ママは魔法使いアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 大林さゆる
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 09/24〜09/28

●本文

 朝はいつも静かだった。
 パパは起きる前に仕事に行ってしまうし、朝ご飯はコンビニで買ったパンばかり。
 そんな毎日が続いたのに、突然『ママの代わり』だという人が現れたんだ。
 その人は全く知らない人なんだ。
 いきなりママの代わりとか言って、居座ってる。
 おかしい‥‥本当のママは、いなくなったんだ。顔だって覚えている。
 だから、ママ代わりの人が本当のママじゃないことくらい分かる。
 分かるのに‥‥誰も不思議に思わないんだ。不思議に思っているのは自分だけ。
 周りの人は現状を受け入れているのに、自分だけ信じられないんだ。
 パパでさえ、ママ代わりの人を『母さん』と呼ぶんだ。
 ママ代わりの人は料理も家事も上手で、そういう点では申し分ない。
 だけど‥‥本当のママを忘れるのは嫌だ。
「貴女は、本当のママじゃない!」
 そう言っても、ママ代わりの人はニコニコしながら夕飯を作ってる。
 パパは普段、帰りが遅いのに、最近は帰宅するのが早くなった。
「この人、誰?! 内緒で結婚してたの?!」
 そう言うと、パパはきょとんとした顔でこう告げた。
「何言ってんだい? 母さんはずっといるじゃないか。変なこと言うなよ」
「変なこと言ってるのは、パパだよ! それに最近帰りが早いし、そっちの方が変だよ!」
「ああ‥‥仕事が速く片付くことが多くなってね。僕としては母さんと君と一緒に夕飯が食べれるようになってうれしいんだけどな。君はうれしくないのかい?」
 パパは幸せな表情だ。
 こんなこと、ありえない。嘘だ。これは夢なんだ。
 パパがこんな顔、するはずない。
 最初はそう思っていたはずなのに‥‥突然、ママ代わりの人は自分の国に帰ると言った。
「実は‥‥フラワーランドから来た魔法使い。地球世界にいられるのは、ほんのわずか‥‥短い間だったけど、楽しかった」
 そう言って、ママ代わりの人は消えていった。
 とびきりの笑顔を残して‥‥。


●主な登場人物
主人公の子供、明良(あきら)‥‥10〜14歳くらい。男の子でも、女の子でも可。

ママ代わりの人‥‥女性でも、男性でも可。実は魔法使いだが、近所の人はジョークだと思っている。

明良のパパ‥‥男性が望ましい。外見20代〜40代くらい。この役割をするPCがいなければ、NPCがやることになる。

近所の人‥‥お隣さん、近所のパン屋さん、ケーキ屋さん、などなど。ご自由に。明良がママ代わりの人につっかかると、優しく声をかけてくる。誰もがママ代わりの人を『明良のママ』だと信じて疑わない。実はママ代わりの人がそう信じるように魔法をかけた。

●今回の参加者

 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa2604 谷渡 うらら(12歳・♀・兎)
 fa4210 小明(11歳・♀・パンダ)
 fa4235 真喜志 武緒(29歳・♂・狸)
 fa4287 帯刀橘(8歳・♂・蝙蝠)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)

●リプレイ本文

●ほのぼの家族ドラマ『ママは魔法使い』〜キャスト
谷渡 うらら(fa2604)‥‥葉山 明良(主人公)
伊達 斎(fa1414)‥‥葉山 幹也(主人公の父、刑事)
竜華(fa1294)‥‥美緒(魔法使い)
小明(fa4210)‥‥春風 まゆ(明良の親友)
真喜志 武緒(fa4235)春風 藤孝(春風飯店の店主)
帯刀橘(fa4287)‥‥黒崎 ススム(葉山家のお隣さん)
グリモア(fa4713)‥‥夏川 カイ(近所のお兄さん)
巻 長治(fa2021)‥‥誘拐犯の男性(通称、黒の兄貴)
河田 柾也‥‥エキストラ(初日のみ先行撮影)


