治癒命光で治してくれた。
「ありがとう。助かったわ」
 エースが礼を述べると、風音はうれしそうに笑っていた。
「お役に立てて、良かったよ」
 メンバーは再びガードマンの部屋に集まり、事後報告をしていた。
「やはり、あの遺跡は気になるな」
 夜魅子の言う通り、シャノーも気になっていた。ただし、別の視点だ。
「ナイトウォーカーは特に生命体に憑依することが多いと聞きます。この村にいる者は、今後も調査の対象にした方が良いのでは?」
「ナイトウォーカーは人間にも取り付くって言うしね」
 千春が言った。イオスも、この件を懸念していた。
「諸君‥‥今回は本当に助かった。君たちが調べてくれた件については、俺から報告しておこう」
 今回の依頼は、あくまでもナイトウォーカー退治だ。それは成功した。
 今後、どうなるかはもうしばらく時間がかかるだろう。
 まずは今回の成功を祝福しよう。
 メンバーは、それぞれの帰路へと向かった。