むちゃくちゃ夢中!!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
大林さゆる
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/22〜10/26
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●本文
高校一年生まで、ずっとクラスの委員長になっていた。
ずば抜けて成績が良い訳ではなかったが、他人から見ると頼りに見える存在だったのか、自分で立候補するまでもなく、必ずと言っていいほど委員長に選ばれていた。
だが、高校二年生になって初めて委員長の役から逃れられた。正直、ホッとした。学級委員長は意外と雑用の仕事も多く、根気がないと続かないのだ。
と、僕は思っていた。あいつと同じクラスになるまでは‥‥。
あいつは自分から立候補して、結局、2年1組の学級委員長になった。
正直、僕はなんて物好きなヤツだと思っていた。根気のいる仕事なのに、端から見ると適当にやっているようで、いざという時はきっちり決めるのだ。
初めは、学級委員長のことはそれほど気にもしなかった。
だが、副委員長は我がクラスのマドンナだった。
マドンナと言われるだけあって、彼女は可愛いし、何気にスタイルも良かった。
二人の様子を見ているうちに、僕は自分の中に、何か違和感を覚えるようになっていた。
何故だ‥‥?
しばらく、自分でも分からなかった。
だが、彼女が別クラスの男子生徒から告白されているのを見て、衝撃を感じた。
彼女が丁重に断わっていたのを見て、妙に安心した。
と、思ったのも束の間だった。
副委員長は、学級委員長と仲が良いように見える‥‥。
僕は生まれて初めて、人に嫉妬するようになっていた。
そして、僕は決意した。
副委員長に告白しようと‥‥。
と、思った矢先、学級委員長は小声で僕に言った。
「実は、俺‥‥副委員長のことが好きなんだ。協力してくんない?」
以前の僕ならば、協力していたことだろう。
だが、今は違う。
「‥‥すまない。僕も‥‥彼女が好きなんだ」
こうして、恋の三角関係が始まった。
副委員長に好きな相手がいるのか、僕に知る由もなかった。
●主な登場人物
高崎(たかさき)‥‥2年1組の男子生徒。高校一年生まで、毎年と言っていいほど委員長になっていた実績を持つだけあって決断力はあるが、恋愛に関しては初心者。一人称は僕。
仲山(なかやま)‥‥2年1組の学級委員長。スポーツが得意な男子生徒。今はセカンドラブらしい。一人称は俺。
麻生(あそう)‥‥2年1組の副委員長。ロングヘアの美少女。クラスのマドンナ。
その他‥‥2年1組の生徒2〜5人くらい。生徒名は、各自で決定しても可。生徒以外の役柄も可能。教師、用務員、保健の先生、学食のオバさん等。
●補足事項
舞台は『光栄学園』で、剣道部とサッカー部が強いと有名な高等学校。自転車通学が多く、バイトは条件有り(学則で『健全な飲食店のみ』)で可能となっている。
スポーツが盛んなこともあり、やや体育系の生徒が多いせいか、高崎、仲山、麻生のような生徒は目立つ存在。
秋の行事を利用して、生徒たちは恋の相手を見つけるため、校内は異様に盛り上がっている。教師たちも基本的には生徒たちに対しては協力態勢だが、教頭先生は恋愛面に関して厳しく、古い考えの持ち主。
●主な展開
2年1組は文化祭で『仮装舞踏会』を行うことになった。ブラスバンド部も協力してくれることになっている。高崎と仲山は、その場で麻生に告白することを宣言。後日、麻生が返事をすることになるが、果たして‥‥?
●リプレイ本文
学園ドラマ『むちゃくちゃ夢中!!』〜キャスト
倉橋 羊(fa3742)‥‥高崎 要
夕凪 彼方(fa4920)‥‥仲山 輝
EMA(fa4914)‥‥麻生 恵真
姫野蜜柑(fa3982)‥‥姫野 美夏
柚子(fa4917)‥‥津浦 由佳
姫月乃・瑞羽(fa3691)‥‥森木 絢
桜井・優(fa3394)‥‥森木 みく
榛原絢香(fa4823)‥‥春日 綾音
●噂が噂を呼び‥‥?!