●ママ代わりの人?!
「だ、だ、だ、誰ぇ〜っ! 勝手に人んちの冷蔵庫、開けないでよ!」
 早朝のことだった。台所に見慣れぬ女性がいた。葉山 明良は泥棒かと思い、新品の箒を手に持ち、わなわなと奮えていた。刑事である父の幹也はすでに出勤している時刻だった。今、我が家にいるのは明良一人だけのはずだった。
「おはよう、明良。これから目玉焼き作るわね。顔、洗ってきてね」
 女性はエプロンを付けて、フライパンを持っていた。
「な、な、なに、お母さんみたいなセリフ言ってるの?! ど、ど、泥棒ぉぉぉ! 誰か来てぇぇー!!」
 明良は頭が混乱して自分でも何を言っているのか訳も分からず叫んでいた。
「どうした?! 明良、大丈夫か!」
 叫び声を聞いて、犬の散歩中だった夏川 カイが一階のベランダから駆けつけてきた。
「ど、泥棒はどこだ!!」
 カイも慌てていたのだろう。愛犬を抱きかかえ、靴も脱がずに入ってきた。
「カイ兄ちゃん?! そ、そこにいる〜!!」
 明良が女性を指差して駆け寄ると カイは脱力して笑い出した。
「誰かと思えば、美緒さんじゃないか? 美緒さん、今日も綺麗ですね〜」
「え? カイ兄ちゃんの知ってる人?」
 明良が涙ぐみながら言うと、カイが朗らかに笑った。
「なんだ、明良、寝ぼけてるのか? おまえの母さんだろう?」
「ち、違うよ! この人、ママじゃないよ! 全然知らない人だよ!」
 明良がそう言っても、カイは楽しそうに笑うだけだった。
「明良、ケンカはよくないよ? お母さんが可愛そうじゃないか?」
 そう言って、カイは自分が靴を履いていることにようやく気付き、頭を下げて美緒に謝った。
「大丈夫よ。明良のこと、心配して来てくれたんでしょ? ありがとう」
 美緒は気にすることもなく、犬の背中を撫でていた。
「それじゃ、俺はこれで失礼します。明良、遅刻すんなよ」
 カイはそう言って、玄関から立ち去ってしまった。
「ま、待って、カイ兄ちゃん! 『お母さん』って、どういうこと?!」
 明良がカイの後を追いかけようとすると、美緒に腕を掴まれた。
「いやー!! これって、恐怖映画か、なんか〜?! 知らない人がお母さんって、どういうこと〜?! それともボク、記憶喪失〜?!」
 明良にとってはあまりにも非常識な出来事だったのか、知恵熱が出て、気を失ってしまった。


●ちぐはぐな心
 結局、明良は小学校を休むことになってしまった。
 熱で身体もだるい‥‥その日は、眠ることで精一杯だった。夕方、いつもより早い時間に父が帰ってきた。そっと娘の様子を窺うように、幹也は明良の部屋へと入る。
 年頃の娘の部屋は、父にとってはなんとなく繊細な硝子にも似て、気軽に触れることができないものだった。だが、今日はそんなことを気にしている暇はない。一人娘の明良が高熱で倒れたのだ。額に置いたタオルを変えようと、幹也はベットで寝ている明良に近付いた。
「‥‥パパ‥‥?」
「ごめん、明良‥‥起こしてしまったかな?」
 明良の瞳に父の姿が映ったが、睡魔に勝てず、再び眠りに落ちた。それから数時間後、一階から父の声が聞こえてきた。誰かと話しているようだった。
「‥‥お腹、空いた‥‥」
 明良は寝ぼけ眼で二階の自室から一階のキッチンへと向かった。
 父が楽しげに話している‥‥向い側にいるのは、あの女性‥‥美緒だ。
「美緒さん、今日のカレーは美味しいね」
「とっておきのものを入れたのよ。2日目の味みたいでしょ?」
「パパ!!」
 二人の話を遮るように、明良は思わず叫んだ。
「明良? もう起きても大丈夫なのか?」
 幹也は心配のあまり、椅子から立ち上がり、明良と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「‥‥パパ‥‥パパは忘れちゃったの? ‥‥ママは‥‥交通事故で‥‥」
 明良があまりにも辛そうに言うので、幹也は優しく抱き締めた。
「そうだったね‥‥嫌なことを思い出させてしまったね。だけど大丈夫‥‥僕がいるよ」
 良かった‥‥パパは忘れてない。明良がそう思った矢先、幹也はこう言った。
「美緒さんも無事だったしね」
 その言葉は明良にとっては受け入れ難いことだったのか、思いっきり父を突き放した。
「違う! この人はママじゃない! パパなんか知らない!!」
 明良は涙を浮かべながら階段を駆け登り、自室のベットに転がり込んだ。
「ボクに内緒で‥‥あの人と結婚してたんだ‥‥いつのまに‥‥」
 そう呟いても、明良の気持ちが落ち着くことはなかった。少し経つと、お粥と麦茶を持って幹也が現れた。
「明良‥‥」
「いらない!」
「そうか‥‥僕が作ったものじゃ、食べたくないか‥‥」
 明良は驚いて顔を上げた。お粥とは言え、父が何かを作るのは何ヶ月振りだろう。
「‥‥パパが‥‥作ったんなら‥‥食べる」
 少し顔を赤らめて明良が告げた。それだけで幹也はうれしかった。自分でも知らずに笑みを浮かべていた。明良は久し振りに父の笑顔を見て、本当のママを思い出していた。


