潜望鏡下げろ! A1南北アメリカ

種類 シリーズ
担当 三ノ字俊介
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 10.7万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 12/30〜01/05

●本文

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【タイトル】
 潜望鏡下げろ!

【内容】
 主人公ハンス・マーベリック中佐はアメリカ海軍の問題児。潜水艦の副長を務めているが、デッキでゴルフをするようなフランクさ。過去何度も潜水艦の艦長に就任するチャンスがあったが、その素行の悪さで上官からは目のかたきにされている。
 しかし、そのハンスにもチャンスが回ってきた。潜水艦の艦長になれという辞令が来たのだ。さっそく意気揚々と艦に向かうハンス。しかしびっくり仰天。その艦は第2次世界大戦時に使われていた超骨董品だった! 彼に下された命令は、このポンコツ潜水艦でアメリカ海軍の防衛戦を突破し、標的艦を撃沈すること! 最新鋭の原子力潜水艦を相手に、無謀で痛快な戦いが始まる。

【脚本概要(全4回中の第1回)】
 主人公ハンス・マーベリック中佐は、部下の評判はいいが上官には受けが悪い。今日もデッキでゴルフをしているが、それを艦長に注意され訓告を受ける。
 しかし、暗号電報で送られてきた処分はなんと艦長就任であった。喜んで港へ行くと、そこには赤錆だらけのパラオ級潜水艦――第2次世界大戦で使われていたもの――が係留されていた。そしてその任務は、ディーゼル潜水艦を使用する仮想敵国が、アメリカ海軍の防衛ラインを通過できないことを証明すること。つまり『仮想敵』として模擬戦に参加せよというのである。
 あまりの仕打ちと思ったハンスではあったが、好意的な将軍は任務に成功したら原潜の艦長に就任させてやるという。無茶な話ではあるが、それでもやる気を見せてハンスは作戦に挑むことにした。しかし与えられた部下は、海軍では名の知れた一癖も二癖もあるごろつきばかり。ハンスは潜水艦『スティングレー』をレストアし、部下をまとめ上げて海へ乗り出すのだった。

【募集】(原則男のみ)
・艦長:ハンス・マーベリック中佐
・口うるさい副長:ジム・スキナー少佐
・海軍初の女性潜水技官:ヘンリエッタ・イムス(女性)
・超耳のいいソナー員:ウォルター・パトロピタ
・ベテラン機関長:ニック・ゲーブ
・その他、集まった人員によって脚本を調整
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「募集要項はこんなもん、と」
 ここに、新人監督が一人いる。名前はデビッド・ワード。軍事オタクで、軍事映画を撮るのが趣味の映像マンである。といっても真面目な軍事物ではなく、コメディ主体で映像作品をリリースしていた。そして今回は、WWBから企画原案があがりデビットにお呼びがかかったという次第である。
 作品は25分を4本。連続ドラマであるので、『継続して出演出来る者』という縛りがある。特に主人公やヒロインは必須である。

 本募集では『役者』の応募を待っている。どのような集まり方をするのか分からないので、集まった役者でシナリオや配役を調整するそうだ。一昔前の香港映画と同じである。

●今回の参加者

 fa0794 村上 繁昭(32歳・♂・蝙蝠)
 fa1257 田中 雪舟(40歳・♂・猫)
 fa1266 百瀬 愛理(17歳・♀・猫)
 fa2400 アルテライア・シュゼル(24歳・♀・一角獣)
 fa2572 キング・バッファロー(40歳・♂・牛)
 fa2579 藤岡・作治(45歳・♂・蛇)
 fa2603 ダン・バラード(45歳・♂・狐)

●リプレイ本文

潜望鏡下げろ! A1

●昇進審査
 豪奢な海軍令府の一室、そこでは海軍首脳陣による昇進審査が行われていた。
「次は‥‥ハンス・マーベリック少佐だ」
 上座にドナルド・カトー中将(藤岡作治(fa2579))が座る緊張した場面で、壮年の海軍少将が声をあげた。含みのある物言いだ。
「彼の名前がこの場に挙がるのは、これで3度目だ。成績優秀、技能も抜群。NATOとの合同訓練にも参加し、実績は申し分ない。今回の艦長就任審査が、おそらく最後のチャンスだろう。これを見送るようなら、おそらく生涯艦長にはなれまい。それはアメリカ海軍にとって、大きな損失だ」
「賛成できかねる」
 白髪の、やや頭が剃りあがった鷲鼻の少将が言った。
「彼は自分のナニに『Welcome!』などと刺青するような男だぞ! 海軍の恥だ!」
 解説しておくならば、海軍士官に刺青はご法度である。
「彼の能力には問題ない」
 最初に口を開いた少将が言う。
「経歴に問題がある! 3年前、ロシアの原潜とニアミスを起こしているじゃないか」
「その事件の処分は受けた。あなたはまだ、大統領観覧のウォーゲームで負けたことを根に持っているんじゃないのか?」
「私を侮辱するのか――」
「こうしよう」
 剣呑な雰囲気になりかけたところで、カトー中将が声をあげた。

