クリスマス・キャロル南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
12/25〜12/31
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●本文
『クリスマス・キャロル(A Christmas Carol)』という物語をご存知だろうか? イギリスの小説家ディケンズ(1812〜70)が1843年に発表した中編小説で、現在も童話のように欧米人に慕われている物語である。
金のことしか頭にない冷酷非情な老人スクルージが、クリスマス・イブの夜、夢で自分の過去と現在と未来の姿をみせられて改心し、あたたかい心の持ち主に生まれ変わるという話だ。何度か映画化もされていて、最近日本でこの物語を題材に放映されたのは、『三人のゴースト』(1998年 米)あたりになるだろう。
今回は、この『クリスマス・キャロル』を題材に、テレビ特番を放映する。尺は100分間。枠は深夜ながら2時間枠を取っている。手垢の付いた題材だが、今回は新進気鋭のジョン・コナー監督がコメディ風にアレンジして製作するらしい。
本募集は以下の役者の募集である。
・主人公ディケンズ
・マーレイの亡霊
・過去の幽霊
・現在の幽霊
・未来の幽霊
・その他
【資料:クリスマス・キャロルのあらすじ】
ロンドンで会計事務所を経営しているスクルージは、秘密を好み、交際を嫌い、心をカキの殻のように閉じて生きてきた。甥からクリスマスの食事に招待されても行ったことが無く、「クリスマスおめでとう」と言われても、「クリスマスで何の儲けがあるか」などと意地悪く答えるばかり。貧しい人のための寄付を求められても、もちろんことわる。妻子を養うのは金の無駄遣いと考えて、孤独な独り暮らしを貫いている。往来で彼にあいさつする者は一人もなく、彼のほうから声をかけることもない。
クリスマス・イブの夜、7年前に亡くなった、かつての共同経営者マーレイの亡霊が現れ、今夜3人の幽霊が来ることをスクルージにつげる。最初に現れたのは「過去のクリスマスの幽霊」で、スクルージを故郷の田舎に案内した。遠い昔のいじらしい少年時代の自分の姿を見て、スクルージは涙を流す。また、好きな娘から「あなたは金のことしか考えなくなった」と結婚をことわられる場面を見せられる。次に現れた「現在のクリスマスの幽霊」は、貧しいながらも楽しくクリスマスを迎える人々の様子をスクルージに見せる。第3の幽霊は「未来のクリスマスの幽霊」。スクルージは自分が死んだ後、「あの悪魔め」とか「因業じじい」と言われて人々から見放され、訪れる人も居ない自分の墓を見せられて、自分がいかに冷酷非情で利己的な人間だったかを思い知らされる。
クリスマスの朝、改心したスクルージは最上の晴れ着を着て街に出た。まず、自分の事務所で働いているクラチットに七面鳥をプレゼントし、行き交う人々に「クリスマスおめでとう」と声をかけ、貧しい人のために金を寄付し、教会へも行き、甥の家を訪れる。皆びっくりしたが、生まれ変わったスクルージを暖かく受け入れてくれた。
●リプレイ本文
クリスマス・キャロル
●序章
『やあスクルージ、相変わらずがめつくやっているのかい?』
バスルームに入ろうとした素っ裸のスクルージ(小野田有馬(fa1242))に向かって、冴えない中年の男が言った。
ぎゃ――――――――――――――――。
スクルージの悲鳴は、ロンドンのスモッグの中に消えた。
「まっ、マーレイ!? 貴様死んだんじゃなかったのか!!」
びびりまくりのスクルージに向かって、マーレイの幽霊(和山繁人(fa2215))がにやりと笑って言った。身体が半分透けていて、後ろのバスルームが見えている。
『覚えていてくれたみたいだな。葬式にも出てくれなかったから、すっかり忘れているんだと思っていたよ』
マーレイが、にたにたと笑いながら言う。