秋を迎え、文化祭に向けて光栄学園の生徒たちは忙しい毎日を送っていた。ミーティングで2年1組は『仮装舞踏会』を行うことが決定したが、曲は録音か生演奏かとの議論になった。先生は教室の後ろから生徒たちを見守るように立ち、教壇にいるのは委員長の仲山 輝と副委員長の麻生 恵真であった。皆で話し合いながら、一人の生徒が手をあげた。
「あの、ブラスバンド部に演奏してもらうのはどうでしょうか?」
そう提案したのは最近転校してきたばかりの森木 絢であった。絢は以前通っていた高校の制服を着ていたせいもあって少し目立っていたが、同じクラスの生徒たちと積極的に関わろうする姿勢も見受けられ、すでに何人か友人もできていた。
「どうせなら生演奏が良いよな。先生、ブラスバンド部の顧問でしたよね。お願いできますか?」
輝がそう告げると、先生はナイスアイデアと言いながら指を鳴らした。
「演奏に関しては私がブラバンの生徒たちに話しておくよ。後は‥‥場所だな。講堂の使用は毎年『勝った組』が使えることになってるからな。仲山、頼むぞ!」
先生もはりきっているようだった。その姿に、輝は満悦の笑みを見せる。
「サッカー部のエースは伊達じゃないってこと、必ず証明してみせるって!!」
決めると言ったら何がなんでも決める。それが輝のポリシーであった。体育祭においてクラス対抗リレーがあり、2年1組は同じ学年内で1位となった。スポーツが盛んな学校ということもあり、文化祭の講堂使用権をかけて1年生、2年生、3年生それぞれの代表1名が校内一周競争をやることになっていた。2年生代表は輝だった。
「仲山くん、がんばってね」
恵真に励まされて、輝はうれしそうに笑っていた。そんな様子に、高崎 要は心中複雑な気持ちであったが、皆の前では澄ました顔をしていた。
数日後。
ブラスバンド部の演奏が正式に決まり、2年1組は『仮装舞踏会』を行うための準備を進めていた。
「高崎、また溜息ついてるぞ」
姫野 美夏に声をかけられ、要は我に返った。今は教室でどんな格好をするのか話し合ってる最中であった。
「高崎が溜息ついてるのって‥‥恵真のことでしょ?」
春日 綾音にそう言われても要はしばらく黙っていたが、何気に興味ありげな美夏の視線と綾音の冷静な視線に圧倒されて思わず頷いてしまった。恵真は先生に呼ばれて職員室にいっていて、教室にはいなかった。
「要‥‥俺に遠慮してんのか?」
輝は少し不安になっていた。要のことは良い友人だと思っていた。だが‥‥要は俺のこと、どう思っているのか? そんな気持ちもあったが、それでも譲れない想いがあった。
「‥‥あのな、俺‥‥『仮装舞踏会』で麻生に告白しようと思ってるんだ」
輝の言葉に、その場にいた生徒たちは輝ではなく、反射的に要の方へと目を向けた。
「‥‥な、なんだ‥‥その期待の眼差しは? 僕は‥‥」
要が珍しく一歩引くような態度になると、綾音は何故か楽しそうに笑っていた。
「そうね‥‥高崎は王子様の格好が似合いそうね〜」
すると、他の女生徒たちも同意するように似たようなことを言っていた。
「待て‥‥僕はまだ何も言っていない。やるとも言ってないぞ」
要がそう言うと、輝は意を決してこう告げた。
「遠慮しなくても良いぜ。俺は‥‥告白するからな」
いつもは人を茶化すようなことばかり言う輝であったが、今の言葉には真剣さが感じられた。先日、要は麻生に対する気持ちだけは輝に伝えていた。それでも変わらずに接してくる輝‥‥自分でも何故だか分からなかったが、ここ数日間、もやもやした気持ちが燻っていた。
先日の校内一周競争で輝が優勝し、その時に見せた麻生のうれしそうな表情が忘れられなかった。正直、輝が優勝したことを素直に喜べなかった。そんな自分に要は苛立ちを覚えていた。
「‥‥。‥‥どういう結果になっても恨みっこなしだぜ?」
要がそう応えると、輝が力強く頷いた。
「ああ、分かってる。勝つか負けるかってんじゃなくて、お互いすっきりできるようにしようぜ」
