演歌人生 2アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
01/12〜01/14
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●本文
「歌は流れるあなたの胸に〜」の定型句で始まるCET伝統の演歌番組、『演歌華道』は、CETにおける定番歌番組の首長のようなものである。もちろん登場する歌手は、その道では大御所に分類される人たちばかりだ。
だが、それにも限界がある。というより、大御所が身を引かないと下の者たちが上がって来れないのだ。上の人間たちが幅を利かせていると、その部分で人材が固化し、煮詰まってしまう。新しい水を注ぎ新しい風を入れなければ、演歌界は発展しない。つまり、次の世代が育たない。
放送局としても、あまり良い状況では無い。大御所だっていつかは引退してしまうので、新人が育たないことには未来が無いのだ。
そこでCETのあるプロデューサーは、演歌界の新人を集めて歌を披露させ、新人を育成するための専門番組を提案した。あえて『新人』と限定することによって、大御所を出さず視聴者に新人演歌歌手を『青田買い』させる方向に仕向けたのである。
その番組が、今回の『演歌人生』であった。北は北海道から南は沖縄まで、平たく言えば「売れない演歌歌手」に全国的な露出の機会を与えるのだ。
「放送業界における演歌は、ほぼCETの独壇場だ。今後進むであろう高齢化社会において新たな視聴者をしっかり獲得するためには、演歌界の刷新が急務といえる。大御所と新人の住み分けを行い、新人演歌歌手を手厚く盛り上げることによって、それは進むだろう。心して欲しい。将来の演歌界を支えるのは、君たちスタッフと新人歌手なのだ」
プロデューサーの言葉に、スタッフは「はい!」と声を唱和させた。
●リプレイ本文
演歌人生 2
●舞台開幕
テレビにおける演歌の露出は、最近ずいぶんと減ってしまった。
といっても、演歌歌手が減っているわけではない。CDショップの棚の、文字通り『一角』を担うほど、演歌というジャンルは営業的に成功している。新人歌手(といってもかなり年配の方もいらっしゃるのが他のジャンルとは違うが)の比率も全体の3割強を占め、歌謡界で10個石を投げたら、そのうち3個以上は演歌歌手にぶち当たるのだ。ここまでくると、異常を通り越していっそ不気味である。
が、このような偏重が他の業界に無いわけではない。しょせんは人間のやること。偏っていて当たり前なのだ。
「はじめまして! 新人の『Sugaer Lady’s』です。今日は精一杯頑張りますので、宜しくお願いします!!」
兎獣人でアイドル歌手の大道寺イザベラ(fa0330)が、総勢5千名ほどが入った会場のステージの上で、手を振っていた。その傍らには、相方の売れない(自称)アイドルの、同じく兎獣人のエリア・スチール(fa0494)が、にこにこと微笑んでいる。
二人は、赤と白を基調としたミニの和服を斜(はす)に着流した、やや傾(かぶ)いた衣装を身にまとっていた。演歌界では、実は鬼門の洋風ユニット名(とにかく売れたためしが無い)で名乗りをあげ、やる気満々である。
二人は同じプロダクション所属で、今回は自分たちのアピールの場としてこの番組に応募した。もちろん演歌は初挑戦。といっても歌えないわけではない。コンビというのは珍しいが、前例が無いわけでもない。
つまりは、ポップスと演歌のギリギリ境界を行くような路線を狙ったのである。ギャル演歌(『萌え演歌』とイザベラは言っていた)という路線で、最近の若い客を掴む。コンセプトは間違っていない。
――初めて出会った街角で
――心に燃えた恋の花
イザベラの歌いだしにあわせて、エリアが踊り始める。今回の曲はイザベラが作詞を担当し、エリアが振り付けを担当した。
――高鳴る鼓動が苦しいの
――舞い散る花に包まれて
エリアが歌い始めてイザベラが踊る。まあ二人の年齢は15、16なので、総合歌唱力にはやや物足りないものがあるが、この番組は元より『新人演歌歌手』を対象にしているので、問題は無かろう。
――見知らぬ二人の夢草紙
――いつか貴方にいつか貴方に
