チャンスの鬼アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
桜紫苑
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/22〜12/26
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●本文
「放映開始まで後1ヶ月!」
上機嫌で喋り出した男に胡散臭そうな視線を投げて、集まった者達はこっそりと溜息をついた。
番組のプロデューサーであるこの男は、前回の特番で「神島舜の女装写真」を欲しがる趣味の人という誤った認識を受けたにも関わらず、またも怪しげな企画を提示して来たのだ。
「今年最後の特番、張り切って行こうな!」
あらぬ誤解を受けている事に気づいているのか、それとも本当にそういう人なのか。
呼びつけられた彼らには知る由も無かったが、とりあえず、一応は番組のプロデューサーだ。無視するわけにもいかない。
何より「お仕事」である。投げ出すつもりもない。
「というわけで、君達対舜くんとExの真剣勝負、負けた方はミニスカサンタ! よろしくなー」
何が「よろしくなー」だよッ!
罵声は、心の中ではなく声に出さねば相手に届かない。まぁ、当然のことだが。
だがしかし。
彼らにはまだ希望が残されていた。
プロデューサーの正面、ゆったりとソファに腰掛けている神島舜だ。
こんな馬鹿な話を、舜が受けるはずがない
馬鹿馬鹿しいと一蹴してくれれば、企画が流れる可能性がある。何しろ、相手は業界大手のジュリアーズ所属のアイドルであり、番組のメインパーソナリティーだ。大々的に告知をしている以上、彼がここで番組を降りたりしたら大騒ぎになるのだから。
だがしかし、だがしかし。
出された茶菓子に手を伸ばしながら、舜は口元を吊り上げた。
「何で勝負するかは、お前達に決めさせてやるよ」
がん、と一時期流行った茶の間に住む猫のようにショックを受けた彼らを、舜は鼻で笑う。
「ま、勝つのは俺達だけどな」
「な‥‥なんでそう言い切れるんですか!?」
思わず零れた言葉は、負けず嫌いの性格からか。慌てて口を押さえるも、時既に遅し。
プロデューサーの目がキラリと光った。
「それ! それだよ! 舜くんとEx軍団を相手に一歩も退かないチャレンジ精神! それが番組を盛り上げるんだ!」
「‥‥Ex‥‥軍団?」
何か、嫌な予感がする。
プロデューサーの言葉を繰り返してみれば、当然という顔で舜が頷いた。
「最初に言ったじゃねーか。俺とExって。ま、精々頑張ってくれよな。ウチの連中、色々と得意だって奴が多いから」
「じ、人海戦術かッ!」
ジュリアーズ事務所所属Ex。
1人のメンバーを見かけたら30人いると思えとも言われる人数不明のアイドル予備軍。
その大ボスが、今、目の前で涼しい顔をしている男だ。
「きったねーっ‥‥」
「だから、種目はお前達に決めさせてやるんだろ」
意地の悪い視線を投げて寄越して、舜はにやりと笑む。
「俺は2度も女装はごめんだからな。徹底的に勝ちに行かせて貰う」
その時、彼らの脳裏に1つの答えが閃いた。
これは、起き抜けにふりひらドレスを着せられて、化粧を施された上にアイテムまで持たされた彼の仕返しなのだ!
「大人げないっ!」
拳が震える。
けれど、ここは序列が大きく物を言う世界だ。ぐっと堪えて、彼らは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。言いたい事は声に出さないと相手に伝わらないのだが、時に相手に伝わらない方が良い事もある。
「あー、そうだ。Exの子達を選出するのはいいけど、ちゃんと舜くんも参加してくれないと困るよ」
「当然じゃん」
やるからには、自分で叩き潰す。
自信満々の舜の瞳がそう告げていた。
そして、戦いのゴングが高らかに鳴らされた。
●リプレイ本文
●スタジオ準備中
「山やん、投票ボタンは?」
御神村小夜(fa1291)の声に、大道具スタッフと打ち合わせていた山田悟志(fa1750)が振り返った。スタジオ内は右往左往するスタッフでごった返している。山やんも、朝早くから休む間もなしに駆けずり回っていた。
「ええと、後はテストだけです!」
手にした資料にチェックを入れて、セレナは次の確認事項に移る。収録が始まるまで後数時間。もはや悠長に構えている時間はないのだ。
「それから、出場者のプロフィール紹介の原稿、預かって来ました」
山やんが差し出した原稿を流し読みして、セレナはくすりと笑って頷いた。
「これでいいんじゃないかしら。‥‥で、サンタ服の方はどうなっているのかしら?」
今回の目玉(?)、ミニスカサンタの衣装は、男性が着る可能性が限りなく高い。局の衣装部屋にあるものは、番組アシスタントの女のコを想定したサイズばかりで、とてもではないが使えないのである。