「‥‥これで『きっかけ』ができたわね」
綾音は王子様対決を密かに目論んでいた。
●あっちでもこっちでも
「なんでトイレまでついてくるんだ?」
要は人の気配を感じて、ふと振り返った。すると、そこには竹刀を持った美夏が立っていた。
「ち、違うぞ。私は隣のクラスに用があってだな‥‥気にするな」
そう言う美夏は、どことなくぎこちない態度だったが、本人は気付いていなかった。要は美夏に監視されているのではと察して男子トイレの前で立ち止まった。
「気にするなと言われてもな‥‥姫野の視線が気になって仕方ないんだけど?」
「いや、えーっと‥‥私は隣のクラスの友人に会うためにだな‥‥」
美夏の声に気がつき、2年2組の学級委員長である津浦 由佳がやってきた。由佳は輝に憧れて、少しでも接点を見つけようと委員長に立候補し、実際になることができた。
「美夏ちゃん、これから剣道の部活でしょ?」
「由佳、良いところに‥‥」
などと言いつつ、由佳の手を引っ張り、美夏はその場からすばやく離れた。
「廊下は走らない!」
輝の声が響いた。その途端、振り向く女子も多くいたが、由佳もその一人だった。
「す、すまん」
美夏は走るのを止めて、早足になった。そして、由佳を連れて裏庭に入った。そこは芝生の広場になっていて、放課後は人気が少なかった。
「突然だが、由佳‥‥私は聞いてしまった」
美夏は手を離すと、由佳の方へと向き直った。
「何を?」
「‥‥仲山は‥‥」
「仲山君がどうかしたの?!」
「‥‥。いいか、落ち着いて聞くんだ。‥‥仲山は‥‥麻生のことが‥‥好きなんだって」
「えっ? 仲山君が‥‥麻生さんのことを‥‥好き‥‥?」
一瞬、時が止まった。美夏は由佳が落ち込むのではないかと思い、生唾を飲み込んだ。
「そ‥‥それじゃ‥‥」
由佳がそう言うと、美夏は優しく彼女の肩に手を乗せた。
「‥‥気にするな‥‥と言っても、慰めにはならないかもな。だが‥‥」
美夏がさらに言おうとした矢先。
「‥‥わたくしも、麻生さんみたく髪を伸ばそうかしら?」
由佳の言葉に、思わず目を丸くする美夏。
「は? 由佳? 言っている意味が分からないのだが?」
「仲山君って、麻生さんのこと好きなんでしょ? だったら麻生さんの真似してみようかと思ったのよ。ロングヘアにしてみようかしら?」
「いや、待て、由佳。そういう問題ではないだろう? 真似すれば良いというものでは」
「美夏ちゃんたら相変らず固いこと言うのね‥‥」
由佳の天然な発言に、美夏はうな垂れていた。
「うっ‥‥そうだった‥‥由佳は、こういうヤツだったんだ‥‥」
改めて親友の性格を身に染みて知った美夏であった。
●いろいろな想い
ブラスバンド部の演奏が軽やかに始まった。ワルツの曲で、仮装した生徒たちが思い思いに踊っていた。噂が噂を呼び、講堂の周囲には野次馬も集まっていた。
「まさかこんなに人が来るなんてな」
輝は苦笑しつつも、白い兎の着ぐるみを着込んでいた。ダンボールで作った大きな時計を持ち、ウサ耳バンドを付けていた。長い髪を後ろで束ねていたこともあり、なんだか可愛らしく見えた。
対する要はイギリス風な王子様ルックであった。一見すると落ち着いているように見えたが、要は内心緊張していた。そのせいか表情が引き締まり、かえって勇ましい顔付きになっていた。
告白は、まず‥‥講堂の裏ですることになった。恵真は親友の綾音から話を聞き、前日まで2人で話し合った。「返事は後日に」という恵真の言葉を尊重して、綾音も「そうね」と答えた。
ペルシャのお姫様を思わせるようなドレスを着た恵真の前には、輝と要がいた。まず最初に告げたのは輝であった。
「委員会で一緒にやっているうちに、気がついたら麻生のこと‥‥好きになってたんだ。俺と‥‥付き合ってくれないかな」
はっきりと、清々しく、恵真に向かって告げた。彼女は何も言わず、輝の顔を見つめた。そして、ゆっくりと要の姿を見る‥‥。要はその視線に気を取られそうになったが、いつもとは違う顔を見せた。