スクルージはロンドンに住む会計士。がめつくあこぎで、心をカキの殻のように閉じて生きてきた。甥からクリスマスの食事に招待されても行ったことが無く、「クリスマスおめでとう」と言われても、「クリスマスで何の儲けがあるか」などと意地悪く答えるばかり。貧しい人のための寄付を求められてももちろん断り、妻子を養うのは金の無駄遣いと考えて孤独な独り暮らしを貫いている。
マーレイは10年前に死んだ、彼の数少ない友人だ。否、最後の友人と言ってもいい。
『さて、この物語は『クリスマス・キャロル』だ』
広角レンズを使用したアップのカメラ目線で、マーレイの幽霊は言った。「お前確信犯だろう」という表情だった。
『というわけで、今夜お前のところに3人の幽霊が現れる』
「はあ?」
タオルで前を隠しただけの、素っ裸(←ここ強調)のスクルージが、わけが分からないというような表情をした。
『自分を見直せ。お前の、自分探しの手伝いをしてやろうってんだよ』
「そんなものいらん! どうせ寄越すなら金をよこせ!」
『というわけで、俺の出番は終わりだ。あばよ!』
脱水機にかけられた洗濯物のようなCGエフェクトと共に、マーレイの幽霊は消えた。漫画のようである。
●過去の幽霊登場
「スクルージさん〜、起きてください〜、夜ですよ〜」
「うーん、うーん、うーん」
スクルージは苦しんでいるようだった。それもそうだろう。スクルージの寝ている布団の上に、白い服を着た女性が座り込んでいるのだから。人間一人、寝ている人間には軽く無い。
スクルージの上に座っているのは、マーレイが予告した3人の幽霊のうちの一人、『過去の幽霊(リーベ(fa2554))』である。
「う〜ん、起きないようですね〜。じゃあ、話を進めましょう〜」
***
少年時代のスクルージ(ウィン・フレシェット(fa2029))が、草原を駆けている。現在のスクルージとはまったく反対の天真爛漫な少年で、リモコンで動く青い巨大ロボットで放射能火炎を吐く黒い怪獣と戦っていた。
いや、いろいろ間違っているようだが気にしないで欲しい。
それを、現在のスクルージは見ている。このころの自分は、人を疑うことを知らず神も信じていて、そしてなにより胸に暖かい物があった。
場面は変わって、ロンドンの町並みになる。成長したスクルージ(スティグマ(fa1742))は会計士となり、毎日お金を数えて暮らしていた。
「一枚、二枚、三枚‥‥一枚足りない‥‥」
背景に、さりげなくジラ(USゴ○ラの邦名)が通りすぎてゆく。
このとき、スクルージにはローラ(荻咲姶良(fa0489))という想い人が居た。ローラはパン屋の娘で、スクルージは足しげく通っていた。それなりに仲良くなり、将来を語り合うこともあった。
――やめろ、見せないでくれ。
現在のスクルージが心の中で言った。しかし、場面は続いてゆく。
「ちょっとスクルージ、聞いてるの!? あなたにとっては小さなことかもしれないけどねぇ、こんな金のアイドルよりあたしを見てよ、あたしを!」
「仕事だよ‥‥一日でも多く仕事をしていたいんだ」
「わかったわ、あなたあたしのことが怖いんでしょ? 世の中が怖いんだわ! あたしはあなたと結婚する夢は忘れなかったのに!! あなたにはお金のことしか残らなかったのね!」
「俺がなんの為に働いてると思ってんだよ、お前の為だろ! 俺はお前と結婚する為に、毎日働いて、金稼いで、金数えて!」
「もういいわ! あなたは変わってしまった。もう昔のあたし達のようには行かないのね! サヨナラ!! もう二度とあたしの前に現れないで!!」
会話のかみ合わなさ加減が、最近流行の滑り芸っぽい。
二人は別れ、そしてスクルージは頑なな人間に変わっていった。金は自分を裏切らない、そう信じて。
●現在の幽霊登場
「うわああああああっ!」
がばっと、スクルージはベッドから跳ね起きた。
「どうした、悪い夢でも見たか」
ベッドの傍らに居たのは、西洋甲冑にフルフェイスの獅子面をかぶったモナコ国王もとゐ、現在の幽霊(レーヴェ(fa2555))である。
ひいいいいいいいいい―――――――――。
スクルージの悲鳴は、ロンドンのスモッグの中に消えた。
「なっ、なっ」
「何だ貴様は」
「どっ、どっ」
