クール・ティーチャーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 大林さゆる
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/10〜09/15

●本文

 熱血教師が主役であるドラマは多いが、そのせいか冷静な教師は脇役として位置付けられてしまう。
 容姿端麗、頭脳明晰、沈着冷静。さらに三つの四字熟語では語れない優しさも合わせ持つ高校教師とくれば、主役として活躍しても不思議ではないはずだ。
 今こそ、クールな教師の出番なのだっ! 熱血教師はこの際、脇役だ。脇役の熱血教師がいても良いではないか。世の中にはアンチテーゼもある‥‥。
 それでこその『クール・ティーチャー』なのである。
 ただ一つ、忘れないで欲しい‥‥。
 教育とは『愛』であると‥‥クールな先生にも愛はあるのだ。
 愛のない教師に、生徒たちは心を開くだろうか?
 否。
 どんなに優しい言葉でも、どんなに冷たい言葉でも、そこに愛がなければ生徒たちはついてこないと言っても過言ではない。
 これは、クールな教師がどこまで冷静になって生徒たちを守れるのか‥‥そんなドラマである。

●主な粗筋
 舞台は、名門高校として知られる星屑学園。
 秋の新学期が始まり、1年C組の生徒たちにも仲良しグループができた。そんな中、未だにクラスに馴染めない生徒、土浦がいた。
 土浦は、他クラスの生徒たちに万引きを唆され、嫌々ながらも実行してしまった。運悪く、土浦だけが店の人に捕まり、警察への報告は免れたものの、学校側には当然のごとく連絡が入った。
 その後、停学処分を受けた土浦は自宅に引きこもったまま、誰とも会おうとはしなかった。担任の綾小路は当初から土浦の動向に気を配っていたが、それでも事件が起きてしまったことに人知れず苦悩する。だが、このままにしておく訳にはいかない‥‥そう思った綾小路は副担任の高山に相談する。
 偶然、その話を聞いてしまった生徒たちは、なんとか土浦を再び学校へ通わせようと綾小路に協力するが、いつのまにか噂が広がり、他クラスとも小さな揉め事が起こるようになってしまった。

 生徒たちよ、学園の平和は、君たちで作るのだ!
 今こそ、クール・ティーチャーの出番だ!

●主な登場人物
綾小路(あやのこうじ)先生‥‥通称、クール・ティーチャー。容姿端麗、頭脳明晰、冷静沈着。1年C組の担任で、数学教師。(容姿端麗、頭脳明晰は自称でも可。ただし、通称のクールさは外せないため、冷静沈着という性格は忘れずに)

高山(たかやま)先生‥‥通称、熱血教師。1年C組の副担任で、体育教師。綾小路をライバル視しているが、実は信頼している。

木下(きのした)学園長‥‥星屑学園の学園長。土浦の件に関しては、何故かノーコメントの姿勢。

西原(にしはら)‥‥1年C組の学級委員長。綾小路と高山を信頼している。

その他‥‥1年C組の生徒2〜4人くらい。生徒名は、各自で決定しても可。生徒以外の役柄も可能。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa1081 三条院真尋(31歳・♂・パンダ)
 fa1784 宮内・ミリー(25歳・♀・猫)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3502 水無月鈴(16歳・♀・小鳥)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

●学園ドラマ『クール・ティーチャー』〜キャスト
蘇芳蒼緋(fa2044)‥‥綾小路 怜(クール・ティーチャー)
楊・玲花(fa0642)‥‥高山 美冬(熱血教師)
桜 美琴(fa3369)‥‥中村 百合子(生徒指導担当教諭)
氷咲 華唯(fa0142)‥‥西原 慎理(1年C組の学級委員長)
三条院真尋(fa1081)‥‥木下学園長(星屑学園の学園長)
水無月鈴(fa3502)‥‥小林 水月(1年C組の生徒)
南央(fa4181)‥‥園田 香(1年C組の生徒)
宮内・ミリー(fa1784)‥‥用務員の秋子さん
大園 麻奈(NPC)‥‥土浦 典子(1年C組の生徒)