●それでも時間は流れていく
 ランドセルを背負って、明良は今日も小学校へと向かう。三人の奇妙な共同生活は10日過ぎ、明良も大分慣れてきた。少しずつ慣れてきた自分の感覚に、明良は思わず溜息をついた。
 明良の様子がおかしいと思い、親友の春風 まゆが心配そうに言った。
「明良ちゃん、熱が下がったばかりなんだから、無理しないでね?」
「無理はしてないよ。それに今日は1時間目から体育の授業だし、はりきっちゃうもんね」
 明良のガッツポーズを見て安心したのか、まゆが微笑した。
「バレーボールでも明良ちゃんと一緒のチームで、うれしいよ。今日、学校が終わったら、うちの店に寄ってね。まゆのパパが、明良ちゃんに渡したいものがあるって言ってた。それから、これ、あげる。カモミールのポプリ。最近、疲れてるみたいだから」
「ありがとう。誕生日でもないのに‥‥ん、まゆの店に行くよ」
 一日の授業が終わり、掃除をしていると、黒崎 ススムが窓を拭きつつ、明良に声をかけてきた。
「今日の帰り、明良ちゃんの家に行ってもいいかな? 昨日、明良ちゃんのお母さんと会ってさ、それで今度遊びに行きますって言ったら、ホットケーキ作って待ってるわ、って」
 ススムは明良の家のお隣さんだったが、両親が金持ちらしく、実家の屋敷にいることが少なかった。そのせいか、ススムは以前から明良の家へと遊びに来ることが多かった。
「えっとね、今日はまゆの店に行くことになってるんだ。その後でなら良いよ」
「ホント、良かった」
 ススムは喜んでいた。明良は当初、美緒の話題が出ると、その度に反論していたが、いくら言っても「美緒さんは、明良ちゃんのママだよ」の一点張りだったこともあり、今ではすっかり反論しなくなってしまった。心の中では「違う」と思いつつも‥‥。
 放課後、明良はまゆ、ススムと一緒に中華飯店『春風飯店』へと足を運んだ。店に入ると、優しそうな男性が出迎えてくれた。
「まゆちゃん、お帰りなさい」
 店の主、春風 藤孝はまゆの父だ。藤孝はまゆの頭を優しく撫でた後、綺麗に包んだ紙袋を明良に手渡した。
「好きだったよね、桃饅。ご両親にも持っていってあげてね」
 そんな様子に、ススムは羨ましそうな表情をしていた。
「ススムくんの分もあるから安心してね」
 厨房に入り、桃饅を紙袋で包みながら藤孝が言った。ススムは受け取ると「ありがとうございます」と大きな声で告げた。
「それじゃ、また明日ね」
 まゆと藤孝に見送られながら、明良はススムと共に家へと向かった。歩道の曲り角まで来ると、黒の車が停まっていた。煙草を吸った男性が一人‥‥車の中にも誰かいるようだった。
 ススムと明良が歩きながら話をしていると、急に男性が接近してきて、二人の口に何かを押し付けた。目眩がしたかと思うと、明良とススムは気を失った。
「一人だけで良いものを‥‥まあ、いい」
 車の中にいたスーツの男性が不機嫌そうに言った。
「すいません、兄貴‥‥こっちの少女にも見られちまったもんで」
「用が済んだら、さっさと始末するか」
 兄貴と呼ばれた男性は気が短いのか、少しいらついていた。車を飛ばし、港にある古びた倉庫へと辿り着いた。現在は使用されていない大きな倉庫が、彼らの仮住まいでもあった。だが、ブツを手に入れたら、すぐにおさらばだ‥‥黒の兄貴と、その手下は歪んだ夢に酔っていた。
 明良とススムは気絶している間にロープで縛られて、倉庫の奥にある一室に閉じ込められていた。
「黒崎の旦那か‥‥貴様の子供はあずかった‥‥だが、俺の気分次第でどうなるか分からんな」
 黒の兄貴は携帯電話で、用件を告げた。 
「まあ、一億‥だな。それだけ出せば貴様の息子は帰してやる。‥‥何? 一億出せんだと? ふざけるな! 子供がどうなっても良いってのか?!」
 憤慨している兄貴を見て、手下の男がびくついていた。
「明日までに持ってこねぇと、子供の命はないと思え! 改め連絡する。それまでに妙な真似はするなよ」
 携帯電話の電源を切り、これで場所は掴めないだろうと考えていた。


