秋の野外コンサート!!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
大林さゆる
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/15〜10/19
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●本文
先日、ロック・グループ『A』が新曲をリリースした。
ヴォーカル、IRITO。ベース、KAISE。ドラム、TAKI。
以前は4人だったが、音楽性の違いからギターを担当していた者が抜けて、今は3人グループとして活動していた。
「やっぱ『A』を『エー』って読む者が多い。つーことで、次のコンサートではその辺に注意だ。『A』と書いて『エース』と読むべし!!」
練習が終わり、IRITOたちは顔馴染の居酒屋で酒を飲み交わしていた。サラリーマンが多い中、奇抜な格好をしたメンバーはかなり目立っていた。
IRITOは何かにつけてグループ名の読み方を気にしていた。リーダーのTAKIは、そういったことには無頓着だった。それでギター担当が抜けたとIRITOは言っているが、実際のところ、そんなことは全く関係なかった。
「まあ、要するにだ。ロックとは言ってもいろいろある訳ね。説明すると長くなるから省くけどさ、IRITOは好きなように歌って良いんだ」
TAKIが焼き鳥を食べながらそう告げると、KAISEは日本酒を飲みつつ無言で何度も頷いていた。
「そんなこたー、言われるまでもねぇっての。俺はいつだって好きなようにだな‥‥アイツが『音楽性の違い』に拘ってたのは、よく分からんが‥‥」
IRITOが少し寂しげに言うと、KAISEは何も言わずに頭を撫でた。TAKIは周囲の様子を眺めていた。新人のサラリーマンたちが愚痴を言い合っていた。
「俺たちの音楽は、考えてやるもんじゃない。好きだから、やってんだろ? 今はそれで良いじゃんか」
TAKIは敢えてそう言ったが、内心は別のことを考えていた。
次のコンサートは間近だった。
新曲がリリースされた記念に、とあるライブ企画でロック・グループ『A』が招かれることになった。他にも数人の歌手、グループなどが参加できることになり、野外コンサートが開催されるそうだ。
そして今回は『動物コスプレ』OK!!
ファンにとっては期待が膨らむ日々が過ぎていった。
●リプレイ本文
ロック・グループ『A』の新曲『リアルハート』が披露され、野外にいる観客たちは盛大に拍手をしていた。どう見ても、ヴォーカルのIRITOは楽しそうに歌っている‥‥だが、勘の鋭い者ならば気がついたであろう。IRITOは少し無理をしているのではないか?
「‥‥IRITOさん」
微妙な変化に気がいたアリエラ(fa3867)は、少し心配そうな顔をしたが、すぐに明るい笑みを見せた。IRITOたちがステージから降りてきた。こういう時こそ、笑顔‥‥アリエラは直感的にそう思っていた。ふと見せる笑顔にIRITOはほんのちょっぴり面食らっていたようだが、なんとなく小さく笑い返していた。
「なんだ、アリエラ? 珍しく緊張してんのか?」
IRITOがそう言うと、アリエラはわざと頬を膨らませる。
「私だって緊張する時はするのです!」
そんな調子に、IRITOは腹の底から笑っていた。アリエラは「笑い過ぎ〜!」とIRITOの頭を軽く叩いていた。久し振りのステージで本当に緊張していた豊田そあら(fa3863)は、二人のやり取りを見て安心するように微笑んでいた。
「よし、あたしらしく、よね」
そあらは自分にそう言い聞かせた後、ステージの上に登った。