優しく微笑む要‥‥。
「君が今、誰を好きでも、僕は君が好きです。これを‥‥伝えておきたかったんだ」
聞いてはいけないと思いながらも、美夏と由佳は物影で3人の様子を窺っていた。
「‥‥なんだか、こっちまでドキドキしてきたな」
美夏は、いつか自分もこんな時が来るのかと思いつつも、まだそんな気持ちにはなれない自分がいることにも気付き、複雑な気持ちになっていた。
「‥‥。‥‥仲山君‥‥」
由佳もまた告白しようと悩んでいたが、結局言えず、文化祭を迎えることになってしまった。
しばらく沈黙が続いたが、恵真が静かに告げた。
「‥‥返事は‥‥後日‥‥別々にしようと思います。今日は‥‥皆のためにも『仮装舞踏会』を楽しみたいです。‥‥我がままで申し訳ないですが‥‥敢えてすぐには返事はしません」
「うん、分かった。それで良いよ」
輝が告げると、要も同意するように頷いた。3人が講堂に入ると、クラスメイトたちを始め、ブラスバンド部が迎え入れてくれた。そんな中、切ない想いで高崎を見つめる少女がいた。
ブラスバンド部に所属する1年生の森木 みくは、高崎に想いを寄せていた。それを知っていた義理の姉である絢は、みくと高崎を会わせる口実になればと「演奏はブラスバンド部に」と告げたのだった。クラリネットを吹く妹のみくを思い、絢は今日まで本当のことが言い出せなかった。
みくに優しく接しようとすればするほど、なんとなく違和感を覚えた絢もまた、複雑な気持ちで裏方から見守っていた。
綾音と言えば、フランス貴族のようなキラキラしたピンク色のドレスを着こなし、先輩である恋人と楽しそうに踊っていた。貴族風な格好をした先輩は慣れない踊りで時折つまづいていたが、綾音がフォローしていた。由佳はコサージュを付けて淡いオレンジのワンピースに着替え、様子を窺っていた。やはり想い人のことが気になっていた。チャイナドレスを着た美夏は、予想外にも男子生徒に声をかけられ、少し逃げ腰になりながらも要の行方を追っていた。
ふと見遣ると、輝が思い切って恵真に一緒に踊ってくれるように告げていた。王子の格好をした要と言うと、数人の女生徒たちに囲まれて少し戸惑っているようだった。
「高崎先輩、私と踊っていただけませんか?」
「高崎くん、ぜひ私と踊って」
要が一人でいたせいか、女生徒たちが我も我もと寄ってきていた。
「‥‥。‥‥悪いけど‥‥僕は誰とも踊らない‥‥一応、監督だし」
要は、輝と恵真が踊っている姿を見て、胸が苦しくなった。
●乗り越えていこう
文化祭は、無事に終わり、数週間が過ぎた。
しばらくの間、ぎくしゃくした雰囲気になっていたが、だからと言って嫌な気分ではなかった。
「お姉ちゃん‥‥本当のこと言ってくれてありがとう」
絢が、みくに本当のことを告げた時、妹は笑ってそう言ってくれた。思わず泣いたのは絢の方であった。
「‥‥余計なこと、しちゃったと後悔してたけど‥‥」
「お姉ちゃんは私のこと考えて言ってくれたって分かったから、かえってうれしかった」
みくと絢の絆‥‥それは他の誰も知らないことであったが、2人は少しずつ歩み寄っていた。
そして、別の2人が一緒に帰る姿も、次第に自然な光景となっていた。
要と恵真が並んで歩く姿を見て、なんとも思わないと言えば嘘になるが、輝は全く後悔していなかった。
言えて良かった。日に日にそう思う気持ちが強くなった。要とはこれからも新しい関係を作り続け、心からお互いに親友と思える仲になれれば良いと輝は願っていた。
「‥‥想いが実って、良かったな」
ある日の休み時間、改まって輝は要にそう告げた。
言われて、要はきょとんとした顔をしていたが、何も言わずに笑っていた。要が自分に対して笑顔を見せてくれるようになり、輝は素直にうれしかった。
乗り越えていこう、どこまでも。
失っても、失っても、乗り越えていこう。
かけがえのない、友のために‥‥。