「どうしてここに居る。その両方の質問に私は答えられる。私は『現在の幽霊』。お前に『真実』を見せに来た」
そう言うと西洋ライオン丸は、なぜか水玉のナイトキャップに水玉の寝間着姿のスクルージをつれて、空を飛んだ。
スクルージの悲鳴が響いたことは、言うまでも無い。
***
現在の幽霊は、スクルージをロンドンの様々な場所に導いた。そこでは様々なクリスマスが営まれていて、暖かな家庭を築く人々(芳乃なくる(fa1728))がいた。ちなみに間違って作者のところにも来たが、作者は酒を飲みながら「クリスマスも正月も仕事だコンチクショー!」とあまり洒落にならないリアルな年末を過ごしていた。
そして貧しい中、しかし明るい家庭を築いてささやかな愛に結ばれた、スクルージのところの社員、ボブ・クラチット(スティグマ(二役))の家族の情景を見せた。
「クラチットの末子ティム(ウィン・フレシェット(二役))は、脚が悪く病がちで、おそらく長くは生きられない」
現在の幽霊が言う。
「貧しさや無知が、人間を悲惨にさせ苦しめる。暖かい心の交流や博愛が、人間をこのような貧困や社会的悲惨から救う。お前にはわかるはずだ」
そう言って、現在の幽霊は消えた。
●未来の幽霊登場
「うわああああああっ!」
がばっと、スクルージはベッドから跳ね起きた。
「よ。(´・ω・`)ノ」
あひゃあああ―――――――――。
スクルージの悲鳴は、ロンドンのスモッグの中に消えた。なにしろスクルージを見下ろすようにベッドの上に浮かんで居たのは、黒い肌に悪魔のような黒い羽根を生やした人間だったからである。
「そう恐がりなさんな。俺は『未来の幽霊(ハディアック・ノウル(fa0491))』。ま、よろしくな」
ベッドの傍らに降りてきた幽霊を、口を大きく開けてスクルージは見ている。未来の幽霊はスクルージの手を取ると、握手した。
すると、スクルージのベッドルームが葬式の場面に変わった。白い布で包まれた死体があり、ハイエナのようにその死体から衣服や物品を剥ぎ取っている者がいる。葬式の会場となる家屋には盗人が入り込み、家具を持ち出して盗品売買にかけている。口汚く葬列をののしる少女(霧村鑑(fa0231))がおり、埋葬される棺おけはおざなりに埋められる。
そして数年後、訪れる者もいない墓所は荒れ放題になり、打ち棄てられた墓碑にはスクルージの名前が刻まれていた――。
***
「うわああああっ!」
今度こそ本当に、スクルージは目覚めた。周囲を見渡すと、夜が明けていた。
スクルージはほうけていた。そして自分の未来を見て、絶望していた。涙を流し、自分がいかに無知で愛の無い人間かを思い知った。
窓に霜が張り付き、日差しを受けて輝いている。そこには『No Fate(運命などない)』と書かれていた。
●生まれ変わるスクルージ
「「「「何っ!」」」」
スクルージがカフェに入るなり、朝のカフェで朝食を摂っていた人々は驚きに思わず声をそろえて言ってしまった。スクルージが、およそ今までの様相からは想像のつかない晴れ着を着ていたからだ。しかも手には、リボンのかけられた七面鳥を持っている。
「クリスマスおめでとう!」
死――――――――――――――ん。
絶望のような静寂が、辺りに満ちた。聖書を取り出し読み始める者もいる。
朝の異変は、ロンドンの街を疾風のように駆け抜けた。会社まで数寄な目を向けられ、見物人の中には終末神話を叫びだす者までいる。
「クリスマスおめでとうボブ。七面鳥だ、家族で食うといい」
「スクルージさん、どうしたんですか!?」
会社に着くなりそう言ったスクルージを、ボブは驚いて見た。
「今日はクリスマスだ。ちょっとぐらいいいじゃないか。そうだ、今日はきみの給料についても話したいと思っていたんだ」
***
「うまくいったようですね〜」
過去の幽霊が、その光景を見下ろして言った。
「うむ、私の来訪も無駄ではなかったか」
現在の幽霊、フルフェイスのモナコ王が言う。
「ま、めでたしめでたしかな」
未来の幽霊が、ばさりと羽根をはためかせた。
クリスマスのロンドンには、淡く雪が降っている。
【END】