「皆さん、はじめまして〜! アイドル声優の豊田そあらです! 秋と言えば、恋の季節‥‥と言う訳で、季節にぴったりの歌を歌っちゃいます。曲は『Autumn Destiny』‥‥恋する人たちを、あたしも応援するからね〜♪」
犬耳と尻尾を揺らしながら、そあらは元気に歌い始めた。
『いつもいつも キミのこと探し求めている
姿を追って彷徨うけど 心は満たされている
木葉が舞う中 秋の麗らかな日差し
やっとあなたを見つけた
隣で肩を並べたい いつの日か結ばれる日まで
胸の奥にフォトグラフに いつまでも残しておきたい
DREAM COMES TRUE
いつか叶う 私たちの願い
あなたが好きだから いつまでも ここにいて
あなただけ あなただけ待つの』
黒の衣装を纏うロック・グループ『A』をバックバンドに、そあらのカントリー風なワンピース姿がさわやかに映えていた。アイドルというだけあって、そあらの笑みはチャーミングだった。
「最後まで聞いてくれて、どうもありがとう〜♪」
拍手の後に、颯爽と現れたのはドラゴンに似せたコスチュームを着込んだTyrantess(fa3596)だった。ギタリストではあったが、ソロで登場することになった。
背中の開いたビスチェ風の上着、ミニのタイトスカートはドラゴンの鱗をイメージしたツヤのあるブラックであった。
「今日はボーカルにも挑戦するぜ。曲名は『Greedy Dragon』‥‥よろしくな」
エレキギターを自ら演奏するが、激しい音色は力強く音程も明確であった。ギターソロから始まって、続いてドラムやベースが入った。前奏‥‥そして歌に続く。
『伝説の中のドラゴンも 逃げ出すくらいに強欲な
俺が欲しいと決めたんだ 必ずモノにしてみせる
The greedy dragon wants you!
There’s no way to run, hide or escape
The greedy dragon wants you, you! Yeah, you!
So be mine now, or else‥‥? No ”else”!』
幼い外見と甘いヴォイスとは裏腹に、エレキギターは竜の唸り声のように鳴り響いていた。最後にTyrantessの叫びにも似た歌が奮える。それは『今生きる』自分の姿を表現しているかのようでもあった。
場内は異様に盛り上がり、ロック・ファン一同がはしゃぎ回るほどの熱狂と化していた。ある程度、場が落ち着くと、次のグループが登場した。
「こんにちは。『Sonia』のボーカル、圭です。エレキギターを担当するのはミッシェルさん。ベース担当は陸 和磨さんです」
蓮 圭都(fa3861)が挨拶の言葉を告げると、ミッシェル(fa4658)と陸 和磨(fa0453)が楽器を手に持ち、頭を下げた。
「曲は『夜明けの翼』‥‥どうぞ聞いて下さい」
圭都の言葉に、観客たちはステージに注目した。ゆっくりと、静かにメロディが流れる‥‥まるで、夜明け前の静寂を彷彿とさせる。和磨のベースがそう語りかけるように鳴ると、ミッシェルは融合させるようにエレキギターを奏でた。この曲にはミッシェル自身も思い入れがあった。
打って変わり、アップテンポな曲調になった。圭都の安定した美声が心地良く聞こえる。赤地にチェック柄のスクエアシャツ、ボトムスには黒のショートパンツ。足元はブーツ‥‥しなやかな圭都のスタイルに良く似合っていた。
ミッシェルは白シャツにレジメンタル・タイ、ブラックのレザーパンツ。和磨も合わせるように白と黒の衣装を着ていた。
『星の翳る霧に惑い 月の光は届かない
夜は人を渡り 夢幻の華が咲いては散る
トリカゴ 冷たい鉄は鈍く輝き微笑んだ
守られていたのか 囚われていたのか
羽ふるわせ 小鳥は飛び立つ Change is chance!