「つい先ほど完成しましたよ。で、玖朗さんにはちょっとだけ休憩に入って貰いました」
「ここのところ、寝ていなかったみたいね」
お針子仕事に駆り出された八咫 玖朗(fa1374)に同情を寄せて、セレナはすぐに表情を切り替えた。
「じゃあ、残りのチェックを終わらせて、私達も休憩しましょうか」
その頃、TV局屋上のいつもの場所で休憩を取っていた玖朗はピンチに陥っていた。
「チャンス!」のメインパーソナリティー、神島舜と鉢合わせしたのだ。しかも。
「舜さんの衣装は3割増で短くしときましたから」
徹夜続きで疲れていたのか、ぽろりと口走ってしまったから、さぁ、大変。
ぴきりと固まった舜の様子に、自分の失言に気づいたが時既に遅し。
「あ、あのですね、舜さんはきっと似合うと思いますよ。なんてゆーか、ファン的に萌え?」
ぴきりぴきりと引き攣る舜。
取り繕おうとすればするほど地雷を踏みまくっている玖朗。
「‥‥おい」
「はい?」
低い声に呼ばれて振り返り、玖朗は硬直した。
口元に薄笑いを浮かべた舜が、ぽんと彼の肩を叩く。
「とりあえず、次の機会には俺のリクエスト通りに吹いて貰おうか。サクソフォーン」
番組の中でもいいな、などと恐ろしい事を呟きながら去っていく舜に、玖朗は声にならない悲鳴をあげた。
真面目に夜なべした玖朗に、なんとも理不尽な仕打ちであった。‥‥合掌。
「あ、あの、今日はよろしくお願いします!」
控え室に戻った舜を待っていたのは、タキシード姿の夏姫・シュトラウス(fa0761)だった。
耳まで真っ赤に染めて、深々と頭を下げると、夏姫は、舜に応える暇を与える事なく一目散に走り去っていく。
「‥‥舜さん、どうかしましたか?」
呼び止めようと宙に手を伸ばしたまま、舜はぽつねんとその場に取り残された。
そんな彼に声を掛けたのは、金色の髪をした美少女だ。どこかの番組の出演者だろうか。気まずそうに咳払って、舜は自分に与えられた控え室の中へと消えていった。
「おかしな舜さん。ねぇ?」
「え? ええっ!?」
スタジオ入りを知らせに来た山やんは、美少女から不意に話しかけられて手に持っていた進行表やチェック表を床に落としてしまった。
「わわわ、ごめんなさい!」
大慌てで荷物を掻き集めると、山やんも舜の控え室へと逃げ込む。
残された美少女は、不思議そうにちょこんと首を傾げたのだった。
「舜さんも山やんも変なの」
●1回戦
そして始まった「チャンス!」特番。
スタジオは幾分興奮気味の若い女性達で埋め尽くされている。手に持つウチワに舜やタクミ達、Exメンバーの名前が書かれ、モールやスパンコールで派手に飾られているところを見ると、青田買いのExファンであろう。
「なんか、アウェイで勝負って感じだな」
苦笑して、赤川・雷音(fa0701)は緊張した様子でスタジオのセットを見つめている夏姫の肩に手を置いた。
「そう緊張すんなって。気楽に行けばいい」
「そうですよ。夏姫さんは1人じゃないんですから」
励ましの声を掛ける雷音とCarno(fa0681)の声も聞こえぬように、夏姫はおもむろに白いマスクを被り始める。何事、と思う間もなく、虎仮面少女と化した夏姫はスタジオへと飛び出して行った。
「神島舜! 私の挑戦を受けて貰いますわッ!」
高笑いと共に、舜を指名した仮面少女に、観客もExのメンバー達も静まりかえる。
「どうしました、神島舜! 私の挑戦を受けるのですか、受けないのですか!」
「あ‥‥あれは誰だ‥‥」
雷音は、頭を抱えた。先ほどまで、セットの陰で震えていた少女とは思えない変わり身だ。
「舜くんも受けるしかないですね、あれでは」
額を指で押さえて、カルも溜息をつく。
今回の3番勝負、彼らが定めた種目はExメンバーへと通達されている。
1回戦のPK勝負、2回戦のエアホッケー、3回戦のF・C対決。
Exの側からも、それぞれ知らされた種目に適したメンバーを選抜しているはずなのだが‥‥。
ああまで挑発されては、舜も無視出来やしない。
番組的にも盛り上がるから、プロデューサーもセレナもOKを出す事だろう。
観客の甲高い歓声が大きくなる。
舜が、勝負を受けたのだろう。
「俺の言う通りでしょ?」
スタジオの隅で今川焼きを食べながら、アルヴェレーゼ(fa2163)は隣に座る神島黎子に囁きかけた。
「部屋も弟も目に見えないところから汚れて行くものなんですよ」
「‥‥本当ねぇ。女の子相手に真剣勝負だなんて、そうまでして勝ちたいだなんて、お姉ちゃん、悲しい‥‥」
よよ、と泣き崩れる黎子に、アルも腕を組んでうんうんと頷いている。
「番組の為ならミニスカサンタぐらい何よ! あのコ、まだプロ根性が足りないわ」
「だから、ね? 俺達に協力して」
乗った!