●アルファ級原子力潜水艦『オーランド』、甲板
「副長、標的まで180ヤードです!」
「直進せよ!」
「直進! 経路そのまま! 了解!」
「副長、標的まで175ヤードです!」
「発射しよう‥‥」
「副長、標的まで160ヤードです! 追い風5ノット!」
「7番だ」
「発射準備!」
 観測員は、おもむろにゴルフバッグから7番アイアンを取り出した。
「第1弾!(ファイアー1!)」
 ひゅぼっ!
 ハンス・マーベリック少佐(ダン・バラード(fa2603))はクラブを握り、軽やかにスイングを決めた。ボールは綺麗な放物線を描き、海岸のグリーンに落着。ピン側1メートルにつけた。双眼鏡を覗いていた観測員が、口笛を吹く。
「何をしている。艦を海岸に付けて、パットを決めるか?」
 艦橋から、声が降ってきた。オーランド艦長、ジーン・プロクター中佐である。
 観測員が、気まずそうに居住まいを正した。

「艦長として、君の行動は報告しなければならない」
 艦長室に戻ったプロクターが、説教を受けたばかりのハンスに向かって言う。
「なるほど。これで私の出世もオジャンですな」
 清々したというように、ハンスが言った。
「いや、そうでもない」
 机の上の電文を読んだプロクターが、凝固している。
「君は艦長に就任だ」
「まさか」
「暗号電文を2度も確認した」
 信じられない物を見るように、プロクターが電文をハンスに渡す。ハンスもその電文を確認し、息を飲んだ。
「‥‥艦長就任おめでとう」
 とまどいを隠せないまま、プロクターがハンスに握手を求める。
「ありがとうございます」
 ハンスもそれに応じた。
 ハンスは艦長室を出ると、喜びの叫び声をあげた。

●ノーフォーク海軍基地
 ノーフォーク海軍基地に出頭したハンスは、そこで白髪頭に鷲鼻のアベレック少将に出会った。そしてボートに乗せられ、就任する艦に案内された。
「ひさしぶりだなマーベリック少佐‥‥今は中佐か」
「はい、アベレック少将。キングス・ベイ以来4年ぶりになります」
「さて、艦長就任は米海軍最高の栄誉だ。そして君は今日、その仲間入りする」
「光栄です」
 さすがに緊張したように、ハンスが言う。
「さて‥‥君の艦はあれだ」
 満を持して、ハンスはその艦を見た。が、その顔が驚愕に変わった。そこにあるのは、赤錆だらけの老朽――などという言葉では生ぬるい――艦だったのである。
 あぜんとするハンスに向かって、アベレック少将は言葉を続けた。
「USS『スティングレー』、US161。バラオ級。58年に再装備された」
「バラオ級? ディーゼル艦ですよ!?」
「再就役したんだ」
「冗談じゃない、南北戦争の鋼鉄艦『メリマック』といい勝負です! 原子力潜水艦に乗せて下さい!」
「拒否するのかね?」
 ぐっと、ハンスが押し黙った。正式な辞令が発せられて、就役するのである。拒否することなどできない。
「いいえ」
 忍耐の吐息と共に、ハンスは言葉をひねり出した。

●カトー提督執務室
「急にすいません」
 ノックをして、ハンスはカトー提督の執務室に入った。
「艦は気に入ったかね?」
 カトーが言う。
「あれは‥‥まったくもって骨董品以上です。どうしてこんな仕打ちを?」
 カトーは豪放に笑った。
「君は、ある特別な任務に選ばれた」
「あの艦で海軍遊園地でも作るんですか?」
「そうじゃない、この衛星写真を見たまえ」
 カトーが『TOP SECRET』と書かれた書類の束をハンスに渡す。
「これはロシアの、海軍基地の衛星写真だ。毎日多数の潜水艦が入港しているが、数が減っている。売却されているんだ。イラン、リビア――北朝鮮などに」
 衛星写真を机に置いて、ハンスはカトーに顔を向けた。
「我々の攻撃型原子力潜水艦で、何隻も撃沈できます」
「通常ならその通りだ。だがもし相手が、なんの予告も無く潜水艦を侵攻させて来たら? ディーゼル潜水艦が、わが国の領土を侵犯してきたら? 都市を核弾頭で狙ってきたら? それを海軍は食い止められるのかね?」
「もちろんです、サー」
 ハンスは答えた。
「国防省や海軍省の連中は、君と同意見だろう。だが、わたしはそれを証明したい」
 カトーが、ハンスに向き直った。
「君はスティングレーをオーバーホールし、大西洋岸でウォーゲームを行え。目標はチャールストンとこのノーフォーク。たった1隻の潜水艦が、米国海軍原潜艦隊に挑むのだ。艦には魚雷を2発支給する。チャールストン侵攻後、ノーフォークに用意した標的艦を撃沈すれば君の勝ちだ。もし君の船がこれを成功させたら、君を原潜の艦長に推薦しよう」
 ものすごいことを、カトーが言った。