君の翼 確かにその背にあるはず
鎖にも茨にも染まらない 真白な
雲を抜ければ 未だ知らない始まり連れて
全て照らす太陽は昇る
この歌いつか届く時まで 羽ばたき続ける』
中盤から空へと舞うようなメロディとなった。赤の圭都が太陽を現しているとしたら、ミッシェルと和磨は羽ばたく白い翼のイメージだろうか。
「Change is chance!」
シャウトを効かせた圭都の声が木霊した。天を指差し、高らかに歌う様は堂々としていた。観客も聞き惚れていたのか、かえって場内は静まり返っていた。『Sonia』の音楽だけが聞こえるだけだった。
間奏でミッシェルのエレキギターが鳴ると、観客は思い出したかのように歓声をあげた。徐々に場が盛り上がっていく。和磨は緊張しながらも、確実にベースを弾き熟していた。
そして、最後のグループが登場する。鳥ならぬ取りを飾るのは『Foliage』のメンバーだ。
「まさか最後の出番になるとは思わなかったな‥‥えと、自己紹介が後になったけど『Foliage』のボーカルで、ケイって言います。僕の歌ったひとフレーズが、誰かの活力になれば嬉しいな」
にこやかに微笑しつつ言ったのは、慧(fa4790)。後ろに控えていたアリエラとEUREKA(fa3661)が観客に向かって手を振る。
「アコースティックギター担当のアリエラ、だよ♪」
「キーボード担当のEUREKAよ。曲は『Road of the Life』‥‥音楽で知り合った全ての人々に、この曲を捧げます」
一呼吸した後、EUREKAの弾くキーボードからドラム音が鳴り響く。その調子に合わせてアリエラが楽しげにアコースティックギターを弾く。次第に足下からスモークがふわふわと流転していった。
慧はユニット名に因んで青緑のハンチングを被り、白の長袖シャツに薄灰色のジーンズ姿であった。アリエラはトレードマークのサイドポニに青緑色のリボンを付け、クリーム色のルーズニットにカーキグリーンのミニプリーツスカートとスエードニーハイブーツをはいていた。EUREKAは淡く落ち着いた青緑色のロングカーディガンの下に黒のレースワンピース、黒ベロアのショートブーツがスモークで揺らめいていた。
『闇の中ひとりぼっち
でも感じていたよ 僕を待つ声
だから光に触れた時 心から泣いたんだ
会えて嬉しくて 温もりが優しくて
誰も皆ひとりぼっち
でもそこから始まる 目的探しの旅
だから必死に立ち上がり 転んでも歩いたんだ
いつか走りたくて 仲間に巡り会いたくて
僕が歩いて来たこの道 振り返れば色々あるけど
失敗も成功も 全てが大切な宝物
僕が歩いていくこの道 先はまだ見えないけど
不安も期待も 何もかもが僕を動かすオイル
君が歩いて来た道 君が歩いていく道(lalala‥‥)
ふと見ればほら隣 僕の道といつか交わる未来』
早過ぎず、遅過ぎず、時間が流れるように曲が過ぎ去っていく。間奏に入ると、ギターとキーボードの二重奏となった。
慧は曲調と歌詞を引き立てるように、想いの限り歌に没頭していた。支えるようにアリエラのギターとEUREKAのキーボードが鳴る。
「何もかもが僕を動かすオイル」‥‥ユニゾンが響く。
「君が歩いて来た道 君が歩いていく道」‥‥lalalaと調和する。
最後のフレーズ‥‥『ふと見ればほら隣 僕の道といつか交わる未来』‥‥3人の声が重なり、さらにハーモニーが広がった。慧がラスト・フレーズを繰り返すようにと優しく観客にメッセージを送る。
初めは3人だけのフレーズが次第次第に人が増えて、終いには大合唱となった。音楽で一体感を増した会場は、目に見えぬ何かに包み込まれているように感じられた。
曲が終わると同時に、ステージの背後に飾られていた様々な色の風船が空目掛けて飛んでいった。3人は感謝を込めて御辞儀をした。拍手はなかなか途切れなかったと言う‥‥。
音楽で、輪を繋げる‥‥それは理想であり、夢でもあった。
それでも哀しみは止まらない。それでも壁は乗り越えられない。
そんな時もあると知るのは、いつになってからだろう‥‥?
それでも‥‥音楽という夢は終わらない。
まだ見ぬ人々へ‥‥未来とは、繋がりではなく、ただそこにあるだけなのだ。