スタジオの片隅で、がしりと握手を交わすアルと黎子。
ここに、弟を売り渡す契約が結ばれた事を、当の本人はまだ知らなかった。
●2回戦
「海外にいるお父さん達が、職場の人に見せるって言うからビデオを送らなくちゃ」
司会の問いに夜凪空音(fa0258)がコメントを返している間に、スタジオのセットが変わる。
いかに素早く変えられるか。これは、玖朗達スタッフの腕の見せ所だ。
「‥‥舜くんは、さっきの負けで頭に血が上っているはずですから、ライ」
「分かってるさ」
手にグローブを嵌めて、雷音は対する2人組を睨み付けた。
今回は、最初から予定されていたメンバーであるらしい。
グローブを嵌めた舜とタクミも、彼らと同様に何事かを小声で話し合っている。
「さ、行こうぜ、カル」
ホッケー台を挟んで立つ舜に、カルがまず先制攻撃を仕掛けた。
「舜くんのミニスカサンタ、見たいですよねー?」
瞬時に、観客席から黄色い歓声があがる。そのタイミングを逃さず、カルはパックを舜達のゴールへと叩き込んだ。
だが。
「いえいえ、僕達よりも貴方の方が似合いますよ、きっと」
にっこり微笑んで、スマッシャーでパックを押さえたのはタクミ。
「え、そこまでしてカルのミニスカサンタ姿が見たいのか?」
すかさず返した雷音に、タクミは柔和な笑みを浮かべたまま、パックを打ち込む。
「まさか。見たいのは、負けた貴方達がミニスカサンタになる所ですよ」
黒い。
浮かべているのは天使の微笑みなのに、この黒さは何事だろう。
ゴールへ吸い込まれていったパックを見送った雷音とカルは、聞こえて来た舜の言葉に背筋を寒くした。
「‥‥言っておくが、Exの陰の支配者はコイツだからな」
穏やかな雰囲気を崩さず、一片の情けもなくポイントを連取したタクミの前に、カルと雷音は散ることとなったのだった。
●勝敗
一勝一敗。
互いに退けない状態へと追い込まれて、彼らは真正面から向かい合った。
観客席の一番上に、玖朗が夜なべして作ったミニスカサンタの衣装が燦然と輝いている。
負けられない。
次の勝負を落とした者達が、あのミニスカサンタを身に纏わねばならないのだ。
「次は、F・C対決! ですが、その前に」
司会の声に、スタジオ中の意識が次の言葉へと意識を向ける。
「ここでF・Cの意味を解説いたしましょう。F、それはFemale dress。そして、C、Coordinate。つまり、女装対決となります!」
ざわめく観客席。
しかし、それは嬉しげな響きに満ちていた。
「ちょっ!」
「というわけで、ここに準備させて頂きました!」
舜の抗議を遮るように、司会者が大袈裟に手を振りかざす。
スポットライトが当たった先、トルソーに掛けられた2着の衣装に、Exメンバーはおろか、挑戦者達も絶句した。
「メイド服‥‥」
周囲の視線が自分に注がれるのを感じて、ソラは内心大いに焦る。女装対決を言い出したのはソラだ。Ex側に内緒でドッキリを仕掛けたのも、ソラである。
しかし、メイド服を用意しろとは言った覚えはない。
「反応は上々ね」
「ですね」
ほくそ笑んだセレナと、頷く山やんに、玖朗は舜と参加者へと同情を向ける。作ったのは自分だが、渡された資料通りに縫い合わせたに過ぎないのだと、心の中で言い訳を繰り返しながら。
「‥‥これは、女装と知らされてなかった俺達が不利だ」
クレームをつけたのは、Exのリーダーである舜。
反論しかけたソラをじろりと睨んで、彼は続けた。
「不利な分を補う為、モデルを交換だ」
「え?」
いきなり指差されて、モデル役として並んでいたアルはぎょっと目を見開く。
これでは、黎子を味方に引き入れた意味がないではないか。
あれよの間にメイド服とウィッグを着けられ、ピンクを主体としたメイクを施される。黎子直伝のメイクのワンポイントも、神島舜の攻略方法も威力を発揮出来ぬまま、可愛いメイドさんが完成してしまう。
「これでよし、と。‥‥あれ? お前、どこかで会わなかった?」
はて? と首を傾げる舜に、アルは首を振るしか出来なかった。
対するソラ達はと言えば、背が高く、程よく筋肉質の青年に出来る限りコーディネイトしたのだが、アルのような美少女を作り上げる事が出来ず、観客の判定も圧倒的に舜達とアルを支持しており‥‥。
ここに、「チャンス!」特番の決着がついた。
●そして
恥ずかしそうにミニスカサンタの衣装を身に纏い、スタジオに登場した者達を、観客は口笛と歓声とで迎え入れた。
今にも貧血を起こして倒れそうなカルと、諦めたのか堂々としてい雷音と。
予想外に似合うのは、ミニスカ衣装が誂えたかのようにピッタリだったからか。
彼らの後ろに隠れ、ミニスカートの丈を気にしているのは、虎仮面を脱いだ夏姫だ。ソラとアルも、真っ赤な衣装を着て夏姫と手を繋ぐ。
そして、彼らの晴れ姿は、名(迷)場面として事ある毎に繰り返し繰り返し放映されだのだった。