 この事件は、その日のうちにニュースとなって全国各地に伝えられた。手下がラーメン屋のテレビで放送を見て、慌てて倉庫へと戻ってきた。
「なんだって? ‥‥ちっ、仕方がない」
 黒の兄貴は、まさか携帯電話で連絡を入れた際、警察に逆探知されたとは思いもしなかった。直ぐに車で逃亡しようとしたが、時すでに遅し‥‥倉庫の周囲には警察やパトカーが次々と集まっていた。
(「‥‥明良‥‥無事でいてくれ」)
 一人娘が誘拐される‥‥幹也は刑事として、心のどこかではそれを危惧していた。それが現実のものとなってしまった。いや、今は刑事として黒崎家の御子息を守らねばならない。そう思いつつも、娘が誰よりも大切な存在であることを幹也は痛感した。
 胸が痛かった。実際にそうならないと、人間は心に痛みが走らないのかと幹也は冷静にそう思う自分に人知れず苦笑していた。
「葉山警部、犯人は人質とともに倉庫に立て篭もっています。厄介なことに、彼等は銃を携帯しているようです」
 弟分の刑事にそう言われて、幹也は倉庫を見つめた。
「どうやら誘拐犯は短絡的な思考の持ち主のようだ。怒らせるのは得策ではない。宥める方向で、警戒するように」
 指示に従い、他の刑事が犯人に対して落ち着くようにと声を張り上げていた。それを聞いて、黒の兄貴は鼻で笑っていた。
「ふん、馬鹿め‥‥こっちには人質がいるんだ」
 そう言った矢先、手下がウロウロしながら言った。
「兄貴〜、人質の二人がいません〜」
「なに?!」
 窓の隙間から、外の状況を確認する。見ると、少女が刑事に抱きついていた。
「パパ!!」
「明良!! 無事だったか‥‥」
 幹也は人目も気にせず、明良を抱き返した。
「パパ、パパ‥‥恐かった」
「もう大丈夫だ‥‥父さんがついてる‥‥ススムくんも無事だったようだね」
 幹也が肩を軽く叩くと、安心したのかススムまで泣き出した。すると女性刑事がやってきて、ススムを抱きかかえた。
「ススムくん、安心してね。もうすぐお父さんが来ますよ」
「ホント?! 父さんが来てくれるの?!」
 ススムが驚きの声をあげる。いつだって仕事第一の父親だったが、さすがに今回の事件で懲りたようだった。犯人が捕まり、ススムの父親が車で現場までやってきた。
「ススム!!」
「父さん!!」
 父と子が抱き合い、それを見た明良は自分とパパの抱擁を思い出して、顔が赤くなっていた。誤魔化すように、明良は父にこう告げた。
「そだ、美緒さんにお礼言わなきゃ。美緒さんが助けてくれなきゃ、どうなっていたことか」
 閉じ込められていた時、七色の光に包まれて、美緒が現れたのだ。ススムは「すごーい、魔法使いみたーい」と好奇心の眼差しで言っていたが、美緒は冗談なのか本当なのか「そうなの。実は魔法使いなのよ」とおどけていた。
「美緒さん? ‥‥明良の知り合いかい?」
 幹也が不思議そうに言った。
「え? 何言ってるの、パパ。10日くらい前に突然うちにやってきた人だよ?」
「10日くらい前?」
「一緒に暮らしてたじゃない?」
「美緒さんという人が? 何のことだか、父さんには分からないよ。ママがいなくなってから、僕と二人っきり‥‥。‥‥いや‥‥ずっと‥‥ずっと、ひとりぼっちにさせて、すまなかった」
 父が涙を浮かべていた。本当のママがいなくなった時‥‥パパは泣いていた。泣いている姿を見て、自分も涙が止まらなかった。
「そ‥そんなことないよ‥‥パパが、いつも仕事でがんばってくれてたから、ボクは毎日夕飯作るのだって、億劫じゃなかったし‥‥パパが良いなら、これからも夕飯作るよ」
「‥‥明良‥‥。‥‥ありがとう」
 幹也はそれしか言えなかった。
 ママ‥‥明良を生んでくれて、ありがとう。
 幹也は心の中で、そう想っていた。

 心が重なり、一つになった。
 それはやがて大きく広がり、世界を包み込むのだった。