●スティングレーの乗組員
「艦長がお見えだ! 総員せいれーつ!!」
 ジム・スキナー少佐(アルテライア・シュゼル(fa2400))が、眼鏡を光らせて言った。かなり声が響く。
「ボリューム調整はどこかな?」
 ハンスが軽口を叩く。それをジムはぎろりとにらんで黙らせた。
「艦長、ジム・スキナー少佐です。この艦の副長を拝命しました」
「まだ若いな」
「年齢と能力は関係ありません」
 にべもなくジムが言う。
「乗組員を着任させます。呼ばれた者から乗艦せよ! ソナー! ウォルター・パトロピタ(村上繁昭(fa0794))!」
 幽鬼の様な印象の男が前に出てきた。
「あの‥‥一つ聞いていいですか?」
 ウォルターが言う。それにハンスが「何だ?」と問う。
「この船、本当にアメリカ海軍の船ですか?」
「ああ、そうだ」
 ハンスが答えた。それに、肩をすくめてウォルターが艦に乗り込む。
「(小声で)どうせ耳は悪いんだろ?」
 ハンスがジムに問うた。
「(小声で)それが、ものすごいそうです。軍事機密事項も筒抜けで‥‥」
「ああ、あのぉ、全部は聞いていませんから。それに私、口は堅いんで」
 船の乗り込み口で、ウオルターが片手を挙げた。すでに10メートルは離れている。
「よし!」
 ハンスが、鷹揚にうなずいた。
「さあ、次の挑戦者はだれだ?」
 ハンスが、手もみして乗組員一同を見渡した。

●レストア
 機関室から賛美歌が流れてくる。ニック・ゲーブ(田中雪舟(fa1257))が歌っているのだ。ベテラン機関長の彼はこの型の船に愛着があるらしく、かなりのご機嫌らしい。ソナーからは苦情が来ているが、完全に無視している。
「俺がこのポンコツを任された、技師長のギルバート・レイノルズだ。全く手間ぁかけさせやがって」
 油まみれの作業着を着た壮年の男が、ウイスキーの小瓶をあおった。ギルバート・レイノルズ(キング・バッファロー(fa2572))技術中尉である。
 艦長と副長以外の乗組員はみな、船のレストアに駆りだされている。まあ、自分の船ぐらい自分で修理できないと、もしもの時に対応できない。
 ハンスも艦長室の掃除をしていた。蜘蛛の巣だらけで、結構歯ごたえがありそうである。
「マーベリック艦長。ちょっと問題が‥‥」
「どうした、ジム」
「スキナーと呼んでください」
 ハンスはおどけたような顔をした。
「で、問題というのは?」
「新任の潜水技官です」
 潜水技官というのは艦の操作を仕切る専門職で、艦長の指示を具体的な艦操作に反映する職業である。副長がナンバー1(軍事用語の副長の意)ならナンバー2に相当する人物だ。
 ジムの言葉が終わる前に、その後ろから綺麗なブラウンの髪の女性が入ってきた。階級は少尉。髪をアップにまとめ、びしっと制服を着こなしている。
「潜水技官の、ヘンリエッタ・イムス少尉(百瀬愛理(fa1266))であります」
 ヘンリエッタが敬礼をした。それに、ハンスが笑い顔になる。
「びっくりパーティのストリッパーか? ミス何月だ?」
 ハンスの言葉に、ヘンリエッタはむっとした表情になった。
「ストリッパーではありません。士官学校をきちんと卒業しました。これが正式な辞令です」
 ヘンリエッタが辞令をハンスに渡す。
「女性士官の新規任官のテストケースということで‥‥」
 ジムが補足するように言った。といっても、女は乗せない戦闘艦である。異例の人事と言えよう。
 まあ単純に考えれば、アベレック少将あたりの嫌がらせだろうが。
「よろしく」
 しかし物怖じせず、ハンスはヘンリエッタと握手した。寝る場所は魚雷発射室あたりにしつらえなければならないだろうが、まあOKだろう。
「楽しい職場だ」
 ハンスが言った。

●進水
 数日後、レストア成った『スティングレー』は進水した。ウォーゲームとはいえ、いよいよ実戦である。
 はたして、結果はいかに?

【つづく】