●あの子は今、何を思っているのか?
 放課後。部活動に精を出す生徒たちが、グラウンドを駆け抜ける。
 綾小路 怜は、そんな光景を職員室の窓から見ながら、溜息をついた。それは微かであったせいか、他の者は気がつかなかった。
 今日もまた、あの子の家へと足を運ぶ。今日だけではない。最近は、とある生徒の家へ行くのが日課になっていた。
 荷物を整理して席を立つと、生徒指導担当の中村 百合子が立ちはだかった。
「Teacher綾小路、今日も行くのですか? 一人の生徒のために、最近は校内もあまり雰囲気がよろしくありませんわ。悪しき芽は早めに摘むべきです」
 銀縁眼鏡を押し上げ、淡々と百合子が告げた。怜は全く表情を変えない。
「‥‥中村先生は俺よりも冷静かもな。確かに悪しき芽は早めに摘むべきだ。そうすれば子供は大人に反抗しなくなる。学校も『言うことを聞く生徒』ばかりになって管理が楽になる。素晴らしい未来像だ」
 そう言いつつ、怜は立ち去った。偶然、その話を聞いてしまった生徒が思わず職員室から出てしまった。百合子と怜の迫力に押されたのだろう。園田 香は通路の隅で怜を見送った後、自分の教室へと戻った。
 1年C組。怜が担任のクラスだ。そして、このクラスを別の意味でまとめているのが、学級委員長の西原 慎理であった。慎理は真面目な性格であったが、どことなく気さくな面もあり、クラスメイトのほとんどが普通に話ができる生徒だった。ただ一人、土浦 典子を除いては‥‥。
 夕日が注す中、慎理はプリントの整理をしていた。それは怜に頼まれたものだった。
「園田さん、まだ帰ってなかったのか?」
 教室に戻ってきた香に気付き、慎理が言った。香はしばらく沈黙していたが、とぼとぼと歩み寄った。
「あのね‥‥気になることがあるの‥‥綾小路先生、前から冷たいと思ってたけど、最近はさらに冷たくなったみたい」
「冷たいと言えば、冷たいが‥‥それだけ俺たちのことを考えているとも言える訳だ」
 慎理の言葉に、香は思わずこう告げた。
「‥‥先生達って色々言うけど、上辺ばっかりに聞こえるんだよね」
「‥‥少なくとも、綾小路先生は信頼できると思う。冷たいと感じる人って、優しい人が多いんだ」
「‥‥そうかな?」
 香はそう告げた後、窓に映る自分の姿を見て、自然と髪に手がいっていた。
「俺はそろそろ帰るよ。園田さんも気を付けて帰って‥‥なんなら途中まで送るけど」
「え? ‥‥あ、私‥‥一人でも大丈夫だよ。それじゃ、帰るね」
 自分の鞄を持つと、香は教室から出ていった。少し経って、外から声が聞こえてきた。
「土浦さんのこと、よく知りもしないで、勝手なこと言わないで!」
 小林 水月が滅多に無いくらいの声で叫んでいた。
「あんたこそ、土浦のこと、どれくらい知ってるのよ? 実は土浦は万引きで〜」
「止めて!」
 水月が声を荒げると、隣組の女子生徒が楽しそうに笑っていた。それを見て、慎理が割って入ってきた。
「小林さん、一緒に帰ろう」
 そう言って水月の腕を引っ張ると、慎理は女子生徒を無視して去っていった。


●小さなきっかけ
「木下学園長!!」
 熱血教師、高山 美冬が勢いに任せて学園長室に入ってきた。木下学園長は呑気に椅子に座り、お茶を飲んでいた。
「優雅に紅茶を飲んでいる暇はありませんよ! まだまだ新米ですが、綾小路先生に頼まれましたし、はっきりと言わせていただきます!」
 美冬はポニーテールを振り乱しながら机を両手で叩いた。
「中村先生の言い分は厳し過ぎます! 今回のことも土浦さんなりに何か事情があるはずです。きちんと調査をした上で判断すべきです!」
「さすが体育教師、元気ね。そんなに大きな声で言うと、中村先生が来るわよ」
 木下学園長がそう言うと、案の定、百合子がやってきた。
「厳し過ぎる? 当然のことだと思いますが? Ms.土浦は自業自得です」
「前途ある一人の生徒の将来をこのまま摘んでも良いと言うことですか?!」
 美冬の言葉を遮るように、百合子は木下学園長へと向き直った。
「処分が軽過ぎはしませんか? 甘いと第二第三の悪事が出てきますよ」
 そう告げると、美冬を見遣る。
「それから、Teacher高山は少々落ち着きが足りない様ですね。名門高校の名に泥を塗らない様に」
 美冬が何か言いかけた途端、百合子は颯爽とその場を後にした。
「あ‥‥もう、言いたいことだけ言って‥‥」
 木下学園長は二人のやり取りを見て、かえって楽しんでいるようだった。 
「土浦さんのことは、綾小路先生に任せておけば良いわよ。それよりも‥‥」
「それよりも?」
「明日の会議で、何を着ていくかが問題よ。名門高校の名に泥を塗らない様に、ね」
「木下学園長は何を着てもお似合いですって‥‥こんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
「あなたは赤のジャージが似合ってて、うらやましいわ」
「‥‥。‥‥ダメだ、こりゃ‥‥」
 美冬は呆然としていた。