二人のデュエットに入って、ぐっと曲が持ち上がる。
やがて歌い終えたとき、会場から万雷の拍手が振ってきた。
実はこれ、かなり気分がいい。
狼の獣人で元バックコーラスだった斯道令(fa0517)は、今回新人演歌歌手としてデビューの場に立った。
下積みは重要である。まだまだ声量に不足が無いではないが、二十歳という年齢は『新人』としてデビューするのに良い契機だったと言えよう。素地はあるのだ。あとは度胸である。
――グラスに映った背中が
――旅立つ貴方に見えて
司会者から紹介を受けて少々のやり取りがあった『はず』だが、初舞台に舞い上がって何を言ったかよく覚えていない(後で自宅で録画したVTRを見てぶっ飛んだが)。ともあれ前奏がかかってくると、反射的に声が出た。あとは怒涛のごとく歌い続けるだけ。歌いだすと不思議と肚(はら)が座ってくるのは人間のメンタリティでは割とデフォルトな機能である。最後まで令は熱唱し、その歌い終わりは拍手で迎えられた。
袖に引っ込んだ令は、そのままくずれおれるように椅子に倒れこんだ。
「道は遠いわ‥‥」
つぶやいたその言葉には、万の感慨があっただろう。
――そとっ(外)は、サク、サァァークゥ〜♪
――なかっ(中)は、ふんわぁ〜り〜♪
――みど〜り〜いぃぃろぉ(緑色)の〜
――編〜み〜模〜様ぉ〜♪
――ひとくっち食べれっば〜‥‥
演歌調の曲で真面目にこの歌詞を歌っているのは、元声優(現メロンパン芸能人(プロデューサー命名))の湯ノ花ゆくる(fa0640)である。ちなみに衣装でごまかしてあるが、半獣化しているのでプロとして充分通用するほどの、かなりの技量で歌っている。
ただし、会場は静まり返っていた。
彼女が歌っている歌の題名は、『メロメロ☆メロンパン♪』という。
彼女のメロンパンを愛する心を刻んだ歌だそうだが‥‥。
客はどう反応してよいのか、歌が進めば進むほど途惑うばかりである。
もっとも後日、この歌はCETの児童向け番組に、1クールほど採用されることになる。大人は分からないが、児童には共感できるものがあるらしい。
――人の命は 限りありゃ
――夢を追わねば 嘘だろと
――勢い込んで 行く君の
――後ろ姿が 寂しそう
ハムスターの獣人で雑誌モデルをしている和山繁人(fa2215)は、『純情夢唄』という曲で出場した。彼は歌って話せるモデルを目指しているので、音楽にも多少の造詣がある。
MCはかなりうまくて、司会者とも良い掛け合いをしていた。ルックスもあるし演技力もあるから、意外と演歌では大成できるタイプかもしれない。
――君の抱える 夢の中
――私の事は 映ってますか?
――辛い坂道 登るより
――私の胸で 夢の続きを見ませんか
なかなかの名調子である。
「元禄十五年十弐月十四日、赤穂浪士四十七士の一人を待つは独りの女‥‥無事に帰って来る事をひたすら祈る‥‥聞いて下さい‥‥『赤穂恋歌』」
キレキレのカッティングから入った三味線の音が、ロックコンサートばりの音響効果で会場に響き渡った。
おそらく今回、『曲的には一番派手』な、蝙蝠の女獣人アマラ・クラフト(fa2492)である。インド生まれで日本の芸能に傾倒し、今回とうとう、従来の『ギタリスト』という立場から正式に『演歌歌手』というカテゴリでオファーを受けた、国際派のアーティストだ。服装も自分の銀髪に合わせた刺銀の和服で、ちょっと抜き目を感じるぐらい豪勢な登場である。
彼女のこの番組への出場は、今回トリの富士川千春(fa0847)と同じくこれで2度目である。前回はロック演歌のようなものを提示して、視聴者からも会場からも今ひとつ共感を得られなかった(彼女たちが悪いわけではない。演歌界が保守的なのだ)。
そこで今回は、演歌界では鉄板テーマの『忠臣蔵』をモチーフに、楽器も楽曲も衣装もジャパナイズして再挑戦したのである。
結果は、大成功であった。声量、技量的な反省点は残るが、それは時間と経験の蓄積によって解消されるだろう。それよりも重要なのは、『売れる法則』みたいなものを得られた事だ。さじ加減の微妙なライン。これは重要な財産である。
九重コノヱ(fa2638)は小鳥の女獣人で、まだ14歳である。ただ歌唱に関する一通りの技術は持ち合わせていて、将来有望な歌手と言える。