 また来た‥‥毎日毎日来る‥‥放っておいて欲しい。
 土浦はそう思いつつも、二階の窓から帰っていく担任の後姿を見つめていた。
 普通ならば、家まで来たらチャイムの一つも鳴らすだろう。だが、綾小路はそれすらしない。
 何かと思えば、土浦の家のポストに手紙を投函するだけ。
 小林 水月の提案をヒントに、綾小路は土浦宛に手紙を書いて、投函しているだけだった。
 ただ、それだけだった。それ以外、何もしない。
 手紙は溜まる一方で、土浦は今まで読む気がしなかった。
 だが、今日は土砂降りだった。こんな日まで、綾小路は手紙を投函していた。
 土浦は綾小路がいなくなってから、恐る恐る玄関に出て、手紙を手に取った。すぐに二階へと登り、自室に閉じこもった。母親はパートの仕事でいない。父親も仕事だ。家の中は静まり返っていた。
 一通くらい読んでやろう‥‥雨の中、来たんだし、それくらいしないと申し訳無い。
 土浦はようやく、今日投函された手紙を読む気になった。見ると、綾小路の自筆だった。
 白い便箋には、こう書かれていた。

『土浦、元気か? お前が来るのを待っている』
 たった一行‥‥それ以外、何も書かれていなかった。


●お前が来るのを待っている
 翌日の朝。空は晴れていた。澄み切った青空だった。
「秋子さん、おはようございます」
 花壇の整理をしていた用務員の秋子に声をかけたのは、木下学園長だった。
「今日は会議ね?」
「そうなんですよ。だから、今日は地味なスーツにしてみたの」
 何故か木下は敬語混じりに話していた。
「? ‥‥何してるのかな?」
 登校したばかりの香は、二人の姿を見て立ち止まった。すると、ヒールの鳴る音が聞こえた。その音だけで分かる。英語の鬼百合だ。
「グッモーニン、Ms.園田。ところで‥‥スカート丈が短いようね?」
「お、おはよう‥‥ございます。えと、気のせいです」
 香はそそくさと走り去った。だが、鬼百合が早足で追いかけてくる。
「待ちなさい、Ms.園田。逃げるとあなたのためになりませんよ?」
 結局、秋子と木下学園長が何を話していたのか、うやむやになってしまった。
 だから余計に気になってしまう。何を話してたんだろう?
 数学の授業でも、香はふとそんなことを考えていた。
「どうした、園田?」
 我に返ると、担任である怜が教科書を持って横に立っていた。
 怜の表情は、いつもと変わらない。それがなんだか癪に障った。
「なんでも‥‥ありません」
 香が少しぶっきらぼうに返答しても、怜はいたって気にする素振りはなかった。
「そうか‥‥では、授業を続ける。問3は‥‥小林にやってもらうか」
 水月は「はい」と告げると、黒板へと向かい、チョークで数字を書き始めた。
「‥‥。‥‥正解。解くのが早くなってきたな」
 いつものように‥‥いや、少しだけ‥‥ほんの少しだけ怜の口調が穏やかになったような気がした。


 数日後、美冬は副担任として教師として、それ以上に人として、気になって仕方がなく、一人で土浦の実家へと足を運んだ。
「西原君じゃない? あなたも気になって来たの?」
 玄関の前に着くと、慎理がいた。
「綾小路先生に頼まれて、数学のプリント持ってきただけだよ」
「だけだよって‥‥土浦さんのことも気になるわよね?」
 少し経つと、土浦の母親がでてきた。
「あの‥‥何か? ‥‥確か、高山先生でしたよね?」
「は、はい! わ、わたしが副担任の、高山 美冬でございます!」
 緊張のあまり、美冬の声が上擦る。
「先程、用務員の方がいらっしゃって‥‥なんでも、娘とはよく話をするそうで‥‥担任の先生は?」
 母親がそう言うと、慎理が答えた。
「そのうち、来ると思います」
「そうですか‥‥。娘が、その‥‥久し振りに笑っていたので‥‥」
「?!」
 思わず顔を見合わせる美冬と慎理だった。
 母親に促されて二階へいくと、秋子の笑い声が聞こえてきた。
「秋子さん‥‥土浦さんと友達だったの?」
 美冬にとっては衝撃の事実だったのか、驚きを隠せなかった。土浦の部屋に入ると、すっかり和んでいる秋子がいた。
「見て見て〜、どの手紙も同じ文ばっかり。綾小路先生の弱点見つけたり〜だね」
 秋子は楽しくて仕方が無い様子だった。
 美冬と慎理が部屋に入ってくると、土浦もまた驚きを隠せなかったのか、しばらく何も言えなかった。
「土浦さん‥‥いきなり来て、ごめんね。それで‥‥その手紙は何かしら?」
 美冬の問いに、土浦は返答しなかった。慎理はそっと近付き、手紙に目を通した。
「同じ文ばかりだな。『土浦、元気か? お前が来るのを待っている』‥‥か」
 大雑把に見ても、手紙は30通近くあった。
「これ‥‥綾小路先生の字じゃないの?」
「‥‥どれも、これも‥‥同じ言葉だけ‥‥他に‥‥言うこと、ないのかな‥‥」
 土浦の声が震えていることに気付き、美冬は顔を上げた。
「‥‥土浦さん‥‥」
「‥‥綾小路先生、雨でも来るんだもん‥‥ずるいよ‥‥土曜日も日曜日も来るし‥‥これじゃ、私が馬鹿みたいじゃない‥‥」
 そう言った後、土浦は美冬にしがみ付き、今まで押し殺していた感情を吐き出した。
 ずっとずっと、泣きたかった。泣きたくても、泣けなかった。
 だが、今は不思議と涙が止まらなかった。


 家のチャイムが鳴った。
 土浦が停学処分になってから、怜がチャイムを鳴らしたのは初めてだった。
「‥‥すみません」
 母親の顔を見て言ったのは、その言葉だった。怜は、頭を下げることしかできなかった。
「‥‥。‥‥。‥‥あの、失礼ですが‥‥何故、今まで娘に直接会おうとしなかったのですか?」
 土浦の母親もまた、人の親。娘を思うあまり、そんなことを言ってしまった。
「今回のことは、未然に防げなかった俺にも責任があります。申し訳ありませんでした」
 真摯にそう告げることしかできなかった。それしかできない自分に、怜は心底悔やんでいた。無表情ではあったが、怜の両手が微かに震えていた。
「‥‥綾小路先生」
 玄関口で、母親たちが話しているのが耳に入ったのか、土浦が静かに階段を降りてきた。
「‥‥土浦‥‥すまん‥‥」
「‥‥。‥‥別に‥‥先生が謝る必要はないよ‥‥万引きしたのは、事実だし‥‥」
 意外と、土浦は冷静になっていた。
「‥‥。それでも、土浦は‥‥俺の生徒だ。それに‥‥変わりはない」
 怜は、震えていた。心が、震えていた。自分に言えることは、それしかなかった。
 自分は言葉が不器用だと感じていたが、痛切にそう思わずにはいられなかった。
「‥‥すまない‥‥ありきたりなことしか、言えない」
 すると、土浦はこう告げた。
「‥‥綾小路先生‥‥ごめんなさい。それから‥‥お母さん、ごめんなさい‥‥寂しいからって、悪いことしても、ちっとも楽しくなかった‥‥でも、綾小路先生の手紙は面白かったよ」
「手紙‥‥あれは、小林の案で‥‥すまない‥‥あれしか、思いつかなかった」
 怜がそう告げると、土浦はうれしそうに笑っていた。
「土浦、元気か? お前が来るのを待っている‥‥そればっかり」
 そう告げた後の土浦は、涙ぐんでいた。
「綾小路先生‥‥国語の勉強、した方がいいよ」
「‥‥? どういう意味だ?」
 不思議そうに怜が言うと、二階から笑い声が響いた。
「な? ‥‥高山‥‥先生?」
「綾小路先生のびびった顔、はじめて見たわ〜」
 してやったりの美冬であった。そんな光景に、土浦の母親もようやく安心したのか、怜に頭を下げた。
「綾小路先生、こちらこそ娘がご迷惑をかけて、本当に申し訳ありませんでした。冷たい‥‥先生だとお聞きしていましたが、毎日、娘に手紙を送って下さったそうで、ありがとうございました」
「‥‥いえ‥‥土浦さんが学校へ戻れるようにするのが教師の務めでもありますから、お気になさらずに」
 土浦がクラスに馴染めるようになるにはまだまだ時間はかかるだろうが、再び学校へ通える日は近いだろう‥‥誰もが、そう思っていた。