彼女が演歌番組に出場するのは、これで2度目になる。持ち歌は、『桜唄』という落ち着いた雰囲気の歌だ。出会いと別れ、その喜びと楽しさを歌い上げた、実に演歌らしい演歌であった。
白地に花模様の着物で熱唱する姿には、貫禄さえ感じられる。とりあえず演歌歌手としての可能性を示し、彼女の出番は終わった。
余談だが、CET調べの番組アンケートで、一番期待度の高かった歌手は彼女である。正統はやはり、受け入れられやすく評価も鉄板ということだろう。
――私がついて 行くことを
――あなた許して くれますか
――あの娘(こ)がいつか 来る日まで
――隣において くれますか
さて、ここまで順調に来た番組を一気に重くしたのは、『暗黒歌手』を自称するDESPAIRER(fa2657)である。蝙蝠の獣人で22歳。どういう人生を歩んできたのだろうというような重〜い雰囲気の若人で、とにかく暗くじめじめしたオーラを発している。
歌も、もちろん暗い。キーワードは『失恋』『死別』『挫折』『絶望』。とにかく人生を倦んだような歌『しか』歌わないので、盛り上がらないことこの上ない。
ただ、こういうネガティヴな歌に共感する人も結構多い。例えば、演歌ではないが中島みゆきさんの歌には、かなり重いものもある。しかしこれは、共感を生んで『快楽』を感じさせる要素を持っており、しみじみ聞くにはいい曲もけっこうある。
DESPAIRERは、そのダークな部分だけ抽出したと考えてもらえばいいだろう。ピンでライブなどを行うと観客が帰りに集団自殺でもしかねないが、これはこれで『アリ』なのだ。
番組に緩急をつけるという意味では、今回は成功だろう。人間、悲しい曲だって聞きたいのである。
「男一匹、狼一匹。歌うは『ナニワの大家族! 肝っ玉!! 母ちゃん!!』その名の通り、ナニワの大家族、肝っ玉、母ちゃんの慌しい日常を面白可笑しくに歌った演歌だ!!‥‥ナニワの土産代わりに聴いて行け!!」
狼男が、MCを奪いながら言った。
比喩ではない。文字通りの狼男である。着物を着てはいるが、特撮戦隊物の登場人物のような『被り物』をして登場していた。
狼獣人の群青青磁(fa2670)である。
被り物の中身は、実は本当の狼ヘッドが入っている。『狼覆面演歌歌手』を自称し、こういうスタイルで歌っているということをアピールしているのだ。
演歌的にどうかと問われると、返答に困る。だが、演歌界においてコスチュームに凝るのは『美徳』とされているので、このようなものもある程度はアリである。例えば、最近では氷川きよしさんがマタタビ姿で登場したりするような場面もある。
さて歌だが、当然完全獣化によって極限まで身体能力と技能を高めた青磁の歌は、瞠目に値するものとなった。今後も続けられるならば、かなりの成功が見込める。
ただ忘れることなかれ。ナイトウォーカーとマスコミはその素顔を狙っているのである。目立てば目立つほど。
「アイドル活動だけでなく、歌の魅力に魅かれて音楽界までやって来ました富士川です。ご年配の方はもちろん、私たちの世代の方までご家族揃って演歌を好きになって頂けたら幸いですわ☆」
MCの挨拶で、トリの富士川千春が言った言葉である。
今回ただ一人の専業演歌歌手である彼女は、万を持して番組のトリを希望した。なにせ新進気鋭の新人歌手が集まり、多くが『ギリギリ演歌』というカテゴリの歌を歌っているのである(しかも当初の予定では、覆面歌手の青磁がトリをとる予定だった。さすがに演歌番組としては危機感を感じる)。
彼女の歌う歌は、『菊先紅青』という花火にちなんだ歌である。
――港の時を刻み幾星霜 巡る巡るよ紅青
――「夏祭りみたい」と あなたが笑う
――二人歩く汽車道 橋の上
――光溢れる桜木町
と、若い二人のほのかな想いを描いたのろけものだ。若いながら声に地力があり、しっとりと歌い上げた姿は立派な『プロ』である。番組を締める歌手としては、100点をあげていいだろう。
(ああ、演歌って楽しいですわ‥‥)
演歌を好み演歌に嫁いだ、千春ならではの感慨だろう。
●合唱、吉幾三『雪国』
最後は出場者全員で、締めに吉幾三さんの『雪国』を歌った。和気あいあい。良い番組になったようで、どうやらすでに、次回の企画が立ったようである。
【おわり】